禁魂。   作:カイバーマン。

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第五訓 教師 警察組織で働く

 

第五訓 教師 警察組織で働く

 

 

 

 

 

 

 

 

バカ校長もといハタ校長もといバカ皇子もといハタ皇子からの依頼によって遭遇したタコ型エイリアン、ペスを街に侵攻させる前に退治した御坂美琴。彼女の功績はレベル5の第三位、常盤台のエースに相応しい行いであった。

その数日後、女子寮で一人でゴロゴロしていた彼女に常盤台の理事長に急いで学校に来るように呼ばれた。

先日の件で褒めてくれるのかと美琴は意気揚々と常盤台にある理事長室へと向かったのだが……

 

「こんのバカ小娘がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

エイリアンでさえビビッて逃げてしまいそうな大声を上げた理事長に

出会い頭に思いっきり頭にドギツイ鉄拳を食らわされるのであった。

この着物を着こなしてる50代ぐらいの方はお登勢。

常盤台の理事長にしてかぶき町では四天王と呼ばれている程の人物である。

そして銀時を教師と採用して御坂美琴を保護観察するように任命したのも全て彼女だ。

 

「な、何するんですかいきなり!」

「テメェ小娘! 先日自動販売機に蹴り入れてぶっ壊したらしいじゃないかい! なにしてんだよ全く! 金に困った生活してるわけじゃあるめぇし!」

「あ、あ~その事の件だったんですか……」

 

額に青筋を浮かべて一喝する彼女に美琴は両手で押さえてる頭部から来る痛みに涙目になりながらハハハと苦笑する。てっきりエイリアン侵略を阻止した件で褒められるのかと思ってたいのに

 

「で、でもそんな事より先日私がなにしたか知ってます? 私バカ校長が持ってきたエイリアンから街を護ったんですよ?」

「ふん、あのバカ校長のエイリアンなんざ知るか。この街はね、あんなタコの1匹や2匹やってこようが屁でもないんだよ。なんていったってこちとら江戸っ子の住む街なんだからね、アンタが護らなくてもどうにか出来る方法なんていくらでもあったさ」

「そんなぁ……」

 

もはや何を言っても弁解の余地は無く、しかも自分がやったことは無意味だとも言われショックを受ける美琴。

しかしそこで不意に理事長室のドアがガチャリと開かれる。

 

「すんませーん、家の掃除中にうっかり古いジャンプ読みふけちゃって遅れましたー」

「アンタも理事長に呼ばれてたの……?」

「ああ? なんでいんだ小娘?」

 

波柄模様の着物を着流し、その下には赤い線が襟には行った上着、靴は黒いブーツ。腰の帯に差したるは『洞爺湖』と彫られた一本の木刀。

 

白衣とスーツの格好でないプライベート用の格好をした坂田銀時がいきなり美琴の背後から現れたのだ。

 

「ババァにでも泣かされたか?」

「ついさっき脳天に一撃かまされたのよ……いたた……」

「銀時、遅刻だよ。アンタいい加減社会人として考えたらどうだい」

「たかが5分10分ぐらいウンコと思って水に流せよババァ、いちいち細けぇから顔のシワも細かく増えてくんだよ」

「1時間遅刻してんだよテメェは! こんなデケェウンコ流せるか!」

 

ポリポリと髪を掻き毟りながら悪びれる様子すら見せない銀時にツッコミを入れた後、ハァ~と深いため息を突いて美琴の方へ向き直るお登勢。

 

「とにかく、エイリアン退治みたいな事は大人に任せて、アンタは学生らしい生活を全うしな、夏休みなんだから」

「は、はい……」

「それと自動販売機の件、明日までに反省文書いてくんだよ」

「はい……え? 明日!?」

「最低でも紙10枚は使った手書きじゃないと、反省文として認めないからね」

「えぇぇぇぇぇ!? ちょっと待ってください! それじゃあ私今日はずっと部屋に籠らないと!」

「自業自得だろ」

「うう……レベル5の私でもさすがに……」

 

カチッとライターを付けて口に咥えたタバコに火を灯しながらキッパリと斬り捨てるお登勢。

もはやぐうの音も出ない様子でおもむろに隣に立っている銀時に助けを求めるような視線を送るが

 

「ま、お前俺とチビしか付き合いないし。時間滅茶苦茶余ってんだからいいじゃねぇか」

「な! わ、私だってアンタ達以外とも交流ある人いるわよ!」

「誰だよ言ってみろよ、友達いな過ぎて本気で隣人部とかいうの作ろうとかしたクセに」

「ほ、ほらウチの学校の「女王様」とか! 私たまに廊下ですれ違い様に嫌味言われたり上履きに納豆仕込まれたりしてる!」

「それ付き合いじゃなくて一方的に陰湿な事やられてるだけだろうが。つうかそんな事してんのかアイツ、全然反省してねぇようだな」

「止めときな銀時」

 

彼女が女王様と呼ばれる人物に陰湿な嫌がらせされてると聞き拳をポキポキと鳴らし始める銀時にお登勢がタバコ咥えたまま釘を刺す。

 

「アンタあの子に相当怖がられてるからね、これ以上あの子にトラウマ植えつけるのは自重しておきな」

「けどよバーさん、あのガキ調子乗らせるとこの学校じゃ一番タチ悪いだろ能力的に。定期的に俺が矯正しねぇとその内この学校を奴に乗っ取られるぞ」

「その矯正の仕方に問題があるんだよ、去年だってあの子の演説スピーチの時に思いっきりハジかかせて」

「アレはアイツが悪いだろ全部、急なフリに一流の返しが出来てこそ真のレベル5だ。まだまだ修行が足りねえんだよアイツは」

「いやレベル5ってのは能力者としてのレベルだから。そんなお笑い芸人としてのレベルとかじゃないから」

 

顎に手を当てぶっきらぼうに答える銀時にやれやれと言った様子で頭を押さえながらタバコの煙を吐いた後、再び美琴に向かって話しかける。

 

「とにかくアンタは今から寮に戻って反省文書いてくるんだよ」

「い、今からすぐにですか……」

「さっさと寮に戻らないと締め切りを明日から今日にするよ。遅れたら今度は他の生徒達の前ではっ倒すからね」

「は、はいい! 今すぐ帰ります! 書きます!」

 

事務机の上に置いてある灰皿にタバコの灰を落としながら静かにそう呟やかれては美琴の選択肢はもう一つしかない。

急いで回れ右をしてすれ違い様に銀時に叫ぶ。

 

「アンタも覚悟しておきなさいよ! 私と同罪なんだから!」

「へいへい、さっさと帰りやがれクソガキ」

 

慌ててドアを開けて走り去っていく美琴に別れの言葉を送った後、改まって銀時はお登勢の方へ顔を上げた。

 

「俺はてっきりエイリアンぶっ倒したアイツを褒めてやるのかと思ってたんだがな。アイツがやった事は表彰モンだぜ?」

「ここで褒めたらまたあの子無茶しでかすに決まってるだろ」

 

銀時の言葉に彼女はフゥ~と煙を吐きながら答えた。

 

「誰に似ちまったのかねぇ、いつの間にか厄介事の方から向かってくる体質になっちまったようだよ、おまけにそういう事にすぐ敏感に首突っ込みたがる」

「別にいいんじゃねぇの? アイツが望んでそうやってんだから」

「そうなんだろうけど、私としては子供らしく成長して欲しいんだよ、こんな街にいると特にね」

 

自分の理事長専用の椅子に座ると登勢は美琴の前では見せなかった優しい目つきになる。

 

「この街はどこか変なのはアンタだってわかるだろ? 子供にあんな危ないモンを与えるここの連中の気がしれないよ私は」

「しょうがねぇだろここはこういう街なんだよ、ガキ共の脳に薬詰まった注射打ち込んで楽しく実験するのが学園都市の日常だ、アンタが昔から住んでた江戸は変わっちまったんだよ、街も人間も心もな」

 

皮肉っぽく言ってのける銀時だが、彼の言ってることは冗談ではなく現実にここで起こっている事である。

この街の科学者の中には日陰に出ずにずっと奥に潜んで実験を繰り返している者もいる。

とても公には発表出来ないような非人道的な行いもあるともっぱらの噂だ。

 

「だからこそ私達がキッチリあの子や他の子達も見ておかないといけないだよ。やっていい事と悪い事を教えながらね」

「それがレベル高い奴しか入る事を許されないこの学校の理由ってわけか」

「扱う力がデカすぎるといつの間にかその力に溺れちまうモンさね、溺れちまって沈んじまう子だっている。その前に私達教師がぶん殴ってでも教えてやらなきゃいけないんだよ」

 

机に両肘をついて厳しい表情を浮かべる彼女に銀時はけだるそうに小指で鼻をほじりながら口を開いた。

 

「なんだ、じゃあ俺が「女王様」にやってる事も正しいじゃねえか」

「私はほどほどにしておけと言っただけで止めろとは言ってないよ。あの子はこの学校でも特にヤバいモンを持ってるからね、銀時、しっかり見ておくんだよ」

「二人も見てられるかよ、俺はもう片方のレベル5の世話で精一杯……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご心配なくともお姉様の露払いはこの白井黒子一人で十分ですわ」

「あん?」

 

急に聞き覚えのある声がして反射的にぶっきらぼうに振り返る銀時。

いつの間にか背後に立っていたのはここに来るまで空間移動能力を使っていた。

 

「あなたはどうぞご自由に第五位とでも戯れて下さいな、そっちの方がわたくしにとっても大歓迎ですの」

「っていつの間に現れたんだこのチビ、お前もなんかやらかしたか? いつかやると思ってたが遂にそこまで身を染めたのかこの変態」

 

出てきたのは美琴の後輩でありルームメイトである白井黒子。

銀時と顔を合わせて早々ジト目で憎ったらしい口調で口を開く彼女に、銀時も同じく嫌味ったらしい口調で返すが黒子はフンと鼻で笑って

 

 

「あなたなんかと一緒にしないで下さい、わたくしは別の用事でここに来たのですの」

「あ~そうかい」

「それと誤解しているようですがここではっきりと言いましょう、わたくしがお姉様に働いている行為は変態ではありません、そう全て愛ですの」

「おいバーさん、コイツも一発殴ってくれ」

「勘弁しておくれよ、それもう殴ってもどうにもならないだろ、手遅れだよ」

 

もはや常盤台の教育者トップであるお登勢でさえも彼女の性格を矯正する策はなかったのであった。

 

「それより銀時、アンタもあの子と一緒にバカやらかしたんだから、あの子同様に罰を与えなきゃならないね」

「罰ぅ? なに? 俺にも反省文書けってか?」

「いらないよアンタのこれっぽっちも反省が伝わらない殴り書きの紙切れなんざ」

 

首をかしげて口をへの字にする銀時にお登勢は机に頬杖をついたまま指令を伝えた。

 

「アンタ今日一日、その子がいる所で働きな」

「……へ?」

「どうせアンタも暇だろ、あの子と同じで」

「……なあチビ、このババァは何を言っているんだ?」

「おやおや、それではおバカな先生に黒子が優しく丁寧に教えてあげましょう。理事長はあなたの身柄を今日一日わたくし達ジャッジメントに預けると言っているんですのよ」

 

彼女が言ったことが理解できず思わず黒子へ話しかける銀時。

ジャッジメント? 自分よりもずっと年下の学生達と一緒に江戸を護るために活動しろと?

 

「ウチって元々人手不足ですのよ、だからあなたみたいな突っ立ってるだけで邪魔だと思える存在でも、猫の手程度になら扱えると思いましてね。わざわざわたくしが理事長にお願いしておいたんですわ」

「はぁ!? 何してくれてんだテメェ! 誰がやるかんな事!」

「既に理事長から了承得てますから。理事長の部下であるあなたに拒否権なんてありませんわよ」

「ふざけんな! 誰がテメェ等ガキ共と仲良く警察ごっこなんてするか!」

「んな! ジャッジメントも立派な警察組織ですの! 警察ごっこなどという侮辱した呼称は撤回してくださいませ! あの真撰組なんかよりもずっと崇高な組織ですわ!」

「んじゃ変態のいる警察!? 変態警察24時!?」

「だからわたくし変態じゃないとさっきからずっと言っているでしょ! わたくしは淑女です! お姉様を護る為の愛の化身です!」

「だぁぁぁぁぁぁ!! 人の仕事部屋でギャーギャー喧嘩してんじゃねえぞテメェ等!!!」

 

口論が徐々にヒートアップし、部屋の外にまで聞こえそうな大声で喧嘩を始めてしまう銀時と黒子に遂にお登勢が机を両手で叩いてキレた。

 

「銀時! アンタもごねるんなら給料カットするよ!」

「え? おいおい待て待て! ただでさえ安月給の上に給料までカットされたらやべぇよこっちは! 毎週ジャンプ買う事だってキツイってのに!」

「ならばジャンプ買うの止めればよくて? いい大人なんですし潔く卒業した方がいいですわよ」

「バカかお前! ジャンプには夢と希望が詰まってんだぞ! もはや聖書の類なんだよジャンプは! ぶっ殺すぞ!」

「たかが日本産の雑誌を聖書と同列に扱うのはどうかと思いますが?」

 

雑誌ひとつでここまでキレる大人とは如何なものかと黒子が軽蔑の眼差しを向けている銀時はまだ理事長に文句を言っている。

 

「なあバーさん、俺も反省文でいいだろ別に。そもそも俺はただアイツがやった事に便乗しただけで、元を辿ればアイツが悪いんだよ? それなのになんでアイツは反省文だけで俺は給料カットorクソガキ警察24時という選択を強いられなきゃいけないの? これって絶対おかしいと思うんだよ銀さん」

「教師がテメーの所の学校の生徒と一緒に自動販売機ぶっ壊したなんて問題ってレベルじゃないんだよ。クビにならないだけありがたく思いな」

「いっそ24時間女王様と一緒の部屋で過ごすならやってもいいからよー」

「それあの子の精神が持たないだろ、ていうかアンタなにかとあの子の事話題に出すけど、もしかしてあの子の事気に入ってるのかい?」

「いやぁ反応が面白いからつい」

「生徒を遊びに使うんじゃねえこの外道教師!」

 

ごねる上にあっけらかんとした事をぶっちゃける銀時にもはやツッコむ気力も失せたかのようにお登勢は2本目のタバコを取り出しながら首を横に振る。

 

「もういいから、アンタはその子と一緒にちょっと行ってきな。こっちの仕事は1日分休みにしておくからさ」

「勘弁してくれよ……なんで俺がこんな小便臭いガキと一緒にそんな真似しなきゃいけねぇんだよ……」

「わたくしだってあなたの事は嫌いですわ、ですがジャッジメントとしてあなたみたいな人でも役に立つのであれば、そこは仕事としてキチンとわきまえる覚悟はできておりますので。あなたも少しはわたくしを見習いなさい」

「お前みたいな奴ってぜってぇ男子に嫌われるタイプだよな」

 

高慢に胸を張って見下した視線を送ってくる自分にイラッとしている銀時を尻目に。

黒子は彼の着物の袖を右手で強く掴んだ。

 

「それでは理事長、わたくしはこの男を一旦支部に連れて帰りますから」

「おいちょっと待てって! 俺はまだ行くって決めてねえぞ!」

「ああいいよ、連れていけそんな男。けど最後に一つ忠告しておくけど」

「なんですの?」

 

袖を掴む黒子を躍起になって引き離そうとする銀時を無視して理事長はタバコを口に咥えたまま彼女に静かに語りかける。

 

「……警察組織とはいえアンタはまだ子供、あまり無茶な真似するんじゃないよ」

「ええわかっていますとも、心配してくださってありがとうございますわ」

「おいババァ! こんなガキよりも俺の事をちっとは気にして……」

 

妙にわざとらしい笑顔を浮かべる黒子に掴まれていた銀時が何か言いかける前に。

二人の姿はお登勢の前でフッと消えた。

 

「やれやれ……」

 

一人部屋に残されたお登勢は灰皿にタバコを擦り付けながら眉間にしわを寄せる。

 

「それにしてもなんで銀時なんかを欲しがったんだろうね……あの二人仲悪かった気がするんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やばい事に首突っ込まなければいいが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めましてこんにちは銀時先生、そしてようこそジャッジメントへ、ですの」

「ようこそじゃねぇよ、あーお腹痛いんで帰っていいですか?」

「却下いたしますわ、いい加減己の身がどんな状況に置かれてるか理解しなさい」

 

場所移ってジャッジメントの第177支部

否応なしにテレポートでここまで連れてこられた銀時は、前回来た時に座ってくつろいでいたお客用のソファに一人独占して偉そうに寝っ転がっていた。

その傍には彼をここまで連れてきた張本人の黒子。

 

「相変わらず見た目は大人、頭脳は子供と呼ばれているに相応しい男ですこと」

「見た目は子供、頭脳は変態と呼ばれているよりはマシだわ」

 

腕を組んでこちらを見下ろす黒子に負けじに銀時も寝転がりながら睨み付ける。

十個以上年の離れているのに口喧嘩は同レベルだ。

 

「おいチビ、お前ちょっとコンビニ行ってこい、いちごおでんといちご牛乳」

「そこは本来、雑用役のあなたが行くべきかと」

「あ、あと、あんまんとチャーシューまん追加で」

「ホント人の話聞きませんわね……ていうかチャーシューまんってなんですの?」

 

本来従うべき相手にコンビニ行ってこいなどと言えるこの図太さ。

この男がいかに勝手気ままに生きているかよくわかった。そしてこういう堕落した部分が美琴に悪い影響を与えているのだとも黒子は悟った

 

「全く、お姉様の目が死んだ魚の様な目をしているのは間違いなくあなたの影響なんですからね」

「いや別に俺関係なくね?」

「お姉様が友達出来ないのもあなたのせいですの」

「いや別に俺関係なくね?」

 

責任転嫁してくる彼女に銀時はキッパリと即答しながら「ったく」と呟く。

 

「いい加減俺に何やってほしいのか聞かせろよ、これ以上お前と口喧嘩やるのも疲れてきたわ」

「それはあなたがいちいち噛みついてくるせいですわ。わたくしだって事を円滑に運びたいんですの、なのにあなたは……ああそういう事でしたのね」

 

そこで一旦喋るのを止めて顔をしかめる黒子。

この男の口先につい乗せられてしまう所であった。

 

「その手には乗りませんわよ、あなたにはちゃんとジャッジメントとしての仕事を全うしてもらいますの」

「……チッ」

 

大方銀時はこうして自分との不毛な争いを続けて今日一日乗り切ろうという魂胆なのであろう。その手には乗らないと、黒子はジト目で彼を睨む。

 

「本題に入らせてもらいますわ、先週ぐらいにありましたわよね、桂一派のテロ爆破事件」

「はぁ?」

 

何やら物騒な話をいきなり始める黒子に銀時は口をへの字に曲げた。

黒子は淡々とその事件とやらの話を続ける。

 

「ターゲットはメガトロン星の大使館の筈でしたわ。しかし目的が達成する寸前にあの武装警察、幕府の犬の「真撰組」にバレてあっけなく撃沈。首謀者であった桂の部下は連中に拘束され現在尋問中」

「んな事ぁあったなぁ確かに。けど捕まったのはどうせただの浪人だろ、オメーが気にする事でもねぇだろ」

「いいえ、まさかまさかのこの学園都市の”学生”でしたわ」

「は? 学生?」

 

それを聞いて退屈そうにしていた銀時が初めて顔を上げた。

 

「ガキが爆破テロに加担したってのか?」

「そうですわ、スキルアウトって言葉ならあなたも当然ご存知ですわよね?」

「スキルアウト? ああ確か月詠から聞いた気がすんな」

「レベル0の無能力者で構成されたグループですわ」

 

思い出す様に首を捻ってみせる銀時に黒子は自分から答えを言う。

 

「簡単に言えば無能力の不良学生。中には大規模なグループを作って犯罪を繰り返す厄介な連中も少なからず存在しますの」

「んだよ、ただのチンピラ集団か」

「そのチンピラ集団でもたまにいますのよ、攘夷浪士に憧れて彼らに加担しようとする馬鹿な人が……」

 

黒子は「はぁ~」とため息を突く。彼女にとってはとうてい理解できないのであろう。

攘夷浪士などという野蛮極まりない者達の思想に感化されてしまう事など

 

「今回の首謀者もその一人、どういうルートで知り合ったかまでは判明しておりませんが、何らかの方法で攘夷浪士の桂小太郎とコンタクト取ったらしいですわ」

「そんでそのまま憧れのテロリストの仲間入りしたって訳だ、バッカだね~、テロリストに加担した奴はガキだろうが容赦なく打ち首獄門だぜ」

「まあ直に打ち首にされるのは確実ですわね、名前は確か駒場利徳≪こまばりとく≫」

 

銀時の隣にちょこんと座りながら黒子は事件の首謀者の名前を告げる。

 

「大規模なスキルアウトを率いていたリーダーですわ。今頃真撰組の屯所で首を飛ばされるのを念仏唱えながら待っている事でしょう」

「ま、自業自得だわな」

「駒場利徳の部下達は彼が捕縛されたことが原因で壊滅状態、残った連中は代わりのリーダーを立てて細々と活動していると」

「ああ? リーダー捕まったってのにまだテロリストに加担してるってのか?」

 

肘に膝を突きながら銀時が呆れた様子でそう言うと隣に座ってる黒子が「さあ」と肩をすくめる。

 

「そこまでは知りませんわ、わたくしの情報はほとんど初春頼みですし」

「アテになんのかよそれ」

「初春はわたくしの友人ですのよ? 大丈夫ですわ、いちごおでん与えてればちゃんとわたくしの言う事聞いてくれますので」

「嫌な友人関係だなオイ」

 

呆れて手で頭を押さえる銀時を一蹴すると黒子は遂に本題に入る。

 

「さて、そういう事でリーダーである駒場利徳がいない連中はもはや落ちぶれに落ちぶれたチンピラ集団。今なら簡単につつくだけで倒れる程の貧弱な雑魚共ですわ」

「てことはテメェが俺をここに呼んだのは……」

「ええ、ここは早急にわたくし達で完膚なきまでに壊滅させようじゃありませんの」

「……はぁ、お前って賢いんだかバカなんだか変態なんだかホントよくわかんねぇわ」

 

リーダーのいなくなった不良組織を自分達で潰す。

こちらに振り向きざまにニヤリと笑って見せる黒子に銀時は心底呆れる表情を作る。

自分が言ってる事の大きさをこの娘っ子は全く分かっていないのだ。

 

「チンピラグループ一つ潰すってのはアンチスキルとかもっと大規模な警察組織が担当するもんだろ。テメェ等がやるのはそれの支援、そこにいる住民達の安全確保。そんぐらい俺でも知ってんぞ」

「当然知ってますわよ、しかし相手は戦意も焼失したレベル0の負け犬軍団。こんな連中ならわたくしとあなたでサクッと片付けれますわ」

「……」

「大手柄を取るチャンスですのよ? またとない好機じゃないですか。これを機にジャッジメントも大きな捜査や事件に協力できるようになるのかもしれませんの。わたくし真撰組にだけは負けたくありませんので」

 

非能力者であるクセに自分達能力者よりも優位に立って捜査や事件を担当する真撰組には、黒子は常日頃から激しい嫌悪感を示していた。

その連中から手柄を横取りしようと企んでいるのであろう彼女の魂胆に銀時は軽蔑の混じった視線を向ける。

 

「出来る出来ないかじゃなくてよ。一般人の俺巻き込んでんな真似したらジャッジメント辞めさせられるんじゃねぇの?」

「そりゃわたくしだってただの一般人を使ってテロリストの傘下に入ってるチンピラ共を潰しに行くわけじゃありませんわよ……」

 

唐突に冷静に指摘してくる銀時に黒子は少々バツの悪そうな顔を浮かべた。

教師とはいえ一般人を事件に参加させるなど危険過ぎる。これには黒子自身も思う所あるのだが

 

「でもあなたは特別ですの、わたくし達と違って能力者ではありませんが色々と役に立てる存在ですから」

「お前に特別扱いされても全然嬉しくねぇんだけど~」

「見た目も中身もアレですが、お姉様絡みの事だとこの男はかなり役に立ってるとわたくし認知しておりますので」

 

けだるさ全開で天井に向かってうめき声を上げる銀時に、黒子はズイッと顔を近づけた。

 

「……というわけで学園都市の治安を脅かすチンピラ集団の残党共狩りを手伝ってくれますわよね?」

「ダメだダメだ話にならねぇ。聞いてみればただのお前の点数稼ぎに付き合わされるだけじゃねぇか」

「く……」

「甘ぇんだよお前は、誰がお前なんかの頼み聞くかよ。テメーの過去の行いを振り返って見ろよ」

 

死んだ目でバッサリと斬る銀時に黒子は奥歯を噛んでイラッとするも、その感情を必死に押し殺しながら口を開いた。

 

 

「……報酬なら払いますわよ」

「け、テメェみたいな小便臭いガキにそんなモン貰っても嬉しくもなんともねえな」

「……いちごおでん1ケース、12個入り」

「え?」

「今なら2ケースにしてあげましょう、どうですか銀時先生? 可愛い生徒からの差し入れですわよ?」

「え? 2ケース? マジで? マジでいいのそれ? マジで言ってんの? 嘘ならマジで怒るよ銀さん?」

「もちろん嘘なんかじゃありませんわ。日頃の感謝を込めたわたくしからのささやかな贈り物ですの」

 

多少ぎこちなさがあるもニッコリと笑ってかつやけに甘ったるい感じで話し出す黒子。

本当はこんな事を彼なんかに死んでも言いたくないのだが、大手柄の為だと自分を殺しつつ彼女は乗ってきた銀時にトドメを刺す。

 

「3ケース」

「……」

 

その一言に彼は数秒程無言で座り込んだ後、しばらくしておもむろにスクッと立ち上がり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンピラ集団なんざなんぼのモンじゃぁぁぁぁぁぁ!! 俺が一人残らず狩り尽くしてやらぁぁぁぁぁぁ!!」

「ふ、やりましたわ……」

「おらどこにいるんだコラァ! 出てこいチンピラ共! 熱血教師銀さんの鉄拳制裁食らわしたるわぁぁぁぁぁ!!!」

 

さっきまでの冷めた態度から一変して高々と支部内で咆哮を上げだす銀時。腕を上げて戦闘本能むき出しの様子の彼に黒子は計画通りと口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「思いの外簡単に乗ったような気がしますが……これはこれで結構ですわ」

「いやぁ、考えてみれば俺、正義の味方に憧れてたんだ。それにこの街にいる俺の可愛い生徒を護る為なら、ひと肌脱ぐのが教師として当たり前の事だと気付いたんだよ」

「そのセリフ? 全然あなたに似合わないのですが?」

「だから俺やるよ、いちごおでん……じゃなくて可愛い生徒たちの為にアイツ等一人残らずぶっ殺すよ」

「いやぶっ殺すのはさすがにダメですの……」

 

死んだ魚の目が一転してキラキラした真面目な好青年の顔になっている銀時に黒子は軽く引きつつも、上手く思惑通りに事が進んだことに「ふっふっふ」と笑みを浮かべているのであった。

 

 

「これで幕府の犬共のメンツを丸潰れに出来ますわ……」

 

 

 

 


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