禁魂。   作:カイバーマン。

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第五十五訓 現れたるは炎王、迫り来るは聖人

時刻はすっかり夜だ。

完全下校時刻になる頃、上条は薄暗いトンネルの中で一人の男と対峙した。

魔術師、あの朧が言っていた能力者とは似て非なる別の存在。

神父のような格好をしたこの赤髪が本当にそうなら上条はどうやらまんまと閉じ込められたらしい。

 

「坂本辰馬の行方を教えてくれるなら命だけは助けてやってもいいけど?」

「生憎、こちとら別々に行動してるからあの人が何処にいるかてんでわかんねぇよ」

「嘘の付き方が下手くそだな、嘘をついてる奴ってのは大抵目を見ればわかる」

「それはお前もだろ……言っても俺を見逃すつもりなんかねぇんじゃねぇか」

「ああバレた?」

 

そう言いながら男は懐からタバコを取り出し口に咥えて火をつける。

 

「あんな男に手を貸すなら君も同罪だ。話すつもりが無いならそれはそれで消えてもらう事にしよう。そうすればもしかしたらあっちの方からやってくるかもしれないし」

「ならやってみろッ!」

 

考えるより早く足が動いた。

恐怖を感じながらも上条は右手を強く握り殴りかかる。

 

反面男の方は優雅に口のタバコを手に取ると

 

「ステイル=マグヌス、それが僕の名前だが。ここはFortis931と名乗っておくかな」

 

そう言ってタバコを指で弾いてトントン灰を落とす。

 

「魔法名って奴でね、いや殺し名とも言われてるな」

 

ステイル=マグヌスは最後にタバコをほおり捨てると

 

「炎よ」

 

ステイルの手元に突如一直線上の炎の剣が生み出された。

近づいてきた上条にそれをすかさず振り下ろす。

 

「はいご苦労様」

 

気の抜けたステイルのセリフと共に振り下ろされた炎剣に上条はすかさず右手を振り上げて触れて

 

ガラスの様にその剣を砕いた。

 

「……なに?」

「……はいご苦労様」

 

自分の術があっさりと破壊された事に疑問を覚えたステイルだが上条の追撃はまだ終わっていない。

 

「とりあえずまずは一発ぶん殴らせろ……!」

「巨人に苦痛の贈り物を」

「!!」

 

また殴りかかって来る上条にステイルがそう呟いた途端辺り一面が爆発。上条が立ってる場所含めて摂氏3000度の地獄の炎が焼き尽くす。

 

 

「効かねぇよ」

 

辺り一面の炎が黒い渦となって一瞬で消えた。

人体ならあっという間に溶けるであろう温度をものともせずに上条当麻がそこに立っていた。

 

「一体何なんだい君は……その右手は」

「知る必要ねぇだろ」

 

ステイルはまたも炎剣を練って作りだすとまた横薙ぎに振るうが、上条は右手を使うまでも無く身体をのけ反らして避けた。

 

「ちょっと大人しくしてろ魔術師……!」

「!!」

 

ステイルは体に鋭い痛みを感じた。よく見ると自分の肩に古代中国の医療で使われていたような鋭く尖った長針が1本突き刺さっていたのだ。しかもそれだけでない

 

(腕が完全に動かん……!)

「腕動かないだろ、まあ最初はビビるよな”経絡”を突かれる事なんて魔術師でもそうそうねぇだろうし」

 

右腕の動きを完全に封じられ焦るステイルを尻目に、上条の左手にはいつの間にかもう一本の長針が

 

「これ隠すの手間かかるんだぜ」

「くそ!」

 

まだ動ける方の左手を乱暴に振るうとステイルの前方に炎の壁が。

しかしそれもまた上条が右手を振るうとガラスが割れたような音と共にかき消され

 

「邪魔だ!」

 

なんの障害にもならないかのように乱暴にこじ開けてきた上条に舌打ちするとステイルは勢いよくバックステップを取って彼から距離を取る。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ!」

 

ステイルは全身から嫌な汗が噴き出すのを感じた。目の前に立つ男はただの学生と思っていたがそうではなかった、あの炎を打ち消す右手と経絡を操る針術、能力者の類ではないその力を見てステイルは確信した。

 

ここで切り札を使わなければこちら側が負けるかもしれないと

 

「それは生命力を育む恵の光にして、邪悪を罰する裁きの光なり! それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり! その名は炎! その役は剣! 根源せよ!」

 

ステイルが扱うとっておきの奥の手、それは

 

「わが身を食らいて力をか……!」

「長ぇんだよ!!!」

「せっぼぉ!!!」

 

お披露目される事無くあともう少しの所で上条にぶん殴られてしまった。

ステイルはそのまま派手に後ろにぶっ飛ばされる。

 

「いつまで待たせんだよ! もうちっと短くしろよ! 敵は目前にいるんだぞ!」

「ひ、卑怯だぞ……僕が唱えてる隙を突いて殴りかかるなんて……!」

「容赦なしに責め立てるのが朧流派のモットーです!! おらぁ!」

「うぐ!」

 

上条は持っていた長針をステイルの左肩の方に投げて刺す。

これで両腕が使い物にならなくなったという事だ。

 

「人に向かって針を投げるなんてなんて一体どんな教育受けてんだ……」

「人に向かって炎撃って来る奴に言われたくねぇよ!」

 

あまりにも呆気ない戦いの終わりに上条は少々物足りなさを感じながら彼の方へ歩み寄る。

 

「おいステイルとかいう奴、命だけは助けてやるから国に帰って二度と戻ってくんな」

「フン、誰がお前のいう事なんて聞くか」

 

しかしステイルはまだこの戦いに終止符を打つ気はなかった。

 

轟ッ!!っと彼の着ていたローブの内側から巨大な炎の塊が飛び出してきたのだ。

ただの塊ではない、巨大な人の形をした炎の巨人

 

「魔女狩りの王≪イノケンティウス≫。その意味は『必ず殺す』」

 

両腕を封じられながらもステイルは得意げにその巨人の名を呟く。

 

「君が長いと言っていた僕の詠唱はあと一文字で完了する手筈だった、最後の言葉は「せ」。そして君が殴りかかった時に僕は思わず「せっぼぉ!!」と叫んでしまった。これにより僕の術は完成していたのだ」

「く! あのマヌケな叫び声にはそういう意味があったのか! だが!」

 

あまりにも下らない秘策ではあるがそれで出てきたのがこの炎の巨人だ。両手を広げ襲い掛かって来る巨人に上条は右手を突き付けて

 

「効かねぇつってんだろ!」

 

右手で振り払って彼の最後の切り札をあっという間に吹き飛ばした。

炎の巨人は辺り一面に飛び散り砕けた。

 

「!」

 

しかしそこからはいつもと違っていた。

 

辺りに飛び散った巨人の断片が四方八方から飛び跳ねて集まり始める。

 

「なんだコレ……」

 

咄嗟に上条は一歩後ろに下がると、次の瞬間に四方から集まった断片が一つとなり再び人の形を成していた。

 

「!」

「イノケンティウスが完成した今、君はもうただ死ぬだけさ」

 

復活した魔女狩りの王は巨大な腕を振り上げ一気に振り下ろしてくる。

上条はすかさず右手でそれをガードするが

 

「な!」

 

今度は消える事さえなかった。消滅せず力で押し潰そうとして来る巨人

熱さは感じないが力は圧倒的に巨人の方が上だった。右手でないと止められない、この巨人に右手以外の物が触れればあっという間に溶かされる。

ジリジリと押されながら上条は舌打ちすると

 

「防ぎきれねぇ!」

 

ガードするのを止めてその場でバク転して後ろに下がった。

炎の巨人から距離を取ると上条は懐から長針を取り出し

 

「理屈はわかんねぇけど俺の右手だけじゃ勝てねぇって事だけはわかった」

「ふ、観念してももう遅い、そいつはお前が死ぬまで絶対に消えないぞ」

「そうか」

「へ?」

 

上条はダッと駆け抜けて巨人の横をすり抜けると、ステイルの背中に回ってガシッと彼の両肩に腕を回し

 

「じゃあしばらく盾役やってくれ」

「うおぉぉぉぉぉい!! ちょっと待って!! それはおかしい! それは主人公としてやっちゃダメだろ!!」

 

図体のデカいおかげでいい身代わりにされるステイル。炎の巨人は彼の方に振り返りズンズンと近づいてくる

 

「待てぇイノケンティウス!! 僕は殴るな! 僕の背後にいるこのウニ頭を狙え!!」

「騙されるなイノケンティウス、僕を殴れ、もう本気でぶん殴れ、僕はもう目覚めたんだ、誰かに痛めつけられてこそ真の幸福があると悟ったんだ」

「なに後ろに隠れて僕の声真似してんだぁ!! そんな幸福なんぞ誰が目覚めるか! いやあの子に殴られるんだったらちょっと興味が……いや違う違う!! 惑わされるなイノケンティウスゥゥゥゥゥ!!」

「殴ってくれイノケンティウスゥゥゥゥゥ!!」

「発音のイントネーションまで完コピするなぁ!!」

 

必死になって叫ぶステイルとその背後で彼の真似をする上条。それを前に炎の巨人は困った様にキョロキョロと辺りを見渡した後。

 

もう考えるのめんどくせぇと言わんばかりにステイル目掛けて拳を振り上げた。

 

「オイィィィィィィ!! 違う違う殴るのは僕じゃない!! イノケンティウス! イノケンティウスゥゥゥ!!」

 

ステイルは叫ぶ、けれど魔女狩りの王は何も応答しない。

 

「イノケンティウス! イノケンティウスゥ!! イノケンティウスゥゥゥゥゥ!!!」

 

ステイルはもう一度叫ぶ、けれど世界は何も変化しない。

 

ゆっくりと振り下ろされた炎の拳が勢いよくステイルの眼前に迫る。そこで遂に

 

「魔女狩りの王! 在るべき世界に帰還せよ!!」

 

ステイルは喉の奥から高々に叫ぶ、すると炎の巨人は拳を止め、ズルズルと溶けていくように地面に断片を落としながらシューシューと辺りを焼き焦がしながら消えていった。

 

「フッフッフ、まいったかウニ頭、イノケンティウスに殴らさせるよう仕向けた所は褒めてやるが、僕が解除する方法を知らないとでも? イノケンティウスは消滅した、これでもう僕は殴られない」

「じゃあ」

「え?」

 

炎の巨人が消えた事でステイルは安堵の表情を浮かべた。

しかし彼はすぐに気付く、これで上条当麻の前に立ち塞がる障害はどこにも……

ステイルが振り返ると既に彼はこちらに向かって右手を振り被り

 

「俺が代わりに殴っとく」

 

この右手の事は上条自身もよくわかっていない。異能の力を打ち消す事が出来るだけで頭が良くなるわけでも女の子にモテる訳でもない。

 

それでも右手はとても便利だ。

 

何せ目の前のバカを思う存分ぶん殴れるんだから

 

上条の拳が魔術師の顔面にめり込む様に突き刺さる。

ステイル=マグヌスの身体はそれこそ竹トンボの様に綺麗な回転を描いて派手に後ろにぶっ飛ばされていった。

 

 

 

 

 

イギリス清教の魔術師、ステイル=マグヌスが上条によって倒された頃。

 

土御門元春率いるかぶき町探索チームは夜の快楽街に足を踏み入れていた。

 

「銀髪のシスター? 知らないねぇ」

 

彼等がいるのはかぶき町ではちょいとした有名な飲み屋であるスナックお登勢。

かぶき町四天王とも呼ばれる程のカリスマ性を持つ店主、お登勢ならば何か知っているのかと思ったが、彼女の口から出たのはシスターの居所でなくタバコの煙だった。

 

「銀髪の天然パーマの男なら知ってるからそっち紹介しようか?」

「いや天然パーマじゃなくてシスターですから、てか誰ですかそれ」

 

カウンターに座り真面目に情報収集をしている新八。

しかし一緒に行動している坂本と土御門はというと

 

「ババァ~! もう一杯酒くれや~全然足らんぞ~!!」

「ういぃ~久しぶりに飲む酒はたまらんぜい」

「テメェ等真面目に聞き込みやれやぁ!!」

 

さっきから奥の座席でワイワイ騒ぎながら酒を飲む始末。土御門に至っては未成年なのに堂々と飲酒している。

 

「人を欲望ごと飲み干す魔窟とも呼ばれるかぶき町、初めて来たがまさかここまで恐ろしい街だとは思わなかった、果たして俺は生きて返れるのだろうか……」

「シリアス風味に言ってりゃあいいと思うなよ! なんでアンタ等の手伝いに来た僕をおいて自分達で飲んでんだよ!!」

 

真顔でありながらも飲む事は絶対に止めない土御門にツッコミを入れる新八に、坂本が焼き鳥を食いながらヘラヘラ笑う。

 

「まあええじゃろ、腹が減っては戦は出来ぬとも昔からよう言うし。どうじゃおまんも、わしが奢ったるぜよ」

「いやいや坂本さんはシスターさんの事心配じゃないんですか!? 元々アンタがはぐれちゃったからこうなったんでしょ!」

「なぁに言っちょる、心配しまくりじゃわしは、けれども同時に、あの嬢ちゃんなら大丈夫じゃろという気持ちもある」

「はぁ? 何矛盾してる事言ってるんすか」

 

焼き鳥を食してビールを一気に飲み干すと、坂本はジト目を向ける新八に笑いかけ

 

「あれはなんちゅうか天性みたいなモンを持ってるんじゃきん。思わず護ってあげたくなるような子なんじゃ、じゃからきっと、今頃わし以外の誰かが護ってくれちょるんじゃないかと思っとる」

「そんなのただの推測じゃないですか。そのシスターさんって女の子なんでしょ、やっぱ危険ですって。土御門君も飲んでないでなんとか言ってよ」

「大丈夫だぱっつぁん」

 

理に適っていない坂本の話に不満げな新八だが土御門は特に心配してないようで

 

「坂もっさんは一見アホだが、中身も相当アホだぜい」

「いや……大丈夫どころかますます心配なんだけど……それ全然フォローになってないよね?」

「アホも度が過ぎるとなんとやらって言うだろい、ほれぱっつぁんも一緒に飲め飲め」

「うわちょっと! 勝手にコップに酒注がないでよ! てか未成年だろアンタ! いい加減飲むの止めろよな!」

 

人が持ってたコップに勝手に並々酒を注ぐ土御門に新八が怒鳴っていると、お店の戸を開いて別のお客さんがやって来た。

 

その客はカウンターの所で足を止めると店主のお登勢を見て

 

「すみません少し人を探しているんですけどいいですか?」

「ったくまた人探しかぃ……ウチは迷子センターじゃなくて飲み屋だよ、他を当たりな」

「いえ急を要してるのでせめて知っていただけると助かります。頭がモジャモジャでグラサン掛けてやたらと声のデカい男なんですが」

「そこにいるだろ」

 

めんどくさそうにお登勢が親指で指さす先には……

 

「ギャーハッハッハ!!! おらキャサリン!! お前も飲め飲め~!! アハハハハハ!!!」

「シャチョサーンアンタモ好キネー、オイ眼鏡、サッサトお酌シナ!」

「なんでだよ! アンタ店側の人だろ! なんで客の僕がそんな事しないといけないんだよ!!」

「夜ノ店ノシステムモワカラネェトカ、コレダカラ童貞トハ飲ミタクナインダヨ」

「誰が童貞だ貴様ぁぁぁぁぁ!! その全く萌えない耳を燃やしてやろうかぁ!!!」

 

上機嫌で飲んでいる坂本が隣に団地妻の様な猫耳天人、キャサリンを置いてやかましい声で笑っていた。

彼に気づいたその客はそっと近づき

 

「坂本辰馬ですね」

「アハハハハ!! んん?」

 

坂本はそこで初めてその人物に気づき顔を上げた。

 

その人物はお腹が見える程めくられたTシャツと片足だけ大胆に切ったジーンズという何とも異様な恰好をした女性であった。しかし異様なのはそれだけではない。

腰から拳銃の様にぶら下げているのは長さ二メートル以上はあろう日本刀。

鞘から抜いていない筈の刀からは凍えるような殺気が放たれていた。

 

「神裂火織≪かんざきかおり≫、この名前にまだ覚えはありますか?」

 

その言葉に若干の怒りを含めながら女性は名を名乗ると。

坂本はまるで懐かしい顔に出会ったかのようにはしゃいで

 

「おお! なんじゃ久しぶりじゃのう! 元気にしとったかぁ!」

「……相変わらず何も変わっていない男ですね」

「おうよ! わしはいつでもわしじゃきん!」

 

神裂からの鋭い視線にも動じずに坂本はヘラヘラ笑っていると、彼女は次に彼の向かいに座る土御門の方へ振り返る。

 

「彼の居場所をかく乱させていたのはやはりあなたでしたか、土御門」

「よぉねーちん、こんな所まではるばるとやってくるなんてイギリス清教も随分とヒマになってる様だにゃー」

「いえこれも仕事ですから、あなた達のおかげで」

 

土御門が陽気に笑いかける中、神裂の表情はピクリとも動かない。

彼女がやって来た途端周りが凍り付いたかのような空気に変わり、新八は不安そうに立ち上がり

 

「あのー坂本さんと土御門君のお知り合いの方ですか? なんか滅茶苦茶怒ってるみたいですけど……なんなら場所変えて僕等と話でも……」

「オイクソアマ! 私ノ客取ロウトシテンジャネーヨ!! ドコの店ノ女ダゴラァ!!」

「オイィィィィィ!! 明らかお前が出る所じゃねぇだろ! 空気読め団地妻!!」

「自分ノ店ジャ客取レネェカラコッチニ来タノカ!! 残念ダッタナ! ココニハモウ私トイウテメェガ逆立チシテモ敵ワネェイイ女ガインダヨ!!!」

 

なんとかこの場を収めようとする新八に横やりを入れてキャサリンが立ち上がり、真っ向から睨んで来る神裂に対して親指を立てて自分の首に手を当てて掻っ切る仕草をしながらニヤリと笑い。

 

「消エナブサイク、テメェミタイナブサイクハ同ジブサイクのオカマ共ト一緒ニ笑ワレナガラ踊リ狂ッテロ」

 

嘲笑しながらキャサリンが放った言葉に

 

神裂の手が動き腰に差す長刀を握りしめた。

 

「うるっせぇんだよ! まずテメーで鏡見てから物言えやぁ!!!」

「ニャアアアアア!!!」

 

刀は抜かず鞘ごと引っこ抜いた横一閃。

いきなり激昂された上に攻撃されるがキャサリンは背中を大きくのけ反らしてそれを回避。

だが二メートル以上の長刀は鞘に納められているにも関わらず、神裂は店の壁をぶち抜いて鋭く抉って振り抜いたのだ。

 

「キャサリン! おいちょっとアンタ! 何人の店壊してんだコラァ!! 弁償しな!」

「は! あ、すみません、なんか無性にムカついたのでつい……」

 

我に返って慌てて駆け寄って来たお登勢に謝る神裂。

しかしその隙に

 

「今の内じゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「悪いなねーちん!!」

「ああちょっと待ってよ二人共!!」

「!」

 

坂本が待っていたかのように土御門ど共に神裂の脇をすり抜ける。新八もすぐに彼等の後を追う。

 

「コラテメェ等!! どさくさに食い逃げしてんじゃねぇ!!」

「お登勢さんすみません! 後で払いに来ますからツケといて下さい!!」

 

怒るお登勢を置いて新八もまた二人の後を追って店から出て行ってしまった。

そして神裂も苦い表情を一瞬浮かべながらもすぐに

 

「逃がしませんよ坂本辰馬……」

「あ! アンタも逃げる気かい!」

「すみません壁の弁償はツケといてください!」

「いやツケられるかぁ!!」

 

そう言い残して彼女も坂本たちの後を追って出て行ってしまった。

残されたお登勢はすぐに店から表に出るも

 

「あっという間に消えちまった……ったくしょうがない、警察でも呼ぶか」

 

周りを見渡しても、もうどこにもいない、というよりこんな人だかりでは探すに探せないのだ。

夜のかぶき町はかぶき町のもう一つの姿。昼よりも開いてる店が多いので多くの人でごった返しになっているのだ。

 

「食い逃げされるわ壁壊されるわ、厄日だねこりゃ、今日は店閉めるか」

 

普通ならそんな真似されたら頭を抱えて落ち込むものなのだが、お登勢はたいして痛くなさそうにタバコを口に咥えて火を付ける。

 

すると

 

「うるっさいのよババァ!! 今何時だと思ってんだゴラァ!!」

 

2階からこれまたやかましい女性の声。

タバコを咥えながらお登勢が顔を上げるとそこには派手なネグリジェを着た若い女性が

 

「こちとら依頼も来ねぇわ金もねぇわで腹減っててイライラしてんのよ!! せっかく人が寝てる時に下でドタバタ暴れてんじゃねぇ!!!」

「うるせぇ 潰し!! 仕事が来ねぇのも金もねぇのも全部自業自得だろうが!! かぶき町に住むってんならこんぐらいの事でいちいち騒いでんじゃないよ!! それと今月の家賃まだ貰ってないよ! さっさと出しな!!」

「あ、急に眠気が、おやすみ」

「待てコラァァァァァ!!!」

 

ちょっと前から2階に住み始めて万事屋という奇妙な店を出している女性。

家賃を催促されると大人しく家の中に引っ込んでしまう。

こうしてお登勢は短期間で3度も逃げられる羽目になったのであった。

 

 

 

 

 

そして神裂から逃げた坂本達は人々の間をすり抜けながら夜のかぶき町を駆け巡る。

 

「あのネェちゃん久しぶりに会っても何も変わっておらんのぉ! あの堅物な所は”ヅラ”そっくりじゃき!!」

「それでどうする坂もっさん、向こうさんどうやら本気の様だぜ、何せあのねーちんを出してきたんだからな」

「アハハハハ!! まあ成るように成るじゃろ!!」

「ちょっとぉぉぉぉ!! 僕にもちゃんと説明して下さいよコレ!!」

 

坂本と土御門にやっと追いつきながら新八は彼等に向かって叫ぶ。

 

「なんなんですかあの人! 坂本さんに対して凄い怒ってたように見えましたよ!」

「女ってのはたまに無性にイライラする時があるんぜよ、そういう生き物だから仕方ないんじゃ」

「ぱっつぁん、女の子の日って知ってるか?」

「はっ倒されてぇのかテメェ等! アレ明らか別件でキレてただろうが!!」 

 

走りながらもツッコミは忘れない新八に坂本は振り向く。

 

「あのネェちゃんはきっと追手じゃろう、わしがここば連れてきた嬢ちゃんを取り返しに来たついでに、わしの始末の両方を任されとるかもしれん」

「取返しにってどういう意味ですか!? それに始末って!」

「早い話、わしはあのネェちゃんがいる組織からあの嬢ちゃんを買い取らせてもろうたんじゃ」

「買い取ったぁぁぁぁぁぁ!?」

 

突然の告白に新八は驚く。女の子一人買い取ったなど傍から聞けば変な風に聞こえるからだ。

 

「最低だよアンタ! まさかこんなロリコンに協力していたなんて!」

「なにをー! わしはおりょうちゃん一筋じゃ! ガキンチョなんぞに興味あらんわ!! わしはただあの嬢ちゃんに外っちゅうモンがいかに広いか見せてやろうと思っただけじゃき!!」

 

新八の言葉を坂本は全否定しつつ後ろを振り向く。

 

「わしはちゃんとあそこの組織のボスと話しつけて来た筈なんじゃがのう、なんかの手違いで聞いとらんのか?」

「あの”女狐”の事だ、自分の駒に話す必要ないと判断しただろうよ。きっと禁書目録の方もアンタに買い取られた事なんて知りもせずにただの観光だと思ってるんだろうぜい」

「そりゃどういう意味じゃ?」

「”女狐”はハナっからアンタにイギリス清教の切り札を売る気はなかったって事ぜよ」

「ハハハハハ!! こりゃ一杯食らわせられたのう! 通りで安い買い物だと思ったんじゃあ!!」

 

土御門の話を聞いてようやく坂本は騙された事に気付いて大笑い。まんまとやられたと走るスピードを遅める。

 

「ならばあのネェちゃんにはそこん所詳しく聞いてもらわんといけんのぉ」

「あのねーちんが大人しく聞くとは思えんのだがにゃー」

「ちょっと二人共なんで急にスピード落としたんですか! 追いつかれますよ!!」

「大丈夫じゃ眼鏡君、わしにいい考えがある」

 

そう言って坂本は辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

「よし、決めたぜよ」

 

そして遂に坂本は足を止めて土御門と新八の方へ振り返る。

 

「わしら三人であのネェちゃんに勝つ」

 

その一言に土御門は立ち止まりながら面白そうに笑った。

 

「軍艦でも容易く落とせるあの”聖人”を相手に随分とデカく張ったな、坂もっさん」

「ぐ、軍艦を落とせるってどういう事!? あの人そんなに強いの!?」

「ねーちんは世界でもそうそういない聖人といういわば人を超えた人だ。学園都市に住むぱっつぁんにはわからないだろうが、この世界にはそういう化け物がわんさかいるんだぜい」

 

新八に簡単に説明しながら土御門はもう一度坂本の方へ振り返る。

 

「で、策は?」

「そいつはお前に任せるぜよ土御門、おまんはわしより賢い。わしが用意した武器を上手く利用してあのねぇちゃんを大人しくしてくれりゃあいいんじゃ」

「相変わらず面倒事はいつも俺か陸奥のねーちん任せだにゃー、それじゃあその武器ってのは?」

 

憎まれ口叩いてもどこか嬉しそうに言う土御門に、坂本は大きく両手を広げて

 

「これじゃ!!」

 

天に向かって力強く叫ぶ。

 

「このかぶき町こそが! 今のわし等にとっての最強の武器じゃ!」

 

口をポカンと開けて何を言っているのか理解できない様子の新八に坂本は振り向く。

 

「眼鏡君! かぶき町に詳しいおまんにも色々とやってもらうぜよ!!」

「かぶき町が武器ぃ!? 一体何をやるっていうんですか!?」

 

町そのものを戦力に利用とするという突拍子もない作戦に戸惑う新八。

しかし坂本は冗談ではなく本気でそう考えているのだ。

 

神の力の一端を持つといわれる聖人を相手にかぶき町を使って戦う事を

 

「すぐに見せちゃるきん、この坂本辰馬の力を!」

 

 

 

 

 

おまけ

教えて、銀八先生

 

「はいどうも、最近出番無いしヒマだったから思い切って他作品に出張したら女になった銀八先生です。それではいつも通り質問に答えようと思いまーす」

 

「一通目、感想欄からハンドルネーム「はまじ」さんからの質問」

 

『この作品での地球の国際情勢はどうなっているのでしょうか?銀魂の時代設定は、一応幕末になっているので、真面目に考えればイギリスなどは産業革命真っ只中の大英帝国時代に当たります』

 

「ズバリお答えします、基本海外も国内もオリジナルの時代設定です、リアルの方の歴史とごっちゃにしちゃうと銀魂っぽくなくなりますからね。ただ天人が地球にやって来てるって所を考えればリアルの方の歴史とは大分違うというのがおわかりだと思います。もしかしたら海外では中にはジャンプやらサンデーやらを聖書扱いして持ち歩いてる様な変な神父やらシスターとかいるかもしれません、え? 天人関係ない?」

 

 

「えーそれではニ通目ハンドルネーム「八条」さんからの質問」

 

『新八って補習組の中ではどの位成績が悪いのですか?』

 

「あー三バカ(上条・土御門・青髪)のちょい上ぐらいです、この時点での彼は能力関連に関してはすっかり諦めているので勉強も怠ってるみたいです」

 

「はいそれでは銀八先生の授業終わり、夏休みだからって羽目外すなよ」

 


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