禁魂。   作:カイバーマン。

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第五十二訓 相対すべき二人の出逢い

 

前回のあらすじ

上条の家のベランダにグラサンかけたモジャモジャヘアーが掛かっていた、そして吐いた。

 

「快援隊艦長、坂本辰馬?」

「そう、宇宙をまたに駆けて商いを行っちょるあの坂本と言えばわしの事ぜよ」

 

前回からほんの少し時が経ち、現在上条はリビングにて謎のモジャモジャこと坂本辰馬から名刺を受け取っていた。

 

「快援隊って言えば昔父さんから聞いた事あるかもな、宇宙で事業を行う事に関してはトップクラスの組織だって」

「アハハハハ! そうじゃそうじゃ! いかに宇宙広しといえどわしに敵う商人など滅多におらんわい! 強いて言うならフリーでやっちょる旅掛ぐらいじゃのう!」

「艦長はまるで使えないけど副艦長は人望も高い優れたリーダーだって」

「なんでぇ!? わしより”陸奥”の方が優れちょると思われとるじゃとぉ!? 陰謀じゃ! 陸奥の奴変な噂流してわしの地位を落として船奪う気じゃな!」

 

地球を飛び出して宇宙で商売を行う者は今時それ程珍しいものでもない。

現に上条の父親も普段は国内や外国で仕事をしているが時たま宇宙へ出張へ行く事もあると母親から聞いた事がある。そして宇宙から戻ると毎回上条の下に変な土産を送ってくることが通過儀礼となっていた。ベッドの上に置かれてる「宇宙怪獣ステファン」と名札の付いた珍妙な生き物の形をした人形もその一つだ。

 

「つうかなんでそんな宇宙の商人さんが土御門に会いに?」

「土御門とは昔からの縁での、その縁でちょっくら頼み聞いてもらおうとしたんじゃ」

「アイツも変な所で顔が利いてるんだな……で、その頼みって」

「一緒に人探し手伝ってもらいたくての」

「人探し?」

 

デカい企業のトップが友人に会いに来たと思ったら人探しの依頼? 小首を傾げる上条に坂本は「そうじゃ」と頷く。

 

「実は今ワシはイギリスっちゅう国からある女の子を連れて学園都市の観光に来とったんだじゃが、どこぞではぐれてしもうてのぉ、途方に暮れとったんじゃ」

「まあ広いからなこの街は、アンチスキルやジャッジメントに迷子捜索の通報は?」

「ああそれは出来ん出来ん、無理じゃ」

「へ?」

 

人探しなら警察組織に入っているアンチスキルやジャッジメントに手伝ってもらえばすぐ見つかるだろう、最近では真撰組という組織もあるらしいし。

しかし坂本は上条の提案をあっさり無理だと断定。

 

「学園都市側の警察に探させちょったら、わしとその子めんどい事になってしまうからじゃけ。最悪国外追放じゃしのうアハハハハハ」

「……もしかしてアンタ不法侵入で入りやがったんですか? このセキュリティ最高レベルの学園都市に……」

「おう、その辺は土御門に連絡して色々と手回して貰って楽に入れた」

「何やってんだアイツ本当に……」

 

事情を簡単に聞いて上条は頭を押さえながらテーブルに膝を突く。

よもや正規のルートでなく裏口からこっそりこの街に忍び込むとは、しかも協力したのが自分の友人だと聞いてますます困り顔になった。

 

「でもそこまでしてアンタに協力したって事は、アイツもそれなりの義理をアンタに持ってるって事だよな」

「土御門とは長い付き合いじゃ、じゃが付き合いの長さ関係なくわしゃあ心底アイツの事ば信じちょる。将来的にはワシの所で妹と一緒に働かせようと思ってるばい」

「宇宙の貿易商で働けるとか勝ち組じゃねぇか! 土御門のクセにこんなコネ持ってたなんて!」

 

自分もとんでもない組織のコネを持っている事に気づいていない上条はただただ土御門の就職予定先を聞いて嫉妬心を剥きだし、それを坂本がアハハハハと笑っていると、コンコンとドアを叩く音が玄関から聞こえた。

 

「噂をすれば土御門だなきっと」

「そうか、やっと帰ってきおったか。わしが出よう」

 

そう言って坂本は立ち上がると上条を見下ろす。

 

「そういえばまだおまんの名前聞いちょらんかった。なんて言うんじゃ」

「え? 上条当麻ですけど」

「そうか、こうして会えたのも一つの縁、また会う機会があったらよろしく頼むぜよ」

 

そう言って坂本は玄関に向かいながら最後にもう一度振り返って

 

「それではさらばじゃ、”とんま”!」

「いや聞いたばかりなのに名前間違ってるし!!」

「アハハハハ! 細かい事気にしちょったら禿げるぞ! アハハハハハ!!」

 

上条のツッコミを豪快に笑い飛ばしながら坂本は玄関のドアをガチャッと開けた。

 

すると次の瞬間

 

「へぶんッ!」

「うわ!」

 

ドアを開けた途端まっすぐこちらに吹っ飛ばされてきた坂本、慌てて上条は立ち上がって倒れた彼の傍に駆け寄る。

 

「おい坂本さん! しっかりしろ!」

「ううん……大丈夫じゃこれしきの事、しかしあの娘っ子、一体何者じゃ?」

「娘?」

 

ちょっとの間気を失っていたようだがすぐに目を覚まして頭を押さえながら上体を起こす坂本。

玄関先を指差し尋ねてきた彼に上条は玄関の方へ顔を上げると。

 

「次から次へと沸いて出てきおって」

「!」

 

その姿はかなり奇妙な恰好をした13~14歳ぐらいの少女であった。

黒いマントの中に黒い皮の装束を纏った色白で、魔女の様な先端の尖った帽子を被り右目に眼帯を付けた少女。

少なくとも上条はこんな相手と家に訪問する間柄になった覚えはなかった。

 

「誰だアンタ……」

「お前に名乗る名はないよ」

「!」

 

バシュッ!という音が聞こえると同時に少女から得体の知れない衝撃波が飛んでくる事を目ではなく気配で感じた上条。するとすかさず自分の右手を前に突き出した。

 

その途端

 

彼の右手からガラスが割れたような音が聞こえて正体不明の攻撃がかき消された。

 

「……」

「危ねぇ、なんか知らねぇが当たったらマズイ……能力者か?」

 

自分の攻撃が消滅した事に疑問も覚えずに無反応を示す少女に上条は先手必勝っと突っ込む。

 

「誰だか知らねぇし知り合ったばかりのこの人を助ける義理もねぇけど、家に土足で上がり込まれたら家主としてケジメつけねぇとな!」

 

一体どこから取り出したのかいつの間にか上条の右手には30cmほどの鋭い長針が掴まれていた。

それを突っ込みながらすかさず彼女の右肩に向けて投げるが、なんの動きも見せていない筈の少女の前で急に勢いを失ってポトリと床に落ちた。

 

「なんなんだアレは、だったらこの右手で直接!」

 

拳が届く範囲に入ると少女目掛けて上条はためいらくなく殴りかかる。

 

だが突然彼女の前方から再びあの原理の読めない衝撃波が

 

「ぐッ!」

 

右手を突き出していたおかげで衝撃波はまたもや消滅する。

その隙を呼んでいたかのように少女は彼女に飛び掛かり

 

「多少は戦いを心得ているようだが、まだまだ青いぞ」

「うお!」

 

今度は右でを出す前に顔前からあの衝撃を感じて後ろにぶっ飛ばされる。

どっちが天井なのか床なのかわからなくなってしまう程回転しながらリビングに倒れた上条。しかしすぐに腰を押さえながら立ち上がる。

 

「ったく、一体全体どういう事……って」

 

立ち上がって玄関を見ると上条は目を見開いて驚く。

そこには先程いたはずの少女の姿がどこにもないのだ。

 

「どこに行ったんだ……坂本さん見えたか?」

「いや、一瞬で消えよった。まさか透明人間になれるっちゅう事か?」

「透明にでもなられたらマズいな……一体どこに」

 

上条が坂本と共に辺りを細かく見渡していると……

 

「どこを見ている、下だ」

「!」

 

足元から聞こえた声に上条はすぐに防御姿勢を取るためにバッと床に向かって右手を突き出す。

 

しかし

 

「やっと気付いたか」

「……へ?」

 

足元をよく見るとそこには自分が持っている長針程の大きさしかない先程の少女と同じ姿をした小人が腕を組みながらこちらを見上げているではないか。

これにはさすがに上条も言葉を失う。

 

「……もしかして先ほど俺と戦っていた方でしょうか」

「うむ、なんか知らんがこうなった」

「はい!?」

「それと」

 

自分の姿が可愛い妖精さんサイズになっている事に慌てもせずに少女は冷静に上条に尋ねた。

 

 

 

 

 

「私は誰なんだ、ここは一体どこなんだ。何よりお前等は誰なんだ」

 

 

 

 

 

彼女の質問に上条は口どころか体まで固まって動けなくなってしまった

 

 

 

 

 

数分後

 

「で、アンタはどうしてここに?」

「知らん、気が付いたらこの部屋のドアの前に立ってた」

「坂本さんを襲った理由は?」

「目を開けたらいきなりモジャモジャの怪しいオッサンが現れたから反射的に撃った」

「俺に襲い掛かったのは?」

「最初にお前の顔を見たらなんかこうイラッと来た、だから襲った」

「……」

 

上条と坂本はちゃぶ台の前に隣り合わせで胡坐を掻きながら、そのちゃぶ台の上にちょこんと座っている30cmほどの少女に尋問を始めていた。

 

しかしまるでわけがわからなかった。どうやら記憶を失っているらしいが上条はこんな少女と会った事もないしなぜ自分の部屋の前にいたのかすら意味不明だ。

眉間にしわを寄せる上条とは対照的に坂本はヘラヘラ笑いながら小さな少女を指差す。

 

「こりゃまた随分小さくなっちょるぞ、わしもこんな力あれば女湯覗き放題なんじゃがのー」

「気安く指を突き付けるな、私を誰だと思ってる。知ってるのであれば頼むから教えてくれ」

「上から目線で言っちょるのか下から目線で言っちょるのかわからんぞアハハハ」

 

こちらに好戦的な態度を取って来ながら頼み込んでくる少女を坂本は笑い飛ばしながら隣でしかめっ面を浮かべている上条に振り向く。

 

「ところでとんま、これはわしが見てる夢じゃないんじゃな?」

「とんまじゃなくて当麻だって……俺もそう思いたいですけど、今目の前で起こっている事は間違いなく現実だ……」

「学園都市もしばらく見ない内にこげな妖精も作れるようになったんじゃなー」

「いや学園都市に住んでる俺だって初めて見たよ」

 

そう言って上条は少女をジッと見つめる。

 

「本当に記憶が無いのか? 自分の名前やさっき使ってた変な能力ぐらいはわかるだろ?」

「いや全然わからん、色々と頭の中でイメージしてたら勝手に出てきた。なんだアレ、怖い」

「俺に聞かれてもわかるわけねぇだろ! ていうか俺の方が怖かったんだな!」

 

質問に質問で返してきた少女にツッコミを入れながら上条は「うーん」と首を捻りながら自分の右手を見つめる。

 

「試しに俺の右手で触ってみるか?」

「右手? そういえばお前の右手、触れた途端あっという間に私の攻撃を消滅させていたな、気にはしなかったが特殊なのかその手は」

「ああ」

 

右手を見つめながら上条は少女に返事する。

 

「俺の右手は異能の力、まあいわゆる能力者の能力とかであれば打ち消す事が出来んだよ。効果範囲は右手の先だけだけどな。よくわかんねぇけど」

「よくわかんないのに使ってるとか、お前怖いな」

「お前にだけは言われたくねぇよ……」

 

自分の能力はおろか素性さえ把握していないクセに何言ってんだコイツと上条が少女にジト目を向けながらその右手を伸ばす。

 

「だからお前がこうなってる原因が異能の力が働いてるってんなら俺が触れば」

「おいバカ止めろ、いやらしい手つきで私に触れようとするな」

「いやらしい手つきなんてしてねぇよ!!」

「アハハ、男子高校生の手なんぞ存在だけでいやらしいからの、わしの手の様に紳士的にならんと」

「人の右手を猥褻物扱いしないでくれます!?」

 

坂本に叫びながら上条はちゃぶ台に身を乗り出して少女に触れようとする。だが少女はこちらに背中を向けてだっと駆け出し

 

「コラ、人のちゃぶ台の上で逃げ回るな!」

「お前の怪しくていやらしい右手に触られたくなどない。それにこうして逃げていると何か思い出しそうな、確か私はとある民家の猫からこうして逃げ回りながら穴の空いたチーズを食べる為に仲良く喧嘩して……」

「それただのトムとジェリーだろ!」

 

チョロチョロ走り回る少女、しかし何度も右手を伸ばしながら上条は何とか捕まえようとする。

そして遂に

 

「取った!」

「しまった! 逃げろニブルス!!」

「だからお前はジェリーじゃねぇ!」

 

右手ではなく左手の方でガシッと彼女の小さな体を掴むと、指の間から逃げ出そうとする少女の頭に右手を置く。すると

 

「ってうおぉ! ぐえ!」

 

その途端、ボンっといういかにもな音と共に彼女のが手の中で一瞬で元のサイズになったのだ。

突然目の前で大きくなった彼女に驚く上条をそのまま少女は馬乗りの状態で押し潰す。

 

「おお戻った。よくわからんがお前の右手があれば小さくなっても元に戻れるらしい」

「いいから俺の身体からどいてくれ……お前のその恰好を下から見上げると俺の頭の中の煩悩がはち切れそうだ」

「私に欲情するな、すぐにどく」

 

年頃の男子高校生には目の毒になりかねない彼女の恰好を下から見るという構図。

さすがに上条も気恥ずかしそうに注意すると彼女はすぐに腰の上からどいてくれた。

 

「で、記憶の方は?」

「全然思い出せん」

「戻ったのは体だけか、こりゃ俺の右手でも無理だな」

 

肝心の記憶は蘇っていない事に上条はガッカリしていると、少女はふと先程自分が座っていたちゃぶ台の上に置いてあったある物をジッと見つめる。

 

「おい、あれはなんだ」

「あ? あれってそりゃパンに決まってんだろ」

 

買い物帰りに吹寄が間違えて自分の買い物袋に入れてしまった(と、上条は思っている)「脳の活性化を促す超頭脳パン」だ。少女はしばしそれを見つめると吸い寄せられるようにゆっくりと手を伸ばして掴み上げ

 

「なぜだか知らんが私の身体がすぐにこれを食べろと命令しているような気がする。もしかしたらこれを食べれば記憶が」

「いやいやいくらなんでも脳が活性化するとかいうふざけた名前のパン食べて記憶が蘇るわけが」

「私の身体を疑うのか、さっきから叫んでいるのだ腹からグーグーと呻くような声で」

「それお前が腹減ってるだけだろうが」

 

上条がツッコむ中少女は腹の虫の命令に赴くままにそのパンをモグモグと食べ始める。

すると突然ガッと自分の頭を手で押さえて

 

「あ、なんか来るぞ! なんか今私の脳がすっごい活性化してる気がする! なんか思い出しそう!」

「マジでか! こんなふざけたパンで記憶喪失って治るもんなの!? ていうかそんなんで治っていいの!?」

「ヤバいぞこれは、今私の脳が激しく訴えてかけている!」

 

そう叫ぶと少女はおもむろに自分が被っていた三角状の帽子に手を伸ばして取る。

 

「そう、私が被っているこの帽子の内側を見ろと」

「え、それってまさかお前自分の帽子に自分の名前を!」

 

もしかしたら自分の所有物を失くさないよう名前を書いたのかもしれない。

せめて名前だけでも、少女と上条は淡い期待を持ちながら帽子の中身を覗き込む。

 

「こ、これはッ!」

 

するとすすぐに少女は帽子の淵に書いてある言葉を目に焼き付ける様に凝視した。

 

「UNIQLO≪ユニクロ≫!!」

「いやそれただの売ってた店の名前ェェェ!」

 

名前かと思いきや販売元のお店の名前だった。叫ぶ上条を尻目に少女は「ふむ」とわかったように頷き

 

「私の名前はUNIQLOだったのか、うむ、響きは悪くないし良い名だ」

「なわけねぇだろ! なに自分の名前みたいに誇らしくてしてんだよ! それただお前が記憶失う前にユニクロで買って来ただけだからな! つーかなんでユニクロにこんな帽子売ってんの!」

 

えらくユニクロという言葉に好感を持っている少女に上条がツッコんでいると、彼女はまた発見する。お次は上に羽織っていた黒いマント。

 

「む、このマントの内側に何か書かれている!」

「なに!」

 

今度こそ、と期待しつつ上条は彼女のマントの内側を覗き込むと

 

「なんとUNIQLOだ!!」

「またユニクロかよ!! どんだけユニクロ好きなんだよ!」

 

こちらもまたユニクロ製、そして少女は開き直った様子で

 

「身に付けている物に二つとも名前が入ってたらそれはもう本人の名前で間違いないだろ、むしろそうであるべきだ」

「なにわけのわからない事言ってんだよ! お前ユニクロだぞ! そんな名前で学校行ったら即イジメられるぞ!!」

「どうかな、実はこっそり自分が着ているこのやたらと露出の高い装束の内側を見てみたのだが」

 

そう言って少女は限界ギリギリまで肌を隠していない黒い装束の、胸の部分をちょこっとだけ裏返して上条に見せつける。

 

「そう、UNIQLOだ!」

「なんでドヤ顔で溜めて言った! いやもうわかってたから! どうせその変な服もユニクロなんだろってわかってたから!!」

 

結局少女の事で分かった事と言ったら全身ユニクロでコーディネートしているだけだった。

上条が落胆してガックリ肩を落としていると

 

ふと坂本が少女の足元にある1枚の羊皮紙が落ちている事に気づく。

 

「おい娘っ子、おまんの足元に妙な手紙みたいなモンが落ちてるぞ」

「む、気づかなかった、どうやら私がマントを翻した時に出てきたモノらしい。しかも何か書かれているぞ」

「何かしらの記憶が蘇るキッカケになればええんじゃがのぉ」

 

彼に言われて少女は初めて気づいたのか、落ちていた手紙を両手で広げてまじまじと読んでみた。上条と坂本の彼女の背後に回って一緒に覗き込む。

 

『オティヌスへ、最近のあなたはやたらとユニクロ系列のブランドを進めて来るので仲間一同ウンザリしています。

終いには全ての世界はユニクロを中心に回るべきだと世界改変までしようという始末にこちら側では「アイツ本当はただのユニクロの回しもんなんじゃねぇの?」とか「ぜってぇあの眼帯もユニクロ製だぜ」だの「ユニクロに憑りつかれた哀れな魔神」「ユニクロバカ」「むしろ存在がユニクロだ死ねバカ」という酷い陰口で叩かれている事も気付いて下さい。

というより気づいていますよね? 薄々気づいているのに気づいてないフリしてましたよね? たまに目元を赤くしてるのはちょっと裏で泣いてたって事ですよね?

もうそんなんなるならいい加減ユニクロ止めて別の所で服買えばいいんじゃないですか? 変にこだわるからいけないんですよ、もっと視界を広げて他の服屋も回ってみてください

ロキより

p.s ユニクロなんかよりしまむらの方が素敵でいい店だと思いますので今度行ってみてください』

 

長く丁寧に書かれたその手紙をじっくり読み終えた後、少女はスッとその手紙を上に掲げ

 

「誰がしまむらなんぞに行くかァァァァァァ!!!」

「そっちぃ!?」

 

力いっぱい叫びながら思いきり床に叩きつけた。

 

「手紙読んでもほぼ内容はわからなかったが私がユニクロが好きなのはわかった。これでようやく合点がいった、間違いなく私の名前はUNIQLOだ!」

「違ぇよバカ! 思いきり最初に「オティヌスへ」って書いてあんだろ! こっちがお前の名前だ!」

「なんかダサい名前だな、やっぱUNIQLOがいい!」

「お前どんだけ頑なに名前をUNIQLOにしたいんだよ! そうやってユニクロ贔屓にしてるから仲間からもドン引きされてたんだろうが!」

 

自分名前に違和感を覚えて新たな名を名乗ろうとする少女を叱りつけながら上条は指を突き付ける。

 

「お前の名前はオティヌス! はい決まり!」

「イヤだそんな変な名前」

「ワガママ言うんじゃありません! 受け入れろオティヌス!!」

「じゃあ百歩譲って柳井正で」

「いい加減にしねぇとはっ倒すぞ!!」

 

少女改めオティヌスは未だ納得していない様子でこちらにムッとした表情を浮かべるが上条はジト目で睨み返す。

 

「名前が分かったんならもう病院でも何でも行って来いよオティヌス、治療すれば記憶戻るかもしれないんだし」

「いや、私の記憶がほんのちょっぴり蘇ったのはこのパンのおかげだ」

 

そう言いながら食いかけのパンをまた食べ始めるオティヌス。

 

「それにこの街の治療など私には無意味だ、っと私の身体が言っている」

「またわけの分かんねぇ事を、坂本さんコイツの足持って。俺が両手両足木に縛り付けてそのまま病院連れて行くから」

「ハハハハ、ええじゃろ、病人助ける事もまたええ暇つぶしじゃ」

「バカ止めろ! 人の足を勝手に掴むな!」

「暴れるちょったらダメじゃぞ、もしかして注射が怖いんか?」

「ったくそろそろもう学生が出歩いちゃいけねぇ時間だってのに」

「止めろお前等ぁぁぁぁぁぁぁ!! 私の傍に近寄るなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

抵抗の意志を見せるオティヌスだが女の子ではやはり男二人を相手にするのは不利であって

 

いたいけな少女に盛りがちな男子高校生といつも盛っているおっさんがジリジリと歩み寄り……

 

 

 

 

 

 

「はぁ~あ、どこに行ったんだあの人」

 

場所が変わって数分後。

一方こっちは男子寮へ続く為の通り道である公園。夕暮れ時の中を上条の悪友の一人である土御門が辺りを散策していた。

 

「帰ってみたらドアの前にもどこにもいないし、探すこっちの身にもなってほしいぜい」

 

恐らく坂本の事を探しているのだろう、ブツブツと文句を言いながら公園近くを探していると

 

「「えっほえっほ」」

「止めろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ん?」

 

背後から何か聞き慣れた声が二人分と女性の悲鳴が一つ。土御門はおもむろに後ろに振り向くと

 

「上条司令官! 未だ病院が見えないであります、どうぞ!」

「落ち着け坂本軍曹、まだ外に出てきたばかりだ。これから街中へ突っ込む、病院の発見はそれからだ、どうぞ」

「了解! これから人の賑わう街道へ突撃を開始します! どうぞ!」

「なにがどうぞだ! 大衆の目の前で私を晒し上げにする気かぁ! 止めろこんな格好人前に晒したくない! そういう趣味は持ち合わせておらん!!」

「司令官! 捕虜が何か言っておりますどうぞ!」

「その恰好で何言ってやがんだコノヤローっと伝えておけ」

「了解! その恰好て何言ってやがるんだコノヤロー!」

「私のユニクロファッションを侮辱するだと! 貴様等それは私だけでなくユニクロに対しての冒涜だぞそれは! 謝れ! 私ではなく柳井正に謝れ!!」

「と言っております司令官!」

「ごめんなさい柳井会長! お仕事頑張ってください!」

 

丁度いい太さの棒に両手両足を紐に結ばれた少女を、見知ったオッサンと少年がその棒を肩で担ぎながら怒れる少女を左右にブランブラン揺らしながら仲良く走っていた。

 

「え、ど、どういう事コレ……!」

 

土御門の頭に電流が走る。

 

「カミやん! 坂もっさん!!」

「あり、アレ土御門じゃね?」

「本当じゃ、全く客ほったかしにしてなにやってたんじゃおまんは」

「お前等こそ何やってんだ! 自分を客観的に観測してみろ!」

 

少女を拘束したまま何処へ行こうとしている二人に叫んで土御門は急いで駆け寄る。

そして彼等が捕まえている少女を見ると今度は顔からダラダラと汗を流し始め

 

「コ、コイツは……!」

「ああ、これオティヌス、よろしく」

「よろしくな金髪グラサン、それと助けろ」

「オティヌ……! 知ってるのかカミやんコイツの事を!?」

「さっき知り合ったんだよ、ユニクロ好きの記憶喪失者だ」

「き、記憶喪失!? 宇宙の辺境であの男に敗れた事は聞いたがどうして生きて学園都市に……」

 

オティヌスを見ながら焦った表情で何か小声で呟く土御門に上条は「ん?」と反応する。

 

「もしかしてお前オティヌスの事知ってんの?」

「え?」

「だったらコイツの事教えてくれねぇか、コイツ自分自身の事ほとんど忘れていて」

「おおなんじゃ土御門、この娘っ子と知り合いじゃったんか」

「なんだその金髪グラサンは私の知り合いだったのか、早く教えろ、私が今まで何をやっていたのかを」

「いやその……」

 

上条と坂本、二人に宙づりにされているオティヌスに言い寄られて土御門は冷や汗だらしながら後頭部を掻くと

 

「わ、悪い人違いだったにゃー……俺の知ってるオティヌスとはちょっと似てただけだったぜよ」

「ええ、なんだよ期待持たせるなよな」

「すまんすまん、そういや俺の知ってるオティヌスの特徴はレベル10で光属性で天使族、攻撃力4000守備力3500のシンクロモンスターだったぜい」

「なんか対戦カードゲームに出て来そうな特徴だな!」

 

後頭部を掻いたまま適当な事を言って誤魔化す土御門。それでも上条たちは信じた様子でガッカリのため息。

 

「やっぱ病院に連れて行くか軍曹」

「そうでありますな司令官!」

「ところで場所代わってくれね? 後ろだとコイツが左右に揺れる度にちょっと目移りしちゃって……」

「ハッハッハ!! まだまだ青いですな司令官は! しかしわしはこんな娘っ子のケツよりもっとムチムチした女性のケツを拝みたいであります!」

「それは俺も同じ考えだ軍曹」

「ハッハッハ!! 今夜はどこかで呑みながらムチムチ女性の素晴らしさを語り合いますかな隊長!!」

「いや待て待て待て! カミやん! 坂もっさん! 頼むからちょっと待つぜよ!!」

 

勝手に二人で盛り上がって再び病院へ向かおうとする上条と坂本を再び止めに入る土御門。

 

「そ、そいつは多分病院に行っても治らんと思いますたい、ていうかむしろ治らない方が……とにかく根拠はないがそいつは恐らくなんらかの術で記憶を失っている可能性がある。どうせ病院に行っても治療は出来ないぜよ」

「は? 術ってなんだよ、精神能力系の能力者に記憶奪われたのか?」

「んーカミやんにこれを教えるのはちとマズい気がするが、でも言わねぇと分かってもらえないし……」

「なんだよ、勿体ぶらずに言えよ、こっちはもう肩が痛くてしょうがないんだよ」

 

困り顔で悩んでいる様子の土御門に、オティヌスを担ぐ事にそろそろ疲れてきた上条が早くしろと催促。

しばらくして土御門は緊張した面持ちで上条に小声で

 

「……”魔術”の類なら記憶を奪う事も可能だ」

 

 

 

 

 

「あー魔術か、てことはコイツ”魔術師”に襲われたのか」

「へ?」

「だとすると確かに病院じゃ治らねぇな、記憶を奪った奴を倒すかコイツが施された術式そのものを破壊しねぇと、あれ? 俺の右手で触ってもダメだったって事は遠隔操作型なのか?」

「え、ちょ、カミやん。驚かないの? ていうかやたらと詳しくね?」

「いやだって……」

 

魔術という言葉に分かった様子で頷く上条に土御門は混乱する。

学園都市に住みながらこんなオカルトをあっさりと信じ込むとは一体。

そして困惑している彼に上条はまたあっさりと

 

「前に朧さんから聞いた事あるから」

(何話してんだあの男ォォォォォォォ!!!)

 

 

 

 

 

おまけ

教えて銀八先生

 

「はーい、銀八先生でーす。それでは最初の1通目、ハンドルネーム「八条」さんからの質問」

 

『銀さんに質問ですが銀さんは食蜂とは昔からの付き合いですが彼女が中一から中二であのボディーに成長していた時はどう思いましたか? ムラムラしましたか?』

 

「あーありましたねそんな事、まあ銀さんは気づくのだいぶ遅かったですけどね、ふと一緒にいたら「あれ? コイツなんか色々デカくなってね?」と最近気づきました。まあションベン臭いガキの頃から世話してやってるんでね、もう細かな成長なんかいちいち気にしない関係なんですよ俺達は。当然ムラムラも起きません、いや本当に起きてませんから」

 

 

「続きまして2通目ー、ハンドルネーム「サイコペス」さんからの質問」

 

『上条と新八は同じクラスでしたけど仲良いんですか?』

 

「はい、確かに二人は同じ学校同じ学年同じクラスの生徒です。けど別にそこまで仲良くなんかありません、せいぜいたまに話す程度の仲です。プライベートで遊んだ事は一切ありませんしただのクラスメイトの一人とお互い捉えてるでしょうね、今後付き合いが増えれば変わったりするかもしれませんね」

 

「それでは銀八先生のコーナー終わりまーす」

 

 


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