禁魂。   作:カイバーマン。

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第三訓 少女、幕府に依頼される

ジャッジメント第177支部は多くの人が賑わう街中に設置されていた。

いつどこからでも臨機応変に出動し対応出来る事を考慮されているので、所属しているメンバーにとって非常に有意義な場所と言える。

小さなビルの二階に設置されており担当する事件もさほど大きくなく、アンチスキルや真撰組の様に大規模な事件に加入する事は少ないが彼女達もまた立派な警察組織の一員である。

 

「……ハァ~全くなんということでしょう」

「……」

「おいチビ、喉渇いたから茶出してくれや」

「勝手に冷蔵庫からでも取り出してくださいまし。”初春”の飲み物ならいくらでも飲んでよろしいですし」

 

そして現在、ここにいるのは事務机で呆れてものも言えない状況だという表情を上手く出している白井黒子。

支部にあるお客様用の椅子に申し訳なさそうに彼女に苦笑する御坂美琴と偉そうにふんぞり返っている坂田銀時であった。

 

「はぁ~わたくしが口を酸っぱくして何度も言っていましたのに……あれほど我が校にふさわしい御方になってくださいと何度お願いしてるのにこの体たらく……」

「あ~あのさぁ黒子、この事については色々理由があるのよ……あの自動販売機ってば前に私のお札飲み込んだことがあって……」

「理由はどうあれ器物破損に引っかかるぐらい十分な損傷があると”固法先輩”が言っていましたわ」

「そ、そうなんだ……私そんな蹴った覚えないんだけどなー。もしかしたら私達以外の人もやってたりして……」

「言い訳は見苦しいですわよお姉様」

「ぐ……」

 

いつもの様にベタベタくっついてくる態度とは裏腹に、今の黒子は完全に仕事モードに入っていた。淡々とした口調で反論をバッサリと切り捨てる彼女に美琴もたじたじである。

 

「あのぉ……この事は理事長とかには内緒にしてほしいんだけど……」

「残念ですがもう既に報告済みですの」

「ええええ!? アンタなにしてくれてんのよ!」

「と言われましても、それがわたくし達の仕事ですし」

「そんな真似したら私怒られるじゃないの!」

「怒られる真似するから怒られるんですの」

「うう……」

 

もっともな事を言われてもはや反論する気力さえ失せてガックリと肩を落とす美琴。

理事長にこんな事してるのをバレた……それを考えただけでも憂鬱な気分になる。

落ち込む彼女に横目をやりながら黒子はボソッと呟く。

 

「これがジャッジメントでなく真撰組のチンピラ警察共に捕まっていたら留置場にぶち込まれてたかもしれませんわよ」

「それはそうだけど……」

「”あなた”もですわよ」

「け、んなめんどくせぇモン書くなら留置場にでも居た方がマシだコノヤロー」

 

急に話を振ってきた黒子にけだるそうにソファで大きな欠伸をする銀時。

自分も美琴と一緒に器物破損の片棒を担いだにも関わらず罪の意識は0だ。

 

「ところで俺はいつ帰れんだ」

「わたくし個人としてはあなたにはさっさとお帰り願いたいですが、そういう訳にもいきませんの。固法先輩が来るまでここで大人しくしていてくださいまし」

「私は……」

「お姉様はわたくしと”キッチリ”とお話してからですの」

「ええ……」

 

そう言いながら黒子はカリカリとボールペンを動かして机と向き合ったまま何やら書類に書いている様子。よく見ると彼女の机にはまだ未記入の書類が山ほどあった。

それを見て美琴が心配そうに尋ねかける。

 

「ねぇ、もしかしてそれ1日中に終わらせる気? アンタ今日帰れるの?」

「あら、心配なさらずとも大丈夫ですわよお姉様、この書類の6割はそろそろ戻ってくる後輩に無理矢理やらせますから」

「アンタ鬼でしょ……」

「後輩の扱いを心得ていると言って下さいまし」

 

未だ知らぬその後輩に美琴は同情しながらハァ~と深いため息を突いた。

さっきからここに数十分ほど座らされているので退屈になってきたようだ。

 

「暇ねぇ、ねぇ黒子。私達いつになったらここから解放させてくれるの? 別にいいでしょ話なんて、同じ部屋に住んでんだからそこでたんまり聞いてあげるわよ」

「なんで上から目線なんですの……悪いですけど静かにしてて下さいませ。わたくしも仕事中の身ですから」

「冷たいわね……」

「仕事が終わったら思いっきり二人の愛を育みましょう」

「一生仕事してていいわよー」

「あん、いけずですわねお姉様は……」

「おい、仕事中でしょ、素に戻ってんじゃないわよ、ったく」

 

ずっと無表情で事務仕事をしていた黒子が突然身を悶えてクネクネ動きながらこちらを見つめてくる姿を見て、美琴は何も変わってないと頭を手で押さえた。

 

「にしてもホント暇よねぇ、アンタもそう思うでしょ?」

「ん~俺はジャンプあるから別にいいや」

「ってアンタいつの間にジャンプ読んでるのよ!」

 

隣に目をやると銀時はふとコンビニで買っていたジャンプを読み始めていた。読書で時間をつぶす魂胆らしい。しかしこれには美琴も不満の様子だ。

 

「アンタが一人ジャンプ読んでたら私ヒマになっちゃうじゃないの!」

「静かにしろ、今ギン肉マン読んでるんだから」

「黒子! 事務仕事手伝ってあげようか!」

「お気遣いなく」

「うう~……」

 

数少ない話し相手である二人にそっけない態度で突き放されて美琴の不満は爆発寸前だ。

 

「なによアンタ達! 少しはヒマな私の為に気を使いなさいよ! 私はこれでも常盤台のエースで……!」

「静かにしろつってんだろコノヤロー、暇ならテレビでも観てろよクソガキ」

「この時間帯ならドラマの再放送でもやってるんじゃないですかお姉様?」

「くぅ……! アンタ達はこういう時に限って息ピッタリに……!」

 

一方はジャンプに、一方は書類に目を通しながら上手く会話の連携をとる銀時と黒子に美琴はワナワナと肩を震わせながら不満を通り越して怒りが芽生えそうだ。

 

「も、もういいわよ! ここで黙って待ってる! それでいいんでしょ!」

「耳元で叫ぶな、いい加減にしねえとガムテ口に巻き付けるぞ」

「最初からわたくしはそうして下さいと頼んでいますわよ」

「もう!」

 

自分の事に集中している二人に素っ気なくそう言われるも、美琴はイライラとした様子で支部内を歩き回り始めた。銀時と黒子はそんな彼女を気にも留めない。

 

「この書類は初春にやらせた方が早そうですわね……てことはコレとコレも初春に任せましょう」

「おいおい、ここで必殺技使っちゃうの? 大丈夫かコレ? 決勝まで持つのギン肉マン?」

「……」

 

完全に各々の世界を作っている二人に美琴は面白くなさそうな表情で腕を組みながらなお歩き回る。

 

(固法さんとかいう人が来たらいいんだっけ? いつになったら来るのよ全く……)

 

そんな理不尽極まりない事を考えていると下からカンカンと階段を上る音が聞こえた。

その音をいち早く聞いた美琴はハッと支部のドアの方に振り向く。

 

そしてゆっくりとそのドアが開いたその時……

 

「いつまで待たせてんのよ! さっさと釈放させろコラァ!」

 

開いた矢先に間髪入れずに跳び蹴りをかます美琴。ずっとここに閉じ込められていた上に話し相手から冷たい態度をとられていた彼女の期限の悪さはMAX。もはや誰であろうが容赦しない。そう思って開いた入り口に向かって蹴りを入れたのだが……

 

「あれ?」

「……」

 

いかにも高官の様な制服に身を包んだパッと見30代のグラサンを付けたおっさんだった。

美琴の蹴りを綺麗に顔面で受けて無言でゆっくりとその場に崩れ落ちる。

 

「局長ォォォォ!!」

「貴様ァ! 何をするか!」

「あ、ごめん間違えました、出直してきます」

 

目の前に倒れたおっさん、それを見て騒ぐ二人の連れは恐らくそのおっさんの部下であろう。美琴は気にも留めずにドアを閉めて戻ろうとする。しかし

 

「待て?」

「ん?」

 

部下の一人に呼びかけられたと同時にカチャリと聞こえた生々しい音、そして後頭部につけられた「何か」を感じて美琴は眉間にしわを寄せる。

 

「貴様が学園都市第三位の超電磁砲≪レールガン≫だな。我々と一緒に来てもらおう」

 

後頭部に突き付けられているのは恐らく彼らが所持していた『銃』であろう。廃刀令のご時世の今じゃ特に珍しくもない武器だ。しかしそんなモンを突き付けられていても美琴は依然涼しい表情だ。

 

「悪いけど知らない人にはついて行くなってそ銀髪天然パーマの教師に言われてんのよ」

「フ……幕府(おかみ)の言う事には逆らうなとも教わらなかったか?」

「は? 幕府?」

 

幕府と聞いて美琴はとっさに後ろに振り返ると、そこにはさっき蹴り入れて一発KOさせた筈のグラサンの男がヨロヨロとしながら立ち上がっていた。

 

「入国管理局の者だ、アンタにちょっと仕事を依頼したくてね、超能力者のアンタにしか出来ない仕事だ」

「は?」

 

グラサンの男は鼻血を出しながらも気にも留めずに不敵な笑みを浮かべる。そんな彼に美琴は片目を吊り上げて不機嫌そうな表情を作っていると彼女の背後から先程まで仕事をしていた黒子とジャンプを読んでいた銀時がいつの間にか中断して歩み寄ってくる。

 

「その恰好。テメー幕府直属の高官か? コイツに何の用だ」

「お姉様に仕事を依頼すると聞きましたが……一体どういう事ですの?」

「部外者のアンタ等には関係ない事さ、悪いが邪魔しないでくれ」

 

男は怪訝な様子で質問してくる二人を一蹴すると口にタバコを咥えてライターで火を付ける。

 

「ということで超電磁砲、速やかに我々と一緒に来てもらおうか」

「アンタ何者?」

 

美琴は睨みつけながら尋ねると男はタバコの煙をフッと吐きながら不敵な笑みを崩さずに口を開いた。

 

「入国管理局で局長を務めている”長谷川泰三”だ、よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三訓 少女、幕府に依頼される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後美琴は現在車の中にいた。街の外を頬杖突いて眺めながら彼女は前の助手席に座っている男にふと横目だけ向ける。

 

「……どこに連れてくつもりかしら? それに依頼の内容もまだ聞いてないんだけど? 入国管理局の”長谷川さん”?」

 

長谷川と呼ばれた男は彼女の方へは振り返らずにただフゥーっと静かにタバコの煙を吐くだけ。

 

「直にわかるさ」

「何度聞いてもその返事、他の言葉を知らないのアンタ?」

「ハハハ、お嬢ちゃん、大人相手にその口の利き方はちと感心しないな」

「どんな言葉吐こうが勝手でしょ、ていうか」

 

美琴はチラリと横に座っている”二人”に視線を合わせる。

 

「なんで”コイツ等”も連れてきた訳? 狭いんだけど?」

「どきなさいこの若白髪! なんであなたがお姉様の隣に座っているのですか!」

「うっせぇな騒ぐんじゃねえよ。それに引っ付くな暑苦しい」

「それはこの車が小さいだからしょうがないんですの! わたくしだってあなたみたいな人とこんな目にあうなんて拷問は苦痛でしょうがないんですから! ああもう臭い! 加齢臭臭いですの!」

「おいデタラメ言ってんじゃねぇぞコラ! 銀さんのどこが臭いって!? そりゃあ最近枕からおっさんの匂いがするけどそれだけだよ! 俺が臭いんじゃない! 枕が臭いんだ!」

「ああもううるさいさっきから! ホッチキスで口塞ぐわよアンタ等!」

 

隣でギャーギャーを喚き狭い車内で暴れているのは坂田銀時と白井黒子。

何故か知らないが美琴だけでなく偶然支部にいたこの二人も長谷川の命令で連れてこられていたのだ。

 

「そいつ等はアンタの為の人質だ」

 

美琴の疑問にやっと長谷川が答える。

 

「逃げ出されたら困るんでな、その二人をこちらが確保しておいたらアンタもおとなしく従うしかないだろ?」

「はん、アンタなにもわかってないわね。ただの幕府の下僕のアンタ達がコイツ等を簡単に人質に出来るわけ……」

 

付き合いはそう短くないこの二人の事はよくわかっている。実力も性格も

だからこそ美琴は長谷川に余裕気に笑って見せた後、二人の方に思わせぶりな視線を向けるのだが

 

「うわ~どうしよう俺達人質にされちゃったよ~助けて~」

「お姉様~か弱いわたくしをどうかお許し下さいませ~」

「って、はぁ!? アンタ達何言ってんのよ!」

 

急に棒読みの混ざった弱々しい声を上げてこちらに困ったような目を向けてくる銀時と黒子に美琴からはさっきまでの余裕の態度が消え失せる。

慌てて叫ぶ彼女だが銀時と黒子は一瞬目を合わせた後再び彼女の方に振り返って

 

「だって俺しがない極々普通の教師だし~」

「わたくしもしがない極々普通の学生ですし~」

「嘘つけ! アンタ達が本気だせば私抜きでもこんな奴ら全裸にして街中に逆さ磔ぐらいに出来るでしょ!」

 

下手くそな演技っぷりに美琴はが苛立ちつつツッコむと、銀時は助手席にいる長谷川には聞こえないぐらい小さな声で彼女にこっそりと耳打ちする。

 

「……ここは大人しくコイツ等に従うフリしとけ、さっきから依頼の内容さえ言わない奴等だ。なんかとんでもない事を隠してるにちげぇねぇ」

「だから人質のフリするってわけ……? ふざけんじゃないわよアンタ達はただじっとしてればいいだろうけど私はその胡散臭い依頼を受けなきゃいけないのよ……」

「お姉様……幕府の重鎮に恩を売れば後々役に立ちますわよ……これはチャンスですわ……」

「絶対嫌よ、なんで私が幕府なんかに……」

 

声を潜めて喋る銀時と黒子に美琴は不満そうにブツブツ呟いていると、不意に長谷川の方から話を切り出してきた。

 

「そういや嬢ちゃんは他のレベル5の連中を知ってるか? この学園都市にアンタ以外にいる6人の超能力者を」

「なによいきなり……レベル5はほとんど情報隠蔽されてるんだから知る訳ないでしょ。知ったとしても同じ学校にいるいけすかない女王様だけよ」

 

足を組んでぶっきらぼうにそう言う美琴の隣で銀時が「あー」と思い出したような声を上げる。

 

「そういやアイツもレベル5だったな、なんだっけ『大舞台でいきなり一発ギャグを振られてしどろもどろになりながらやろうとするんだけど、結果常盤台の歴史に残る程の大スベリする能力』だっけ」

「いやそれアンタがアイツにやった事でしょ、去年の学園祭の時にアイツの公演スピーチの時の」

「ああそういやそうだった」

「いや~あの時だけは私もほんのちょっぴり不憫に思ったわ、アイツの事」

「嘘つけよ、スベった直後のアイツの顔見て爆笑してたじゃねぇか」

「アンタもでしょ」

「……あなたレベル5の第五位相手によくもそんな事を……恐ろしいですわね」

 

何気なく自然に会話する銀時と美琴の横で黒子が唖然とした表情を浮かべていると、長谷川がタバコの煙を開いた窓に向かって吐きながら再び話し始めた。

 

「そう、アンタ達能力者の中では他の能力者と一線引かれている超能力者はどうも公に正体を現さない。データバンクにも素性が知られているのはアンタや第五位ぐらいだ」

 

タバコの灰を車内に設置された灰皿に落としながら彼は話を続ける。

 

「第一位と第二位は全くの正体不明、第四位はかぶき町にいるとか噂されてるがそこまでだ。第六位は存在するかどうか自体わからん、第七位は神出鬼没で俺達でさえ確保できなかった」

「それでバンクに記載されている数少ないレベル5である私に白羽の矢を立てたわけ?」

「第五位の能力と性格じゃちと難があるしな、それに序列も嬢ちゃんの方が上だ」

 

彼の言葉に美琴は心底面白くなさそうな気持ちになる。つまり使い勝手のいい駒というだけでここまで連れてこられていたのだと

 

「それで? 第三位のこの美琴様が必要になる程の依頼なのそれは」

「そうだな、そろそろ依頼主の事を話してもいいだろう」

「依頼主? 私が聞きたいのは依頼の方……」

「依頼主は」

 

彼女の言葉をさえぎって長谷川は口を開き、彼女含む3人に対して依頼主の正体を教えた。

 

「とある星の皇子だ」

「お、皇子!? てかとある星って事はそれってつまり天人!?」

「おいおい、どこの星か知らねえが皇子様からのご指名かよ、よかったなお前。依頼料たんまり貰えるぞ。気にいられれば嫁にしてもらえるかもしれないし人生バラ色だな」

「絶対イヤ!」

 

銀時を一蹴すると美琴は優雅に次のタバコに火を付けている長谷川を睨みつける。

 

「つか天人からの仕事なんて死んでもやりたくないわ!」

「おたくがそう言ってもこれは決定事項だ。それに幕府、いやこの国の命運を賭けた重大任務、失敗は絶対に許されない」

「ふざけんじゃないわよ、私が天人なんかの為に働くなんて! 私はそんなことの為にレベル5になったんじゃないのよ!」

「まあそう言うな、なんせ江戸がこれだけ進歩したのも奴らのおかげなんだ。おまけに地球を気に入ってるらしいし無下には出来んだろ」

 

激しく嫌悪の混じった表情で拒否姿勢に入っている美琴を長谷川は、外で歩いている異形な姿をした天人を窓から眺めながら呟く。

 

「既に幕府の中枢にも天人は潜んでいる。地球から奴等を追い出そうなんて夢はもう見んことだ。俺達は奴等とよりよい関係を気付いて共生しなきゃならねぇんだよ」

「共生ねぇ……結局それがテメェ等幕府の答えってわけか」

 

彼なりの思想に美琴に代わって銀時がだるそうに返事すると長谷川はバックミラーで彼の顔を覗いた。

人質なのに平然と美琴と会話しているこの男、長谷川はふと彼に興味を持った。

 

「そういやアンタ何者だ、白衣を着ている所からして学園都市の研究者かなんかか?」

「あんな得体の知れねぇ引きこもり軍団と一緒にするな、さっき言っただろ、しがない教師だよ俺は」

「へぇ、第三位と仲良く会話している所からして、見るからにただの教師とは思えんがね」

「こっちにはこっちの事情があんだよ、男と女の関係に首突っ込むな」

「ちょっと! その言い方だとなんか私とアンタが変な関係みたいじゃないの!」

「お姉様ぁ!! わたくしは絶対に許しませんわよ! たとえこの身が砕けようとそれだけは絶対に!!」

「アンタが早とちりしてどうすんのよ!」

 

鬼の形相で吠える黒子に美琴がツッコミを入れていると長谷川が今度は黒子に向かって

 

「そっちの嬢ちゃんは第三位とどんな関係で?」

「あなたみたいな姑息な殿方には話したくないですわね、わたくしとお姉様のエロティックな関係に首を突っ込まないで下さいませ」

「何勝手に私との関係捏造してんのよ! ただの先輩後輩の関係でしょうがアンタと私は!」

「今はそれでよろしいですけど結果的にエロティックな関係になる筈ですから、グヘヘ……」

「すみません人質は俺だけでいいんでコイツはその辺のドブ川に捨てて来ていいですか?」

 

美琴との未来予想図を脳内妄想して思わず涎を垂らして下品な笑い声を上げる黒子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後、ずっと車に乗せられて移動させされていた美琴達は長谷川が指定していたらしい目的地にようやく着いた。

 

「ここで下りてもらおうか、三人共な」

「なによここ……随分人気のない所まで来たわね」

 

美琴達が着いたその場所は大量の大型廃棄物が放置された今では使われていないゴミ処理場だった。古いタイプの大型家電や車、果ては小さな宇宙船まで捨てられており、窓を開けると錆の匂いがツンと鼻につく。

 

「こんな所で私に何させようっていうのよそのバカ皇子は」

「ここはどこの学区エリアでしょうか……それにしてもわたくし、こんな錆臭い所にいたくありませんわ、おっさん臭い人とずっと同じ車にいるのも嫌ですけど」

「だからおっさん臭くないっつってんだろ、ぶっ飛ばすぞチビ。近頃のガキはホント生意気だよな、親の顔が見たいよ本当に、こんな変態生み出しやがって」

「わたくしを変態などと一緒にしないで下さい、中学生との戯れ事が趣味の変態教師が」

「オイ今なんつった? その言い方だとマズイ事になるだろうが、訂正しろクソチビ」

「ほらアンタ達喧嘩しない、さっさと下りるわよ」

 

ブツブツ小言で口喧嘩している銀時と黒子にウンザリした口調でそう言うと美琴はドアを開けて外に出た。

 

こんな錆びた塊しかない場所で一体何があるというのだろうか

 

「さっさと終わらせて早く帰りたいわ……」

「まあそう言うな、おっとご到着だ。おたく等失礼のないようにな」

「は?」

 

横から口を開く美琴をスルーして長谷川は指さす。

 

「あそこにいる方が今回の依頼主である皇子だ」

「ん?」

「は?」

「おや……」

 

長谷川が反応する前に美琴、銀時、黒子の順で彼女が指差した方向を見て目を細める。

ゴミだらけのこの場所には場違いなきらびやかな自分用の椅子に座っている人物は

 

「余のペットがいなくなってしまったのじゃ~、はよう探し出して捕まえてくれんかの~、ってアレ? なにやっとんのじゃおぬし等?」

 

バカみたいな王様風の格好をした紫色の肌の天人、頭にぴょこんと出ている気持ち悪い触角、聞いてるだけで殺意が芽生えそうなその声……

 

「んん? まさかおぬし等、余の正体を見破りに来たのか?」

「「「……」」」

「バレてしもうては仕方ないのう、フッフッフ、そうじゃ、常盤台の校長は余の仮の姿……」

「「「……」」」

「正体を隠しながらこの街に溶け込んで住んでいる謎多きプリンス……”ハタ皇子”は余の事である、フッ」

「「「……」」」

 

殴りたくなるドヤ顔をして自分を親指で指さす”ハタ校長”、否、”ハタ皇子”に

 

三人は数秒眺めて

 

数秒三人で顔を合わせた後。

 

「さ、帰ってワンパークの続きでも読むか」

「わたくし、残った事務仕事を片付けに行きますので今日はこれにて」

「私は録画した真田丸観てくるわ」

「ってオイィィィィィ!! なにサラッと受け流してるんじゃおぬし等!」

 

踵を返して何事もなかったかのように帰ろうとする三人にハタ皇子は絶叫

 

「正体を隠して一般人に溶け込む皇子じゃぞ!? 超カッコいいじゃろ! なんかどっかの漫画とかでよくある王道展開じゃぞ!」

「晩飯どうっすかな~」

「さっき昼飯食いっぱぐれちゃったし、アンタまた付き合いなさいよね」

「お姉様、この様な猛獣とお夜食なんて危険ですわ、今晩のディナーは是非黒子と二人っきりで」 

「アンタ以上の猛獣なんていないわよ」

「おい! 人の事無視して晩飯の事なんて相談してんじゃねえよ! 晩飯より皇子だろここは! 皇子最優先にしろ!」

 

後ろでなんか叫んでいる皇子を尻目に三人はダラダラと帰ろうとする。だが

 

「ちょっと! ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!」

 

そんな三人を、特にに美琴を長谷川が思わず慌てて呼び止める。

 

「いやわかるよ! わかるけどさ! 頼むからやって!」

「うるさいわね、叩き割られたいのそのダサいグラサン?」

「いやダサくていい! ダサくていいからやってくれ!」

 

なんかもう完全にやる気が失せたのか、死んだ目で適当に返す美琴。だが長谷川の方はそう簡単に彼女を帰せるわけがない。

 

「頼むよ本当……ヤバいんだって、あそこの国からは色々金借りてるんだよウチ(幕府)は……」

「んな事は知らないわよ、あのバカ校長で滅ぶなら幕府なんて滅んだ方がマシよ」

 

肩を掴んで来て低いトーンで呟く長谷川に美琴が冷静に返す。彼女にとって幕府の命運を賭けた仕事だろうがそんな事もう心底どうでもいい。

 

「じゃあね、私いなくてもアンタならきっと大丈夫よ。ご達者で」

「いやそんなこと言わないでさぁ! ホントお願い! 依頼金はたっぷり払うから! この通り! ホント土下座しますんで! ホント頼みます!」

「……アンタ急にキャラ変わったわね」

 

さっきまでの余裕気な態度はどこ吹く風やら

プライドなど減ったくれもないのか中学生相手に躊躇せずに土下座する長谷川の姿に美琴は蔑んだ視線を送る。

 

 

 

 

 

部下達が見てる前で、彼が美琴に向かって土下座していた時間は20分だったそうだ。

 

 


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