禁魂。   作:カイバーマン。

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第六十四訓 救われぬ者に断罪を

学生禁止区域・かぶき町には魔物が潜んでいる。

特例が無ければ立ち入る事さえ許されない学生達にとってかぶき町というのはいわば未開の地。そこで何が行われているのか噂でしか聞く事が出来ない。

 

これはとある学生が友人から友人、そのまた友人の兄の彼女の友人の妹の友人が聞いた出来事である。

 

今から数日前、かぶき町にある寂れた団小屋にて一つの大会が開かれていた。

 

かぶき町第2回、『糖分王』決定戦。

 

ルールは至極簡単、一対一のサシで行い、制限時間内に一番団子を多く食べた方が勝利、トーナメントを勝ち続け最終的残った物を優勝とする。

 

本来ならばこの様なこじんまりとした団小屋で行われるだけあって、行きつけの客ぐらいしか参加しない小さな大会であったのだが。

 

今回は何故か異様に観客達がこぞって集まり、大いに活気づき賑わっていた。

 

それもその筈

 

この小さな団小屋にもかぶき町の魔物が現れたのである。

 

 

 

 

 

「どわぁ~!! あのシスターもう50皿は平らげたぞ!!」

「決勝だってのに全然ペース落ちねぇ! いや落ちるどころか上がってね!?」

「対戦者の学生の嬢ちゃんは滅茶苦茶苦しそうだってのに、一体何なんだあのガキは!!」

 

たまたま通りすがっただけの人達がどんどん足を止めて視線をある人物に向け始める。

それは団小屋の前に腰掛けにチョコンと座っているのは銀髪の小さなシスター、その無垢なる姿とは裏腹に店の親父が出してきた団子をわんこそばを食うかの如く次々と余裕で平らげる姿は見る者を圧巻させた。

彼女の隣に座っている対戦者であろう常盤台の制服を着た女子生徒は、さっきからずっと苦しそうな顔で手に持っている団子とにらめっこしている。

 

「もう無理ぃ限界……てかなんで私がこんな目にぃ……」

「バカ野郎手ぇ止めてんじゃねぇ! 口動かすなら食ってから動かせ! 早くペース上げねぇとあの化け物に店ごと食われるだろうが!!」

 

長く綺麗な金髪は汗だくになったおかげで顔にネットリ張り付いてしまい、顔色も悪くなってしまっているその少女に激を飛ばすのは、彼女の付き添いであろう銀髪天然パーマの男。

 

「せっかく決勝まで上り詰めたんだから後は優勝だけだろうが! ほらもっと食え! 死ぬ気で食え! 死んでも食え!」

「たまにはかぶき町で甘い物でも食べに行こうぜってあなたが言うからついてきただけなのに……うぐ!」

「ほらほらまだ入る! 入るよ~! ネヴァーギブアップ!!」

 

どうやら彼女はちょっとした彼との食事を楽しみに来たかっただけかもしれない。

悲観的な表情を浮かべ、ギブアップ寸前の少女の手を取り、無理矢理彼女の口の中に団子を突っ込でいく。

他者の手を借りるのは反則などというルールは無いので、男はお構いなしに容赦なく彼女に団子を食べさせる。

 

「おいおいボンボン入るじゃん、なんだよお前まだまだ全然限界超えてないじゃん、イケるイケる」

「うぷ、もう絶対無理……胃袋もう限界……」

「金玉袋にでも詰めとけ」

「いや私持ってないわよ! うッ!」

 

遂には彼女の首根っこを掴んで、串から取った団子を無理矢理口の中へ注ぎ込む男、しかしつい彼に対してツッコんでしまった事で、それが仇となりかすかに残っていた気力が遂に潰えた。

 

「ギ、ギブアップ……」

 

限界を超えたお腹と共に席からずり落ち、そのまま白目を剥きながら少女の意識は事切れた。

 

「あーっと! ここで対戦者ダウゥゥゥゥゥン!! 決勝を制したのは素性も知れぬ謎のシスターだァァァァァァァ!!!」

「やべぇぞあの小娘! 意識無くなってるじゃねぇか! 医者呼べ医者!」

「てかあのシスター! 勝ったのにまだ食ってるんだけど!?」

 

もはや対戦者など眼中に無しと言った感じで、優勝したと聞いてもそのシスターの豪食はペースは落ちる気配がない。

そしてピクピクと小刻みに痙攣しながら倒れてしまった少女を尻目に、銀髪天然パーマの男が遂にスッと立ち上がりシスターと対峙した。

 

「おいおいおい、このチンケなガキんちょが第二回糖分王決定戦の優勝者だと? 笑わせんじゃねぇ」

 

そう言うと男は懐から「糖分王」と書かれた鉢巻きを取り出し、それを得意げに額に巻く。

 

「いいかちっこいの、お前が倒したこのガキは所詮俺の前座にもならねぇただのザコ、優勝したければこの初代糖分王である俺を倒す事だな」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あの男大会に参加して無かったくせに我が物顔で優勝者に挑戦しようとしてるぞ!!」

「もうあのシスターは決勝に上がるまでに大量の団子を食っているっていうのに! ふざけるなそれでも男か!」

「卑怯者!! てかそこで倒れてるガキさっさと病院連れてけ!!」

「うるせぇぞ野次馬共! 俺は前回優勝者なんだよ! シード権ってモンを知らねぇのかコノヤロー!!」

 

既に優勝が決まっているのにここでまさかの挑戦権を強引にもぎ取る男に周りの観客から大量のブーイングが一斉に鳴り響く。

しかし男はそんな事も気にも留めず、獲物を狙うハンターの如く、真っ直ぐな視線でシスターに狙いを定める。

 

(へ、余裕そうに見えるが既にあのガキの胃は限界が来ている筈、逆に俺の胃は今猛烈に糖に飢えている、この戦い、既に勝者は決定している!!)

 

男に睨まれてもなお頭に「?」を付けながら首を傾げるシスター、しかしそれでも食べるのを止めない。

それがこちらを怯ませるブラフだと察知し、男は周りから卑怯者だと罵倒されながらもいよいよ勝負に出た。

 

「さあかかって来やがれこの糖分王に! 親父! ありったけの団子を俺に寄越せぇ!!」

 

今ここに卑劣なる戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

数十分後

 

「すみませんもう無理です……金玉袋にも詰めれません……」

「あーっと! 初代糖分王ここでダウン!! ニ代目糖分王が初代を制し完全なる優勝を果たしたぁぁぁぁぁぁぁ !!!」

 

そして卑劣なる戦いはまさかの初代糖分王の敗北で幕を閉じるのであった。

大きなハンデがあったのにも関わらず、先程までの威勢はどこへやら、男は少女と同じくグッタリとした表情でぶっ倒れてしまう。

 

「ウソだろオイ、……あのガキ胃袋の中にブラックホールでもあるんじゃないの……? クソったれ俺の糖分王の座がよもやこんなちっこいガキンちょに……」

「ねぇねぇ」

「……え?」

 

壁に背を掛けて休んでいる少女の隣に座り込みながらゼェゼェと荒い息を吐いている男に、優勝者である謎の銀髪シスターが初めて彼の方へ振り返ってキョトンとした表情で話しかけた。

 

「さっきからどうしてみんな苦しそうな顔でお団子食べてたのかな?」

「え、いやそりゃ大食い大会だし……みんな死に物狂いで食べないといけないからに決まってんだろ……」

「大食い大会? そんなのがあったの?」

「……おたくもしかして気付かずにこの大会に参加してたの?」

「私はただ”まだお”がめんせつ?とかいうのをやってるみたいだから、それまでここでお団子食べて待ってようと思ってただけなんだよ?」

「ま、待ってただけ……?」

「うん、そしたらなんか知らないけどお店のおじさんが一杯お団子食べさせてくれてくれたんだ!」

「……」

 

ニコッととびっきりの笑顔を浮かべるシスターを前にして、男は雷を受けたかのような衝撃を覚えた。

ハナっから彼女は勝負している事さえ知らず、ずっと出されていた団子を美味しそうに食べていただけだったのである。そんな彼女を前にして男はガックリと首を垂れて

 

「駄目だ、勝てる気がしねぇ……俺の時代も遂に見納めか……」

 

完全なる敗北宣言を自ら呟くのであった、すると大いに沸いている人込みを掻き分けて、グラサンを掛けた中年の男がみずぼらしいスーツ姿でシスターの前に駆け足でやってくる。

 

「ちょっとちょっと! 一体何の騒ぎ!? さっき真撰組の局長とガキが決闘していたってのは聞いてはいたけどそれとは関係ないよねコレ!?」

「あ、まだお!」

「ってうわ! お前何その大量の皿と串は!! まさかそれ全部お前が食ったの!?」

 

中年の男はシスターを見るや早々焦った表情で駆け寄る。

 

「こちとら金ねぇんだから馬鹿食いするなってあれ程言ってんだろ! 食う時は大食いチャレンジの時だけだって!」

「でも店員の人の方からくれたんだよ?」

「え、そうなの?」

 

店員から団子を提供してくれるとは思っていなかった中年男が不思議そうにしていると、牛乳瓶の底の様な眼鏡を付けた団小屋の親父が機嫌良さそうに現れた。

 

「へっへっへ、金は要らねぇよ。この大会は優勝できなかった連中が割り勘で払ってもらうんでね、優勝者はタダさ」

「えぇー大会!? 優勝!? タダって事はコイツが優勝!?」

「ああそうだよ、いい食いっぷりだったな嬢ちゃん、ウチの団子気に入ってくれたか?」

「うん! とっても美味しいお団子だったんだよ! 今まで食べた中で一番美味しいお団子だったかも!」

「へっへっへ、その言葉は団子しか作れねぇ俺ににとって何よりの誉れだな」

 

照れ臭そうに鼻をさすりながら笑う団小屋の親父に、シスターは最後に「また来るね!」と言うと、中年の男に手を引かれて何処へと行ってしまった。

 

「ところでまだお、めんせつはどうだったの?」

「え? ああ全然ダメだったわ、ったくどこの会社もグラサン取れってうるせぇんだよな全く……」

「グラサン取ればいいんじゃないかな?」

「グラサンは俺の身体の一部なんだよ、切っても切れねぇ関係なの俺とグラサンは」

「それってまだおと私みたいな?」

「へへ、調子乗んなガキンちょ、オメェなんていつでもポイだ。いつでも路頭に迷わせてやる」

「むー! シスターをそんな目に遭わせたら罰が当たるんだからね!」

 

冗談交じりに会話をしながら、中年男とシスターは先程まで大会見物していた野次馬達を掻き分けて行ってしまった。

 

これがかぶき町に潜む魔物の一人、素性不明の謎の大食いシスターとして後に噂が噂を呼びかぶき町の外にある学生区域に広められる事となるのだ。

 

ちなみに

 

 

 

 

「おい誰か救急車呼んでやれ! この二人立つ事さえ出来ねぇみたいだから!」

「もうイヤ……私こんな事する柄じゃないのに……大食いとか二度としないんだからぁ……」

「敗北は認めてやる……だが待ってろよ二代目糖分王……新たなる刺客を用意して今度こそ息の根を……がく」

 

シスターに敗れた常盤台のお嬢様と銀髪天然パーマの男については特に何の噂も無く、強いて言うなら

「お腹の膨らんだ学生の子と銀髪のオッサンが一緒にいた」という生々しい匂いのする話だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「という話を前に聞いた事があったんですよ」

「へ、へぇ……良かったそんなシスターがウチに転がりこまなくて、そんな大食い娘が来てたら家計がどうなってた事やら……」

 

上条当麻は金欠で困っている神裂火織を連れて行きつけのファミレスへと来ていた。

そこで偶然自分達が探していたシスターの情報を知っていそうな少女二人組との接触に成功する。

現在はというと、食事を終えて店を出て、第七学区を彼女達とブラリと歩きながらそのシスターについての話を聞かされていたのだった。

 

「ていうか神裂さん、さっきからなんでそんな嬉しそうなの?」

「いえ、あの子が私の仇を取ってくれたのだと思っていただけです」

「どういう事それ?」

「答えたくありません」

 

上条と一緒に黒髪ロングの方から話を聞いていた神裂はというと、何か良い事があったのか珍しく表情にほころびが見える。どうやら先程の話の中で嬉しいニュースが舞い込んで来ていたらしい。

 

「役に立つ情報とスカッとする話を教えてくれてありがとうございます。差支えないようでしたらあなたの名前は?」

「あたしですか? 柵川中学一年の佐天涙子≪さてんるいこ≫って言います」

「柵川中学?」

 

素性も知れない自分にあっさりと情報提供をしてくれた人物にお礼を言いつつ神裂は名前を尋ねると、少女こと佐天はこれまた簡単に自分の名前を教えてくれた。

そしてご丁寧に出身校の名前まで言った時に、二人の間を歩いていた上条がピクリと反応する。

 

「柵川中学って忍者の修業みたいな授業やレクリエーションがあるっていう学校の事か? 別名は確か忍者育成学校」

「そうそこです! うわ嫌だなー他の学校の人達からもそう思われてるんですねやっぱり……」

 

佐天の通う柵川中学校というのは低レベルの学生が多く集う、言い方は悪いが常盤台とは正反対の劣等生の多い中学である。

そして学校特有の個性を引き出す為の方針なのか知らないが、その学校にいる教論は校長を始め皆忍者についての知識が精通しており、生徒達に様々な手法を用いて忍者の様な特訓をやらせるのだ。

中には本格的な忍術修行をやらせるとかなんとか……

その事が他の学校の者達にも知られてるとわかると、佐天ははぁ~とため息を突いて歩きながら項垂れる。

 

「ウチってホント変わってるんですよ、そりゃあたし達の中は殆どがレベル0とか精々レベル1ぐらいしかいませんけども……だからといって壁走りの方法とか手裏剣の投げ方とかそんなの覚えて自信なんて付きませんよ……」

「俺はいいと思うけどなぁ、NARUTOに出て来る忍者アカデミーみたいで。正直家から近ければそこの中学通いたかったな俺」

「ははは、上条さんって物好きですねぇ、言っておきますけど影分身とか螺旋丸とか習得出来る訳ないですからね?」

「出来ないの!? 忍者なのに!?」

「当たり前ですよ! まぁそんな派手な技が出来たらあたしも一生懸命取り組もうとするかもしれませんね、でも現実の忍者ってやる事も地味だし全然カッコよく見えないんですよねホント、せめて侍になる授業とかだったらなぁ……」

 

忍者についてはジャンプでしか知らない上条に佐天はビシッと手を出しながらツッコミを入れると、現実の忍者はそんな夢のあるモノでないとつまらなそうに不満を呟いていると、彼女と一緒にいた花飾りを付けた方の少女が「佐天さんったら……」と呆れる様に呟く。

 

「そういう派手さとかカッコ良さとか求めなくていいですからキチンと真面目に授業受けて下さいよ~、努力すればレベルだって上がるかもしれないんですし……」

「いやいやいや、あたしもうそういうの完璧に諦めちゃってるから。あ、ちなみにこの子もあたしと同じ中学の生徒でーす」

「あ、どうも、初春飾利≪ういはるかざり≫です、ってじゃなくてですね! 真面目に聞いて下さいよ佐天さーん!」

「アハハ、聞いてるって~、全く初春は真面目なんだから」

 

誤魔化すかのように佐天に自己紹介を促されると、こちらに頭を下げて名を名乗る花飾りの少女こと初春。

全く持って不真面目な様子の佐天に初春がプンスカ怒っている様子でいる中、そんな極々平凡な女子中学生のやり取りを見て上条は「あはは……」と苦笑する。

 

「……なんか逆に新鮮な光景に思えてくるな、この子達のやり取り……」

「私達だったらあんなほのぼのとした空間生まれませんからね……」

 

自覚はしているのか上条達の者というのはどうも血の気の多いモノばかりで、基本的には口より先に手が出るかタイプか、口と同時に手を出すタイプが圧倒的に多い。

佐天と初春の仲つつましい間柄を見て、いかに自分達が荒んだ環境で生きているのだなと実感する上条と神裂であった。

 

そして彼女達がまだあーだこーだと言ってる間に、二人は先程聞いた情報を整理し始めた。

 

「それにしても良い情報が手に入りましたね上条当麻、やはり彼女はかぶき町に出没する確率が高いらしいです」

「俺が気になったのはそれよりもその子と一緒にいたっていうグラサンのおっさんの事かな? アンタ等の知り合いだったりする?」

「この学園都市にいるイギリス清教側の者は私とステイルの二人のみだというのは確かです。一見その男があの子を保護しているかのようにも見えますが、素性も知れぬ彼女をそんなあっさりと手厚く保護するとは考えにくい……」

 

禁書目録は坂本が無許可で学園都市に入れた、いわゆる不法滞在者だ。そんな得体も知れぬ輩をおいそれと簡単に自分の下に置いておくとは思えない。

もしかしたら迷った彼女を不憫に思って保護してくれたのかもしれないが、どちらにせよイギリス清教からしたら早急にその男から彼女を奪還しなければならないという答えが妥当である。

 

「即刻かぶき町に出向いて彼女とその男の捜索に移りたいですが……私はどうもあの町が苦手でして……」

「苦手って……言っておくけど俺だって学生の身分なんだからおいそれと簡単にかぶき町には入れないぞ? やっぱ坂本さんとかに頼んだ方がいいんじゃねぇのか?」

「駄目ですあの男は信用できません、そもそもこうなったのも全てあの男のせいですし」

「信用されてねぇなあの人……まぁ自業自得だけど」

 

かぶき町にトラウマを抱えてる神裂と、学生である上条では上手く捜査に参加できない。

一応大人の部類に入る坂本辰馬であれば探しに行けるのであるが、神裂達からの信用が圧倒的に足りない彼にはとてもじゃないが頼れない。

 

「こういう時にステイルがいれば……まったくあの男は一体何処に……」

「そういやステイルの方もいないんだっけな、そうだなあいつがいればまた熱くジャンプについて語れるのに……」

「いやそんなのは死ぬ程どうでもいいんで」

 

ステイルという存在がここに来ていかに重要だという事に二人は顔を合わせながら一体彼は何処へ行ったのやろと考えていると……

 

「おや? 君は僕の心の友である上条当麻じゃないか、あとついでに神裂」

「へ? ってえぇぇぇぇぇぇ!!」

「ステイル!! ってなんですかその恰好は!? 」

 

噂をしているとその噂されている人物がひょっこり現れるというお決まりのパターンよろしく、シェイクの入った紙コップ片手に、ステイル・マグヌスが何食わぬ顔で背後から現れたのだ。

先程まで行方不明者の一人であった彼が突然現れた事に上条と神裂は仰天する。

というか主に彼の服装に……

 

「常に暑苦しい黒ローブに身を包んでいるあなたが! なんでそんなラフな恰好になってるんですか! しかもどうしたんですかそのグラサン!?」

 

ステイルの今の服装は前に観た時の格好とは180度違うスタイルであった。

まず常に身を包ませていた黒のローブは跡形もなくなくなり、代わりに「お通ライブに来てくれてありがとうきびウンコ」などというふざけた文字がプリントされた白シャツを着て、下は短パン、足元はサンダルという夏場にはもってこいの軽装ファッション。

そして極めつけは平日お昼の番組で長年司会していた大御所が掛けてたような大き目のグラサンを自慢げに掛けているのだ。

 

 

「あなた一体全体何処へ行ってたんですか!? そして何があったんですかあなたに!」

「ところで上条当麻、今週のジャンプのアンケートでどの作品が面白いって書いた? 僕はひそかに頑張ってほしいと応援している『約束のネバーランド』」

「俺は『鬼滅の刃』かな? アレ絶対将来大ヒットするぞきっと」

「ああそれ三つ目に書かせてもらったよ、ちなみに二つ目はワンピースだったねやっぱ」

「ワンピースは最高だよなやっぱ、20年以上あんな面白いの描けるってやっぱ尾田先生凄いわ」

「聞けや人の話! あなたも普通にこの状態のステイルと会話しないで下さい!!」

 

出会って早々ジャンプトークに花咲かすのが既にこの二人の当たり前の行いになっている事に神裂が憤慨しながら話を続ける。

 

「ステイル! 連絡もせずに今まで一体どこふらついてたんですか!!」

「まだいたのか神裂、僕はね、この学園都市にてたくさんの出会いを経て成長したんだよ。強いて言うなら今のこの格好こそ僕にとっての自然体なんだ」

「どんな自然体!? そんな所ジョージみたいな恰好がいつ魔術師であるあなたの自然体と化したんですか!?」

「人は変わるモンだ神裂、年中その痴女みたいな格好してる君にはわからないだろうけど」

「遂に身内にまでこの服装について侮辱され始めた!」

 

同じ魔術師にさえあんまりな事を言われて神裂がショックを受けてる間に、ステイルはこの学園都市が自分が経験した出来事を語り出した。

 

「このシャツはね、寺門お通という今注目されているアイドルのライブを観に行った時に買ったものなんだよ」

「アイドル!? なにこんな事態で呑気にアイドルのライブなんて観に行ってたんですかあなた!?」

「あの時かぶき町という地区で熱心に彼女のライブに来てくれと自作のチラシ配りをしていた眼鏡の少年に誘われてね、興味本位で行ったらいつの間にかそのメガネの少年と共に熱い声援を彼女に届けてたよ」

「アイドルに届ける前に私に連絡通知を届けてくれませんかね!? ていうかあなたかぶき町行ってたんですか!?」

「うん、基本的にかぶき町にずっといたからね僕」

「はぁ!? あの悪魔の住む町で!?」

 

神裂にとっては恐怖の対象でしかないかぶき町にずっと滞在していたというステイル。

彼にとってはとても居心地のいい場所であったらしい。

 

「かぶき町にいたっていう事はどこかの宿泊施設にいたんですかあなた……?」

「毎日ホテルに泊まってたよ、しかしかぶき町のホテルというの結構割高だね。おまけにベッドが回るんだよ何故か、水布団とかもあったけどアレは中々気持ち良かったな」

「それただの男女がいかがわしい営みをするホテルですよ! あなた一体どこにそんな所に泊まるお金があったんですか!?」

「まあ海外派遣中にはイギリス清教の本部からそれなりの資金が提供されるから。でもここに来てからはいつもより2倍分貰ってる気がしたね、なんでか知らないけど」

「それ私の分も含まれてんだよ! 何人の金でラブホテルにオンリーワンで泊まってんだテメェは!!」

 

アゴに手を当て不思議そうに首を傾げるステイルに、神裂は怒りを露わにしながら遂に真実を知る。

簡単な話、この男が勝手に自分の分の資金もちょろまかして使い込んでいたのだ。本人は気付かずに使ってたみたいだがおかげで神裂はひもじい思いをする羽目になったのである。

 

「残ってるお金を全て私に渡してください! もうあなたにお金を任せられませんから!」

「いやそれがね、最近の事だけどいつもの様に僕の聖地であるかぶき町を練り歩いていたら」

「遂に聖地として認定された!!」

 

どんだけ順応早いんだと叫ぶ神裂を尻目にステイルは懐からタバコを取り出しながら話を続けた。

 

「寺門お通のライブがきっかけで知り合ったメガネの少年とどこか似ているポニーテールの女性に誘われるがまま彼女のお店に行っちゃってね、ガンガン飲んでたらいつの間にかそこで残ってた有り金搾り取られちゃった」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? まさかキャバクラにまで行ってたんですかあなた!? 14歳のご身分で!?」

「でも後悔はしていない、楽しかったし。金はなくなったけど僕の心は潤ったんだし」

「あなたが潤っても私の心はさっきからずっと荒む一方なんですよ!!」

 

口に咥えたタバコに火を点け、懐かしむ様にフッと笑いながら煙を吹かすステイル、自分のお金を使い込んだ挙句有り金もほとんどキャバクラに持ってかれたと悪びれもせずに語る彼にそろそろ神裂も我慢の限界が見え始めて来る。

しかし彼女が完全にブチ切れるのはここからだ。

 

「……仕事を忘れてアイドルに熱中したり、私の金で変なホテルに泊まったり、キャバクラで持ってた金をぼったくられたりと、とても神に仕える者に相応しくない行動を取っていたのはわかりました……最後に一応聞いておきますが、そのグラサンや軽装になった理由は何なんですか……?」

「コレかい? 昨日の夜にかぶき町にある屋台で仲良くなった『グラサンをかけたアゴ髭のおっさん』と一緒に賭場行った時にね、わずかに残ってたお金全部スった上に自慢の黒ローブを質屋に出さないといけないぐらいヤバくなっちゃって」

「魔術師の証であるローブよりもアイドルのシャツを先に質に出そうと考えませんか普通……」

「それをしたら僕はファン失格だ」

「魔術師としては失格ですよもう……」

 

沸々と沸き上がる怒りを抑えながらツッコミを入れる神裂をスルーして、タバコを口に咥えながらステイルはグラサンを得意げにスチャッと上げる。

 

「残されたのはお通ちゃんのシャツ一枚、金も尽きて途方に暮れていた時、そんな僕を見かねてそのグラサンのおっさんがトンキ・ホーテで短パンとサンダル、更には洒落たグラサンをプレゼントしてくれたんだよ」

「……」

「救いの手を差し伸べてくれた彼に、どうして外国人である僕にここまでしてくれるんですかと尋ねたんだ、そしたら」

 

 

 

 

『いやぁ実は今、ウチに外国からやって来たシスターが居候しててよ、その銀髪の小娘とお前さんが妙にダブって見えちまったんだよ、なんか似た雰囲気というか同じ世界の人間に見えたっつうか、それに賭場に誘ったのは俺の方だしよ、お前さんを路頭に迷わせちゃ俺はあの娘に怒られちまう。とにかくこれは俺が気まぐれであのお人好しな銀髪シスターの真似事して見たかっただけだ、気にすんな、ハハハ』

 

 

 

 

 

「世界中を見てきたがこんなにも温かい町に来たのは初めてだったよ、もはやかぶき町は僕にとっては絶対に住みたいまちランキング1位と呼んでも過言ではないね、ハハハ、しかし偶然だよね、彼の所にもあの子と同じく献身的なシスターがいるなんて、世界は広いようで狭いのかもしれないな」

「……オイ」

「あ、ちなみにこのタバコも彼から貰ったもの、神裂、君も大層な魔法名持ってるんだから見習った方が良いよ? 確か『救われぬ者に救いの手を』だっけ? ん?」

 

かぶき町で様々な出会いと経験を通じてすっかり虜になっているステイルは嬉しそうに思い出話に浸りながら口からタバコの煙を吹かす中で、項垂れていた神裂が静かに握りこぶしを構える

 

「神への懺悔の言葉それで済んだか……ならとっとと天へと帰り直に詫びに行け、最も貴様の行く先は大方天では無く外道畜生の堕ちる煉獄の底だ……」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「Salvare000……」

 

何のためらいも無く拳を振りかざして、神裂はダッと駆け出して彼に襲い掛かる。

 

「死ねぇ腐れ神父! よりにもよってあの子を見つける手掛かりになる重要人物を取り逃がしやがってぇぇぇぇぇ!!!」

「どういう事!? え、もしかして彼が言ってた銀髪のシスターってあの子本人……ぐほぉ!」

「テメェなんてもう魔術師止めちまえ! かぶき町どこへなり行っちまえこのクソがァァァァァァ!!」

「ギャァァァァァァァァ!!!! 誰か! 救われぬ者に救いの手をぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

賑わう第七学区で露出の多い女性が突如グラサン掛けた赤髪の男をボッコボコにぶん殴るという事件が発生。

突然の事態に、先程まで仲良く話していたであろう佐天と初春は口をあんぐりと開けてその光景に目を奪われる。

 

「うわぁ神裂さん何やってんですか!? 誰ですかそのグラサンの人!? 初春早く止めてよ! ジャッジメントでしょ!!」

「ジャッジメントですけど私じゃ無理ですよ! こういうのはロクに事務仕事は出来ないのに捜査と犯人の取り押さえだけは得意な白井さんにでも頼まないと!!」

「あ、そうだ! 男の上条さんなら止めれますよきっと!」

 

初春はジャッジメントらしいのだが彼女はどちらかというと戦闘とは不向きなタイプであるらしい。

ならばと佐天は次に先程からずっと神裂の一方的な暴力を目の当たりにしていた上条に助けを求めるが

彼は彼女達の方へ振り向くとあっさりとした様子で

 

「ああ大丈夫、コレが俺達にとっては当たり前の光景だから」

「どの辺が大丈夫なんですか一体!? あなた達一体どこの世紀末に住んでるんですか!?」

「もしもし白井さんですか! 第七学区で露出の激しい女性がグラサン掛けた怪しいロンゲ男を半殺しにしてるんですけどどうしたら……ええ! 私じゃ無理ですよ! 助けて下さい白井さ~ん!!」

 

携帯を耳に当ててジャッジメントの同僚であろう人物に涙目で叫んでる初春。

こうなったら自分が止めようと前に出るも神裂の迫力に完全にビビってしまっている様子の佐天。

 

そんな光景を眺めながら上条ははぁ~とどっと深いため息を突くのであった。

 

「やっぱウチの日常ってのはこうでなくちゃなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

教えて銀八先生

 

「はぁ~い、例えお便りが一通だろうがこのコーナー始めちゃいまーす、八条さんからの質問」

 

『都市伝説になってる腹ペコ銀髪シスターですが上条さんと神裂がこの都市伝説を聞いた時点でどの位のお店の大食いチャレンジを制覇したんですか?

 

後、大食いチャレンジを受けた理由も知りたいです』

 

「あー学園都市ではお客さんを呼び込むために店側があの手この手と色んなイベントを実施する事が多いんで、こういう大食いチャレンジとか早食い競争とかが普通に行われるんですよ、だからこのシスターも多くの店で出没してそのまま出禁になるというパターンを幾度も繰り返しています、つまりぶっちゃけどの位かなんてわかりません」

 

「理由はまあ、あのグラサンのおっさんがそういうイベントやってるよって広告を調べてその店に送り込んでるんじゃねぇの?」

 

「はいそれでは銀八先生のコーナー終わりまーす」

 

 

 

 

 

 

 


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