禁魂。   作:カイバーマン。

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第四十五訓 侍の秘めたる居場所

ここはとある病院の廊下。

そこをよく似た二人の親子が会話を交えながら歩いて来た。

 

「へーそりゃ大変だったわねー」

「なんでそんな人事みたいなのよ」

 

とぼけた様子で答える母親、御坂美鈴に娘である御坂美琴がツッコミを入れる。

 

「自分だって巻き込まれてんだからもっと気にしなさいよね」

「だって私途中で寝ちゃってたし」

「途中からは寝たんじゃなくて操られていたのよ」

 

そう言いながら二人は一つの病室の前に足を止め、ガララっとドアを開ける。

 

そこにいたのは

 

「おいどういうこったこりゃあ! またデキちゃった結婚だよ! もう車にガキとカミさん乗せられねぇよ! パンパンに溢れかえってるよ!」

「さすがに第12夫人まで出来るとか引きますわ。あ、やりましたわ! 遂にわたくしとお姉様の間の子供が結婚して出産を! これでわたくしとお姉様にお孫さんが出来ましたの!!」

「おいちょっと待つアル! 万年金欠のおっさんと冴えない地味なツッコミ眼鏡とトリオを結成ってどういう事ネ! こんな奴等と組んだら一生人生負け組確定じゃねぇーか!」

「どうする、どうすればいいんだ俺は! 会社の同僚の3人と関係持っちゃってこれじゃあ人生ドロドロルート確定じゃん! 挙句の果てには4人目や同僚の妹ともフラグ立つし! いやもうドロドロでもいいや! モテモテ人生最高!!」

 

桂小太郎と結標淡希と激闘を繰り広げた坂田銀時と白井黒子が入院中にも関わらず、またもや人生ゲームをやりながら騒いでいた。

おまけに銀時と同じアパートに住んでいる謎のチャイナ娘、神楽と

かぶき町で万事屋として働いている浜面仕上も加わっていた。

 

病室でギャーギャー騒ぐ彼等をしばし眺めた後、美琴はワナワナと震えながら中へと入り

 

「アンタ等怪我人のクセに病院ではしゃいでんじゃないわよ!!! 修学旅行の男子か!」

「あ? また来たのかお前」

「またとはなによ! こうして見舞いに来てくれるだけありがたいと思いなさい!!」

「お姉様!!」

 

彼女の叫びにやっと気付き顔を上げる銀時と彼女に出会えた事で物凄く嬉しそうにする黒子。そしてその場からシュンっと姿を消すと

 

「孫が生まれた事ですしこれを機会にわたくしとお姉様の間に二人目を!! ぶごはぁ!」

「アンタはいい加減人生ゲームと現実をシンクロさせるな!!」

 

いきなり目の前に現れて飛び掛かって来た黒子に強烈なビンタをお見舞いして吹っ飛ばす。

怪我人相手でも相手が黒子なら美琴は容赦しない。

 

「おうビリビリ、お前も来たアルか」

「アンタもコイツの見舞いに来たの?」

「銀ちゃん家にいなかったらヒマで仕方ないアル、だからしょっちゅうここに遊びに来てんだヨ」

「病院は遊ぶ為の溜まり場じゃないんだけど……」

 

同じく見舞いに来たらしい神楽にボソッとツッコミを入れた後、ふと彼等と一緒にいた茶髪の男の方へ視線を向けて

 

「で、コイツは? なんかコイツ前にどっかで見たような気がするんだけど」

「コイツは絹旗が働いてる所で毎日奴隷としてコキ使われそれに快感を覚えた哀れな変態野郎アル」

「うわぁ……」

「っておいチャイナさん! 勝手に人の話を捏造しないで! 俺は絹旗の先輩で万事屋としてかぶき町で働いてる浜面仕上です! 奴隷同然みたいな扱いですがそこに快感はありません! あるのは哀しみだけです!」

 

神楽の説明に急いで修正を加えながら浜面は勢いよく美琴に自己紹介した。

それを聞いて彼女は「万事屋ねぇ」と呟きながら目を細め

 

「思い出したわ、アンタ前にこの二人と一緒に入院してたスキルアウトの一人でしょ? どうしてこんな所にいんのよ」

「そりゃまあ縁がある相手が入院しちまったと聞いたら見舞いに来るのが義理人情ってもんだろ、それに……」

 

浜面はバツの悪そうな顔で彼女から目を逸らす。

 

「今家がとんでもない事になってるから戻りたくない……」

「なんかそっちの方が本命に聞こえるんだけど」

「奴隷同然の俺はまだマシな方さ、フレンダなんか、フレンダなんか麦野に……」

「そ、そう……とりあえず家で何か大変な事が起きてるみたいね、お気の毒に」

 

何か恐ろしい事を思い出したのか病室のベッドの上に体育座りしたままブツブツと呟き始める浜面に、美琴はこれ以上は聞いちゃいけないと珍しく空気を呼むが……

 

「家が大変なんて全然大したことないじゃない、私なんか家庭そのものが崩壊寸前なのよ。家そのものがなくなる危機なのよこっちは」

「え、誰この人?」

「気にしなくていいわ、もうすぐ他人になる人だから」

 

恨めしい表情でこちらを見ながらブツブツ呟く美鈴を前に浜面は困惑、美琴はスルー。

美鈴はすぐ様銀時達がやってる人生ゲームに歩み寄ると

 

「もういいわ親不孝な娘もデレない旦那もいらないわよ! だったらこっちで人生勝ち組狙ってやるんだから!!」

「ちょっと母親、現実に戻りなさい」

「あ、私、銀さんと結婚した。車乗せて」

「ふざけんなよオイ! もう枠なんかねぇんだよ第13夫人!! 歩いてついて来い!!」

「新婚いきなり亭主関白宣言ですって! 今時夫から1歩引いて歩く妻が理想だと思う人がまだいたなんて!! どうやら戦うしかないようね!」

「いい加減にしなさいよコラ!! つうかどんな人生ゲームなのよそれは!!」

 

銀時が持ってる人生ゲーム用の車に無理矢理入り込もうとしている美鈴にツッコミを入れた後、踵を返して病室から出て行こうとする。

 

「もういいわよちょっとコンビニ行ってくる! アンタ等なんか欲しいのあんの!」

「ジャンプ!」

「酢こんぶ!」

「お姉様の愛!」

「理想のヒロイン!」

「温かい家庭!!」

「4つ目と5つ目は自分で取って来なさいよ! それとまたはっ倒すわよ黒子!!」

 

そう怒鳴り散らした後美琴はドアを勢いよく閉めてコンビニへ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

数分後、美琴は病院の近くにあるコンビニに着いた。

 

「ジャンプと酢こんぶぐらいは買っておくか……」

 

そう言ってお菓子コーナーから酢こんぶと、雑誌コーナーにあるジャンプに手を伸ばす。

 

「最後の1冊か、どこのコンビニも売れ過ぎよ全く」

 

そう言いながら寂しく売れ残っているジャンプに触れたその時。

 

全く同じタイミングで隣からジャンプを掴む手が

 

「……」

「……」

 

美琴はゆっくりと手が伸びてきた方向に目をやる。

 

そこにはツンツン頭をした高校生ぐらいの少年が申し訳なさそうに苦笑しながらこっちを見ていた。

病院服を着ている所からして、病院から脱走してコンビニまで出向いて来たのであろう。

 

「あはは……ど、どうも」

「どうも、で?」

「えー出来ればここはそのジャンプから手を放して欲しいのですが?」

「は?」

 

両者絶対にジャンプから手を放そうとせずに掴み合っている。

 

少年のお願いに美琴は片目を釣り上げ喧嘩腰に

 

「レディファーストって言葉知らないの?」

「知ってるけど俺としては怪我人には優しくしようという心構えを持ってほしいと思ってるのですよ」

「それは残念ね、電車の席を譲るくらいならお安い御用だけど、ジャンプを譲る事だけは絶対に無理なのよ」

 

掴んでるジャンプがミシミシと嫌な音を放ってるのも気にも留めず二人の男女は絶対に譲ろうとしない。

 

「離しなさいよ、これは私のジャンプなんだから。女の子と争って恥ずかしくないの」

「いや俺も大抵の事は水に流す性格だけどコイツは俺にとって生きる糧として非常に大事なモノであってですね……」

「知らないわよそんな事……! いいからよこしなさい、ギンタマン読むのよ……!」

「はぁ? ギンタマン? まさかこの学園都市にアイツ以外にもあんなものを好きな奴がいたなんて……! いいぜ女子中学生、お前がギンタマンなんていうくだらねぇ漫画を読む為に俺からジャンプを奪おうってんなら……!」

 

ツンツン頭の少年は力強くジャンプを引き寄せながら腹をくくった表情で

 

「まずはそのふざけた幻想をぶち……おご!」

「なァにガキと遊ンでンだオマエは」

「っておい! 邪魔するなよ!」

 

何か決め台詞的な事を言おうとしたその時、彼の背後からまた別の少年がフラリと現れ彼の脳天にチョップをかます。

 

色白で髪も白く、体にもあまり肉は付いておらず妙に細い。

 

ツンツン頭の少年と同じ病院服を着ている所から察して彼も病院から彼と共に脱走したらしい。

 

「今俺はこの子からジャンプを譲ってもらおうと必死に説得を!」

「いやさっき力づくで奪おうとしてたでしょアンタ」

「くっだらねェ事に時間使ってンじゃねェよ、病院抜け出してるのバレたらどうすンだコラ。つーかジャンプならあのモジャモジャ頭が買って来るって言ってただろうが」

「あ、そうか”坂本さん”に買ってきてくれって言っておいたんだっけ」

 

白髪の少年に言われてツンツン頭の少年は思い出したかのように美琴の持つジャンプからパッと手を放した。

 

「あのーなんかごめんな、ジャンプ一つで熱くなっちまって。お前にやるよそれ」

「言われなくてもこれは私のジャンプよ、ったくアンタが強く掴んだせいでちょっと曲がってるじゃないの」

「あはは……いやホント悪かったって……」

 

不満げな声を漏らす美琴に少年が苦笑交じりにまた謝っていると

 

「アハハハハ!! おまんらこんな所にいたんか!!」

 

コンビニの自動ドアが開き、グラサンを掛けたモジャモジャ頭の男がへらへら笑いながらこちらへとやってきた。

 

「病院抜け出しとったとは知らんかったけぇ、えらい探したんじゃぞ」

「ケッ、あンなうるせェ奴等ばっか集まった所で大人しく出来るか」

「隣の部屋うるさいんだよな……また結婚しただの同性同士で出産するだの出番欲しいだのヒロイン欲しいだの」

「そりゃまたえらいお隣さんじゃのぉ、お隣でハッスルされてはおまん等もムラムラして大変だったじゃろ」

「いやしてないしお隣もハッスルとかしてないから……」

 

全く人の話を聞かないモジャモジャ頭の男は手に持っていたビニール袋からゴソゴソと何かを取り出して

 

「そんな時はこれぜよ!」

 

そう叫ぶとバンッと男は少年二人にある物を提示した。

 

「『週刊・今夜は一人でレッツパーリィ!』これがあればおまん等のムラムラは即解決! わしからの選別じゃ受け取れぇりゃひょぶッ!」 

 

男が自信満々に出したのはどこから見てもお色気青年雑誌、それを見た途端ツンツン頭の少年の方が彼の頬に右ストレートを一発。

 

「どんな気の遣い方だよ! てか病院で出来るかそんな事!」

「おいモジャモジャ野郎! 俺はジャンプ買ってこいつったよな! ああァ!?」

「アハハハハ、ジャンプよりもこっちの方がいいかと思っての……男はこういうの興味持つ生き物じゃろ」

「男だろうが病院でエロ本読むような奴はオマエぐれェだッ!! 返せ俺のジャンプ!! 返せ俺のギンタマン!!!」

 

白髪の少年に胸倉を掴まれながら鼻血が出た状態でブンブン頭を揺らされる男。

そんな光景を美琴が遠い目つきで見ていると、先程ジャンプを争奪し合っていたツンツン頭の少年の方が振り返り

 

「あ、あのー申し訳ありませんがあなた様のジャンプを譲ってくれるのは……」

「え? なんだって?」

「なんでもないです、はい……」

 

美琴のたった一言であっさりと諦めるツンツン頭の少年であった。

 

 

 

 

 

 

数分後、美琴は無事にジャンプと酢こんぶ、その他色々の物を買って無事に病室に辿り着いた。

 

「なんだったのかしらアイツ等……」

「あ、酢こんぶ買ってきてくれたアルか?」

「俺のヒロインは?」

「私の夫は?」

「ったくちゃんと酢こんぶ買って来たわよ、アンタ達二人はいい加減諦めなさい」

 

神楽に酢こんぶを渡して浜面と美鈴にジト目を向けた後、ふと銀時と黒子がいない事に気づく。

 

「あの二人どっか行ったの?」

「なんか「隣がうるせぇから気晴らしに屋上行って風当たって来る」って言ってたネ」

「いやアンタ等も十分うるさいわよ……わかったわ、ちょっと行ってくる」

 

そう言うと美琴は袋からジャンプだけを取り出す。

 

「アンタ達、あまり大声で騒がないでよ。お隣さんが迷惑してるかもしれないから」

「はーい、お母さんは美琴ちゃんの言う事に従いまーす」

「え、お母さん!? 俺はてっきり姉妹かなんかかと!」

「無駄な若作りし過ぎると体に悪いから女は年相応の格好をしろって私のマミーがよく言ってたアルよ」

「フッフッフ片腹痛いわね小娘、母親って生き物はいくつになっても周りから綺麗だと思われたいのよ、特に旦那には、それに娘にも」

「はいはい綺麗な母親で私も鼻が高いわ、一生やってなさい」

 

何を言っても騒ぐなこれはと思い、美琴は冷たく言い放つとジャンプを持ってさっさと屋上へと向かって行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神楽の言う通り、銀時と黒子は屋上にいた。

銀時の方はまだ車椅子から下りれない状況だが、黒子の方は走る事は出来ないが普通に歩けるぐらいには回復している。

 

「ったく隣がうるさくて人生ゲームも出来やしねぇよ、特に人一倍やかましいあのツッコミはなんなんだよ一体」

「あのツッコミから察するにきっと普段から地味で目立たないモブキャラですわね」

「そうだな、そしてメガネを掛けてる、いわばメガネが本体のようなツッコミキャラだ、間違いない」

 

見てもいないのにそう分析する銀時と黒子の下に。

 

「ったく人に買い物行かせておいてまた屋上デート?」

 

屋上から美琴がジャンプ持ってやってきた。

 

「アンタ等も好きねぇ」

「オッサンかお前は、ほれジャンプ貸せ」

「貸してやんだからちゃんと返しなさいよね」

「お前と違って借りパクしねぇよ」

 

車いすに座っている銀時の手に持ってきたジャンプを手渡す美琴。

 

「それ手に入れるのに苦労したんだからね、変なツンツン頭の男に譲ってくれだのなんだと言われて本当参ったんだから」

「ツンツン頭?」

「今度会ってまたジャンプを争う事になったら黒焦げにしてやろうかしらね」

 

美琴は学園都市レベル5の第三位だ、こんな相手にまともに勝つ者など滅多にいないであろう。自信たっぷりの様子で彼女は彼との次の戦いを期待する。

 

「誰と争ったかは知らねぇが程々にしろよお前、ヅラにも言われただろ、やたらと能力使うなって」

「わかってるわよ冗談で言っただけでしょ」

「お姉様の場合冗談には聞こえないのですが……」

「あーもういいわよ、どうせ私は頭に血が昇ると周りが見えなくなる性格よ全く」

 

疑り深い銀時と黒子をよそに美琴は病院の屋上から見える青空を眺める。

 

「今日はやたらといい天気ね……」

「そうですわね、病院で過ごすには勿体ない日ですわ」

「この空の向こうにある宇宙って、一体どんな所なのかしらね」

「宇宙ですの? わたくしも行った事ありませんわ、今は宇宙へ飛び立つ事はそんなに珍しい事ではなくなりましたけど学生のご身分ではさすがに」

「アンタは?」

「俺もねぇな、俺の昔のダチが向こうで商売してるのは聞いたけどよ」

「へ~アンタの友達宇宙で働いてるんだ、私のパパと一緒ね」

「どっかで会ってるかもな」

「どうかしらね、宇宙は広いし」

 

空の向こうにあるであろう宇宙とは一体どんな所なのであろう。

きっとテレビや資料映像などでは見られないような、今まで見た事無いような景色が見れる筈。そう思いながら美琴は宇宙に対して少々の期待を覚える。

 

「……いつか三人で宇宙に行ってみたいわね」

「……」

「え、どうしたのアンタ急にこっち見て」

「ん、なんでもねぇよ……」

 

美琴がポツリとつぶやいた途端、ジッと彼女を見つめる銀時。

それに心配そうに美琴が尋ねるが銀時は首を横に振って誤魔化す。

 

「ただお前もアイツと同じ事言うんだなと思ってさ……」

「アイツって?」

 

首を傾げて尋ねてくる美琴に銀時は目を逸らして空を見上げる。

するとふと思い出すのは

 

もう2度と会う事の出来ない彼女の言葉

 

『私の夢は銀ちゃんとみさきちゃんの三人で宇宙を冒険する事かな!』

 

時が過ぎても決して忘れる事のない彼女の言葉を胸にしまい込み、銀時はフッと笑った。

 

「おめぇみたいなマヌケ面したガキンちょだよ」

「誰がマヌケ面よ! 自分だってアホ面のクセに!」

 

笑いながら言ってくれる銀時に美琴がムキになって不機嫌な表情を浮かべるも

 

「お姉様、こんなデリカシーのない男はほっといて行きましょう。こんな所に長居しては日射病にかかってしまいますの」

「え、黒子?」

 

そう言って黒子が無理矢理美琴を銀時の傍から引き離して屋上から出ようとする。

少々強引な彼女に美琴は若干不信感を覚えた。

 

「ちょっと待ちなさいよ、コイツ車椅子だから一人にするのは……」

「”いいですから”」

「!」

 

美琴は何か変な違和感を覚えた。そう、これは美鈴の中に彼女がいた時と……

 

「アンタ……」

「”ささ、行きましょうお姉様”」

「……わかったわ、ここは大人しく引き下がってあげる、ここで断ったらアンタが何しでかすかわからないし」

「”ご理解が早くて助かりますわ”」

「それにたまには”アンタ”に貸してあげなきゃ可哀想だしね」

「……」

 

意味深なセリフを黒子に向かって放つと美琴は踵を返して黒子(?)と共に屋上を後にする。

 

「じゃあね、”二人でごゆっくり”」

 

美琴は黒子を連れながら最後に言葉を残して去っていった。

その場に残されたのは車椅子に乗った銀時。

 

だけだと思っていたのだが

 

「御坂さんったら私の能力にどんどん鋭くなっているわねぇ」

 

銀時の背後から不意に聞こえる少女の声。

その声が聞こえても銀時は振り返りもしない

 

「いつからいたんだよお前」

「私はいつだってあなたの傍にいるわ」

 

背後から聞こえる声はどんどん銀時の方へ近くなっていく。

そして声は遂に銀時のすぐ右隣に

 

「私はレベル5の第五位、心理掌握≪メンタルアウト≫を持つ常盤台の女王」

 

銀時の隣には常盤台の制服を着た金髪の少女が

そこで初めて銀時は彼女の方向へ振り返る

 

「食蜂操祈≪しょくほうみさき≫はあなたがどこにいるかなんてすぐにお見通しなんだゾ☆」

 

レースの刺繍の入ったソックスと手袋、星の付いたバッグを下げた少女。

キラッとした目を輝かせながら長い金髪をなびかせ現れたのは

 

銀時が美琴よりも初めて世話する事になったレベル5だった。

そんな彼をジーッと眺めた後銀時は真顔でポツリと

 

「なにその自己紹介の仕方? 全然つまらねぇんだけど、お笑いナメてんの?」

「いや別にウケ狙ってやったわけじゃないから……」

「ったく出て来ていきなり大スベリとかマジしらけるわ」

「ス、スベってないし……私別にそう言うの気にして名乗った訳じゃないわぁ……」

 

予想外のダメ出しに軽く、というよりかなり傷つく食蜂。動揺してるのか目が左右に泳いでいる。

 

「私前から言いたかったんだけど、銀さんのそのノリいい加減にしてほしいのよねぇ、銀さんのせいで私の派閥の子達が私がお笑いに興味があるとかなんとか思ってるみたいで……この前も熱湯風呂に入れられたし……」

「おいしいじゃねぇか、良かったな女王」

「おいしくもなんともないわよぉ! 素人が作った熱湯風呂ってすっごく熱いし! なんかもうマグマみたいに煮えたぎってたんだからねぇ! そんな所にあの子達は裸の私を笑顔で……」

 

つい最近に起こった悲劇を思い出してうっすら涙目になると食蜂は銀時を睨み付ける。

 

「全部あなたのせいなんだから責任取りなさいよねぇ……」

「ガキの頃からお笑い番組ばっか観てただろ、それを自分で体験できるんだから本望だろ」

「観るのとやるのは別物なの!」

 

あんまりな傍若無人っぷりな銀時に食蜂は屈んで顔を近づけて抗議する。

そして互いの顔が数センチ近くに達した時に食蜂ははぁ~とため息を突いた。

 

「こっちはこんなくだらない話する為に来た訳じゃないのにぃ」

「俺が知るかよ、それと顔が近い、息吹きかけるな」

 

顔が近いと言われて不満げな表情を浮かべた食蜂は、更に彼に顔を近づけたままゆっくりと話しかける。

 

「ねぇ銀さん、昔のお友達と久しぶりに会えて嬉しかった?」

「んだよ急に、嬉しくも何ともねぇよあんな奴と会っても」

「まああなたならそういうでしょうねぇ」

 

いつもの死んだ魚のような目の奥を覗き込むような態勢をしながら食蜂はクスリと笑う。

 

「あの子に会えない苦しみも、少しは紛れたと思うんだけど?」

「……なあ女王様よ、一ついいか」

 

彼女の一言に銀時は質問を投げかける。

 

「おめぇが俺にどうして欲しいかぐらいはわかる、長い付き合いだからな。けどよ、どうしてお前はそんなにしてまで俺の傍にいたいのか、それがわからねぇ」

「それはやっぱりあなたがあの子に囚われてるように、私もあなたに囚われてるんでしょうねぇ」

「結局俺達は似た者同士って訳か」

「そうね……それじゃあ銀さん、私からも一ついいかしら?」

 

少々しんみりした表情を浮かべた後、今度は食蜂の方が銀時に尋ねる。

 

「昔のようにもう一度一緒に暮らさない?」

「は?」

 

予想だにしなかった彼女の質問に一瞬口をポカンと開ける銀時だが、それを見て食蜂は満足げに笑う。

 

「フフ、冗談よぉさすがに今のあなたの住居じゃ狭いし無理だわぁ、もう居候さんが一人いるみたいだし」

「居候がいようがいまいが誰がお前とまた暮らすかよ、大体今のお前は生徒で俺は教師だぞ。変な噂が出来たらどうするんだコノヤロー、下手すれば捕まるぞ俺は」

「その辺は私の力でどうともでなるんだけどねぇ」

 

ドヤ顔でそう言うと食蜂は銀時の背後に回ると彼の乗る車椅子のグリップを握る。

 

「さて、行きましょうか」

「は? 行くってどこにだよ、聞いてねぇんだけど俺」

 

勝手に車椅子を押し始めて銀時が困惑していると。

 

食蜂は振り返る銀時に顔を近づけて得意げに笑った。

 

「私に任せない、私に任せれば迷わずに進めるから」

「……お前なんか企んでるな」

「それは行ってみてのお楽しみだゾ☆」

「なにがゾ☆だよ」

「パクっちゃやだゾ☆」

「誰もパクらねぇよそんなの」

「でも少しだけなら真似してもいいんだゾ☆」

「どっちなんだよ」

 

夏の日差しが強く照らす中。

 

一人の少女は車椅子を押しながら一人の男と共に進みだした。

 

一つの物語は終わり、もう一つの物語が始まる。

 

 

 

 

 

 

あとがき

ご愛読ありがとうございました、作者です。

こちらで投稿して僅か一か月でのスピード完結ですが無事に終わる事が出来てホッとしてます、「禁魂」、「真禁魂」と続きやっとこさ自分で満足できる終わり方に至りました。

最後まで読んでくださりありがとうございました。それでは

 

ps 

ツンツン頭の子? 誰です?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってふざけんなゴラァァァァァァァ!!!!」

 

咆哮と共に放たれた雷の槍がスクリーンを破壊し、あっという間に粉々にした。

ここはとあるC級映画を主に上映する小さな映画館。

 

そこにいるのは先程電撃を放った御坂美琴。両隣の席で座っている坂田銀時と白井黒子。

 

「なんでここで終わるのよ! なんで最後があの女がアンタをどこかへ連れて行くで完結なのよ! 何も完結してないでしょうが!」

「うるせぇーな最近の映画だって大体こんな感じだろ、彼等の物語は続きますが残念ながらここで終わりですみたいな」

「だから終わってないって言ってるでしょ!! 私全然活躍してないのよ! おかしいでしょ私メインキャラなのに!!」

「いやお前原作でも大体フワッとした感じでそこまで大活躍してる訳でもねぇだろ」

「うっさいスピンオフじゃ大活躍よ!」

 

席から立ち上がっている美琴の頭上には先程からずっとバチバチと青白い電流があちらこちらに飛び回っている。

それでも銀時はいつもの様にけだるそうに足を前の席に乗っけながらポップコーンを食べながら

 

「別にこれで終わりでいいって言ってんだろ、もう謎はあらかた回収してるんだし」

「いっぱい残ってるわよ! 迷宮入り寸前よ! 私が最後に出会ったあのツンツン頭と白もやしとかモジャモジャ頭の男とか一体何なのよ!!」

「んなもんモブだよモブ、どこにでも湧いてるだろ」

「あんなキャラの濃いモブがいるかぁ!!」

 

怒り心頭の美琴を更に苛立たせる銀時。

そんな二人を見かねて黒子が横からジト目を向けながら。

 

「まあお姉様がこれで納得しないのはわたくしも同じですの」

「ほら! 黒子も私と同じだって言ってるじゃない」

「わたくしとお姉様の×××とか×××××や×××××××もありませんでした何より×××××××××ふぎゃ!!」

「誰がアンタの願望やりたいって言ったのよ!! つかなんて言ってるのか全然わかないし!!」

 

飛んでもない事を口走る黒子の頭に鉄拳制裁をかますと美琴は両手で頭を押さえながら

 

「ここで終わりとか納得出来る訳ないでしょ! 私まだ全然活躍してないし友達も全然増えてないし! せめて私が友達100人出来てから完結しなさいよ!!」

「それじゃあこの作品一生完結迎えられねぇだろうが、つかお前も自分の願望やりたいだけじゃねぇか」

 

勝手な言い分をつい漏らしてしまう美琴に銀時がめんどくさそうにツッコミを入れていると

 

「私もこの終わり方に納得できないアル!」

「そうですよ銀さん、ここで終わりとか酷過ぎですよ、感想欄炎上ですよ本当に」

 

突然やってきたのはチャイナ娘こと神楽、そしてかぶき町に暮らしている住人、志村新八だ。

彼等もこの終わり方に納得できない様子。

 

「銀魂でヒロイン張ってる私ほとんど出番ないってどういう事アルか! せめてそこのツインテ娘ぐらい活躍させるのが筋ってもんネ!」

「いやいや神楽ちゃんはまだいい方でしょ、なんだかんだで銀さんと絡んだり一緒に住んでたりしてるんだし。僕なんか銀魂ではツッコミキャラとして不動の地位に築いているっていうのにこっちじゃ出番ほとんどなかったんだから、しかも僕より姉上の方が出番多かったし」

「おいチャイナ娘、そのメガネとなんで一緒にいんだ」

「知らないアル、勝手に自分がメインキャラだと勘違いしてるただの痛いメガネだよきっと」

「ほら見ろこういう事だよ! 銀さんとは1回しか絡まなかったし神楽ちゃんとは会ってもいない! 万事屋トリオが一度も揃わずに終わりとかおかしいでしょーが!!」

 

銀時と神楽の冷たい扱いに新八がキレ気味にツッコミを入れるとまたもや背後から数人の人影が

 

「不満なら俺達もありやすぜ」

 

現れたのは泣く子も黙る真撰組の一番隊隊長沖田総悟と副長の土方十四郎、そして局長の近藤勲だ。

最初に口火を切ったのは沖田。

 

「真撰組の俺達が全く活躍してねぇってのが解せねぇ、ウチの土方さんなんか短期間で2度も負けてこりゃまた情けねぇ噛ませ犬キャラに成り下がっちまったんだぜ」

「誰が噛ませ犬だ! そこじゃなくて江戸を守る俺達がまるでチンピラみたいな不当な扱いにしたまま終わるのは許さねぇって言いに来たんだろうが! そうだろ近藤さん!」

「ああ、その通りだ! 俺達はこのまま終わるなんて絶対に許さんぞ!!」

 

土方に話を振られ、激しい気迫で近藤は叫ぶ。

 

「終わるのは俺とお妙さんが結婚してそっからほんわか家族コメディドラマっぽいストーリーになって俺とお妙さんがたくさんの子供に囲まれながら日々奮闘しながらともに苦難を乗り越えていき最終的に子供達は皆立派に自立して俺とお妙さんはまた二人暮らしに戻り遠い昔の事を懐かしむ様に思い出しながら暮らしていたらラストにたくさんの孫達が家にやって来て一家団欒で食事を楽しみながらエンドの文字が出るって所までやらなければ俺は納得でき……!!」

「私をダシにして勝手にクソ長ぇ上にクソみてぇな妄想撒き散らしてんじゃねぇゴリラァァァァァ!!!」

「ぶぎゅぅぅぅぅぅ!!!」

 

延々と長いストーリをご丁寧に話そうとする近藤をぶっ飛ばしたのは新八の姉である志村妙。

 

「姉上! どうしてここに!?」

「決まってるでしょ、私の出番をここで終わりにしようとしてるこの作品を血祭りにあげるの」

「いや作品自体血祭りにするってどういう事!? この場にいる人全員殺るって事!? 可愛い弟もいるんですけど!?」

 

ニコニコとしながら末恐ろしい事を口走る自分の姉に新八が恐怖していると

 

「チッ、バカ共が必死になってなにみっともない醜態晒してんのよ」

 

一人の少女が舌打ち交じりに入って来る。

 

「ったく暇つぶしに映画でも観ようと思ったらなによこのくだらない茶番劇は? 金返せっつうの」

「いやぁ本当超見苦いモンみちゃいました。せっかく名作C級映画が観れると思ったのに超最悪です」

 

麦野沈利が自身満々に現れると共に絹旗最愛も続いてやって来る。

 

「そういやウチにも不満がある奴がいたわね」

「ああいましたね、ほら浜面、出番ですよ」

「おう!」

 

そして二人の後ろから現れた少年が一人

浜面仕上が声高々に叫ぶ

 

「俺の不満は一つ! まともな女の子絡ませてくれぇぇぇぇぇ!! どぅほぉぉぉ!!!」

「浜面のクセになにわけのわからない事いってんだ訳よ!!!」

 

彼の雄叫びを消すかのように腹に飛び蹴りをかましたのはフレンダ=セイヴェルン。

 

「結局アンタはそうやって一生モテない人生送ってればいいって訳よ……!」

「い、嫌だ! 俺は絶対に幸せになるんだ! こんなチンピラみたいな女性陣じゃなくて俺はおしとやかで男を立たせるヒロインが欲しい!」

「おいテメェ、それ私がチンピラって事? 喧嘩売ってんの?」

「やはり浜面は超制裁をくわえた方がいいですね」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フレンダに胸倉を掴まれたまま墓穴を掘る浜面の下に麦野と絹旗までもが群がり始め袋叩きを始めた。

 

「やばいわ、最終回なのに凄い荒れまくってる……どうすんのコレ、ちゃんと収集つくの?」

「わたくしに聞かないで下さいまし、元はといえばお姉様が不満を放った瞬間ゾロゾロと出て来て……」

「私のせいにしないでよ! ちょっと主人公! ここはアンタがビシッとまとめて……」

 

この事態を収める為に慌てて美琴は主役である銀時に声を掛けるが

 

「さあて終わった終わった、テメェ等早くズラかるぞ」

「っておい! なんでこのタイミングでエスケープかまそうとしてんのよ!!」

「あなたそれでも主人公ですの!」

 

どさくさに紛れて映画館の出口に向かってこっそり逃げようとしている銀時を発見。

美琴と黒子がすぐに呼び止めると彼は出口のドアに手を置いたまま

 

「いいんだよ、終わった作品の事でバカ共が騒ごうが知ったこっちゃ……」

 

ヘラヘラ笑いながら最後まで主人公らしくない行動する銀時が出口のドアを開けようとしたその時

 

「あべしッ!」

 

彼が開ける前にドアが物凄い勢いで開いた。吹っ飛ばされてその場に倒れる銀時。

 

「いってぇだろうがバカ! この作品の主人公である俺に対して何様だコラァ!! ぶっ殺すぞ!!」

 

上半身をすぐに起こして抗議する銀時。だが

 

「うお! 眩し! なんだ一体!」

「こ、この光は一体なんですの……!」

「眩し過ぎて直視できない……!」

 

ドアが開いた途端その先から眩しい閃光が館内を明るく照らす。

その場にいた者は全員眩しさに目を細めながら出口の先を見ようとする。

 

そこに微かに見えるのは、ツンツン頭をした真っ黒な人影があるではないか。

 

「だ、誰だテメェは!」

「俺が誰だってどうでもいい。俺は今回、アンタ達に言いたい事があるから来たんだ……」

 

眩し過ぎてシルエットしか見えない存在が館内にいる者全てに聞こえる声で

 

「テメェ等それでいいのかよ!!」

「「「「「!!!!」」」」」

 

声の主は芯の通ったはっきりした口調で叫ぶ

 

「テメェ等ずっと待ってるんだろ! 誰も不満なく活躍できる、誰もが不遇な扱いにならず出番を貰える、そんな誰もが笑って誰もが望む最っ高に最っ高なハッピーエンドって奴を!!」

 

眩しい光がより強くなる。

 

「ずっと待ち焦がれてるんだろ! こんな展開やあんな展開を!! その場つなぎのかませ犬じゃねえ! 主人公が登場するまでの時間稼ぎじゃねぇ! 他の何者でもなく他の何物でもなく! テメェ等その手でこの作品で輝いてみせると誓ったんじゃねぇのかよ!!」

 

光が強くなるほど真ん中の黒いシルエットがより強調される。

 

「ずっとずっと出番欲しかったんだろ! ギャグでもいいシリアスでもいい! 女の子とくっつけるラブコメでもいい! そんなキャラクターになりかったんだろ!! だったらそれは全然終わってねぇ! 始まってすらいねぇ!! ちょっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!!」

 

そこで初めてツンツン頭のシルエットが動き出し。

 

バッと己の右手を高々と上に掲げた。

 

「手を伸ばせば届くんだ!! 次のシリーズでおっぱじめようぜ『禁魂。・新主人公編』!!」

 

そう言い残した後、真っ黒なシルエットこちらに背を向けてだっと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

「え? どゆこと? 新主人公編?」

 

長々と話をして何処へ行ってしまったシルエット。

 

一同の中で初めて口を開いたのは主人公銀時。

 

「新主人公ってなに? この作品の主人公って俺だよね?」

 

小刻みに震えながら冷や汗を流しつつ銀時が一同の所に振り返ろうとすると

 

「どくアル! 元主人公!!」

「うぎゅ!」

「待ってください新主人公さん! こんな元主人公どうでもいいんで僕に出番を!!」

「ぐべぇ!」

 

思いきり頭を踏んずけられた。

最初に神楽、次に新八が光り輝く出口へと飛び出し

それに続いて他の一同も駆け出し

 

「待ってくれ新主人公くん! 次シリーズでは是非俺とお妙さんが最っ高のハッピーエンドな結末を迎えれるように……ずぼすッ!」

「テメェは元主人公と一緒に一生出てくんな!!」

「次のシリーズから新主人公らしいですぜ、どうします土方さん、また斬りかかりますか?」

「元主人公みたいな周りに女はべらしてる様な軟弱な野郎ならぶった斬る」

 

真撰組とお妙が出口に向かっていく。

そして

 

「誰が主役になろうがどうでもいいわよ私達には、おら浜面飲みに行くぞ」

「いえーい浜面の超奢りですねこれは、主役云々は私達には超関係ないですしね」

「結局、あっちで主人公が変わろうがこっちの主人公は一応コイツな訳だし……」

「はぁ、なんだろうな……次シリーズでも俺ずっとこんな扱い受けてそうな予感がする……助けてくれ新主人公……」

 

各々呟きながら美琴と黒子を残して全員行ってしまった。

ピンポイントに銀時の身体を踏んづけながら

 

「新主人公だと……ふざけんじゃねぇぞ、認めねぇぞそんなの……」

「急ぐわよ黒子! 私達このままじゃメインキャラから脱落よ! 元主人公みたいに!」

「そうですわね! 元主人公と一緒に日陰者になるなど絶対にお断りしますの!!」

「ふぎゃ!!」

 

そして最後に共にメインを張っていた二人に踏まれる。

 

「元主人公の誰かさんはゆっくり休んでくださいな」

「ちょっと待ちなさいよ新主人公! 主役張れるかどうか私が試しに勝負してやるわ!! 私が勝てば主役の座よこしなさい!!」

 

美琴も黒子も勢いよく光指す外へ行ってしまう。

館内に残されたのはみんなに踏まれてボロぞうきんになってしまった元主人公銀時。

 

「な、なんだよコレ……主役降板になった途端この扱いって……俺は一体どうすればいいんだ……どこに行けばいいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

「そんなのわかりきった事でしょぉ」

「!」

 

背後から聞き慣れた声がはっきりと聞こえる。館内にはまだ一人残っていたのだ。

銀時がすぐにバッと振り返ると

 

「主人公じゃなくなっても銀さんは銀さんなんだからぁ、行くべき場所は一つなんじゃない?」

 

そこにいたのは常盤台の女王こと食蜂操祈。

思わぬ来客の登場に銀時が倒れたまま動けないでいるとスッと彼女がしゃがみこんで手を差し伸べる。

 

「あなたは一旦主人公としてはお休み、だけどあの世界には護るべきモノがまだあるんでしょ?」

「……」

「それは主人公じゃなきゃ護れないのものなのかしら?」

「……んなわけねぇだろ」

 

食蜂の手をしっかりと握ると銀時はゆっくりと立ち上がる。

 

「例え主役じゃなくなろうがなんだろうが、俺が坂田銀時として生き続けている限り」

 

食蜂と共に輝く出口を眺めながら

 

「護るべきモンはいつも変わらねぇ、俺の居場所はここだけだ」

「そうねぇ、それが私の知る銀さんだわぁ」

 

 

 

 

 

「か~ら~の~!!」

「へ?」

 

そこで銀時が動き始め、手を繋いでいた食蜂をそのままグイッと引っ張って

 

「チョークスリーパァァァァァァァ!!!」

「うぐへぇ!! ちょ! ちょっと銀さん! 首! 首折れる!」

「ふざけんじゃねぇこの作品の主人公は今過去未来もずっと俺だ! ぜってぇに俺以外の主人公なんざ認めねぇ!」

 

片腕で相手の首を締め付け、もう片方の腕でしっかりホールドする。

窒息しかねない技をいきなり仕掛けられて食蜂は苦悶の表情を浮かべた。

 

「お、往生際が悪いのよあなたはいつもぉ! こんな時ぐらい二人で笑ってシメるとか出来ないのぉ!!」

「お利口な口を随分叩けるようになったじゃねぇか女王様よぉ~!! 二人で笑って終わり? んなもん片腹痛いわ! 最後に笑うのは俺だけで……」

 

一旦言葉を区切ると銀時は食蜂の首を片手で締め上げまま光指す出口の反対方向に向かって走り出す。

そして美琴が粉々にしたスクリーン目掛けて跳躍し

 

「十分なんだよッ!!」

 

バンッ!と力強く飛び蹴りをかますとスクリーンは跡形も無く破壊された。

するとその先には何かがあった。

 

「こっから先が俺達の本当の道だぁ……!」

「いやぁぁぁぁぁ!! 何よこの禍々しい空間は!!」

 

先程の輝く出口と違いこちらは完全に混沌そのもの。

禍々しく黒いオーラが辺りを闇に包み、今にも自分達を飲み込もうとしている。

 

「さあさあ行こうぜ女王様よ~!! 俺を裏切ったバカ共をここに引きずり込んでやろうぜ~!! そしていずれは新主人公とかはざいてたあのツンツン頭もここに蹴落としてやらぁ! そしたらまた坂田銀時編の復活だ~!!」

「こ、これは今まで主人公として長いキャリアを築いて作られたプライドが崩壊したせいで銀さんの精神に影響が!! お願い正気に戻って銀さぁぁぁぁぁぁん!! 誰かこの人を助けてぇ!!!」

「ブハハハハハ!! 今更助けを呼んでもおせぇぞ小娘!! ここにはもう誰もいやしねぇ! ここにいるのは元主人公という烙印を押された俺だけなんだからなヒャ~ハッハッハッ!!」

 

理性が崩壊した銀時は食蜂も道連れにしようと高笑いを浮かべながら闇の出口へと向かっていく。

 

しかしその時であった。

 

「……くっだらねェ」

「!」

「オマエ程度の半端モン主人公がよォ、対した覚悟もねェクセに闇の中に入って来ンじゃねェよ」

「だ、誰だお前は! せぼすッ!」

 

暗闇の中から低い声が聞こえたと思ったら一瞬の出来事だった。

銀時の身体が突然車に撥ねられたかのような衝撃を受けて思いきり後ろに吹っ飛ばされたのである。

 

「うぎゅッ!」

 

そして銀時に捕まっていた食蜂も一緒に飛ばされ、そのまま床に彼と共に後頭部から激突。

 

「な、なんで私まで……」

「あァ? 悪ィが俺はオマエ等が求めるような救いのヒーローなンてもんじゃねェンだよ、闇に沈まなかっただけマシだと思え」

 

謎の声の主に一周されながあら、頭にタンコブ出来た状態でピクピクと痙攣しながら食蜂は隣で白目剥いて気絶している銀時を確認する。

 

「ったく芳川に頼まれたから仕方なくやってやったが、マジめンどくせぇ」

 

そう言って声の主は銀時の頭を片手で掴むとズルズルと引きずる。ついでに意識が消えかかっている食蜂も。

 

「しかもよりにとってコイツを助けなきゃいけねェとはな」

 

そこで食蜂の意識は途絶えた。

覚えているのは自分と銀時が光の中に包み込まれていくのと

 

「まあいずれ俺が必ずぶっ殺す相手だから生かしておかないとなァ、銀時くゥン…!」

 

とある人物が楽しげに笑う声だけだった。

 

 

 

 

 

 




本当のあとがき
はい、それでは次からは新主人公となります、銀さんの話はここで一旦最終章を迎えますが、いずれ外伝や再復活もあるかもしれません。今までずっと隠していて申し訳ありませんでした。
そして新シリーズ開始は51話となっております。50話までは次シリーズと関連性がある複数人の外伝をやる予定です。
予定としては

46話・47話 前篇後編の2話完結物
48話 1話読み切り
49話 1話読み切り
50話 新シリーズのプロローグ的な

という感じです
それでは

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