禁魂。   作:カイバーマン。

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第四十訓 侍教師、人妻を寝取る

 

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぶごげほぉぉぉぉッ!!」

 

学園都市第七学区は区の中でも特に活気の多い場所だ。特に今は夏休み中旬、羽目を外して遊ぶ学生も少ない。

ならばこそ、ツインテールの少女が奇声を上げながら短髪の少女に飛び掛かり、それを拳によるカウンターで思いきりぶっ飛ばされてるのも夏の風物詩として人々の思いでの1ページに残るだけであろう。

 

「さすがお姉様……見事なボディブローですの……」

「クソ暑い時に抱きつこうとするとか余計にイライラすんのよ」

 

木影に隠れたベンチに座り、短髪の少女こと御坂美琴はブツブツ言いながら手に持ったかき氷を食す。地面に散らばっている一生を終えそうなセミ達と共に地面でピクピク動いているツインテールの少女こと白井黒子をほったらかして

 

「ここん所腹が立つ事ばっかりでウンザリよ、ホストに馬鹿にされるしアンタにジャン魂ロンパで負かれるし、ていうか何より……」

 

ガリガリとかき氷を口の中でかみ砕きながら美琴はワナワナと怒りで肩を震わせ

 

「ここ最近の私の扱いが悪すぎるッ!!」

 

多くの人々が歩く繁華街で怒りの雄叫びを上げて、持っていたかき氷を地面にぶちまける。

 

「レベル5の私がなんでこんな不当な扱いを受けてんのよっ!! ぼっちとかコミュ力0とかにわかジャンプファンとか可愛そうな女とかエトセトラエトセトラッ!!! ふざけんなテメェ等!! 私が本気になれば一瞬にして塵に返して地獄に叩き落とせるんだぞゴラァ!! 聞いてんのか銀髪天然パーマ! メルヘンホスト!! スベリンピック万年金メダル女王!!!」

 

周りがざわめいてるのも気にも留めずに咆哮を上げる美琴。彼女の怒りの矛先は散々自分の事を貶してくる連中全員だ。

そう、彼女は学園都市で三本の指に入る程の優秀な能力であるのに。

その反面学園都市で三本の指に入る程の残念な性格でもあったのだ。

 

「見返してやりたい! あのバカ共が「へへーさすが超電磁砲、あっしらじゃ到底敵えませぬ~」ってヘコヘコしながら土下座させる姿を動画で取ってツイッターで流してやりたい!!」

「そんな企み事ばかり妄想してるから馬鹿にされるんじゃないですか……」

「ああ、アンタ生きてたの?」

「これ以上醜態を晒すお姉様を残して死ぬ訳にはいきませんので生き返ってみましたわ」

 

パッパッと制服についた砂埃を払いながら黒子は立ち上がりつつツッコミを入れる。

 

「そこまでお怒りならお姉様。ホストさんや女王はともかく、あの銀髪天パのアホ侍の弱点ぐらいなら教えて上げますよ」

「本当に? 下らない事ならまた黄泉の門くぐらせるわよ」

「止めて下さいませ……まずは黒子の話を聞いて下さいませ」

 

ジト目で睨みつけてくる美琴に黒子は話を始める。

 

「黒子が察するに……あの男はモテないという事にコンプレックスを持っていますわ」

「モテない……確かにアイツってばそれ言われるといっつも過敏に反応するわ」

「あの男が死ぬ程モテない男だというのも当然お姉様も気付いておりますわよね」

「まあね、でも昔元カノがいたとか聞いたわよ」

「マジですの? まああの男も一応いい年しておりますし経験の一つや二つある事はあるのですね」

 

アゴに手を当てながら美琴は思い浮かべる。確かに黒子の言う通りあの男はそらモテないであろう、だがまあ彼にも一応交際できる人間がいたという事を彼女は知っていた。

もっともそれはつい彼が口を滑らした時に聞いただけで、詳しい事は聞けずじまいだった。

 

「世の中にはああいうちゃらんぽらん好きな物好きな人もいるのね。私はアイツと付き合うとか死んでもごめんだけど」

「わたくしも全くの同意見ですの。あそこまで根っこからひん曲がっている天然パーマ侍を慕いになる方がいるとは思えませんわ」

「まあね、一応私もそれなりに慕ってはいるんだけどアイツと交際できる人間なんてそれこそ滅多にいないでしょうね。ってあれ?」

 

ふと目を凝らすと遠くの方で見覚えのある人物が

 

「あそこにいるのって……アイツじゃない?」

「うげ……本当ゴキブリの如くどこからでも湧いてきますわね……」

 

銀髪天然パーマの男が、空色の着物に袖を通し腰を木刀を差して立っていたのだ。

 

間違いない、先程から話の中に出て来ていた坂田銀時だ。

 

「なによアイツ、一人であんな場所に突っ立って」

「モテないからって歩いてる女性にナンパなどという低俗な事でもやっているんじゃないですの?」

「いやまさかそこまでアイツも落ちぶれてないでしょう、面白そうだから様子見てみましょう、黒子、アンタの技でアイツから隠れながら私達をアイツの近くに移動させて」

「それぐらいならお安い御用ですが。はぁせっかくのお姉様の一時をこんなくだらない事に浪費するとは……」

 

彼が休みの日にこんな所で何をやっているのか美琴はふと興味を持った。

あちらはまだこちらに気づいていないし、こっから観察して様子を見てみようと物陰から隠れながら黒子の瞬間転移を用いて接近していく。

 

「ここって第七学区名物の時計台よね、カップルが待ち合わせによく使うとかいう」

「ああ確か初春が言っていましたわね、どうでも良かったので話半分も聞いてませんでしたが」

 

転移しつつ美琴は銀時が立っている場所が時計台の足元だと気付く。

何ゆえ彼がこんな場違いな所にいるのだろうか……。

 

「もしかしてデートだったりして」

「ぶふぅ! お姉様笑わせないで下さいまし! あんな金欠侍がデートとかあり得ませんわ!」

「ふふ、きっとアイツの女だったら変な女なんでしょうね」

「ただれた恋愛ぐらいしか出来そうにない男ですから、まともな女性ではないのは確かですわ!」

 

隠れながら言いたい放題の美琴と黒子、確かにあの男と付き合うにはまともな感性を持った人はまず無理だろう。

そして散々言われてる事も気付かずに銀時は腕を組み静かに待っている。

 

「ちょっと、なんか待ってるっぽいわよマジで。もしかして本当にデートなんじゃないの!」

「だったら面白いのですが、いやいやあんな男に限ってそんな……」

 

期待に胸を膨らませる美琴に黒子もまたニヤニヤしながらしていると、時計台の根元で立っていた銀時がピクリと反応し

 

『おせーよコノヤロー、3分も待っちまったじゃねぇか』

 

「あ! 誰か来たみたいですわ!」

「え、本当に! 見せて見せて!」

 

銀時が誰かに向かっていつもの様にぶっきらぼうに話しかけている。

黒子が叫ぶとすかさず傍にいた美琴も彼が向いている方向へ目を凝らす

 

「どんな変な女か見てやるわよ! そして写メで撮ってツイッターにアップしてやるわ!! フハハハハ!! 散々私に酷い事言った罰よざまぁみなさい!!!」

 

自分の携帯を取り出して銀時の相手を撮る気満々の様子で構えながら高笑いを上げる美琴。

もはや覗く事に罪悪感も無いらしい。

 

そして

 

『ごめんねー、手続き取るのに時間かかっちゃってー』

「よっしゃ来たぁぁぁぁぁぁ!!! え?」

 

遂にお待ちかねの女性が現れた時、携帯持ったまま美琴はしばし固まる。

 

『この街の入門審査は相変わらずめんどくさいのよねー、身内が中にいるから入れてくれませんかーって言っても必要書類やらなんやらでもう毎度毎度時間掛かるんだから』

『情報漏れしねぇようにしてんだよ、他の国に技術奪われない様にしてんだからそれぐらい我慢しとけ』

『はーい』

『それと保護者として来んならこういう時じゃなくて大覇聖祭の時に来い、そしたらちっとは楽な審査で通してもらえっから』

『へー意外にあなたもその辺の事を把握しているんだ、「んな事知るかコノヤロー!」とか言いそうなのに』

『意外には余計だっつーの、これでもこの街で暮らして教師やってんだ。ほら行くぞ』

 

現れた女性は陽気で人懐っこい印象の持ち主だった。

 

「な! 何故にあの男があの様な綺麗な女性と!?」

 

黒子は口をあんぐりと開けてショックを隠せない。

それもその筈、予想を見事に裏切り銀時が待っていた女性はとてつもなく綺麗だったからだ。

 

年はわからないが銀時と並ぶと対して変わらないような気もする。

綺麗なボディラインをより綺麗に見立てるシャツと、美しさだけでなくカッコよさも引き立てるような真っ黒なズボン、そしてそれを着ている彼女もまたスタイルが良く、出る所がキチンと出ている。

そして何より

 

「むぅ、まさかこのような事、おや? それにしてもあの方……」

 

ふとある事に気づいたのか、黒子は先程から固まってピクリとも動かない美琴の方へ振り向く。

 

「お姉様と……よく似ているような」

「……」

「あの、お姉様?」

「……」

「だ、大丈夫ですの? 何やら顔色が優れないようですが」

「……」

 

銀時とどこかへ行こうとしている女性をただただ見つめながらワラワラと震え出す美琴に黒子が心配そうに声を掛ける。

 

「も、もしやあの方はお姉様の親戚かなんかで?」

「……」

「……お姉様のお姉様とか?」

「……違うわよ」

「え?」

 

ようやく声を出した美琴に黒子が反応すると、突然美琴はカッと血走った目を見開き

 

「私の、この私を産んだ実の母親よぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! ちょっとマジですのそれ!? いや本当えぇぇぇぇぇぇですの!!」

「何どういう事コレ!? なんでアイツが私の!!! わけわかんない!!!」

 

黒子はこれまたとんでもない衝撃的な事実を聞き絶叫を上げて混乱する。

美琴に関しては完全に錯乱状態だ。

何故なら自分が慕っている教師がこんな何もイベントが無い日にコソコソと自分の母親と……

 

「も、もももももももしかして……!!」

「……不倫という線もあり得なくも」

「……」

「は!」

 

ついポロッと言ってしまった失言に黒子は後悔した。

よもや自分の母親があのちゃらんぽらんと過ちを起こしているかもしれないと聞いたら娘である美琴は……

 

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

黒子が気が付いた時には、既に彼女は風に流されるかのようにフラリと白目剥きながらぶっ倒れた時であった。

 

 

 

 

『へー学園都市オリジナルの香水かー、今流行りのってどれ?』

『んなの知らねぇよ、つうか高過ぎだろ、なんで匂いを体に染みつけるだけでこんな値段すんだよ、ぼったくりじゃねぇの?』

『やれやれ、女のたしなみ道具にいちゃもん付けるなんてまだまだねー先生は』

『うるせぇな、わかんねぇもんはわかんねぇんだよ』

 

美琴が倒れてから数十分後、銀時はまだあの女性と一緒におり、二人で街中にある繁華街を物色している所だった。

好奇心旺盛の彼女に銀時がぶっきらぼうに答えているのを

 

「おのれ……!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇ~!!」

「お、お姉様お気を確かに……」

 

数メートル後方から死角に隠れながら美琴が血走った目でをそんな二人を凝視していた。

怒りで全身を震わせ、共について来た黒子も困惑気味である。

 

「なに二人で仲良くブラついてんのよ……! 旦那はどうした”御坂美鈴≪みさかみすず≫”……!」

「あのお姉様、お母様の事を名前で呼ぶのはちょっと……」

 

娘に恨みがましい目つきでブツブツと呪いの様に小言を言われている事を知らずに、彼女の母親こと御坂美鈴は銀時と楽しげに歩いて行く。

 

『オイ、このチョコクレープといちごクレープくれ』

『あらあら優しいのね先生、私丁度小腹が空いてたのよね』

『オメェのじゃねぇよ、二つとも俺のだ』

『へーそう来ますか……だったら力づくで奪うのみ!』

『ちょ、おま! 飛び掛かるんじゃねぇ両手にクレープ持ってんだぞ俺!』

 

今度はクレープ屋の前で立ち止まり、両手にクレープを持った銀時に美鈴が襲い掛かっていた。

その光景はまるで……

 

「よし決めた、アイツ等殺して私も死のう。それですべてが救われるわ」

「お姉様ー!!」

 

虚ろな目でそう言い切る美琴の身体から青白い光がバチバチッと火花を鳴らした。

慌てて黒子が彼女の気を落ち着かせようと身を乗り出す。

 

「気をしっかり持ってくださいお姉様! わたくしもつい不倫などと言ってしまいましたがもしかしたらただの誤解かもしれませんの! だってお姉様のお母様がそのような真似、しかもよりによって……!」

「あの”ゲスの極み”に惚れるとわね、そうね私も想像しなかったわ」

「だから間違いかもと……」

「でもしょうがないわね、ここは生徒でもあり娘でもある私が責任を持って”両成敗”しなきゃ……!」

「ストップ! お願いですから止まって下さいまし!!」

 

怒りのボルテージがMAXに到達し、遂に動き出そうとする美琴を黒子が後ろから飛び掛かって羽交い絞めにする。

 

「このような事でお姉様が犯罪者になってしまってはいけませんわ! まずはこの事をお母様に直接聞いてゆっくりと解決の道を!!」

「離しなさい黒子ぉ!! 話なんか必要ないわ! あの女には謝罪会見させた上でレギュラー番組全部下ろさせてやる!! 」

「それ誰の事ですの!?」

 

もはや自分で言ってる事もわからない様子の美琴を黒子が必死に抑えていたその時。

 

「なんかさっきから聞き慣れた声が……あれ?”美琴ちゃん”?」

「な!」

 

後ろからギャーギャー叫んでてはさすがに聞こえてしまったのだろう。

チョコクレープ片手に持った美鈴が突如こちらに振り返って来たのだ。

しかも娘である美琴と顔を合わせてしまい、これには黒子もギョッとしてしまう。

 

「おいおい、なんでお前がここにいんだよ、それにチビも」

 

いちごクレープを食べながら銀時も慌てもせずにこちらに気づいて振り返って来た。

その別に大きな問題でもないだろ?と言った感じの態度が更に美琴の怒りを増量させる。

 

「なんでお前がここにいるかですって……そんなの決まってんでしょ……」

「ちょ、お姉様……! わたくしが密着しているのにさすがに電撃は……!」

 

黒子が背中に抱きついているのにも関わらず美琴は体中から電撃をスパークさせ

 

「アンタが私の母親と乳繰り合ってるからに決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ウギャァァァァァァ!!!」

 

碇に反応して彼女の身体を駆け巡っていた電流が破裂し、その衝撃は周り一帯の電化物が全てショートし始める程。おまけに彼女と一番近い距離にいた黒子は思いきりくらい黒コゲに

 

「そこのアンタァァァァァ!!!」

「なに美琴ちゃん?」

 

身体からバチバチッ!と音を鳴らしながら美琴母親である美鈴に指を突き付ける。

 

「アンタそこの銀髪クソバカ天パ野郎とさっきまで何やってたか正直に言ってみなさいよ!」

「銀髪クソバカ天パ野郎? ちょっと美琴ちゃん、この人に対してその言い方はないんじゃないの?」

 

彼女の追及に美鈴はフフッと笑うと、隣に立っていた銀時の腕に抱きつき

 

「だってこの人はあなたのニューお父さんになるんだから。そうよねダーリン」

「そうだよハニー。こら親不孝娘、お母さんに対してなんて口の利き方だ、パパが許しませんよ」

「え?」

「え?とか言っちゃってるよハニー、全く我が娘ながら見事なマヌケ面だ」

「全く誰に似たのかしらねダーリン、もうすぐ元旦那になる人かしら」

 

茶目っ気たっぷりに甘い声で言ってのけた美鈴とそれに対して全く動じずに肯定する銀時。

疑っていた疑惑が真実に……その現実を目の当たりにし美琴の頭の中が真っ白になっていき……

 

バタン、という音と共に

 

「み、美琴ちゃーん!!」

 

再び白目を剥いて失神するのであった。

 

 

 

 

 

そしてまた数十分後

 

「……」

「い、いや悪かったって、お母さん反省してるからそんなに睨まないでよ美琴ちゃん……」

 

場所を移して ここはとある小さな公園。

前に美琴と銀時が自動販売機に蹴り入れてタダでジュース飲みまくってた所だ。

 

休憩スペースとして設置されてあるベンチ。

そこに座りながら恨めしそうにただただ無言で睨み付けて来る美琴に美鈴が申し訳なさそうに何度も謝っていた。

 

「まさかいきなり意識吹っ飛んでぶっ倒れるとは想像もしなかったのわ、そこまでショックだったなんて」

「……母親が自分の所の学校の教師と浮気してんじゃないかと思ってる上であんなド直球うなカミングアウトされればそりゃショックに決まってんでしょ、そりゃ気を失うでしょ……」

「ロンハーみないなノリでウケると思ったんだけどなー、ああごめんごめん本当に悪かったから、反省してます本当に」

 

目つきが徐々に鋭くなっていく美琴に美鈴がまた深々と頭を下げる。

 

「ちょっとからかいたくなって”ドッキリ”仕掛けてごめんなさーい」

「ドッキリにも程があんのよ! 御坂一家が崩壊すると思ってどんだけ焦ったと思ってんの!!」

「いやーあはは」

 

自分の娘に一喝されて後頭部を掻きながら苦笑する美鈴

 

「だって時計台で銀さんと待ち合わせしてる時に木の影からこっちに隠れながらコソコソしている我が娘を見たらさー、ついからかいたくなっちゃうのが母親ってものよ」

 

どうやら最初に銀時と会った時から既に美琴の存在に気づいていたらしい。

 

「だから彼と打ち合わせしてデートっぽい演出しながら美琴ちゃんが慌てる様を見せたくなっちゃって。そしたらつい調子に乗っちゃう悪い癖が出ちゃったのよ」

「演出? 本当にただ演技でアイツと遊んでただけ?」

「そらそうよー。私あの人の事は好きだけどラブの方じゃなくてライクの方だし。何よりまだまだ旦那との間は良好だから安心して」

「はぁ~……」

 

疑り深い娘にキチンと旦那との関係の続行を誓う美鈴。

本当は腹立たしくてしょうがないのが、こんな子供っぽい事をまだしてくる彼女にむしろ呆れてしまう美琴であった。

 

「おい、話はもう済んだのか」

「うーまだ体が痺れて思う様に動けませんの……」

「アンタはアンタでなに他人事のようにしてんのよッ!」

 

そして美琴と美鈴が座っているベンチの隣ではドッキリ作戦のもう一人の仕掛け人である銀時が横たわる黒子を隣に何食わぬ顔で彼女達の方へ話しかけてきた。

これには美琴もイライラしながらツッコむ。

 

「アンタの隣で倒れてる黒子をこんな姿になったのは誰のせいだと思ってんのよ!」

「お前のせいだけど」

「あ、そうだったって違う違う! 元よりアンタ達が私を怒らせたのが悪いんでしょ!」

 

つい自分で認めてしまう所だったが、元を辿ればこの大人げないコンビのせいであって

 

「ノリノリでウチの母親と演技してたアンタもアンタよ!! いくらちょっとばかり顔の良い人妻に言われたからってその娘を! あろうことか自分の可愛い教え子にドッキリ仕掛けるとか良心が傷まないのアンタは!」

「バカヤロー、俺だって抵抗あったんだぞ、どうしてそんな事しなきゃならねぇんだって」

 

指を突き付けながら怒鳴りつけて来る美琴に銀時はビシッと答えると、美鈴のお腹の方を指さして

 

「ちなみにお前があそこで気絶しなかったら、コイツの腹の中に銀さんジュニアがいると暴露する予定でした」

「思いきりノリノリじゃないのぉぉぉぉぉ!! 私を地獄に叩き落とす算段をパーフェクトに仕上げて何が抵抗あっただコノヤロー!!」

「私、女の子の次は男の子が良いなと思ってたから」

「うるせぇ母親! だったら旦那と作れ!!」

 

ブチ切れて言葉遣いが悪くなっている事を全く気にせず、美琴は美鈴にジト目を向けながら腕を組む。

 

「大体学園都市に来るなら娘の私に連絡一本よこすってのが筋ってモンでしょ。なんで隠れてこんな奴と会ってたのよ」

「うーん実は銀さんと待ち合わせしてたのは美琴ちゃんが上手くやっていけてるかどうか聞こうと思ってたのよ」

「え?」

「私、銀さんとは随分前から電話を使ってて美琴ちゃんの事で連絡取り合ってて」

「は!? ちょっとちょっと何それ聞いてない!」

 

突然何を言いだすのかと美琴は怒るのも忘れて驚いた。

 

「なんでコイツの連絡先知ってるのよ! 私も知らないのに!」

「それはまあ、美琴ちゃんの事で学校の理事長さんと相談してたら、アンタの娘の面倒を見てる奴がいるって言われてこの人の番号教えてもらってね」

「そんな簡単に!? 私コイツと一緒にいて一年以上経つけど未だに電話番号さえ教えてもらってないのに!!」

 

あっさりと銀時の連絡先をゲット済だと漏らす美鈴に、美琴は不満げにするが隣のベンチに座っている銀時はけだるそうに欠伸をしながら

 

「だってお前に番号教えたら毎日電話してきそうでイヤじゃん、毎日深夜に鳴らされちゃ寝不足になっちまうよ」

「誰がアンタに毎日夜中に電話なんて掛けるか! 毎日早朝よ!!」

「結局毎日掛けるのかよ!!」

 

思わずツッコミを入れてしまう銀時をよそに、美琴は美鈴の方へ再び向き直る。

 

「それで、ウチの母親はどうしてコイツと私について相談していたのかしら?」

「いやそりゃ遠く離れた娘の事を心配するのが母親の性ってもんでしょ? 小さな頃からこっちに来てるあなたが無事にやっていけるのか私心配で……」

「本音は」

「美琴ちゃんに素敵な出逢いがないのかと定期的に聞いてました」

「懺悔の用意は出来ているか?」

「ごめんごめんこれもウソよウソ! ドメスティックバイオレンス反対!」

 

右手で拳をこちらに構えてきた美琴に慌ててなだめる美鈴

 

「もう本当に冗談通じないんだから……本当は美琴ちゃんが学園都市では指折りの能力者だって聞いてるし、それが変に性格を歪ませていないかどうかあなたの面倒を見てくれている銀さんに教えてもらってたのよ」

「……まあ私、学園都市第三位のレベル5だし」

「そうそう、子供の頃から自分が飛び切り優秀だと勘違いして悪い方向へいっちゃう子供も少なくないってよく聞くし。ただでさえ美琴ちゃんって調子に乗って失敗しちゃうタイプだから、全く誰に似たんだか……」

 

そう言いながら美鈴はチラリと銀時の方へ顔を向けて

 

「それで銀さんに定期的に連絡してあなたの事を聞いてたのよ、ちゃんとやってるのか、どんな友達がいるのか、どんな風に学校生活を送っているのかとか色々ね」

「そういうのは娘の方に聞きなさいよ……」

「だって美琴ちゃんに聞いても見栄張って正直に答えてくれないじゃないの」

「う……」

 

母親なら当然娘の考えを熟知している訳で

ぐうの音もなく黙ってしまう美琴をよそに美鈴は話を続ける。

 

「だから銀さんにいつも聞いてるのよ、美琴ちゃんが幸せになるには何が一番大事なのかってね、前に電話した時も」

 

『ウチの娘、今年から中学2年生になるけど私が出来るって事ってあるかしら?』

『転校させれば?』

「どんなアドバイスだぁぁぁぁぁ!!! 転校ってもう何もかも諦めてるじゃないの! 私がまともになる事を全く期待してないじゃないの!」

 

しみじみと思い出しながら優しく微笑む美鈴にキレながら美琴は銀時を睨み付ける。

 

「アンタ裏でそんな事言ってたの! そんなに私を遠ざけたいか! そんなに私という存在がうっとおしいのか!」

「いや割と的確なアドバイスだと思ってんだけど、お前全くクラスの奴等と打ち解けないし」

「親の前で言うな! 余計惨めになるでしょ!!」

 

既にバレているだろうが友達いない事を母親の前で言われるのは子供としてかなり恥ずかしい。

そんな彼女を思ってか、銀時は隣で横になっている黒子を見下ろしながら

 

「まあその後、このチビがお前の事を気に入ってくれたからなんとか「3年間永久に友達いない青春コース」は免れたから良かったけどな」

「ま、まあね……スキンシップがちょっと度が過ぎてるけど多少は楽しくなったとは思ってるわよ……」

「そ、そう言われて黒子感激ですの」

 

美琴のささやかなデレに黒子も横になりながらご満悦の様子。しかし未だ体に残る電気で痺れてまだ動けない様だ。

そして美琴は再び母の方へ顔を向ける。

 

「で? 察するに私が上手くやっていけてるかどうかを今度は直接自分で見てみようと思ってわざわざここまで来たって訳?」

「あったりー、おめでとう美琴ちゃん、さすが私の娘、鋭い洞察力よ」

「でも解せないわね、どうしてコイツと待ち合わせなんてしてたのよ」

「あー娘にも会いたかったけどこの人とも一度直接会っておきたかったのよ、電話越しじゃわからない事もあるじゃない? もちろん浮気するとかそういうのは絶対にないから安心してね」

 

そう言いながら無邪気にウインクしてくる美鈴に美琴は気恥ずかしそうにフンと鼻を鳴らして顔を背けた。

 

「そういう事ならわかったわ、あの最悪のドッキリの件にはまだ許したくないけど。娘に会いたかったっていう子供じみた発想が可哀想だから……特別に許してあげる」

「ほほー随分見ない内に寛大になっちゃってー、小学生高学年の時はプライド高くて周りから孤立してたのに。これは銀さんの教育の賜物かしら?」

「か、勘違いしないで! 別にコイツのおかげで多少は丸くなったとかそんなんじゃないから! まあただ感謝はしてるけど……」

「ぶふぅ! ツンデレ頂きましたー! 娘のツンデレ発言頂きましたー!」

「さっきから娘煽るの止めなさいよこのバカ母!! 小学生か!」

 

母親というより友人という感じで接するのが美鈴のスタンスなのかもしれない。

茶化してくる彼女に美琴は顔を少々赤らめながら叫んだ後、ふと一つ気になった事が

 

「そういえばパパの方はどうなの?」

「あーそれがね、聞いてよ美琴ちゃーん、アイツってば酷いのよ」

 

母親が元気にやってるのはわかったが父親の方は?

気になって尋ねてみた所美鈴は頬を膨らまして不満げに

 

「アイツったら前はたまにこっち戻って来たのに最近じゃずっと宇宙を飛び回って帰って来ないのー、何が世界に足りないものを示すよ。フリーだからってフラフラし過ぎだってぇの、きっとまたあの”坂本”とかいう人と競い合ってんだわ」

「あー確かパパの仕事って宇宙総合コンサルタントとかいうのだっけ?」

 

アゴに手を当てながら美琴は父親の仕事を思い出す。地球にいる美鈴と違って外国はおろかはたまた宇宙まで行ってしまう父親とは滅多に会えないので、顔もどこかうろ覚えだ。

 

「なんか娘に愚痴言ってたら余計に腹立ったわ、電話してみよ」

「最近の携帯は向こうが宇宙にいても通話できるのは知ってるけど、大丈夫なの仕事してるんでしょ?」

「だーいじょうぶよ、どうせ遊んでるだけなんだからアイツは」

 

なかなか旦那に対しては厳しめの評価をする美鈴は携帯を取り出すと娘の心配をよそに電話し始める。

 

「出てよ出てよさっさと出なさいよ……っと出た出た」

「え、本当に?」

 

宇宙で多忙にしていると聞いていた父親が電話に出たと聞いて意外な表情を浮かべる美琴をよそに、美鈴はノリノリで通話を始める。

 

「ごめんなさいねーちょっと電話かけてみたくなってー、今そっち大丈夫? え? 現在進行形で宇宙海賊に襲われていて今宇宙の中を猛烈に逃げ回ってる? あーそれはそれはご愁傷さまー」

「いやそこは心配してあげなさいよ! 海賊に襲われてるとかそれマジでヤバいじゃないの!!」

「こっちはねー誰かさんがそうやって海賊達と楽しく鬼ごっこしてる間ずっと一人ぼっちなのよ、わかる? ってもしもし? もーちょっとさっきからビームの音が聞こえてよく聞こえないんだけど? 撃たれててこっちはてんやわんや? だったら反撃しなさいよ男でしょ。それよりさ」

「めっちゃ攻撃されてるじゃないの! 夫のピンチになに呑気な事言ってるのこの妻は!!」

 

海賊との戦いなど知った事かと感じで美鈴はけだるそうにスルー

美琴がツッコむが美鈴は気にせずに電話に向かってニヤリと笑いながら

 

「そうやって遊んでいるのも今の内よ、実は私、夫がいなくて寂しいという気持ちで新しい男作っちゃいました」

「ってちょっとぉぉぉぉぉぉ!! またそれやるの!? 娘の次は夫!? それはダメだろ!? それはイケないだろ!?」

「フフフ今どんな気持ちかしら? 綺麗な奥さんと可愛い娘をほったらかしにした罰よ、アンタはせいぜい遺産を残してそのまま星にでもなってなさい」

「パパ聞こえる!? あなたの娘の美琴ちゃんです! あの! さっきから言ってるの全部嘘だから!! ちょっと頭おかしくなってるだけだから! ぶっ叩けば治る筈だから!!」

 

ノリノリで法螺話を吹き始める美鈴の傍で必死に父親に届ける為に思いきり叫ぶ。

しかし母親の方はどんどん調子に乗っていいき

 

「とにもかくにも事実よ、証拠を出してあげるわ、はいコレ」

 

そう言って美鈴は隣のベンチに座っていた者に携帯を渡す。

その者は携帯を手に取るとすぐに耳を当て

 

「あ、どうも。テメェの奥さん寝取った坂田銀時でーす」

「くおらぁぁぁぁぁぁ銀髪ゲスの極みパーマネント!!! なにそこで自然に乗っかってんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

その者こと銀時は小指で鼻をほじりながら堂々と寝取り宣言。

 

「え、奥さん? ああ俺の隣にいるけど? 全裸で」

「止めてぇぇぇぇぇ!! これ以上パパを傷つけないでぇぇぇぇ!!」

「殺してやる? 上等だかかってこいよ、地球に来れんならいつでも受けてやるよコラ」

 

美琴の雄叫び空しく、銀時と父親の熱はヒートアップ、携帯越しに徐々に言動が荒くなっていく。

 

「ああ!? テメェ今なんつった! 調子こいてるとぶっ飛ばすぞ! こちとら侍やってんだぞコラァ!! テメェ俺ナメてっとマジ後悔っすからな!!」

「ほらほら見て美琴ちゃん、アイツってば私が銀さんに盗られそうだから焦ってるみたい」

「どうでもいいわよもう……」

 

互いに罵声をぶつけ合っているのだろうか、怒鳴り声を上げる銀時を見て美鈴はニヤニヤしながら美琴に呟く。

大方ほったらかしにする夫にヤキを入れる為にこんな性悪なコントを始めたのだろう。

美琴は呆れてもうツッコむ気力もない。

 

「この野郎言わせておけば! おーしわかった!! そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!! 上等だ俺もそこまで言われたら本気出してやろるよ!!! よーし!!!」

 

携帯を強く握りしめ、額に青筋を浮かべながら銀時は目をカッと見開き

 

 

 

 

 

「じゃあ来週の日曜にかぶき町の河原でバーべーキューだぁぁぁぁぁぁ!!! 遅刻すんじゃねぇぞコラァァァァ!!!」

「えぇぇぇぇぇぇ!? なんでこの流れでバーベキューする約束になってんのぉ!?」

 

拳を高く掲げてそう叫ぶ銀時を見てさすがに美鈴が慌てふためく。

てっきり夫をわざと怒らせるために口喧嘩していたのか思いきや

 

「ねぇ銀さん! 一体何が! さっきの会話の中でいつなんで夫と河原でバーベキューやる流れになったのよ!」

「悪いけど今こっちバーベキューの打ち合わせ中だからちょっと待って。おお悪ぃ、で、どこまで進んだっけ? 肉と野菜? ああそっちで頼むわ、宇宙産だろうが地球産だろうが食えれば問題ねぇよ、こっちは場所の確保と人集めりゃあいいんだろ。そんじゃ来週よろしく」

 

段取りまで話し終えると銀時は混乱している美鈴に携帯をやっと返す。

 

「結構いい奴だった」

「い、いや……さっきまでの修羅場はなんだったの、怒鳴り合ってるかと思ったらただバーベキューの約束してただけなの、ねぇ?」

「あ、それと」

 

不安そうに尋ねる美鈴をよそに銀時はポツリと

 

「来週のバーベキュー、おたく参加できないから」

「え!?」

「”下らねぇドッキリ”仕掛けて来る女房なんざとバーベキュー楽しめるかだって」

「え、そ、そんな……」

 

やはり旦那は旦那であった。妻の考えなどすべてお見通しだった様だ。

美鈴は携帯を持ったままま呆然と立ち尽くすとすぐにピッピッと携帯のボタンを押して

 

「もしもし、先程忙しい時にずけずけと電話を掛けてしまったあなたの妻の御坂美鈴ですが……え、元妻? 違うわよ今もこれから先も私は一生あなたの妻よ!! ごめん! 私が悪かったから!! つい寂しくて調子乗ってましたごめんなさい!! つい付き合ってた時の悪い癖が出てしまっただけなの!! 悪いのは全部私じゃなくて過去の私の幻影よ!!」

 

しどろもどろになりながら必死に携帯で夫に謝罪する美鈴。

それを娘の美琴がどことなく複雑な気持ちで眺めていると、銀時がポンと彼女の肩に手を置き

 

「お前の調子乗る癖と、その挙句に失敗する性格はアレに似たんだろうな」

「……言わないで、今はアレが母親という事に娘として恥ずかしいんだから」

「心配すんな、お前の数十年後はアレだ。俺が保証する間違いない」

 

蛙の子は蛙とはよく言ったものだ。パニくって慌て、涙目で何度もペコペコと頭を下げている美鈴を見て美琴はドン引きして頬を引きつらせるのであった。

 

「とりあえず私は人様にドッキリはしない事にするわ、ああなりたくないし」

「だな」

「だからごめんなさいって何度も言ってるでしょ、どうして許してくれないのよ!! 久しぶりに話してるんだから仲良くしましょうよぉ! 夫婦が冷え切っていると子供に悪い影響与えるって言うじゃないの! だからお願い! 頼むから!」

 

 

 

 

 

「私もバーベキュー参加させてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

そして美鈴が叫んでいる中、そんな光景を遠くから眺めている二人組がいた。

 

「どうする? 今なら周りに人がいないから簡単に捕まえられるわよ」

「いや、しばし待っておこう。出来るだけ奴と刃を交えない様にしなければ」

 

一人は胸元開けた制服の下にはサラシしか巻いていない赤髪の少女。

そしてもう一人は被っている三度笠から黒い長髪が見える僧……

 

「この日の本を変えるためにはアイツの力が必要だからな」

「どうだか、あんな天然パーマの男の力なんて借りなくても私とあなたなら……」

「俺にはあの男の力が必要なのだ」

「……」

 

キッパリと言い切る僧に隠さずに不満げな顔を浮かべる少女。

どうして彼がそこまで”あの男”を求めているのか理解に困っているのだ、ましてや自分を差し置いて……

 

「俺とアイツなら世界を一からやり直す事が出来る」

 

そう言って僧は立ち上がり、遠くにいる銀時達を三度傘の下から鋭い目つきで見つめる。

 

「かつて救えなかったこの世界をもう一度救えるとしたなら、それは俺とアイツだけだ」

 

 

 

平和に終わると思われていたお話に

 

 

 

刻々と波乱の時が迫る。

 


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