禁魂。   作:カイバーマン。

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第三十六訓 侍と少女の初めての会合

これは過去のお話

 

 

 

 

 

”一つの出来事”を気に、学園都市にあるかぶき町で毎日のように行く当ても無くフラフラと歩くようになった男。坂田銀時

ある日、そんな彼を拾った上に世話までしてやっているお登勢は、ちょっとした仕事を与えることにした。

内容をその場で教える気が無かったので、正直胡散臭くて乗り気がしなかったのであるが。

 

とりあえず銀時はいつもの空色の着物と腰に木刀を差した状態で、お登勢が指定した待ち合わせ場所に約束の時間に数分遅れてやって来た。

 

外はすっかり夏模様。日差しがきつく、立ってるだけで汗が流れる程の猛暑だ。

 

「ここにいりゃあ、誰かが来る。詳しい話はそいつに聞けとかあのババァが言ってたが……」

 

お登勢から渡された案内図を頼りにここまで歩いて来た銀時。

学園都市第七地区のエリアにある人気の多い大きな広場の公園だった。

周りは自分よりもずっと年下の学生達で賑わっていて、その中で一人浮いてしまっている事に銀時自身は気づいていない。

 

「それらしい奴が見当たらねぇじゃねぇか、ったく……」

 

緑の人工芝が生え揃っている広場の中を適当に歩きながらブツブツと唱え始める銀時。

もう頼み事など放っておいて帰ってしまおうかと思い始めていたその時、

 

突如背後から迫る不穏な気配に

 

「!」

 

いち早く感知して銀時はすぐに振り返った。

 

それと同時に飛んできたのは青光りしたまるで稲妻のような物体。

 

「チッ!」

 

自分目掛けて襲い掛かってきているのを理解して、銀時はすかさず横にのけ反ってそれをギリギリの所で回避する。

飛んできた稲妻は彼をすり抜け人工芝の地面に直撃。その辺り一面で爆音と共に大量の土煙が舞う。

 

「どこのどいつだか知らねぇが」

 

直撃すれば即刻病院送りなのは確かな威力。パラパラと舞う土煙の中で、銀時は前を見据えたまま腰に差す木刀を抜いた。

 

「こちとら最近糖分摂取を怠っててイライラが収まんねぇんだ、相手がなんだろうが容赦しねぇぞ」

 

木刀を肩に掛けたまま銀時は死んだ魚のような目から獲物を狙う狩人の目に。

鋭い眼光で前を睨み付けていると、この広場の中心部だという目印になる巨大な木の上からけだるそうな声が

 

「ふーん、背後から飛んできた”私の電撃”を感知してすぐに避けて、その上に反撃に乗じようとする動作に移れるぐらいは出来るみたいね」

 

声の主はまだあどけない様子の少女の様だった。

挑発的とも言えるその声の持ち主に銀時が顔をしかめていると、木の上からその少女がドサッと両足で着地して降りてきた。

 

「アンタの事は話に聞いたわ。ったく若い女の子を任せる為に男を寄越すとかなに考えてんのよあの人……」

「おいガキ、なに偉そうな事抜かして話進めてんだコノヤロー、こりゃ一体どういうつもり……!」

 

愚痴を漏らしつつ立ち上がって、こちらに初めて顔を見せてきた少女に銀時はカッと目を見開いてその場に根を張ったかのように動けなくなってしまう。

まるで”死んだ人間と会ってしまった”かのように

 

「まあいいわ、別にアンタなんかと慣れ合うつもりはないんだし。適当に話だけしてさっさと済ませるわよ」

 

そんな銀時の反応も気にせずに、夏らしく半袖短パン、短髪の少女が彼と対峙しながらしかめっ面で腕を組む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レベル5の御坂美琴。と言ってもまだレベル5とは認定されてないんだけどね。よろしく、私のお世話係さん」

「お前が……!!」

 

これが二人の初めての顔合わせ。

御坂美琴と名乗る少女にとっては木刀持った銀髪天然パーマの男など胡散臭くてしょうがなかったであろう。

だが銀時にとっては、

全てを投げ捨てて消えてしまおうかと思っていた自分の心の中に、微かに小さな光が灯された瞬間だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

数分後、坂田銀時は広場で出会った御坂美琴に半ば強引にとあるファミレスに連れてこられた。

 

2人用の席に座って向かい合わせになり、美琴はつまらなそうに銀時に色々と教えてあげていた。

 

「……という訳で、お登勢さんからの話でアンタが私の世話をするって事、おわかり?」

「いやいや何勝手に話進めてんの? 何これ? 俺全然状況飲み込めねぇんだけど?」

「こんだけ説明してやってるのに飲み込めないとかどんだけアンタの喉細いのよ」

 

見た目はまだ小学6年生ぐらいのちっこい小娘から聞かされても銀時はあまり己の身に置かれた状況をよく理解できなかった。

なにしろそのちっこい娘の話す内容よりも、”彼女の見た目”の方へ自然と視線を向けてしまうのだから。

 

(似過ぎてる……やっぱコイツが例の……あのババァ、嫌がらせのつもりか?)

「ちょっと聞いてんの天然パーマ。この御坂美琴様が直々に説明してあげてるのよ、ジロジロ私の顔ばっか見て……なにアンタ? まさか私ぐらいの年頃に変な気起こしちゃうタイプの人?」

 

オレンジジュース片手に彼に軽蔑の眼差しを向けながら、いつでも立ち上がって迎撃できるように椅子を後ろに下げる美琴に、銀時はけだるそうにフンと鼻を鳴らして

 

「ちげぇよバカ、知り合いにテメェとよく似たツラしてる奴がいたから気になっただけだ」

「あっそう、にしてもアンタ口悪いわねぇ、私に向かってそんな生意気な口叩いてるとその内感電死させるわよ?」

「オメーこそもうちっと年上に対しての口の利き方覚えとけ、ったく見た目はそっくりなクセに中身は全然ちげぇじゃねぇか……あっちはもっと可愛げってモンがあったぞ……」

 

短い間にすっかり機嫌を損ねてしまっている美琴に銀時は疲れたように椅子にだらりと背もたれながら髪をボリボリと掻き毟った。

 

「要するに俺がババァの代わりにテメェを一時的に世話すりゃあいいって事だろ」

「そうよ、それでアンタってさ、お登勢さんから聞いたんだけど第五位の相手もしてるのよね?」

「ああ、そういやそうだっけ。最近あのガキのツラさえ見てねぇから忘れてたわ」

 

坂田銀時はこの時すでに後に第五位に降格される第四位とも通じていた。経緯は不明だが数年前からレベル5になる頃には既に彼女と接触しており、一応彼なりに結構な頻度で顔を合わせていたのだが、今はすっかりやる気も無くしてほったからし状態だ。第四位の少女ともそれからしばらく顔さえ合わせていない

 

「つうか第四位のガキも任されてんのに、レベル5になるっぽいお前の面倒まで見なきゃならねぇって事?」

「私の面倒? アンタなんかに見られたくないわよ、アンタはただ表面上のお世話係してりゃあいいのよ。プライベートでは一切関わらないでね」

「口を開けば腹立つ事ばっか言ってくれるじゃねぇかコンチクショウ」

「私が気になってるのはその……アンタの所の第四位のレベル5の事よ……」

「あん?」

 

ツンツンとした口調から急にしおらしくなった様子で縮こまる美琴に、銀時は頼んでおいたパフェにスプーンを伸ばしながら怪訝な表情を浮かべる。

 

「なに? 同じレベル5同士になるから気になっちゃう訳?」

「そりゃあね、それに私と同い年の子らしいし……来年は私と同じ常盤台に入学するんでしょ?」

「常盤台? あのババァがやってる学校か。そういやアイツそこの学校行くとか言ってたっけ」

 

お登勢が理事長として君臨している、名門のお嬢様学校。それぐらいしか銀時は知らず、どうでも良さそうに呟くが美琴は何故か頬を若干紅く染めて恥ずかしそうに上目づかいで彼の顔を見上げる。

 

「もしかしたら……同い年で同じ学校で同じ超能力者になるんだから、仲良く出来るかな~とか思ってて……紹介してくんない?」

「はぁ? 何お前、アイツと友達になりたいの? 無理無理、止めとけ」

「な、なによそれ! いきなり無理とかどういう事よ!」

「”今のアイツ”はもう友達とかそんなもん当分必要としねぇよ、ましてや」

 

パフェを一口頬張った後、円形のテーブルに肘を突きながら銀時は美琴に意味ありげな視線を送る。

 

「あのガキに似たツラしてるお前じゃな」

「あのガキ? 誰の事言ってんの?」

「やっぱなんも知らねぇか……気にすんな、とにかくあのガキと仲良くなろうなんざ考えるな、お前がアイツと付き合うのはまず無理だから諦めとけ」

「何よそれ……世話役のクセに勝手に交流を遮断してもいいって訳じゃないでしょ」

「アイツを知ってるからこそ、教えてやってるだけ俺は」

「私は私にやりたいようにやるわよ、無能力者のクセに偉そうに指図しないで」

「……」

 

明らかに怒ってる様子で目を細めて睨み付けてくる美琴。

すると銀時は視線を横に逸らしながらボソッと。

 

「なんならアイツの代わりに俺がお前に付き合ってやるよ」

「はぁ? なにその罰ゲーム? なんで私がアンタみたいな男と一緒に仲良くつるまなきゃいけない訳、やっぱそういう趣味持ってんじゃないのアンタ?」

「別に四六時中一緒にいようだなんて言ってねぇだろうが、テメェがヒマな日に遊び相手ぐらいはしてやるって話だよ」

「ヒマ? この私にそんなの出来るわけないでしょ、常盤台に入れば友達だってバンバン作れる筈だし、アンタなんかの為に割く時間なんてこれっぽっちもないわよきっと」

「それならそれで構わねえよ」

 

さっきまで好意的に接してこなかったくせに急に手のひら返してきた銀時に、思いっきり嫌そうな反応をしながら断る美琴。そんな彼女に彼は小さな声で正直に告げた。

 

「俺はただテメー自身の心にあるこの”ぽっかり空いた穴”を塞げるフタが欲しいだけだ」

「……意味わかんないんだけど」

 

そんな事言われても理解できずに困惑する美琴に、銀時はヘッと小さく笑って誤魔化した。

 

「んで? もう話は済んだのか?」

「そうね、今日会ったのはただ互いの顔見せ合いみたいなモンだし。私からの話は終わり。これからの話はお登勢さんに聞いてね、仕事の引継ぎとかアンタがこれからやる事とか色々」

「めんどくせぇな、次はいつテメェに会えばいいんだよ」

「会う? もうコリゴリよアンタみたいな奴と会うのは。当分こっちからコンタクト取るつもりはないわ」

 

小馬鹿にする嘲笑を浮かべながら美琴はいつの間にか注文していたコーヒーを一気飲みしてすぐに席を立つ。

 

「ここの会計よろしく、無能力者でもそれぐらい出来るわよね。それじゃあもう会えない事を願いながらさようなら」

「……」

 

勝手な事言ってこちらに手を振った後にすぐに背中を向けてさっさと行ってしまう美琴。

残されてまだ席に座ってる銀時は去っていく彼女をしかめっ面で見送る

 

「レベル5になる素質持ってるからってすっかり天狗かよ」

 

 

 

 

 

「やっぱアイツと大違いだ、可愛くねぇガキ」

 

 

 

 

 

それから一年近くの年月が流れた。

この間に銀時の環境は色々と大きく変化していた。

まず長く住んでいたかぶき町を離れ

合法ロリ教師が住むオンボロアパートに引っ越すと、すぐにお登勢から美琴が小学校を卒業する前に教師になって常盤台に来いという指令。

考えた事さえない教師という仕事をやる事に不満はあるも、銀時は渋々承諾。

コネで入れるつもりだが、常盤台の教師として相応な学門は身に付けておけとお登勢から再び指令。

秋の節目にそんな事言われても出来る訳がないと思う銀時だが、ひょんな事で偶然出会った”おてんばロリ娘”から教師となる為の素質や定義、学を徹底的に叩きつけられ

 

いつの間にか銀時は、それなりの学を教えられるぐらいの頭にはなった。

 

さて、それから銀時はというと、お登勢の言う通りに無事に美琴の入学に合わせて常盤台の教師になり、美琴のクラスの担任となってからもう2か月は経過していた。

 

「だっりぃ~、ここのガキ共、人が出て来るなりジロジロ見てヒソヒソ喋りやがって……見せモンじゃねぇっつうの、なんならエサ寄越せ、糖分が取れるモン」

 

ブツブツと呟いているのはいつもの着物ではなくスーツの上に白衣を着た銀時。伊達眼鏡も付けており、学校の中であれば一応教師として見えるかもしれない姿だった。

 

彼がいるのは常盤台の生徒がたむろしない死角スペース。学校の裏にひっそりとある空地だった。

雑草が生い茂る中にあるのは利用されなくなりその場に放置されてしまったボロいベンチ。

銀時はそこにドカッと座り、手に持っていたビニール袋からコンビニで買った弁当といちご牛乳、そして今週号のジャンプを取り出す。

 

「やっぱ教師向いてねぇわ俺、ジャンプ読む暇もねぇしもう辞めちゃおうかね~」

 

人気の無い所に来たのもここのいる多くの生徒達から好奇の目で見られるのにウンザリするから。ここの教師陣は校長や教頭を始め変わった教師が多いが、その中でも銀時は一際浮いた存在なのである。

 

ゆえに、ここの様な滅多に人が近寄ろうとしないスペースは銀時にとってやっと落ち着ける居場所なのだ。

 

「さぁて、ジャンプジャンプっと……うわ、”ギンタマン”がセンタカラーかよ」

 

昼休みの昼食の時間を使ってジャンプを読み始めようとする銀時だが、開いて早々すぐに顔をしかめた。彼が開いたページにはギンタマンという作品がカラーで載っている。

大々的とは言いながらも一応主役らしい銀髪天然パーマの濃い顔の男の絵柄を見ただけで、銀時は軽く不快感を覚えたのだ。

 

「すっげぇ下手くそな絵だなこれ、どこの編集がこんなのジャンプに載せようとしたんだよ、来年には打ち切り確定だろこんなの」

 

早速批評家気取りでスッパリと斬って、ロクに読まずに別の作品を読もうとしたその時、

 

「あ、あれ~? アンタなんでここにいんの~? ぐ、偶然ね~……」

「あん?」

 

本来ここに来る者など滅多にいない。いるのは昼食がてらにやってくる銀時と、たまに彼の付き添いでやってくる第五位。そして……

 

「わ、私もホントはクラスメイトの皆に誘われてたんだけど~、今週の占いだと昼食は一人で食べるのがベストらしくて~、でもしょうがないわね~、せっかく一人で食べに来たらまさかアンタがいたなんて~、もう仕方ないからここで食べるわ~」

「お前それ昨日も言ってなかったっけ?」

 

前に会った時とは違い、常盤台の制服を着た美琴が壁からこっちを眺めながら引きつった笑みを浮かべて棒読み気味になにか言っている。

 

「お前もしかして、まだ友達いねぇの? 入学して結構経ってんのにお前と親しい奴全然見ねぇんだけど」

「は、はぁ!? いるに決まってんでしょ! 友達ぐらい!!」

「じゃあ誰だよ」

「えー……えーと……うん、まあそれは色々よ色々、ていうかアンタには関係ないから……そ、それよりアンタっていつも同じ雑誌読んでるわよね! ちょっと貸して見なさいよ!!」

「話はぐらかすの下手くそ過ぎるだろ」

 

こちらに歩み寄ってきながら必死に誤魔化そうとしつつ、美琴はベンチに近寄って銀時の隣に腰を落とすと、早速彼が持っているジャンプに興味を示してくる。

手を伸ばしてきた彼女に銀時は数秒程間を置いた後、ゆっくりと持っているジャンプを彼女に差し出す。

 

「まだ読んでねぇからさっさと返せよ」

「少年ジャンプ? どう見てもコレって私達ぐらいの年頃の子が読む雑誌よね。アンタいくつよ?」

「俺は大人になっても心は常にわんぱく小僧だから」

「確かにアンタ、見た目はおっさんでも精神年齢は私達よりずっと下ね」

 

胸を張って答える銀時に呆れて呟いた後、美琴はジャンプを両手に持ってパラパラとめくり出す。

 

「へー、男の子ってこういうのが好きなのね。ん、何これ? ギンタマン? へーなんか面白そう」

「おいおい、んなつまんなそうなモン読もうとしてんじゃねぇよ、それどうせすぐ打ち切りになるから別の読め別の」

 

隣からジト目でブーブーといちゃもんつけてくる銀時に美琴はムスッとした表情で

 

「私が何読もうが勝手でしょ、いちいち横から指図すんじゃないわよ」

「ジャンプ愛読者である俺からの助言ぐらい素直に受けておけやコラ」

「なにがジャンプ愛読者よ……それにじょ、助言するって言うんならさ……」

「ん?」

 

突然ジャンプを開いたまま肩を震わせ始め、変に思った銀時が首を彼女の方に伸ばすと美琴は彼の方へ頬を染めて気恥ずかしそうに

 

「も、もっとクラスのみんなと仲良くなれるアドバイスとかしなさいよ……」

「ああやっぱ友達いねぇんじゃんお前」

「くぅぅ……!」

「誰だっけ? ここ来れば友達増えるしお前と一緒にいるヒマなんかないって言った奴?」

 

つい告白してしまった美琴はすぐに真っ赤になった顔を隠す様に項垂れるが、そこに銀時がいちご牛乳にストロー差しながら追い打ちをかける。

 

「お前最近よく俺の所に来るよね? ヒマなの? 友達いなくてずっとヒマだったの?」

「う~……あ、ああそうよヒマよ!! 友達いなくてヒマでしょうがないから話し相手ぐらいにはなってくれるアンタの所にわざわざ足運んでるのよ!!」

「レベル5が聞いて呆れるぜ、お前なったんだろ、レベル5。第三位だってな、ウチのガキより序列上で良かったな。友達いねぇけど」

「うっさいわねぇ!! 仕方ないでしょ! レベル5になったのはいいけどそのせいで周りから尊敬の眼差しは向けられるけどみんな一線引いて近寄ってくれないの!!」

 

レベル5・第三位の超電磁砲。長い努力を重ねていた美琴は遂に実を結んで能力者として最高位置に達する7人しかいないレベル5になれた。

常盤台にはまずレベル3以上しか入学できないという徹底的な決まりがあるエリートお嬢様学校だ。その中でも美琴は一際能力者として飛び出ている。

だからなのか、同級生、先輩までもが尊敬や憧れと同時に畏怖や嫉妬心を持つ者も少なくなく、対等な間柄で接してくれる人がいないのが現実だ。

彼女に憧れる者は近寄る事さえ恐れおおいと距離を取り、

彼女の力の凄さに恐れを抱く者は危険物でも扱うかの様にビクビクして、

ゆえに入学して数か月たっても、未だに美琴は周りの輪に加われなかった。

 

「あーもうなんでこうなっちゃうのよ……”あの女”はもう色んな子と仲良くなっているのに……同じレベル5なのに」

「へー、じゃあウチのガキと仲良くなればいいんじゃね?」

 

いちご牛乳をストローでズビズビ飲みながらそう言う銀時に美琴は顔の片面だけ彼の方に上げる。

 

「……あんた随分前に会った時は無理だから止めとけとか言ってたわよね」

「いやそうなんだけどよ、アイツ俺がお前の世話するようになってから妙に違和感覚えんだ。別に仲悪くなったわけじゃねぇんだけど、なんか前とは違う様な気がすんだよ」

 

銀時と第五位の関係も彼が教師としてここに赴任するまでの間に変わった所があるらしい。

しかしそれに彼自身は理由がわからず悩みの種となっているようだ。

変な違和感を覚えるだけなのだが銀時はその違和感の正体さえわからない様子。

 

「だからアイツと仲良くなっていいからちょっと俺達の間取り持ってくんね?」

「なんで私がアンタとあの女の関係修復に勤しまなきゃいけないのよ!! ていうかあの女は大嫌いなのよ私は! 会った時からずっとそうよ! 人の事を馬鹿にしまくるわ変な嫌がらせしてくるわで最悪よあの女!! 友達になんか絶対なりたくないわ!!」

「好きな子にはちょっかいかけたくなる年頃なんだよ、思春期独特のいじめっ子のフリししながらも本当は仲良くなりたいという心情が重なるアレだよアレ、ツンデレって奴?」

「ツンデレって何? まあいいわ、とにかくあの女と仲良くなるなんてごめんだから」

 

首を横に振って美琴はキッパリと断りを入れる。友達がいないからといっていけ好かない相手と仲良くなろうとするほど必死ではないのだ。

 

「ねぇ、あんな女じゃなくてさ、もっと優しくて良い子いないの? 紹介してよ」

「俺はキャバクラの店員じゃねぇんだよ。つーか俺だって普通に会話する相手なんざウチのガキとお前ぐらいしかいねぇんだからわかんねぇよ」

「え? そうなの?」

「ここのガキは選りすぐりの世間知らずな小娘ばっかだからな。そういうガキは俺みたいなワイルドな匂いがする危険な男には寄りつかねぇモンなのさ」

 

フンと鼻を鳴らしながら吐き捨てる様にそう言う銀時に美琴は「はぁ?」っと納得しない様子で首を傾げる。

 

「ワイルドというより別の危険を感じるんじゃないの? なんかアンタって私の事たまに変な目で見てる気がする」

「しばくぞボケ、俺が今猛烈に変な目で見んのは結野アナウンサーだけだ。ガキはお呼びじゃねぇんだよ」

「いや誰であろうと変な目で見る事は止めなさいよ」

 

死んだ目で現在形で意中の人物の名を出してきた銀時に美琴はハァとため息を突いて再びジャンプに目を落とす。

 

「結局アンタも私と一緒でここに居場所無いのね……ぶっちゃけて損したわ」

「ぶっちゃけるも何も俺はとっくに薄々気づいてたっつーの、ま、これに懲りてその長い天狗っ鼻をへし折っとけ」

 

袋からコンビニ弁当を取り出しながら銀時は年上らしい言葉を彼女に与えてあげる。

 

「レベル5だろうが第三位だろうが親しくなれる人間なんてそう簡単に作れねぇもんさ」

「あの女は出来てるじゃないの、私と同じレベル5なのに。だから私も全面的に凄くて天才で可愛いって部分を押し出せばきっと作れるわ、私は悪くないんだから、悪いのは私から遠ざかる向こうよ」

「こりゃいつか痛い目見るな」

 

しかし全く聞く耳持たず、美琴は彼の言葉について考える事を破棄してすぐに矛盾性が引っかかる独自の持論を持ち上げはじめる。

いずれこのような勝手な振る舞いで墓穴掘って後悔する。銀時は彼女の傲慢な態度を見て察した。

 

「ま、何事も言葉で聞くより体験だわな……おいクソガキ」

「クソガキって……なによ、クソ天然パーマ」

「俺と賭けしねぇか」

「は?」

 

噛みつかんばかりの表情でこちらを睨みながら返事する美琴に銀時はおもむろに急な提案を出した。

 

「テメェが夏休み入る前にダチ作れるかどうかだ。出来たらお前の勝ち、出来なかったらテメェの負けだ」

「夏休みってまだ先の事じゃないの、そ、それぐらいの間ならすぐに作れるわよ、うん……」

「ならお前が勝ったら言う事全部聞いてやらぁ」

 

自信なさそうな所が見え隠れしつつもぎこちなく頷く美琴に、銀時は更に言葉を付け足す。

 

「ただし負けたらちっとはその態度改めろ。ウチのガキも最初はお前と似たような感じだったけどな、今じゃすっかり丸くなって大人しく……あ、大人しくはなってなかったわ。とにかく最初よりはずっとマシになってんだ、お前も改善するぐらいはしろ」

「つまりアンタが勝てば私がアンタの言うことを聞いて、私が勝てばアンタは私の下僕として一生を遂げるって訳ね」

「俺が負けた時のリスクデカくね?」

「いいわよその賭けに乗った、後悔すんじゃないわよ」

 

勝手な解釈をする美琴に銀時がボソッとツッコミを入れるが、それをスルーして彼女はうんうんと頷く。

 

「これでアンタのそのふざけた事ばかり抜かす口を黙らせられるってもんよ。こっちはうんざりしてんだから」

「うんざりしてんなら俺と距離置けばいいだろ、こうして学校で俺と一緒にいてばっかだから他の奴等がお前に近寄らねぇっていう理由でもあるんじゃね?」

「しょうがないでしょ、お登勢さんは担当変わってからあまり会う機会無くなっちゃたし……対等に話しかけてくる奴なんてアンタぐらいしかいないのよ」

 

嫌なら離れてくれたって構わない、冷たくそう言葉を投げかける銀時に対して、

美琴は年頃の娘らしい表情で寂しそうに小さく口を開いた。

 

「だから私が友達出来るまでは……しばらく付き合ってやるわよ……」

「それ一生付き合えって意味?」

「未来永劫私に友達なんか出来ないって言いてぇのかゴラァ!? ったく……あれ、このギンタマンって漫画面白くない? なんか凄く独特な画風と雰囲気が伝わってくるんだけど」

 

軽く銀時の口調のような叫びをあげた後。まだ両手に持っているジャンプを眺めていた美琴がふとギンタマンを見て何かを感じ取ったようだ。しかし銀時は箸を取って弁当を食べながらけだるそうに

 

「気のせいだ、どう感じようが伝わるのは下手くそ過ぎる絵と漂う嫌悪感だ」

「私漫画ってあまり読んだ事無いんだけど……この漫画はきっと漫画界を引っくり返すようなとてつもない大きな革命を起こす予感がするわ」

「ねぇよ、お前が隠れて集めてるあのヘンテコなカエルの人形が流行るぐらいねぇよ」

「な、な、なんで知ってんのよ!!!」

 

何気なく特に意味も無い会話をする二人。

最初は互いにつんけんした態度を取り初印象は最悪ではあったが

 

時が過ぎれば徐々にわだかまりも消えて行くのかもしれない

 

 

 


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