禁魂。   作:カイバーマン。

56 / 68
第五十六訓 おいでませかぶき町

夜のかぶき町、スナックお登勢にて

店で食い逃げされた上に壁を破壊されたという事で警察組織の真撰組が出向いていた。

 

「コイツはすげぇ」

 

一番隊隊長・沖田総悟は鋭く一閃して横にぶち抜いていた壁を見ながら一言。

 

「鞘に収めた刀でこの威力、それにぶち抜いた箇所はまるで定規に沿って斬ったみてぇにブレがてんで見当たらねぇ、ここまで綺麗に真横にぶち抜けるたぁ並のモンじゃねぇな」

 

これほどの技量と破壊力を持つのは真撰組でさえそうはいない。沖田は感心したように眺めながら隣でお登勢から話を聞いていた副長・土方十四郎に問いかける。

 

「証言を参考にするとこれやった女、昨日土方さんがとり逃がした女らしいですね」

「何で俺一人で逃がしたみたいに言ってんだよ、テメェも一緒にいただろうが」

 

不機嫌そうに返事すると土方はまたお登勢のほうへ振り向く。

 

「で? 食い逃げした三人組は壁斬った女が来た時に逃げ出したと」

「ああ、男はへらへら笑ってたけど、女の方はすぐにでも刀抜きそうな感じだったね」

「刀抜かれそうな状況で笑っていた? その男の特徴は?」

「グラサン掛けたモジャモジャ頭でやたらと声のデカイ男さね、まあ男の方の連れの一人が私も知ってた顔だったし、後で払うって言いながら行っちまったから別に追わなくたっていいよ、追うなら壁ぶっ壊した女のほうを追ってくれ」

 

お登勢にとっては食い逃げよりも壁破壊されて今日の店を開けられない事のほうが腹が立ってるようだった。

しかし土方はどうもそのモジャモジャ頭の男が気になった。

 

「何モンだそいつは……それにそいつを追う女、どうもきな臭ぇ、ただの男女関係のもつれあいって訳じゃねぇよな」

「土方さん見てくだせぇ! コイツはヤバイでさぁ!」

「なに! どうした総悟!!」

 

思考を巡らしている時に後ろから沖田が珍しく慌てたように叫ぶので土方はすぐに振り返った。

 

「見てくだせぇこの女の顔! ものの見事に破壊され尽くされてます!! ここまでやるなんてその女相当ヤバイ奴ですぜ!」

「テメェフザケンナァ!! コレハ元カラコウイウ顔ナンダヨ!!!」

「喉もやられてるみたいでさぁ、喋り方も片言に」

「キャラデヤッテンダヨ!! コレガ私ノアイデンティティナンダヨ!!」

「え、そうなの? それわざとそういう喋り方してるの? 土方さんこの女「読者に読みにくい台詞を多用して目を疲れさせた罪」で、しょっぴきましょうや」

「遊んでないで真面目にやれ!! テメェをしょっぴくぞ!」

 

新たな容疑者を作り出そうとしている沖田にツッコんだ後土方は店の外に出る。

 

「チッ、刀を前にして笑う男と、壁をああまで見事にぶち抜く女、こりゃあこっちで調べてみたほうがよさそうだな、山崎にでも調査を……いやアイツは今別件の調査か」

 

頼りにならなそうで意外と出来る密偵を攘夷浪士に加担したスキルアウトの組織に潜り込ませているのを思い出して土方はタバコを口に咥えた。

 

「こんな時は近藤さんに相談してぇんだが、ったくあの人どこほっつき歩いてんだ?」

 

タバコの煙をプカプカと空に浮かべながら、土方はふと店の2階にデカデカと書かれた看板を見た

 

『万事屋アイテム』

 

 

 

 

 

「だっせぇ名前」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、坂本辰馬達をまんまと逃がしてしまった神裂火織はというと

 

「この辺に逃げ込んだ所を見たのですが……」

 

賑わう人だかりや眩しく輝く店の看板のおかげで思うように探すことが出来ないでいた。

 

「こういう時にステイルの人払いがあれば便利なのですが……」

「アハハハハハ!! こっちじゃこっちー!!」

「!」

 

一度聞けば絶対に忘れられない笑い声、神裂はすぐに声の聞こえた方向に振り返ると

 

「ようネェーちゃん! 待ってたぜよ!」

「おーいねーちん! 疲れてるならこっちで休憩するかにゃー?」

「坂本辰馬に土御門! あなた達一体そんな所で……!」

 

とあるお店の2階から窓を開けて優雅に手を振っているのは捕まえるべき相手である坂本辰馬と土御門元春。

まさか向こうから出てくるとは丁度いい、神裂はすぐに店の中へ入ろうとするが

 

「ってちょっとここ!!」

 

店の前に来ると神裂はピタリと止まった。なぜ彼女が入るのに躊躇したのかというとデカデカと書かれていた店の名前が……

 

『ガンダーラ・ブホテル』

 

「な! なんちゅう所にいるんですかあなた達はぁ!!」

「アハハハハ! どうしたんじゃただのホテルじゃ! 入らんのか!?」

「ヘイ! カモンねーちん! カモン!」

「入れるわけないでしょ! 降りてきなさい卑怯ですよ!」

 

明らかに男女がちょっとした事をする為のようないかがわしいホテルを見て、冷静沈着の神裂の表情が赤くなった。

それを見て坂本と土御門は予想通りとはしゃいで

 

「おいおいネーちゃん! まさか捕まえる相手を目の前にして中に入れないっちゅう訳ないじゃろ! いやネーちゃんの場合入るっちゅうより入られる方か! アハハハハハハ!!」

「ぶっ殺すぞモジャモジャ頭!!」

「大丈夫だねーちん、まずは先っぽだけ入ってみよう、最初は怖いけど一回入ればすぐ慣れるにゃー」

「いい加減にしろグラサンコンビ!! そういうオッサンみたいな下ネタが一番嫌いなんだよ!!!」

 

口調が変化してることも気づかずに怒鳴っている神裂を眺めながら大いに笑う坂本と土御門。

そんな彼らを部屋に設置されたダブルベッドの上に座る新八が唖然とした表情を浮かべる。

 

「この辺の近くにあるいかがわしいホテルを教えて欲しいって土御門君に言われた時はわけわからなかったけど……まさかこんなことする為にわざわざここに来たの?」

「ナイスアイディアじゃ土御門! こげな事陸奥でも思いつかんぜんよ!」

「ねーちんはあんな大胆な滑降してるが超が付くほどの清純派。今まで恋愛沙汰にうつつを抜かす暇もなかったウブなあの人にとってはここは鉄壁の要塞だぜぃ!」

「いやただのラブホテルだからねここ! このまま立てこもってどうしろっていうのさ!」

 

道案内は新八、策の提案は土御門。坂本はまんまとこの二人のおかげで神裂が近寄ることも出来ない要塞を手に入れたのだ。

 

「こっからならネーちゃんも手が出せん! ならばこっからがわしの出番! 交渉して手を引かせるよう説得してみせるばい!」

「見ろぱっつぁん、これもまた坂もっさんの戦ぜよ」

 

早速話し合いで事を済ませようとする坂本の隣で、土御門が新八のほうに笑いかける。

 

「坂もっさんは言葉を使って相手と戦う、魔術や能力でもなく刀も使わず誰もが持つ言葉の力を巧みに扱い一滴の血も流さずに相手の心を無血開城する男、その力、しかとその目で焼き付けておくぜよ」

「いやその……相手を説得するっ為にここに来たいうのはわかったんだけどさ……」

 

ドヤ顔してみせる土御門に新八は坂本と彼を交互に眺めながら

 

「そうやってグラサン掛けた男二人で窓開けて顔出してると……店が店だからオープンな”アレ”なカップルだと見られるんじゃないの?」

「「……」」

 

新八の素朴なツッコミで二人は時が止まったように一瞬で黙り込んだ。

 

「しかもああしてあの女の人が叫んでると、傍から見ればまるで交際してた男が自分を捨てて男に走ったようにしか見えないシチュエーションなんだけど……」

「「……」」

「坂本辰馬! 土御門と一緒に大人しく出てきなさい!!」

 

下では神裂がまだこちらにむかって吼えている。そのおかげで通行人達がこちらを見上げてヒソヒソと話をしている姿があちらこちらで……

 

 

 

 

 

「城を捨てて撤退じゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

いらぬ噂をこれ以上立てられぬために坂本は土御門と新八を連れて2階から飛び降りた。

 

「あれ? 案外あっさりと出てきましたね……」

「はよう! ネェーちゃんよりも通行人の視線から逃げるのが先じゃあ!!」

「んな事わかってるぜよチクショォォォォォォ!! 最悪のかぶき町デビューだ!!」

「あんなホテルで男二人と一緒にいたなんて姉上に知られたら殺されるぅぅぅぅ!!」

「あ! また逃げるのですか!!」

 

着地してすぐに逃げ出す三人組をすぐに神裂は追い始める。

逃げながら坂本は隣の土御門に向かって

 

「なにが名案じゃ土御門ぉ! おまんのおかげでおりょうちゃんにあらぬ誤解されたらマジでぶっ殺すぞぉ!!」

「そりゃあこっちの台詞だ! アンタがバカみたいにでかい声で叫ぶから余計に目立ちやがって! 舞夏にこの事知られたら全力で殺してやる!!」

「わしに敵うと思っちょるのか! やってみろシスコン!!」

「アンタこそ誰に口利いてんだ! 無能艦長!!」

「ちょっとぉぉぉぉ! このタイミングで喧嘩するなよ! もうわかったから! お前等両方バカだってわかったから!!!」

 

走りながらも器用に相手に向かって殴ったり蹴りを入れたりしている坂本と土御門に後ろから追いながら新八がツッコむ。

 

「坂本さんこのままじゃ追いつかれます! 早く次の作戦を考えないと!」

「大丈夫じゃ眼鏡君、わしにいい考えがあるぜよ」

「え? まさかこんな状況でも既に作戦を練っていたんですか?」

 

土御門に殴られてちょっと頬を腫らしながら振り向く坂本。

この途端場でもう作戦があるのかと新八がほんの少しだけ感心すると

 

「頼むぞ土御門!」

「やっぱり人任せかいィィィィィ!!」

「やれやれだぜぃ……」

 

結局他人頼みだった。

 

 

 

 

 

 

そしてそんな三人を追っている神裂は、彼らがあるお店に入るのを目撃した。

 

「また店に入りましたか……まさか今度もまたいかがわしい店に……」

 

前の件があるので警戒する彼女、恐る恐るその店に近づくと看板には

 

『交響玩具店』

 

「おもちゃ屋、ですかね? これなら私でも入れそうです」

 

玩具店と書かれてほっと一息突く神裂。このかぶき町という町は視界に入れる事さえためらう店がたくさん並んでいたので、こういう子供向けの店もあるのだと安心した。

すっかり警戒心の薄れた神裂は玩具店のドアを開ける。

 

店の中に入るとすぐ傍のカウンターで元気そうな小さい男の子が一人立っていた。

 

「あ、いらっしゃい!」

「店員は子供ですか……それもどうかと思いますが、それはそれでここは完全に子供向けのお店だと示して……」

 

まだ小学生ぐらいの子が店番しているのも変だが、とりあえず神裂は完全に安心し切った様子で店の中を見渡すと

 

全面モザイクだらけのいかがわしい“大人のおもちゃ”が所狭しと置かれていた。

 

「ってなんですかこれはぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「え、おもちゃだけど?」

「これがおもちゃ!? いやちょ! なんでおもちゃにモザイクかかってんですか!? 最近のおもちゃってみんなこうなんですか!」

 

何言ってんのって感じでこっちを見る子供店員に神裂は取り乱したようにモザイクだらけの商品棚を指差す

 

「なんかウニウニ動いてますよアレなんか! 荒ぶってますよすっごく!」

「お目が高いねねぇちゃん、あれは最近発売された新モデルでね。なんと×××が××××して×××を××××××する事を可能にした学園都市の最新技術を集結させた×××××なんだ! 今ならこの特殊ローションとセットで安くなるから試しに買ってみたら?」

「純粋な目をした子供がとんでもない事を平然と言ってる! なんなんですかこの町は! これが学園都市なんですか!? こんな所にあの男は彼女を連れてきたんですか!」

 

無垢な笑顔を浮かべてモザイクのかかったとんでもないモンを持ってきた子供店員に神裂は恐怖すら覚えた。一刻も早くこの店から出て行きたい、早く坂本たちを見つけねばと神裂はその子供店員に尋ねる。

 

「す、すみません……さっきここにグラサン二人組みと眼鏡を掛けた少年が入ったと思うんですけど……」

「ネェちゃん新兄の知り合いなの? だったらついさっき大量に商品買って店の奥に行ったよ」

「……」

 

何かいやな予感がする。神裂がそう思うと同時に店の奥から足音と何かを震わせてるような変な音が……

 

「待たせたのネェちゃん」

「ギャァァァァァァァ!! なに全身モザイクだらけのコーディネートで出てきてんですかあなたはぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

体中のあちらこちらからウィーンウィーンと奇怪な音を鳴らしながら現れた卑猥なる物体。

声からして坂本だというのはわかるがもはや見た目は完全にモザイクそのものでとてもじゃないが直視できない。

 

「さあ、これでもうわしを攻撃出来んじゃろ。わしの話を聞いてくれ」

「卑猥な音立てて近寄らないでください! 頼むから! ホント私に近づかないでください!!」

「なにを怖がっとるんじゃ、こんなモンねぇちゃんだって1個や2個持っとるじゃろ」

「持ってるわけねぇだろうが!! ふざけた事言ってんじゃねぇぞコラァ!!!」

 

セクハラを交ぜながら近づいてくる坂本に神裂はキレながらも後ずさり。

その様子を坂本の背後から見守る土御門と新八。

 

「どうだぱっつぁん、これぞ対ねーちん攻略用の武装鎧だぜい」

「いや……卑猥な物体が女性に襲い掛かってる構図にしか見えないんだけど……」

「ぶふぅ! あんな焦ってるねーちん今まで見たことないぜよ、記念に写メで撮っとくか」

「あれ、楽しんでる!? ひょっとしてあの人倒す云々じゃなくて自分が楽しみたいから坂本さんをあんな格好にしたの!?」

 

口元を手で押さえながら笑いをこらえようとしつつ携帯を取り出して神裂を撮りまくる土御門。

そんな彼に新八がツッコんでいる中、彼の横をすっと一人のお客さんが横切る。

 

「……気に入らないわ」

 

そういうとそのお客は腰に差した軍用に使うライトを抜いて坂本に標準を定めると

 

「アハハハハハ! ほれほれ逃げるな! ハハハハハハ……あれ?」

 

彼が着飾っていたモザイクは一瞬にしてパッと消えたのだ。

 

「ここはね、男の子が笑顔でアダルティーなおもちゃを売っているという私にとっては最高のシチュエーションなのよ。そこであなた達みたいな連中が店内で変態プレイされたら凄い迷惑」

 

そう言ってそのお客さんは親指を立てて自分の首を掻っ切る仕草。

 

「消えなさい変態共、ここは私と晴太くんがイチャつくジハードなのよ……!」

「いやアンタも変態だろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁ……また結標さん来てるよ……月詠姉に報告しないと」

「しかも思いっきり拒絶されてるよ! 晴太くんゴミを見るような目で見てるよ! 店にゴキブリ出てきたから駆除しようって感覚で通報しようとしてるよ!」

 

子供店員に完全に警戒されているのにも関わらずお客さんはどこか誇らしげ。

しかしそんな中、思わぬ人物の介入によって武装解除された坂本は

 

「くっそぉ! また撤退じゃ! 逃げるぞおまん達!」

「待ちなさい! こんな狭い店であなた達を逃がすわけ……!」

 

一つしかない出入り口の前に陣取って逃げようとする坂本目掛けて長刀を手に物が

 

「わっふッ!」

 

坂本が装備していたモザイクコーディネートが突然彼女の頭上に勢いよく落ち来てたのだ。

どうやら消えたわけではなく空中に飛ばされていただけらしい。

 

「今の内じゃ!」

「ねーちんそれ全部あげるぜよ!」

「色々とごめんなさい!」

 

モザイクまみれの状態で下敷きにされた彼女の上を飛び越えて逃げる三人組。

うごめくモザイクに埋もれた神裂はすぐに立ち上がり

 

「このような屈辱をよくも……絶対に生きては返しません……!」

「ねぇちゃんまだ頭にモザイク乗っかってるよ」

「よくもまあ人前であんな物を頭に乗せられるわね、服も露出高いしあれも変態よきっと、晴太くんはあんな人に近づいちゃ駄目よ」

「うん、だから通報しといたよ、いつものサラシ巻いた変な女が来たからとっ捕まえに来てって」

「え、それもしかして私の事じゃ……」

 

完全にお怒りの様子で店を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

そして再び、神裂は坂本達が入っていった店の前にたどり着く。

店の名前は『高天原』

 

「いけませんねこのままでは……たかがいかがわしいというだけで目的を成し遂げられないど聖人として一生の恥です」

 

このままでは踊らされる一方だ、坂本のペースに呑まれている事に気づいた神裂は反省して店の両開きの大きなドアに手を伸ばす。

 

「なれば今度こそ、全身全霊を持ってあの男の策とやらと正面から向かい対処します」

 

腹をくくって決意すると神裂はドアを開けようとする。

 

だがドアは彼女が触れずとも自動的に大きな音を立てて開いて

 

「え?」

 

次に彼女の目の前に映った光景は

 

 

 

 

 

「「「「「ようこそ、ホスト高天原へ!!」」」」」

 

左右の端にこれまら煌びやかな2枚目の男達がこぞって出迎えてきたのだ。

全く見たことのない空間に神裂は口を開けて思考が停止する。

 

「なんなんですかこのかぶき町というのは……こんなの私が今まで見てきた世界とは全く……」

「ご指名はお決まりですか?」

「へ!? ああいえ! ここに入ったグラサン掛けたモジャモジャ頭の男に会いに来ただけです!!」

 

傍にいた若いホストに丁寧に尋ねられて思わず口ごもるも用件を手短に伝える。するとそのホストはすぐに彼女を店内に案内し

 

「そうか、ならすぐに呼んでやるよ、緊張しなくていい、初めての客はみんなそうなるモンなのさ」

「ありがとうございます……」

 

こんな所来た事ないので滅茶苦茶縮こまる神裂をエスコートしながら店の中に連れてくる。

するとそのホストは手をパンパンと力強く叩いて

 

「おら新人ご指名だ! 教えた通りしっかりやれよ! 新人二人もヘルプに回ってしっかりご奉仕してやれ!!」

「え、いや私は別に指名じゃなくてここに来た男を……」

 

勘違いされたのだろうか、誰かを呼ぼうとするホストに神裂は恐る恐る否定しようとするのだが彼女の前にさっと現れたのは

 

「イエァ! この度はご指名ありがとうございます!」

 

物凄い低姿勢でこちらに頭を下げる三人組の男達、そして神裂の目はすぐにその男達の真ん中にいるモジャモジャ頭を見て気づいた。それと同時にこちらにバッとモジャモジャを頭を一層揺らしながら男は顔を上げた。

 

「TATUでぇす!!」

「TUCHIIだぜぃ!」

「SINです!」

 

どう見てもいつの間にかホストっぽい格好になっている坂本達がそこに立っていた。

ここまで予想外な行動に出られると神裂は言葉を失う。

 

「あ、あなた達は一体何を考えて……!」

「オラお前等、自己紹介終わったらさっさとお客さん席に案内してあげな」

「オーケィ! わが命に代えても!」

 

先輩ホストに言われるがままにTATUこと坂本は左足を軸に横回転しながら神裂の背後に回ると彼女の肩に手を置いて席へ案内する。

 

「5番テーブル入りまーす!」

「これはどういうつもりですか坂本辰馬……今この場で斬り殺されたいのですか?」

「こないにぎょうさんおる人達の前でネェちゃんがそげな事出来るんじゃったら、わしはもうとっくに殺されとる」

 

そう言いながら坂本はグラサンの下から笑った目を覗かせて神裂に問いかける。

 

「アンタも出来るだけ血を流したくはないじゃろ、ここはこの場でキチンと腹の中ぶちまけて語り合うのが一番じゃ」

「語る必要もありません、あなたが私達の元から彼女を奪った。あなたを斬る理由としてはそれだけで十分です」

「まあまあまあ、ここは男女の語り場じゃ。物騒な言葉を使っちゃいかんぜよ」

 

なだめながら彼女を席に座らせると、坂本はまた叫んで

 

「ヘェイTUCHII!! 遠くからはるばるとやってきたこの天使に癒しのお飲み物を!!」

「オーケィTATU!! わが命に代えても!!」

「なんか腹立つから止めてくれませんか……?」

 

妙にアメリカンに会話する坂本とTUCHII=土御門に軽く神裂がイラっとしていると

 

「ヘェイSIN! 早くパーフェクトに仕上げてメインディッシュ持ってきてくれぃ!」

「オーケィTATU! わが命に代えても! 今丁度いい焼き加減だぜフゥー!! 仕上げはこの青海苔だ!!」

「ってなんでこの人はテーブルの上で鉄板敷いてノリノリで焼きそば作ってんですかぁぁぁぁぁ!!」

 

いつの間にか目の前で焼けた鉄板でジュージューとヘラを使った巧みな捌きで焼きそばを作っているSINこと新八。

 

「そちらの天使はモジャモジャが好みだって言うから作ってみたんぜフゥー!!」

「好きじゃないですよ!! いや焼きそばは嫌いじゃないですけど別にモジャモジャだから好きって訳じゃないですから!! ていうか煙たい! 目にしみる!」

 

絶妙な焼き加減で焼きそばを作り上げる新八にツッコミを入れる神裂、すると彼女の目の前にドンっとジョッキが置かれ

 

「ヘェイエンジェル! こちら当店自慢の一杯」

 

飲み物を持ってきた土御門が得意げに

 

「もずく酢だぜぇ!」

「だからモジャモジャ好きじゃねぇって言ってんだろうがぁ!! ていうかなんで当たり前のようにもずく酢あるんですか!?」

「一気のみコールのリクエストなら喜んで受け賜るんだぜぃ?」

「しないですよ! なんであなた達の前でもずく酢一気飲みしなきゃいけないんですか!!」

 

どことなく期待してそうに尋ねてくる土御門がこれまた更にムカつく。

ジョッキ並々に注がれたもずく酢などとてもじゃないが一気に飲めない。

 

「おいテメェ等! 何やってやがんだ!!」

 

するとそんな惨状を目の前にして黙っていられなかったか、先ほどの先輩ホストの少年が怒鳴り声を上げて歩み寄ってくる。

 

「新人だから何かフォローしてやらねぇと思っていたが! なんたる醜態を晒してやがんだ! お前等そんなんでお客様が満足して帰ってくださると思ってんのか、あぁ!?」

 

えらくご立腹の様子で先輩ホストは3人を立たせて横一列に並ばせ

 

「いいか! お客に対して俺たちは全身全霊を持っておもてなしをするんだよ! お前等にはそれが全く足りねぇ! お客様は神様だ! 聖人を相手にご奉仕する弟子の様に敬え!! お客様はイエス! お前達はユダだ!」

「「「オーケィ我が命に代えても!!!」」」

「いや私元から聖人なんですけど……てかユダじゃ駄目でしょ……」

 

先輩らしく説教した後、その先輩ホストはテーブルに置かれた焼きそばともずく酢を見下ろすと

 

「テメェ等これはなんだ! こんなふざけたモンを客に出したのか!」

「ヘェイナンバー2! それは俺のソウルが刻まれた焼きそばなんだ! 決してふざけてなんかいねぇさ!」

「ナンバー2! それはちょうど冷蔵庫の中で賞味期限が切れかけていたもずく酢なんだぁ! ちょっとふざけてました!!」

「ナンバー2その金髪グラサン殺していいです!!」

 

どさくさにまぎれてとんでもない事バラす土御門、神裂がナンバー2と呼ばれている先輩ホストに叫んでいると、彼は怒りで肩を震わせながら鉄板の前に立ち

 

「こんなモンでお客さんが満足できるわけねぇだろうが……! テメェ等ホストナメてんのか……!? 焼きそばなんて作りやがって……ホストなら、ホストだったら……」

 

ブツブツと呟くとカッと目を見開いて

 

「もんじゃ焼きだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」

「結局鉄板焼きぃ!?」

 

いつの間にか豪快な手捌きでもんじゃ焼きを作り始める先輩ホスト。

慣れた手つきで作るその様を後ろで見ていた後輩のホスト達が羨望の眼差しを向けている。

 

「出た! 若くして高天原ナンバー2に上り詰めた実力を世に知らしめた“垣根さん”の超特製もんじゃだぁ!!」

「そのあまりにもモジャモジャっぷりはもんじゃ焼きなのか人間の吐いた嘔吐物なのか分からないほどのモジャモジャなんだ!」

「いやそれも客に出すものとして絶対駄目ですよね!? ていうか結局あなた達の中でも私はモジャモジャ好きなんですか!?」

 

いきなりもんじゃ焼きを作り始める垣根と呼ばれた少年にツッコミたい所だがホスト一同勝手にモジャモジャ好きに認定されていることの方が不満だった。

 

しかしそんな彼女をよそにナンバー2こと垣根帝督は「うおぉぉぉぉぉぉ!!」と雄叫びを上げながら作っている。

 

(負けられねぇ! “奴”にだけは絶対に! 俺はこのもんじゃ焼きで!! 不動のナンバー1ホストであるあの男を超えてやるんだ!!)

「いやそういう設定ここで出さなくていいですから! 誰も興味ないんで! 特に私が!」

(奴は俺がもんじゃ焼きを一枚作った時点でお好み焼き! そしてデザートの判子焼きまでも作り上げちまう怪物! まだだ! このスピードじゃ奴には辿り着けねぇ!)

「うっせぇな!! もうホストじゃなくて鉄板焼き専門店やれよ!! クソどうでもいいって言ってんだろうが!!」

 

額に流れる汗を拭いながら懇親の作品を作り上げようとしている垣根だが。

神裂にとっては心底どうでもいい状況。

そんな中、ずっと眺めていただけのあの男が……

 

「悪いがナンバー2、このエンジェルのハートを射抜くのはこっちだぜよ!」

「ヘェイ! ついに奥の手を出すのかTATU!」

「準備は出来てるぜブラザー!」

 

垣根の向かいに立って両手にヘラを構える坂本。両脇に土御門と新八を従えて

 

「もんじゃ焼きと言えばモジャモジャで語尾にじゃをつける事の多いわしが作ってこそじゃろ!!」

「あの、もうツッコミ疲れたんでさっさと作って下さい、そして私に斬られて下さい」

「よしTUCHII! SIN! 向こうが1人で作るならこっちは3人がかりじゃあ!」

「「オーケィ我が命に代えても!!」」

 

意気揚々と3人でヘラを持ってもんじゃ焼きを作り始めようとする、だが

 

「「「オボロシャァァァァァァァァ!!!!」」」

「作る工程すっ飛ばしていきなりもんじゃ出したぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

鉄板の上に一面広がる程の3人仲良く突然嘔吐、辺りに酸っぱい匂いを漂わせながら、坂本が気持ち悪そうに顔を上げて

 

「そういやババァの所で酒たらふく呑んどったの忘れとった……その後何度も走り回ったきん、おかげで酔いが回ってる時にナンバー2のもんじゃ見て思わず……」

「そういや俺も坂もっさんと呑んでたにゃー……」

「僕も土御門君に無理やり呑まされてました……」

「それで3人で同じタイミングで吐いたんですか!? なんですかその3つのバカが織り出す汚い奇跡!?」

 

そして3人で口元押さえながら顔色悪そうにグッタリしている所、垣根は向かいでもんじゃを作っていたのにもはや鉄板一面が彼の作ったもんじゃと彼等が吐いた嘔吐物が入り混じって最悪の状況を見て。

 

「おい……!」

 

酸っぱい匂いが店の中に充満してお客さんや他のホストが逃げていく中、かつての頃を彷彿させるような殺気を3人に放った。

 

「俺の特製もんじゃだけじゃ飽き足らずよくも店台無しにしやがったな……!!」

「アハハハハ……気分悪いから早退させてもらいまぁす……」

「逃がすかこのクソッタレがぁぁぁぁぁぁ!!!」

「みんなぁぁぁぁぁ!! 超逃げてぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「オーケィ我が命に代えても!!」」

 

このままでは殺されると悟った坂本達は命からがら逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 

そしてそれから、坂本達はなんとか逃げ切るもフラフラとしたおぼつかない足取りでかぶき町を歩いていた。

 

「もうダメ……僕もう限界です……」

「俺もさすがに……もう何処の店に行けばいいのかねーちんを止められるのか検討もつかないぜぃ……」

「……いやまだあるぜよ」

 

こうしている間にも彼女は刻々と迫ってきているであろう、捕まるのも時間の問題。

しかし坂本はまだ諦めてはいなかった。

 

「土御門に眼鏡君、おまん等よう頑張った、こっからはわしの力見せちゃる……」

「見せる事なく死にますよ、もうあなたは詰みです」

 

とある店の壁にもたれた坂本に返事したのは、土御門でも新八でもなく。

幾度も彼等を追い詰めた追跡者、神裂火織

時刻はすっかり零時を超えて深夜、さすがにこの時間帯では通行人も減っている。

ゆっくりと距離を詰めながら

 

「口先だけの詐欺師と、これ以上付き合う義理もありませんからね」

「……なぁネェちゃん」

 

疲れた様子で壁にもたれたまま坂本は神裂に問いかける。

 

「かぶき町を、この町を見ておまんは何を感じた?」

「……」

 

唐突な質問に神裂はしばり黙るとゆっくりと口を開き

 

「口より先に手を出す荒くれ物の集い、並ぶ店もいかがわしい場所ばかり、何もかもが常識知らずのかつての侍の時代の名残があり、こんな所がよもや最進化学の整った学園都市にあるなんて来るまで知りませんでした」

「みんな必死になってたくましく生きちょる、わしはこの町が好きぜよ」

「私はあまり良い所ではないと思いますが」

「アハハハハ、まあガキにはまだまだ早いか」

 

聖人をガキ呼ばわりしつつ空を見上げながら坂本は呟くと、壁伝いに這いながら店のドアに手を伸ばす。

 

「ネェちゃん、決着着けようか、わしのとっておきの場所でな」

「まだ手はあると、どうせさっきみたいなロクでもない事ばかりする気でしょ?」

「当たり前じゃろ」

 

不適に笑いながら坂本はドアを開く。

 

「このかぶき町にはロクでもないもんしかないんじゃからの」

 

神裂はふと見上げて店に掛けられた看板を見る

 

店の名前は

 

『キャバクラすまいる』

 

 

 

おまけ

教えて銀八先生のコーナー

 

「はいそれでは答えようと思いますハンドルネーム「JPS」さんからの質問」

 

『麦野とお妙って常日頃から衝突しているんですか?』

 

「顔合わせた時は100%ぶつかりますがそんな滅多に会う間柄でもないのでそんな毎日やってるわけじゃないらしいです、そらそうでしょ、片方は夜はキャバクラとして働いてて片方は朝夜関係なくプーなんですから」

 

 

「続いて二通目~ハンドルネーム「八条」さんからの質問」

 

『上条さんは声マネが出来るみたいですが似ていると思う声マネとかはありますか?』

 

「さり気ない描写で書かれてましたがアレはれっきとした声帯模写の一種です、と言っても中途半端に覚えた技術なので女性の声は出せないみたいですがね。似てる声マネ? あ~バクマンの主人公の作画担当の方なら得意なんじゃないかな? なんか元から声似てるでしょ?」

 

「という事で銀八先生の授業終わりまーす」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。