大覇星祭は残念ながら初手から大幅なハンデを背負いながらも常盤台は準優勝となった。
優勝を逃し賭けに負けた坂田銀時は数か月ひもじい思いをしながら生活を送る事となり、隣人や自分の教え子にまでたかる始末。
そこから時が流れて今度は学園都市全土で行う文化祭イベント『一端覧祭』
今年は銀髪の天然パーマが常盤台の金髪美少女にあの手のこの手と様々な酷いシチューエションを行って見物に来た客を爆笑の渦へ飲み込んだという伝説が残った。
そして冬。
クリスマスや大晦日などせっかく友人が作れるいい機会であるのにも関わらず御坂美琴は
結局いつも通りに銀時を誘って遊び歩くだけだった。
夜になっても遊び呆けてしまい門限を忘れ、結果寮監にこっぴどいお仕置きを食らう羽目になる。
バレンタインデー
友チョコ的な感じで美琴からチョコを貰う銀時。ただしチロルチョコ1個。
自宅のドアノブには何の変哲もない紙袋がぶら下がっており、中を見ると『具体的な表現は出来ないが強いて言うならヘドロみたいな物質』が入っていた。とりあえず毒見として第五位に食わせる。結果3日寝込む
冬を超え、春がやってきた。
常盤台には今年度も夢と希望と一部の者は野心を胸に新一年生がやってくる。
御坂美琴もまた後輩が出来る二年生となり銀時は彼女の担任でなくまた新一年を任される事になったので少しばかり疎遠になった
だが
昼頃の平日
銀時は何故か学園都市にあるとある病院で退屈そうにベッドに座っていた。
「ねぇ、このメシ味気ないんだけど? 調味料みたいなのないの? パフェとかロールケーキとか」
「地球ではそれを調味料と呼ばないね」
入院用の服に着替え、栄養バランスに特化しただけで味の保証はしていない病院食に文句を垂れる銀時に答えるのは、少ない髪も真っ白にそまっている中年のカエル顔の医者。
「ていうか君の回復力は毎回驚かされるよ、昨日の怪我を今日であらかた完治するって。君、食べ物にボンドでも混ぜてるのかい?」
「アンタ等医者がいちいち大げさにしてるだけじゃねぇか、元々こんな傷どうってことねぇよ」
頭や腕に包帯を巻いた状態で、銀時はしかめっ面を浮かべながら隣にいる医者に横目をやる。
「長く入院させて貧乏人からより良く金を巻き上げようとしてる魂胆が丸見えなんだよ、悪どいねぇ医者ってのは、テメーの黒い腹を先に掻っ捌いた方がいいんじゃねぇか?」
「巻き上げられたくなかったら毎回ウチに来るの止めたらどうだい。他にも病院はあるんだよ」
「いやだってここの病院のナースはみんなレベル高いし。可愛いナースに看護されるのは男にとってはユートピアだよユートピア」
「それは全面的に同意するね」
治療よりも病院に勤務している看護師目当てというおっさん丸出しな下心を持っていた銀時にカエル顔の医者はその発言に大きく頷いた。
「僕だってナースがいるから医者やってるみたいなものだから」
「ねぇ、医者ってナースにエロビデオみたいな事できんの? 俺のココを介護してくれたまえとか君の体をくまなく診察してあげよう的な?」
「そりゃ夢見過ぎだよ、現実は僕ら医者は金持ちで高慢な連中が多いってイメージが強いのか。ナースのみんなには警戒されてプライベートの付き合いは一切ない」
「んだよ、せっかく教師辞めたら医者になろうかなと思ってたのに」
「金も頭も無いおっさんがお手軽に転職できる仕事じゃないと思うけど、人生ゲームじゃあるまいし」
現実を知らされて残念そうに舌打ちする銀時に正論を述べた後、カエル顔の医者はくるりと彼に背を向けて病室から出て行こうとする。
「じゃあ僕は行くから、これ以上サボってたらまたナースさんに怒られる。あと数日経てば退院だろうから安静にね」
「あいよ、体に異変感じたらナースコールやっていい?」
「残念ながら君は入院してからナースコールのボタンを頻繁に押しまくっているからナースの間で既にブラックリスト入りだ。来るのはナースじゃなくて僕だ」
「チェンジとか指名みたいなシステムないのここ?」
「昔、会議でやろうって訴えたけど全面的に却下されたよ」
無念そうにため息を突いて「上の連中は頭が固すぎる」だの呟きながらカエル顔の医者は出て行った。
銀時は話し相手がいなくなったのでヒマになり、目の前にある食卓を残したまま仰向けにベッドに倒れる。
「飯もマズイしやる事もねぇ、あ~ダメだ、ジャンプ読みたい。病院の購買店に置いてねぇかな」
独り言をしながら銀時がぼんやりと病室の天井を眺めていると
「ちょり~す」
病室のドアを開けて陽気な挨拶をしながら誰かがやってきた。
銀時が横になったままそちらに顔だけ向けると
「なんだオメェか」
「なにアンタ寝てたの? てか何その反応? 可憐な乙女が見舞いにやって来たんだからもうちょっと喜びなさいよ」
「見飽きたツラを何度見せられても嬉しくもなんともねぇよ」
中学二年生になっても相変わらず年上へ敬意を払わない態度。
御坂美琴が見舞いにやってきても銀時の表情は晴れぬままだった。
「お前もう2年だろ? こんな長い間教師の俺とべったりいると変な噂出るぞ」
「そんなモン言わせとけばいいでしょ、ほら差し入れ」
ここまで来る途中でコンビニに寄ったのか、菓子やらジャンプやらが入ったビニール袋を手にぶら下げている。美琴は銀時のいるベッドに歩み寄るとそれをドサッと彼の脇に落とす。
「どうせ入院中安静にしてろとか言われて外出もできなかったんでしょ。私の奢りよ」
「おいマジかよオイ、お前こんな気が利く奴だったっけ? またなんかやらかしたか、正直に吐け、殴るだけだから」
「人の事をトラブルメーカー扱いしないで頂戴。伊達に長く付き合ってないわよ、アンタの単純な思考なら尚更読みやすいわ」
彼女が持って来た差し入れを見るやすぐに半身を起こしてすぐに手に取って、テーブルに置かれたマズイ病院食を片付けるとそこに菓子とジャンプを置き始める。甘い物とジャンプ、これさえあれば銀時はどんな所でも生活を送る事が出来るのだ。
「減らず口は変わらねぇがこういう事も出来るようになったんだなお前、銀さん嬉しいよホント」
「はいはい好きなだけ喜んでちょうだい、ところでアンタなんで入院してんの?」
ポッキーの袋を開けながら冗談抜かす銀時に美琴がジト目で返した後、ここに入院した経緯を問いただす。
「お登勢さんに聞いたんだけどなんかに巻き込まれたって聞いたんだけど」
「あ~かぶき町でちょっとな、酔っぱらいの喧嘩に巻き込まれてそん時ちょこっと怪我した」
包帯を巻かれた頭を指さしながら銀時はケロッとした顔で答えた。
「軽傷だが医者が一応じっくり検査した方がいいって言われてこうして数日入院させられてるって訳だ」
「……アンタが酔っぱらい程度にやられるってのがおかしいわね」
「そうか?」
「……私になんか隠してない?」
「俺はお前等と違って能力も持たない一般ピーポーだぞ。油断してりゃあ酔っぱらいでも鼻たらしたガキにでもやられる時はやられらぁ」
妙に勘ぐって疑いの視線をジーッと向けてくる美琴に対し銀時はポッキーを口に咥えたままフンと鼻を鳴らす。
「それよりアイツどうした、お前の”お友達”は一緒じゃねぇのか?」
「なんか話しはぐらかされたような……あの子ならここ来る途中で撒いて来たわよ」
問いかけに美琴はムスッとした顔で彼から目を逸らす。
「アンタの見舞いに行くって言うとギャーギャー吠えてしつこいんだもの」
「おいおいせっかく手に入れたお友達だろ? そんな邪険に扱っていいモンなのかよ」
「別にあの子なら平気よ、だって……」
手を横に振って問題ないと美琴が言い切ろうとしたその時……
「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「どわぁぁ!! いきなり出てくんじゃないわよ”黒子”!!」
突如彼女の頭上からシュンと風を切る様な音と共に
美琴と同じ常盤台の制服を着た小さなツインテールの少女が一瞬で現れて彼女目掛けて落ちてきたのだ。
落ちながら少女は歓喜の表情のまま彼女の首に両手を回して抱きつく。
「お姉様が行く場所などこの白井黒子!! 例え銀河の彼方であろうとお見通しですの!」
「離れろぉぉぉぉぉ!!」
「ささ、お姉様。病院内ですから出来るだけ声を低くして営みを行いましょう、丁度そこにいい感じのベッドが」
「病院とか関係なくそんなのやりたかないわよ気持ち悪い!! ていうかこのベッドもう使われてるし、アンタの担任の先生がいるでしょ」
黒子と名乗る少女に美琴はうんざりした表情を隠さずに向けながら顎でベッドに座っている銀時の方をしゃくる。
黒子は彼の方へ振り向くと今まで存在に気づいていなかったかのように
「あらあらいらしゃったんですか先生。病院で何をしてらっしゃいますの? 生徒達のプライベートの時間に首を突っ込まないで下さいまし」
「目の前どころか自分が寝てるベッドで不純”同性”行為しようとしてる奴が出てきたら嫌でも突っ込むしかねぇだろうが」
「よもやと思いましたが、やはりわたくしとお姉様の中に割って出て来て邪魔するつもりですわね。毎度毎度邪魔をして憎たらしい」
「いや毎度勝手に割って出て来るのはお前の方だから」
彼女の目つきはとても担任の先生に向けるものではなかった。どちからというと汚物でも見るような目に近い。
昔の美琴以上に反抗的な姿勢を崩さない黒子には銀時も苦々しく舌打ちして美琴に目配せする。
「なんでこんな可愛げのないガキなんかに懐かれてんだよテメェは」
「知らないわよ、入学してから早々私の所に傍に寄って来て全然離れないのよ、遂には私のルームメイトにまでなったし」
「友達じゃなくてストーカーじゃねぇか」
「失敬なわたくしはお姉様のストーカーでもありませんの!」
美琴の話を聞いて呟く銀時にすかさず黒子が反応してベッドの上に片足を置いて身を乗り上げてきた
「わたくしはお姉様とは前世の頃から将来を誓い合い輪廻の鎖で永遠に繋がれたラバーズ! ぶふぉ!」
照れる様子も見せずに堂々と恥ずかしい事を言ってのける黒子の後頭部へ美琴が呆れ顔でグーで一発拳を入れた。
黒子は痛みに悶絶しながら銀時の座るベッドに頭からドサッと倒れる。
「さ、さすがですわお姉様……本当にわたくしの扱いを心得てらっしゃるのですね……できれグーではなくて平手打ちぐらいに留めて欲しい所ですが……」
「電撃飛ばさなかっただけありがたいと思いなさい、ここが病院だったことに感謝しなさいよね」
「病院でなければ電撃を放ってらしたと……それはそれでわたくしにはご褒美になりますわね、グヘヘへ……!」
「おい! 俺のベッドに涎垂らしてんじゃねぇよこの変態! いい歳してションベン漏らしたって誤解されんだろうが!!」
蔑む視線で見下ろされながらも黒子は銀時のいるベッドの上で悶絶しながら悦のこもった声を漏らし始めるのでさすがに銀時も怪我人ながら声を大きくする。
「もういいから帰れテメェ等!! 病室でSMプレイなんざやられたらこっちが変な目で見られるんだよ!!」
「何よそれ、それがわざわざ見舞いに来た私へのお言葉って訳? ジャンプとかお菓子持ってきたのに」
「お姉様がわざわざ見舞いに来てやったのにこの態度、やはりあなたは噂以上の人でなしという事ですか」
「お前はさっさと人のベッドから離れろ!」
率直に出て行けと通告してくる銀時に美琴が腕を組んだままブーブーと文句を垂れると彼のベッドでまだ寝そべっている黒子も見上げながらジト目を向けてきた。
しばらくそうしていると美琴はプイっと銀時から顔を逸らして病室のドアへと向かう。
「ったく自分だって少しは人に感謝する考え持ち合わせた方がいいんじゃないの。もう行くわよ私、午後の授業もあるし」
「おう帰れ帰れ、とっとと行っちまえ。平日に来たかと思えばやっぱサボりか、そこまでして見舞いに来てもらっても教師としては困るんだよこっちは」
「ああはいはいそうですか、ならわざわざ見舞いに来て差し入れまでしてあげた可愛い教え子は退散させてもらいますよーだ」
精一杯の皮肉を毒づいてやった後、美琴はしかめっ面で病室からさっさと行ってしまった。
去っていく彼女を澄ました顔で見送ると銀時はボリボリと頭を掻き
「で……なんでお前は帰らないんだよ」
「……」
未だ自分のベッドにうつ伏せで倒れたままでいる黒子に言葉を投げかけた。
美琴の付き添いで来ただけなのだから彼女がここに残る理由はない筈、そう思っていた彼に黒子はゆっくりと顔を上げる。
「嫌々ですが、少しあなたと二人だけで話す事がありますので」
「ああ? なんだよ急に改まって、これ以上わたくしのお姉様に付き合うなーとかか?」
「それは常日頃あなたに言っているではありませんか、わたくしが話したいのはそれとは別ですの」
胡坐を掻いて膝に頬杖を突く体制の銀時に、黒子は真顔になって彼のベッドの上でちょこんと正座になって向き合った。
「昨日、ジャッジメントの支部にこのような報告がありました。「高能力者をターゲットにして狙っている有名な攘夷浪士のグループが壊滅した」と」
「あ~そういやお前あのチビッ子警察団で働いてるんだっけな。で? それがなに?」
「その倒れた攘夷浪士を回収したのはアンチスキルの方でしたが、わたくしは先輩と一緒に、その場の状況を偶然目にしてた方から状況の説明を聞き出す仕事がありましたの、そこで少し気になる事を教えてもらいまして」
小首を傾げて眉をひそめてくる銀時に黒子は睨むように目を細める。
「「木刀を一本携えた銀髪の侍が、数十人の攘夷浪士に囲まれながらも縦横無尽に暴れ回っていた」と」
「へぇ~」
「鬼のような迫力と竜巻の様な勢いで、連中をバッタバッタとなぎ倒していたらしいですわ」
「……それ誰に聞いた?」
「わたくしの後輩と同じ柵川中学の方ですの、一年生で髪は黒くて長い……まあ典型的な一般人でしたの。帰路の途中で近道として使っていた裏路地で偶然目撃したと」
「なんであんな人気の無い場所に来やがんだよ、あの辺はただでさえ変な野郎でうようよしててウチのガキ共(高位能力者ばかりの常盤台の生徒)でも近寄らねぇってのに……」
その話を聞いてさっきまでとぼけていた銀時がガクッと首を垂れてどっと深いため息を突た。
「そのガキに気づいてたら、口封じの為にメシでも奢ってやったのによ……」
「やはりあなたが最近噂になっている高能力者を狙う攘夷浪士やスキルアウトの組織壊滅させている”銀髪の侍”でしたのね」
あっけなく認めてくれた銀時に黒子はやはりなと予想が的中して満足げに頷く。
「さしずめその怪我は昨日の件での負傷。アンチスキルやあの忌々しい真撰組が血眼にして追っていた組織を、一夜で壊滅させてそれだけの傷とは大した腕をお持ちになられてるようで」
美琴の読み通り、やはりただの酔っぱらいに絡まれた時の怪我などではなかったのだ。
黒子にお見通しだと言わんばかりに入院した本当の原因を突き付けられて、銀時はしばしの沈黙の後に彼女の顔を見ながら
「チビ助、こっちもお前に聞きたい事あんだけどいいか」
「わたくしが答えれる範囲ならどうぞ、それとチビ助ではなくわたくしには白井黒子という名があるのですが」
「俺は人の事は名前で呼ばない主義なんだよ、数年前からな」
変なあだ名で呼ばれてカチンと来ている黒子に珍しく真面目な顔を向ける。
「俺がその攘夷浪士をシメた張本人だってのは、現場を見たそのガキとお前以外誰も知らねぇのか?」
「ええ、その状況を聞いた翌日にあなたが入院したとお姉様が言っていたので、それでピンと来たのであなたの所へジャッジメントとしてではなく”個人的な思惑”があったので来ただけの事ですの。わたくし以外は誰もあなたの存在など知りませんわ」
「あのガキにも言ってねぇのか?」
「それはお姉様の事ですの? 言うわけありませんわ。誰があなたの話なんかをわざわざお姉様に持ちかけるものですか」
「そうかい」
ムスッとした顔で首を横に振った黒子に銀時は安心したかのようにフゥーっと息を漏らす。
「無理も承知で頼みてぇんだが、俺が昨日や前々からやってる事は、しばらく見なかった事にしてくれねぇか? オメーの組織や他の連中にも……あのガキにもな」
「……それはつまり、この先もああいった連中を自分一人で仕留めていくのを見逃せと?」
「まあそんな感じだ」
「では今度はこちらから聞かせてください」
始めて頼み事をしてきた彼に、黒子はすぐには返事せずに急に質問し出した。
「あなたはなぜこの様な自分にとって得にもならない事を行っておりますの?」
「……暇つぶし」
「真面目に答えて下さいまし。悪の組織壊滅させるのが暇つぶしとか戦隊物のヒーローさん達に喧嘩売ってますわよ」
明らかにすっとぼけて答える銀時に黒子の表情が険しくなる。
彼女はある程度彼の思惑は既に察しているのだ。
「壊滅させた組織はどこも高い能力者を狙っていた連中ばかり。しかも学園都市に7人しかいないレベル5までも襲おうと企んでいたグループ」
「……」
「レベル5の第三位であられるお姉様がターゲットに入っていても不思議ではありませんわ」
美琴の事を言うと銀時がピクリと反応して無言で顔を逸らした。
わかりやすいその態度に黒子は呆れた様子でヘッと嘲笑を浮かべる。
「ナイト気取りですの? お姉様を護る為にコソコソと隠れながら露払いをしていたという訳ですか? 白馬の王子様とは程遠い銀髪天然パーマの不良教師が? 言っておきますがお姉様は常盤台どころか学園都市でも三本の指に入るお方、あなた風情がそんな方をお護りする必要ないと思うのですが」
「勘ぐり過ぎなんだよテメェは、俺はただ向こうから因縁つけてきた連中を片っ端から潰してやっただけの事だ」
「あくまでシラを切るおつもりですのね……」
小馬鹿にしたような表情を向けてくる黒子に銀時はフンと鼻を鳴らして彼女の読みを否定すると、黒子はニヤニヤしながら
「やはりこの件を見逃す事は出来ませんわね」
「え? ちょっと待ておい、担任の教師がこんなにも頼んでるんだぞ、今週のジャンプ貸してやるからマジで」
「結構ですの、わたくしそういう子供が好む雑誌はもう読まない年なので」
傍に置かれていたジャンプを取り出して慌てて口封じさせようとする銀時に黒子はキッパリと断ってやった。そして
「どう頼まれようとこの件を見逃す事などありえませんわ、何故ならわたくもあなたの行いに加えさせてもらいますので」
「……は?」
「お姉様の露払いは本来、運命の赤い糸で結ばれているこの白井黒子の役目。あなたみたいな毛むくじゃらな糸でお姉様に一方的に引っ付いてる様な男だけにそんな役目やらせる訳にはいきませんの」
「ああ!? まさかお前俺と手を組むって言いてぇのかぁ!?」
対抗意識むき出しでそう宣言する黒子に銀時は思わず素っ頓狂な声を上げて驚いてしまう。
「ふざけんな! テメェの担任は俺なんだぞ! 教師が担任してるクラスのガキ一人と一緒に仲良くお手て繋いでバカな事考えてる連中を潰していくなんて真似出来るかぁ!!」
「ならばやはりこの件はスキルアウトやジャッジメント、お姉様にキチンとご報告を……」
当然の様に拒否しようとする銀時だが黒子が暗にバラすぞっと言葉を漏らした瞬間に
銀時は力強くガシッと彼女の両肩を掴んだ。
「そうだよお前と組めば最強じゃん、どうして銀さん気付かなかったんだろ。M-1優勝も目じゃねぇよ、コンビ名はパーマとツインテでいこう」
「M-1出場とそのセンスの欠片も無いコンビ名は保留にして下さいませ」
そんな事してる一方で御坂美琴は一人ズンズンと明らかに不機嫌な足取りで病院の廊下を歩いていた。周りの視線など知ったこっちゃない様子で怒りで肩を揺らしながら
「ったくアイツってばよくあんなひどい態度取れるもんだわ、せっかく来てやったっていうのに……」
「お姉様~」
文句を垂れながら廊下を歩いてる彼女の隣にシュンと陽気な声を上げて黒子がパッと現れる。
「ただいま戻りましたの、お姉様を軽んじてたあの銀髪馬鹿に軽く説教してやりましたわ」
「ん? ああそういえばアンタついて来てたんだっけ、忘れてたわ」
「ああん! 早速キツイ言葉でお責めになってくれて感謝の極みですの!」
「……」
隣で馬鹿みたいに腰をクネクネさせながら悦に浸る彼女を可哀想な目でジーッと見た後、美琴はポリポリと頬を掻く。
「……アンタってなんでそんなに私に対してそんな態度なの? 自分で言うのもなんだけど、私って学校じゃかなり浮いた存在なのよ? 教師のアイツとばっか一緒にいるし、進級しても未だにクラスメイトとかと馴染めないし……そんな奴にアンタなんでそんな変態になれる訳?」
「あら、そんな事を気にしてらっしゃいますの? わたくしはそのような小さな事気にしませんわ」
「小さな事って……」
「ならば教えて差し上げましょう、わたくしがどうしてお姉様に恋焦がれてしまったのかを」
自分にとっては小さい事ではないのだが……と訴えてる視線を向けてきた美琴をスルーして
「今でもしっかりと覚えておりますわ、わたくしがお姉様を始めて間近で見たのは去年に行われた大覇星祭。凛々しい顔立ちでチームの為に奮闘するお姉様のお姿をこの目に焼き付けましたの」
彼女との出逢いの経緯を語りながら黒子はグッと拳を握ってガッツポーズを取る。
「次の瞬間にはわたくしの心臓は鼓動を速めて痛みが走り、体も感じた事が無いほど熱くなりました!! その時わたくしは確信しましたわ!!」
「熱があるんじゃないかって?」
「この感情こそまさしく『愛』だと! 愛! わたくしはあの美しく舞う様に戦う御坂美琴に激しく愛を感じているとわかったんですの! そしてこの愛は誰にも止められぬ定めだとも悟りましたわ!!」
「うん、熱より重症ね。その時病院行けば手遅れにならずに済んだかもしれないわ」
病院内でも一人ではしゃぎ騒ぐ黒子を美琴は知り合いだと思われたくない顔で目を逸らす。
「そもそも私去年の大覇星祭じゃあんまり活躍してないんだけど……最初に思いっきりやらかしてその後はアイツの言う通りにしてなんとかみんなに迷惑かけないようにすることに必死だっただけだし……」
「はて? わたくしの記憶だとお姉様は素晴らしい活躍を見せていた筈なのですが? 特に常盤台の最初の種目で行った”綱引き”が」
「は?」
「も~お姉様ったら、謙遜するのも立派ですが誇るのもまた常盤台のエースの務めでもありますのに~」
「……」
何か彼女の言動に引っかかる。
自分が思いっきりヘマをした競技が一番素晴らしかっただと?
黒子は自分が謙遜してる様に見えたみたいだが、美琴自身が思い出したくもないような醜態を晒してしまった綱引き。
彼女の記憶と自分の記憶に”ズレ”が生じているのを感じて
美琴はとんでもなく嫌な予感が頭を余切った……
(あの女まさか……)
「どうしたんですのお姉様? 急に思い詰めたような表情をして」
「え? ああいや……なんでもないわよ……うん……」
キョトンとした様子で尋ねてきた黒子に美琴は嫌な予感を振り切って顔を上げた。
すぐに問題ないと取り繕った顔を浮かべて手を横に振るが彼女は心配そうな面持ちで
「悩み事なら是非この白井黒子に聞かせて下さいませ、あんなろくでなし教師よりもお役に立てれる筈ですので」
「……ありがとう黒子」
「いえいえ、お姉様の”露払い役”として当然ですの」
「そう……」
ニコッと笑いかけてくれる彼女の笑顔は、今の美琴にとっては一層不安に駆られる要因だった。黒子に何を言われても美琴の気は晴れない。
(そうよ……「女の勘は鋭いと聞くけどお前の勘だけは全くアテにならない」ってアイツからもよく言われてるし……いつも通りのアホな勘違いよきっと……あの女の事が嫌いだからって被害妄想とかどんだけよ私……)
「あら? アレは確かお姉様と同じ年に常盤台に入ったレベル5の……」
「……え?」
必死に頭の中で自信をなだめていた美琴の隣で不意に黒子が目の前を指さした。
それに反応して美琴はゆっくりとかを上げて前を見ると……
長い金髪を優雅に流し、レースの入ったハイソックスと手袋が一際目立つスタイル
肩にかかるバッグを背負った常盤台の制服を着た少女が真っ直ぐこちらに向かって歩いて来た。
「”女王”、とか呼ばれて強大な派閥をお作りになられてるレベル5の第五位の方ですわよね、こんな所に何の用事なのでしょうか?」
「!!」
現れた少女に「?」を頭の上に付けて首を傾げる黒子をよそに、美琴はその場に根を張ったかのように動けなくなってしまう。
まさかただでさえ嫌な予感を覚えていたのにそのタイミングで”彼女”と出くわすハメになるとは……
「ア、アンタ……! ここに一体何しに……!」
近づいてくる彼女に美琴は震えながらも睨み付けながら問いただそうとするが
彼女の問いかけも聞こえなかったかのように無視して、少女は黙ったままスッと美琴達の横を通り過ぎて行った。
「な……!」
これには美琴も呆然としてその場で言葉を失ってしまうが我に返るとすぐに後ろに振り返って
「待ちなさいよ第五位!!」
廊下に響き渡る様な大きな声を出しても
彼女は、銀時が美琴よりもずっと前から観察者として担当しているレベル5の第五位は
こちらに振り返ろうとする気配さえ見せずに真っ直ぐに見据えたまま行ってしまった。
「……」
「……行ってしまわれましたわね」
「……なんだって言うのよ、いつもは自分から話しかけて来るクセに」
「何やら機嫌が悪そうに見えましたが……」
「機嫌が悪くなって黙るってんなら一生機嫌悪くしていてほしいわ」
去って行った彼女の背中を眺めながら黒子がポツリと呟くと美琴は腹立たしそうに床を強く踏む。
「……あの女、アイツの所に見舞いに行ったんでしょうね」
「あの天然パーマは第三位であられるお姉様だけでなく第五位の女王とも親しい間柄でしたの? タイプが違いすぎるのであまり想像できませんが……」
「アイツは元々第五位と仲良かったのよ、付き合いの長さは私以上よ……第三位の私の世話してるのはあくまで理事長から頼まれただけとか言ってたし……」
「そうだったんですか……あの男やはり謎が多いですわね……今後の為に調べておきませんと……」
呻くように言葉を漏らす美琴の後ろで黒子がふむとアゴに手を当てて何やら思惑を秘めている中
美琴は自分の髪の毛を乱暴に掴んだまま、去っていく第五位を睨み付ける。
(いつもは私に会うと散々嫌味ぶつけてくるクセに……まるで前しか向いてないって感じだったわね)
「しかしいくらなんでも無礼な態度ですわね、レベル5といえど名門常盤台の者でありながら同級生、ましてや同じ超能力者であられるお姉様の声にも振り返らずにそのまま通り過ぎるなど品格を疑いますわ」
「ふん、いつもの事よ……」
隣で一緒に怒ってくれている黒子に美琴は考え事を止めて憎たらしげに鼻を鳴らす。
(一人でアイツの見舞いに来るなんて、あの女、なんか企んでないでしょうね……)
「また考え事ですかお姉様?」
「別に、いつかあの女シメてやろうと思ってただけよ。それより」
こちらの顔を窺えって来た黒子の方へ美琴は神妙な面持ちで振り返る。
「アンタ、今以外にもあの女と顔合わせて会った事ってある?」
「わたくしが? いえ、”初めて”お会いましたわ」
「……まあこんなこと聞いてもあの女の能力なら自分と会った記憶でも余裕で消せるわよね……」
「しかしアレでお姉様と同じ学年だというのは疑わしいですの、お姉様のお体に比べてあの方のお体は……」
黒子は美琴の全体を下から上にゆっくりと眺めた後、先程の第五位の少女のスタイルを思い出す。
「とんでもなく”ヤバかった”ですわね。序列はお姉様の方が上ですがあっちの意味だと格段に上ですの」
「おい、何を思ってそう評価してんのよ……」
「ご心配なくお姉様! わたくしはお姉様のその”控え目な体つき”も大好きですの! だから是非その貧相で奥ゆかしい潤いボディを抱かせて……げふぅ!!」
「誰が控えめだゴラァ!! 私は年相応なだけだっつーの!! あんなの無駄に乳がデカいだけじゃないの!」
満面の笑みで両手を上げて突撃してきた黒子の顔面にすかさずチョップをめり込ませる美琴。
別に自分のスタイルに不満は持っていないがこうして比べられるとやはり腹が立つ。
「もうあんな女なんかどうでもいいわよ! ホラさっさと行くわよ黒子!!」
「はいですの……」
顔面を押さえながら痛みを堪えている黒子を連れて美琴はキビキビとした足取りで歩き出す。
「その辺でお昼済ませてから学校に戻りましょ」
「は! それは学校に戻ると学年の違うわたくしと離れ離れになるから! 二人っきりで甘く濃密な時間を少しでも味わいたいという事ですの! いいですわ! 黒子はいつもウェルカムです!」
「昼食は学校の購買所で買う事にするわ」
「もう、照れ屋さんなんですからお姉様は……でもそこがウブで可愛らしいですの」
後ろから黒子がまた何かわけのわからない事を連呼しているが美琴は無視。
いちいち相手にしてたらキリがない。まだまだ短い付き合いだが、黒子の扱いには大分手馴れてきた。
(変態だけど良い所もあるしこの子は私にとっては……)
小難しい顔をしながら美琴は歩みを進める
(これからも友達のままでいたいわね……)
願う様に心の中で呟きながら
美琴は友人の黒子を連れて常盤台へと帰るのであった。
彼女が常盤台のハタ校長ことハタ皇子の巨大エイリアンを倒す数か月前の時である。
あとがき
以上が銀さんと美琴の過去編です。
次章はいよいよ最終章であり真禁魂にはないオリジナルルートです。
銀さんの過去を知る男の登場によって、物語は大きな展開を迎える事となるでしょう。
P・S
ツンツン頭のもう一人の主人公……何故だ、何かを思い出しそうだ……