禁魂。   作:カイバーマン。

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第六十六訓 ただ返してもらうがために

時に人という者は何かを護りたい時にメリットやデメリットも考えず、ただ感情という理念だけで行動に移る者がいる。

それは今ここにいる上条当麻も同じであり、彼はただ目の前で起こった事に怒りに身を任せて立ち上がった。

 

目の前でクラスメイトが人質にされてしまった事に、彼は我慢できなかったのだ。

 

「そこのパーカー着てる奴! 吹寄を離しやがれ!」

「あー……えーと、どなた?」

 

激情のままこちらに突っ込んで来そうなぐらいの気配をかもしだす上条ではあるが。

 

右手に気絶している吹寄を引きずるように持っていた黒夜海鳥は目を細めて首を傾げるだけ

 

「悪いけど今立て込んでるから、一般ピーポーの相手してるヒマないんだよこっちは」

「テメェにその気が無くても、俺にはちゃんとした理由があるんだよ」

 

彼女の目には上条に対して敵意も殺意も無かった。それはごく単純な理由、彼女は上条の事など敵とすら見ていないのだ。

そんな全く眼中にしていない様な態度を見せる彼女に対し、上条は一歩前に出て右手を構える。

 

「テメェを許さねぇからぶん殴るっていう確固たる理由がな!!」

「もしかしてこの女の男かなんかか? やれやれ適当に選んだモンにこんないらんオマケが付いていたとは……」

 

ガラスの破片が散らばった地面を蹴り、上条は遂に黒夜目掛けて走り出し、彼に対してめんどくさそうに黒夜がため息を突いていると

 

不意に彼女の前方から上条とは別の者が一気に詰め寄る。

 

「悪いけど、ここで仕留めさせてもらう」

「こっちはこっちで人質いても容赦なしか……ハハ、お前等私と同じぐらいイカレてるじゃねぇか」

 

上条に気を取られてる隙にこちらを斬りに来たのは見廻組副長、今井信女。

手に持った長刀の鞘を握り、居合い切りの構えで黒夜との距離を縮めていく。

 

人質よりも任務を優先しようとしているのか、そんな彼女に対し黒夜はうろたえもせずにただ口元に僅かばかり笑みを広げ

 

「だったら両方相手にしてやるよ、一回だけな」

 

そう言って彼女は右手に掴んでいた吹寄をパッと離したと思えば、左手を突っ込んで来る上条に、右手を目の前にいる信女に向けた。すると

 

「そしてその一回で死んどけバカ共」

「!」

「な!」

 

彼女の両手から何やら得体の知れない気配が噴き出した事を二人はすぐに悟った。

 

それはまるで槍の様な……

 

しかしそう認識すると共に、その槍は二人目掛けて

 

ゾン!!っと地面を荒々しく抉りながら突っ込んで来た。

 

「これは! チッ!」

 

原理はわからないが黒夜の能力なのであろうか、3メートルはある長い槍に対し上条はすかさず自分の右手を突き出しすと、その槍と右手がぶつかった瞬間、槍は瞬く間に粉々に砕かれた。

 

「へぇ」

 

自分の槍がいとも簡単に砕かれた事に黒夜は少々驚いたかのように目をパチクリさせるが、その表情には自分の攻撃を打ち破られて歯がゆそうに苦悶の表情を浮かべるという気配は微塵も無かった。

 

そして上条と同様に彼女から原理不明の槍を撃ち出された信女はというと

 

「あなたの能力は既に見廻組が調べているわ」

 

表情一つ崩さず、地面さえも抉るその槍に対し長刀を鞘から引き抜いたその時、槍は先っぽから縦に裂けて真っ二つにななったまま信女の両脇の地面を粉砕する。

 

居合い切り一つで黒夜の扱う槍を斬ったという事だ。

 

「あなたの能力名は窒素爆槍≪ボンバーランス≫」

 

黒夜と対峙したまま刀をチンと鞘に収めつつ、信女は涼しい顔で呟く。

 

「細かい部分は忘れたけど、窒素で出来た爆発する槍を手の平から精製し操作出来る能力とあなたがいた研究所にあった書類に書かれていた」

「忘れたって酷いにゃぁ、これでもレベル4としては上物クラスの能力者なんだよ私」

 

傷付いた素振りも微塵も見せずに黒夜はニヤニヤと笑いかける。どうやらまだ奥の手がありそうだ。

彼女の能力、窒素爆槍はまだまだこんなモンじゃない。

 

「しかし私の能力をこうもあっさりと対処出来たのはちとムカついたな、特にそこのツンツン頭」

「あ?」

 

信女から目を逸らして黒夜はまだ右手をこちらに向けている上条の方へ振り返る。

 

「一体何なんだその右手は? 能力の一種か? 私の窒素爆槍をあっさりと打ち消す能力など聞いた事ないが?」

「お前にいちいち説明するつもりはねぇ、痛い目見る前にさっさと吹寄を解放しろ」

「いやいやちゃんと教えてくれよ、その右手にはちと興味があるんだ、前に研究所で聞いた事があってな」

 

どうやら上条というより彼の持つ幻想殺しに関心を抱いたらしい。

人質を返せという上条の要求も無視して彼女はその右手の能力について思い出す。

 

「学園都市に巣食う闇には他の者と一線を引いた強大な存在がいると、それはいかなる異能の能力も利かない力を持っているとな、もしかしたらお前のその右手もそれと同じ類のモノか? もしそうであれば私にとってはまたとないチャンスなんだが」

「何言ってるかさっぱりわかんねぇよ! いいからさっさと吹寄を返せつってんだろ小娘!!」

「さっきから同じ事をオウムみたいに繰り返しやがって、これじゃあ話にならねぇや、仕方ない……」

 

何度問いかけても彼が同じ台詞しか吐かない事に黒夜はイライラすると、床に落としていた吹寄を再度拾って空いてる左手を地面に向ける。

 

「なあツンツン頭、私は久しぶりにシャバの空気が吸えて機嫌が良い。だから特別にお前と遊んでやろう」

「遊ぶだと……?」

「ガキなら誰もがやってる遊びさ、私も良く研究所で遊んでいたよ、そん時私はもっぱら”鬼役”だった、アレは中々楽しかったなぁ……」

 

怪訝な様子で顔を強張らせる上条にニンマリと笑うと、黒夜の左手からバシュッ!と窒素が噴き出し

 

「さあ鬼ごっこのスタートだ」

「!!」

 

その勢いに乗せて吹寄を担いだ彼女は空中へとロケットの様に発射された。

窒素を操るとは信女も言っていたが、まさか攻撃するだけでなくこういった使い方もあったとは……

 

「今回は特別にお前に鬼役を譲ってやる、学園都市内を逃げ回る私を捕まえてみろ。もし捕まえきれなかったらこの人質をミンチにして街中にばら撒くぞ」

「ま、待て! 吹寄を返せ!!」

「制限時間は日が落ちるまでだ、せいぜい死に物狂いで追いかけてみろ、アハハハハ!」

 

上空で高笑いを浮かべた後、黒夜はそのまま近くのビルへと飛び降りる。そしてまた能力を使って更に高いビルへと昇って行く。

 

こちらに背を向け行ってしまう黒夜を目で追いながら、上条は奥歯を噛みしめ悔しそうに顔をゆがめる。

日が落ちるまでもう3時間も無い、間に合わなければ吹寄を殺すと言っていた。

何も関係ないただの一般人である彼女を……

 

「クソったれ! 待ってろよ吹寄! 今すぐに!」

「副長!」

「え?」

 

残念ながら上条は空を飛ぶ事な出来はしない、常識的に考えれば追いつけないかもしれないが。そんな事を考えてる猶予も無い、上条は急いで後を追いかけようとするが、彼よりも先にダッと駆け出す者が一人。

見廻組の隊士が叫ぶ中、信女が一人黒夜を追いかけ始めた。

 

「アンタ!」

「あなたの役目は無い、さっさと消えて」

「!」

 

上条とすれ違いざまに信女は冷たく言葉を投げかけた後、黒夜が降りていたビルに足を掛けて身軽な身体能力で昇り始める。

 

まさか能力も使わずにその身だけで黒夜を追いかけるつもりなのだろうか……

上条も確かに朧に鍛えられているのでそれなりの身体能力はあるが、さすがにあそこまでの芸当を真似する事は出来ない。

 

「……」

「やれやれこりゃあさすがに笑えん状況じゃのぉとんま」

「坂本さん……」

 

途方に暮れている様子の上条に後ろから話しかけたのは坂本辰馬であった。

後頭部を掻きながら苦笑しつつ、彼に歩み寄る。

 

「で、どげんする気じゃ? 大人しくあのキツイネェちゃんの言う事聞いて家にでも帰るか?」

「……」

「あの嬢ちゃんの事ならきっとネェちゃんが助けてくれるじゃろうて、そもそもこういうモンは警察に任せるのが至極妥当な考え、わし等が出る幕は無いのが当たり前じゃきんの」

「坂本さん」

「ん? なんじゃ?」

 

坂本の意見ももっともである、こういった物事を解決するのは警察の役目だ。

一般人、ましてやただの高校生でしかない上条当麻が介入するなど無茶にも程がある。

だが上条は彼の話を無言で聞き終えるとゆっくりと振り返る。

 

「アンタ確か宇宙船で商いをしてるって言ってたよな」

「おう言うたな、それがどうしたんじゃ」

「天人との交渉とかもするんだよな?」

「まあの、連中相手だとちと大変じゃが、そこはわしの超越したコミュニケーションでなんとか上手くやってるぜよ」

「宇宙船ってことはあんた自身も宇宙船を操作出来るんだよな?」

「おいおい誰に言うとるんじゃおまんは、船の操作であればわしの右に出る者はおらんわい」

「……なら、ちょっくら頼みがあるんだけど」

 

自信満々の態度で親指で自分を指す坂本の言葉を信用し、上条は腹をくくってキッとした目で口を開いた。

 

「今すぐ俺と一緒にターミナルで買い物して欲しいんだ」

「……ほほぉ、それはとんま、まさかおまん……」

 

ターミナル、学園都市の中心部に置かれたこの街と宇宙を繋ぐ宇宙船基地だ。

あそこに行きたいという事は上条はまだ……強い眼差しでこちらを見つめてくる彼に、坂本は思わずフッと笑ってしまった。

 

「よもや商人であるわしに損のする買い物させるつもりじゃなかろうな、商人は他人の財布を緩める事は好きじゃが、自分の財布から金を出すのはトコトン渋る生粋のケチもんじゃぞ?」

「もちろん損はさせねぇよ、アンタがやってくれた暁にはそれ相応の報酬を見せてやる」

 

どうやら坂本は上条の意図が読めたらしい、徐々に口下の笑みを広げる坂本に対し上条もまたニヤリと笑った。

 

「あの生意気で思い上がっているクソガキが思いきり痛い目に遭う所を特等席で拝ましてやるから」

「ほほう、それはまさに女房を質に入れてでも買いたい品……よし」

 

上条の言う報酬に坂本は満足げに笑うと、スッと右手を差し伸べる

 

「契約成立じゃ」

 

彼の右手に上条もまた自分の右手を伸ばし強く握る。

 

黒夜海鳥は知るであろう。

 

上条当麻と、そして坂本辰馬のデタラメな鬼ごっこを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数時間後の事である。

外はすっかり日が落ち始め、タイムリミットもすぐそこまで来ている。

 

そんな中、黒夜は以前吹寄を抱えたまま信女の追走から逃げていた。

 

「しつこいねぇ、何時までついてくる気だ?」

 

少々疲れた様子で黒夜は息が荒くなってるのを感じながら民家の屋根に飛び乗る。

後ろに振り返ると誰もいない。

 

「やれやれやっとこさ撒いたか……と思わせておいて!」

 

おもむろにバッと頭上を見上げると、彼女の視線の先には上から刀をこちらに突きつけたまま落ちて来る信女の姿が

 

すかさず黒夜は身体を横に翻すと、信女の長い刀は民家の屋根に深々と突き刺さった。

 

「何時まで逃げる気なのかしら」

「それよりもこの家の人に超迷惑かけてね? 警察が市民の家ぶっ壊していいと思ってんの?」

「私の仕事はあなたを捕まえる、もしくは殺す事」

 

屋根から刀を抜きながら信女は感情のこもってない口調のまま、非難の声を上げる黒夜に返事する。

 

「例え家が壊れようが、あなたが手に持ってるその人間が死のうが私にはなんの支障もない」

「……ハハハ、コイツは参った、薄々勘付いていたがお前」

 

信女自身は周りに被害が及ぼうが関係ない、ただ目の前にいる黒夜海鳥を追いかけ、仕留める。

それだけが今彼女を動かしているのだ。

まるで機械の様に感情の無いその行動原理を垣間見て、黒夜は面白そうに笑いかけた。

 

「完全に私たち側の人間だろ? 警察の格好して誤魔化してはいるが私にはわかるんだ、なにせお前の体には血の匂いがあまりにもこびり付き過ぎている」

「……」

「自分の感情を持たずに誰かの命令の下に淡々と動く人形、傑作だ、同じ様な人間なのにお前は街を護る正義のお巡りさん、一方私はただのクソったれな悪党、さすがに不平等すぎるだろこんなの」

 

嘲笑を浮かべながら黒夜は手から窒素を噴出し逃げ始める。

それを信女は無言で追う中、黒夜が何処に向かって進んでいるのか読めて来た。

 

「……あなたのいた研究施設」

「お、なんだもうわかったのか」

「狙いは何かしら?」

「心配ないよ、ただ”全部ぶっ壊すだけ”だ」

 

民家が密集した住宅地を乗り越えて、辿り着いた先はかつて黒夜が長い間暮らしていた研究施設。

その屋上に辿り着くと黒夜は一息ついて追いかけてきた信女の方へ振り返る。

 

「ここの研究員共をぶち殺してやった時に一緒に壊しておけば良かったよ」

「それであなたの心が晴れるというの、たかがこんな場所壊したからって似たような施設はこの街にいくらでも存在する」

「ああ、だからここをぶっ壊したら手当たり次第にぶち壊しに行く、けどここを壊す前に」

 

ヘラヘラと笑いながら黒夜は信女を指差す。

 

「お前には私の遊び相手になってもらう、せいぜい死なねぇように必死こいて生き延びてみろ。朝まで生き延びたらその実力を認めて仲間にしてやっても構わんよ」

「だから子供は嫌い……」

 

やはりどれ程の恐ろしい能力を持っていようが黒夜は12才程度の子供だ。

自分が気に食わないのであればそれを壊し、欲しいモノなら力づくで奪い取ろうとする。

他人の事など気にも留めずにただ自分の為だけに行動する、そのいかにも幼稚な性格に信女がウンザリしてる中

 

黒夜はふと肩に掛けていた吹寄をチラリと見る。

 

「あのツンツン頭の方も気にはなっていたが結局追いかけてこなかったか、タイムリミットだ」

 

気を失っている彼女を脇に捨てると黒夜は手の平に彼女に向ける。

 

「コレも用済みだ、まあアレだ、気を失ってる間に死ねるんだからまだマシだろ」

 

そう言い残して黒夜が手の平から窒素の槍を吹寄目掛けて放とうとしたその時

 

「!」

 

突然右腕に激痛が走る、何が起こったかわからない黒夜は一瞬目を見開き自分の右腕をまじまじと見つめると

 

いつの間にか自分の右腕の関節付近に深々と長い針が突き刺さっていた。

 

「っつ……!」

「おいガキンチョ」

 

痛みに堪えながらすぐにその針を引き抜く黒夜の頭上から、不意に数時間前に聞いたばかりのあの少年の声が飛んでくる。

 

「まだ時間切れじゃねぇだろ、焦るなバカ」

「な!」

 

見上げた先にあった光景に黒夜は初めて驚きの声を上げた。

 

自分のいる場所より数メートル程上に浮かぶは小型の飛行船、そしてその船の船首に立ってこちらを見下ろしているのはあの上条当麻。

 

「ま、間に合った……いくら飛行船でも探すの大変だったぜ……」

「飛行船……! お前一体そんなものを何処で」

「ちょっくらターミナルで買って来たんだよ、お前見つける為にわざわざ」

「はぁ!?」

 

飛行船というのはいかに小型であろうがその高い利便性ゆえに軽く億は超える代物だ。

そんなモノ一体どうやって……黒夜が疑問を浮かべると上条のいる飛行船の中から別の男の声が

 

「おいとんま! この船ば買ったのはわしぜよ! 何自分のモンみたいに言うておるんじゃ!」

「いやいいだろ別に……」

「全く! こないな地球でしか扱えん飛行船をば買ってしまった事が陸奥の奴にバレたらわしは……オロロロロロロロロ!!!」

「げぇ! また吐いたぁ! コレで何度目だアンタ!」

「ご、ごめん船乗ると条件反射で酔って吐いてしまうきに、いつも酔い止めの薬ば持っとるんじゃが忘れた……」

「アンタ本当に船乗り!?」

 

操舵室で窓を開けて現れたのは坂本辰馬、だがすぐにビチャビチャと空の上から下に向かって吐瀉物を撒き散らす。

どうも船酔いが酷いらしく、船を操るだけでもやっとと言った感じだ。

そんな彼に上条はツッコミを入れた後、再び船の上から研究施設の屋上にいる黒夜の方へ振り返る。

 

「さてと、こっちに飛行船がある限りもう逃げられねぇぞ、ってゲッ!」

「……」

 

上条は下を見下ろしながらヤバいっと言った感じで血の気が引く。

つい先ほど坂本が吐いた吐瀉物が

 

見事に黒夜の顔面にクリーンヒットしていたみたいで、彼女の顔面はあろうことかモザイクまみれになってしまっていたのだ。

 

「あ、あの~お嬢さん……さすがにそれはわざとやった訳ではありませんのよ……」

「……殺す」

 

顔面に撒き散らせた坂本の吐瀉物を腕で拭い落しながら、黒夜は初めて殺意の込めた言葉を上条にぶつける。

 

「完全にトサカに来ちまったよ、ここまでナメた態度取られちまったらこっちも本気で殺しにいかねェと気がすまねェ」

「いやそれ吐いたの俺じゃなくて坂本さん! だ~もういいや! 坂本さん降ろしてくれ!」

「よし任せるぜヴォロロロロロロロロロロ!!!!」

「返事しながら吐くな!」

 

吐きながら坂本は飛行船を降下、そしておく上条は船頭から飛び降りて黒夜と信女のいる屋上へと着地する。

そして着地際に上条はチラリとこちらを無表情で見つめる信女の方へと振り返り

 

「えーと……大丈夫ですかねぇ」

「……どうして来たの?」

「へ?」

「私が来るなと言ったのに」

「……すみません、けど」

 

相も変わらず冷たい、というより心なしか少々怒っているような気もする。

こちらをジッと見つめる信女から目を逸らしながら上条はアハハと頬を引きつらせ笑った後

 

「大事なクラスメイトが攫われたのに、ノコノコと帰る訳にはいかないんでね」

「……」

 

そう言って上条はこちらに背を向けて黒夜と対峙する。

信女は何も言わずそんな彼をずっと見つめるだけであった。

 

「さてと、テメェは何度も聞いてるから聞き飽きてると思うが、俺は何度だって言ってやる」

 

黒夜が興味を持つ右手を構えながら、上条は再び鋭い目つきで彼女を睨み付ける。

 

「吹寄を返せ、さもねぇと思いきりひっぱ叩いて泣かすぞ」

「クククク……クハハハハハハハハハ!!!」

 

上条に対し黒夜は噴き出すかのように笑うと、徐々にその笑い声が大きくなっていく。そして

 

「なァにヒーロー気取っちゃってンですかオマエはァ!! 平和に生きていたガキが学園都市の闇に手ェだしてタダで済むと思ってンじゃねェぞゴラァァ!!!」

 

彼女の口調が明らかに変わっていた、先程までの余裕綽々の態度から一変して荒々しい口調で威嚇する黒夜。

そして彼女がずっと左脇に挟んでいたイルカの人形中からゴボゴボと奇妙な音が鳴りだす。

 

「この忌々しい施設も! オマエの女も! 私にゲロブチかましたあの野郎も! そして何より一番ムカつく存在であるテメェ等二人を! まとめて全部ぶっ壊してやンよ!!」

「!!」

 

突如彼女が持っていた人形の中からバラバラと数えきれないほどの”何か”が、生まれるかのようにそこら一帯に撒き散らせた。

 

それはまるで関節球の付いた赤子の人形の腕の様な……

 

「腕? まさか……!」

「クックック……コイツはまだ試作段階で数も少ねェけどさ……オマエ等ぐらいなら訳もなく殺せる」

 

黒夜の周りにその腕の様なモノがマントの様に纏わり付く。

腕の数は十本どころではない明らかに百本以上はある……

 

ゾクリと上条は嫌な予感を覚える中で、黒夜は耳に届きかねない程ニンマリと笑いかける。

 

「さて、一体誰を泣かすっつうンですかねェ、ヒーロー様?」

「くッ!」

 

学園都市に眠る闇の真の恐ろしさはここからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教えて銀八先生

 

「はぁーでは質問答えます、八条さんからの質問」

 

『今回の黒夜の襲撃は銀時編の時系列と合わせるとどこらへんの出来事なんですか?』

 

「銀さんが絹旗護るために真撰組とやりあった翌日の事です、つまりこの時銀さん達は入院中だったので、外で何が起こってたかなんて全く知りませんでした」

 

「はい質問終わり、はぁ~いい加減こっちでも出番くれねぇかなぁ……」

 

 

 

 

 

 


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