禁魂。   作:カイバーマン。

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第四十二訓 侍教師、かつての友と刃を交える

 

「攘夷戦争……って……!」

 

沈黙を最初に破ったのは御坂美琴だった。

桂が銀時に対して言った事、それはかつて攘夷戦争で共に戦った同士としてもう一度一緒に学園都市を潰す為に戦ってくれと

 

攘夷戦争とは数十年前に行われた侍と天人達が長きに渡ってぶつかり合った大戦争の事だ。

弱腰になった幕府が天人との不平等な条約を結んでもなお抗い続け、その結果戦争に参加した侍達は天人に支配された幕府に逆賊とみなされ、ほとんどが粛清対象となり多くの者が晒し首になったと言うが……

 

「参加してたのアンタ……戦争に!」

「俺と銀時はあの長きに渡る戦で死力を尽くし戦った、敵味方多くの屍を踏み越えて。血を流しては泥にまみれ、多くの敵を葬ろうと日夜戦いに明け暮れていた」

 

死んだ魚の様な目でをしながら小指で鼻をほじりながらとぼけている様子の銀時に問いかける美琴、しかし桂がまた代わりに答える

 

「かつては白夜叉と呼ばれる程鬼神の如き活躍を見せ、攘夷戦争時代に名を残す程の強者だったお前は、戦が終わると同時に煙のように姿を消えた」

 

銀時の方へ歩みつつ桂は腰に下げた刀を鞘ごと引っこ抜いてそれを、ソファに座っている結標の隣に置く。敵意はないという意味なのかそれとも……

 

「何故お前が忽然といなくなったのかはわからん、お前は昔から何を考えてるのか長い付き合いでの俺でも読めなかったからな。だがこうしてお前とこの街で再会できた事は好機、この腐った国を立て直す為に、どうかお前の力を貸してくれ銀時」

「ったく……久々に顔を出してきて、しかも会って早々手ぇ貸せだぁ?」

 

やっと口を開いた銀時は、桂に対して眠そうに大きな欠伸をする、

 

「お断りだ、終わった事をまだ引きずってんじゃねぇよバカ、いい加減大人になれ」

「誰がバカだ、貴様こそ大人になれ、俺は手配の身でありながらわざわざお前に会いに来たのだぞ」

「ふざけんじゃねぇ、犯罪者となんざ誰も会いたくもねぇんだよ」

「万年ヒマしてそうなお前を思って就職先を紹介しているというのになんだその言い草は」

「就職先がテロリストとか例え道端で暮らす事になっても選ばねぇよ、つか俺もう就職してるし」

「今時教師なんてたかが知れてるぞ、給料も安いし有給も取れない、そして挙句には子供とその親に振り回されてストレスが溜まり胃に穴が開いてしまうぞ。良いから俺の所に来い銀時、こっちは休み取り放題で、胃に空いた穴も埋まり放題だ」

「いや埋まり放題って意味わかんねぇんだけど、もしかしてお前真面目に働いてる銀さんが羨ましいの? まともに手に職付けて仕事してる俺を見て自分に危機感抱いたって事? 慌てて自分の所に銀さんを引きずり下ろそうとしてる訳?」

「誰がお前を引きずり下ろそうとするか、逆だ逆、俺がお前を引き上げているのだ」

「引き上げるってなに? 犯罪者の高みへ?」

「だから犯罪者としてでなく俺達攘夷志士としてだな……」

 

長く、本当に長い不毛な争いを続け始めた銀時と桂。

そして遂に、黙りに黙ってた白井黒子と、桂の側近である結標が両者の真ん中に置かれているテーブルに同時に手で力強く叩いて

 

「長いのよッ!」

「いつまでやってんですの!」

「今時中学生でもそんな口喧嘩しないわよ、あなたもういい年でしょ!!」

「下らない喧嘩してる前にさっさとわたくし達を解放しろと言いなさい!」

 

黒子は銀時に、結標は桂に怒鳴りながらツッコんだ後、髪を掻きながら結標は「はぁ~」と項垂れた。

 

「だから私はこんな奴を誘うのは反対だったのよ、あなたがどうしてもというから仕方なく手伝ってあげたけど、どれだけ過去が凄くても過去は過去、今のあなたの友人はもうただの腑抜けって事よ」

「腑抜けてるように見えるのは昔からだコイツは」

 

今も昔も死んだ魚の様な目をした天然パーマ、それが銀時である。

そんな彼の事を気に食わない結標だが桂はまだ諦めてはいない。

 

「銀時、俺達はこの国をまずは元に戻そうと考えている。天人がいない国、つまりこの学園都市という街とその中心部にあるターミナルを破壊し、そして幕府を撤廃し俺達で俺達の国を造るのだ」

「っつう事はコイツの代わりに腰に刀を差せっていうのか?」

 

銀時はそう言って腰に差す木刀を抜くと、それを黒子の方へポイッと投げる。黒子は無言でそれを両手で受け取った。

 

「いいかヅラ、俺は終わった事をネチネチ引きずる様な人間にはなりたくねぇんだよ。昔大スベリした事を今だにトラウマにしてる女王とか、昔の戦で負けた腹いせにテロ活動やってるお前みたいなモンにはなりたくねぇんだ」

「昔の事は引きずりたくないという事か、それは”先生”の事もか」

「そうだよ」

 

そう言いながら銀時はチラリと隣にいる美琴の方へ目だけを向ける。

 

「これ以上過去の事を……引きずりたくねぇんだ俺は」

「?」

 

意味深な事を言う銀時に美琴はわかっていない様子。

彼女に関係する事を銀時はまだ引きずっているという事だろうか……

 

しばらくして桂は「そうか」とだけ呟くと。

 

「そこまで言われてはしょうがないな、俺も侍だここは潔く引くとしよう」

「おおそうかい、石頭だったお前が随分と物わかり良くなったじゃねぇか。まあテロでも何でも好きにやってろ、俺は今後お前等とは関わりたくねぇから」

 

けだるそうに銀時がそう言うと桂も口元に小さな笑みを浮かべて笑って見せる。

 

「結標殿の言う通りにすべきだったな、あまのじゃくのお前にお願いをすれば逆効果だとなぜ分からなかったのか」

「こんな客人に茶も菓子も出さねぇ最悪の組織なんかに誰が入るかよ、あばよヅラ、俺はもう帰らせてもらうぜ、コイツ等と一緒にな」

「なんだもう帰るのか、ならば……」

 

こちらに背中を見せて帰ろうとする銀時に、桂はゆっくりと近づいて手を上げると

 

「土産ぐらい持っていったらどうだ……」

「!」

 

傍観に徹して二人の会話を聞いていただけの美琴の前でそれは起こった。

桂の手に無かった筈の刀がしっかりと握られていたのだ。

そしてそれをこちらに背中を見せている銀時へ振り下ろす。

 

「避けて!」

 

咄嗟に叫ぶ美琴と同時に銀時はばっと振り返り

 

「悪ぃが」

 

彼の手元には先程黒子に渡したばかりの木刀が握られ

桂の振り下ろした刀と激しくぶつかり合った。

 

「こんな安い土産はいらねぇわ」

 

つまらなそうに彼がそう言い終えると同時に、彼の隣に黒子がパッと現れる。

そして桂の隣にもまた、いつの間にか結標がソファから立ち上がって移動して隣に立っていた。

 

「ただの腑抜けだと思ってたけど、私の能力をある程度把握する事は出来るみたいね」

「コイツは昔から読めん男なのだ、油断するな」

 

刀を握りながら結標に言うと桂は一旦距離を取るために刃を交えるのを止めて一歩離れる。

 

「さすが、というべきか。いやお前なら想定の範囲内であったな、だからこそ俺は後ろから斬りかかったのだから」

「俺に止められるとわかって刀振り下ろしてきたのか、危ねぇ野郎だぜホント」

 

最初から想定済みだったかのように仕掛けてきた攻撃、桂と同様一歩下がりながら銀時は手に持った木刀を肩に掛ける。

 

「生憎その小娘の能力はチビが人質にされた時に少しだけ言ってたからな」

 

銀時は最初、結標が黒子と美鈴を人質にしてゲームセンター入口から出てきた時に、黒子が言っていた事をしっかり聞いていたのだ。

 

『一瞬でしたわ、この女わたくしと似たような能力、もしくはそれ以上の……』

 

「同じ能力ねぇ、やっぱテメェもチビと同じ移動系能力者って訳か」

「似てはいますがあの結標の能力は下手すればわたくしよりもずっと危険ですわ……」

 

冷静に分析しながら黒子は銀時の隣で観構える。

 

「結標淡希の力はまだまだこんなモンではないという事ですの、お気をつけなさいませ」

「はん、ビビってんじゃねぇよたかがガキだろ」

 

細心の注意を払えと警告する黒子に銀時は上等だと言わんばかりに鼻で笑い飛ばした。

 

「ガキの相手なんざ慣れっこだっつうの、こちとら教師だぞナメんな」

 

そう言うと静かに木刀を構えて桂といつぶつかり合ってもおかしくない態勢に。

だが桂は静かにため息を突くと

 

「このような狭い場所でお前とやり合うつもりはない、場所を変えるぞ」

 

隣にいる結標の肩に手を伸ばす。

 

「このビルの屋上で決着を付けるぞ、銀時。頼む結標殿」

「わかってるわ……」

 

そう言い残すと結標は深々と深呼吸をすると彼と共にシュンっと消える。

 

「……?」

 

その動作に違和感を覚える銀時だが、今はとりあえずあの二人の後を追う事にした。

 

「チビ、アイツ等追うぞ。アイツ指名手配なんだろ、捕まえたら大手柄だぜ」

「おや珍しく積極的ですわね」

「そりゃあな」

 

柄にもなく桂を追おうとする銀時に黒子が不思議そうに尋ねると彼は桂が消えた窓を眺めながら

 

「アイツがこの街を、俺の大切なモンがあるこの街を消そうっつうんなら、俺はアイツをぶん殴ってでも止めてやる」

「あなた……」

 

のらりくらりに生きて何考えてるかわからない性格の彼がここまで本気になってるような表情を浮かべるのを見るのは黒子は初めてだった。

どうして学園都市をそんなに守りたいのかと彼女が彼を見つめながら考えていると

 

「もしもーし、来るべき決戦に燃える主人公というお約束な展開はいいんだけどー」

 

後ろから美琴がジト目でブスッとした表情で彼等を睨む。

 

「この私を放置してアイツ等と戦うつもり?」

「ですがお姉様、お姉様にはお母様をついていないと危ないですわ。なにせここは奴等のアジトなのですから」

「まあそれもそうだけど……」

 

正論を吐かれては反論する事も出来ない。確かにこんな所に美鈴を一人置いて戦いに行くのは危険だ。

そう思い美琴はチラリとソファに座っている美鈴の方へ振り返る。すると

 

「んがー」

「って寝てるし!」

 

口を開けてアホ丸出しで寝ている自分の母親を見て、こんな状況でよく寝れるなと思いながら慌てて駆け寄って、彼女の上着の襟を掴んで揺さぶる美琴。

 

「ちょっと起きなさいよ! てかいつから寝てたのよ!」

「んあ? ああおはよう美琴ちゃん、ずっとセリフ無かったから思わず眠っちゃってたわ」

「テロリストのアジトでスヤスヤ寝るとかどんな神経してんのよ!」

 

ツッコミつつ美琴は美鈴を無理矢理目を覚まさせながら銀時達の方へ振り返る。

 

「もういいわよアンタ達はこの街を護りなさい! 私は母親を護るだけで精一杯から!」

「おう」

「はいですの」

 

仕方ないと美琴は銀時と黒子に桂と結標の退治を任せる。

二人は軽く返事すると桂達が出て行った窓に身を乗り上げ

 

「屋上まで飛ばせるか?」

「この程度の距離大したことありませんわ」

「ならぼちぼち頼むわ」

「言われなくても」

 

そう言い残し二人は瞬く間に消えていった。

残された美琴はそんな二人を黙って見送る。

 

「本当はついて行きたかったんじゃないの?」

「え?」

 

不意に尋ねてきた美鈴の方へ美琴は顔を彼女の方へ戻す。

 

「それでも信頼しているのね、銀さんと黒子ちゃんなら出来るって。この街を護る事が出来るって信じているのね」

「当たり前でしょ、だってアイツ等は」

 

その問いかけに美琴は僅かに微笑みながら心の底からそう思ってるように宣言した。

 

「私にとって学園都市で一番大切なものだもん、私が私でいる為に必要な”居場所”を作ってくれた二人なんだから」

「そう、なら大切にしなきゃね……」

 

娘にとって大事なモノが出来たのだと母親ながら喜ぶ美鈴だが

感傷に浸る前にタイミングよく部屋のドアが乱暴に開かれる

 

「悪いが人質に容易に動いては桂さんに邪魔が入ってしまう」

「桂さんの戦いが終わるまでここで大人しくしてもらおうか」

「チッ! アイツの手下共ね!」

 

出てきたのは腰に刀を差した数人の浪人達、ここが桂のアジトから察するに彼等は桂に従う部下達であろう。

部屋に入ってきたのは数人だが、少なくともこの階層にはこんな連中がわんさか待機しているはず。

 

「ママは私の後ろにいて隠れてて、私が全力で護るから。アイツ等も大切だけど、私にとってはママやパパも大事! だからここは私が!」

「じゃあ次の私がセリフ喋るシーンまで寝てるから後はよろしく、んがー」

「っておいコラ母親! 娘が今凄く良い事言おうとして時に寝るなー! だーもう都合が悪い時に狸寝入りしやがって!」

 

ここ一番の大事な時に目を瞑ってわざとらしいイビキを掻き始める美鈴にウンザリしながらも美琴は一人、腹をくくって攘夷浪士達と対峙する。

 

「ったく毎度毎度私の扱いが悪過ぎよ……こんな所に放置されて母親は狸寝入り、敵はその辺のモブ」

 

全身からバチバチッ!と電流を放ちながら美琴はイライラしたように髪を掻き上げる。

 

「まあいいわ、アンタ等に八つ当たりしてウさ晴らすから……」

「「「!!!」」」

 

ここにいる攘夷浪士達は知る事になるであろう。。

 

自分達がこの中学生の少女を倒すには

 

 

 

絶望的な差があるという事を

 

 

 

 

 

 

そして場所は移り、このビルの屋上。

 

銀時と黒子が瞬間転移で移動すると、そこには桂と結標がたった二人で待ち構えていた。

 

「ここには俺達以外いないし邪魔な物も置いていない、戦いにはうってつけだ」

「もっともまともに戦えたらの話だけど」

 

屋上は広く何も置かれていない、あるとしたら屋上を囲う鉄柵ぐらいであろう。

自信満々に不敵に笑う結標にしかめっ面を浮かべながら、黒子は隣にいる銀時にしか聞こえないように声を潜める。

 

「あの女の能力はまだ未知数ですわ、能力の解析はわたくしがしますからあなたは桂との戦いに集中して下さいませ」

「言われなくてもそうさせてもらうさ」

 

腰に差す木刀を引き抜くと銀時はぶっきらぼうに返事する。

 

「お前はお前がやりたいように、俺は俺がやりたいようにやる。それで生まれたのが俺達コンビだろ」

「そうですわ、そして侍と能力者のコンビはわたくし達だけで十分ですの、そこのキャラ被りには退場してもらいますわ」

 

黒子の方もまた準備が出来た様だ、そんな二人を見て桂もまた腰に差す刀を抜き、結標も短いスカートの腰に巻きつくホルダーに差してある軍用ライトをスッと手に取る。

 

「言葉で通じぬならこれしかあるまい、俺達侍が相容れぬ時は、刃を交えて会話すればいいだけの事。あの男の魂に直接俺の魂をぶつける」

「まだ諦めきれてないのあなた、残念だけど私はもうこれ以上付き合い切れないわよ」

 

まだ仲間に引き入れようと考えている桂に結標はやれやれと言ったように首を横に振ると

 

「だから私は、あなたの戦友とそれに従うお嬢さんを壊してあげる事に決めたのよ」

「いいだろう、それぐらいの気構えでいてもらってもらわないと困る、今俺達の目の前にいるのはただの男では……」

 

彼女の決意もまたよしっと言った感じで肯定すると、桂は刀を強く握ったまま一歩踏み込んで……

 

「ない!」

 

叫ぶと同時に桂はダッと前に駆け出す。対峙していた銀時もほぼ同時に彼に向かって走りそして

 

丁度屋上の真ん中で刀と木刀が豪快な音を立ててぶつかり合った。

 

「銀時! ここで決めるぞ! 貴様と俺どちらがこの国を護るのに相応しいか!」

「ヅラ、悪いが俺はこんな国知ったこっちゃねぇよ、だがな!」

「!」

 

刃を交えていた筈の銀時が目の前でパッと一瞬で消える。姿を見失った桂の背後に、銀時が即座に現れる。彼の背中には黒子がおぶさるように両肩に手を置いていた。

 

そう黒子は銀時が桂の方へ突っ込んで行くのと同時に、自分もまた気配を悟られぬよう銀時の背後にピッタリ付いて追走していたのだ。

 

「俺の大事なモンを壊すってんなら! 例えテメェだろうが容赦はしねぇぞ!」

 

そう叫びながら銀時は彼の背中目掛けて木刀を横薙ぎで振るう。

しかし

 

「なに!」

 

桂の姿が目の前で突然消えた。まるで黒子が自分を消したかのように

しかし銀時の思考が回る前に彼の左側から桂が再び現れ

 

「遅い」

「く……!」

 

こちらの右肩目掛けて真っ直ぐな突きを入れて来る。しかし銀時の姿はまたもやその場から消えてその一撃は空を切る。

 

「これは偶然かはたまた必然か」

 

銀時が次に出てきたのは桂から数メートル離れた前方。そしているのは彼一人。

黒子の方は

 

「そこですわ!」

 

彼女の方は銀時を逃がした後空中に転移し、太ももに巻いたホルダーから鉄棒を数本手に取り桂の足に向けて再び飛ばした。

 

「戦が終わり俺達は別々の境遇に身を置いたというのに」

「!」

 

桂の姿がまたもや消えて、その鉄棒は小さな音を立てて落ちる。

そして桂が次に現れたのは空中に浮かんでいる黒子の背後。

 

「同じような戦い方を」

「ふん!」

 

桂が消えた瞬間から既に銀時は動いていた。

黒子の下へ走りながら右手に持った木刀をブンッと桂目掛けて投げる、

それは彼が現れたと場所にピンポイントに……

 

「だから俺達の戦い方を熟知しているという訳か」

 

しかし桂は瞬時にその木刀を開いた方の手でガシッと受け止めた。

すると同時に右手に持っていた刀が消える感覚。先程切ろうとしていた黒子がドヤ顔でこちらに笑いかけていた。

 

「喋る余裕がありますの?」

「オラァァァァァ!」

 

いつの間にか桂の刀を手にしていた銀時が、コンクリートの地面を踏み込んで高く飛び上がる。

しかし

 

「ぐは!」

「な!」

 

上に飛んだはずの銀時がまるで落下したかのように地面に叩きつけられた。

それに驚く黒子だがその隙を突いて桂が銀時の木刀で彼女も地面に

 

「だが残念だったな」

「うぐッ!」

 

叩きつける。

固い地面に肩から落ちて、痛みで思考がほんの少し停止してしまう。

だがそのほんのわずかの隙も見逃さない

 

「あなた達は私達より一手遅い」

「「!!」」

 

地面に叩きつけられたばかりの銀時と黒子が次の間にいた場所は

 

屋上の外、つまりこのままでは5階建てのビルから真っ逆さまに落ちてしまうという事。

 

「チビ助!」

「ええ!」

 

ゆっくりと落ちていきながら銀時は黒子に向かって手を伸ばし、彼女もまたすぐに彼に手を伸ばす。

路上に落ちてペシャンコになる寸前で二人の手が繋がった時、すぐに二人の姿は消える。

 

「教えてあげるわ白井さん、私の能力名は座標移動≪ムーブポイント≫」

 

満足げに笑いながら結標は優しい声で説明する。

 

「あなたと違い、触れずとも対象を転移できるの」

 

銀時と黒子は既に彼等の前に現れていた。息を荒げながらもまだやれると言った感じで立ち上がると、銀時は手に持った桂の刀を結標の軍用ライトを持つ右手目掛けて再び投げる。

 

「つまりここら一体は完全に私のテリトリーにあるわけ」

 

結標は避けようとはせず、その刀にすぐに持ってる軍用ライトを向ける。

すると刀は消え、次に現れた場所は

 

「ぐわぁぁ!!」

「あなた!」

 

投げた本人である銀時自身の右手の甲を突き刺していたのだ。

黒子はすぐに駆け寄ってその刀に手を置いてテレポートで抜く。

 

「大丈夫ですの……?」

「大した怪我じゃねぇ、しかし……」

「だから遅いと言っているであろう」

「「!!」」

 

手の甲から滴る血を拭うヒマさえない。

今度は桂本人が眼前に現れ、手に持っていた銀時の木刀で

 

「その程度の力では」

「クソったれ!」

 

傍に落ちた刀を拾い、即座に横薙ぎに振って来た彼の一撃を受け止める。

 

「俺達には勝てんぞ」

 

強い意志を持った目でそう言い放つ桂。

 

戦いが始まったばかりだというのにこの激しい疲労感……

これが侍と能力者コンビ同士の戦い。

 

「さっきから交互に喋りやがって……なんだよその仲良しアピールは」

「どっちが喋ってんのかわかりずらいので止めてもらいたいですわ」

 

戦場に復帰した黒子は単独でテレポートすると、桂の背後に立っていた結標に狙いを定めて空中から奇襲をかける。

 

「わたくしより少々強力な能力みたいですが……あなたを倒して能力を封じれば!」

「残念、それじゃあ届かないわ」

「!!」

 

結標を守るかのように桂が彼女の前に立って木刀を構える。

このままでは迎撃される、ならばと黒子は空中で再び消えて

 

「行きますわよ!」

「おうよ!」

 

銀時の所に所に再び戻り、彼の着物の裾を掴むと今度は同時に消える。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

浜面達を利用した攘夷浪士達、絹旗を狙っていた真撰組達を蹴散らした時に使用した。瞬間転移を多重に使用した高速移動。

演算処理を重複して行う為、黒子への負荷は重いが。二人はこれを使用して負けた事など一度たりとも無い。

 

桂と結標に対して数多の攻撃で襲い掛かろうとする銀時。だが

 

「お前達が出来る事は」

「!?」

「私達でも出来るのよ」

 

軍用ライトを桂に当て、結標は指揮者の様にそれを振るう。

すると桂は何度も転移している銀時と黒子の眼前にピンポイントで出現しては木刀と刀をぶつけ合う。

 

(コイツ等、俺達の動きを一歩先に読んでやがる……!)

(わたくし達より戦術や戦略も上という事ですの……!)

 

結標の周りを回るように銀時と桂は何度もぶつかり合う。結標の方を狙おうとしても桂がまたもや現れ、桂の方を狙っても消えて逃げられる。

 

「はっきり言うぞ銀時、貴様等では俺達に勝てん」

「がはッ! そういう事を勝つ前に言うのは!」

 

数十回目の打ち合いの末に桂の木刀が銀時の腹部に刺さった。

あまりの痛みに胃の中のモノを全てぶちまけそうになるが。

それを堪えて銀時も手に持った刀で桂の右腕を

 

「死亡フラグって言うんだぜ!!」

「なに!」

 

痛みに耐え抜いてお返しとばかりに彼の右腕に刀を突き刺した。

これには桂も驚くがすぐに左手の方で本来の自分の刀を抜く。

銀時の腹にを突いた木刀の方は銀時に寄り添っていた黒子が手を伸ばして触れた。

木刀はすぐに銀時の手元に戻る。

 

「ハァハァ……! これで互いの得物が元の持ち主に戻ったな……」

「窮鼠猫を噛むとはこの事か……」

「見苦しい真似を……腰抜け侍のクセに」

 

方や右手の甲から、方や右腕から血を流しながらも二人の侍はまだ闘志を失っていない。

二人の能力者も、それに応えるように全力で己が持つ能力を限界まで振り絞って戦う。

 

再び刀を手にした桂は軍用ライトを持った結標と共に、対峙する銀時と黒子に向けて。

 

「見せてやるぞ銀時、俺達の本当の戦いを」

「運悪く死んでも、化けて出てこないでよね」

 

ここからだ。

桂小太郎と結標淡希

 

侍と能力者の最骨頂のコンビネーションを披露されるのは

 

 

 

 

 

 


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