禁魂。   作:カイバーマン。

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第三十訓 万事屋、新メンバーが加入される

夏の日差しがギラギラと灼熱の暑さと共に降り注がれる中。

浜面仕上は”我が家”へとこもって暑さをかろうじてしのいでいた。

 

「あちぃ……なんでだよ、なんでこの家にはエアコン設置されてねぇんだよ……」

「んなモン買う暇がウチにあると思ってんのアンタ……死ぬ」

 

我が家というのは浜面が拠点として生活している場所、すなわちお登勢の店の2階にある万事屋アイテムだ。

家の中は意外と広く、家具や電化製品が一式揃っていればそれなりに充実した生活を送れる筈なのだが。

 

家の持ち主である麦野沈利が常に金欠状態なので揃える余裕など無いのが現状だ。

 

ゆえに浜面が苦労して手に入れた夏をしのげるアイテム、扇風機の前で

左右にゆっくり動きながら風を送る彼に感謝しながら二人で座ってダラダラと汗を掻きながら時間を過ごしていたのであった。

 

「……もう限界よ、早くこの家にエアコンを入れないと干からびる……ちょっと浜面、さっさと外行って仕事取って来てよ、エアコン買えるぐらい報酬たんまり貰える仕事」

「無理無理、こんなクソ暑ぃ中に外出て行く気なんかサラサラねぇよ俺……たまにはお前が行ってみれば?」

「おい、誰に向かってそんな調子乗った口効いてんだテメェ、私が行けと言えば行く、死ねと言えば死ぬのがアンタの立場でしょ」

「……俺の立ち位置相変わらず底知れず……」

 

客を迎える為に設置された居間で二人は左右に首を動かす扇風機の前に僅かの間しかない状態で座りながら声にも力がこもってない様子で会話する。

ちょっと頭を傾ければ両者の頭がゴツンと当たりそうなぐらい両者接近しているにも関わらず、暑さのせいで浜面は意識を遠のかせて、麦野は元々浜面の事などなんの意識もしていないので二人共そんな事気にも留めていなかった。

ただ扇風機から送られる風を受けることに必死だった。

 

「暑いからってすぐ喧嘩腰になるなよ……とりあえず一旦この扇風機さんに癒された後に外回りしてくるからよ……」

「今行って来い今、そうすれば私が一人でコイツ独占出来るし」

「独占ってお前……コイツは元々俺がリサイクルショップで安売りしているのをさらに交渉に交渉を重ねて手に入れた代物なんだぞ……使う権利は当然俺にあるんだからな、そこん所覚えておけよ」

「たかが扇風機でケチケチしてんじゃないわよ……」

 

そう言いながら麦野は浜面の方へ首を向けた扇風機を両手でガシッと掴むと無理矢理自分の方向へ向けた。

 

「つうかウチって扇風機一個買うのにそこまでする程ヤバかったかしら……」

「貰える仕事がまだまだ全然ねぇし、金が溜まっても今までお前が滞納してた家賃をお登勢さんに返さなきゃいけねぇんだよ。今残ってる金は節約して後2、3日分ぐらいしかねぇ」

 

この家の財産管理は主に浜面が一人で行っている。麦野に任せたらすぐに無駄遣いするのが目に見えているからだ。

この家に置かれている厳しい現状を伝えながら、浜面は扇風機を掴んで乱暴にグイッと引き寄せる。

 

「お前がシャケ弁ばっか買わずに自炊の仕方覚えてくれたらなぁ……そうすりゃ食費が少し浮くのに」

「弁当代と酒代と漫画雑誌代は絶対に落とす気ないんだからね」

 

扇風機を掴み、自分の方に向ける麦野

 

「お前のそれが一番この家の負担になってんだよ、能力者としてでなく自分の力で生きたいならちっとは生活力を鍛えろ、自炊の仕方教えてやるから」

 

扇風機をこちら側に向ける浜面

 

「いいわよ自炊なんてアンタ一人でやればいいじゃない。この家に料理できる奴なんて一人で問題ないわ」

 

扇風機を乱暴に引っ張る麦野

 

「いやいやいや、俺としては是非お前のエプロン姿を拝みたいってのもあるし……」

 

扇風機を掻っ攫う浜面

 

「気持ち悪い事言うんじゃねぇよ」

 

奪われそうになった扇風機を両手で強く掴んで奪い返そうとする麦野

 

「男って生き物はな……女の子がエプロンを付けて料理作ってる光景を眺めていたいモンなんだよ、その女の子の料理が食えるなら更に良し……」

 

渡さまいと負けじとふんばって耐える浜面

 

「前々から思ってたけどアンタってやっぱり私の事そういう目で見てるわよね、言っとくけど私はアンタの事なんて便利な犬っころとしか見ていないわよ……おい、いい加減離せ殺すぞ……」

「俺だってお前の事を女としてなんて見てねぇよ、ただこの家に見た目が女の形してるのがお前だけだから、「まあ性格は最悪でも見た目だけは美人だし~」ってなぐらいにしか思ってねぇって……誰が買ってやったと思ってんだコラ……」

 

日常会話を挟みつつも扇風機の独占権を互いに譲らず引っ張り合う浜面と麦野。

傍から見れば何とも情けない一進一退の攻防戦だが両人とも必死である。

 

「それより冷蔵庫にハーゲンダッツあるわよ、アンタに上げるからさっさと取りに行って来いクソが……」

「嘘つけ、そんなモンをお前が俺の為に譲るなんて天地がひっくり返てもあり得ねぇ、短い付き合いでも嫌と言う程理解しているんだよ……渡さん、コイツは渡さんぞ……」

 

ミシミシと悲鳴のような嫌な音を立てる扇風機を気にも留めずに互いに全力を振り絞って独占権を得ようとする。

もう限界なのだ、気休め程度にしかならないこの機械だが二人にとっては唯一の暑さをしのげる物、暑いおかげで思考回路も短絡的な結論に導く事ばかり優先して麦野と浜面はただ「扇風機を奪って独り占めしたい」という思考に完全に支配されていた。

 

「テメェ! 女の私がこんなに苦しんでるのに更にコイツ奪おうとかそれでも男か!!」

「元々お前から先に奪い取ろうとしたんだろ俺の扇風機!」

「あっちぃんだから無駄な運動させるんじゃねぇよ! 大人しくよこせ!! さもねぇとテメェの○○○を輪切りにすっぞ!!」

「下半身が冷える脅し文句言うの止めろ! そういう冷え方は望んでねぇ! とにかくコイツだけは死んでも……!」

 

ドスの利いた口調で脅してくる麦野に負けじと反抗する浜面の姿を見るに。

この短期間で彼女との圧倒的力関係は少しは改善出来たらしい。

麦野は確かにレベル5の第四位であるし身体能力も遥かに高いし頭もいい。だが万事屋の仕事や小手先を使う地味な作業や周りの住民との干渉などはスキルアウト時代で下っ端人生を送っていた浜面の方が上手なのも確かだ。

 

したたかに生きる事を生業とする彼にとっては得られる技術は自ら進んで取り、仕事を貰えるようにとかぶき町の住人たちとの交流も欠かさない。こうした地道な作業が彼を少しづつ前向きな人間へと変えていったのだ。

 

だが麦野の方はというと、万事屋として自分の力だけで人生を謳歌したいというのを優先し過ぎて周りが見えていない時がよくある。ゆえに彼女がここ最近交流する相手など僅かな数にしか満たず、しかもほとんどが浜面かお登勢、仕事の相方と管理人としかコミュニケーションを作ってない時点で彼女は能力者としては有能でも一人の社会人としてはまだまだな様子である。

 

ゆえに最近は浜面が彼女に強く出る事もしばしばある。だがそれでも相手は麦野。例え彼が大きく出ても結局……

 

「だったら死ねぇ!!」

「はんぶらびッ!!」

 

暴力が場を支配する事に変わりない。

座った状態のまま腰を大きく捻って、若干太めなのを気にしている太ももを振るって浜面の顔面に蹴りを一発する麦野。

 

扇風機を遂に手放し、彼はガクッと後ろに頭を垂らしながら鼻血を流してバタッと大の字で倒れてしまった。

 

「……どうせならストッキング越しじゃなくて生足で蹴られたかった……」

「気持ち悪い辞世の句を残してないで勝手に逝けやボケ」

 

スケベ心丸出しなセリフを吐きながら鼻血流して倒れている浜面に目をやりながら麦野ははぁ~と色っぽいため息を吐いた後、解放された扇風機を奪取する事に見事成功した。

 

「これで邪魔者がいなくなったし、ようやくコイツを独り占めに出来るって事ね。コイツがあればこのクソ暑い空間でもちっとはマシに……あれ?」

 

浜面から奪った扇風機を上機嫌の様子でスイッチを押す麦野。

だが扇風機はうんともすんとも言わない。何度電源ボタンを連打しても一向に動く気配が無い。

 

「え、ちょっとマジ? 壊れたの? さっきのバカ騒ぎで壊れたの!? あぁぁぁぁぁぁぁ!? 私の癒しの一時がぶっ壊れたの!!? おいちょっと起きろ! もしも~し! 大至急強風欲しいんですけど扇風機さーん!? もしかしてエアコンの方が欲しいとか言って拗ねちゃってる!? めんごめんご! やっぱりアンタが一番だから! お願いだから動いて! 動け! 動きやがれこのポンコツがスクラップにすっぞ! ああすんませんついカッとなってしまいましたマジすんません!!」

 

焦った様子で麦野が色んなボタンを強く押しながら叫んでいると、ティッシュで鼻血をふき取っていた浜面が状況の異変に気づいて起き上がった。

 

「は? もしかしてさっきの取り合いで壊れちまったのそいつ?」

「なに呑気に言ってんの! こりゃ死活問題よ! お願い浜えもん扇風機を修理して!!」

「待て待てむぎ太君、修理なら出来る事は出来るけど、素人の俺には限界があるんだからな、重症だったらもう手遅れ……」

「重症かどうかまだわかんねぇだろうが! 諦めんなボケ! 患者が目の前にいて執刀出来るのはお前しかいねぇんだよ! カモンブラックジャック!」

 

スキルアウト時代はピッキングの才能があった浜面だが最近それを生かせるようにする為か、壊れた機械の修理する技術を日々学ぶようになっている。教えてくれる人はいないのでぶっちゃけ見様見真似でやっているのだがこれが意外と出来てしまい、今では簡単な物なら修理できるようになったのだ。

扇風機が壊れてしまって暑さをしのげなくなってしまった今の麦野にとっては、大変必要としているスキル、早く直せと彼女は浜面に要求し始める。

 

「ほら早くやんなさい! よく見て! ”全身”をくまなく!!」

「う~ん、(扇風機直すの)初めてだからわかんねぇなこういうの、この辺は”敏感な部分”だからあまり触んないようにしねぇと」

「ビビッてんじゃねぇよ! 敏感だからこそ一番怪しいだろ! パカッと開いて中身弄ってじっくり眺めればわかるわよ!」

「そうは言っても”壊れちまったら”元も子もねえし……ここは慎重に開けて。てか麦野、”力抜けよ”。お前が緊張してどうすんだよ、こっちまで緊張しちゃうだろ……」

「こちとら汗だくなのよ……早くしてもらわないと”参っちゃう”の、お願いだから”焦らさないで”さっさとやって……」

「わかったよ、俺も(この暑さで)限界だし……やってみるか」

 

扇風機の状態を一通り見た後、浜面は工具箱を取り出そうと腰を上げたその時。

 

ピンポーンっと玄関の方から来訪者が来たことを知らせる呼び鈴が鳴り響いて来た。

 

「……まさかお客さんか?」

「暑いから今日は休みだって言っときなさい」

「いやいやそうはいかないでしょ麦野さん、羽振りのいい客ならたんまり報酬貰えるかもしれねぇんだし」

 

客はいいからはよ扇風機直せといった視線を向けてくる麦野を居間に置いて浜面は扇風機の修理を一時中断してすぐに腰を上げて玄関へと向かった。

 

この一連の行動の間でも玄関からは何度もピンポンピンポンと呼び鈴のボタンを連打している音が聞こえてくる。

 

人様の家のボタンを何度も押すとは一体どんな奴だと、浜面は玄関へと降りて戸をガララっと開けて、ボタンを押した張本人と真正面から向かい合った。

 

「……」

「ってあれ、銀さんじゃん」

 

ボタンを連打していたのは浜面が前々から何度か世話になっている男、坂田銀時だった。

いつもの着物に腰に木刀を携えて、いつもの死んだ目でこっちに無表情のまま見つめてくる。

 

予想だにしなかった来客に浜面が少し驚いてる中、銀時は突如右手で拳を構えて

 

「ぶごほッ!!」

 

無言で浜面の顔面をぶん殴った。しかも加減をしているとか、コミュニケーションを取る為の冗談交じりの挨拶とかではなく、正真正銘本気が込められた一撃だ。

本日二度目の顔面への攻撃を食らった浜面はなす術なく玄関で仰向けに倒れる。

 

 

「いってぇ……な、なんで!? なんでいきなり顔面に一発ストレートぶちかましてきたの!?」

 

ここに住んでから度々麦野に酷い仕打ち食らってたおかげでタフ度とM属性が上昇しつつある浜面、これぐらいの一撃で気絶などする事なくすぐに半身起き上がってこちらを仏頂面で見下ろす銀時に抗議する。すると銀時は表情を崩さぬまま路上に落ちてる犬の糞でも見るかのような目つきで

 

「うるせぇ死ねクソ野郎、テメェみたいなゴミクズ死んだ方が世の為なんだよ」

「のっけから主人公とは思えない酷いセリフ!? 銀さん! アンタ確かに口は悪いけどそこまで酷くは無かった筈だよ!」

 

麦野やフレンダにさえ言われた事のないセリフに内心ちょっと泣きそうになりながらも浜面はなんとか持ちこたえてヨロヨロと立ち上がった。

そして彼に向かって銀時はやっと仏頂面からしかめっ面に変わって

 

「おいエロリーダー、お前こんなクソ暑い中何やってたんだ? 言ってみろ」

「何って……俺はただ……」

「全部玄関の傍から丸聞こえなんだよ、何が初めてだよ、何が敏感だよ、何が力抜けだよ、何が私を滅茶苦茶にして~だよ」

「なんか人知れず変な誤解が生まれてた!! てか四つ目は明らかにアンタが捏造したモンだからね!!」

 

どうやら扇風機を修理する時に交わしていた麦野とのやり取りを偶然玄関の前で聞いてしまっていたらしい。誤解を解こうと浜面が口を開きかけるが銀時はやさぐれた様子でその場にペッと唾を吐き

 

「人の知り合いに女預けておいてコレだよ、自分は勤め先の女とこんな時間からフュージョン三昧とはいい御身分だなコノヤロー。救えねぇんだよこのハゲ」

「ハゲてはないだろ! いやいや誤解だって、俺は壊れた扇風機を修理していただけで、アンタが考えてる様な濃密な官能世界なんてこの家で起きてないから」

「俺なんかここん所ずっとガキ共の世話ばっかですっかりご無沙汰なんだよコンチクショウ!!! 終いには元カノまで出て来るし!!」

「えぇぇぇぇぇ! キレてる理由そっちぃ!?」

 

怒りの沸騰を湧きだしながら叫ぶ銀時に浜面が呆気に取られていると

 

「すみませ~ん、この超くだらないミニコントまだ続くんですか? 外は超あっついんで早く中に入れてもらえませんかね~」

「え? 誰?」

 

突然銀時の背後からひょこっと1人の少女が顔を出してきた。彼の背後にいたなんて全然気づいてなかった浜面。見てくれはちんまりとしたサイズで中学生ぐらい。季節に合わせた半袖パーカーと短パンを着こなしているこの少女に浜面は見覚えが無い。

 

(なんだろう、銀さんって会う度にいつも色んな女の子連れ回してるような気が……もしかしてアレか? 高校生以上はババァですとか素で言えちゃう人達のお仲間的な?)

「”銀ちゃんさん”、もしやこの超アホ面でひ弱そうで、デコピン一発で消し飛びそうな小悪党っぽい男が例の?」

「初対面の相手になんて失礼な態度!」

「そうそう、我らがリーダーの”二股君”だよ。股が二つに裂けるという凄い能力を持っているんだよ、試しにお前が左側掴んで俺が右側掴んでみるよ、綺麗に裂けるかやってみ」

「わ~い、超楽しそうです~」

「純粋無垢なキラキラとした目をしながら俺の左腕を掴まないでお嬢ちゃん!! 裂けないから!! 裂けても絶対グロイし死ぬから俺!!」

 

銀時の説明を受けて楽しげな様子で二つに裂こうといきなり左腕を掴んできた少女に浜面が必死の表情で叫び声を上げて振り払おうとする。

 

「てか俺の名前は浜面! なんなんだよお前! 銀さんとどういう関係だ! 人には言えない関係とかじゃないよな!!」

「よ~し、じゃあ右側は俺に任せて引っ張ってみよ~綺麗に半分こに裂けるかな~」

「臓物も綺麗に裂けるのか超興味深いです」

「ごめんごめんごめん! 銀さんマジで謝る! 謝るからそれだけは……あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

両サイドから腕を持って引っ張ろうとする少女と銀時。数秒後、家の下の住人達にも聞こえる様な浜面の断末魔の叫びが響いた。

 

 

 

数分後の出来事

 

股の部分をかけて体の中心点に走る痛みに耐えながら浜面はやってきた二人の客人をようやく家へと迎えた。

 

お客様用のソファに座っている二人。絹旗は両手を膝に置いてちょこんと座り、銀時の方は足を組んでふてぶてしい態度で腰を下ろしている。

 

それに向かいのソファで座るのは玄関で彼等に酷い仕打ちを受けた浜面と、未だに扇風機が直らない事に苛立ちを覚えている麦野。

 

浜面と麦野は何故自分はここに来たのかという話を銀時から聞かされた。

 

「……万事屋の新メンバー?」

「そうだよ、やっぱ二人だけだと役割分担とかやりにくいだろ? それでこれからは三人組でやっていった方がいいと思うんだよ銀さんは。なんつうか”万事屋つったら三人組”って感じじゃね?」

「いや意味わかんねぇんすけど……」

 

独自の持論を持ち上げながら話を進めようとする銀時に浜面は眉をひそめると、銀時は隣にいる少女の頭にポンと手を置く。

 

「まあ見てくれはこの通りちっこい小娘だけど、意外とやれば出来る子でさ。もう万事屋になる為に生まれたと言っても過言ではない存在なんだよ。な?」

「初めまして、絹旗最愛です。レベル4で前は超怪しげな研究所で怪しげな実験に取り組んでいましたが、訳あって今は逃亡して銀ちゃんさんの家に居候しています。特技は人間を一瞬で肉や内臓、骨さえもグチャグチャにする事です」

「万事屋じゃなくて殺し屋として生まれた存在の間違いだろ! そんな特技生かしきれねぇよウチじゃ!!」

 

銀時に促されて自信満々に自己PRを始める絹旗という少女ではあるが、あまりにも物騒なアピールポイントに浜面は即座に早くこの娘を銀時に連れて帰って欲しいと願う。

彼の隣に座る麦野もまた額から流れる汗を不機嫌そうに手で拭き取りながらけだるそうな表情で

 

「おい第五位んところの野郎、アンタもしかしてウチが行き場のないゴミ共に仕事を提供してあげるボランティア団体だとでも思ってんの? そんな余裕ないんだよウチは、ただでさえ扇風機がぶっ壊れてイライラしてんのに変なモン連れてくるな」

「だからこの部屋クソ暑いのか、いけないねぇコレじゃあ。最近のガキは暑さですぐ参っちまうんだから、コイツも住み辛くなるから早い所扇風機なりエアコンなり買っておけよ」

「全くです、いくらなんでもこれは超暑過ぎです。私がこれからここに住める様にする為に、まずはここをファミレス並の超快適空間にするよう提案します」

「だからウチにそんな余裕ねえって言ってるだろうが! なに自然にそいつを私達が預かる前提で話進めてんだよ! 殺すぞクソ白髪!!」

 

腕を組みながらこちらに要求を伝える銀時とうんうんと頷く絹旗に暑さの苛立ちに身を任せて麦野は叫び声を上げた。だが銀時は彼女の言い分を聞いても引く様子は見せずに

 

「別にいいだろ一人増えたって、そもそも俺はそこの二股君からガキを一人知り合いに預けてやってんだぜ? これで貸し借り無しという事にしとこうや」

「ガキだぁ!? おい二股!! それどういう事だ!!」

「お前まで二股って呼ぶなよ!」

 

銀時にバラされて浜面はバツの悪そうな表情で睨み付けてくる麦野に話す。

 

「実はダチをこの人の家のお隣さんに預けてるんだよね俺……ここで一人前になったら迎えに行くって約束しといて……」

「つまり一生預かってくださいって事じゃない」

「俺が一人前になる事が絶対無理だと思ってんの!? なるよ俺は! きっとなってやるから一人前の男に!」

 

昔はネガティブな発言が多い浜面だったが、ストーカーとの決闘の件がキッカケで最近では無駄にやる気が出てきている様子。

そんな彼に麦野は苦々しい表情で舌打ち。

 

「そいつ女?」

「え、そうだけど?」

「男じゃねぇならまだマシね……言っとくけどテメェがそいつ迎えようがこの家には一歩も入れさせねぇわよそいつは」

「え、マジで!? いや待て待て麦野! アイツは本当に万事屋として役立つぞ! 特技は体に隠し持っている爆弾やらミサイルやらを敵にぶっ放す事で!!」

「それだとこの人間ミンチ作製娘とそんな変わらねぇじゃねぇか、いるかそんな奴」

(お前も殺人ビーム乱発ドS姉さんだろ……)

 

キツイ事を言ってくれる麦野だが彼女もまた目の前に座っている絹旗や、自分が銀時の隣人の小萌に預けているフレンダとそんな変わらないタイプの人種なのではあるが……

 

「忘れちまえ忘れちまえ、お前は金輪際そいつとは何の関係もねぇ赤の他人だ、永遠に私の下僕として生きろ」

「俺の人間関係を潰して更に永久に自分の所有物としてコキ使おうとしてるんだけどこの人!」

 

あまりにも横暴な態度の麦野に浜面が叫びつつ、今後どうすればフレンダをこちらに呼べばいいのか考えていると。目の前で座っている銀時と絹旗が小声でヒソヒソとこちらの方へ目をやりながら会話している。

 

「おい見ろよ……勤め先の女に過去の女は忘れろと言い寄られてるぜ……ざまぁねぇな、二股なんてするからあんな目に遭うんだよ」

「全部神楽さんの言うとおりでしたね……この男、自分のダメさ加減に惹かれてしまうようなバカな女をターゲットにしてハエのようにたかる超クズ野郎です」

「聞こえてんだけどお二人さん!! アンタ等さっきからずっと誤解してるけど!! 俺は元々フレンダとも麦野ともそんな関係築いてねぇチキンだからね! これ以上無実の罪を俺に着せないで!!」

 

思いきり丸聞こえだった二人の会話を聞いて浜面は思わず立ち上がって必死に弁明する。

確かに彼は二人が考えてる様な不埒な真似はしていないのだが、そういう疑いが芽生えてしまったのは彼にも非がある訳で

 

「なんもしてねぇって言うならよ、なんであの金髪のガキに連絡の一本もよこさねぇんだ。後ろめたい気持ちがねぇなら一日に一回でもいいから声聞かせてやるもんだろ、それが男ってモンだろ」

「おお! 銀ちゃんさんが珍しく男女の関係に超大人な意見を!」

「この前昔の女に似たような件で文句言われてな」

「超情けないです銀ちゃんさん!」

 

カッコよさげにフッと笑って見せる銀時だが台詞はあまりにも決まってない。

だが銀時の言い分はもっともでそれには浜面もわかってるつもりなのだが

 

「いやだって一人前になるつもりでここ来た訳だけど……まだまだこの仕事は仕事としてさえ成り立ってない状況だし……おまけに麦野がちょっとやらかしちまったモンだから借金まで出来ちゃって……こんな情けない状態じゃアイツになんて言えばいいのかわかんなくてずっと連絡絶ってたんだよね……」

 

長く連絡を行っていなかったのはそういう理由があったらしい。

申し訳なさそうにしゅんとしながら心中を吐露する浜面に銀時はフンと鼻を鳴らす。

 

「つまんねぇプライドなんか持ってカッコつけようとしてんじゃねぇよ。そんな真似して女をずっと待たせてると、向こうは捨てられたと思っちまうだろ。テメーの事じゃなくて向こうの事も考えろ。アイツはちゃんとお前の事を考えてやってんだぞ」

「それも経験上ですか?」

「睨まれながら怒られた」

「超ダサいです銀ちゃんさん!」

 

またもや自分の情けない経験上の話でアドバイスする銀時。

だがそれを聞いて浜面は「そうだよなぁ……」とため息交じりに納得した様子を見せた。

 

「やっぱり電話の一本もしないのはマズいよなぁ……今度からはちゃんと連絡してみるわ」

「わかりゃあいいんだよ、早く気付いてよかったなリーダー。連絡ないまま時が過ぎると男と女ってのは自然に関係が消滅しちまうんだからな、今度からは気を付けろよ」

「ああ、明らかに自分の身に起こった話をしてくれてありがとな……」

「でもぶっちゃけ、女ってめんどくさいよね、どうして俺達男がわざわざ気を使わないといけないの? マジふざけんな」

「このタイミングでぶっちゃけるなよ! アンタいい事言ってたのに全部台無しじゃんか!」

 

澄まし顔でいきなりポロッと本音を漏らす銀時に浜面がツッコミを入れた後、「それじゃあ」っと銀時は絹旗の頭に手を置いたまま改めて

 

「そういう事で、コイツよろしく」

「超よろしくお願いしま~す」

「ああわかったよこれからよろしく……ってなんでこの流れでそうなる訳!?」

 

忘れていた事を思い出したかのようにまたもや万事屋に新メンバーを追加させようとする銀時に先程ツッコんだばかりの浜面がまたもやツッコミ

 

「だから麦野が言ってた通りウチには三人でやっていけるぐらいの余裕なんてねぇんだよ!」

「あのね、レベル4だか人間を簡単にすり潰せるとか知らないけど、これ以上家計に負担なんてかけられないのよ、コンビニの雑誌や弁当も馬鹿にならないの」

「それはお前が我慢すれば何とかなる事だから! とにかく! 悪いけど新メンバーを雇うつもりはないんだよ銀さん!」

 

断固として絹旗を迎え入れようとしない浜面と麦野。

だが銀時はそれでも引かず、人差し指を立てて一つ彼等に提案を出した

 

「それじゃあこうしようぜ、テメェ等がコイツ預かってくれたら、ウチの学校とガキ共が住んでる寮にテメェ等の店の宣伝してやるよ」

「宣伝?」

「お前等、今やってる仕事の範囲つったらほとんどかぶき町がメインだろ」

「ああ、かぶき町に住んでるんだし、依頼人はほとんどかぶき町の住人達だからな」

「それじゃあ儲けも利益もあんま生めねえだろ、だからここはウチの学校に宣伝してみ?」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら銀時は腕を組んで話を続けていく。

 

「仕事が欲しいなら手広く周りに認知させるのが一番だろ、ウチのガキ共は世間知らずのお嬢様学校とはいっても物好きばかりだから依頼も結構来るんじゃねぇのか。しかも金は持ってるから報酬も結構貰えるかもしれねぇし」

「マジでか!?」

「しかもアレだよ、ウチの学校でそれなりに成果を見せれば他の地区にもお前等の名前が広がっていく。そしてあれよこれよと成功していく内にかぶき町だけでしか活動できなかったテメェ等が学園都市全体で活動できるようになるんだぞ、上手くいけば外へ、はたまた海外、故郷である地球から飛びだって宇宙にまで行けるかもしれねえんだよ」

「おお……すげぇ。俺一度でいいから宇宙行ってみたかったんだよ……」

 

食い入るように聞きながら浜面があまりにもスケールのデカい話に震えていると、隣に座っている麦野も「ふ~ん」と頬に手を当てながら少々その話に興味を持った。

 

「さすがに海外だの宇宙だのって部分は絶対にありえないけど。確かにお嬢様学校で有名な常盤台に売り込みが出来ればそれなりに仕事が来るかもしれないわね、名が知られるだけでも儲けモンだし」

「おい麦野この話受けようぜ! 俺宇宙行きたい!」

「おう、その内縄でロケットにくくりつけて飛ばしてやるよ」

 

浜面のお願いをぶった切って麦野は話を続ける。

 

「常盤台つったらレベルの第五位と第三位がまだ在籍してるんだっけ。第五位はともかく第三位のツラは一度拝んでみたいとは思ってたのよね、前々から私より序列が高くて年下とか気に食わなかったし」

「やべぇよ麦野! 変な星から依頼が来て巨大モンスター退治なんかやらされる羽目になったらどうするんだ!? あ、でもウチにもモンスターいるから大丈夫か、んがふッ!」

 

浜面がすっかりテンション上がって一人勝手にはしゃいでいるので麦野は隣にいる彼の顔面に裏拳を一発おみまいして黙らせる。本日三度目の顔面被害だ。

 

「それで? 第五位のお気に入りさん、アンタは常盤台を所有している施設のあちこちに万事屋の宣伝をする。代わりに私達はそのガキを預かる、という事でいいのよね」

「ババァに言ってねぇけどなんとかなるだろ、お前が真面目に働いてくれるためなら簡単に許してくれんだろうし」

「そのババァの所の学校に行って仕事するってのが複雑な気分だけど……まあいいわ」

 

ババァというのは当然お登勢の事。常盤台の教師である銀時にとって最も偉い立場にいる上司であり、麦野にとっては何かと世話を焼いてくるお節介な管理人だ。

 

彼女が理事長である常盤台で働くという点だけは引っかかるが、麦野は銀時に頷いて見せた。

 

「そいつ預かっておいてあげる。これから忙しくなるかもしれないんだし人手も欲しいしね、確か絹旗つったっけ、これからよろしくね」

「だとよチビ公、良かったなこれでお前も……ん?」

 

条件をかけてようやく麦野が絹旗を迎え入れることを許可してくれた。

これで絹旗も晴れて非人道的な実験の道具とされていた被験体から、かぶき町の住人として再出発できる。

そして何より居候が一人減ってくれることに安堵しながら銀時が隣にいる絹旗の方へ振り向いた。

 

だが

 

「スー……」

「……寝てやがる」

「……は?」

 

ソファの肘掛けを枕にして寝息を立てながらすっかり熟睡モードに入っている絹旗がそこにいた。

銀時達の長い話に飽きて眠ってしまったらしい

 

「コイツ本当に役に立つわけ?」

「言っとくけど返品できねぇからな」

 

呆れた様子でこっちに話しかける麦野へ視線を合わせず銀時が呟いていると。

先程麦野に顔面を強打された浜面がようやく顔をさすりながら目を開けた。

 

「いてて……このままじゃ顔の形が歪んじまうかも」

「元々歪んでるようなツラしてるじゃない、もっと殴れば逆にイケメンになるんじゃないの」

「ひでぇ……」

「つうかアンタはさっさと扇風機を修理しろっての」

 

起きて早々傷つくことを言われて泣きたくなる浜面に更に麦野はしかめっ面で命令をする。

 

「こちとら汗だくで髪の毛ベタベタになって最悪なの、さっさとしろ下僕」

「わかったよ……あ~俺ってこれからも誰かの尻に敷かれて生きていくのかな……」

「私のケツに敷かれて喜ぶとかとんだド変態野郎だなチクショー」

「やれやれ、せめてまともな人間として扱ってくれねぇかな……」

 

冷たく刺す様な麦野の視線を感じつつ浜面はぼやきながら立ち上がると、ふとソファで眠ってしまっている絹旗を見下ろす。

 

「なあ、もうそいつウチが預かる事確定した訳?」

「決まったよ俺達の間で、これでリーダーも初めて後輩を手にしたって事だから、先輩として情けない醜態晒すのはもう卒業しろよ」

「……善処はする」

「それと」

 

自信なさそうに視線を合わせまいようにしながら呟く浜面に銀時は目を細めて声を低くする。

 

「手だそうとか絶対に考えるなよ」

「え? あ!」

「二股から三股に進化しましたとか金髪のガキが聞いたら発狂すっぞ」

「銀さん、アンタやっぱり……!」

「ただでさえ今は精神状態が不安定なんだからねあのガキ、この前も病院に担ぎ込まれて、体内に蓄積されている栄養バランスが崩壊してる件と精神に著しく異常が出てるとかで入院する羽目になっちまって……」

 

頭をボリボリ掻きながら銀時がやれやれと言った風にブツブツと説教みたいな感じでぼやき始めるが、言われてる方の浜面は彼の話を耳にも入れずに突然目をカッと開かせるや否や

 

「アンタやっぱりこういう小さい子が好みなのか! つまりロリコ……! もるがなッ!!」

 

今最も銀時が言われてムカつく言葉を口に出そうとした浜面に、言い終える内に銀時はソファから立ち上がって向かいに立つ彼の方へ飛躍してそのまま顔面に飛び蹴りをかました。

 

本日四度目の顔面へ襲い掛かる攻撃に、浜面はそのまま後ろに派手にぶっ飛ばされる。

 

かくして浜面仕上の災難な日々はまた一つレベルが上がる事になってしまったのであった。

 

 

 


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