綺麗な月が上がった夜、見廻組の副長、今井信女はは部下達を連れてとある研究所へと来ていた。
そこは能力専門の実験を積極的に取り入れている施設。
表向きは能力者の未知なる力の解放だの能力者の力による科学の発展とのたまっている様だが
実際はとても世間に公表できない様な極めて非人道的な実験が繰り返されている研究施設であった。
こういう施設は実は学園都市内ではさほど珍しくはない、光あれば闇もある、発展する学園都市の中にはこの様に無数の闇が存在し、その上で成り立っているのだから。
「……」
隊士と共に信女は堂々と研究施設内へと入っていく。
警察組織ゆえの特例ではない、既にこの研究はもう誰も利用していないのだ。
「異三郎」
『はいこちらサブちゃんです』
部下を連れずに一人で施設内を捜索しながら、信女が懐から取り出したのは携帯電話。
掛けるとすぐに、見廻組局長・佐々木異三郎が電話に出た。
『そろそろ電話だけでなくメールの方のやりとりもして欲しいんですが?』
「異三郎の言う通り、もうこの施設には誰もいない」
メールする間柄を常に欲している異三郎の意見を無視して信女は淡々とした口調を続けながらとある研究室に足を運んでいた。
「ここにあるのは死体だけ」
『でしょうね、どうも連絡がつかないからおかしいと思ったんですよ』
信女が足を踏みこんだ場所は辺り一面血の海と化していた。無数に転がる死体は原型が留めておらず、男だったのか女だったのかさえわからない程だ。
かろうじてわかるのは白衣の来ている死体が多いという事から、死んでる者は皆ここの研究施設で働いていた研究員だったという事、そして事故死や自殺ではなく明らか何者かに殺されたという事ぐらいだ。
『今朝方、真撰組に実験体が逃げ出したから捕まえて欲しいと通報した所から察するに、その時点ではまだ彼等は生きていたのでしょう』
「ならこの連中を殺したのは逃げ出した実験体じゃない」
『モルモットが外に逃げて彼等が慌てる隙を狙い、何者かが全員を殺したという事です』
まともな感覚ではとてもじゃないが近寄る事さえ出来ない場所にズカズカと無表情で入りながら、信女は携帯片手に異三郎と会話を続けながら捜索に入る。
『それも誰一人逃がさずまとめて……組織的なモノが絡んだという考えが妥当でしょうが、信女さんはどう思います?』
「連中が殺されたのは組織絡みじゃないと思う」
『ほう』
「全員殺され方が一致している」
信女の周りにある死体は皆何かでくり抜かれたように無数の風穴が出来ていた。
弾丸ではなく刀でもなく、なんの痕跡も残さずただ穴が開いているだけ
この場所に来るまで彼女はいくつもの死体を見てきたが、皆同じ死に方をしていたのだ。
「こんな殺し方は普通の人間じゃ出来ない、多分たった一人の能力者によって殺されたんだと思う」
『能力者ですか、そして研究員全員を瞬く間に殺せるという所から察するに相当レベルの高い方だったんでしょうね』
信女の推測に異三郎は中々的を射ている内心感心した。
能力者は一つの能力しか扱えない、それならば殺し方が同じなのもわかる、それに彼女のいる研究施設はその能力者の実験を主に行っていたのだから。
『不審な輩が入ってくれば施設のセキュリティが発動する筈、それが起きなかったとしたら』
「内部からの犯行」
『つまり犯人はその施設の実験体という事ですね、マヌケにも自らが作った実験体に殺されたという訳ですか、いやはや出来損ないのエリートには相応しい最期だ』
冷たく言い放つ異三郎、犠牲も顧みず未知なる探求を欲する事だけを生きがいとする研究員の考えなど理解出来ないし、する気も無いと言った感じだ。
するとふと信女は机にもたれて死んでいた屍の手の先にある写真の貼ってある書類を見つけた。
一枚は名前欄に絹旗最愛と書かれ、むっつりした顔でこちらにピースしている彼女らしき写真も張ってある。
そしてもう一枚もそれと同じく……
「異三郎、今日の朝に逃げた実験体以外にも、もう一人ここにいたみたい」
『今までの我々の推測から察するに、殺したのはそのもう一人でしょう。何者かはそちらでわかりますか?』
「黒夜海鳥≪くろよるうみどり≫」
『あれ? もう名前までわかっちゃったんですか?』
信女は手にある書類に書かれていた名前を呟いただけだった。
その名の下には呑気な様子の絹旗とは対照的に、ギラギラとした目つきで今にも噛みつきそうな風貌ををした絹旗と同年代ぐらいの少女の写真が貼られている。
「ご丁寧に書類が置かれていた、コレを捕まえればいいんでしょ」
『そうですね、では引き続きその者の捜索を依頼してよろしいですか?』
「異三郎は動かないの?」
『私は私でやる事がありましてね、駒場利徳の件で有益な情報を手に入れましたので……そちらの件はあなたにすべて任せますよ、信女さん』
異三郎もまた他の事件について首を突っ込んでいる最中であるらしい。事件を任せると言った彼に信女はしばし間を置いた後
「私にやらせたら相手を殺す事になるかも」
『ご自由に。能力者など私にはてんで興味のない代物、いかに強い力を持ってようが天人の力を借りてるだけの傀儡など壊してしまっても構いません』
「わかった」
『しかし相手の実力がそんじゃそこらの能力者とはワケが違うというのも事実、逆にあなたが殺されないように気を付けて下さいね、あなたがいなくなった話し相手が減って寂しいんですよ』
「そんな心配はいらない」
能力者などというものに全くの関心を示さない異三郎だが、その存在の脅威そのものははっきりと認めている。
油断するなと念を押してくる彼に対し、信女は短く返事しつつ通話停止ボタンに手を置く。
「私を殺せるのはこの世であなた一人だけだから」
そう言い残して信女はピッと携帯の通話を切った。
それから時間は流れて昼頃、事件の事など露知れず、善良なる一般市民である上条当麻はとある喫茶店の外にある席に座りつつ、目の前に出された教科書とノートを交互にらめっこしている真っ最中であった。
「……全くもってわかりません」
「わかろうとする気持ちがないからよ、それぐらいの方程式理解できないと本当に留年よ貴様?」
「はい……」
夏休みの宿題に悪戦苦闘している彼の隣に座りながら手厳しい一言を言い放つのは吹寄制理。
夏休みも結構な日にちが経ってはいるが、どうせ未だに宿題などほぼ手つかずなのであろうと彼女自らが上条を誘いここまで付き合ってくれたのだ。
「ところで貴様以外の三バカはどうしたのよ」
「土御門には義妹が遊びに来たから無理って言われて、青髪は自宅療養中だから外に出れねぇんだとさ」
「自宅療養ってどういう事?」
「いやなんか超かわいい女の子をナンパしようとしたらチャイナ娘に半殺しにされたとかなんとか……」
説明する上条自身もよくわかってない様子で首を傾げると、吹寄もまたしかめっ面でテーブルに頬杖を突きながら目を細めるだけ
「相変わらず訳が分からないわねあの変なのは……」
「まあいつもの事だろ、青髪だし。それより吹寄」
「何よ」
所詮二人にとって青髪がハプニングに巻き込まれる事などさほどどうでもいい事らしく。
改まって上条は吹寄に話しかけると、彼女はしかめっ面のまま目だけジロリと彼に向ける。
「宿題なら見せるつもりは毛頭ないわよ」
「いやそうじゃなくて、あそこ」
「あそこ? あ」
てっきり自分が既に終えた宿題を写させてほしいと頼んで来るのかと思ったのだが、上条は街中の方へと指を指す。
吹寄は何かあるのかとそちらに目を向けるとそこには
「おーいお嬢ちゃーん! どこにいるんじゃー!?」
街中に多く設置されてあるゴミ箱を開けては叫ぶをひたすら繰り返している坂本辰馬の姿があった。
傍から見るに明らかに不審者、まっ昼間から何をやっているのだとさすがに吹寄も唖然とする。
「……あれって貴様の知り合いの坂本さんじゃない」
「今は知り合いと認めたくないです、切実に」
「どうしてゴミ箱覗いて叫んでるのあの人、まさか探してるとか言ってた銀髪のシスターを見つけようとしてるの?」
「あの人の考えは俺等凡人には理解出来ねぇよ一生……」
「嬢ちゃーん! 返事してくれー! おまんがいないとこのままだとわし殺され……おお!」
周りから変なモノを見る目で怪しまれているのも気付かずに、ベンチの下や自動販売機の受け取り口にまで顔を突っ込む始末。
そんな坂本に気付かれないよう二人は息を潜めるが、彼は自分達の声が聞こえたのか、こちらにグルリと振り返り気付いてしまった様子。
「おおとんま! そこにおるのはわしの大親友である下条とんまじゃなか! 元気しとったか!! アハハハハハ!!!」
「最悪、こっち向かって手振りながらやってきたわあの人」
「ていうかいい加減人の名前覚えてくれ……」
いい年したおっさんが子供の様にこちらに手を振ってやって来る事に吹寄と上条がげんなりとしている中、そんな事も知らずに相変わらずヘラヘラ笑いながら彼等の下へ歩み寄ってきた坂本。
「それにいつぞやの性格キツそうな嬢ちゃんもおるんか! 二人揃ってどうしたんじゃ! デートか!?」
「私こういうグイグイ来るおっさん本当に苦手……デートじゃありません、誰がこんな奴と」
「吹寄に宿題手伝ってもらってただけだって、それより坂本さんの方はまだシスター見つかってないのか?」
「うーん、さっぱりじゃ、ところでおまん等、デートしちょるって事はどこまで進んだ? Aか?Bか?
まさかCを飛び超えてZ!?」
「人の話聞きなさいよ! デートじゃないつってんでしょ! ていうかZって何よ!」
人の話を聞かない人間というのはとても相手にするのがめんどくさい。
吹寄は特にこういった自由人を相手にするのが一番苦手だ、つい口調が荒くなってしまうのも仕方ない。
すっかり坂本に翻弄されている彼女に上条は苦笑しつつも、銀髪のシスター探しの件について彼に話しかける。
「前に俺と神裂がかぶき町で見かけたって聞いたんだけど、どうなんだそこら辺は?」
「ああわしもねーちんから聞いちょる、確かグラサンのおっさんと一緒にいたっちゅう話じゃったの」
「グラサンのおっさんなら私の目の前にいますけど?」
「え、どこ!? グラサンのおっさんどこ!?」
「今バカみたいにキョロキョロしながら辺り見渡してます」
グラサン掛けたパーマのおっさんが一体誰がグラサンのおっさんだと辺りを隈なく探している光景を吹寄はしばしジト目で眺めた後、上条の方へ顔を戻す。
「それじゃあ宿題の方片付けるわよ、人探しも結構だけど貴様は学生なんだからそいう所大事に……」
「……」
「上条?」
話しかけたのにも関わらず上条はそっぽを向いて全く聞こえていない様子。
一体何を見ているのだと吹寄もまた彼と同じ方向に目をやると
「アレって……真撰組?」
「いやアレは見廻組」
白い制服を着た連中が帯刀しながらここ等一帯にいる道行く人に何かを聞いて回ってるみたいだった。
どこかで見た事ある制服を見て吹寄はあのチンピラ警察として名高い真撰組の連中かと思ったのだが、それを上条が顔を動かさず訂正する。
「最近幕府直々の勅令で学園都市に配属された警察組織らしくて、制服は似てるけど真撰組とは別なんだとよ」
「やけに詳しいわね……ていうか貴様、そんな警察を何ボーっと見てんのよ」
「いや、ちょっとあの人をな……」
「あの人って……」
上条が指さした方向に吹寄が目を合わせると、そこには男性の隊士が多い中に一人だけ女性の隊士が一人。
黒髪で前髪ぱっつん、考えの読みにくい目をした長い刀を持つ女性であった。
見廻組の副長・今井信女だ、何やら部下を連れてここらを捜査してるみたいだが、そんな彼女だけを見る様に上条はただジッと眺めている。
「あの女の人、知り合いなの?」
「ん? いや知り合いどころか一度会ってちょっと話したぐらいのほぼ赤の他人なんだけどさ、なんつうか会った時から……」
「……なによ、なんか歯切れが悪いわね」
「あーなんか上手くは言えねぇんだけどさ」
少々言い辛そうに頭を掻き毟る彼を見て、何故か吹寄はいつもより更にイライラして来ていると。
上条は信女を眺めながらボソッと
「気になるんだよあの人」
「……」
「……あれ?」
「上条当麻、貴様まさか……」
「ひ! ふ、吹寄さん!?」
ついポロッと言葉を漏らしてしまった上条に対し、吹寄は一瞬無言になって固まるが、すぐにゴゴゴゴゴと強い威圧感を彼に放ち
「人がわざわざ時間を割いて勉強教えてあげている時に、自分は年上の女の人に鼻の下伸ばしてましたって訳ね……!」
「い、いやいやそうじゃなくてですね! 別にあの人が好きとかじゃなくて初めて会った時から妙に印象に残る人だなぁと!」
「そういうの一目惚れっていうのよ、おめでたいわね」
余計な言葉を付け足す上条に吹寄は席から立ち上がると拳を掲げ
「勉学を怠って色恋沙汰にうつつを抜かすとは……」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ! 吹寄さん暴力は止めてぇ!」
「……」
また殴られる、もしくは頭突き、どちらでも痛いのは確実。
そう思って涙目になりながら両手で顔を覆う上条を前にして、吹寄はふと何故か神妙な面持ちになって拳をスッと下ろした。
「……もういいわ、貴様も年頃だし異性に興味が引くのも当たり前よね、相手が年上の女性なら尚更」
「へ?」
「私ちょっとトイレ行ってくるわ……」
そう言って吹寄はこちらにクルリと背を向けて、店内にあるトイレを使いに行ってしまう。
去り際に少々寂しそうな横顔を残して
「……なんだったんだ今の?」
「せい!」
「って痛ッ!」
店内へと入っていった吹寄の背中を見送りながら上条が口をポカンと開けて固まっていると、そんな彼の頭に突如坂本がチョップをお見舞い。
「アハハハハハ! あの嬢ちゃんの代わりにわしがやらせてもろうた!」
「イテテ……何すんだよいきなり!」
「全く、おまんは女心というのはわかっておらんのぉ」
「はい?」
「せっかくのデートの真っ最中じゃったのに、別の女に鼻の下伸ばしてたらそら怒るのが当たり前ぜよ」
「いやデートでもねぇし、鼻の下も伸ばしてないんですが……」
こちらにビシッと指を突き出して指摘してくる坂本に対し頭をさすりながら上条が弁明すると、彼は腕を組みながら懐かしむ様に空を見上げながら
「まあわからんでもなか、かくゆうわしも若い頃はおまんの様に、道行くおなご全てにムラムラする事もあった」
「いや俺そこまで行ってないからね!? 道行くおなご全てにムラムラ!? 見境なしかよ!」
「遠くの女に興味を持ってその尻追っかけたいという気持ちもわかる、けどそれでおまんの一番近くの女悲しませたらいかんぜよ」
坂本の若い頃の淡い青春時代にツッコミを入れながらも、彼の言葉に上条はテーブルに頬杖を突きながら「うーん」と考える。
「まるで俺があの人に夢中になったから吹寄が焼きもち焼いたみたいに言ってるけど、吹寄は俺の事なんかなんとも思ってないぞきっと、むしろ嫌ってるんじゃねぇかな」
「アハハハハ! アホじゃのぉとんまは! わざわざ嫌いな奴と二人きりでこないな所に来るかぁ!」
「いやいや、坂本さんは知らねぇけどアイツは昔から俺のやる事為す事全部に突っかかって来る奴でしてね……」
「ツンデレじゃツンデレ! 今流行っておるんじゃろそういうの! いやちぃと少し前じゃったかの?」
上条の吹寄に対する推測に坂本がゲラゲラと大きく笑い声をあげていると
「……ちょっといい」
「はい? ってうわ!」
坂本との話を遮るかのように、突如彼等の下へ現れたのは上条が気になると言っていた今井信女であった。
いきなり彼女の方から来た事に上条がビックリしているのも知らずに、信女は話を続ける。
「人を捜してるの、ここ等辺でこんな子を見なかった?」
懐から一枚の紙を取り出しながら信女は二人にそれを見せる。
それは研究施設にある個人情報が載せらせた資料レポートの様だった。
名前欄の所に書かれているのは黒夜海鳥
貼られている写真は上条よりも年下であろう目つきの悪い少女。
「坂本さん知ってる?」
「生憎わしは人探しなら自分の事で精一杯じゃ、こげな暗そうな嬢ちゃん見た事も覚えておらん」
「だよな、俺も見た事無い」
二人揃って知らなそうな反応をすると、信女は無言ですぐに紙を制服のポケットに入れると、踵を返して何事も無かったかのようにこちらに背を向けて行こうとする。
「それならいい」
「あ! ちょっと待ってくれよアンタ!」
行こうとする信女を上条はつい咄嗟に席から立ち上がりながら呼び止めた。
「あのもしかして、俺の事忘れちゃってます? 俺がアンタの所の局長にしょっぴかれて釈放された時に一度会ったんですけど……」
「覚えてない」
「え……」
「会っただけの人の顔なんて覚える気ないから私」
バッサリと短く答えてそのままスタスタと行ってしまう信女に、上条はショックを受けた様子で立ったまま頬を引きつらせる。
「ま、まあ確かに一度会っただけの間柄だし忘れてるのも仕方ないけども……」
「見事にフラれたの、アハハハハハ! いやぁこれまた無愛想な女じゃのぉ、ウチのカミソリ副官といい勝負じゃきん。とんまはああいう女が好みなんか?」
「俺の好みは年上で寮の管理人が似合いそうな包容力の高いお姉さんです!」
「いや別にそこまで詳しく説明せんでもええんじゃが……」
バンッとテーブルを両手で叩きながら堂々と好みのタイプを叫ぶ上条にさすがに坂本も苦笑しながら後頭部を掻いていると……
「キャァァァァァァァァァァァ!!!!」
「「!!」」
突如喫茶店の女性店員が悲鳴を上げる声が辺りに響き渡る。
それと同時にドォン!!!と喫茶店から大きな音が鳴り、店内を見せる為に設置された窓ガラスが次々と粉々に砕けていく。それと一緒に店内で聞き込みをしていたと思われる見廻組の隊士達も飛ばされてきた。
「なんだ一体!」
「とんま!」
一瞬の出来事に上条は動けないでいると、そんな彼の後襟を掴んで坂本は無理矢理テーブルの下に連れ込む。
その後すぐに上条達がいた場所に割れたガラスの破片が雨の如く降り注がれた。
「あんがと坂本さん……」
「こりゃまた何事ぜよ」
なんとかガラスの破片をテーブルの下に隠れて回避した二人は恐る恐る店の方へ顔を出してみると。
「はぁ~だる……もう私の事嗅ぎつけて来やがったか」
店の中から人影が一つ、床に散らばったガラスの破片をジャリジャリと踏みながら出てきた。
その人影がいよいよ外に出て来た時、上条の目は大きく見開く。
それはとてつもなく目立つ外見の少女だった。
年齢は12才程度、黒い髪は肩甲骨の辺りまで伸びているが、アクセントの為耳元の髪だけは金色に色を抜かれていた。
服装もまたパンク系と呼ぶべきか、小柄な体を締め付ける様に黒い皮と鋲で出来た衣装を身に付けている。
その服の上には袖を通さず、フード部分だけを頭に引っ掛けって羽織っているだけの白いコート。
そして左小脇に抱えたイルカのビニール人形が、異様な恰好とは別のベクトルで違和感を与えていた。
そして何より、あの少女の顔は先程信女が持ってきた紙に貼ってあった写真と瓜二つ。
という事は……
「もしかしてアイツが……!」
上条がテーブルの下で小声で呟いていると、背後か大勢の人々が逃げ惑う中、逆に彼女の方に歩いていく集団が
「やっと見つけた、”黒夜海鳥”」
「!」
顔を上げるとそこにいたのは少女を前に隊士達を率いる信女の姿がすぐ近くにあった。
無表情かつ淡々とした口調で、彼女は目の前にいる少女を黒夜海鳥と呼んだ。
そう、この少女こそが見廻組の標的、研究施設で大量虐殺を行った黒夜海鳥その人である。
「大人しく一緒に来て、抵抗するなら死んでもらう」
「お前の顔、気に入らないな」
右手に持つ長刀をいつでも抜けるように鞘の下に親指を当てて態勢を取る信女に対し
黒夜という少女は全く怯えもせず、僅かに目を細めて睨むだけ
「その仏頂面見てると”アレ”を思い出すんだよ、今すぐその顔剥ぎ取ってくれたら嬉しいんだが?」
「なら何も見えない様にあなたの目を取ってあげる」
「ハハ、私の好みの答えだ、けど」
冗談でなく本気で目を取りに来そうな雰囲気を放つ信女に黒夜は僅かばかりの好感を持つが
「悪いんだけどね幕府の白犬さん、私は連れてかれるのも殺されるのもゴメンだ」
そう言って彼女が不敵に笑う中、上条はふとある事を思い出していた。
(そういえば吹寄は店の中に……! アイツ無事なのか!?)
先程トイレに行く為に吹寄はこの店の中へと入っていった。
チラリと上条は店内を見ると、見廻組だけでなく、他の一般客や店員も傷付いた様子で倒れている。
(相手が一般人だろうが関係ないってか……吹寄は一体何処に……)
黒夜と信女が睨み合ってる間にコッソリ店の中に入って彼女を捜しに行こうかと上条が思ってた矢先。
黒夜が動き出す。
「今までずっとこの街の闇で奴隷の様に働いてたんだ、たまには大手を振って日の下を歩くぐらい見逃して欲しいんだがね」
「……」
「だからそこどいてくれよ、ほら」
スッと彼女は右手で強く掴んでいたモノを信女に見せつける。華奢な腕にも関わらず、その手に持っているモノは地面に着く程大きい。
しかしそれを見て最初に反応したのは信女ではなく上条の方であった。
「お、おい……嘘だろ……!」
「大正義であられる幕府のワン公でもさすがにわかるよな? ”人質”ってモンを前にして取るべき行動って奴を」
黒夜が持って見せたのは
長い黒髪を床に垂らし、彼女に首根っこを掴まれたままぐったりとしている少女であった。
「コレの首がへし折れる前に道を空けろ、それともコレ見殺しにして私の目玉えぐりに来るか? どっちでも私は一向に構わないよ」
「吹寄ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
咄嗟に目の前で捕まり人質とされている少女の名を上条は叫ぶ。
上条当麻は黒夜海鳥がどんな事情で見廻組に追われているのかも、どんな過去があるのかも知らない。
しかし彼女がその手に掴んでいる命を奪わんとするならば
怒る理由としては十分であった。
「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「あん? なんだ急に、まさかコレの連れか?」
「……」
テーブルから身を乗り出して立ち上がって来た思わぬ一般人の登場に
黒夜は彼を見て首を傾げ、信女はただ無言で彼を見つめる。
場違いにも程があるかもしれない、相手が悪すぎるかもしれない、しかし上条とってはそんな事など知った事ではない、ここで彼が最初に行うべき行動は
「今すぐその汚ねぇ手をそいつからどけろクソガキ!!」
今にも噛みつきそうな勢いで黒夜に向かって怒声を上げる事であった。
教えて銀八先生
「はい、お答えしまーす、まず一通目、八条さんからの質問」
『神裂さんの中で数々のトラウマをランキング3としてまとめたら一位、二位、三位はどんな感じになりますか?』
「えー三位は目の死んだ天パの男と短髪少女に絡まれた事、二位はマガジン買いにコンビに行ったら速攻店員に通報された事、一位は物凄く顔が怖い頭に花が咲いてる天人と遭遇した事らしいよ」
「二通目、はぐれメタルさんからの質問」
『上条側のヒロインは現段階では吹寄さんと神裂さん、オティヌスなのですか?』
「はい、今の所はそいつ等もヒロインの一人です、それと銀魂キャラにも一人ヒロイン候補がいるんだと、誰でしょうね、坂本かな? 見廻組の局長かな? 個人的には屁怒絽にして欲しいと先生は思ってます」
「それじゃあ質問コーナー終わりまーす」