ある日の事、上条当麻は一人コンビニに置いてあるATMの前で固まっていた。
「なんてこった……! 666円しかないだと……!」
謎のちんちくりん少女、オティヌスと住み始めて数日経った上条だが、銀行口座の預金が尋常じゃない程の減り具合を見て絶望している様だった。
学園都市に住む学生には皆毎月奨学金が送られる。
しかし皆同じ平等の金額を貰えるわけではなく、そこは学園都市らしくレベル別によってその金額が変わっていくシステムなのだ。
レベル1、レベル2であれば不自由なく暮らせる、レベル3、レベル4ともなれば少々豪華に暮らせる、レベル5ともなればその奨学金だけで一生暮らせるレベルだ。
そしてレベル0であるが貰えることは貰えるが能力持ちと比べると少々見劣りする金額しか貰えない。
それでも無駄遣いなどしなければ一応それなりに面白楽しく暮らせる金額ではあるのだが
「参ったな……思い切ってこち亀完結記念につい浮かれて全巻買ったのが仇になっちまった、オティヌスのおかげで食費も倍になったっていうのに……」
いつもの浪費癖が出てしまい、ついついいつも以上に口座からお金を下ろしていたことにようやく気付いた上条、オティヌスと一緒に住むハメになって食費まで増えたというのにこの男は己の欲望を満たすために後先考えずに無駄遣いをしてしまった様だ。
「次の支給日まで残り数日程だけど……さすがに666円じゃ持たないぞ、どうすっかな……」
「どうした上条」
ATMの前で上条がアゴに手を当て悩んでいる様子を見せていると、後ろから一緒にコンビニについて来た少女が声をかける。
コンビニに来るにはとても場違い、というよりその奇抜な恰好を受け入れる場所などこの国にはないであろうとツッコミたくなるぐらいの見た目をしたオティヌスがそこに立っていた。
「先程からずっとそこにある機械の前で悲観に暮れている様だが」
「ああ、たった今上条家の資金がほとんど底をついた事が発覚したんだよ……」
「そうか、そんな事より今日の晩飯はなんだ」
「え~……もやしオンリー?」
「貴様私をナメているのか、貴様を食うぞ」
冷蔵庫もほとんど空になりかけている現状では満足に食べれる余裕がある訳がない。
しかめっ面を浮かべ今晩はもやしだけと言う上条にオティヌスもまた顔をしかめた。
「その程度の物で私の腹を満たせると思っているのか、カレーをよこせカレーを、ジャガイモ多めの奴」
「無茶いうなよ、さっき言っただろ金がないって。という事でウチはこれから奨学金が振り込まれるまでもやしだけで生活します」
「あのひょろっこくて虚弱体質みたいな安っぽいモンなどで誰が満足できると思っているのだ」
「おい貴様、今もやしの事をバカにしたな! そこに直れ、もやしさんの名の下にこの俺が成敗してやる!!」
小馬鹿にした様子でもやしを見下す発言を取るオティヌスに上条が激昂して右手を掲げて一触即発の様子になっていると……
「おやおや店内で騒ぐ輩がいるから注意しようと思ったらあなたですか」
「え?」
不意にどっかで聞いたような男の声が耳に入る、上条はそちらの方へ顔を上げると。
オティヌスの背後にヒョロリとした細身の男性が白い制服を着て立っていた。
「ア、アンタは……!」
「お久しぶりですね上条さん、見廻組局長の佐々木異三郎です」
以前深夜を徘徊していた上条を不審人物として捕えて長時間に渡る尋問を行った男、佐々木異三郎であった。
気付いてすぐにバツの悪い表情を浮かべあの時の事を思い出す上条に異三郎は軽く会釈。
そしてオティヌスも彼に気付いた様子で後ろに振り返ると
「おい、もやしの話してたおかげでもやしが擬人化して現れたぞ」
「いやそれもやしじゃなくてお巡りさん! 確かに白いし細身だけど!」
「初めましてお嬢さん、言っておきますが私はもやしではなく生まれも育ちも立派なエリートです、以後お見知りおきを」
いきなりオティヌスに見上げられながら失礼な事を言われても、異三郎は眉一つ動かさず全く気にしていない様子で彼女にも軽く頭を下げると、上条の方に向き直る。
「失礼ですが随分変わった服装をしたお嬢さんですね」
「あ、ああ……やっぱり変わってるよなそんな恰好……」
「変わってますね確かに、今時の女の子が全身ユニクロなんて、もう少しオシャレに気を遣っては如何かと」
「変わってるってそこ!? ていうか見ただけでユニクロってわかるの!?」
奇抜なマントに帽子、その下にある水着の様な恰好を下から上へとチェックしながら冷静に分析する異三郎に上条がツッコむが、異三郎は「そんな事より」とどうしてユニクロだと一目でわかったのかをスルーして話を勝手に進めた。
「お金、随分と困ってるみたいですね」
「……なんで知ってんだよアンタ」
「そらATMの前でそんな貧乏くさい顔で泣きそうな顔浮かべてたら気づきますよ、何せ私はエリートですから」
「貧乏くさいは余計じゃありませんかね!?」
仏頂面のままサラリと酷い事を言ってくれる異三郎に上条は軽くイラッと来るが、彼は全くそんな事気にも留めずにポツリと
「なら今日一日、私の仕事手伝ってくれませんか?」
「へ?」
「何度も言ってますが私達見廻組はエリートのエリートによるエリートの為の警察組織です。しかし学園都市に派遣されてそんなに月日も経っていない今では知名度もあまり無く、コレといった仕事は中々やってこないのが現状です」
コレといった仕事というのがどういう仕事なのかはわからないが、恐らく異三郎の性格からしてエリートに相応しい様な凶悪犯が起こした大事件といった所であろう。学園都市でそういう仕事を請け負うのはもっぱら真撰組かアンチスキルだ、そしてその下にジャッジメント。見廻組はそのジャッジメントと同じぐらいの軽犯罪を担当しているのかもしれないと上条は彼の反応を見て思った。
「我々エリートに地道な作業というのは似合わないものでしてね、だから少しばかりあなたにご協力してもらいたいのですよ。あなたは我々と違いエリートとは程遠い存在に見えますし」
「悪うござんしたね、こちとら生まれも育ちもこれまた見事な一般人だよ……」
「……それはどうなんでしょうかね」
自分の事を極々平凡な高校生であると半ば自虐的に答える上条だが異三郎はそっと目を逸らしてボソッと呟く。しかしそれは上条の耳には入っていない様子で
「……で? そんな平凡な一般ピーポーに対してエリートさんは一体どのようなお仕事を提供してくれるんで?」
「卑屈にならないで下さい、今日一日我々の仕事を手伝ってくれるだけでいいんですよ。バイト感覚で手伝ってくれるだけで結構ですので」
「なんだか胡散臭いな……」
「心外ですね、この私の何処に胡散臭いと思うような部分があるんですか」
「主に全部」
見た目も言動もさる事ながら、まるで心を読めない異三郎の態度には上条は第一印象から怪しいと思っていたのだ。この男はどうもただの警察組織の人間ではないような気がする、そう思いながら上条が上手く断ろうかと考えていると……
「仕事というのはアレか、それをやればそれなりの報酬は貰えるという訳か?」
「おや、お嬢さんもやりたいですか?」
上条よりも前に立っていたオティヌスがふと異三郎に向かって顔を上げて尋ねていた。
すると異三郎は上条から彼女の方へ視点をずらし
「まあバイトですからね。働いてくれればこちらから出すものはキチンと出します」
「ふむ、おい上条、お前が今欲しがってる金を出してくれると言ってるぞ」
「いやいやいくら金欠だからってこんな胡散臭い人からの仕事なんて絶対裏が……」
自分を尻目に乗り気になっている様子のオティヌスに上条が上手く説明してこの件は断ろうとしていると、異三郎はフッと彼の耳元に近づいてボソリと……
「ちなみに報酬金は……です」
「……え、マジ?」
「そりゃ我々はエリートですから報酬金もそれなりに払いますよ、ええ」
「……」
上条は彼の口から放たれた報酬金の額を聞いて固まってしまった。
微動だにせずその場で動かなくなった彼を見て異三郎は思った。
この男は弱い所を突けば簡単に動くなと
そして数十分後、上条はオティヌスを連れてとある場所へと来ていた。
「おい上条、またサバ缶が置いてあったぞ」
「またかよ……スキルアウトのアジトじゃなくてサバ缶の生産工場だったんじゃないのかここ」
場所はとあるもう使われていない廃団地。
数日前はスキルアウトのグループがアジトとして利用していた施設だったらしいが、攘夷浪士との抗争の果てに解散。今は誰も近づく物はおらず完全なる廃墟と化していた。
そしてそんな中で、上条はオティヌスと共にスキルアウトが生活していたと思われる一室の中を隈なく探索を行っていた。
「めぼもしいモノは見つかりましたか? 攘夷浪士とのやり取りが書かれた密書とかあれば嬉しいのですが」
「いや駄目だ、さっきからサバ缶とあんぱんの空き袋しか置いてねぇよ」
「ふむ、続けて探してください」
そこら中に散らかって落ちているゴミやらなんやらをゴソゴソと両手で引っ張っている上条の後には、さっきからずっと彼等に一方的に任せて手に持った携帯をいじっている異三郎がいた。
彼が上条達を連れ何故こんな所に来たのかはちゃんと理由がある。ここにいたスキルアウトはあの天人の大使館を襲撃した首謀者、駒場利徳がいたグループのアジトなのだ。
彼は数週間前に無事に真撰組に捕まった、そして駒場率いるスキルアウトを脅して手駒として操っていた攘夷浪士達も数日前にこの場で大量検挙され事件は無事に終わった筈であった。だが
「全く、真撰組がまんまと駒場利徳を逃がしてしまわなければ。我々がこの様な地道な情報収集などする必要はなかったのですがね」
なんと駒場は逃げ出してしまったのだ、凶悪犯をみすみす逃がすなど真撰組だけでなく警察組織全般の沽券に関わる大問題、異三郎がここに来たのはその駒場のなんらかの手がかりがあればと思ったからなのだが、まあぶっちゃけやる気がしないので他の警察組織に「一応ちゃんと仕事してますよー」というアピールする為でもある。
「難儀なもんですよ全く、自分の思い通りにいかない程腹立たしいモノはありません。お嬢さんもそう思いませんか?」
「おいもやし男、あそこのベッドの下に大量のいかがわしい本が出てきたぞ」
「おやいけませんね、ダメですよレディがそんなモンを持っちゃ」
同意を求めるかのようにふと自分の足元にいたオティヌスに言葉を投げかける異三郎だが、彼女が仏頂面でヒョイと両手に抱えて持ってきた大量の18禁本を見て、お巡りさんらしくすぐに取り上げた。そしておもむろにその中の一冊をパラパラとめくり出す
「ふむ、コスプレ物ですか、しかもややバニーちゃん系が多いようですね」
「人に捜索させておいて自分はエロ本立ち読みですかお巡りさん……」
背後に突っ立たままいかがわしい本を無表情で読み始めた異三郎の方に振り返って上条がジト目で避難していると、異三郎は彼の方へは顔を上げずにページをめくりながら
「ご心配なく、同じ男のよしみです、あなたにもちゃんと貸してあげますよ」
「……管理人の年上お姉さん系とかあんの?」
「ほう、てっきり魔女っ娘系とかがお好みだと思ってたのですが。彼女も魔女っ娘系ですし」
「生憎こんなちんちくりんなんかより包容力のある年上のお姉さんの方が断然好みです」
「貴様誰がちんちんだ、そんなモノ付いておらんわ」
「ちんちくりんな、女の子がなに平然ととんでもねぇ事口走ってんだ」
横目でオティヌスの事を見ながら呟く異三郎に上条が鼻で笑いながら返事すると、それを聞いてすぐ様オティヌスは動いた。
「相も変わらず無礼な奴め、その口の悪さ、一体どんな教育を受けて来たんだお前は」
「お嬢さん許しておやりなさい、ああいう思春期の男子学生というのは異性に対してはわざと意地悪して自分に注意を惹き付かせようとする傾向があるのです」
「そうなのか中々面倒な生態だな、つまり上条が私に無礼を働くのは自分を見て欲しいとアピールしているのか、そう思うと腹立たしいを通り越して哀れに見えた」
「ええ、あの年頃の少年は皆哀れな生き物です、そして色々と苦い思いを重ねて成長していくものなのですよ。彼からはその成長する兆しも見えませんがね」
「俺の生態うんぬんより仕事してくれませんかね二人共!!」
自分を見ながら淡々と観察している様子の二人に上条は再び振り返った。
「とにかくスキルアウトと攘夷浪士の繋がりが見える証拠品とかあればいいんだろ! 無能力者の俺はこんな危ねぇ所とっととずらかりたいんだよ! アンタ等も早く探してくれよ!!」
「おい冷蔵庫の中に真ん中に切り目の付いたこんにゃくがあったぞ、どういう事だコレは」
「そういうモンは見つけるんじゃねぇ!! 絶対に触るなよ!」
冷蔵庫の奥にヒッソリと入ってあった切り目の付いたこんにゃくを見つけて興味津々の様子で訪ねてきたオティヌスに上条はすぐに振り返って触らないように叫びながら立ち上がった。
「ったくロクなもんがねぇなここは……もういいあっちの部屋探してみる」
「おや? その部屋に入るのですか?」
「ん? もうアンタこの部屋探したのか?」
「いえ、まだですよ、ただ」
ずっとしゃがみ込んでいたおかげで少々疲れた様子を見せながら奥の部屋へ向かおうとする上条、だがそれに対し異三郎はいつもの仏頂面をほんの少ししかめた様子で
「入る前に目星してダイス振っておいた方がいいですよ」
「は? 何をわけのわからない事を……」
意味深な事を言う異三郎の方へ振り返りながら彼がその部屋へ入ろうとしたその時
ふと丁度スネの部分に細長い糸の様な物がピンと当たったような感触があった。そして次の瞬間
「うわ危ねぇ!」
それがスイッチだったのか、上条が部屋へ入ろうとするのを遮るかのように彼の額目掛けて鋭く尖った「何か」が
殺意全開で飛んできた。
慌てる上条だが反射的に上体を逸らしてそれを間一髪の所で避ける。
「だから言ったじゃないですか全く、こういういかにもな部屋には大抵情報の代わりに意表を突く罠とか隠されている者なのですよ、TRPGの基本です」
上条目掛けて飛んできた物は彼を通り過ぎ、丁度異三郎が立っていた所の横の壁に突き刺さった。
異三郎は慌てた様子さえ見せずそれを簡単に引き抜く。
「”クナイ”ですね」
「クナイ……クナイってあの……」
「忍びの使う道具の一つです」
異三郎が手に持って観察しているのは漫画やゲームとかでよく忍者が扱っている手裏剣の一種だ。
アンチスキルの百華の頭も扱っている武器ではあるが基本は忍びが相手に対して牽制の為に、もしくは死に至らしめる道具ではあるという事ぐらい上条も知っていた。
「奴さんも本気みたいですね、このままだと無事にここから出れるかどうかも怪しいです」
「は? それどういう意味……」
「おや、言ってませんでしたっけ?」
手に持ったクナイをポケットにしまいながら異三郎は困惑している様子の上条の方へ顔を上げる。
「どうやら駒場利徳の情報を探ろうとしている我々を面白く思わない者が、ここに潜んでいるらしいんですよ」
「へ!?」
「数日前に私の部下もここで襲われました、相手の姿さえ見る事も出来ずあっさりと撃退されたとかなんとか」
そう言いながら異三郎ははキョロキョロと周りを見渡しながらリビングの中心の方へ移動する。
「そういった事が何度もありましてね、だから局長の私がわざわざここに出向いたんですよ」
「いやいやいや! そういう事ならなんで言わなかったんだよ! 俺何も関係ねぇだろ!」
「ついうっかりしてました。私のてへペロ見れば許してくれますか?」
「うっかりじゃなくて絶対わざと言わなかっただろ! 誰がアンタのてへペロなんて見るかよ気色悪ぃ!」
後頭部を掻きながら全く反省していない様子の異三郎、それに対し上条は苛立ちを募らせながら彼の横を通り過ぎて、スキルアウトが使っていたと思われるキッチンの前に立っていたオティヌスの傍へ歩み寄って彼女のマントを掴む。
「帰るぞオティヌス、さすがにこっちも金の為に殺されるなんてたまったもんじゃない」
「待て上条」
「なんだよ、またいかがわしいモンでも見つけたのか?」
マントを引っ張られてもなおその場に立ち尽くし、コンロの上に置かれている鍋の方を無表情で指さすオティヌス。
一体何事かと上条は怪訝な様子でその鍋の中を覗き込むと
「先程冷蔵庫にあった切り目こんにゃくが茹でられている」
「どういう事これ!? いや本当に!」
点火されたコンロの上にある鍋の中ではグツグツと切り目こんにゃくが泡立ったお湯の中で茹でられていた。
そんなシュールな光景に上条が唖然としている中、いつの間にか近くにいた異三郎がガチャリと先程オティヌスが開けていた冷蔵庫の中を覗いていた。
「そのこんにゃく、さっきこの中に入っていたものみたいですね。こっちにはありませんし」
「そ、それって!」
「我々三人がいる状況下で、冷蔵庫を開けてこんにゃくを取り出し、キッチンの火を点けて鍋で茹でるというとんでもない真似をする者がこの建物の中に潜んでいるという事です」
「それになんの意味があるのでせう!?」
「さしずめ「このこんにゃくの様にお前等も料理してやるぜファッキン」ですかね。腕は確かなようですが頭は悪いようです、それより」
冷静に分析する異三郎に対し上条はますます困惑しているが、異三郎の方はスッと懐からある物を取り出した。
手の平に収まるぐらいの銀色の拳銃だ。
「そんな真似をいとも容易く出来る者が、おいそれとあなた達二人を簡単に逃がしてくれるとは思いませんよ」
「……不幸だ、こんなオッサンの口車に乗せられてこんな事になるなんて……」
「いいじゃないですか、これであなたが先にこの姿なき暗殺者さんを捕まえてくれたらバイト代上乗せしてあげますし」
「マジでか!?」
銃を構えつつ適当な感じでそんな甘い誘惑をボソッと呟く異三郎に対し、上条は先程クナイを避けたかのような素早い動作で彼の方へバッと振り返るがすぐに頬を引きつらせ
「い、いやでもさすがにボーナス手配されるといっても相手がな~……何せ上条さんは一般的な普通の高校生ですし……」
「そう言っておきながらあなたがいつの間にか手に持ってるその長い鉄針は一体なんですか?」
苦笑しつつ自信なさそうに呟く上条だが異三郎はすぐに気付いた。
気付かぬ内に得物である鉄針を取り出し、それを起用に指でクルクルと回している事に
どうやら言葉では嫌そうにしながらも体はバイト代上乗せという誘惑に駆られて勝手に動いてしまったらしい。
それを見ながら異三郎は思った
この男は本当にエサで釣れば本当に動かしやすいなと
(まあそれはそれで利用しやすいから大いに結構なんですがね)
「おい上条、今あっちで何か動かなかったか?」
「なに!? すぐに捜索するぞ! 絶対に仕留めてやらぁ!」
呆れているのか感心しているのかよくわからない表情を浮かべている異三郎をよそに
上条は早速オティヌスが指さす方向に鉄針を持ったまま果敢に突っ込んで行く。
そんな彼を眺めながら異三郎も「さてと」と静かに動き出した。
「お巡りさん相手にかくれんぼで勝負するとは相手もいい度胸ですね、いいでしょうその挑戦にエリートの私が受けて立ちましょう」
左手に持った拳銃をカチャリと構えながら異三郎はふと天井を見上げる。
「それとも”かくれんぼ”でなく”ゴミ掃除”がご所望なら、私はそれで構いませんけど」
彼の生気のない目が一瞬冷たく光る。
かくして異三郎・上条・オティヌスの三人と姿無き者の静かな戦いが幕を開いた。
おまけ
教えて銀八先生
「はい今日もお便り答えま~す、ハンドルネーム「八条」さんからの質問」
『上条達が病院に来るまで青髪はその間、病院で何をしていたんですか?』
「誰も見舞いに来ない悲しみと金出さずにナースを拝めるという幸福の狭間でそれなりに楽しい入院生活送ってたらしいです