上条当麻は少々おかしい所があるが基本は至って普通の学生だ。
本来の彼であれば夕方におかしな外国人と喧嘩したり夜中にその外国人とジャンプトークしたり完全下校時刻をとっくに過ぎた深夜にフラフラと出歩くことは今までなかった。
しかし彼の日常は坂本辰馬との出会いから徐々に大きくズレ始めている。ここ最近の間だけでも妙な人物達と出会う頻度が異常なほど増加しているのだ。
ユニクロ好きの謎の眼帯娘やとてつもなく恐ろしい顔をした天人、魔術師と名乗る者達、そして極めつけは
「上条当麻さん、いい加減に白状したらどうです? こう見えて私も忙しい身でしてね、これ以上お巡りさんに迷惑かけてもなんの得もないでしょう?」
「いやだから俺はちょっと散歩してただけですって!」
白い制服を着たお巡りさんだ。名前は佐々木異三郎、新たに学園都市の警察組織に加わったという見廻組の局長を務めるほどの男らしい。
異三郎は自分の属する見廻組の屯所に上条を招きいれて、薄暗い尋問室でテーブルを挟んで深夜の徘徊の件について何時間も拘束して問いただしていた。
「真夜中に誰もいない場所をフラついてまるで世界にいるのが自分だけになったと錯覚する若い者によくある症例ですが、あなたのわかりやすいその態度と格好にどうも違和感を覚えるのは私だけでしょうか?」
「だからちょっと転んだだけですって……アンタもネチネチとしつこいな……」
「エリートだからこそネチネチしているんです。私は生まれも育ちも生粋のエリート、言うなれば生粋のネチネチです。あなたがどう言い訳してもずっとネチネチネチネチ言い続けますよ」
「参ったな……」
何とか誤魔化そうにもこの男は決して追及を止めることは無かった。それどころか徐々に核心を突いた言葉を使ってきたり上条の口からボロが出るのをひたすら待っているようだった。
しかし上条は言えない、魔術師の存在もそうだが何より不法侵入している坂本と顔も知らぬシスターの件もあるのだ。こればっかりは警察相手に話すことは絶対に出来ない。
「ていうか朝になったら開放してくれる約束じゃ……もう外は朝じゃないんですか?」
「あなたがお巡りさんにお話してくれない限りこの部屋に朝は来ません、朝が来て欲しいなら話すことです。君が昨日どこで何をしていたのかを」
「だから学校の補習行って終わったらクラスメイトと遊び回ってただけだって、それで夜中まで遊びほうけて完全下校時刻過ぎちまって、みんな帰った後ふと寄り道してただけですってば」
「あんな時間になるまでフラフラと出歩いていたとはずいぶんと長い寄り道ですね。あなた嘘つくのヘタでしょ? あなたみたいな嘘をつくのがヘタなタイプは嘘をつく度に首筋が赤くなっていくんですよ」
「へッ!?」
「嘘ですよ」
自分の首筋をあわてて手で押さえる上条にボソッと呟くと異三郎はますます彼を疑うように何を考えてるのかわからない目で覗き込む。
「あなたやはり何か隠してますね、それもお巡りさんの私にバレてはいけない事を。このままだとあなた永遠に朝が来ないかもしれませんよ?」
「それは嫌です、はい……」
「だったらとっとと私のエリートネチネチに観念してさっさと……」
すっかり弱り果てて白状しかねない上条に異三郎がトドメの言葉を言い終える前に、彼の胸ポケットから携帯の着信音が鳴り出した。
「おや失礼、電源付けっぱなしでした」
話を中断して彼はすぐに携帯を取り出して耳に当てた。
「はいサブちゃんです、何かあったんですか? こっちは今ツンツン頭の少年とコーヒー飲みながら楽しくお喋りしている所なので手短にお願いしますよ」
(サブちゃんって……)
いい年した大人が自分のことをちゃん付けのあだ名で名乗っている事に思わずツッコミたくなる上条だがそこはなんとか踏みとどまる。
すると異三郎は何も言わずに電話相手の話を10秒程聞き終えた後。
「わかりました、そういう事ならこちらも手が出せませんね。ではすぐに彼とそちらに向かいます」
最後にそれだけ言うとピッと携帯の通話を切って懐に戻すと、異三郎はガタリとイスから立ち上がって
「どうやら朝になったようです、あなたはもう釈放です」
「はい!?」
「私の後について来てください、外に出してあげますよ」
今までの長い尋問はなんだったのだと思わずにはいられない、なんともあっさりと出る事を許可する異三郎。戸惑いながらも出られるのではと上条も席から立ち上がって彼の後をついてくのであった。
数分後、薄暗い尋問室から抜け出した上条はようやく、見廻組の屯所前に出て朝日を拝むことが出来た。
「あーシャバの空気がうまい……」
まるで何十年も獄中生活に暮れていた罪人がようやく釈放されたかのような心境で昇った太陽に手をかざす上条。そんな彼にここまで共についてきた異三郎が感情の読めない表情で
「上条さん、あなたの保護者に感謝しなさい。彼がここに来てくれたおかげであなたは釈放されたのですから」
「保護者? ってそれってもしかして父さんと母さんか!?」
保護者と聞いてすぐに親を連想する上条だが、そんな彼の元に前方から近づく人物が。
「?」
上条がふと見ると長い髪をなびかせ異三郎とは少し違う造型をした制服を着た女性であった。
異三郎と同様感情の読めない表情と目をしている
左手には深夜に会った魔術師である神裂が持っていた刀ほどではないが長い刀を持っている。
「……遅い異三郎」
「電話ありがとうございます信女さん、これを機にもっと電話とメールしてくれても構いませんから」
「めんどくさいからヤダ」
局長の異三郎に対等な話し方が出来る時点で上官クラスなのかもしれない、と上条が呑気に思っていると異三郎がこちらに振り向き彼女を紹介するように手を上げる。
「こちらは若くして見廻組の副長を勤めてもらっている今井信女です。あなたの保護者は彼女が連れてきました」
「ああどうも……上条当麻です」
「……」
ぎこちなく挨拶する上条だが信女はただ無言でこちらを見つめるだけだ。何考えてるのかわからないその表情に上条は頬を引きつらせながら笑っていると
「?」
ふと彼女を見ていると上条は視界が若干グラついた。ほんの一瞬の事であったが、彼女の姿が何か別の姿に見えたのだ。そう、今の彼女よりもっと幼い女の子……
「……アンタ前に俺と会わなかったか?」
「……会っていない」
こちらの目から逸らさずに短く返事する信女。
すると異三郎は「ふむ」と顎に手を当て
「上条さん、信女さんをナンパするとは随分と肝が据わってますね、彼女はこう見えて見廻組トップの刀の使い手ですよ。選択肢間違えたら即ゲームオーバーになっちゃいますし初心者には難しいキャラですから攻略は後回しにする事をおススメします」
「いやいやそうじゃなくて……いや、会ってないならそれでいい」
変に誤解を受けてしまったことを否定しながら上条は彼女への追及はこれ以上しなくてもいいと判断する。きっと久しぶりの太陽の熱気に当てられて立ちくらみしただけであろう。
しかし
「ん?」
自分の右腕がピクリと動いたような感覚を覚えた。しかし右腕を見てもなんともない。
ただの気のせいかとそう結論付けていると上条の前にふらりと人影が
「こんな所で何をしている」
「へ? ってうおぉ! ビックリした!」
こちらを見下ろしながら冷たく言い放たれた言葉に上条が咄嗟に顔を上げると声を出して驚いて見せた。何故なら思わぬ人物が目の前に立っていたのだ。
「な、なんで朧さんがこんな所にいるのでせう!?」
日除けなのか三度傘を被った朧が唐突に現れたのだ。長い付き合いである彼に対して苦手意識はないもののいきなり出てこられるといささか心臓に悪い。
慌てふためく上条に朧は苛立っているように
「それはさっきこちらが言った、貴様こそ何処ほっつき歩いて部屋を留守にしていた」
「いやそれはそのですね……」
「……まあいい、貴様の事だ。下らぬ人助けでもやっていたのであろう」
相手が朧なのであれば詳しいことも全部洗いざらい言えるのだが、まだ見廻組の二人が傍に立っているので迂闊な事は言えない。
それを察してくれたのか朧は呆れたように呟きながら上手く流してくれた。
「とっとと家に戻れ、その顔つきからして寝てもいないのであろう。睡眠をとってしっかりと体力を回復しろ、起きた時にはまた鍛錬を施す」
「え、いやでも保護者が迎えに来るってそこの佐々木とかいう人に言われたのですが……?」
「外で暮らす貴様の父親と母親がそう簡単にこの街に来れるか、少しは洞察力を鍛えろ」
「そうは言われても……」
相変わらず手厳しくわかりにくい言い回しをする朧に上条が困惑していると異三郎が彼に代わって
「こちらが一応あなたの家に連絡した時にこの方が電話に出たんですよ、あなたの事情を話したらすぐに迎えに行くと言って、信女さんの案内でここまでご足労してもらったんです」
「え、それってつまり朧さんが俺の保護者……あながち間違ってないわけでもねぇけど」
確かに一番付き合いの長い大人だが朧が自分の保護者と明記された事は今まで無かった。
不思議な気持ちに駆られる上条に朧がまた不機嫌そうに
「いいからさっさと行け、さもなくばもう一度こやつ等の組織に貴様を預かってもらうぞ」
「いい! それだけはご勘弁を! もうこの人のネチネチ攻撃は勘弁だ!!」
「私は一向に構いませんよ? むしろ溜まったストレスをぶちまける丁度いい人材が欲しかった所ですし。そりゃあもうネチネチネチネチ言いまくりますよ」
「お世話になりました帰ります!!」
異三郎にそう言われると上条はすぐに駆け出して逃げるように家に帰って行った。
残された朧は黙って彼を見つめる。
「貴様、あの者を捕まえて何を聞き出そうとした」
「はて? 私は夜中をうろつく非行少年を連行させただけの善良なお巡りさんですが?」
「戯言を、大方“我等”の動向を探るつもりだったのであろう」
とぼけたように小首を傾げる異三郎に朧は眉をひそめる。
「残念ながらあの者は未だ巣からも飛び出せない程脆弱な“雛鳥”。我等と共に動くことは無い、今はただ巣の中で羽の伸ばし方を習っているだけの存在だ。貴様等が飼い慣らそうとしても無駄な時間を費やすだけだ」
「そうですか、ご親切に忠告ありがとうございます“親鳥さん”」
ボリボリと頬を掻きながらけだるそうにそう呟く異三郎。少々癇に障る言い方をしたが朧は気にせず流す。
すると異三郎の隣に立っていた信女が彼に向かってまっすぐな視線を向ける。
「違う異三郎、二人はただの親鳥や雛鳥じゃない。もっと歪で異なった線で結ばれている」
「……ほう、やはりあなたはあの少年について何か知っているみたいですね、信女さん」
「……」
横目を向けながら尋ねる異三郎だが信女は黙りこくって何も言おうとしない。
そんな彼女に対し朧はどこか警戒するような目つきで
「天に落ちた鴉の貴様に何も言う資格も無い。我等の下から去った貴様があの者と関わる事も許さんぞ」
「関わりたくもないしもう二度と会いたくも無い」
意味深な言葉を混ぜながら警告を促す朧に、信女は無表情でキッパリと答えた。
「“アレ”はもうこの世界にいてはいけない存在だから」
そろそろ外へ出歩く人が増える時間帯になった頃、見廻組の屯所前で信女はそう確信するように若干いつもより強めの口調でそう言い放つのであった。
そしてそれから数十分後。
長い一日を終えてようやく上条は我が家に着いたのであった。
「た、ただいま……」
家のドアを開けてすっかりヘトヘトになった様子で声を振り絞る上条。
ドッと疲れた体を引きずりながらリビングへと向かう。
するとそこには
「……」
「……オティヌス?」
リビングの床の上に横になっている居候のオティヌスを発見。
また夜更かししてそのまま読書中に眠ってしまったのかと上条が近づいたその時。
「う、うう……」
「!」
彼女の苦しそうに呻くような声に反応して上条はすぐ様駆け寄った。
「おい大丈夫か!」
「く……何ということだ、私としたことが……」
「しっかりしろ! 何があったんだ!」
彼女の上体を抱きしめながら顔を近づけて上条が叫ぶと、オティヌスは弱々しくか細い声で……
「もう腹いっぱいだ、何も食えん……」
「……はい?」
「一杯食べ過ぎて動けんし腹も痛い……おのれあの男、よもやこれが狙いだったのか……」
苦しそうに呟く彼女に上条は口をぽかんと開けながらふと彼女の腹を見るとまるで太鼓のようにいい音が出そうなぐらい膨れていた。
「……なにお前、まさかただの食べすぎで?」
「……夜中この部屋に目つきの悪いふてぶてしい男がやってきてな」
「朧さんか?」
上条の肩に腕を回してベッドの方へ運ばれながら、オティヌスは事の経緯を話し始める。
「お前がいない事と私が何も食べていない事を察して料理し始めたんだ……あの見た目で麻婆豆腐作っていたのは意外だった」
「ああ、そういう事か……」
「刀捌きは見事だったぞ……味も良くてつい食べ過ぎてしまい……」
「いやまあわかるっちゃわかるけど、いくらなんでも食べ過ぎだろ、少しは俺に残すとか考えなかったのかよ……」
帽子とマントを脱がせてベッドに横にさせながら上条はしかめっ面を彼女に向けた。
「そりゃ美味いのはわかるけどさ、胃袋の限界が来るまで食べちゃだめだろ、なんかお前妊婦さんみたいになってるぞ」
「お前は食った事あるのか、あんな美味いのを前にして我慢なんて出来る訳無いだろうが……」
「お前よりずっと昔から知ってるよそんな事。そもそも俺に料理教えたのあの人だし」
意外な事をポツリと呟く上条に横になりながらオティヌスは期待するように顔を上げる。
「じゃあお前もあの美味なる食事を再現できるのか……?」
「いやあそこまではいかねぇけど、人前に出しても恥ずかしくない程度のもんなら普通に出せると自負してますよ」
「そうか……」
腕を組みながらそう言い切る上条。オティヌスは眠気が襲ったのか左目をこすりながら欠伸をすると目を瞑る。
「じゃあ次に起きたら作ってくれ、次はカレーだ……」
「まだ食べ足りねぇのかよ! カレーって簡単そうに見えて実は奥が深くて作るのに時間がって寝やがったコイツ…!」
リクエストだけ終えるとオティヌスは寝息を立てて瞬く間に眠りに入ってしまった。
置き去りにされた上条ははぁ~と深くため息を突くと彼女の隣にゴロンと横になる。
本来なら女の子と一緒のベッドで寝る事などあってはならない事なのだが、疲れきった上条はそんな事で寝るのに躊躇するのも煩わしいとオティヌスと同じベッドで眠りに着いた。
「起きたら朧さんが鍛錬をやるとか言ってたけど……出来ればまたメシ作ってくれねぇかな……」
そんな事を呟きながら上条は目を瞑るとあっという間に寝入ってしまうのであった。
「先生、これは一体なんですか」
ロウソクの光のみで照らされたとある厨房で、一人の少年が“彼”に尋ねた。
彼はグツグツと煮えたぎる釜戸から目を逸らすと優しく答える。
「料理です、初めてやってみた割には我ながらよく出来たと自負しているのですが」
「先生質問を変えます、この皿の上にドロドロした黒色の液体の中で更に黒くて四角い物体がいくつも浮いているように見えるこれらを総称するとどんな名前になるのですか」
「松崎しげる風麻婆豆腐です」
「松崎しげるって誰ですか先生」
少年が両手に持つ皿の上にある怪しげな物体を笑顔で断言する彼に少年は即ツッコミを入れる。
「なんでいきなり料理なんかを始めようと思ったのですか」
「ただの気まぐれとも言えますが、ちょっと試しにやってみたい事があったので」
釜戸の蓋から泡が吹き出しそうになっている中、彼はそんな事を言った。
「この手を血に染める以外に出来る事は無いかなと」
「……」
「でもやはり私には無理だったようだ、やはり私には人を殺める手しか持っていないらしい」
寂しそうに呟く彼を見て、少年はしばし黙りこくると彼の作り出した失敗料理を卓の上に置いて隣に立った。
「なればこれからは私が料理を作ってみようと思います。そして勉強した成果で先生に料理の手習いを教えます」
「ほう、あなたが私に教えを教授すると?」
「弟子が師に教えを説くのは無礼も承知ですが、これ以上先生一人に料理を作らせたら松崎しげるが増加の一途を辿るだけでしょう」
要するに彼がどれだけやっても失敗するのが目に見えてるからこっちでしっかりと料理とやらの学を勉強してそれを彼に教えようというのが少年の魂胆だった。
「いつか先生の血で汚れた手を私が油やら包丁の切り傷やらで一杯にしてみましょう」
「フフ、それは困った、そんな手になってしまったら人殺しも出来そうにありませんね。では小さなお師匠さん、私に是非教えてください」
小馬鹿にするわけでなく本当に何かを期待してるかのように彼は笑うと、釜戸の蓋を開けて中を覗き込みながら少年に尋ねた。
「白米炊こうとしたら松崎しげる米になってしまったんですけど、何がいけなかったんでしょうか?」
「……もしかして先生、料理というものは何でもかんでも焼けばいいと思ってませんか?」
「違うんですか?」
「全然違います」
釜の下に彼がこれでもかと突っ込んだ薪のおかげで、勢い良く燃え盛っている炎を眺めながら少年はまたツッコミを入れるのであった。
眠りに入ってから数時間後、上条は重たい瞼をこじ開けて目を覚ました。
「……変な夢」
「起きたか」
目を開けた先にはいつもの無愛想な顔で突っ立っている朧の姿があった。
上体を起こしながら上条はぼんやりとした顔で髪を掻き毟る。
「……コイツが家にいることに動じないどころか料理作ってあげたんだってな。礼言っておくよ」
「貴様が誰と共に住もうが興味ない、料理を作ったのもただの気まぐれだ」
短く、そして冷たく言い放つ朧に上条はまだ寝ているオティヌスを起こさぬようにしながらフッと笑う。
「そこのテーブルに置かれている麻婆豆腐もただの気まぐれでアンタが作ったの?」
「貴様の事だ、鍛錬の前に食事を取らなければ満足に動けんと言い訳するに決まっている」
小さなちゃぶ台の上には彼が作ったと思われる麻婆豆腐がご丁寧にラッピングされた状態で置かれていた。
ベッドから立ち上がる上条に朧は機嫌悪そうに命令する
「さっさと食え、今日は貴様に人体に眠る経絡の流れを体で覚えてもらうのだからな」
「うへぇ、よりにもよって俺が一番苦手にしてる事じゃん……」
「苦手だと頭の中で思い込んでいるから何時まで経ってもモノに出来んのだ」
呻くように呟きながら彼の作った麻婆豆腐にスプーンを伸ばす上条。
そんな彼に相変わらず手厳しい態度を朧がとっていると、ふと上条は彼の顔を見上げる。
「……何だ人の顔を覗き込むように」
「いやちょっとさっき夢で変な大人と子供が出てきたんですけど、それの子供が朧さんに面影が似てたような気がして……」
「……夢か」
何気ない彼の一言に朧はこちらに背を向けて顎に手を当て考え始めた後ポツリと。
「……くだらぬな」
「ですよねー……」
当たり前といえば当たり前の感想を呟く朧に同意しながら上条はスプーンをまた動かし始めた。
「そういや朧さんに最初に教わった料理って麻婆豆腐だったっけ?」
「そんな昔の事覚えているか」
「いやいや上条さんはちゃんと覚えてますよー」
「そんな事覚える前に経絡の流れを覚えろ」
「俺がまだ小学生の時に教えてもらったんだけど確か」
朧の曖昧な返事をものともせずに上条はスプーンの上に浮かぶ豆腐を眺めながら昔のことを思い出した。
「焼きすぎて見事に全部真っ黒にさせちまったんだよなぁ、黒い豆腐とか初めて見たぜホント」
外はすっかり夕焼けとなった部屋の中で上条当麻は過去の出来事を掘り返しながらどこか懐かしむように呟いた。
それを聞いてもなお
朧はただ無言で何も聞いてなかったように背を向けるのであった。
おまけ
教えて銀八先生のコーナー
「はい、ハンドルネーム「八条」さんからの質問」
『ステイルもジャンプが好きのようですが好きなジャンプ作品は何ですか?』
「ワンピースです、好きなキャラはエースだとか。彼が死んだ時は泣き過ぎて当分仕事に参加出来なかったらしいです」
「えーそれでは解散」