禁魂。   作:カイバーマン。

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第二十五訓 カエル顔の医者、侍教師の過去に触れてなにかを秘める

御坂が絹旗を連れて真撰組から無事逃げ切り、物事を上手く処理してから数日後

とある病院の一室には坂田銀時と白井黒子の姿があった。

 

しかもそこにいるのは入院中の二人だけでなく、そこにはこれっきし彼等とは縁が無かった人物が”二人程”何故か一緒にいたりする。

 

「正直に言え、お前等の中の誰かが持ってるんだろ」

「素直に答える者がいると本気で思ってますの?」

「私は持ってないよ、持ってるとしたらくろこかそうご」

「あ、俺は上がったぜ」

 

一つのベッドに4人で囲むように座っているのは。

土方との戦いで腹部に傷を負った銀時と

同じく土方に斬られ両足を負傷してしまった黒子。

そして事実上真撰組側の人間であり、体晶の副作用のおかげで入院している滝壺理后と

完全に真撰組の一員であり銀時達とははっきり対立していた関係だったはずの沖田総悟であった。

 

「後はテメェ等で醜い争いしてろぃ。俺は高みの見物と洒落込んでらぁ」

「チッ、これぐらいでいい気になんなよコノヤロー。テメェの所の連中ぶっ倒したのは誰だと思ってんだコラ」

「ああ山崎の野郎から聞きやしたぜ、おたく、ウチの土方さんを負かしたようじゃないですかぃ」

 

銀時、黒子、滝壺は入院中の為に病院側から支給された服に身を包んでいるが

沖田だけは真撰組の制服そのままなので、恐らく彼は滝壺の見舞いにきただけなのだろう。

 

「次は俺とサシでやり合いませんか、”旦那”?」

「やなこった、めんどくせぇ。クソ、まだ揃わねえ……」

「この男はわたくし達ジャッジメントの傘下に入ってますの、無意味な決闘を申し込む真似はやめて下さいませんこと? それにまた恥かいて泣きべそ掻くのはそっちですし。あ」

 

ベッドの上で胡坐を掻いて誘いをかけてきた沖田を苛立ちながらあっさりと拒否した銀時に続いて黒子が仏頂面で口を開くも、すぐに銀時同様イラッとした表情になり向かいに座っている滝壺にジロリと視線を向けた。

 

(……油断してましたわ、ポーカーフェイスとはいえあんなボーっとした人ですし馬鹿正直に答えてると思ってましたのに)

 

察しられぬ用に心の中で呟きながら黒子は手に持ってる一枚のカードを、他に持ってる数枚のカードの中に入れる。

 

今彼女等がやっているのは、互いに手に持ってるブツを少しずつ廃棄し、周りに情報を漏らさないようにしながら虎視眈々とトップを狙うゲーム……

 

ババ抜き トランプで出来る遊びの一つだった。

 

「しかし真撰組もあっけない幕切れでしたわね、まさかの人目もある街中で堂々と集団猥褻行為など犯すとは。ほら早く引きなさい」

「変質者にまで堕ちるたぁ、これでテメェ等真撰組も解体かもしれねえなぁ。チッ……持ってやがったこのガキ」

「生憎アンタ等の希望通りにいかないのが世の中ってモンでさぁ、ウチが街中で汚ねぇモンをブラブラさせて踊り狂ってたのは”おたく等の所の能力者”がやった事が判明しましてね。表向きには公表しねぇようですが隊士全員が数日謹慎するぐらいで済みそうなんですよ」

「しんせんぐみは消えないんだね。私も上がった」

 

会話の中で滝壺は最後に揃ったカードを囲いの中心に捨てて上がった宣言。

黒子は一枚、銀時は二枚持った状況で一騎打ちになり、隣同士に座っていた二人はジロリと互いに目を見る。

 

「あんな騒ぎ起こしたのに謹慎で済むと? 腹が立ちますわね、お姉様にあんな事しておいて……一体どんな汚い手を使ったんですの?」

「当たり前の事だろ、俺等が消えたらこの街なんてすぐに攘夷浪士と天人の巣窟になるぜ? ガキと先公だけで治安維持出来る程この街は甘くねぇ」

 

銀時の手札からどれがババかと凝視しながらも毒を吐く黒子だが、沖田は軽く受け流して鼻で笑ってやった。

 

「ま、近藤さんは腹は斬らなくていいからチ○コ斬れってとっつぁんから命令下されたらしいが。チ○コ一つで組織が護れるなら近藤さんも喜んでチ○コ差し出すだろうよ。俺達真撰組は近藤さんのチ○コを人柱としてこれからもこの街で好き勝手やるって寸法さ」

「女性が二人いるこの部屋で下品な言葉を連呼しないで下さいまし、オブラートに包むという発想はありませんの? 股の下にブラさがってる汚い棒とか」

「いやそれ包んでないからね、包もうとしてるのはわかるけど思いきりはみ出ちゃってるから男のシンボル。って……は!」

 

セクハラ上等とばかりの沖田に文句を言いつつ自分の手札から一枚抜き取った黒子にツッコんでいた途中で銀時はギョッとした表情で目を見開く。

 

気が付くと彼の手元には一枚のババだけ……

 

「はい、上がりましたの」

 

手に持っていた自分のカードを2枚捨てて黒子は淡々とした口調で勝利宣言。

 

「「少しばかり知恵が付いてる程度のおサルさん」レベルのあなたがわたくしに勝てると本気でお考えになられてましたの? ブフ、所詮あなたはその程度なんですのよ」

「あん? トランプ勝ったぐらいでなに調子乗ってんだクソチビ」 

 

嘲笑を浮かべて早速見下す態勢に入る黒子に、銀時は簡単に彼女の挑発に引っかかり片目を吊り上げる。

 

「それなら今度はアレだ、人生ゲームで勝負だ。あのドロドロしたイベントばっかの」

「嫌ですわ、どうせあなたなんか淫らに色んな女性と関係を持ったばかり、見境なく子種を振りまいてポロポロ子供産ませて、その結果慰謝料大量に請求されて速攻開拓地送りにされるのが既に見えていますわ」

「勝手に決めつけんじゃねえよ! テメェなんか同性を無理矢理海外に拉致して無理矢理そこで結婚しようとしたせいで、国内に強制送還されてそのまましょっぴかれるのがオチだろ! そっちの方がもっと見えるわ!」

「な、何を言ってますの! すぐに撤回しなさい!」

 

負けじと対抗してきた銀時に黒子も安い挑発に怒り出して睨み返す。

 

「わたくしがお姉様にいつ無理矢理求愛したと言うんですの!」

「いやいつもやってるだろうが。ていうか人生ゲームの話だからなコレ、リアル架空世界を混合するなって前に医者に言われただろ? お薬貰っただろ?」

「架空だろうと現実であろうとわたくしとお姉様の愛の絆は永遠に不滅ですの! なんならわたくしのお腹に耳を当ててみなさい! きっとわたくしとお姉様の遺伝子を受け継いだそれはそれはとても可愛らしくプリチーな女の子の寝息が聞こえ……んごふッ!」

 

もはや妄想の域を超えて、「今すぐ別の病院へ搬送するべきだろ」っとツッコミたくなるような痛いというかヤバい事を大声で叫ぶ黒子の顔面に向かって

 

友情・努力・勝利の三原則を志とし、今も少年達の心を躍らせる雑誌・『少年ジャンプ』が

 

病室のドアが開いた所から発射され、吸い込まれるように飛んで行きクリーンヒットした。

 

「昼下がりの病院でなに気持ち悪い長台詞を大声で叫んでんだこの変態!! 勝手なイメージを私に押し付けるのやめろつってんでしょアンタはぁッ!!」

 

ドアの入り口から一人の少女が乱暴な口調で怒りの叫びを放ちながらやってきた。

御坂美琴。絹旗の件で絡んだことがキッカケで銀時達同様色々な目に遭わされた一人だ。

その件で彼女は無傷だったのでこの病院に入院することなく、いつも通り常盤台の制服姿だった。

 

「お、お姉様……見舞いに来て下さったのですね……嬉しいですの」

「勘違いしないでくれる? アンタ達のお見舞いなんてついでよついで」

「またまた~、お姉様ったらそんなツンデレな態度でおっしゃっても黒子にはわかっておりますのに~」

「いやマジで”ついで”なんだけど?」

「へ?」

 

額を赤くしながら黒子が涙目で早速美琴に両手を広げて笑顔で迎えるが、美琴はしらっとした表情で一瞥して、すぐに黒子や銀時と一緒にベッドに座っている……

 

「見舞いに来てあげたわよ、体の方は大丈夫なの?」

「ありがとう。体は平気だけどお医者さんからしばらく入院した方がいいって言われた」

 

妙に親しげに話しかける相手は滝壺であった。その光景を見て黒子はギョッと目を見開く。

 

「なぁぁぁぁ!! お姉様! もしかしてお姉様はわたくしだけでなく彼女の見舞いに来たというんですの!?」

「そうよ、まさかアンタ達と同じ病室だったとはね。アンタ達この子に変な事してない? 正直に言いなさい」

「してませんの! わたくしがお姉様以外の相手に手を出すと本気で思っていますの!?」

「そういう意味の変な事じゃないわよ! つうか私にも出そうとするな!」

 

足を怪我しているので自由に動けないが、それでも手をわしゃわしゃと動かしてハァハァと息を荒げる黒子は見てるだけで危機感を覚える美琴。

 

「ったく、入院中でもホント相変わらずよね……それでアンタはさっきからなんで黙って……」

「最近新連載でコレだってモンがねぇな~、スケットダンスも終わっちまったし早くギンタマンを後ろに追い込んで打ち切らせる漫画描いてくれよ新人」

「勝手に人のジャンプ読んでじゃないわよ!」 

 

先程美琴が黒子に向かって投げたジャンプを速攻で回収して読みふけっていたらしい。

パラパラとページをめくりながらすっかりこちらの事など関心してないという風な態度に美琴はすぐに歩み寄って彼が両手に持つジャンプを無理矢理ひったくる。

 

「これはアンタにじゃなくてこの子に読ませるために買って来たの! それとギンタマンは永久に不滅!」

「不滅じゃねえよ、とっくに滅亡してんだよギンタマンなんて」

「そんな訳ないでしょ! ねえ黒子!」

「なんでそこで私に振るんですの? 生憎ですがわたくしもその漫画嫌いですわ」

 

ムキになった様子で黒子に助けを求める美琴だが、無情にも黒子はその助けを仏頂面で拒否する。

 

「低年齢対象の雑誌に載せるべきではない内容が多いと聞いておりますし、わたくしとしてはお姉様にそんな物を読んでほしくないというのが本音ですの」

「そこがいいんでしょ! ジャンプでありながらとことん我が道を行き! 道が逸れようと全力でつっ走ろうとする姿!! 私はそんな所に共感してこの漫画が好きになったの! 私から言わせれば王道漫画なんてもう古いのよ! 麦わら海賊団も美食屋も木の葉の忍ももう時代遅れ! 時代は新しき風を吹かせるギンタマンなんだから!」

「完璧盲信してますわね」

「なにギンタマンって? 宗教的なモン立ち上げる気なの? こういう信者一杯量産してんのアレって?」

 

半狂乱で怒鳴り散らす美琴に冷めた表情で黒子と銀時が呟いてる中、ぼんやりと座っていた滝壺が美琴に向かって手を伸ばす。

 

「みこと、それ貸して。漫画とかあまり読んだ事無いけど入院してるとヒマだから読んでみたい」

「あ、もちろんよ! 穴が開くほど読みなさい! ええっとまずこのギンタマンって奴がジャンプで一番面白い作品で……」

「おい信者、早速いたいけな少女を勧誘してんじゃねぇよ」

「お姉様、さすがにそのような事をするのは止めて下さいまし。見てて泣けてきますので」

「アンチギンタマン派は黙ってろ!! こうでもしないとファンが増えないのよ!!」

 

滝壺が興味を示した途端、美琴はすぐ様持ってたジャンプをパラパラめくって一気にギンタマンが載ってるページに。

その必死さに銀時と黒子も呆れていると、先ほどからずっと美琴に存在を無視されていた男が一人。

先日、彼女と一悶着あったばかりの沖田総悟である。

 

「おい”第三位”。ウチの所のガキになに汚ねぇ漫画読ませようとしてるんでぃ。会話中に突然「オイィィィィ!!」とか叫ぶ女子になったらどう責任取るつもりだオメー」

「話しかけんじゃないわよ、こっちは当分真撰組なんか視界にさえ入れたくない気分なんだから」

「おいおい随分な嫌われようだな」

 

腕を組んでこちらに喧嘩腰で話しかけてくる沖田に美琴がムスッとした表情を浮かべて顔を上げた。

 

「アンタまだあの子(絹旗)の事捕まえようとしてんじゃないでしょうね?」

「その件はもうとっくに白紙になってんだよ、こっちの都合じゃなくて上の都合でな。それに今の真撰組はあんなガキ追いかけるヒマさえねぇ」

「白紙って……何かあったの?」

「ガキのお前に教える事じゃねぇよ」

 

絹旗捜索とその捕獲には真撰組は一切関わらないとあっさりと言う沖田に美琴は怪訝そうに顔をしかめた後、銀時と黒子の方へ

 

「アンタ達なにか知ってる」

「ああ、真撰組はこれからゴリラのチ○コを柱にして生きていくんだとよ」

「いや意味わかんないんだけど!? どういう事!?」

「お姉様に向かってなんて言葉を口にしているんですの! 違いますわお姉様。ゴリラの股の下でぶら下がって、ふにゃふにゃしててたまに堅くなったりする卑猥なアレが、真撰組の為に生け贄として幕府の上層部に献上されるとか」

「もっと意味不明になってる上に表現もより生々しくなってるじゃないの! もういいアンタ達は黙ってろ!!」

 

自分で話しかけておいてすぐ様黙れと一喝する美琴に銀時と黒子が不満そうにしていると、ジャンプを両手に持って読んでいた滝壺が彼女の方へチラリと顔を上げる。

 

「きぬはたは大丈夫なの? 住める所見つかった?」

「え? ああまだ見つかってないからとりあえず仮住居として私の寮の部屋に住ませているわ。ついでにチャイナ娘もね」

「そう、良かった」

 

どこか絹旗に思う事があるのか、滝壺は彼女の今後の状況を心配していたらしい。

幸いお登勢が特別に許可したのか、一時的に常盤台の女子寮で預かっているらしい、神楽もおまけで。

その事に安堵した表情で頷く滝壺ではあるが、彼女達が自分達の寮に、あまつさえ自分と美琴が共同で住んでいる部屋にいると聞いて黒子は黙っていられなかった。

 

「お姉様!! ま、まさかわたくしが留守なのをいい事に! あの変な二人組を私とお姉様の愛の巣に入れ込んだというんですの!?」

「変なのはアンタも変わらないでしょ、愛の巣って何よ……。問題ないって、アンタが退院した時には別の所に預けるってお登勢さんが言ってたし」

「いやそれでも納得できませんわ! わたくしがいない中でお姉様あの二人と同じ部屋で……汚れてしまう! お姉様の純潔が汚れてしまいますわ!」

「汚れてるのはアンタの頭でしょ」

 

我も忘れて取り乱しながらこちらに目を血走らせる黒子に冷めた表情で美琴がツッコミを入れる。当然彼女が考えてるような事などある筈がない

 

そして美琴に諭されてもまだ落ち着く素振りもみせない黒子の傍らで、胡坐を掻いて膝の上に肘を突いて座っている銀時がけだるそうに口を開いた。

 

「ババァは別の所に預けるって言ったらしいが、一体どこに送るんだよあんな連中。あのチャイナ娘はともかくもう一人のガキはそう簡単に住める場所見つけられねえぞ?」

「ああ、それね。とりあえずアンタが退院した後に考えるんだって」

「おいおい、俺達が退院した時にそのガキ共を預ける手配するんだろ。間に合わねえよそれじゃ」

「だからちゃんと住める場所が見つかるまで、あの二人は”アンタの所に預ける”って事よ」

「ふ~ん……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

かなりとんでもない事を口走ってるのに至って自然に言ってしまう美琴に銀時は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「出来るわけねえだろそんな事! ウチのオンボロアパートにあんな小娘二人も住まわせられるか!」

「だから早い所新しい住処探せって事よ、”アンタがね”。言っとくけどこれお登勢さんからアンタへの命令よ」

「ふざけんなあのババァ! テメーの所の教師に家出少女預けるとか何考えてんだ!」 

 

お登勢からの差し金と聞いて銀時は額に青筋を浮かべて怒りをあらわにする。

怪我も完治していない状況だがそんな事さえ忘れるぐらい彼の怒りのボルテージは頂点に達していた。

 

「安月給の上に身寄りのないガキも住まわせてやれとかそんなの俺が納得するわけねえだろ!」

「旦那、最初に言っておきますが」

 

美琴に向かって激昂する銀時、すると滝壺の隣に座りなおしていた沖田が仏頂面で彼に向かって

 

「犯罪に手を染める真似はしないで下さいね。こっちはそういう事する輩は容赦なくしょっぴくのが仕事なんで」

「しねぇよ殺すぞコノヤロー! 俺は仕事の上でガキの面倒見る機会が多いだけでそういう性癖は持ち合わせてねぇんだバカ!」

「あ、そうだったんですかぃ、すいやせん誤解してやした旦那の事。あ、そうそう、互いに同意の上でも立派な犯罪ですからね」

「誤解してるまんまじゃねーか! 信じろよ銀さんの言ってる事!」

「いやね、もしかしたら既に」

 

沖田はチラリと銀時の隣に座っている黒子の方へ目をやる。

 

「”そういう関係になってるガキ”がいるんじゃないかと疑ってやして、誰とは言いやせんが」

「おい、コイツを俺達より長い入院生活送らせるようにするから手伝え」

「あなたが言わずともこの黒子一人でこの男を始末しようと思ってましたの……」

「止めてくれやせんか? 病院ん中で患者に襲われて怪我するとかさすがに笑えねぇんで」

 

明らかに変な疑いを持たれる事を察した銀時は黒子と共に、今すぐにでも沖田に襲い掛かろうとする算段を練り始め。これには沖田も頭をポリポリ掻いた後、急いで退散の準備に入った。

 

「じゃあ俺はここで逃げ出すとしますかぃ。おいケツ吹き係」

「なぁにそうご?」

 

ケツ吹き係などと呼ばれてもなんの抵抗も見せずにジャンプの読書中から顔を上げてきた滝壺に、立ち上がり様に沖田は口を開く。

 

「退院したらテメェの身柄はまたウチの屯所で預かってやらぁ。ま、送り先見つけたらすぐにポイッて捨てるつもりだがな」

「……私やっぱり役に立たなかったかな?」

「ああ、ヤクがねぇと使いモンにならねぇガキなんざ、ウチにはいらねぇ」

「そっか……」

 

あっさりと冷たく言い放つ沖田に滝壺は表情には見せないものも少し落ち込んでる様な気配がした。それに気づいた美琴がムカッとしながら背を向けて歩き出す沖田を睨み付ける。

 

「いくらなんでもそんな言い方ないでしょアンタ。捨てるとかいらないとか人に向かってよくそんな事言えるわね」

「ウチは身寄りのないガキを世話するような慈善団体じゃねぇんだよ。泣く子も黙る武装警察の真撰組だ。使えねぇと判断すりゃあ即座に斬り捨てる。短けえ間だったがオメェの面倒はこれっきりだ」

「ちょっと!」

「ううん、いいのみこと」

 

さすがに言い過ぎだと美琴がギリっと歯を食いしばって彼に詰め寄ろうとするが、滝壺が彼女に手を出して止め、こちらに背中を見せたままの沖田に小さな口を開いた。

 

「役に立てなくてごめんね、それと今までありがとう」

「……そいつは次の預け先が決まった時に言ってくれ。面倒だがそれまではテメェの寝床とメシ、話相手ぐらいはしてやらなきゃいけねぇんだ、伊東さんからテメェを押し付けられてるからな俺は」

 

振り返らず、表情を見せずにそう言いながら沖田は病室のドアから出て行く。

 

「それにどこか、テメェでも役に立てるような場所が見つかるかもしれねぇしよ」

「……そんな所ないと思うけど」

「探す努力もしてねぇ奴が知った口叩いてんじゃねぇ、ま、それが見つかるまでは我慢してやらぁ」

 

最後にそう言い残し、沖田は滝壺と他三人を置いてその場を後に去って行った。

 

「何よアイツ……アンタも文句の一つや二つぶつけてやればよかったじゃない、いくら世話してもらってるからって」

「文句なんかない、そうごは短い間だったけど私と一緒にいて私の事を見てくれた。少しの間でも私の居場所を作ってくれた。それだけでも私にとっては本当に嬉しかったの」

「……そう」

 

沖田が閉めて行ったドアの方へ真顔のまま呟く滝壺に美琴は神妙な表情で静かに頷いた。

それを傍観していた銀時と黒子も彼女が彼に多大なる恩義を感じてるのだと理解する。

 

「滝壺さんにとってはいくらあんな腐れ外道の野郎でも大切なご友人なのですね」

「くされげどうって何?」

「あの男やわたくしの隣にいるこの銀パの男が当てはまる様な輩ですわ。人として底辺、それはそれはとても深い所にいる人間ですの」

「へー」

 

キチンと黒子が説明して上げると今度は銀時が隣にいる彼女を指さしながら

 

「そして俺より底辺な奴ってのは嫌がる相手に何度も変態行為をしでかすコイツだ。覚えとけ」

「わかった、私は最底辺の変態なくろこを応援する」

「な! 騙されてはいけませんわ滝壺さん! わたくしは最底辺でも変態でもありませんんの! ねぇお姉様!」

 

 

銀時にカウンターを決められて黒子があせあせと慌てながら必死に弁明する為に美琴に話を振る。

 

「わたくしはただ少しだけ普通の人より情熱的で過激なだけですわよね!」

「いやそれが変態なのよ、人の下着隠れて盗んでる事が過激で済むわけないだろうが」

「……いつお気づきになられてましたの?」

「日に日に箪笥から下着が消えていったら誰だって気付くわよ。今度やったら寮監呼ぶからね」

「……」

 

弁明しようと思ったらうっかり余計な事まで掘り当ててしまった事に黒子は頬を引きつらせて固まってしまう。

 

「わたくしとした事が……変わり身の下着を用意しておくのを忘れておりましたわ」

「そういう問題じゃないでしょうが!」

「なんならこれからはわたくしの下着とお姉様の下着を交換するというのは! どふッ!」

 

名案だと言わんばかりの表情でこちらに輝く笑顔を見せた黒子にすかさずストレートをその顔面に一発お見舞いする美琴。

 

「ジャッジメントに通報しようかしら……」

「……も、申し訳ありませんの……黒子が悪い子でした……」

「つーかよ、コイツが変態とか通報されるとかそんな話より」

 

頬を摩りながら黒子が涙目で美琴に謝ってると、銀時がしかめっ面で先程前に終わった話をまた蒸し返し始める。

 

「マジで俺があのガキ二人の面倒見る訳? マジであのババァそんな事言いやがったの? 面倒事を全部俺に押し付けやがったのあのババァ?」

「だからマジって言ってるんでしょ。私だってアンタに大切な友達を預けるのは心許ないんだけど、お登勢さんが言うには、アンタって女の子預かるの初めてじゃないみたいだし」

「余計な事をコイツに言いやがって……」

 

腕を組んでジト目を向けてくる美琴に銀時はハァ~とため息を突くと、隣にいた黒子が頬の痛みを忘れて「ん?」と彼の方へ振り向く。

 

「あなた以前から子供とお住まいになられていましたの? まさかホントにそういう趣味があるんじゃなくて?」

「埋めるぞクソチビ。ガキと住んでたっつうのは今の狭いボロアパートじゃなくて、かぶき町に住んでた家の時での話だ。短い間だったがな……」

「ほほう、一体どのような子供とご一緒にお住まいに?」

「……お前ホント人の過去を聞きたがるよな。こればっかりは絶対言わねぇ」

 

何故かは知らないが黒子は銀時の過去に触れる件については人一倍敏感に反応する姿勢を見せていた。銀時もついそんな彼女に色々と漏らしてしまう事があるが、この件については口が裂けても彼女に言いたくなかった。

 

「そんな事よりあのガキ二人の事だろ、俺はぜってーイヤだからな。ババァにそう伝えとけ」

「同居の相手はわたくしやお姉様と同じぐらいの子でしたか?」

「しつけーよチビ助! 言わねえってつってんだろ!」

 

身を乗り出してまだ食ってかかる黒子に銀時が叫びながら彼女の頭をむんずと掴んで黙らせようとする。

しかし彼がそうしている中、美琴がポツリと

 

「それじゃあ本人に直談判したらどう? さっき連絡合ったんだけど、お登勢さんもう病院に着くって」

「ああ!? まさかあのババァが俺達を見舞いに!? 気持ち悪ぃな! なにか企んでんじゃねぇか!?」

「違うわよ、ただ”アンタ達と私”に色々と聞きたい事があるらしいの……」

 

心なしか美琴の表情がどんどん暗くなってる気がした。

 

「私達が勝手に真撰組と一悶着起こした件について……」

「……あ」

「……まさかその事でしたの?」

「私もアイツ等(絹旗と神楽)連れてく時に拳骨食らったり長々と説教されたんだけど……多分今度はアンタ達とセットでまた言われるのかもしんない……」

「「……」」

 

目を泳がせながら明らかに怯えた様子で美琴が声を震わせながら呟く。

レベル5の第三位である彼女にとって常盤台の理事長であるお登勢はどんな巨大なエイリアンよりもずっと恐ろしい相手なのだ。

そしてそれは銀時と黒子も同様で……

 

「おい、急いでここから脱出するぞ」

「は!?」

「わたくしの能力でどこか遠い所に行きましょう! そうしないとわたくし達が生き残る術はありませんの!」

「いやいや遠い所ってどこよ!」

「それはそれはとても遠い所ですの! こうなってしまってはもう海外に! いえ、異星の星へ行きましょう!」

 

焦る様子で二人が勝手に物事を進め始めたので美琴が慌てて止めに入るが、銀時と黒子はもう逃げるという選択しか考えていない様子だった。

それもその筈、この二人は前にあった攘夷浪士との抗争の件でお登勢を怒り狂わせてしまった事があったばかりなのだ。

 

「ターミナルの宇宙船の出発時刻はいつだ! 早くしねぇとババァが! ババァが迫ってくる!」

「急いで初春に連絡しますわ! 彼女にターミナル本部をハッキングして貰って宇宙船の出発を早らせましょう! 初春が無理だと言っても絶対にさせてやりますわ!」

「ちょっと待ってよ! ただ説教を食らうだけかもしれないじゃない! さすがにこんな事で故郷を捨てて遠い星に向かうなんて嫌よ私は!」

「バカ野郎! お前は説教だけで済むかもしれねぇがこっちはやべぇんだよ!」

「お姉様! 早くご両親へのお手紙を書いてくださいまし! 『あなた達の娘は一生愛すると契りを交わした白井黒子とそのペットを連れて、あなた達と地球を残して遥か遠い星へと飛びます』と!」

「んなの書いたらウチの家族大騒ぎでしょうが! バカな事考えてないで、私と一緒にお登勢さんへの言い訳の一つや二つを考えてよ! このままだと私の親に連絡されちゃうかもしれないんだから!」

 

本気で宇宙へ高飛びしようと話し合う銀時と黒子に美琴が彼等の肩に手を掛けながら、真面目に考えろと必死な叫びを上げる。

 

相変わらずどんな所でもやかましくギャーギャーと騒ぎ始める三人。

 

そんな彼等を、滝壺はジャンプのページをめくりながらそっと眺めていた。

 

「もうこんな私じゃ手に入らないと思ってたけど……そうごは言っていた。いつかこんな私も役に立てるような所が見つかるって」

 

去り際の沖田の言葉を思い出し、彼女は一つ決心する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もこの人達のような、周りにうるさいと思われるぐらい仲良く一緒に騒げる居場所を作りたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常盤台の理事長・お登勢は既に病院に着いていた。

 

「ったく銀時の奴、またガキ共と一緒に面倒な事に首突っ込んで。相変わらずガキには甘いよアイツは」

「そうみたいだね、彼は昔から子供の世話に関しては、少々、いや大分変わってはいたよ」

 

しかめっ面で病内の廊下を進む彼女の隣には、何故かカエル顔の医者が一緒に歩いていた。

前に銀時と黒子が浜面達と一緒に入院した時に診てやっていた医者である。

今回の件でも彼が銀時や黒子、そして滝壺の治療を行っていたのだ。

 

「彼は今お登勢さんの所の学校で教師をやってるらしいね。しかも”あの子達”の面倒をやりながら、実際出来ているのかい」

「どうだろうね、私はその辺はもうほとんどアイツに任せてるから。ただあの女王様とはちょっとギクシャクしてる様に見えるよ、当の本人達は自覚さえしてないらしいが。長年見てる私からすると違和感を覚えるんだよあの二人」

「ふむ、やっぱりあの御坂美琴という少女が二人の間に現れた事が原因かもしれないな」

 

銀時達のいる病室へと向かいながら、医者はお登勢と並行して歩きながら話始める。

 

「僕も”彼等の過去”には大分覚えがあるしね、大体の事は見当がつくよ」

「医者になる奴ってのはジジィになっても頭のキレがいいモンなんだね」

「僕は”患者”の事はよく覚えておくようにしてるんだ」

 

階段に差し掛かったところでカエル顔の医者は目を瞑りながらゆっくり頷く。

 

「あの二人は今でも僕の患者だ、まだ”完治”していないんだからね」

「へぇ。冥途返し≪ヘヴンキャンセラー≫とかなんとか呼ばれてる名医でも治せないモンがあるのかい」

「体の傷は治せても、心の傷となると難しいよ」

 

やや皮肉気味に自分の通称を呼ばれてカエル顔の医者はため息を突くと、お登勢と一緒に階段を登り始めた。

 

「医者が患者のプライベートに首突っ込み過ぎるのも良くない事だしね。僕にも限界ってモンがあるんだよ」

「そりゃ私でも助けにならないモンを背負い込んじまってるからねアイツ等は。アンタや私はおろか、誰も治せやしないかもしれないよ」

「いやそれはどうかな、ふぅ~」

 

やや疲れ気味に階段を登り、やっと銀時達のいる部屋がある階に辿りつくと、カエル顔の医者は立ち止まって呼吸を整わせた後、まっすぐに銀時達の病室を見据えながら話を続ける。

 

「二人の間に現れた御坂美琴という少女は、彼女の存在は今の二人にとっては過去を引きずらせてしまう元なのかもしれない、だけど医者の経験上で僕は思うんだ、もしかしたら」

 

彼はほんのちょっぴりの希望を込めて

 

その言葉を静かに口にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつか”彼女という存在”ではなく”彼女自身”が二人の心の傷を塞いで”完治”させてくれる存在になってくれるかもしれないと」

 

 

 

 




あとがき
これにて第二章は終わりです
主に真撰組との抗争を中心にしたお話でした。何気に原作アイテムや原作万事屋も出ていたりしてます。

それでは

P・S
ツンツン頭のもう一人の主人公はその内出ます


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