禁魂。   作:カイバーマン。

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第六十三訓 救われぬ者に救いの手を

場所はとある公園の昼下がり、向かう所敵なし称されている聖人の一人であり神裂火織は

 

ベンチに座り絶体絶命の危機に陥っていた。

 

「遂にお金と食料が底に尽きましたか……」

 

イギリスからはるばるこの学園都市に渡り数週間、以前謎の銀髪シスターの居所が掴めず途方に暮れてる所に更なるダブルパンチ。イギリス清教から支給されていた資金が遂にすっからかんとなってしまったのである。

 

「おかしい……生活資金諸々は幾度も送金されている筈だと言っていましたが、ステイルとも連絡がつかないのでその確認も取れず……異国の地でまさかこのような事態に陥ってしまうとは不覚です」

 

機械に関してはてんで疎い神裂は資金の受け取りなどは全てステイルに任せている。しかしここ数日彼女は彼と接触はおろか連絡もつかない状態、きっと彼は彼なりにシスター探しに奮闘しているのだろう。

 

「断食の修業は経験済みですがさすがに数日も水ばかりだと体調に悪影響が……聖人である私がこの豊かな学園都市の真ん中で栄養失調になってしまっては笑い話にもなりません……」

 

このままだと病院送り、最悪その場で野垂れ死にしてしまうんではないかと嫌なイメージが脳裏をよぎる。

空腹による至高の低下、このままではマズイ。とにかくここにずっといても埒が明かないと神裂が立ち上がろうとしたその時

 

「あ、前に店で出会った貧乏人の女侍」

「……はい?」

 

ふと物凄く失礼な事を言われたような気がして神裂は疲れ切った表情で顔を上げると。

 

そこには随分前にとあるファーストフード店で出会った短髪の少女がジュース片手に立っていた。

格好からしてどこかの学校の生徒なのであろう、神裂は学園都市の内部の事にはてんで疎いのでどこの学校からは知らないが、彼女の制服はお嬢様学校と呼ばれる名門常盤台の制服だ。

 

「あなたはいつぞや出会った人に対して散々失礼な事を言ってくれた銀髪天パの男と一緒にいた少女……」

「その銀髪天パの男なら今一緒にいるわよ」

「おいーす、あ、前に店で出会ったどん底人生まっしぐらの女侍じゃねーか。大丈夫かお前? 首吊りに使える木でも探してんじゃねーだろな」

「げっ……」

 

少女の背後からこれまた彼女と同じくジュース片手にやってきた銀髪天然パーマの男を見て神裂は怪訝そうな表情を浮かべる。

白衣にスーツ、眼鏡の奥は死んだ魚の様な目がこちらを見据え、前に会った時と同じけだるそうな顔でこちらに近づいて来た。

 

「相変わらず服ボロボロじゃねーか、服買う金もねぇのか? それじゃあ面接も通らねぇぞ」

「いや余計なお世話ですから……この服装はこれで正装なのだと前にも言ったでしょう」

「言ってたな、だけどそういう悲しい強がり張らなくていいってのもその時俺は言ったような気がすんだけど」

 

神裂の服装は魔術行使の作法に乗っ取り所々破かれたり捲れたりしている。

これこそが魔術師たる彼女の正装なのだが、普通の人間には奇抜なファッションか着る服が無い貧乏な浮浪者としか見られないのだ。

 

そして銀髪の男はベンチに座っている神裂の許可なく勝手に彼女の隣にドカッと座り始めた。

 

「社会人の先輩として言わせてもらうとさぁ、やっぱり服装とか大事なんじゃねぇの? まずは第一印象がしっかりしてないと最近の会社は何処も雇ってくれないって言うよ?」

「いや別にどこの会社に就職するとかそんなの考えてないですから私……」

「いや会社どころか他人とのコミュニケーションでも恰好は大事だな、普通の人間がお前さんのその恰好見たら、反射的に携帯取り出して110番打ち込む態勢に入るだろうな」

「そこまで言いますか!? ちょっとさすがに言い過ぎじゃないですか!?」

 

ドストレートで社会人らしい正論をぶつけてくる銀髪の男に神裂は鋭い刀で胸を貫かれたような痛みが走る。

物理的ではなく心が痛い。すると今度は短髪の少女の方がまたもや勝手に自分の隣、銀髪の男とは反対の所に頷きながら座る。

 

「そうね、人は見た目より中身だと言うけど、正直どれだけ中身が良くても見た目がダメならもうその人の中身を見る気すら失せるわ、アンタそんなんじゃ一生友達出来ないわよ」

「お前の場合見た目が良くても中身がダメだがな」

「それに友達が欲しかったらまずは金よ、金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものよ、だからまずはお金を貯める為に仕事に就きなさい、お友達料払えば大抵の奴は尻尾振ってついて来てくれる筈よ」

「もういいからお前黙っとけ」

 

キャッチャーではなく観客席に向かって全力で投げてるぐらい的外れなアドバイスをドヤ顔でする短髪少女に銀髪の男は冷たく黙らせた。

 

「まあとにかくアレだよ、廃刀令のご時世でもう刀で食っていける時代じゃないんだよ。いい加減大人になれ、まともな仕事に就いてまとめに働いて、まともな旦那をゲットしてまともな人生送ろうや」

「真っ当な人生歩んでないアンタが言うのそれ? まともに教師の仕事も出来ないし、まともな嫁さんどころかこうして女子中学生と昼間から遊んでるアンタが」

「だからお前は黙っておけや! それに別にテメェと遊んでるつもりはねぇよ! またお前が販売機蹴っ飛ばして面倒事起こさないよう見張ってるだけだ!」

「アンタも一緒に蹴ってたでしょうが!」

 

今度は自分を挟んでギャーギャーと口論をおっ始める二人。物凄くうるさい、お願いだからよそでやってくれと心底思う神裂。

このままいてはまたいつ自分に矛先が向けられるかわからないので、二人が喧嘩してる間に気配を消してコッソリとベンチから立ち上がろうとするも

 

「く! 空腹のせいで体が……」

 

両足に力が入らずそのままガクッと膝から崩れ落ちて倒れそうになる神裂、しかしなんとか地面に右手を突いて踏み止まる。

 

「よもや聖人である私が両膝を突くとは……」

 

ますます滅入っていた気分が更に悪化している一方の神裂。

そして地面に手を置いたまま固まってしまっている彼女を見て、突然短髪の少女が目を思いきり見開いて指を突き付ける。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!! 土!! 土を食おうとしているわこの人!!」

「はい!?」

「おい止めろ! それだけはマジで止めろ! それやっちまったらもう人として終わりだよ! ミミズとしてデビューする事になるよ!!」

 

どうやら地面に手を突いた神裂を見て、「お腹が減ったせいで遂に足元の土を食べようと試みている」と誤解してしまったらしい。

素っ頓狂な声を上げて顔だけ上げる神裂に銀髪の男も必死な表情で訴えかける。

 

「いくら腹が減ってるからってなんでも口の中に入れようとしちゃいけません! そんなの食っても腹は膨れないんだよ! 誰も幸せにならないんだよ!」

「ち、違いま……!」

「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!! この人に救いの手を差し伸べてくれる人はいませんかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「救われぬ者に救いの手をぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「それ私の魔法名! やめて下さいあなた達! 騒がないで下さいお願いします!!」

 

おもむろにベンチから立ち上がった二人が両手を口元に当てて天に向かって叫びだす始末。

二人に対し神裂は惨めな気持ち一杯で泣きそうになりながらもなんとか止めてくれと懇願した。

 

「頼みますから私の事は放っておいて下さい!!」

「アタシの飲みかけのジュースいる?」

「いりません!」

「俺の飲み干したジュースいる?」

「いらな……ただのゴミじゃねーか!!」

 

短髪の少女はともかく銀髪の男が渡そうとしたのはただの空き缶である。

思わずキレ口調でツッコむ神裂、すると二人はやっと諦めた様子で同時に「はぁ~」とため息を漏らす。

 

「まあ確かにあたしみたいな年下に哀れまれてもプライドを傷つけられるだけよね、でも最後に言わせてもらうわ、その持っていてもなんの価値もないプライドがいずれ自分の身を滅ぼす事になるのよ」

「そんなプライド持ってませんし滅びません! 他人のあなたに哀れまれる事自体心外です!」

「あ、おたくかぶき町にあるキャバクラで働けば? 男に乳揉ませるだけで金もたんまり貰えるぞ」

「どストレートにとんでもない仕事先紹介しないで下さい! キャバクラだけは嫌です! あんなドロドロした所死んでも嫌です!」

「じゃあ体中にローション塗りたくって男とプロレス……」

「それただの大人のお風呂屋さんだろうが!!」

 

何やらいかがわしい店ばかり紹介してくる銀髪の男に唾を吐いて怒鳴り散らしながら神裂はいよいよ手に持つ長刀の鞘を握る。

 

「さっさとどっか行ってください! さもないと斬りますよ!!」

「何よ親切に人がアドバイスしてあげたってのに……」

「次会う時はちゃんといい仕事見つけろよ」

「二度と会いたくありませんよあなた達なんかと!!」

 

ブツブツ文句を垂れる少女の頭に手を乗せたまま銀髪の男は最後に余計な事を言って立ち去っていった。

一体何者なのであろうかあの二人組は、親切に接してくれているのか嫌がらせ目的で話しかけて来てるのかもわからない。そもそもあの二人は一体どういう関係なのであろうか? 恋人と言うには年が離れ過ぎているし兄妹と言うには顔が似ていない。

 

「まあどうでもいいんですけどねそんな事……」

 

少なくとも神裂にとっては何よりの天敵コンビである事は確かである。

 

「この街にはとても長居したくありません……早くあの子を見つけて帰りたい……」

 

学園都市という強大な街そのものにさえ恐怖心を抱いてしまいながら、その場で両手に地面を置いたまま深く嘆いていると

 

「あり? 確かお前ステイルの所の……」

 

またもや不意に誰かに話しかけられた神裂、しかし今度の声は少し前に聞いたばかりの知っている声だった。

彼女が顔を上げると案の定、ツンツン頭の高校生こと上条当麻がこちらを覗き込むような姿勢で立っていた。

 

「あなたは……坂本辰馬の所の上条当麻」

「ジャンプを愛するイギリス清教に属しておきながらマガジンを愛読しているという大罪者・神裂火織」

「どんな覚え方してんですかどんな」

 

人の趣味を真っ向から否定しつつこちらを軽く軽蔑している様な視線を向けてきた上条に若干イラッと来ながらも、さっきの二人よりはマシと自分に言い聞かせて神裂はヨロヨロと立ち上がる。

 

「禁書目録の情報はありましたか?」

「いやこっちも色々と探りには探ってるんだけどなぁ、なにせ学園都市は広いからな。ジャッジメントとかの手助け無しで女の子一人探すって結構しんどいなやっぱ」

「やはり手掛かりなしですか……早くあの子を見つけないと私の身がもたないというのに……」

「へ? 身がもたない? あ……」

 

お腹を押さえて苦しそうにため息を突く神裂を見て上条はすぐに状況を察した。

どうやら彼女はまともに食事を取っている状態ではないのだろうと

 

「もしかして……ダイエット中?」

「しょーもないボケはツッコむ気起きません、ここ数日水しか飲んでないだけですよ」

「すまん、女は年中ダイエットする生き物だって前に青髪から聞いた事があったんで……てか水だけって、よくそれで立っていられるな」

「私の体は普通の人間の体よりは頑丈に出来てますから」

 

人間の体は数日水のみの摂取でもある程度は自立行動できる構造になっている。

そして聖人の神裂の体であればかなり長くの時間を栄養補給0の状態で生き延びることが出来るのであるが……

 

「度重なるこの街からの強い迫害によって、肉体だけでなく私の精神も著しく損傷を受け……いかに聖人と言えどもう私の体も限界に達して来ています」

「メンタル低ッ!」

「あなたは私がどんな目に遭ったか知らないから言えるんですよ! 警察には露出狂だと捕まりそうになったりかぶき町では坂本達のおかげで散々恥をかく事になったし、挙句の果てにはあの銀髪男と短髪娘……」

「お、おお……なんかよくわからないけど大変だったなお前も……」

 

どうやら彼女は上条の知らない所でこの街でひどい仕打ちを受けていたらしい。

最後の銀髪男と短髪娘というのは一体なんなのか少し気になる所ではあるがひとまずそれは置いておいて

 

「マガジン愛読者のお前でもさすがにこのまま見なかった事にするのもな……」

「哀れみはもう十二分に貰いました……私の事を思ってくれるなら何も言わずにどこかへ行ってください……」

「完全に心閉ざしてますよこの人、ATフィールドガン張りですよ……まあそう言うなって、メシぐらい奢ってあげるから」

「だからもう同情くれるなら金を……今なんて?」

「お前こそ今なんて言いかけた?」

 

同情の代わりに何を求めようとしたのか疑問に思う上条をよそに神裂はやっと顔を彼の方に向けた。

 

「あなたが食事を? 見る限りお金に縁無さそうな人相をしていますが? そんなあなたがまだそこまで親しくもない人に対して奢ると?」

「そんな親しくない相手にそこまで酷い事言えるのもどうかと思うんですがねぇ……フッフッフ、まあ確かに上条さんは基本的には万年金欠気味ですが、今の上条は一味も二味も違うのですよ」

 

一言多いなコイツと内心思いながらも上条は神裂に対して自信ありげに笑う。

 

「実は先日お巡りさんの所で仕事してよ、それで俺が頑張ったおかげで報酬として結構いい額のお金を貰っちゃいましてね」

「え? あなた警察の所で働いているんですか? 坂本と土御門からはあなたは学生だと聞かされていたんですが?」

 

上条が先日貰った報酬というのは、数日前に見廻組の局長、佐々木異三郎と共にスキルアウトの住処を探索した時に貰ったものだ。

命賭けた分には多少少ないかもしれないが、レベル0の学生が貰う分には中々の報酬金であったらしい。

 

 

「まあ上条さんは確かにしがない学生ですよ、けど仕事紹介してくれたそのお巡りさんってのが変わりモンでさ、偶然コンビニで出会っただけなのにいきなり金を出すからついてこいって」

「それであなたホイホイっと誘われて行っちゃったんですか?」

「行っちゃいました、お金欲しかったんで」

「呆れますね……少しは危機感を持った方がいいですよ」

「ハハハ……確かに」

 

後頭部を掻きながら頬を引きつらせて苦笑する上条に神裂はジト目を向けた後、再び口を開いた。

 

「それでその報酬金としてもらったお金で、空腹である私の弱みにつけこんで食事に誘ったと?」

「人聞きの悪い事言うなよ……そりゃ金に余裕があるから言ったんだけど、別にお前の弱みにつけこんでとか下心あるとかじゃなくて普通に飯食おうぜって言っただけだよ俺は」

「そ、そうでしたか?  すみません坂本のおかげでここ最近人間不信な所がありまして……何かあるのではと疑り深くなっているんですよ」

(何したんだあの人……)

 

疑いの目を向けてきた彼女に上条が正直に答えると、意外にも神裂は我に返ったかのように申し訳なさそうに非を詫びてきた。

彼女が疑り深くなった原因は坂本らしいのだが一体かぶき町で何をやったのだろうか……

 

「まあいいや、じゃあ誤解も解けたようだしさっさと飯食いに行こうぜ」

「へ? いや私は別に行くとは言ってませんが……」

「腹減ってるんだろ、言っておくがメシ奢ってくれる気前のいい状態の上条さんなんて滅多にお目にかかれないんだぞ? 自分で言って悲しいけど」

 

異三郎から貰った報酬は恐らく彼の浪費癖からしてそう長くはもたないであろう。

上条の言う通り、彼自身が人に対して奢るという真似をするという行いは早々滅多にない。

 

「俺の気が変わらない内についてきた方がいーぞ」

「……やむを得ませんね、他人に借りを作るのは私の生き方に反するのですが……」

 

ポケットに手を突っ込んだまま行ってしまおうとする上条の背中を見て神裂は遂に意地を張るのを止めて歩を彼の方へ進め出す。

 

 

「あの子のためにここで倒れる訳にはいきません」

 

全ては彼女の為、その為なら意地も恥も捨てよう。

 

 

 

 

 

 

 

「という事でデラックス和風セット、お味噌汁バー付きでお願いします、それとご飯は大盛りで」

「躊躇なく高いモン注文しやがったな……」

 

数十分後、場所は唐突に変わってここは近所のファミレス店。

早速神裂は店員にメニューを指差して注文しているのを上条は苦々しい表情を浮かべながら向かいの席で頬杖を突いている。

 

「感謝しながら食べるんだぞ、今注文したモンは全て上条さんの懐から出るお金を引き換えにして出されるんだからな、それを覚えた上でしっかり一口一口味わって食べなさい。そして今後も忘れず生き続けろ、あの時上条当麻という聖人君子が奢ってくれたから今の自分がいるのだと」

「く……この様なケチ臭い少年にすがらないといけないとは……天草式の皆に合わせる顔がありません……」

 

悔しさと恥ずかしさで顔を赤くしながら屈辱に耐える神裂。微量ではあるが財力を得た上条はかなり調子に乗っており、いかに相手が年上の女性といえど明らかに上から目線で接す。

 

「いやぁ居候を家に残しておいて正解だったな、さすがに二人分の金出すのは今後響くだろうし、あ、俺も同じ奴で」

「え? あなたもしかして同棲しているんですか? 学生のご身分で?」

「同棲じゃなくて勝手に家に上がり込まれてるんだよ、まあ話すの面倒臭いから省くけどこれまた厄介な奴でしてねー」

 

神裂と同じメニューを店員に注文すると上条は同居人の事をツッコまれてハァ~とため息を突いた。

 

「なんか記憶が無くなってるみたいでよ、思い出す為には神裂達が探している銀髪のシスターの力が必要かもしれないって土御門に聞いたんだよ」

「土御門が?」

「だからこっちもちゃんと本腰入れてシスター探しやってんだよ、アイツにはさっさと全部思い出してもらって家から出てって欲しいから」

 

上条本人は望んでない同居人なので一刻も早く出て行って欲しいらしい。薄情とも言えるが彼女を住ませてからずっと生活費を出し続けてあげていたのだから仕方ないとも言えなくもない。

だが神裂は土御門から聞いたという所に何か引っかかりを覚える

 

「魔導書図書館である彼女の力が必要という事は魔術関連の人物なんですか?」

「ああ、土御門がそう言ってたな。俺も直接自分の目でアイツが妙な力使ったの見たし」

「てことは私達以外の魔術サイドの人間がこの学園都市に潜伏していると? しかし記憶を失っているとは一体……機会があれば直接会わせてくれませんか?」

「どうぞどうぞ、好きなだけ会っても構いませんの事よ、引き取ってくれてもいいぐらいだ」

 

今のままでは情報が少なすぎる。手っ取りば早く上条に色々と追及するのも手ではあるが、残念ながら彼女は空腹状態である為思考能力が低下していた。

幸い上条はいつでも会いに来いといってくれたので、その魔術サイドの居候とはいずれ会う事にしよう。

 

「とりあえず今はあの子の探索や魔術関連を調べる事を中止して食事に集中します。久しぶりにまともな食事が取れるので」

「ていうかなんでまともに飲み食いできない程困ってるんだアンタ? イギリス清教から仕送りとか来ないの?」

「支給金等を受け取るのは全てステイルに任せているので、しかし今彼とは連絡がつかない状態なんですよ」

「連絡がつかない? アイツに何かあったのか?」

「それはわかりませんが……もしかしたら由々しき事態に陥っているかもしれませんね」

 

ステイルと連絡がつかないと聞いて上条の表情が若干強張る。

まだであって間もない彼ではあるが何かと馬が合った相手なので心配しているのであろう。

 

「仲間と連絡が取れないって結構な大事じゃねーか、銀髪シスター探しの前にステイル探した方が良いんじゃねぇのか?」

「勿論探していますよ、魔術師には魔術師なりの探し方がありますからすぐに見つけられる筈です。まあ向こうが生きていればの話ですが」

「生きてればって……」

「何時死んでもおかしくない世界ですからね、魔術の世界というのは」

「物騒な所だな……」

 

もしかしたらもうステイルはこの世にいないかもしれないと、淡々とした口調で冷静に話す神裂に上条は先に注文しておいたコーヒーを店員から受け取りながら固まる。

思ったより随分とシビアな世界の様だ、魔術師というのは

 

「まあ死んで無い様祈っておくよ、アイツとは今後とも親交を深めたいと思ってるし」

「そういえばあなた、私以上に彼と仲良くなっていましたね……」

「男同士の友情、ましてや同じジャンプを愛する者同士だからこそ芽生えた絆ってモンですよ、どこぞのマガジンに浮気した野郎にはわからないでしょうけど」

 

ジト目でこっちに視線を送りながらコーヒーを一口飲む上条に神裂は呆れた様子で眉間にしわを寄せる。

 

「たかが好きな雑誌が違うだけでネチネチと……いいじゃないですか別に誰が何を読もうが。面白いですよフェアリーテイルとか」

「おっと上条さんをマガジン側に引きずりこもうとしても無駄無駄無駄だぞ、ジャンプを愛する者はジャンプ以外の雑誌を愛することなかれというイギリス清教の崇高なる教えがあるんだ」

「入教してないのに信者ヅラしないで下さい」

 

既にイギリス清教の一員かのように教えを説いて来た上条に神裂がイラッとしながらツッコミを入れていると

 

隣側の方からふとワイワイと賑やかな声が飛んできた。

 

「本当ですかそれー? また佐天さんの作り話とかじゃないんですかー?」

「いやいや今度の話は本当なんだって! 現に見たって人がいるんだし!」

「にわかには信じ難いんですよねー、だってあまりにも現実感から飛び抜けてますし」

「いやいや初春、この世には科学だけでは測れない超常現象があってもおかしくないでしょ」

「えーなんでも科学で説明出来るこの学園都市でそれ言います?」

 

上条がふと隣を見たらそこには頭に花飾りを付けた少女が疑り深そうな目で、彼女と同い年ぐらいの長い黒髪の少女が興奮した様子で話しているのを聞いているみたいだった。

 

どうやら何かとんでもない事があって、それを信じる信じないでぺちゃくちゃお喋りしているらしい。

 

「女の子ってのはホント噂話とか都市伝説が好きなんだなー」

「いいじゃないですか年相応らしくて、子供は未知なる生き物や現象に興味を持つものですから」

「俺だってツチノコがいるって信じてますよ?、アレ売ったらすげぇ大金貰えるらしいし」

「夢があるんだか無いんだか……」

 

隣りの女子トークの話を種にして二人で談笑していると、おもむろに隣にいた長い黒髪の方の少女が席から立ち上がった。

 

「大食いチャレンジを行っている店全てにブラックリストとして名を刻み! 小柄な少女でありながらブラックホールの様な吸引力で吸う様に食べ尽くすという怪物! ”シスターを装いし銀髪の悪魔”がこの学園都市にいるんだよ!」

「銀髪の?」

「シスター?」

 

少女の言葉に同時にそちらへ振り向く神裂と上条。どこか覚えのある特徴が聞こえたような……

 

「そんな無茶苦茶な……大人ならともかく子供のシスターがそこまで食べられる訳ないじゃないですか」

「だからシスターを装った悪魔なんだって、もしかしたらこの世の世界でなく、別の世界から来た闇の住人なのかも……」

「なんで闇の住人が学園都市でフードファイトしているんですか……」

 

露骨に意地の悪そうに笑みを浮かべて来る友人に慣れた様子で花飾りの少女がツッコミを入れていると

 

「すみません!」

「うわ! 何この女の人! 痴女!?」

「私の目の前で佐天さんが謎の痴女に襲われてる!」

「痴女じゃありません聖女です!」

「自分の事を聖女だって言ったよこの人! 怖い! この人怖い!」

 

先程噂話をしていた方の少女の所に突然神裂が立ち上がり急接近、少女はいきなり話しかけられた事と目の前にやたらと生地の少ない格好をした女性が現れた事で驚いて声を上げてしまう。

 

「よろしければ先程の話、私に詳しく話してもらえないでしょうか?」

「い、いきなりなんですか一体……」

「もし話してくださるのであれば礼として」

 

明らかに困惑している様子の少女に神裂はチラリと後ろで座っている上条の方へ振り向く。

 

「あの男があなた達の食事代を全額負担します」

「っておい! なに勝手な事言ってんだ!!」

「……それテイクアウト代も含まれますか?」

「勿論です」

「よっしゃ!」

「なにお持ち帰り代まで了承してんだマガジン女!!」

 

食事代だけでなくちゃっかりお持ち帰りの料金も払ってもらえるよう交渉する少女に神裂は力強く頷く。

彼女達が話していた銀髪のシスター、それは神裂達が血眼にして探している少女なのかもしれない。

 

空腹のおかげで上条に拾われ、連れてこられた店でまさかの目的の子を見つけられるかもしれないチャンスに遭遇した神裂。

 

もしかしたらこの幸運は聖人である神裂だからこそ巡って来たのかもしれない。

 

「不幸だー!!」

 

その代わりに一人の少年が犠牲になるのであるが

 

 

 

 

教えて、銀八先生

 

「あー八条さんからのお便り、アルバイトの件から上条さんは佐々木から送られるメールを律儀に返信しているんですか?」

 

「基本はしてません、ただ無視し続けてると奴から尋常じゃない程のメールボムが送られるのでさすがに限界だと思った時は一回だけ返信するらしいです」

 

「二通目、パズドラさんからの質問、こちらの上条は原作みたいに記憶が吹き飛ぶのですか? ちなみに腹ペコシスターとの邂逅は?」

 

「えー今の所原作通りになるどころか全く別の話になってるから検討つきません、なんとも言えませんねこればっかりは」

 

「はーい、では銀八先生の質問コーナー終わりまーす」

 

 

 


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