禁魂。   作:カイバーマン。

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第四訓 電撃少女 推参

第四訓 電撃少女 推参

 

 

 

 

入国管理局の局長、長谷川泰三にプライドさえも捨てたヤケクソ土下座された美琴は。

 

「私に頼むならゲコ太グッズ100万個献上しなさいよ」

 

と非情な言葉を投げつけて帰ろうとするがジャッジメントであり黒子の先輩でもある固法と自分の学校の校長をやっているハタ皇子による説得に渋々彼のペット探しに付き合うハメになったのだ。

 

「ったく……なんで私がバカ校長のペット探しなんて……」

「聞こえてるぞー、自分の学校の校長に向かってなんじゃその態度はー、おい銀時、そちもなんか言ってやれ」

「そうっすね、今はバカ校長じゃなくてバカ皇子ですもんね」

「いやそういう事じゃなくね? バカが残ってんだけど? 一番残しちゃいけない所残してんだけど?」

 

ハタ皇子に対して完全にナメ切った態度をとるのは美琴と銀時。この二人にとって皇子だろうが校長だろうがどうでもいいのであろう。

 

「ていうかバカ校長、アンタ職員会議サボってなにやってんすか? 仕事して下さいよ、教師ナメないでくれませんか?」

「いやそれおぬしも言えんじゃろ。ていうかなんでおぬしもおるのじゃ、またこの娘っ子と遊んでおったのか? 中学生相手に変な気など起こすなよ、責任は余は絶対に取らんからな」

「乳くせぇガキ相手にんなもん起こる訳ねぇでしょうが」

「その乳臭いガキとやらとプライベートも一緒にいる教師ってどうなの実際?」

 

白衣からタバコを取り出しながら自信満々に言う銀時にハタ皇子は1ミリも信用してない表情で頷いた。今後はこの男の事は特にチェックしておかねばならないと深く頭に刻み込む

 

「まあそなたがここにおるのはどうでもいい事だったの、ところで長谷川」

「は、はいい! なんでしょうバ……ハタ皇子!」

「あれ? 今バカって言いかけなかった?」

 

美琴を必死に説得しようとしたおかげで酷く疲れている表を浮かべている長谷川にハタ皇子が偉そうに口を開いた。

 

「余はこんな汚い所にいるのは勘弁じゃ、はよう余の可愛いペットを見つけてくれ」

「と、当然です! 後はこの長谷川にお任せを! おい第三位! 早く皇子のペットを見つけるんだ!」

「いや自分にお任せをって言っておいて速攻で私にやらせるって人としてどうなのよ」

「皇子のペットはこのスクラップエリアに隠れ潜んでいるって情報があった! いいから隈なくこの辺りを探すんだ!」

「やっぱ帰るわ私」

「すみません調子乗ってました! 皇子のいる前だからつい偉そうにしちゃってマジすみません! この通り土下座するんでホント帰るのは勘弁してください!」

「……こんな大人にだけは死んでもなりたくないわね」

 

帰ろうとしたそぶりを見せた瞬間には既に地面に両手を添えて土下座する長谷川に。

美琴は思いっきり軽蔑の眼差しを向けるとガックリと肩を落とす。

 

「……やる気でないけどバカ校長のペット捕まえるか……」

「頑張ってくださいお姉様、影ながらこの黒子、精一杯応援してあげますわ」

「応援はいらないから手を貸しなさいよ手を」

 

どっかの教師同様目が死んでいる美琴。はぁ~と深いため息を突きながらもとりあえず探すかと渋々承諾することにした。こうなったらヤケだ、報酬はたんまりと貰おうと。

 

「しっかし隠れる場所も多いししらみ潰しに探したらかなり時間かかるわね」

「む? それならいらぬ心配などせんでもよいぞ」

「は? なんですかバカ校長、セクハラですか?」

「え、会話しただけでセクハラになるの……今時の女の子ってそんなにデリケートなの……」

 

急に話しかけてきたハタ皇子に美琴が怪訝な視線を向けると皇子は得意げに指を立てて

 

「余の”ペス”は可愛いうえに賢くての、余が名前を呼んでやればすぐに出て来る筈じゃ」

「ペス? 随分テンプレな名前付けてるのね」

「犬かなんかなのでしょう、まあきっとブサイクな犬ですわね、ペットは飼い主に似ると聞きますし」

「それ遠まわしに余がブサイクだって言ってね?」

 

黒子にまでチクリと痛い毒を吐かれる皇子。 そんな彼を無視してタバコを口に咥えた銀時がさっさと話を進める。

 

「んじゃあ要するにアレだろ、ここら一体のエリアをバカ校長が一人で名前叫んで歩き回ってればその内出て来るって事だろ? そんじゃまあ頼みますバカ校長、俺そのペットが出て来るまで近くのファミレスで飯食ってきますから」

「いや完全に依頼人の余に全部丸投げしてるじゃろそれ!? 余をこんな所に放置してなに自分はファミレスで飯食おうとしてるんじゃ!」

「だーいじょうぶですって、領収書はちゃんと貰っておくんで」

「大丈夫じゃねえよ! そんな心配してねぇし落とすかそんなの!」

 

けだるそうな銀時の態度に額に青い血管が浮かぶほど激昂するハタ皇子。だが銀時はそんな彼に髪を掻き毟りながらタバコの煙を吐き

 

「大体、ペット探しなんて万事屋に頼めばいいでしょうよ、金さえあればなんでもやる連中がいるとか。ババァから聞いたんですけどかぶき町にあるらしいですよ」

 

銀時の話に美琴が「へー」と反応する。

 

「そんな店あるんだ、まあ不景気だしそういうヤケクソ気味な仕事してる人がいるのも普通か」

「お前等は絶対そんな仕事してる奴等に近づくなよ。そういう訳わかんない仕事してる奴ってのはロクなモンじゃねぇんだから」

「アンタならそういう仕事やりそうだけど?」

「やらねぇよ、そんなの」

「店の名前は『万事屋銀ちゃん』とか?」

「安易すぎんだよ、もっと捻れよそこは」

「くおらぁ銀時! 余を残したまま生徒と関係ない話で盛り上がるな! ちなみに余が考案した名前は『ぶらり銀さんが行く』じゃ! これ良くね!? 凄くね!?」

 

変な方向に話が進んでることにハタ皇子が激昂するがそんな彼を二人は軽くスルー。

業を煮やした皇子はワナワナと怒りで震えながらブチ切れて

 

「もうよい! そちらが何もせんなら余だけでも愛くるしいペスを見つけてみせるぞ! おーいペス!! 出てくるのじゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハタ皇子が周りのスクラップ置き場に向かって叫んだ瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

それは巨大ダコ、と言うべきなのか。

家の一軒や2軒など軽く踏み潰すであろう尋常じゃない大きさの生物

小さなビルなら容易に噛んで飲み込んでしまう程凶悪な牙が生えた大口

グロデスクな顔とその体から発する悪臭に見ただけで気絶してしまいそうなその風貌。

 

そんな巨大生物が大量の廃棄場から耳をつんざく轟音を立てながら出てきたのを前にしてハタ皇子は

 

「おお! 余のペスが出てきおった! なんじゃ隠れんぼしてたんじゃな!」

「はぁぁぁぁ!? これがペス!? ふざけてるんですの!? なんでこんなグロイ生物に丸っこい名前使ってんですか! 未確認生命体B-2とかそんな名前付けるべきでしょう! ていうかこれどう見てもエイリアンですわよ! 長谷川さん! あなたなんで言わなかったんですの!」

「いやだから極秘任務だって言ったじゃん! エイリアンをこの街に侵入させた事なんて一般人に知れたら俺の首本当に飛んじゃうし! 俺は悪くないよ! 悪いのは全部皇子だから!」

 

寝起きを起こされたかのようにその辺に長い数本の足を叩き下ろす”ペス”を前に頭を抱えてパニくりながらも黒子は長谷川に叫ぶ。 

しかし長谷川の方は慌てつつも耳を両手で押さえながら叫び返した。

 

「あんな化けモンを俺達がどうこう出来るわけないだろ! だからレベル5の第三位に頼んだんだ! 化けモン相手にするにはそりゃ化けモンしかないだろ!」

「くおらぁ! クソグラサン! お姉様の事を化け物呼ばわりするとかいい度胸ですわね! 二度とそんな事を言えぬようわたくしがその汚い体に刻み込んでやりますわ!」

「落ち着けチビ、それにしてもこんな巨大生物。あのバカ皇子はどうやって手懐けたんだ……?」

 

長谷川の胸倉を掴んで目を血走らせる黒子を疎めながら後ろ襟を掴む銀時。

すると突然彼の足元からにゅっとハタ皇子が出て来て

 

「ペスはの~、余が宇宙船でプライベート旅行してる時に偶然発見した秘境の星の未確認生物での。そのまま余に懐いてしまったから船で牽引してここに連れてきたのじゃ。ほーらペス~」

 

口から大量の涎を垂らしていかにも機嫌悪そうな形相を浮かべるペスに皇子は両手を広げながら自愛の心で優しく接する。

 

「余はここじゃぞ~、その愛くるしい顔にキスさせておくれ~じゃふぁ!!」

「全然懐いてないですの!!」

 

ペスの足の一本がピンポイントで皇子目掛けて飛んできた。次の瞬間には彼が周りのゴミ溜めに頭から豪快に突っ込んでいる光景が黒子の前に飛び込んだ。

 

「こんなのを街の中心にいれたら大変な事に! お姉様!」

「だからなんで一読者に過ぎないアンタなんかにギンタマンを侮辱にされなきゃいけないのよ! 人気はあるのよ! アンケートはちゃんと取れてるのよ!」

「そんなのテメェ等みたいな下ネタ好きのバカなガキ共が書いてるからだろ、テメェ等みたいなハードコア趣味のアウェイ共が絶賛するからあんなのがセンターカラーになるんだよ。これ以上俺のジャンプを汚すな」

「俺のジャンプってアンタのジャンプじゃないから! ジャンプはみんなのジャンプだから!」

「違いますー。ジャンプは少年の為だけのジャンプですー。小娘のものじゃありませーん、 女はなかよしでも読んでろ」

「くおらぁぁぁぁぁ! この状況でなにやってんですのあなた達は!」

 

数メートル先では巨大生物が次々と辺りを破壊しているのにも関わらず、この二人はそんな事知ったこっちゃないと言わんばかりに勝手にジャンプ討論を始めていたのだ。

 

「いいかげんにしなさいお姉様もそこのアホも!」

「ん、何? お前も俺達の話に加わりたいわけ? やっぱギンタマンはダメだよなー少年誌的に」

「知りません! わたくしはジャンプなど読みませんので! それよりお姉様!」

「ジャンプ読んでないって……黒子、アンタ今まで何を糧に生きてきたんですか? 楽しいですかそんなつまらない人生?」

「なんでジャンプ読んでないだけでわたくしの人生否定されなきゃいけないんですの……怒りますわよ、てかもう半分キレてますわよわたくし? そんな事よりもあちらを向いて下さい!」

「「ん?」」

 

少々キレてる様子の黒子にようやく二人はいう事を聞いて彼女の指さす方向に振り向く。

 

先程までいなかった巨大ダコが目と鼻の先で大暴れしているではないか。

 

「やっべぇなアレ、刺身何人前作れるんだ? おい小娘、ちょっと醤油とわさび買ってこい」

「いやよ、私タコならたこ焼き派だし。アンタが買ってきてよソースとかつお節」

「エイリアン食べる気ですの!? それ一応皇子のペットなんですが!?」

 

暴れるエイリアンを眺めた後今度は今晩の献立の相談を始める二人に黒子はもはやツッコむのも疲れてしまう。

 

だが美琴の方はそんな彼女を尻目に

 

「ま、とりあえず、コイツ仕留めればいいって訳ね」

 

巨大生物・ペスの前に颯爽と立ち塞がった

 

「こんなのが街中にいったらさすがにヤバいし、バカ校長には悪いけどここで始末……」

「させるかァ!!」

「んごッ!」

 

スカートのポケットから何かを取り出そうとしながらエイリアン相手に不敵な笑みを送る美琴、しかし戦闘態勢に入ろうとしている彼女に、突如長谷川が猛スピードで走って来てその足をスライディングで躓かせて転ばせたのだ。足払いされた美琴はそのまま頭から派手に地面に倒れる。

 

「いだだだだ! 何すんのよ! あのタコ撃ち抜けばいいんでしょ!」

「撃ち抜くとかそんな物騒な事するのダメだ! 無傷で捕えろって皇子に言われてるんだ! 痛がらせずに1滴の血も出さずに!」

「はぁぁぁぁ!? んなの出来るわけないでしょ!」

「それを何とかするためにアンタを呼んだの!」

「んな無茶な! バカでしょアンタ!」

 

いきなりとんでもない要求を出す長谷川に美琴は頭を押さえながら怒鳴り声を上げる。

自分の能力なら上手くやればあのタコを気絶させる事ぐらいなら出来るだろ、だが相手に無痛の状態でそんな事できる保証はない。

 

しかしそんな彼女の前に颯爽と銀髪の教師が

 

「ったくしょうがねぇなぁ」

「アンタ……!」

「ちょっとアンタ何考えてんだ! なんの能力も持ってないただの教師のアンタがどうこうする問題じゃねぇんだぞ!」

「へ、危険だぁ? そいつは俺よりもあそこでタコ踊りしてる化けモンに言いな」

 

白衣をなびかせながら伊達メガネをクイッと上げてエイリアンの前に立つ銀時。

長谷川が慌てて制するがそんな彼の助言も鼻で笑い飛ばし

 

「こちとらただの教師じゃねえって所を教えてやるよ、来いよタコ助、常盤台教師のありがい授業、しかとその身で体験……」

 

余裕な態度で銀時は腰に手を……

 

しかしその手は静かに空を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、そういや今もってなかったんだわ”アレ”……」

「……なにしてんのアンタ?」

「いやちょっと格好つけようと思ったんだけど……ほら俺主人公だし……ぬおわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「本当に何してんのよぉぉぉぉぉ!!!」

 

立ち上がり様呆れた視線を向けてくる美琴に銀時が頬を引きつらせながらぎこちない表情を浮かべた次の瞬間、彼の腰にペスの足の一本が巻きつかれ、そのまま宙高く舞い見事ペスに逆に捕まってしまったのだ。

 

「うおおおお!!! 助けてくれぇぇぇぇ!!」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!! あなたそれでも主人公ですの!? なんで主人公が見せ場無く捕まってるんですか!」

「おいホントなんなんだあの天パ! 何しに来たんだ!? どうしてあそこまで啖呵切ってあんな体たらく見せられるんだ!?」

「い、いやちょっと待って……今は教師の格好してるけど普段の状態だとアイツって結構強くて……」

「おいぃぃぃぃ!! 俺のフォローはいいから早く助けろ! 何を犠牲にしてでもいいからとにかく俺を助けろ!!」

「ああもううっさいわね! 今から助けるから待ってなさいよ! ったく……」

 

捕まった状態で空中でぶらんぶらんされながらもこちらの会話はしっかりと聞いている地獄耳。

呆れつつも美琴はポケットからなんてことない1枚のメダルゲームのコインを取り出す。

そのコインの意図は不明だが彼女にとってはこれが銀時を助ける為の物であるらしい。

 

だが

 

「勝手な真似すんなって言ったでしょ」

「……」

 

美琴の背後から聞こえた舌打ちとその低い声、ガチャっと生々しい音が聞こえた。

しかし彼女は後ろに振り返らない、自分が”何”を向けられているのか既に理解しているからだ。

 

「無傷で捕獲なんざ無理も承知だよ、多少の犠牲が出なきゃあのバカ皇子もわからないんだって」

「……なるほどね」

「……どういう事ですの長谷川さん、今あなたがやってる事はあなたが入国管理局であろうとジャッジメントとして見過ごせないのですが?」

「フ、簡単な事さ」

 

黒子の訝しげな視線を向ける先にいるのは長谷川泰三、右手に持っているのはアンチスキルが使う非殺傷兵器とは違う実弾の込められた拳銃。その銃口が今美琴の後頭部と数センチの距離で向けられている。

 

「アンタあの教師と随分仲好かったらしいが、こうなっちまったら仕方ないだろ。あの男は運が悪かった、それだけさ」

「……アレの処分許可取るためにウチの所の教師を犠牲にする事にしたってわけ?」

「そうしないとこのままアレが街に放たれる。教師一人の命で街が救えるなら安いもんだろ」

「呆れるというか驚きましたわね」

 

銃口を向けられているにも関わらず動じずに無表情の美琴だが、長谷川の方も彼女の冷静な態度に驚きもしない。

そんな彼に、今度は黒子が目を細めて歩み寄ってくる。

 

「まさかあなたがここまで腐っているとは思いませんでしたわ」

「腐ってようが俺は俺のやり方でこの国を護らせてもらう」

 

心の底から吐き捨てるように呟いた黒子に対して長谷川は平然と返して銃を強く握る

 

「これが俺なりの武士道だ、大人のやり方に子供が口を挟むな」

「……黒子」

「ええ、どうやら腐り切った大人には制裁が必要らしいですわね」

 

静かに自分の名を言う美琴に、黒子は彼女が何をするか何をしてほしいのかといった意図を瞬時に理解し、ニコッと彼女の微笑みかけた。

 

「さっさと終わらせて下さいまし、わたくし観たいテレビがありますので」

「ええ」

「ちょ! 何やってんだ第三位! ってふぐッ!」

 

黒子に頷いてみせると美琴が急に動き出す。右手に持っていたコインを取り出す彼女に長谷川が慌てて持っていた銃を構えるが、突如彼の視点は天地逆さまになる。

 

彼が美琴に気を取られている隙に黒子がすかさず近寄って「テレポート」させたのだ。

彼女に体を触れられた瞬間には長谷川は一瞬消えた後、すぐに体が逆さまになった状態で現れて地面に顔面から激突。

呆気に取られて地面にひれ伏す長谷川からひょいと銃を奪うと黒子は妖艶の入った表情で彼を見下ろす。

 

「常盤台のわたくし達をこんな物で脅せると本気で思ってたんですか?」

「も、もしやこれはく、空間移動の能力……」

「ご名答、ご褒美にプレゼントを差し上げますわ」

「へ? ってうわ!」

 

着ていた制服に何かが刺さった感触を覚え長谷川はマヌケな声を上げてしまう。

彼の衣服の至る所に手の平サイズの鉄矢がしっかりと刺し込まれているではないか。

これも黒子の能力、太股に巻いていたベルトに仕込んでいる犯罪者拘束用の鉄矢は、彼女が触れただけでより強力な武器になる。。

 

「変な動きしたらコレを体内に転移させますわよ」

「お、おい! 何をやってるかわかってるのかお前達!」

「さ、お姉様」

「待てぇぇぇぇぇ!!」

 

叫んでいる長谷川を無視して、美琴はギャーギャー叫んでいる銀時を大口を開けて食べようとしているハタ皇子のペット、ペスの方へ顔を上げると

 

「だぁぁぁぁぁぁ! 食われる食われる! 銀さんここで出番終了しちゃうぅぅぅぅ!!」

「……ダメ教師ねホント、今度デパートでなにか買ってもらうからね」

 

突如、彼女の周りから青白い火花がバチンと出た。

 

ピン、っと親指でメダルゲームのコインを真上へ弾き飛ばす。

 

「おい考え直せ! たった一人の教師と一国! どっちが大事か考えろ!!」

「んなもん決まってんでしょ、この国滅ぼうが貴重な話し相手が一人減るより全然マシよ」

「はぁ!?」

 

ヒュンヒュンと高く上に飛んだコインが静かに落ちていく。

 

「他人に何言われようが私は私なりのルールってモンがある、アンタにアンタの武士道がある様に私にもそういうのがあるのよ」

 

回転するコインは再び彼女の親指に乗って

 

「悲しもうが落ち込もうが! 自分の信念だけは曲げず! 背筋伸ばして生きていこうってね!!!」

 

言葉と同時。

オレンジ色に光る槍がエイリアン目掛けて飛んで行った様に長谷川と黒子には見えた。

しかし槍というよりレーザーに近い放たれたその出所が彼女の親指だと分かったのは、単に光の残像がそこから伸びているのが見えたからだ。

一瞬遅れて轟音が聞こえた。その音はまるで”雷”

オレンジの光がエイリアンの口に入った瞬間

 

 

突き抜けた、口へと入ったその光は頭部さえも貫き、そのオレンジの残光は柱の様に空に残像として浮かんでいた。

 

この一撃を受けた皇子のペット、ペスはなんの声も出せずにいる、少女の放った一発のコインによって痛がるヒマも無く絶命してしまったからだ。

 

「え? もう終わった? あのー誰かここから下ろしてくれませんかー?」

「はぁ……しょうがないですわね……」

 

体を硬直したまま死んでしまったので、捕まっていた銀時は以依然宙に浮いたまま、下にいる人達に助けを求めると黒子がしかめっ面を浮かべながらヒュンと消える。

 

「借り一個ですわよ」

 

銀時の頭上からニヤニヤした表情で見下ろす視線があった。

黒子が嬉しそうに彼を捕まえているペスの足の上に立っている。

しかめっ面で銀時は顔を上げる。

 

「……憎ったらしいツラだなオイ」

「あの長谷川とかいう男の体内にテレポートさせてあげましょうか?」

「止めて下さいお願いします、今度なんか奢るんで助けて下さい」

 

恐ろしい事を笑顔で言う黒子に思わず敬語を使ってしまう銀時だが、次の瞬間にはドテッと美琴の隣に落ちてきた。

 

「いててて……もっと優しく飛ばせよあのチビ」

「おかえり、全く世話のかかる教師ね~、ほんとこの美琴様がいないとダメダメなんだから」

「うるせぇな、俺だっていつもの銀さんならあんなタコ倒せたわ」

「助けてくれた恩人にその言葉遣いはないんじゃないのかしら~?」

「あ~やだやだ、お前のそのすぐ調子に乗るクセどうにかしろよ……」

 

砂埃をパッパッと手で払いながら立ち上がると、自慢げに胸を張って見せる美琴に銀時はハァ~と深いため息を突く。

 

「ま、お前にしちゃ上出来だわな」

「相変わらず素直に褒めることも出来ないのねアンタ」

「なんで俺がそんな事しなきゃいけねぇんだよ、めんどくせぇ」

「はぁ!? 命の恩人に対して何よその言い方!?」

「言っておくがな、さっきのビリビリ俺危うく当たりそうだったんだからな。命の恩人どころか命奪われる所だったんだよこっちは」

 

助かって早々美琴とやかましい口喧嘩を始めている銀時。

すると黒子が彼の隣にパッと現れた。

 

「レベル5・『超電磁砲』≪レールガン≫。『常盤台の電撃姫』は伊達ではありませんわね。この白井黒子、一層惚れ直しましたの」

「あっそうどういたしまして、別に惚れ直さなくていいから……」

「全く……お姉様~、そんなマヌケ天パの相手なんかしてないで仕事をしたこの黒子に熱い抱擁と接吻を~」

「だ~抱きつくなアンタは!」

 

銀時と口喧嘩している美琴に黒子が甘い声を上げながら抱きつこうとするもすぐに頭を押さえられ拒否されてしまう。それでもしぶとく美琴の唇を奪おうと顔を前に突き出す黒子を銀時が無言でバシッと叩く。

 

そんな光景に長谷川はどうしたもんかとただ固まるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!! ペスがぁ! 余のペスが真っ白な灰になっておるではないかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

4人の少し遠くに立って一部始終を見ていたハタ皇子が絶叫を上げていた。ご自慢の愛するペットが死んでしまい悲しみに暮れる彼をよそに、黒子に拘束されていた状態を部下に助けてもらった長谷川は口にタバコを咥えて天へと顔を上げていた。

 

「あ~あ、滅茶苦茶やってくれちゃって」

「長谷川! 無傷で捕えろと申した筈じゃぞ! どう責任を取るんじゃ、国際問題じゃぞこれは!」

 

皇子の言葉などに耳を貸さず長谷川はプカプカとタバコの煙を吐きながら考えていた。

 

……背筋伸ばして生きる?

いかにもガキらしい目標だな

……そういやお袋も言ってたな

 

背中曲がってるぞ、しゃんと立てって

 

……母ちゃん……俺、今まっすぐ立てているか……?

 

「今回の件は父上に報告させてもらうぞ長谷川! それにあの憎き短髪娘! よくも余の可愛いペットを殺しおって! 退学どころじゃ済まんぞ!」

「……っせぇよ」

「え?」

 

やっと反応した長谷川にキョトンとした顔を浮かべるハタ皇子。そんな彼に長谷川は何も考えず無心で動く。

 

「うるせぇって言ってんだよこのムツゴロー星人ッ!!」 

「ごぶッ!!!」

 

今まで溜まっていた鬱憤を晴らすかのごとく勢いのあるアッパーを皇子のアゴに一発。

バサッと地面に倒れてノックアウトしてしまう皇子に一瞥した後長谷川はまたタバコを吸い始める。

 

「あ~あ、いいのかね、そんな事しちゃって~」

「フ、知るかよ」

 

意味ありげな笑みを浮かべて歩み寄ってくる銀時に長谷川はニヤリと笑い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは”侍の国”だ、好き勝手させるかってんだ」

 

 

 


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