禁魂。   作:カイバーマン。

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第五十八訓 固く結ばれた友情の裏で起こる悲劇

 

深夜、人気の来ない薄暗いトンネルの中でバッシャァァン!とバケツに注がれた水を何かに浴びせる音が聞こえた。

しかしそれを聞いても誰も気にしないであろう。

ステイル=マグヌスの張った人払いが発動している限り、ここで何が起きようが人々は近寄る事は無い。

 

例え神父の格好をした2メートル近い長身を持つ赤髪の男がトンネルの中で足元を紐で上に括り付けられて逆さ吊りになっている状態で、なおかつ定期的にその者の顔にバケツの水を浴びせるツンツン頭の少年がいる事も気付かず通り過ぎていくであろう。

 

「ほらとっとと吐きなさい、上条さんも鬼じゃありません事よ」

「ぶへ! ぶへ! いやもう完全に鬼だろ! ていうかなんでそんな拷問手馴れてるんだお前!」

「いい加減さっさと自分が何者か吐かねぇとケツの穴に針刺すぞー」

「止めろぉぉぉぉぉ!! そんな長い針突き刺されたら一生フワフワのクッション敷かないと座れない人になっちゃうだろ! わかった言う! もう全部言うから! フワフワライフだけはイヤだ!!」

 

トンネルの中で妖しく光らせた長針を取り出す上条当麻に逆さ吊りのステイルがジタバタともがき始めると

 

彼のローブの下からポロリと一冊の本が落ちた。

 

「ん?」

「あぁぁぁぁぁぁ!! それは止めろ! そいつには手を出さないでくれ! 一緒に来た仲間の事も全部話すからそれだけは頼むから何もしないでくれぇぇぇ!!」

 

たかが一冊の本で激しく取り乱して左右に揺れまくるステイル。上条はその本をふと手に取って表に裏返すとそこには

 

『少年ジャンプ』

 

 

 

 

 

 

 

一方それから数十分後の事、坂本辰馬は神裂火織と共にかぶき町を抜けて第七学区に来ていた。

 

「うーむやはり古き時代を彷彿させるかぶき町も捨てがたいが、古いモンを捨て去り未来の科学をそのまま形にしたようなこの辺もわしは好きじゃのぉ」

「私はどちらもあまり好きではありませんが、最近の電化製品でさえよくわからないのにこの街の物は異次元です」

「なんぜよねーちん、もしかしてまだ電子レンジもまともに扱えないのかにゃー? 花嫁修業もせにゃあならんのに」

「馬鹿にしてるんですか土御門、あれぐらいならもうとっくの昔に克服してます、説明書が付いていれば解凍まで完璧です」

 

坂本と一緒について来た土御門に神裂はイラッとした感じで反論するとふと気になった事を彼に尋ねる。

 

「そういえばあなた達と一緒に行動していたあのメガネの少年は?」

「ああ、流石にこの時間まで付き合わせるのは悪いと思って家に帰したんだぜぃ」

「……今更ですが何故にあの少年はあなた達と行動を?」

「元々かぶき町を案内してもらう為だけに付き合ってもらってたのに、誰かさんが追いかけ回すから成り行きで協力してもらってたんだにゃー」

「……彼には悪い事しましたね」

「まあ少しは俺達の事情も理解したようだし、今後も会う事あると思うからそん時に謝ればいいんだぜぃ」

「なんで彼を巻き込んだ張本人が上から目線なんですか……」

 

グッと親指立ててそう言う土御門に更に神裂はイラッと来るもそこはなんと抑える。

もうそろそろ”ある場所”に着くのだから

 

「……所で先程連絡があったステイルとの待ち合わせ場所はこの辺りの筈ですが」

「おおそうか、思えばあのニィちゃんとも合うのは久しぶりじゃのぉ、会う度に何度火ぃ付けられそうになったか! アハハハハ!」

「彼は甘くはありませんよ」

 

久しぶりに会えると聞いて上機嫌で笑っている坂本に神裂が真面目な様子で忠告する。

 

「私はあなたの遊びに付き合うぐらいの甘さは持ち合わせていましたがあの男は甘さなどとっくの昔に捨てています。あなたと再会した途端全力で殺しにかかるのは必定でしょう、仮に話す機会が出来たとしてもイギリス清教を買うなどというあなたのふざけた戯言を聞けば同じ結果になるのは目に見えています」

「まあ成るように成るじゃろ、またおまんとこうして肩並べて歩けたんじゃ。やり方違ぇどわしとアイツは同じモンを護ろうとしちょる同士じゃきん、話せばきっとわかってくれるとわしは信じちょる」

「無駄だと思いますがね、言っておきますがステイルがあなたを殺そうとしても私は止めはしませんから」

 

目的の為なら躊躇なく人を殺せる。ステイル=マグヌスとはそういう男である。

彼等が話してる一方で、土御門は自分の携帯を眺めながら小難しい表情を浮かべる。

 

「おかしいな、さっきからカミやんと連絡が取れない、青ピも取れないけどこっちはどうでもいいか」

「その者もあなた達の協力者かなんかですか」

「ああそうだぜぃ、どうしたねーちん」

「いえ、もしあなた達と協力しているとステイルがわかったらその者の命を狙うかもしれないと思ったので、なにぶん目的の為なら手段を選ばない男ですから」

「……そうなってない事を祈っておくんだぜぃ」

 

心配そうにしながらも土御門は自分の二つ折りの携帯をパカッと閉じると、丁度そのステイルとの待ち合わせ場所にしたよく行く公園に辿り着いた。

 

するとそこにいたのは

 

「いやーやっぱ決められねぇよな~」

「まあ難しいよね、その気持ちはわかる、すごくわかるよ、うん」

 

公園のベンチに座り込んで何やら話をしている二つの人影

一つはデカく、もう一つはツンツン頭……

 

「あ~ダメだステイル! やっぱジョジョの奇妙な冒険の中で好きなスタンド一つ決めるのは出来ねぇって! どれもこれも魅力高すぎて選べねぇ!」

「いやわかるよ上条当麻! コレは読者が誰もが疑問に思う事だから! これも主役から脇役まで惜しみなく魅力的なスタンドを描いてしまう荒木先生の素晴らしさゆえだね!」

「マジパねぇよ荒木先生! 一体どんな体験してればあんなすげぇキャラとストーリー思いつけるんだよ!」

「全くあの方の発想力には脱帽だよ! 年を取ってもなお進化の歩みを止めずに追ってくる後輩の漫画家達を全く寄せつけないとか恐ろしいにも程がある!」

「本当そうだよな、それにしてもまさかこんなに俺と熱くジョジョで語ってくれる奴と巡り合えるなんて夢にも思わなかったぜステイル!」

「僕もだよ上条当麻! なんならこれから日が昇るまで語ろうか!」

「仕方ありませんなーじゃあ1部から好きなシーンを互いに言い合って止まったら負けってのは?」

「フフフ、お約束だね! 言っとくがが負けないよ僕は!」

「望む所だ! 上条さんのジョジョラーっぷりをたっぷり披露してやりますよ!!」

 

こんな真夜中に漫画の話で異常なほど盛り上がっている上条当麻とステイル=マグヌスであった。

神裂と土御門はそれを見てしばし固まると

 

「「え……どういう事?」」

 

頭に浮かぶ数々の疑問の結果放たれた言葉を見事にハモらせる二人であった。

 

 

 

 

 

そしてそれから数分後。

新たに加わった2人と共に、魔術サイドのイギリス清教代表二人神裂火織とステイル=マグヌス。快援隊艦長、坂本辰馬、補佐役土御門元春の会談が始まった

 

「ステイル、連絡した内容通り坂本辰馬を連れてきました」

「え、ああうん」

「アハハハハ! まこと久しぶりじゃのうニィちゃん! また背ぇ伸びたんじゃなか!?」

「さあ、最近測ってないからよくわからないな」

「なあステイル、俺とも久しぶりだな」

「土御門か、相変わらずフラフラやってるみたいだね」

 

言っておくがこれはイギリス清教の未来とある少女の行く末を決める為の大事な話をする場所である。

だがステイルは話しかけられてもどうでもよさそうに適当に返事した後、隣に振り返って

 

「ああそれでさっきの続きなんだけど! 街中で吸血鬼化した酔っ払いにディオが殺されかける所とか結構ツボにはまってんだよね僕!」

「お前ホントいいチョイスしてくるなー! まさかここでディオ死んじゃうの!?って読者もビックリの超展開だったしなあそこは! 昇る朝日を見ながら「最後に見るのがあの太陽だなんてイヤだー!」ってディオが叫んで!」

「そこで朝日が昇って灰燼と化す吸血鬼!」

「九死に一生を得たディオは石仮面の謎を解く!」

「その後忘れもしないあの名シーンに繋がるんだからね、あの辺の下りはホント好きなんだ僕」

「わかるわかる上条さん超わかります。ジョジョが毒薬の証拠を掴んだじゃないかと焦って酒に溺れるディオもどこか人間らしくてまた……」

 

家に戻らずちゃっかり座っている上条に上機嫌で熱く語り始めた。それに対して上条も興奮した面持ちで語り合うので、さすがに神裂が二人の間に入り

 

「いい加減にしなさいあなた達!」

 

当然ではあるが怒った。

 

「ステイル! 誰なんですかその少年は!」

「あ、ちょっとうるさいから黙っててくんない?」

「なあステイル、誰だこの際どい格好したおねえさんは?」

「一応同僚だよ、金が無いからいつもあんなみずぼらしい格好してるんだ」

「ぶっ殺しますよステイル!!」

 

物凄い投げやりな紹介するステイルに腰に差した刀を手を置こうとする神裂に土御門がすぐにフォローに入る。

 

「落ち着けねーちん、ありゃあ俺のダチのカミやんこと上条当麻だ。さっき話しただろうぃ」

「なんであなたのご友人がステイルとあんな仲良くしているんですか! 長い付き合いの私でもあんなきさくに話しかけられたことないですよ!」

「いやさすがに俺もそこまではわからんにゃー……ただカミやんはどうもおかしな奴と仲良くなりやすい体質みたいで……」

「それはあなたを見ればすぐに納得できますが……」

 

土御門を見ながらそう言うと神裂は再び上条達の方へ

 

「上条当麻、というらしいですね、私はステイルと同じ組織で働く神裂火織と申します」

「ん? ああどうも」

「あなたはどうしてステイルとそんなに親しくなられたんですか?」

「どうって言われてもな……」

 

急な尋ねに上条はアゴに手を当てながらゆっくり思い出す様に

 

「まあ最初はちょっと前に初めて会った時に殺し合いから始まって」

「殺し合いしたんですか!?」

「そんで俺が勝って」

「ステイルが負けたんですか!?」

「カミやんが勝ったのか!?」

「それで俺が情報聞き出そうと拷問している時にステイルの懐から大事に持っていたジャンプが出て来て……」

 

驚いている神裂と土御門を尻目に、言葉を区切ると上条はステイルの肩をポンと叩き

 

「な!」

「ああ!」

「いやこっちは意味わからないんですけど!? なんですかそのアイコンタクトは!」

「ていうかさり気なくカミやんがステイルを拷問したとかとんでもない事口走ったような……」

 

既に目と目を合わせるだけでわかり合うという境地に達している上条とステイルに神裂はツッコミを入れると再度尋ねて

 

「どうしてそうなったかちゃんと説明してください!」

「だからさぁ、ステイルがジャンプ持ってたからひょっとしてジャンプ好きなのかな~と思って興味持ったんですよ上条さんが」

「そっから僕等は意気投合して今に至るわけだ。イギリス清教において少年ジャンプは聖書! 日頃から毎日欠かさず持っていたおかげで僕等は敵同士から親友、否、心の友と書いて心友となったのさ! そうだね心の友よ!」

「おうとも心友!」

「すみません土御門、彼等は何を言っているんですか……」

「いやまあ……敵対するよりはいいと思うぜよ……」

 

二人で互いの肩に腕を回して熱い友情を確認し合う上条とステイルを神裂と土御門が呆然と見つめる中、後ろから坂本がゲラゲラ笑いながら歩み寄って

 

「ダハハハハ!! まさかこないな事になっちょるとは予想外じゃ! 全く世の中どうなるかわからんのぉ! よもやとんまが年中思春期こじらせとるニィちゃんをこうも容易く落とすたぁ! アハハハハハ!!!」

「あなたはいつも楽しそうでいいですね、見てるこっちはムカつきますが」

 

深く考えない坂本は神裂に呆れられながらも嬉しそうに笑い飛ばすと、ベンチに座るステイルに話しかける。

 

「ようニィちゃん、そんでわしがおまん等の所のイギリス清教を買い取りたいって事なんじゃけど」

「ああ、神裂から聞いたよ。正気か? イギリス清教を買うというのはイギリスという国の三分の一を買うようなものだよ? そんな莫大な金がお前の様な詐欺師の何処にある?」

 

一応その辺は聞いていたのか、ステイルは先程の上条と話す時とは打って変わって殺意さえ感じる程睨み付けながら坂本に答えた。

 

「そもそもイギリス清教の指導者である最大主教がそんな事を許すはずもない、死ぬより酷い目に遭いたくなかったら諦めろ、そうすれば今ここで僕がお前を殺してやる」

「わしは諦める気もあらんしおまんに殺される気もなか、今のままじゃ確かに買う事は出来んが近い内に必ず成し遂げると約束するきん」

「フン、ジャンプもまともに読んでなさそうな奴にイギリス清教を任せられるか」

「ん? なんでそこでジャンプが出て来るんじゃ?」

 

疑問に思い小首を傾げる坂本にステイルは懐からスッとジャンプを取り出す。

 

「僕等イギリス清教にとってジャンプは神から頂いた産物と称しても過言ではない。故にイギリス清教に命令できる立場になりたいのであれば、それ相応の神の知識を持たなければならないという事だ」

「ほほう、なんか知らんがそれでええのかの宗教として……」

「当然だ、ウチの国は王族であろうとみんなジャンプ派だ。だが実の所、僕自身最大主教にはその辺について不満がある」

 

不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ステイルは募りに募った不満を吐くかのように目を見開いて

 

「あの女、過去の名作作品や今もなお輝く作品たちを差し置いて! よりにもよってギンタマンこそが最高の漫画だと称しているんだ!」

「なんだと! それは本当かステイル!!」

 

彼の叫びにいち早く反応したのは坂本ではなく上条だった。しかし坂本の方はイマイチピンと来ていない様子で神裂と土御門の方へ振り向いて

 

「なぁネェちゃんに土御門、ギンタマンってなんじゃ?」

「ジャンプで連載されてる漫画ですよ、私は生理的に嫌いなので読みませんが」

「俺は別に嫌いじゃないがにゃー。なーんか一部の読者からはカルト的な人気を持つ作品だとは聞いたぜぃ」

 

二人が坂本に説明している中でステイルは上条に訴えかけるように叫んでいた。

 

「あんな作品が一番の漫画だと思ってるなんて正気じゃない! ギンタマンは僕ら少年の心を穢すジャンプにある事自体あってはならない作品の筈だ! なのにあの女……! 自分はおろか僕等にまでギンタマンに貢献しろとまで言う始末……!!」

「ひでぇ女だな、お前の様な純粋なジャンプファンにそんな事を押し付けるなんて間違っている。俺もギンタマンはジャンプにあってはいけないものだと思っている、よしちょっとイギリス行ってその女殴って来る」

「待ってくれ友よ! さすがにそんな隣の町に行く感覚で行ける訳ないだろ! それにあの女は手強い! だからこそ僕等は従うしかないんだ!」

「だからこそぶん殴ってた正さなきゃならねぇんだよ!!」

 

彼の話を聞いて上条はますます燃えて右手の拳を掲げる。

 

「その女が心友であるお前の首根っこ掴んでねじ伏せて! ギンタマンを一番面白いと強要してくるって聞いたら黙ってる訳にはいかねぇ! まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」

「上条! 君はなんて勇敢なんだ! こんな僕の為にそこまで思ってくれるなんて!」

 

過去の伝説ともなった偉大なる作品を差し置いてギンタマンなどというふざけたギャグ漫画を一位にするなど生粋のジャンプファンである上条には許しがたい行いであった。

 

そんな彼に感激しながらステイルは悔しそうに両手で頭を抱え込み

 

「く! しかし今の僕等ではまだまだあの女に勝てない! あの女は狡猾で冷徹で残忍で智謀に長けて! そしてアホでケチで人前でよだれたらして寝たり部屋の掃除もロクに出来きずにゴミ屋敷になるぐらいだらしない女なんだ!」

「後半ただの悪口じゃん」

 

イギリス清教の実質トップである最大主教の恐ろしさとだらしなさを語りながら、ステイルはふと心に思った事をボソッと呟く上条。

 

「もし君があの女を蹴落として最大主教の地位に君臨すれば僕は喜んでそれを受け入れるというのに……」

 

彼がうっかり呟いた一言に坂本がピクリと動いた、それを見て土御門もギクリと嫌な予感を覚える。

 

「ほほう、わしではなくそこのとんまなら組織を任せられると言うんじゃな?」

「お、おい坂もっさん……まさか」

「ならば!」

 

不安そうな土御門をよそに坂本はビシッと上条を指差し

 

「ならばわしがおまん等の組織を買い取ったら! そのトップはとんまに!ぶふぅぅ!!」

「出来る訳ないでしょうが!!」

 

限度を超えるにも程がある、あまりにもバカげた提案を試みる坂本の頭を殴る神裂。

 

「たかがジャンプに詳しいだけの少年を血生臭く殺伐とした組織の頂に立たせるなど正気ですかあなたは……!」

「いやだからぁ、そういう物騒なイメージを払拭させて真っ当な組織に変えてやろうと思ってじゃな……」

「仮にそうであったとしても、会ったばかりの少年に一つの組織の命運を託すなど私が許しません」

「いやぁここはさすがにねーちんの言う通りだぜ坂もっさん。さすがにそりゃダメだ、カミやんをこっちの世界に連れ込むのはマズイ」

 

神裂と土御門の言う通りであった。組織の頂点に宗教の事をおろか魔術さえロクに知らなさそうな少年に任せるとかあまりにもバカげたアイディアだ。

しかし当の上条はそれを聞いて

 

「ほほう、てことは俺がイギリス清教のトップになれば世界中にジャンプを布教出来るという訳ですな」

「なに満更でもない顔してるんですかあなたは! ダメに決まってるでしょそんな事!」

「坂もっさんと同じレベルのアホがここにもいたぜぃ……」

 

不敵な笑みを浮かべていっちょやってやろうかという感じを出す上条。

するとステイルがすぐに身を乗り出し

 

「君が僕等の組織のトップになるとか最高じゃないか!  よし、なら僕は坂本の案に乗ってあげよう! 共にあの女を倒してイギリスをジャンプで笑顔にしよう!」

「ハッハッハ、ギンタマン信者の女なんて上条さんにかかればイチコロですよ、速攻ジャン魂ロンパで沈めてやる」

「何を言っているんですかステイル! そんな事許されるはずがないでしょ! こんな少年にイギリス清教の未来を託すというのですか!」

 

上条をイギリス三大組織の一角の玉座に座らせようと俄然ノリ気な態度で興奮しているステイルにすかさず異議を唱える神裂だが、そんな彼女に上条はしかめっ面を浮かべ。

 

「なあ心の友よ、なんでこのおねぇさんはさっきからずっと俺が最大主教になる事を反対しているんだ?」

「それはね心の友よ、この女はイギリス清教で許してはならない大罪を犯しているからなんだ。君がトップになれその行いが全て明るみになってしまうから必死なんだよ彼女も」

「何を根拠に言ってるんですか、そろそろキレますよこっちも……」

「はん! この僕が気付かないとでも思ったのか神裂!」

 

そろそろ神裂のイライラが限界点を超えそうな時、ステイルはドヤ顔で彼女に指を突き付ける。

 

「お前はイギリス清教でありながら隠れてマガジンを読んでいる事などとっくにお見通しだぞ!!」

「な!」

「本当かステイル!」

「ああバッチリ見たよ、神の下に身を寄せていながらなんたる大罪だ、恥を知れ」

「そ、そこまで言われる筋合いはありませんよ!」

 

地面に向かって唾を吐きながら軽蔑の眼差しを向けて来るステイルに神裂はしどろもどろになりながら

 

「天草式ではマガジンを読む事が主流なんですよ! 人が読む雑誌にケチつけなくてもいいじゃないですか!! いいじゃないですかマガジン! 名作もいっぱいありますよ!」

「上条、こんな事言ってるけどどうする?」

「こんな二股女は俺のイギリス清教には必要ないな。俺が最大主教になった暁には即刻磔にして火あぶりにしてやる」

「なに既にイギリス清教の君主になったつもりになってるんですかあなたは!! 入れませんからね絶対!」

「まずはイギリス中にある漫画系列を全てジャンプ一色にする為に焚書する必要があるな」

「ならば僕に任せてくれ、マガジンもサンデーもチャンピオンも神裂も僕が全て灰にしてやる」

「おう上等だやって見ろゴラァァァァ!!! その前にテメェ等まとめてこの場で刺身にしてやらぁぁぁぁぁ!!!」

「ねーちん口調がまたヤバくなってる、大丈夫だって、カミやんがイギリス清教に入る訳ないだろうぃ」

 

もはや彼女のキレた口調もすっかり聞き慣れた感じがするが、土御門がなぁなぁで彼女に冷静になるよう諭す。

 

「落ち着いて冷静になるぜよ、とりあえずねーちんがイギリス清教で変えてもらいたい事ってなんだ?」

「ハァ、ハァ……そんなの決まってるでしょう、あの子の自由です」

「ならそれを第一目標として、今後どうするか考えようぜい。イギリス清教の買取云々はその後だ。坂もっさんもそれでいいだろ」

「おうそうじゃの、確かに目標がズレておったわ。大事なのは嬢ちゃん救う事、まずそっからじゃき」

 

土御門が仲介役として円滑に話をまとめる。暴走気味だった坂本も彼の意見を聞いて納得した様子、神裂も少々腑に落ちない顔をしているが静かに頷き

 

「わかりました、彼をこの場で斬り捨てる事も出来ますがそれではあの子も悲しむでしょう、ここは一旦刀を鞘に収めます。ステイルはどうですか」

「ふむ、まあ確かにあの子が幸せになってくれるなら僕はそれで満足だ。けど一ついいかな?」

 

一応話を聞いてくれていたステイルが手を少し上げて坂本の方へ顔を上げる。

 

「彼女をここに連れて来てくれないか? 僕等がこうして語り合うよりもまず彼女自身の意見を聞かなければ何も始まらない」

「へ?」

「そういえばそうでしたね、坂本辰馬。今すぐ彼女を読んで来て下さい。学園都市の宿にでも置いて匿っているんでしょうがもう隠す必要はありませんよ」

「あれ? ひょっとしておまん等……気付いとらんかったんか?」

「「……え?」」

 

若干口ごもらせながら坂本は頬を引きつらせながら後頭部を掻く。

どうにも雲行きの怪しいと神裂とステイルがそんな彼を見つめると

 

「実はのぉ、二日前にここに来てからわし、嬢ちゃんとはぐれてしもうたんじゃ。じゃから土御門やとんま達と一緒にああしてかぶき町やいろんな場所歩き回っていたんじゃきん」

「「……」」

「でもまあ心配しなくてもよか! あのゴキブリ並の生命力の嬢ちゃんならきっと今頃元気にやっているじゃろうて! それにこれからはおまん等と一緒に探せるしきっとすぐ会えるじゃろ!! アハハハハハ!!!」

 

最後はまたいつもの笑い声でシメて事の経緯を話し終えた坂本。

そんな彼にまず神裂の方が動いた。

 

「Salvare000……!」

「え、ネェちゃん今なんて……っていやいやちょっと待つんじゃ! なんで刀の柄に手を!? わし等は今を持って戦わんと言うとっておったじゃろぉ!」

 

彼女が呟いたのは前に上条と戦う時にステイルが名乗っていた魔法名だ。

魔術を使う時、または相手を殺す時に用いる名……

慌てて後ずさりする坂本に神裂は目を細めてしっかりと獲物を逃がさずに仕留めに入る狩人の目をしていた。

 

「みすみすあの子を野放しにて遊び呆けていたクセにまだその約束が有効だと本気で思ってるんですか……? ステイル、少し場所を変えましょう、この男には天罰を与えなければいけないようです」

「いいだろう、死体を隠しやすい所にでも連れて行くか」

「えぇぇぇぇぇぇ!? わしひょっとして殺されるんかぁ!?」

 

命の危機を感じて逃げ出そうとする坂本だが、いつの間にか彼の背後に回っていた神裂が彼女の後襟を振り払えないくらい強く掴む。

 

「では行きましょうか坂本辰馬、私達とゆっくりお話する為に……」

「アハハハハ! 別にお話ならここでもええんじゃないかのぉ~!? ちょ! 引きずってわしを一体どこに連れて行くんじゃ!! ネェちゃんストップ! わしが悪かった! 悪かったから命だけは勘弁してくれぃ!!」

 

往生際の悪い坂本をズルズルと引きずっていく神裂。そしてステイルの方はクルリと踵を返して上条の下へ

 

「じゃあ僕等はちょっとあの男に用があるから、ちゃんと始末したらまた共にジャンプについて熱く語り合おう異国の友よ」

「ああ、出来れば坂本さんは半殺しぐらいにして欲しいんだけど」

「じゃあミディアムぐらいに焼いておくよ、それじゃあ」

 

最後に上条と握手し終えるとステイルは神裂達の後を追った。

 

残された上条はふと土御門の方へ顔を上げる。

 

「坂本さん死ぬんじゃね?」

「それはそれで自業自得だが、まあ病院行きは確定だな、ハッハッハ」

「お前も軽いな、付き合い長いんだろ坂本さんとは」

「まあな、だからといってあの人を甘やかすつもりはないぜよ」

 

ヘラヘラ笑いながら連行されていく坂本を眺めながら土御門は呟く。

 

「あの人があんなアホだから、こっちはこっちで退屈せずに済むんだからな」

「で、そのアホさのせいで坂本さんは死の危機を迎えていると」

「ま、死なれるとこっちもせっかくの退屈しのぎが出来なくなっちまう」

 

そう言いながら土御門は神裂達の方へ歩み始め

 

「だからちょっくら交渉してくる、せめて殺す1歩手前にしてくれってな」

「……なんだかんだで甘いじゃねぇかお前」

「アハハハハ! じゃあなカミやん!」

 

ジト目で上条がツッコむと、土御門は坂本みたいにヘラヘラ笑いながら行ってしまった。

残された上条はふと傍の柱の上に設置された時計を見る。

 

午前2時過ぎ……さすがに学生が出歩く時間帯ではない。

 

「やっべ、俺もそろそろ帰らねぇと、オティヌスを朝からずっと家に放置したまんまだし」

 

家にいる居候を思い出してすぐに帰ろうとベンチから立ち上がる上条。しかしそんな彼に眩しい光が照らされる

 

「もしもし、こんな時間に何をやっておられるのですか?」

「え?」

 

上条が振り向くと、そこにはこちらを懐中電灯で照らしながら立っている男がいた。

頬は痩せこけて片眼を掛けた無表情の男、服装はどこか真撰組を彷彿させる制服を着ているがこちらは黒ではなく白。

 

「こんな時間に子供が出歩いてはいけませんよ。それに服装も汚れている所から察するに、誰かと喧嘩でもしたんですか?」

「いやいやそんな訳では……すみませんすぐに家帰るんで」

「……待ちなさい」

 

何か色々と状況がマズイ気がする、そう察した上条はそそくさと逃げようとするのだが男は感情のない声で呼び止める。

 

「失礼ですが同行願いますかね? あなたがどうも怪しいと私のエリートの勘が言っているので、朝頃には家に帰してあげますからちょっとこっちでお話聞かせてもらえますか?」

「はい!?」

「申し遅れました、私は最近この街で働く事になった警察組織、”見廻組”の局長をやらせてもらっている」

 

いきなりついて来いと言われていかにも怪しい事やってましたと言う風に慌て始める上条をよそに男はカチッと懐中電灯を切ると律儀に会釈して。

 

「佐々木異三郎と申します」

 

 

 

 

 

一難去ってまた一難、どうやら上条はまだ家には帰れないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、家主のいない上条の部屋では

 

「腹減ったな」

 

夕方頃に起きてロクに飯も食べていない状況で、オティヌスはまた夜更かしして上条が買った漫画でほぼ埋まっている本棚にもたれながら読書していた。

 

「この漫画は訳が分からないのに面白いな、鼻毛とは極めればこんなにも伸びるものなのか」

 

淡々と独り言を呟きながらオティヌスが読書にふけっていると、玄関からカチャリとドアの開く音。

 

「む? 奴か?」

 

漫画から一旦顔を上げて玄関の方へ片目を向けるオティヌス。

 

「……」

 

しかし何かおかしいとすぐに感じ取った。何かドアの向こう側には人ではない別の何かがいる様なそんな気配……不穏な匂いにオティヌスはジッとドアを開けた者が何者なのか見つめていると

 

白髪の鋭い眼光を光らせた僧のような恰好をした男が手に錫杖を持って現れたのである。

 

「……誰だお前は」

 

漫画を置いてすぐに立ち上がり対峙するオティヌス。すると男はそんな彼女を睨むように目を細めると

 

 

 

 

 

「朧」

 

男、朧は冷たくそう言い放つと、玄関からゆっくりと入りオティヌスに近づく。

 

「構えるな、すぐに終わる」

 

そう言うと朧は手に持った錫杖からカチリと音を鳴らすと

 

仕込んでいた長い刀を彼女に見せる。

 

「我らの刃、”再び”その身で実感するがいい」

「!」

 

オティヌスが考えるより早く、朧は鋭く尖った刃を光らせ動いた。

 

深夜、部屋の中で刃物で何かを貫いたような生々しい音が聞こえたが、既に眠っている周りの住人の中でそれを聞く者は誰一人いなかったのであった。

 

 

 

 

 

教えて銀八先生

 

「はい、それではお便り来てるんでお答えしまーす、ハンドルネーム「八条」さんからの質問」

 

『心理定規はすまいるので営業時間中はどのようにして接客業をしているのですか?』

 

「彼女は基本気まぐれで次から次へと色んな場所を転々としますが接客に関してはプロらしくしっかりしてます、ナンバー1とも言われるだけあって相手からたくさんの金搾り取れる才能も持ち合わせているので天職です」

 

「ただ指名料は他のキャバ嬢と違ってべらぼうに高いんで今の所はどこぞでナンバー2として働いているホストとか全ての警察組織の頂点に立つおっさんとか金一杯持ってる人じゃないと無理ですからご注意を」

 

「それと彼女が個人的に気に入ったお客さんに関しては長くいてくれる事があります」

 

「ちなみに銀さんが娘っ子連れて店行くと毎回と言っていい程やってきます、そん時はいつも相手が何を言おうと安酒で済ませますよ、こちとら安月給なんだよ、ドンペリなんざ小娘に呑ませるか」

 

「という事で授業終わりー」

 


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