禁魂。   作:カイバーマン。

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第四十四訓 侍教師、変わらぬ想い

 

これは一昔前の話

 

攘夷戦争、それは二十年前から起きたと言われている天人を排除する為に立ち上がった侍達が引き金となり始まった戦争。

圧倒的な武力の差があったにも関わらず戦いは今もなお長く続いていた。

 

「おーおーこりゃまたえらい楽しそうじゃのー」

 

時間は深夜、長い戦が続いたおかげで荒れ地となってしまった場所。

その崖の上で、ひょうきんな男が呑気に笑っていた。

 

崖の下にいる数千にも及ぶ天人達を前にして

 

「ヅラ、あちらさんみんな勝利を確信してあちらこちらで宴会しとるぞ、アハハハ」

「ヅラじゃない桂だ」

 

崖の上から眺めて笑い出している男に桂と名乗る男が背後から近づいてくる。

 

「あの敵の数……いよいよ本腰を入れてきたという訳か、高杉が連れて来る援軍が早く到着してくれればいいのだが。それまで耐えるしかあるまい」

「けども今のわし等は兵糧も尽きかけて腹も減ってクソも出ん。そんな状況で耐えろと言われてものぉ」

 

戦場で食料が尽きるというのは武器を失うよりも厳しい状況に置かれているという事だ。

この状態でなんとか援軍が来るまで戦いを引き延ばすには無理がある。

 

「こんな戦をこれからも続けとったら、わし等の国はいったいどうなるんじゃろうな……」

「奴等が勝って変わるか、俺達が勝って変わらないかの二択しかあるまい」

「その二択の為に一体どれ程の血がここで流れるんじゃか」

「……」

 

先程までの飄々とした態度から一転してどこか遠い目をしながらそう呟く男に桂はしばし黙りこくる。

 

「……そんな事を考える暇があるなら、刀の手入れでもしておけ」

「なんじゃ急に、まさかもう戦仕掛けるんか? 高杉が来るまで耐えるんじゃろ?」

「耐えてみせる、だからこそ敵の兵糧を奪わねば」

 

そう言って桂はチャキっと腰に差した刀を男に見せる。

 

「今この時をもって連中に奇襲をかけて兵糧庫を奪う、お前の隊と俺の隊でな」

「なんじゃとぉ! 兵糧庫を奪うって事は敵のふところにボディブロー入れるって事じゃぞ! 無理じゃ無理! 連中のガードはそげな簡単には崩せん! キツイカウンター決められるに決まっちょる!」

「どっちにしろこのままでは俺達は全員飢え死にだ、ここで戦わなければいつ戦うのだ」

「相変わらず真面目じゃのぉおんしは、けどここで戦うのはそれこそ無駄死にじゃ。ここは高杉が一日でも早くここに来る事を祈って本拠点で耐えるしか」

「敵はもう目前へと迫っているのだ、悠長な真似などしていられない」

 

こちらの兵糧庫はもう長く持たない、数千の敵を前に数十人の兵を率いて決死の覚悟を決めている桂を慌てて止めようとする男だが彼は聞く耳持たない様子

 

すると

 

「おいテメェ等、うるせぇんだよ眠れねぇだろうが」

 

二人の背後にフラリと一人の男が歩み寄って来た。

銀髪の天然パーマの男が眠そうに欠伸をしながら

 

「こちとら戦続きでロクに眠れねぇんだから、悪いけど騒ぐんなら別の所でしてくんない?」

「お前はよくこんな状況で寝れるな、少しは緊張感を持て」

「緊張感? そんなモン持ってても腹は膨れねぇんだよ、ったくちょっとどけテメェ等」

 

そう言いながら銀髪の男は二人を押しのけて崖の先っぽに立つと

 

「こちとら腹が減ってイライラしてるってのに」

「っておい何やってる貴様!」

「なにって小便に決まってんだろ」

「崖の下はすぐ敵陣だぞ!」

 

崖の先でゴソゴソ動いたかと思いきや、崖の下に向かって月の光に照らされながら落ちていく小便。

キラキラと輝きながらそれは垂直に崖の下へ落ちていく。

 

「どうせ気づきやしねぇよ敵さんは全員宴会やってんじゃねぇか、こちとら水ばっか飲んですっかりウンコは出ない代わりにこっちがすげぇ出るようになっちまってさぁ」

「いや気付くだろ! 俺はイヤだぞ! お前の小便で戦いが始まりそれで死ぬのは!」

「そうじゃそうじゃ!」

 

抗議する桂に賛同する男

 

と思いきや天パの男の隣に立ちゴソゴソと股の下を弄った後。

 

「わしはこれ以上この戦いで余計な血を流したくないんじゃあ!!」

「おい貴様ぁ! 流したくないと言っておきながら一体何を下半身から流しておるのだ!」

「いやぁ他人の小便見るとついわしもしたくなっちゃってのぉ、よくあるじゃろ?」

「あるかそんな事! 全く貴様等は! もう我慢ならん!」

 

二人仲良く小便している様を見て遂に堪忍袋の緒が切れたのか歩み寄っていく桂

 

そして

 

「先陣を切るのはこの俺だぁぁぁぁぁ!!」

「結局お前も小便してるじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」

 

負けじと桂も放尿を開始。崖の下に向かって川の字になって落ちていく。

 

「貴様等の小便で戦いが始まるというのであれば! 俺は俺の小便で戦を始めてそれで死ぬ! これが侍の生き方というものだ!」

「いやダメだろ侍に謝れ!」

「まあええじゃろうこんぐらい! 崖の上から連れションってのも悪くなか! アハハハハハ!!」

「っておいバカ! お前が笑った拍子でお前の小便がこっち飛んでくるんだよ!」 

 

天パのツッコミも聞かずに勢いよく出す桂、それにゲラゲラと大笑いする男。

 

そして三人は事を済ませると再び崖の下を見下ろす。

 

「はーすっきりしたのぉ、3人共えらい勢いで出ちょっておったわ」

「どうやら俺達の中には戦いを前に恐怖して縮み上がっている者はいないようだ」

「え、お前アレで縮み上がってなかったの? アレで標準なのお前のって?」

「この戦が終わったらまずはお前のそれを切り落とす事にしよう」

 

慣れた掛け合いを終えると天パの男が急に腰に差した刀に手を置きながら

 

「じゃあ小便も終わったしそろそろ行くわ俺」

「行く? 一体どこに……なに!?」

 

なんとそのまま小便をした崖から飛び降りたのだ。

この高さから落ちたらほぼ確実に命を落とすであろう。しかし

 

崖の下でドンガラガッシャーン!!と派手な音が聞こえたかと思いきや大勢の敵が騒ぐ声と

何者かに斬られたかのような悲鳴。

 

「アイツめ……! 坂本! すぐに俺の隊とお前の隊を連れて下に行ってくれ!」

「ほんにアイツは無茶ばかりするのぉ、で? お前はどうするんじゃ?」

「決まっている」

 

そう言い残すと桂は躊躇なく崖から飛び降りる。

 

「無茶ばかりする友の尻ぬぐいだ」

 

落ちていく先には敵陣が寝泊まりしているであろう大量のテントが

 

桂はその内の一つ目掛けて

 

再び派手な音を立てて落ちた。

 

「き、奇襲だー!」

「侍共が攻撃を仕掛けてきたぞ! 武器を取れ! ぐわぁ!」

 

桂が現れ慌てて伝令を飛ばそうとする天人の一人が思いきり斬られる。

 

「あれ? お前も来たの? 言っとくが甘いモンは俺が真っ先に頂くから」

「黙れ、貴様に俺のそばは渡さん」

 

天人を斬った正体はやはり天パの男。彼もまたテントの上に落下したおかげで軽いかすり傷しか付いていない。普通の人間ならこの程度では済まないのだが……

 

「こういう事をする時はまず俺に相談しろって何度も言っているであろうが」

「言ってもどうせ止めるだけだろ」

「かかれー!」

 

宴会ではしゃいでいた兵達が次々と押し寄せて来る。

二人は背中合わせの陣形を取って周りを見渡しながら

 

「背中任せたぜ、ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ、言われなくてもわかっている」

 

あっという間に囲まれながらも二人は恐れも見せずに地面を蹴り

 

「坂田銀時! 参る!」

「桂小太郎! 押し通す!」

 

二人はそれぞれ反対方向に向かって走った。

これが坂田銀時と桂小太郎の戦い。

 

どのような時でも二人は深い信頼関係を結んでいた

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

「坂田銀時! 参る!!」

「桂小太郎! 押し通す!!」

 

木刀と刀が激しくぶつかり合わせる二人。

時代の流れが変わると共に彼等は戦う事を選んだ。

互いの本質を見極める為に

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

手数で圧倒しようと銀時は豪快に木刀を振りかざす。

手足の痛みさえも麻痺し、彼はただ目の前にいる桂を叩く事だけを考える。

 

しかもそれだけではない

 

「わたくしがいる事もお忘れなく!!」

 

彼のパートナーである白井黒子が彼の背後から手を伸ばして転移させる。

そして出てきた場所は桂の背後。

 

「どっせぇぇぇぇい!!」

「くッ!」

 

振り下ろしてきた木刀を交わす為に前へと飛ぶがその先にいたのは先程銀時を飛ばした黒子。

 

「捕まえましたの!」

「おっと、捕まってしまった」

 

桂の懐に入り手で触れると、彼をそのまま上空高くへ飛ばす。

 

「ふむ、良い仲間に恵まれているな」

 

落ちれば骨折は免れない状況で呑気な事を呟く桂だが、すぐに彼はヒュンっと再び消えて

 

「人を惹きつける所は相変わらずか」

「ロクでもねぇ奴ばっか集まって来るけどな」

 

また銀時の前へ姿を現す。

 

「そんな奴と仲良く話してるんじゃないわよ!!」

 

桂が銀時の前へ現れたのは恐らく彼女が能力を使ったからであろう。

座標移動、それが彼女、結標淡希の能力。

今度は軍用ライトを銀時に向ける。しかし

 

「させませんわよ」

「!」

 

彼女の目の前に黒子がシュンっと現れた。

てっきり黒子は銀時の援護に徹していると思っていた結標は予想できなかった。

黒子は銀時の援護ではなく彼女への攻撃を優先したのである。

 

「この!」

「あら残念」

 

いきなり現れた彼女に結標はヤケクソ気味に殴りかかるが黒子は再び消えて

 

「上から来ますのでお気を付けくださいまし」

「づッ!」

 

彼女の頭頂部に負傷したままでいる両足で踏みつける。

一瞬脳が揺らされて結標がフラつくと

 

「うぐッ!」

 

今度は足元から激痛を覚える。見ると靴の真ん中に深々と小さな鉄棒が刺さっている。

 

「演算処理が早くなっている……!」

「いえ、あなたが遅くなっているだけですの」

 

痛みに呻くように声を漏らす彼女の目の前に黒子が現れた。

 

「先程から疲れが見えますわ、肉体的にというより精神的な。ところであなたご自身をテレポートしたのは桂と共にここまで移動する時と、刀を回収しにいった時の2回で合ってますわよね」

「それがどうしたっていうのよ……!」

「少し疑問に思っただけですわ、このような戦いでご自身をテレポートせずに桂に盾役となってもらっていたのはなぜか、と」

「……」

 

彼女の疑問に結標は答えない、否、答えられないのだ。

ポタリと額から汗を一滴落とす。

 

「それに先程桂の下へ帰ってきた時に、何やら顔色が優れなかったようですが」

「……それが何?」

「もしやあなたは自分自身を転移させるのに若干のリスクがあるのでは?」

 

核心を的確に突かれた事に結標は動揺はしなかった。

いずれ彼女にはバレると薄々気づいていたのだ。

 

「まあね、確かに自分の身体を転移させるのは私にとっては難しいわ、昔の実験で事故を起こしたキッカケでね」

「ご自身の身体を自由に飛ばせるようになれば、レベル5も夢ではなかったでしょうに」

「そんなものに興味無い、天人に支配されてるこの学園都市が決めた序列なんて……」

 

結標はそう言いながら軍用ライトを黒子にそっと……

 

だが

 

「がッ!」

「女子トーク中にこっそり動かないで下さいまし」

 

手の甲を貫通し刺さる鉄棒。結標は思わず持っていたライトを落としてしまった。

 

「なんでこんな……! 私の考えを先読みするなんて……! さっきまでとはまるで違う……!」

「残念ながらあなたの考えが単調になっているだけですの」

 

両足と利き手を封じられ悔しそうに両膝を突く結標を黒子は静かに見下ろす。

 

「桂の言葉で多少はメンタルの方は回復して能力の使用までは出来るようですが、既にあなたはもうまともに戦える状態ではありませんわ」

「それはどう……かしらね!」

 

両膝を突いていた結標は咄嗟に落ちていた軍用ライトを左手ですぐに拾って黒子に向かって掲げるが。

 

「だからバレバレですのよ」

「あ……つ……!」

 

今度は左手の甲に鉄棒が突き刺さる、これで銀時同様四肢にダメージを負ったという事だ。

常人では耐えきれない痛みが全身から感じ始める。

 

「私が負ける……!」

「生身の身体に転移させるのは心が痛みますが、あなたもあの男に同様の事をしましたし」

 

精神負担、演算負荷、肉体損傷、それらが重なり意識も失いかけている結標に黒子はニコッと笑いかけると右腕を振り被り

 

「それではごきげんよう」

「ま……!」

 

最後に何か言おうとするがそこで黒子の右ストレートが彼女の顔面に炸裂。

地面に派手にぶっ倒れ、そこで結標の意識は途絶えた。

バタリと倒れて結標が動かなくなったのを確認すると

 

黒子もまた彼女の隣に倒れた。

 

「さすがに能力を使用し過ぎましたわ……」

 

ハァハァっと息を荒げながら黒子は自分の意識も薄れてゆくのがわかる。

今日だけで一体どれ程の能力を行使したのか、元々精神負荷の高い彼女の能力は無闇に使うと危険なのだ。

そして結標にやられた太ももの傷が原因でもう立つ事は出来ない。

結標のメンタルを少しでもダメージを与える為、黒子は今まで自分はまだまだ戦えると虚勢を張っていたのだ。

 

「後は頼みましたわよ……バカ侍」

 

そう言い残して黒子は静かに目をつぶる。

思いを相棒に託して

 

 

 

 

 

 

「銀時ィィィィィィ!!!」

「ぬおぉぉぉぉぉ!!!」

 

結標と黒子の戦いに終止符が打たれた中で、二人の戦いはまだ終わっていない。

彼女達の手を借りず、二人は得物を何度もぶつかり合わせ衝突する。

 

「貴様はやはりデタラメだな! 四肢が千切れるかもしれん状態で俺とこうして互角に渡り合えるとは!!」

 

銀時の身体はもう真っ赤に染まっている、それでもなお抗い続け戦う彼の姿に桂は思わず嬉しそうに叫ぶ。

 

(やはりコイツは変わらない、どんなに追い詰められても刀を捨てず、ただがむしゃらに前を向いて突っ込んで来るこの姿勢。かつて白夜叉と呼ばれていた時と何も変わらない)

 

ふと懐かしそうに昔の事を思い出しながらも桂の剣筋はますます速まる。

 

「だからこそ! 俺はお前と共にもう一度戦いたい!!」

「ふざけんじゃねぇ! 誰がテロリストになんてなるかぁ! こちとらまともな職に就いてんだ! この不景気のご時世に今更転職なんて出来っかぁ!!」

「問題ないお前なら面接無しで即正社員にしてやろう! ただし履歴書は持って来い! 手書きの!」

「今時手書きの履歴書じゃないと認めないって考えが古いんだよ! 時代はとっくにアナログからデジタルに移行してんだよ! つうか履歴書が必要な攘夷志士ってどんな攘夷志士!?」

 

刃を交える共に昔の様なやり取りを交わしながら

 

桂はここだというタイミングで銀時の腹に突きを入れようとする。

 

「学園都市など所詮天人の実験室の様な物だ! この街を滅ぼして幕府を倒し、天人も排除する! それがなぜ分からん!!」

「分かんねぇし分かりたくもねぇよ」 

「!」

 

彼の突きを一足早く避けて、刀を手で強く掴む銀時。

刃が手の平に食い込んでも離そうとせずに無防備になった桂を睨み付ける。

 

「天人だろうが能力者だろうが知った事かバカヤロー。ここは”俺のダチの墓”だ」

(抜けない……!)

「”アイツ”のたった一つの居場所を奪おうってんなら聖人だろうが魔神だろうがテロリストだろうが誰でも相手になってやる」

 

銀時に掴まれて引き抜けない刀に悪戦苦闘している桂を前にしながら。

銀時は木刀を振りかざし

 

「それが俺が背負ったモンの対価だ」

 

彼が木刀を思い切り振ったと同時に

豪快かつ派手な音が屋上で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「負けた、か……」

 

桂屋上の真ん中で空を眺めながら仰向けに倒れていた、

顔に放たれた一撃の痛みはまだ消えない。

 

「剣の打ち合いで負けたのではない、俺はお前の本気でこの街を護ろうとする決意に負けたのだ。ズタボロになってもなお体を引きずり、この俺を倒そうとするその決意を」

 

まだ戦える状態である筈の桂がまさかの敗北を認める発言。

しかしそれを聞いている銀時の方はというと

 

「へ、悪いがこっちも限界だわ、血が立ちなくて意識が遠のいちまってやがる……」

 

その場に膝を突き木刀を杖代わりにしながら弱々しい声を上げる銀時。

彼もまたこの戦いに全力を注ぎこんだおかげで、もう時間切れの様だ。

 

「この街を破壊するなら、まずは俺を倒してみやがれってんだ……」

「そいつは骨が折れそうだな、しばし時間を置くとしよう……銀時、お前に一つ聞きたい事がある」

「あん?」

「友の生まれたこの場所を護りたい、と言っていたな。その友とはどのような人物だったのだ、同じお前の友としてそれを知りたい」

「別にお前が考えてる様な大層な”人間”じゃねぇよアイツは……」

 

そう言いながら銀時はしみじみと思い出すかのように顔を上げて空を眺める。

 

「けど俺はアイツの事は絶対に忘れねぇ、例え時代が変わってこの国がどんどん変わろうが、色あせずに俺の魂に刻まれ続ける」

「……”先生”の様にか?」

「……」

 

意味深な問いかけをする桂の言葉に銀時は何も答えようとしない。

しばらくして彼は血を失い過ぎてバタリと前のめりに倒れた。

 

「やべぇな……そろそろ喋るのもだりぃわ……」

「そうか、ならばしばし休むが良い。今回は久しぶりに友と再会できた事だけで良しとしよう、そして出直してまた貴様を俺の仲間にする」

「へ、そいつは……ごめんだな……」

 

その言葉を最後に銀時の意識は途絶えた。

 

こうして桂と銀時の戦いは終わった。

結果は銀時のこの街を護ろうとする決死の覚悟によって桂が敗北を認める事となった。

立場は変わっても、二人は何も変わっていなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

「……」

「あ、目が覚めた」

 

銀時はゆっくりと目を開ける。

そこはビルの屋上ではなく、とある病院の一室だった。

見知らぬ天井どころかもう何度も目にしている病室の天井をボーっと眺めた後、ふと自分が横になっているベッドの横に座る少女に目をやる。

これまた見慣れた短髪の少女、御坂美琴であった。

 

「目を開けたらお前がいるとか最悪の目覚めだわ」

「良かったわね意識が戻って、もっかい失う事になるけどその前に言い残すことある?」

「いや待て待て、病院の中で電撃出すなって」

 

起きて早々悪態を突かれて美琴は笑顔で頭からバチッと小さな火花を出してくる。

それを止めながら銀時はゆっくりと半身を起こした。

 

「俺は病院まで連れてこられたのか、何日寝てたんだ?」

「ほんの数日よ、ホントどんな体の構造してんのよアンタは……それと隣のベッドに黒子が寝てるわよ」

「あん?」

 

美琴が指さした方向に銀時が目を向けると、隣のベッドには同じ場所で戦いを繰り広げた黒子が寝息を立てて熟睡している。

 

「俺達が無事って事はヅラの野郎たちは」

「私が屋上に行った時はアンタ達しかいなかったわ、逃げられたみたいね」

「昔と変わらず逃げ足の速い野郎だぜ」

「……」

 

どうやら桂と結標には逃げられたらしい。それを聞いてため息を突く銀時に美琴は顔をしかめた。

 

「……アンタ攘夷志士だったのね」

「元だよ元」

「別にアンタが元攘夷志士だろうが私は構わないわ、けど」

 

言葉少なめに返答する銀時に美琴は少々不安そうに

 

「アンタは桂みたいにはならないでよね?」

「なれるかよあんな糞真面目キャラに、俺はいつだって俺だ」

「それならいいんだけど、アンタが桂と昔の話してた時さ、なんだかアンタが遠くに行っちゃいそうに見えて……」

「どこにも行きやしねぇよ」

 

髪を掻き毟りながらけだるそうに答える銀時。

 

「周りはガキ共ばっかでうっとおしいったらありゃしねぇし、たまには一人で羽目外してぇ時もあるだろうが、仕方ねぇからここに長居させてもらうわ」

「なるほど、つまり私と一緒にいたくていたくてたまらないって事ね」

「丁度いいな、今からすぐに医者に耳診てもらえ、それか頭」

 

腰に手を当てドヤ顔をする美琴に若干イラッと来ながら銀時はいつもの死んだ目を向ける。

 

「そういやお前はどうだったんだ? 母ちゃんの方は?」

「ああママなら平気よ、私が桂の部下全員やっつけたし、ただね……」

 

美琴は腑に落ちない表情で目を細めた。

 

「第五位の女王様が私のママを人質にして私をアンタ達の所まで行かせるのを止めたのよ」

「アイツか」

「あんまり驚かないのね」

「アイツは昔からどこからともなく首突っ込んで来るからもう慣れたわ」

 

少々意外そうな顔を浮かべる以外特に驚いていない様子の銀時に美琴は話を続ける。

 

「アンタと桂を戦わせたがっていたわ。アイツは一体アンタに何を望んでいるのかしら」

「……いい加減過去から逃げずに向き合えって事だろ」

「わかるの?」

「しょっちゅう言われてんだよ」

 

そう言って銀時はフッと笑うと、美琴の方へ振り向いた。

 

「俺は戦争とこの街で大事なモンを二つ失っちまった、死んでも護りてぇモンを結局護りきれずにテメーはのうのうとこうして生きている」

 

初めて自分から自分の話を始める銀時に美琴は黙って聞く。

 

「俺はまだその重荷を背中に背負い続けて彷徨ってる、それがアイツは許せねぇのさ」

「……」

「過去の事は引きずるなとはヅラに言ったが、結局俺もアイツと同じ半端モンだよ」

 

自虐的に呟く銀時の表情、寂しげに思い出を蘇らせている彼の姿を美琴はただ無言で見つめる。

 

「手から落ちたモンが2度と戻って来ねぇ場所に行っちまったのに、まだ俺はそれを追いかけている。そればっかりは女王にキレられても文句は言えねぇわな」

「……私はアンタが一体何を失ったのか、あの女と一体どんな事があったのかは知らないわ、けど……」

 

珍しく弱気な言葉を嘆く彼に美琴は頭の中で伝えたい言葉を探りながら

 

「いつものアンタでいて欲しい、ちゃらんぽらんだし女の子の扱い方も最悪だしいい年してジャンプ読んでるし人前で平気で鼻ほじるし天パだしとんでもないバカだけど」

「おい、どんだけ俺を乏しめれば気が済むんだコラ、トドメ刺しに来たのか?」

「そんなアンタが私の隣でこれからもそのアホ面でヘラヘラと笑ってくれるなら、私はアンタが何を背負ってようが見る目は変わらない」

「……」

「だからこれからはアンタは足元ばっか見てないで前向いて私を見ろって言ってんの」

 

励ましてるのか貶してるのかわからないフォロー。

銀時はいつものとぼけた面でボリボリと後頭部を掻きむしる。

 

「ガキがおっさん口説こうとするなんざ十年早ぇよ」

「はぁ? んなつもりは毛頭ないわよ、アンタが珍しく辛気臭い顔してたから励ましてやってるだけよ」

「生憎テメェみたいなガキに気を遣われても嬉しくとも何ともねぇよ」

 

口をへの字にする美琴に銀時はけだるそうに答えるとベッドからのそっと両足を出す。

 

「こちとら心の問題だけじゃなくて体の方も相当ヤバ……いてて」

「何やってんのよ、両手両足に穴開いてたのよアンタ、私がすぐに病院呼ばなければどうなってた事やら」

 

床に足を着けた途端すぐに痛がる銀時にため息を突くと、美琴は傍にあった車いすを彼の下へ持ってくる。

 

「リアルゲコ太がしばらくこれ使いなさいって、ほら座りなさい」

「ったくあのヤブ医者、こんなモン用意するよりもさっさと俺の怪我治せっての」

「言っとくけどあの人が治療しなかったらアンタ相当ヤバかったんだからね、感謝しないよ」

 

ブツブツと呟きながら銀時は美琴が持ってきた車いすに深々と座ると、美琴は彼の背後に回ってグリップを両手で握る

 

「それでどこに行きたいの? トイレ? 購買所?」

「そうさな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前に任せるわ、お前といりゃあ迷わずに進めそうだからな」

 

 

 

 

 

 


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