禁魂。   作:カイバーマン。

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第五十訓 出発点にして終着点

 

私は何か問題を考えたい時、

心の引き出しを一つ開ける。

問題が解決するとその引き出しを閉め、

また次には別のを開ける。

眠りたい時には

全部の引き出しを閉める。

 

ナポレオン・ボナパルト

 

毎晩眠りにつくたびに、

私は死ぬ。

そして翌朝目をさますとき、

生まれ変わる。

 

ガンジー

 

 

地球から遠く離れた辺境の星。

毎日の様に起こる災害、とめどなく落ちて来る隕石によって荒れ果てた大地しか残っていない死を待つだけの星

そんな誰も近づく事さえ出来ない星で

 

二つの災害がぶつかっていた。

 

「おうおうおう、向こうは随分と盛り上がってんねぇ」

 

空から降って来る小さな隕石を気にも留めずに呑気に呟く声。

声の主は見た目は極々普通の少年の姿をしていた。

黄色と黒を基調としたぴったりとした上着とズボンを着用し、肩にはストールを纏っている。

 

「”世界の理を脱したモン同士の戦い”か、いやもうあれは戦いでもなんでもねぇか」

「天の裁きだ」

 

隕石の残骸に腰を下ろしながら呟いている少年の背後からシャンっと何かが鳴る音と共に男性の声が

 

三度傘を被り首には大きな珠の付いた数珠、白と黒のみ使ったその服装と手に持つ錫杖からして一見僧に見えなくもないが、三度笠の下から覗かせる目つきは僧とは思えない程殺気を放っていた。

 

「そして貴様もまた裁きを受けるがいい”雷神トール”」

「どうも”朧ちゃん”。やっぱりしぶといね」

 

二人は顔見知りだったのか、トールと呼ばれた少年は笑みを浮かべ、朧と呼ばれた男は以前彼を睨み続けていた。

 

「全能と呼ばれるに値する力を持ちながらも生身の人間であるお前では、この様な星では長くは生きられまい。何故ここへ来た」

「そりゃアンタ等がどこへ行っても現れるからだよ、だから思い切って宇宙へ羽ばたいたっていうのに、まさかここまで追って来るとはなぁ。もしかして朧ちゃんストーカー?」

「どこへ逃げようと我々の手からは逃げられんぞ」

 

朧は錫杖で地面を突きながら彼に近づく。

 

「貴様等がどこまで羽ばたこうとも、”鴉”からは逃れられない」

「逃げる? 俺はハナっから逃げてなんかいねぇよ?」

 

そう言ってトールは立ち上がると朧の方に振り返って得意げに笑って見せた。

 

「ここならようやく俺は本気を出せるからだよ、地球じゃ狭すぎるんでね。周りに被害が及ばないよう微々たる力しか発揮できねぇんだわ。逃げたんじゃなくて、アンタ等とは本気で戦いたいと思ってたからここに来たって訳」

「……ならば神の力を持つ者よ、静かに朽ちて行くであろうこの星で」

 

朧は錫杖に仕込んでいた刀をゆっくりと抜いた。

 

「誰にも看取られる事無く孤独に死んでゆけ」

「いやー朧ちゃんは相変わらずかっくいいねー、アンタとは一度本気で戦いたかったら嬉しいぜ」

 

どうやら戦いに入ろうとしている朧を見てトールは虚勢でもなんでもなく純粋に楽しそうにする。

 

「まずはあの”災害二つ”とまともにやり合う為のいい経験値稼ぎになるからな」

 

トールは朧から目を逸らしてある方向を見据える様に呟く。

 

隕石が降り注ぐ星でぶつかり合っているのは彼等だけではない。

もっととてつもなく大きな存在がぶつかり合っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

トールと朧から数百キロ先で離れた場所で、彼等の言う災害がぶつかり合っていた。

 

街一つを容易に破壊出来る程の爆発があちらこちらで発生し、星の寿命を隕石の落下衝撃よりも縮めるであろうとてつもない威力が大地を削り取っていく。

 

そんな正に大災害ともいうべき場所のど真ん中で

 

”彼等”はまるで何事も起こってないかのように立っていた。

 

「つくづく嫌になるよ、お前が。小さな石ころにもなれ、巨大な星そのものにもなり得るその存在が」

 

そう呟くのはなんと見た目十三、十四ぐらいの小柄な少女であった。

前の開いた内側は赤く表側は黒いマントの中に黒い皮の装束を纏った色白の少女。

魔女の様な先端の尖った鍔広の帽子を被り、右目を覆う物々しい眼帯。

 

「”魔神”である私に対してここまで抵抗出来るのはお前ぐらいしかいないだろうな」

「……どうでしょうね、世界は広い。あなたが考えるよりもずっと」

 

少女の前にゆらり現れたのは背の高い男。被り傘と口元には鴉をモチーフにした仮面を付けて素顔を隠している。

首から慕うを覆っている衣の下から何か取り出そうとする男を見て少女は、指一つ動かさずに。

 

先程の凄まじい爆音が再び発生する。1回ではなく数千数万回の爆音があまりにも短い間隔で次々に炸裂して一つの総音になったような奇妙な音。

 

ただの爆発ではない、というより爆発なのかもわからない、得体の知れない攻撃が男を襲う。

だが

 

彼女のその”攻撃と呼ぶのが妥当な存在”が彼に触れた瞬間、まるでガラスが砕けたような音と共に消える。

 

「私の力さえも受け付けないその体は便利なものだ」

「そうでもありませんよ」

 

男の羽織った黒い羽根の装束が虹色に光ると同時に

 

なんの動作も見せずに少女の背後に現れたのだ。

 

「この身体である限り私は誰の加護も受け付けられない、例え神の加護であろうとも私の身体はそれすら断ち切ってしまうのです」

 

男は衣の下からチャキっと刀を左手で取り出す。

 

「不幸、という言葉が相応しいかもしれないですね。私が私でいる限り永久に脱する事の出来ないモノ、つまり私は生き物が求める幸というモノをこの手で掴む事は出来ない」

「だからこそお前はその力がある限り私に勝つという事は出来ないんだよ」

 

抜いた刀を見せた瞬間男の身体がズンッ! と大きな音を立てて後ろに大きく下がった。

さっきからなんの力が働いているのかも見せない少女は呆れる様に彼の方へ振り返った。

 

「魔神として得た無限の可能性というのもは成功する可能性も失敗する可能性両方持っているという事だ。ゆえに私はどれだけ力を蓄えても結果は五分五分になってしまう、世界を壊す力持っていながら容易に動けないのもその為だ。だがお前の持つ『不幸』は私のこの可能性も歪めてしまうようだな」

 

次の瞬間、少女の姿が一瞬にして男の目の前に現れたと思ったら。

彼の羽織に手を伸ばして豆腐に包丁を入れるかのようにスッと胸を突き刺した。

 

「お前が私を突け狙うのは自分が最も恐れる相手だからだろう、何せお前はその不運さゆえに私の失敗を消して成功の可能性を上げてしまうのだから」

 

小首を傾げながら少女は男の胸を突き刺し周りに鮮血が溢れる事さえ気にも留めずに。

 

彼の身体の中にある心臓を握った。

 

「こんなものか?」

 

返り血を浴びながら顔色一つ変えずに少女は呟く。

 

「世界の理を狂わせてしまう程の強大な存在とは、蓋を開ければこの程度だったのか?」

 

失望したかのような反応を見せながら少女は鼓動を鳴らす心臓をそっと握り潰そうと力を込めようとする。

 

だがそんな状況でありながらも男は

 

仮面の下になんの感情も見せずに真っ直ぐ彼女を見据えるだけだった。

 

次の瞬間

 

「がはッ!」

 

真っ赤な血を口から吐き出し、苦悶の表情を浮かべた。

 

”男の心臓を握りしめていた少女の方が”

 

「私の身体は例え神であろうとその力を断ち切れる」

 

おびだたしい血を吐きだす彼女を前に、男はやっと口を開いた。

 

「その身体に触れているあなた自身もまた、己の力から断たされている」

「ごほっごほっ! まさか……!」

「私の心臓を手にしてる時点で、既にあなたは魔神などと呼ばれる存在ではない」

 

少女は視線をのどに詰まった血を飛ばしながら、顔を下ろして自分の身体を見下ろす。

自分の胸の部分に刀が綺麗に貫通していたのだ。

その刀を左手で握りながら男は彼女の左目を覗き込む、

 

「どうですか、久しぶりに”人間”という存在に戻れた気分は」

「お前最初からこれを狙って……! くッ!」

 

少女は持てる限りの力でまだ手に持っている彼の心臓をグチャリとトマトの様に握り潰そうとする。しかし男は無表情で左足で構えて彼女の腹を

 

「がはぁあッ!!」

 

何本の骨が折れる感覚を味わいながら少女は後ろに吹っ飛ばされた。

それと同時に心臓に刺さってた刀も抜ける。

 

「ぐぅ!」

 

ゼェゼェと荒い息を吐きながら少女は倒れた。もはや虫の息だ。

久しぶりに死というモノを感じながら少女の身体から生気が無くなりかけていると。

男がザッザッと足音を立てながら倒れている彼女の下に歩み寄ると

 

先程少女が開けた自分の胸に自ら手を突っ込んだ。

 

「な、にを……」

 

胸から血が流れるのも気にも留めずに男は自分の胸からあるモノを掴みだして取り上げた。

 

自ら心臓を引き抜いたにも関わらず、男は眉一つ動かさず未だ健在で合った。

それどころか開いた傷口がみるみる塞がっていく。

 

「お前は一体……」

 

数十秒で絶命するであろう少女に男は自分の心臓を左手で握りながらしゃがみ込んだ。

 

「まだあなたにはこの世界で役割が残っています、魔神の力は失われるでしょうがあなたはこの世界に必要なのです。より私が長くこの世界にいる為に」

「ゃ……!」

 

普通に聞けば意味不明だが、少女だけはすぐにわかった。彼が自分にどんな細工を仕掛けるのかを

 

そして必死に拒もうと声を出そうとするが擦れ声しか出なかった

 

「あなたにこの世界に残る理由を与えましょう」

 

男は彼女にしか聞こえないであろう小さな声でそっと耳元に顔を寄せて

 

「………………」

「!」

 

耳元で聞いた男の言葉を最後に、少女が最期何かを言おうとするも

 

瞬く間に意識を失うのであった。

 

 

 

 

 

学園都市には窓のないビルという建物がある。

しかしその存在を知る者は学園都市に住んでる住人でさえほとんどいない。

そもそも建物なのかどうかもわからない

周りから隔離され、あらゆる侵入を防ぐその要塞の奥深くにあるモノは

 

「まだご健在のようですね、あなたは」

 

魔人と名乗る少女を相手にして数刻後、仮面の男はそこにいた。

 

ドアも無く、階段も無く、エレベーターも通路も無い。室内と呼ぶにはあまりにも広大な空間には一切の照明がない。

それでいて部屋は星のような光に満たされていた。その正体は四方の壁に設置された無数のモニターやボタンが灯す光である。

数十万にも及ぶコードやケーブル、生命を維持する為のチューブ類が伸びて部屋の中心に集まっていた。

部屋の中央には巨大なビーカー、赤い液体が満たされたその容器の中には緑の手術衣を着た人間が逆さに浮いていた。

銀色の髪をなびかせ、中性的な顔立ちの人間。

実の所人間なのかすらわからないが、人間以外に表現する言葉は見つからないのだ。

 

「私も『何度も死ねる君』と違い『中々死ねない体』でね」

 

その人間はやって来た客人を相手に容器の中から静かに歌う様に

 

「魔神との戦いは如何だったかな」

「中々の手練れ、私が勝てたのも紙一重でした」

「君にそこまでの評価を付けてもらえれば彼女も浮かばれよう」

「まだ死んではいませんよ、私が殺したのは魔神としての彼女です」

 

男は容器の中で僅かに微笑む人間を眺めながら左胸に手を置く。

 

「強者ゆえに人は慢心を抱くもの、それは魔神とて同じだったようでした」

「慢心ゆえの過ちか、彼女が完全なる魔神となっていれば」

「それを防ぐ為に私が自ら出向いたのです」

 

人間の言葉を遮るように男が口を開いた。

 

「アレを辺境の星まで追い詰めるのは骨が折れました。しかも余計なモノまで付いてくる有り様でして」

「雷の神か」

「彼もまた中々の手練れだったらしいです」

 

男の足元にはよく見ると片膝を突いて首を下げている別の男が見えた。

辺境の星で雷神トールとやり合っていた朧である。

 

「手傷を負わせましたがやはり相手はあの雷神トール、あなたと魔神の場所に向かわせるのを防ぐ為の時間稼ぎしか出来ませんでした。このような失態を行っておいて生き長らえてしまった罪、いかような罰でもウケる所存です」

「構いません、元より我々の狙いは魔神ただ一人。彼の力を把握しきれなかった私にも責任があります」

 

死罪と言われても即座に首を縦に振れるであろう朧に、男が簡単に許すと。

ビーカーの中にいる人間が僅かに顔を歪ませ笑みを作る。

 

「天をも食らう鴉にも他者を許す慈悲があるのだな」

「私を慈悲も無く殺しに興じる化け物と見ていたのなら、あなたの目はすぐに取り換えた方がいい」

 

男はビーカーの中の人間を赤眼光を光らせながら睨み付けた。

 

「私は鬼です、この世の者全てに慈悲など持たず一切の情を持たない本物の鬼。私が彼を許すのは利用できる駒を浅はかな考えでここで捨て置くなど愚行であると悟ったからです」

「そう睨むな、私はついからかいたくなってしまっただけだよ」

 

こんな男を相手にからかってみようと考えてしまう人間も不気味である。

魔神でも殺せる人物相手にこうも警戒も怯えもせずに対等に話せるこの人間は一体……

 

「話を変えよう、君の計画の方は順調かね?」

「順調とはいい難いですね、どうにもこうにも上手く行かない、これも私がもたらす不運という邪魔が入ってるせいでしょうか」

 

男はそう返すと、背後にいる朧の方に振り向かずに小さな声で

 

「朧、”回収”の方はどうなっていますか」

「つい先刻”上条刀夜”がとある異星にて見つけ、すぐに我らの下へ持って来ました」

「アレも随分と役立ってくれるようになりましたね、そろそろ我々の傘下に加わるようあなたから誘ってきてくれませんか」

「無礼も承知で意見を言わせてもらいますと、それは考え直した方がよろしいかと思います」

 

朧もまた顔を上げずに返事する。

 

「上条刀夜は有能であると共に無知です、我々に渡しているモノの正体さえ知らない俗世にまみれた男など我々の徒党に入れる価値もありません、現状維持しつつ役に立たなくなったら私がいつでも斬り捨てればいいだけの話」

「そうですか、ではしばらくこの話は置いておきましょう」

「は」

 

思いの外簡単に自分の意見を聞いた男に朧は話を続けた。

 

「あなたの事を自分の”息子”の命の恩人だと感謝している限り、アレが我々を裏切る事は絶対にないでしょう」

「人間と言うのは随分と進化したと思っていましたが、愚かな部分は何も変わらないみたいですね、疑いもせずに未だに私を救世主と思い込んでいるとは」

 

朧の話になんの感情も無い口調でそう言うと、そこで初めて男は振り返って彼を見下ろす。

 

「それで”息子”の方はどうなりましたか」

「未だ卵の殻を破ききれない雛鳥です」

「”右腕”の方は?」

「問題ありません」

 

男に深々と頭を下げた状態からゆっくりと顔を上げる朧。

 

「気になるのでしたら私がすぐにでもあの少年の下へ行って来て情報を取ってきます」

「あの右腕は私の計画に必要不可欠な存在。せめて巣立ちが出来るぐらい鍛えて上げなさい」

「は、ではすぐに」

「朧」

 

朧をただ、男はじっと見つめる。まるで人が隠してる本性を見透かそうとしているかのように

 

「もし彼の中にある”アレ”が目覚めた時、私の下から離れようとは考えてないですよね」

 

怪しく光る眼光に見下ろされながら、朧は顔色一つ変えずにその目をジッと見返す。

 

「お戯れを、私があなたの下へ離れる事など万に一つもございません、あなたに救われたこの命、生かすも捨てるも全てあなたの赴くままに」

「……」

 

嘘偽り無い誓いをする朧を男が黙って見つめると、彼の背後にいるビーカーの中の人間が皮肉交じりに

 

「どこぞの盲目の父親と同じだな」

「この方に対する忠誠は私と上条刀夜では比べ程にもならない」

「はて、私は誰の名も言っていない筈なのだが」

 

こちらを睨み付けて来る朧に人間はただ微笑みを返すのみ。

真意のわからないその表情が更に彼が歪な存在だというのを感じさせる。

 

「ところで鬼なる者よ」

 

ビーカーの中を漂いながら人間は男の方へ話しかけた。

 

「代わりの右腕が欲しいのであればすぐに造ってやっても構わないのだが?」

 

そう言うと、男のマントが少々なびき出した。その拍子にマントの下の彼の身体が一瞬だけあらわになる。

 

本来そこにある筈であろう右腕が欠損している部分も

 

「代わり? 私の右腕はここにありますよ」

 

男はただ単調にそう答える。

 

「あなたが造り上げたこの学園都市に」

 

 

 

 

 

 

 

「かつて”私だった存在”と共にね」

 

 

 

 

 

 

夜中の学園都市で一人の少年が二人組の不良に絡まれていた

 

「テメェよくもあのガキ逃がしやがったなコラァ!」

「金ふんだくれなかったじゃねぇかゴラァ! なんならテメェが代わりに払うのかゴラァ!」

「いや俺も金欠だし……ハハハ」

 

ガタイのいい二人組のヤンキーに絡まれていた女子生徒を偶然見つけたからつい咄嗟に身代わりになって逃がしてしまった所まではいいのだが。

生憎彼女を逃がす所までしか考えていなかったツンツン頭の少年は見事彼等の次の標的とされてしまっていた。

 

「ていうか今時こんな古臭いヤンキーが学園都市にいたのかよ……」

「オイ今なんつったコラァ!!」

「ツッパリナメとったら痛いじゃ済まさねぇぞ! コイツを……!」

 

ついポロッと本音を漏らしてしまった少年に向かって一人のヤンキーが懐からどこで手に入れたかはわからないが、黒い拳銃を取り出しすかさず銃口を少年に向けようとする。

 

だが

 

「見……! へあ!?」

 

次の瞬間、ヤンキーの持っていた銃口に細く鋭い長針が突き刺さり、あっという間に拳銃がおしゃかになってしまった。

針は的確に小さな銃口に刺さっている。

 

ヤンキー二人が困惑しながら咄嗟に顔を上げると

 

「あ、すみません、つい危ないと思って投げちゃいました……」

 

後頭部を掻きながらこちらに頬を引きつらせながら苦笑する少年の右手の指の間には銃に刺さった奴と同じ針が

 

「テ、テメェそんなの持ってやがったのか!」

「人の銃をおしゃかにしやがって!」

「いやこれはなんといいますか……危ないと思うとつい勝手に体が動いちゃいまして……」

「なぁにわけのわからねぇ事言ってんだ!」

「こうなりゃ素手でやっちまえ!!」

 

必死に弁明しようとする少年にヤンキー二人組は拳を振り上げ飛び掛かろうとする。

それに対して少年はビックリして腰を抜かして後ろに倒れてしまう

 

しかし

 

「ぐ!」

「うげ!」

 

その拳を振り下ろす前に、彼等の背中に唐突な痛みが走る。

その痛みに思わず崩れ落ちて倒れるヤンキー達。そしてそのおかげで少年は彼等の背後にいた人物と目が合った。そして合って早々不良に絡まれていた時以上に頬を引きつらせてバツの悪い顔を浮かべる。

 

「お、朧さん……」

 

そこにいたのは朧、錫杖を手に持ったまま無言で少年の方に近づきつつ途中で地べたをのたうち回っている二人組のヤンキーを見もせずに

 

冷たい路地裏の壁に向かって軽く蹴っ飛ばす。

 

しかしその軽い蹴りの威力は尋常ではなかった、壁にヒビを入れる程の激しい衝撃が不良達の身体を駆け巡り、悲鳴さえも上げずに白目を剥きながらバタリと倒れた。

 

「どこに行ったのかと思いきやこんな雑魚共を相手に何をやっている。教えた技術はどうした」

「いやいや……アンタに教えてもらったモンを使ったら危ないし……下手すれば過剰防衛になっちまうから」

「己で体得した術は己の為に使え、伝授した術を宝の持ち腐れとして使わないなど、我らを侮辱する事に繋がるぞ」

「そ、そんなつもりはねぇって! 俺が小さい頃にアンタ達に助けられたって父さんと母さんからも聞いてるし! その件については深く感謝しているけど……」

 

話の途中で少年は朧からぎこちなく目を逸らして泳がせる。

 

「俺に会いに来たって事は稽古つけに来たんですよね……」

「それ以外に貴様と会う理由はない」

「ですよねーって」

 

未だ地べたに座ったまま少年はバッと朧の方に涙目で顔を上げて

 

「それじゃあこのヤンキー達にぶん殴られた方がマシだったじゃねぇかよ! だー! 最近来ないと思ってたからちょっと心配してたのに来たら来たらで怖ぇぇぇぇぇ!!」

「何を今更言っている、立て」

 

少年が悲痛な声で叫んでいるのも無視して、冷たい目で見下ろしながら朧は右手を差し出す。

それに少年は恐る恐る右手を差し出して引っ張ってもらった。

 

「……」

 

少年の右手を引っ張って立たせた後、ふと自分の右手を見つめる朧。

 

『さあ私の手を取って立ち上がって下さい』

 

「どうかしたのか朧さん?」

「いや」

 

ふと自分の頭の中に一人の男が一瞬映ったが、少年に尋ねられてすぐに我に返った。

 

「貴様に鍛錬を施す事をあの方から命じられている。逃げようとしても無駄だ」

「別に逃げないって、ただ毎回死にそうな目に遭うからキツいんだよなぁ……」

「死んだとしてもそれは貴様がその程度の価値しかない者だったという事だ」

「相変わらず滅茶苦茶冷たいなこの人……」

 

少年が若干引いてるのも気にせずに、朧は彼を引き連れて裏路地から表へ出る。

 

「貴様はただ我らの導きに従え、上条当麻≪かみじょうとうま≫」

 

 

 

 

 

 

「その右腕と共に」

 

 

 

 

 




これにて外伝編は終わりです。長谷川さん新八君、山崎と続いて次シリーズのエピローグでシメさせて頂きました。
とある少年は原作の設定とは大分違います、そういうのを見比べながら今後読んでみると面白いかもしれません。
それでは次回から新シリーズとなりますが、次の投稿は1週間後とさせて頂きます。
そっからまたしばらくは周2~3回ペースの更新の予定です。
新主人公の視点から見る新たな禁魂ワールドはしばしお待ちください。
それでは

PS
禁魂の世界で気になる事があったら質問しても構いませんよ。
もしかしたら天然パーマの教師が答えてくれるかもしれません

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