場所はとあるファミレス。
坂田銀時、御坂美琴、白井黒子、そして夫に愛想尽かされて傷心している御坂美鈴は一足遅い昼食を食べていた。
「ねぇ、バーベキューってかぶき町でやるんでしょ? 私も行っていい?」
「俺が同伴すりゃ大丈夫だろ、向こうもお前のツラ見たいって言ってたしよ」
「そうね、久しぶりにパパに会ってみたいし」
「わたくしもご一緒させて頂きますわ、お姉様のお父様が来るとなれば是非ご挨拶をせねば」
「まあもっとも」
4人用の席に座りながら、銀時はチラリと向かい側の美琴の隣に座る美鈴の方へ顔を上げる。
「誰かさんは来れないらしいが」
「行くわよ! 誰に止められようと絶対行くわよ! 御坂家でバーベキューするのが私の夢なんだから!!」
「わたくしが痺れて動けない間色々あったようですわね」
「別に大したことじゃねぇよ、一つの夫婦が別れるだけだ」
「絶対別れないから!!」
隣に座る黒子に相づちを打ちつつ食後のパフェにがっつく銀時に美鈴が食ってかかるように叫ぶ。彼女の隣に座る美琴は「はぁ~」と呆れたようにため息を突いた。
「だから変な事するなって止めたのに、全くこの母親は」
「美琴ちゃんはママの味方よね! ママとパパの間取り持ってくれるわよね! そりゃそうよ家庭崩壊の危機なんだから!!」
「私を巻き込まないで、下らない夫婦喧嘩には一切口は挟むつもりないから」
「お願いママを見捨てないで! 私があなたに一体何をしたって言うの!!」
「自分の胸に聞きなさいよ」
娘の自分にまですがりついてくる母親にうんざりするかのように美琴は抱きついてくる美鈴にシッシッと手で払いながら銀時の方へ顔を上げる。
「ていうかなんなのよアンタ、初めて会話した相手と、ましてや宇宙に行ってる人と河原でバーベキューする約束取りつけるなんて一体どんなコミュニケーション能力よ」
「いや会話してたらすっかり意気投合しちゃってよ、すっかり仲良くなっちまったよお前の親父さんと」
「罵声叫びまくってた様にしか見えなかったんだけど、なに? 男同士の会話ってあれが普通なの? あれが約束する会話なの?」
満更でもなさそうにフッと笑う銀時に小言で美琴がツッコミを入れると、銀時の隣に座っていた黒子がやれやれと首を横に振る。
「お姉様、この男の訳のわからなさにツッコむよりもお母様の事を心配したらどうですの?」
「え、なんで? 別にどうでもいいんだけど」
「全くそんな心にもない事を、わたくしにはわかりますわ。夫婦の仲がピンチなのに心配しない娘などどこにいますか」
「ここにいるけど」
感情のない声で返事する美琴をよそに黒子ははきはきとした喋り方で彼女の隣にいる美鈴の方へ顔を上げた。
「お母様心配なさらなくても大丈夫ですわよ、旦那様との関係はお姉様とそれに付き添うこの白井黒子が全力で修復させて頂きますの」
「まあ見て美琴ちゃん! どこぞの薄情な娘と違ってなんて良い子なの! 私の事助けてくれるって! 聞いてる薄情な娘!」
「ご飯食べてるから後にして」
黒子のフォローに感激とばかりに両目を輝かせる美鈴をあしらいながら昼食にありつく美琴。母親の心配より食事を優先するという中々の辛辣っぷりだ。
「ですからお母様、わたくしの力を借りたいと思ったらいつでもお申し付けくださいまし! お姉様のお母様となればわたくしのお母様同然! お姉様のお父様となればわたくしのお父様同然! 御坂家の安泰はこの白井黒子にお任せを!!」
「こ、こんな私達一家の為に想ってくれる子がいたなんて……! あなたに会えて本当に良かったわ黒子ちゃん! 今すぐ自分の娘と取り替えたいぐらいよ!」
「私も自分の母親取り替えたい」
互いの手を握り合って固く誓い合っている黒子と美鈴をよそに美琴は昼食を食べ終えると銀時の方へ目を向けて
「黒子の奴がなに企んでるかわかる?」
「お前と結ばれる為の点数稼ぎ」
「まずは外堀からって事ね、なるほど」
下心丸見えの魂胆であろうとすぐに見抜いていた銀時の意見を聞いて美琴は納得したように頷くのであった。
昼食を食べ終えると一行は多くの人々が行きかう繁華街へと戻っていた。
学園都市ではあまりお目にかかれないような品々も多く存在し、外に住む人にとっては観光名所とも呼ばれている。
「相変わらずここは本当に別の国みたいねー、いやむしろ別の星かな?」
「はしゃがないでよみっともない、学園都市じゃこれが普通なのよ」
人が賑わう中で活き活きとした表情で周りの店を散策しようとする美鈴を一緒に歩いてる美琴が制止する。
「はぐれないようにしてよ、探すのめんどくさいんだから」
「あらそれなら手でも繋ぐ? 久しぶりに」
「……イヤよガキじゃあるまいし」
照れ臭そうにそっぽを向く美琴。いかにレベル5の第三位と言えどまだまだ子供だ。
「なんだかんだで微笑ましいじゃないですか、お姉様とお母様」
「どっちが母親かわかんねぇけどな」
そんな二人を後ろから見守るように銀時と黒子がついていく。
本来なら親子水入らずに邪魔を入れぬよう退散する所なのだが
「危なっかしくて怖いんだよな、特にあの親子だと」
「ホント見事な似た者親子ですの、おかげで何か変な事しでかすんじゃないかという不安がいつもの2倍ですわ」
あまりにも心配なので二人はそのまま彼女達一緒に行動することにした。
そして案の定
「あ! ゲコ太ガシャポンの新弾出てる!」
ふとゲームセンターの前に足を止めると美琴はすぐにそこにお気に入りのキャラが収められたガシャポンを見つけた。
ゲコ太というのはカエルにひげを付けたなんともシンプルな構造のキャラクターの事だ。
人気があるのかどうかと聞かれてるとぶっちゃけかなり微妙な所なのだが一部のマニアもおり、美琴もこのキャラクターをギンタマン同様に気に入っている。
「よっしゃぁ早速フルコンプリートするわよ!!」
「いやお姉様、今は久しぶりの親子再会を祝して学園都市の案内をする予定だったんじゃないですの?」
「それとこれとは別! 早くしてゲコ太が待ってる!」
「はぁ~やっぱりお姉様はお姉様ですの」
早速財布から小銭を取り出してチャリンチャリンとガシャポン連コインを始める美琴。
空気が読めないというべきか、周りに流されないともいうべきか。
呆れる黒子をよそに今度は美鈴の方が
「あ! アレは東京の有名な黒いネズミの人形!」
「おいちょっと止めろ! それはヤバい! ヤバいからマジで!」
ゲームセンター入口から入ってすぐ目の前にあるクレーンゲームを見て叫ぶ美鈴を慌てて注意する銀時。
「間違いない! アレはアイツがよく集めているキャラクターよ! よし! 旦那の心を取り戻す為にちょっと手あたり次第回収してくるから! 待っててミッ○ー!!」
「止めろっつってんだろ! そいつは誰も手にしちゃならねぇ! 誰も言っちゃダメな類で有名な王様なんだぞ! せめて隣のふなっ○ー人形にしろ!」
やる事決めると周りの事も気にせず突き進むのが御坂家スタイルなのか。
速攻でゲームセンターの中へと入ってしまう美鈴とガシャポンにコインを入れまくっている美琴を見て呆れる銀時と黒子。
「ダメだコイツ等……鎖付きの首輪つけてねぇと安心して散歩も出来ねぇ……」
「せっかくの親子観光が台無しですわ……」
「もうしばらくほおっておこうぜ、トラブル起こそうが知ったこっちゃねぇ」
「ジャッジメントであるわたくしにとってはトラブル起こされたら困るのですが、とりあえずわたくしはお母様の方へ向かいますのでお姉様はそちらで対処を」
残念っぷりを見せつけてくれる親子に銀時と黒子も半ば諦め状態になって一時的に別れることにした。
そんな事も露知れず美琴の方はイライラしながら財布の中を覗いている。
「ガッデム小銭がキレたわ! ちょっと黒子! ってアレ、いない? じゃあそこの小娘!」
「は、はい!? わ、私ですか!?」
「アンタ以外に誰がいんのよ!」
美琴がキレ気味で話しかけたのは偶然この道を通っていただけのただの少女であった。
頭に小さな花付きのヘアピンを付けた黒髪ロングヘアーのいかにも一般的な女子中学生だ。
「ちょっとばかし両替してきてくれない? はいコレ」
「は!? いやなんで私がそんな事しなきゃいけないんですか……」
「私がこのケースの中で待っているゲコ太達を救う為に決まってんでしょ!!」
「えー救うなら一人で救ってくださいよ……」
物凄い理不尽な理由でパシリ役にさせようとして来る美琴に少女はドン引きしながらその場から後ずさり。そりゃあそうだ目が血走ってこんなカエルの人形を必死に集めようとしている人など関わりたくもない。
「ほら早く、ゲコ太が待ってるんだから」
「いや私も友達が待ってるんですけど……」
「つべこべ言わずにさっさと行きなさいよゴラァ!」
「ひッ!」
つい拍子でバチッと小さな火花を頭から出してしまった美琴に驚いて思わずドサッと後ろに尻もち突いて倒れる少女。
するとそこへ
「大丈夫か」
「え? あ、ありがとうございます……」
「は、誰よアンタ、坊さん?」
突如フラリと二人の下へやって来たのは一人の僧。
腰の下まで伸びた黒髪を垂らしたこれまた奇怪な層であるが錫杖を握ったまま尻もち突いた少女を起こす。
「娘、そのような力をもってなおやる事がこの様なか弱き者を痛ぶる事か」
「何言ってんのよ、別に私はこの子が言うこと聞かないからってそんな真似しないわよ」
「どうだろうな、つい先ほど俺が見た光景は。この少女はおぬしに火花を散らされて恐怖にかられたようだが」
「それはつい私が……」
「仮にわざとでは無かったとしても」
言葉を濁らせる美琴に僧は三度笠の下から鋭い眼光で彼女を睨み付ける。
「おぬし自身はそんな危うい力を人に向けた事になんの恐怖感も覚えないというのか」
「え……!」
何故であろう彼の言葉にズシリとした重みを感じるのは。
それが僧からの言葉だからだろうか、しかしこの男の目つき、とてもただの僧には見えない。
むしろ何時も死んだ魚の様な目をしたあの教師がたまに見せる目に似てる様な……
「おい、その辺にしてくれや坊さん」
「アンタ……!」
返答に困っている美琴を助けるかのように、僧の背後から声を掛けて彼の方に手を置いたのは銀時だ。
「事情は詳しくはわからねぇが大方コイツがまた馬鹿な真似したんだろ、そこにいる小娘見れば大体の事は察せる」
僧の肩に手を置きながら銀時はこの状況で混乱しながらもゆっくりと立ち上がろうとしている少女にチラリと視線を向けた後、美琴の方へ振り向く。
「コイツは俺が面倒見てるガキでね、自分の能力の優秀さはわかっているんだがつい反射的に使っちまうんだわ。今回は俺に免じて許してやってくれ」
僧の方へ顔を上げた後、今度は美琴に促す様に首を振る銀時
「オラお前も、そこの娘に謝っとけ」
「あ、うん……いやあのホントすみません、頭に血が昇ってついうっかり……」
「ああ、いえいえ別に大した事も無かったですし……では私はこれで」
素直に頭を下げて謝る美琴に少女は困惑しながらも手を横に振りながら許してくれた。
早々と去っていた少女を見送った後、これでいいだろと言った感じで銀時は僧の方へ振り返った。
「まあこれにて一件落着、悪かったな坊さん、説教は後で俺がやっておくから。教え子に説教すんのは教師の役目だ」
「教師……姿を消したお前がこんな所でそんな事をしていたとはな、全く似合わん」
「……なにを言って? お、お前!」
何か引っかかる物言いをする僧に銀時は一瞬顔をしかめるがすぐに目を見開き
「ヅ、ヅラか!?」
「ヅラじゃない」
彼の事を知っているかのように呼び掛ける銀時だが、僧の方は即座に否定して三度笠を取って素顔をあらわにした。
「桂だ」
「!」
「か!」
突然正体を現した男に銀時も、そして美琴も言葉が出ないほど驚く。
それもその筈この男は僧などではない、この男の実態は……
「桂小太郎! 最近学園都市でテロ活動を行っている攘夷浪士! どうしてこんな所に!」
「攘夷浪士ではない攘夷志士だ。行くぞ銀時、早速俺達の隠れ家まで来てもらおうか」
「い、いきなり何を言ってんのよ! どういう事よコレ! なんでテロリストがコイツの事を知って……!」
桂小太郎、この学園都市では知らぬ者はほとんどいない攘夷浪士の一人だ。
天人排除を目的とし、数多の破壊工作を行った凶悪なテロリスト。
その為幕府から超危険人物として指名手配されている。
そんな彼がどうしてこんな所に突然……
しかし美琴が思考を巡らしている内に、ゲームセンターの入り口が不意に開いた。
「ハイ皆様ご注目、これを見たら当然逆らう事は出来ないわよね? 先生?」
「!」
入口が開くと同時に胸元をサラシで巻いた赤紙の少女が、両腕を後ろに回されて拘束されている美鈴と黒子を連れて出てきたのである。
桂には仲間がいたのだ。
「ママ! 黒子!」
「申し訳ありませんお姉様……」
あの黒子がこうも簡単に捕まってしまっている事に驚く美琴、そして黒子は余話弱いい声で
「一瞬でしたわ、この女わたくしと似たような能力、もしくはそれ以上の……」
「おっと下手に口を開かない方がいいわよ」
嘲笑を浮かべながら少女は黒子の両腕を片手で強く握る。
「さもないともう一人の人質さんに危害を加えなきゃいけない事になるんだから」
「く!」
「ごめんなさいね黒子ちゃんに美琴ちゃん……まさかこんな事になるなんて」
攘夷浪士の仲間に捕まった事がまるで自分のせいだという風に項垂れる美鈴。
「黒子ちゃんは私を庇ったせいでこの人にやられて……」
「ア、アンタよくも私のママと友達をッ!」
「怒っちゃダメよ超電磁砲さん、下手に動かない方がいいから」
自分の母親と友を人質にするような輩にキレない訳がない。
奥歯を噛みしめながら目を大きく見開いて睨み付けて来る美琴に対して少女の方は冷静だ。
そんな彼女に銀時と対峙している桂は目を細め
「何をしている、俺はそんなくだらん小細工をしろと命令したつもりはないぞ」
「甘いのよあなたは、そんな”腰抜け”を普通に誘ってもすぐに逃げるだけ。だったらこうして逃げられない様にすれば簡単に連れて行けるじゃない」
「つまらん理屈を垂れるな、これからは勝手な行動すればこの俺が許さん」
「人がせっかく事を早く進める為にやってあげたというのに……酷い言い草ね」
怒られることが予想外だったのかつまらなそうな表情を浮かべる少女を尻目に、桂は改めて銀時と顔を向きあう。
「こうなっては仕方あるまい、是が是非に出も付き合ってもらうぞ銀時」
「……ふん」
何を考えているのかわからない表情で鼻を鳴らす銀時、恐らくYESという事であろう。
美鈴と黒子を人質にされては迂闊な行動は出来ない、となれば大人しく従うしかないのだから
「よし、では行くぞ」
「待ちなさいよ!」
銀時と人質二人と少女を連れて移動しようとする桂を背後から美琴が呼び止める。
「私も行くわ、大事な友達と家族を奪われてこんな所で大人しく出来る訳ないでしょ!」
「なら勝手についてくるがいい」
かくして銀時と黒子、そして御坂親子は突然仕掛けてきた桂と赤髪の少女によって彼等のアジトまで案内される事となった。
場所を移して数十分後、彼等はとあるビルの控え室に案内されていた。
ビルは5階ほどの大きさでさほど大きくはない。だが窓の外には普通の一般人がここが過激派筆頭の桂小太郎のアジトだというのも知らずに平和そうに歩いている。
「木を隠すなら森の中ってか」
窓からのんびりと外を眺めながら呟くのは銀時。控え室の中は案外広いスペースであり、他の三人も一緒にいる。
「まさか学園都市に来て初日で攘夷浪士に捕まるなんてねぇ……」
「わたくしが油断していたせいですわ、この様な事になって本当に申し訳ありませんの」
「いやいや、黒子ちゃんを責めてる訳じゃないから。浮かれて注意を怠っていた私の責任よ」
お客用の広いソファに座って嘆く自分に、隣に座る黒子が深々と頭を下げる。
そんな彼女に美鈴は安心させるように笑って見せる。
「大丈夫よ、あの桂って人は元々私達に危害を与えるつもりはなかったって言うし」
「それはどうかしらねー」
美鈴の言葉にいち早く反応したのは黒子ではなく、向かいのソファに座っている赤髪の少女だった。
彼女達をここまで連れてきた後、彼女もまたここで待機していたのだ。
「彼が危害を与えるつもりなくても、私にはあるわよ? 彼の邪魔したら、うっかり傷付けちゃうかも」
「次に問題行動したら許さないとあの男に言われたのではなくて?」
足を組んで挑発的な物言いをする彼女を黒子が睨み付ける。
少女はあからさまな敵意を向けてくる彼女にフッと鼻で笑って見せた。
「なら彼にバレないようにやればいい、何なら今ここでやってあげようかしら、あの人にバレない様にあなたに危害を加える方法とやらを」
「やれるものならこの白井黒子、あなたみたいな外道、いつでも相手になりますわ」
「さすがジャッジメントの中でも一際有名な天才テレポーターの白井黒子さんね」
手首でアゴを押さえながらソファの肘付きにもたれたまま、少女は黒子をじっくりと観察するように目を上下に動かした後、ケロッとした表情で
「私の名前は結標淡希≪むすじめあわき≫よ、あなたとは個人的に興味があったからこうして会えた事に少し運命みたいなものを感じられるわ」
自分の名をあっさりとばらした少女こと結標に黒子は眉間に眉を寄せる。
「わたくしもあなたみたいな犯罪者に手を貸す能力者には少し興味がありましたわ、どうして己が持つ能力をこのような愚かな真似をする為に使う選択を選んでしまったっと」
「へーじゃあ私の能力は何の為に使えばいいと思うのあなたは?」
「決まった事、世のため人の為、この街をより良くする為に使う事こそが能力者としての使命ですわ」
「世の為平和の為……」
強い目つきでキッパリと断言してくる黒子に対し、結標は小首を傾げながら嘲笑を浮かべ
「なら私が行っている事は白井さんの言う通りの正しい能力の使い方になるわよ」
「は?」
「この街をより良くする為に使うというのもそう、この街だけじゃない、この国をより良い時代に戻す為にあの人と一緒に行動しているんだから」
「やはり犯罪者に手を貸す能力者などには言っても無駄でしたわね……」
「なんならあなたも協力してくれないかしら? 私と白井さんならもっと早くこの国を変えられるかもしれないし」
「それをギャグで言ってるのなら全く笑えませんわね、第五位の女王のダジャレに比べればまだ笑えますが」
結標淡希は自分の行いに何一つ罪悪感も覚えていない、それがわかっただけで黒子は彼女を説得して見るという策を諦めた。
正義や悪など人から見れば千差万別、彼女にとっての正義とはあの男、桂に仕えて攘夷活動を行って国家転覆を図る事なのであろう。
黒子にとっては世界を混乱に導くなど悪としか考えられなかったのである。
そして黒子の向かいに座る結標の背後に、先程からずっと突っ立って考え込んでいた人物、美琴が動く、
「国を変えるとか変えないとか、そういうのはどうだっていいのよ」
「お姉様……」
「あの女のダジャレとかもっとどうでもいいわ、言っとくけどアイツのダジャレなんてまだぬるい方よ、もっとつまらないのはアイツの一発ギャグなんだからね」
「いやその辺は詳しく話さなくても結構ですので、わたくしはあくまでものの例えとして言ったまでで……」
ボソッとツッコミを入れる黒子を無視して、美琴は部屋の窓の傍に突っ立っている銀時の方へ振り向いた。
「私が一番気になっているのは、どうしてアンタがあの桂に名指しされてわざわざここまで連れてこられたのかって話よ」
彼女の問いかけに銀時は後ろ髪を掻き毟りながら小首を傾げる。どう答えてやればいいものかと考えてる様だ。
「そりゃアンタは少し変わった所もあるし色々とわからない所が多いけど……そんアンタがどうしてあんなテロリストとまるで顔見知りみたいな……」
「テロリストとは人聞きの悪い」
銀時の下へ歩きながら追及する美琴に、彼に代わって答えたのはこの部屋のドアを開けた人物だった。
「我々が行っているのはこの国に寄生する全ての天人を排除し再び元の国に立て直す事。卑劣なテロ行為と一緒にするのは止めてもらおうか」
「桂……!」
やってきたのは自分達をここまで連れてきた主犯格、桂小太郎だった。
僧の恰好はただの変装だったらしく、今は青い着物の上に白い羽織、腰には一本の刀が差してある。
彼が現れた途端美琴はすぐに敵意をむき出しにするが桂は無表情で彼女を見つめ返す。
「国を護る為の攘夷、それを行うのは我々”攘夷志士”なのだ。例えどんなに汚い手を使ってでも、取り戻したいものがあるのだから」
「……」
「そして今ここに俺が取り戻したいものがもう一つ」
自分の行いに何一つ迷いなど無いと言った口振りの桂、そして彼は美琴から銀時の方へ視線を向け。
「銀時」
彼の名を呼んで間を置いた後、桂は強い決意を持った表情でゆっくりと口を開いた。
「この腐った国の象徴とも呼べるこの学園都市。この街を潰しもう一度かつての『侍の国』を取り戻す為に、再び俺と共に戦ってくれ」
「”攘夷戦争”で生き残ってしまった俺達だからこそやらなければいけないんだ」
「死んでいった者達の無念を晴らす為、俺達にとって最も大切だった”あの人”の為」
「”白夜叉”と呼ばれ恐れられていたお前の力を再び友である俺に貸してくれ、銀時」
そう宣言する桂の言葉に、その場にいた結標と銀時以外の者達は一瞬頭の中が真っ白になる程思考が停止するのであった。
物語はいよいよ一つの区切りを見せようとしていた。