禁魂。   作:カイバーマン。

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第二十三訓 電撃少女、仲間割れの果てに啖呵を切る

銀時・黒子・女王(女王は援護のみ)VS土方・近藤・山崎・真撰組隊士の戦いが決着を迎えている頃。

 

御坂美琴は未だその事を知らずに学園都市中を走り回っていた。

 

「上手く撒いたわね」

 

出来るだけ無関係の人間を巻き込まない様に人気のない裏路地を突っ切る彼女に。

遠い星からやって来た夜兎族の神楽と、連中のターゲットである絹旗が続いて追う。

 

「もう逃げるの飽きたアル、アイツぶっ飛ばした方が一番手っ取り早いんじゃネぇーの?」

「そうなんですよねぇもう追われる身なんですし、今更どれだけ超罪重ねようがもう関係ないと思います。という事で第三位さん、一発かましてください」

「なんで私に振るのよ。私なら罪人になっても構わないって訳?」

 

裏路地の細い道にさしかかった途中で後ろからいきなり話を振って来た絹旗に美琴は咄嗟に振り返ってジト目を向ける。

 

「とにかく今は逃げる事しか出来ないの、私の学校まで行けばきっと匿ってくれるから。アイツに手を出したら私まで犯罪者になっちゃうじゃないの」

「これですよ、私の事を助けるとか言っておきながら、結局超自分の事しか考えてないじゃないですか」

「いやそれはだって……」

「はぁ~だから友達超出来ないんですよ」

「うぐ!」

 

狭い道を走りながら後ろからため息交じりに痛い所を的確に突いた発言をする絹旗に、美琴は悔しそうに歯を食いしばりながらも走るのを止めなかった。

だが美琴と絹旗の間にいた神楽がよく考えていない表情で

 

「んー私は別にあのポリ公ムカつくからやってもいいアルよ。犯罪者になるとかよくわかんないし」

「神楽さん、友達を通りこして義姉妹の契りを交わしませんか?」

「おう、一生ついてこい義妹」

 

典型的な猪武者の様な発言に絹旗はますます神楽に対して親しみを感じるようになる。

もしかしたらこういう裏表なく、己が思うままにやりたいことをやる超自由奔放タイプに好感を持つタイプなのかもしれない。

しかし彼女の神楽に対する好意的な発言に一人納得していない少女がここに一人。

 

美琴は突然走るのを止めてキキッと靴の踵でブレーキして行進を止めた。

先頭の彼女が止まった事で神楽と絹旗も「?」と思いながらも、一本道の為彼女の横をすり抜ける事も出来ず、とりあえずその場に急停止する。

 

「どうしたアルか? ションベンでも漏れそうアルか?」

「超勘弁して下さいよ、漏らされてもしたら困りますから、さっさとその辺で済ませて来て下さい」

「あのさ……」

 

同性とはいえ年頃の女の子に度の過ぎたセクハラ発言をする神楽と絹旗に、美琴がムスッとした表情で振り返る。

 

「さっきからアンタの中では私の株が下がる一方なのに、チャイナ娘の方の株がどんどん爆上げしてる気がするんだけど?」

「……この状況でもそんな事気にしてたんですか?」

「どうやったら私の事も好きになってくれるのよ? 金? やっぱり金?」

「ああコイツ結局友達釣るのは金しかないと思ってるアル」

「あー……そういうめんどくさい態度にならなきゃ超マシになるとだけ言っておきますよ……」

 

ずいっと顔を近づけて問い詰めてくる美琴に、ウンザリした様子で目を逸らしながらボソッと神楽と絹旗が呟いていると……

 

「見つけた」

「「「!」」」

 

先程自分達がこの道に入った時に使った入口から聞こえる少女の声。

すぐ様3人は会話を中断してそちらに振り返る。そこに立っていたのは

 

「私から逃げるなんて無理だと気付いてほしい」

「アンタ真撰組の奴と一緒にいたジャージ娘!」

「滝壺理后」

「あ、どうもご丁寧に……名前覚えて無くてすみません」

 

真顔で名乗ってくれたジャージ娘、否、滝壺に申し訳なさそうに美琴が頭を下げていると。

 

「いけないねぇこんな人気のない所に来ちゃ」

 

今度は反対方向の方角、美琴達がこの道を突っ切って出ようとした不良たちがよくたむろっている裏通りの広場からスッと真撰組の制服を着たあの若者の隊士が通せんぼする形で現れる。

 

真撰組一番隊隊長・沖田総悟が不敵な笑みを構えながら壁にもたれてこっちを余裕気に眺めていた。

 

「女子供がこんな所にいちゃダメだろうが、危ねぇからお巡りさんがエスコートしてやるぜ」

「あ! テメェはあのいけ好かねぇポリ公! 待ち伏せなんか汚ねぇ手真似してんじゃねぇぞゴラァ!!」

「おいチャイナ娘、テメェはこの件には全く関係ねぇ奴だが一番先に斬ってやろうか? よくわかんねぇがテメェだけは無性にムカつくんだよ」

「上等だオラ! 私もなんかお前見てると血管はち切れそうなんだヨ! つうかもうとっくに切れてるんだヨ!」

 

現れた沖田に何か因縁でもあるのかのように過剰に噛みつく神楽。互いに悪態をついている中で

この状況に美琴と絹旗はヒソヒソと声を潜めて会話を始める

 

「……何か持ってるわねアイツ等……」

「あんなに超走り回って居場所を突き止められないよう撒いていた私達を、たった二人でこんな早く見つけられるとは……やはりあの滝壺さんとかいう人、何かの能力者なのかもしれません」

 

絹旗はチラリと滝壺の方へ目をやる。

こちらに目を見開かせてジッとこちらを見つめている。そして何より、嫌な気配を漂わせている彼女自身。

彼女を見てると、まるで目に見えない無数の手がこちらの方に伸びている奇妙な感覚させ覚える。

 

「恐らく、最初会った時点で私達になにか超施していたのかもしれません」

「読心能力系……いや、ただの読心能力でここまでピンポイントに居場所を特定できるわけが」

「ええ、彼女の能力は並大抵のモンではないのかもしれませんね。下手すればレベル4クラスかもしれません」

 

見てくれは少々地味っぽいピンクジャージを着た普通の女の子なのだが。見た目だけで判断してはいけないのがこの学園都市。滝壺もきっと何かとんでもない能力を持つ一種なのかもしれない。

 

しかしそれなら絹旗だって同じことだ。

 

「ここはあの真撰組の男より先に彼女を排除する事を超先決とした方がいいですね」

「そう、なら私が」

「いえ、ここは私一人で十分です、あなたは超邪魔ですから真撰組の方を足止めしておいてください」

「へ?」

 

レベル5の第三位を相手にして邪魔だと言いながら滝壺に歩み寄ろうとする絹旗に美琴は一瞬固まってしまうもすぐに慌てて

 

「ちょ、ちょっと! 相手が何持ってるかわかんないんだから危ないでしょ! ここは協力して一緒に戦った方が!」

「あー私共闘とか超かったるいんで嫌いなんですよ、昔から単独で敵をぶちのめす事ばかりやらされてきましたし」

 

一緒に戦おうと言い寄ってくる美琴をめんどくさそうに絹旗は手を振ってシッシと追い払おうとする。

 

「コンビプレイだの連携戦術だの、私から言えばそんな事をする奴は結局一人じゃ超何もできないような連中が集まってやる戦い方です、私はそんな情けない真似、超嫌です」

「アンタねぇ……」

 

個人的な持論を持ち上げる絹旗に美琴は若干イラッと感じた。

数少ない友人の二人はそのコンビプレイに関しては異常なほど得意としているからだ。

まだ二人の戦いを見た事無いが、数多の攘夷浪士相手や様々な敵を共闘して戦って来た事を聞いただけで十分わかる。

その戦い方を小馬鹿にされてはさすがに美琴も癪に障る。

 

「護るものは自分の身一つ、それ以外の者は全て壊してしまえばいい。あの研究所で生き抜く為にはその戦い方しか必要とされてませんでした。だからここは”私だけ”でやらせてください、じゃないとあなた達も巻き込んで”一緒に殺してしまいます”。私としてはそれだけはなんとしても避けたいんですよ」

「……アンタ見た目は普通の女の子だけど、やっぱり実験体なのね」

 

研究所で表向きには公表されないプロジェクトに参加して

実験動物同然の生き方を強要されたおかげで人格が崩壊してしまった少女

こうして普通に会話できるだけでも彼女はまだまともな部類なのかもしれないが

それでも彼女は異常であった。巻き添えに殺してしまうというのもきっと冗談で言ったのではない。

 

「見捨てても別に構いませんよ? 嫌われるのは超いつもの事だし、一人ぼっちはいつもの事です、私は平和にぬくぬくと生きている中で必死に友達作ろうしているあなたと違って、裏の世界で一人で生きていくことになんの抵抗も不満ありませんしね」

「……」

 

そう言い放つ彼女に美琴は顔を曇らせて何も言えなかった。

自分とは明らかに違う道を歩いてきた彼女に

こういう時、あの銀髪の侍なら彼女に一体なんと……

 

「御託はいい、私をここからどかしたいなら遠慮せずにかかって来て」

 

美琴が考えていた間に、突如絹旗に向かって話しかけたのは意外な人物であった。

前方で虫も殺せないような顔で突っ立っている滝壺だ。

 

「私が”そうご”に命令された事はただ一つ、あなたを捕まえる事。ただそれだけ」

「ほほう、超いい度胸じゃないですか滝壺さん。その綺麗な顔に免じてツラだけは傷つけないようにしてあげますよ。ま」

 

ボーっとした表情には似合わない台詞を吐く滝壺に絹旗は面白くなってきたという風に挑戦的な笑みを彼女に浮かべる。

 

「ツラ以外は遠慮なくぶちのめすつもりですから、逃げるなら超今の内ですよ」

 

そう言いながら絹旗は拳を軽く握る。どうやら本気で彼女を”壊しに”かかるつもりだ。

しかし彼女も畜生ではないのか、戦いたくないなら逃げろという言葉を付け足す。

だが絹旗のそんな心遣いも意味なく、滝壺はフルフルと首を横に振って

 

「逃げても行く当てがない、私の”居場所”はここしかないから」

「……逃げれないなら超仕方ありません」

 

少しばかり彼女が何故真撰組の下で働いているのかわかってきた絹旗だが、それだけで戦いたくないなどという甘い結論には至らなかった。

 

肩から力を抜いてゆっくりと深呼吸し、目を閉じて数秒の間を置いた後……

 

「見せて上げましょう「暗闇の五月計画」によって生み出された能力の一つ。レベル4・「窒素装甲≪オフェンスアーマー≫」を」

 

いきなりカッと目を見開いたかと思えば滝壺に向かって弾丸の様に走り出す絹旗。

 

「ご心配なく、殺しはしませんよ。数か月ほど超マズイ病院食を食べる生活を送る事を余儀なくされるだけですから」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 勝手な事してるんじゃないわよ!」

「頼みますからあなたは来ないで下さいよ、巻き添えにしてあなたまで病院送りにしたらさすがに目覚めが超悪いです」

 

後ろから叫んでくる美琴に対し無愛想に呟きながら絹旗は一気に滝壺に迫り……

 

「お大事に滝壺さん、たまにお見舞いに行ってあげますよ」

「そう、でもごめんね。きぬはた」

「え?」

 

拳を振り上げ迫ってきた絹旗に対し、滝壺はスッと”ある物”を手に取ってそれを彼女に向ける。

 

その形はテレビに使うリモコンの様な……

 

「お見舞いは”私が”行ってあげるから」

 

そう言って彼女はポチッとリモコンについてるボタンの一つを押した。

その瞬間、絹旗の動きが急停止したかのようにピタリと止まる。

 

「……あれ?」

「ど、どうしたの!? そいつに何かされた!?」

 

振り上げた拳を滝壺に落とさずににすっと簡単に下ろしたばかり。

絹旗はきょとんとした表情で美琴に向かって振り向くやいなや

 

「……私の能力ってなんでしたっけ? なんか超ド忘れしてしまったんですけど?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

いきなり自分の能力忘れたかとか冗談でも笑えない事を言ってのける絹旗に美琴は思わず口を大きく開けて驚いてしまった。

 

「何言ってんのよアンタ! ここまでシリアスっぽく来てたのにそんなボケいらないでしょうが!」

「いやいや超ボケてませんよ! いやボケてるんですかね私……。本当に能力忘れてしまったんですよ……とほほ」

「とほほじゃないわよ! さっきまでの威勢はどうした! それに能力ってさっき自分で言ってたじゃない!」

 

敵前の前でしゅんと落ち込んで見せる絹旗に美琴が慌てて声を荒げて話しかける。

 

「窒素装甲≪オフェンスアーマー≫でしょ!『暗闇の五月計画』で生み出されたんでしょ!! レベル4なんでしょ!!」

「窒素装甲? 暗闇の五月計画? ぶ、なんですかその超厨二臭いネーミングと設定。ダサ過ぎて引きます。こんな時になに超恥ずかしい妄想設定暴露してるんですかあなた、さすが中学生ですね」

「おのれが言ったんだろうがぁぁぁぁぁぁ!! つうかアンタも中学生!!」

 

名前を聞かされても自分の能力と過去に関わった実験の計画の一つだと気付かずに美琴に向かって小馬鹿にするようにニヤニヤ笑いだす絹旗。

そんな様子の彼女を見て、美琴は彼女に起こった異変の方に疑問を持った

 

「何があったっていうのよ……そういえばさっきあのジャージ娘……滝壺って娘があの子に何かを向けてたような……もしかしてそのせいで」

 

いち早く滝壺の持ってるリモコンに勘付いた美琴であったが、その間に滝壺は無表情でジリジリと、逃げ場が後ろにしかない狭い道を歩きながら絹旗を追い詰めていく。

 

「じっとしててね」

「いやぁじっとするも何も……何をすればいいのかさえわからなくて……滝壺さん、私の能力知ってます? 超強い能力だった気がするんですけど」

「ごめん知らない」

 

後頭部を掻きながら小首を傾げ、純粋に尋ねてきた絹旗に対し滝壺はリモコンを表情を崩さずに手を伸ばすと

 

「イデデデデデ!! なんで私のほっぺた引っ張ってるんですか滝壺ひゃん!」

「そうごから聞いた、弱ってる相手は更に痛みつけておけば反抗する気も失せてあっという間にこちらの思うままに操れるって、だから」

「痛い痛い! 本当に超痛いんです!! ほっぺた千切れちゃいます!」

 

能力を失ってしまった絹旗などただの生意気なチビッ子に過ぎない。

そんな彼女に滝壺は一切躊躇見せる事無く頬をぐにーっと強く引っ張って痛めつける。

 

「すごい、きぬはたのほっぺは引っ張ると凄く感触が気持ちいい、是非もっと堪能したい」

「いぎゃぁぁぁぁぁぁ!! この人見た目はぽけーっとしてるのに蓋を開ければ超天然のサディストじゃないですか!! 止めて下ひゃ……あがぁぁぁぁぁぁ!!」

「プニプニしてる」

 

懐にリモコンをしまって今度は両手で思いきり絹旗の両頬を横に引っ張り始める滝壺。

しかも目がキラキラと輝き始めている、可愛い物を見つけて心ときめかせている乙女の目だ。とても人を傷つけている者がする表情ではない。

そんな彼女に絹旗が命の危機とは違う危機感を覚えるのも当然の事。

両頬を引っ張られてその頬を揉まれながら絹旗は痛みと恐怖で涙目になってしまい、遂には強者は一人で戦うべきというポリシーに反して

 

「助けて下さい御坂しゃん! 能力も忘れちゃってもうなんにも出来ないんれす! 超お願いしまひゅ!」

「え~、けど私が出たら超邪魔なんでしょ~? 巻き添えにされて病院送りにしたくないんでしょ私の事~?」

「こ、このアマ! 私が弱体してるのをいい気味だと思って急に露骨な態度に! むきー! そういう所が友達出来ない理由なんでしゅよ! もういいれひゅ!」

 

顔をガッチリとホールドされているので振り向けないが、恐らく自分の背後にはドヤ顔でニヤニヤしながらこちらを傍観者として眺めている美琴の姿があるのであろう。

その姿を想像しつつ絹旗はイライラしながらもう一人の救援を呼ぼうと。

 

「ぼっちのあなたなんかいなくても私には頼もしい義姉がいるんでしゅ!! 神楽ひゃん!!」

「あ、チャイナ娘ならとっくにあっちで真撰組の奴と”よろしくやってる”わよ」

「ふえ?」

 

神楽に助けを求めようとする絹旗だが背後からその返事は聞こえなかった。代わりに美琴が今彼女が何やってるのか教えてあげた。

現在美琴の目の前で行われてる出来事はというと

 

「アチョォォォォォォォ!!!」

「チャイナ娘ぇぇぇぇぇ!!!」

 

細い道を通った先にある、恐らくこの辺の不良達が溜まり場に使ってそうなスペースの広い場所。

 

そこでは夜兎族である神楽が雄叫びを上げて傘を振るいながら、真撰組一番隊隊長の沖田総悟と盛大に戦いをおっ始めていたのだ。

 

「死ねぇクソポリ公!!」

「おめぇが死ねクソガキ」

 

周りにある雑居ビルの裏側にあるパイプを踏み場として利用してあちこち飛び回る神楽に、軽々とついて行きながら、接近して右手に掴む刀を振り下ろす沖田。

だが神楽は足位置が悪い状況でもそれを軽業師の如く身を翻して避けるや否や、空中で上手く体制を整えて両手に持った傘を構えて

 

「ほっちゃぁぁぁぁぁ!!」

「ふん、おせぇ」

 

豪快に振り下ろしてきた、傘とはいえ神楽が使っている傘はそんじょそこらの傘ではない。

太陽に弱い夜兎族が自らを守る為に使い、更に戦闘能力を飛躍させるための武器として用いられているからだ。

彼女が振り下ろした傘に対して沖田は鋭い反射神経で後方に避けるも。振り下ろした先にあった鉄板やらパイプやらは大きな音を立てて粉々に散っていく。

その威力に思わず敵である沖田も「おー」と呑気に呟いてしまうが

神楽の攻撃はそこで終わった訳ではなかった。

突然、彼女の持つ傘の先っぽが赤く光り……

 

「ハチの巣にしてやるぞゴラァァァァァ!!」

「なに!? チッ!」

 

傘の先っぽから盛大な音を鳴らしながら次々と鉛の弾が勢い良く飛ばされたのだ。近接武器かと思いきや飛び道具まで搭載、こんな事も出来るのかと、これには表情をあまり崩さない沖田も驚くが、すぐにその場からジャンプして真上にあった鉄板に着地すると。

 

「そんなちゃっちい鉛弾程度で、”コイツ”を相手に出来んのか?」

「!!」

 

神楽より高い位置に降りた沖田がいつの間にか両手に抱えていた物、それは

 

数刻前に美琴達がいたコンビニを爆破させた真撰組専用特製バズーカ

 

「そのブサイクなツラ事消し飛ばしてやるぜ」

 

一体どこに隠し持っていたのかという謎と共に神楽を吹っ飛ばそうと。

沖田は彼女に標準を合わせながらニヤリと笑ってピッとトリガーを押した。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、人気のない路地裏で派手な爆音が鳴り響く

 

 

「ふ、あばよ」

 

手応え有りと感じた沖田はバズーカを肩に掛けながら、着弾して酷い惨状になっている場所から立ち籠る煙に向かって笑いつつ呟くが

 

「あ」

「おいコラァ! この作品で最も可愛いヒロインになにしとんじゃぁ!」

 

足の踏み場も少ない場所で、沖田のバズーカをもろともせずに神楽はピンピンとしていた。

 

夜兎族の傘を開いて彼の砲撃を正面から受け切ったのだ。傘の表面には傷は付いてるものの穴すら開いていない。

 

「グロデスクな死体になる所だっただろうがぁ! 私がそんな事になったらお前絶対読者に叩かれるかんなぁ!!」

「へ、そんなもん『3年A組銀八先生』の時からとっくに経験済みでぃこっちは、痛くも痒くもねぇ」

「てんめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

軽い挑発さえ流せずに神楽は方向を上げながら沖田の方へ飛び掛かる。それにすかさず沖田もバズーカを下ろして刀を抜く。

 

互いに一進一退、二人の決着はまだ見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一部始終を眺めていた美琴はポツリと

 

「へ~よくやるわね、あの真撰組、チャイナ娘の方も凄いわ。天人にもあんなのがいるのね」

「ちょっとなんなんれひゅ~か! 音とか声しか聞こえませんけどあっち超派手なバトルおっ始めてるみたいじゃないでしゅか~!! いでででで!!」

「びよ~ん」

 

沖田と神楽が一瞬の隙さえ見せれない壮絶な戦いを行っている中で、美琴はただの見物人。絹旗はというと滝壺にいいようにおもちゃにされているだけであった。

 

「私も神楽しゃんみたいな超カッコよくてアクション決める戦いがやりたいんですよ! なのにただ私がほっぺた引っ張られるだけとか! 超地味じゃないでひゅか~!!」

「わかった、じゃあほっぺたつねるのは止める」

 

あっちが派手にやってる一方でこっちは物凄く地味で一方的な戦い。

それに対して不満を漏らす絹旗に気を使ったのか、滝壺は彼女の両頬から手をパッと放して今度は腰に……

 

「それじゃくすぐり攻撃」

「いやそれなら痛くはないですけど結局地味な事には変わりな……ぎゃはははは! た、滝壺さん! どうしてそんな的確に私の急所を! だひゃひゃひゃひゃ!」

 

無能力者となってしまっている絹旗を徹底的に好き勝手遊ぶつもりなのか、彼女の細く凸凹の少ない体に抱きついてまさぐり始める滝壺。

痛みは無いが、今度はくすぐったさのあまり苦しくなって、絹旗は呼吸さえまともに出来なくなってしまった。

 

「うしゃしゃしゃしゃ! た、た、助けてみしゃかしゃん!!」

「あ~止めてよその変な笑い声、ウチの黒子もたまにそんな感じに笑うからさ、「ぐへへへ~」ってホント気持ち悪くってやんなっちゃうわ」

「あなたの数少ない貴重な友達の話なんて超どうでもいいんですよ! お願いだから滝壺さんを止め……! ぐひゃひゃひゃひゃ!!」

 

傍から見れば女の子二人で抱き合ってる微笑ましい光景なのだが、当人の絹旗は必死に美琴に助けを求めている。もはやプライドもへったくれもないのであろう、藁にもすがる勢いだ。

 

「ふえ~ん! お願いします超苦しいんですよ~! 滝壺さんほんとくすぐるの上手くてふへへへへうえ~ん!」

「泣くか笑うのかどっちかにしなさいよ……仕方ないわね、そこまで言うなら」

 

嗚咽を漏らして鳴き声を上げつつ笑い声まで上げてしまう可哀想な生き物になってしまった絹旗に、美琴は哀れみの視線を送りつつ彼女達の方に歩み寄った。

 

「とはいえ……あの能力の記憶を奪うリモコンってのがもし私にも効いちゃったりしたら……いや待って、もしかしたらアレって……」

「心配してるの? じゃあ試しに使ってあげる」

「!」

 

近づいてくる美琴がこちらの動きに気づいていない内に、滝壺は笑いすぎて苦しそうにダウンしている絹旗を片腕で抱き上げながら、いつの間にか片方の右手にはあのリモコンをしっかり持って彼女に突き付けていたのである。

 

「痛みはない、ただ忘れるだけ、自分の能力がなんだったのか、どんな演算処理を行っていたのか、自分だけの現実という能力活用の本底を全て綺麗さっぱり失うだけ」

「……」

「それにもし能力なんてものが無かったらお友達のいない”みこと”もいつかはお友達が出来るかも」

「どういう意味よそれ……」

「その通りの意味」

 

記憶を奪うリモコンと人質まで所持している事にこちらが完全に有利だと思ったのか

滝壺はこちらを睨み付けて固まっている美琴に向かって冥途の土産とばかりに話始める。

 

「私達学園都市の人間にはたくさんとは言えないけど能力者がいる。その中には人を簡単に傷つけたり殺す事だって出来る能力者もいる」

「そうね、能力を使って無差別に無能力者を襲う輩がいるってのもよくある話だし」

「そんな能力者に周りの人間が怯えて近づかないのは至極当然の事」

「……」

「だから私があなたのそんな危険な能力を奪ってあげる」

 

話をしつつ、リモコンを突き付けながら滝壺はボタンに指を伸ばす。

 

「きぬはたも能力を忘れちゃったから何もできない、こうなれば普通の女の子。そのまま普通に学校に通って普通の生活を送ればいい。そうすればこの子も自分の居場所が作れる」

「それがそいつの為になると思ってる訳?」

「うん、普通の生活。それは当たり前だけど誰もが欲しがる環境。あなただってただの能力者じゃないんでしょ? それも人なんて簡単に消せちゃうぐらい、あなたのAIM拡散力場を見ればわかるよ」

「AIM拡散力場を見れるですって? 一体どうやって……」

「私はレベル4の高能力者、能力名は『絶対追跡≪AIMストーカー≫』」

 

美琴が出来るだけ話を伸ばそうと質問を何度もしてみると、絶対有利と過信している滝壺はきちんと正直に答えてくれた。

 

「例え宇宙に飛び出て異星に逃げようと、一度その対象のAIM拡散力場を記憶すれば追跡できる。それが私の能力」

「なるほどね……それで私達を簡単に追い込んだって事か」

「成長すれば”もっと凄い事”も出来るって言われてる。でもまだまだ勉強しないと」

「それを聞けてよかったわ。つまり能力の記憶を奪うってのはアンタの能力じゃなくて、そのリモコン自体って訳ね」

「私がそうごから借りたの。あなた達を追い詰めるために使えって」

 

こうもベラベラと自分の能力や持っている道具の事をバラすとは予想外だと、滝壺の天然な所についジト目で呆れてしまっている美琴が隙を作っている内に彼女が動いた。

 

「そして今がその時」

「! 待って! まだ私アンタに色々と聞きたいことが!」

「終わってから聞いてあげる、大丈夫。能力を失って無能力者になった方がきっとあなたを受け入れてくれる人が増える」

 

もう話す事はないと、遂に滝壺はリモコンに付いてるボタンに指を当てて

 

「みことはもう”私みたいな一人ぼっち”にならなくていいんだよ」

 

そう言ってピッとボタンを押してしまった。

 

 

 

 

 

だが次の瞬間

 

 

 

 

 

「いっつ!」

「え?」

 

滝壺がボタンを押したと同時に

突然美琴の頭からバチッと電撃の火花が飛び出す。

頭がのけ反る程の衝撃に美琴は頭を押さえるも

 

「もしかしたらと……薄々期待していたけどどうやら私の推測は当たってたみたいね……」

 

ヨロヨロとふらつきながら美琴は目をぱちくりさせて驚いている滝壺の方に顔を上げた。

 

「私から能力奪えると思ったら大間違いよ」

「……そんな筈ない、第五位の能力を応用したこのデバイスが効かない相手なんて……」

「そう、だったら教えてあげるわよ、私がちゃんと私の能力を覚えていると証明する為にもね」

 

勝機を揺らいだ事に思わず小刻みに震えて動揺の色を見せてしまう滝壺に。

美琴は腰に右手を当てて自信満々な表情で答えた。

 

初めて絹旗と神楽に会った時の様に

 

「常盤台が誇るレベル5の第三位! 超電磁砲の御坂美琴! 本気になれば気に入らない物は一瞬でこの世から抹消する程の電撃をお見舞い出来るのよ!」

「超電磁砲……あなたが」

「そ、私って”デフォ”で電磁バリア”張ってるの、第五位の能力が効かないのもそれが理由。とっくに本人で検証済みだから」

「そんな……」

 

レベル5の第三位と聞いてぐったりしている絹旗を掴んだまま後ずさりしてしまう滝壺。

こんな相手に自分だけでなど、いや仮に沖田と共闘しても勝つのは至難の業だ。

 

「そういやさ、アンタさっき色々と言ってくれたわね……人を傷つける能力なんて無い方がいいとか、そうすれば誰にも怯えられずに済むとか、居場所が作れるとか色々……」

 

ゆっくりと滝壺の方に前進しながら、美琴はバチバチと体から青白い電撃を走らせる。

 

「友達作るとか居場所作るとか、そんなモン能力なんて関係ないのよ。どんなに高い能力だろうが無能力だろうが、友達一杯作れるやつも友達一人まともに作れやしない奴もごまんといるのよ」

 

ジリジリと近づいて行きながら美琴はやっとわかった。

 

「たとえ私が能力失おうが友達まともに増やせないわよ、悲しいけどそれだけは自覚してんの、私が友達作れないのは能力が理由じゃない、私自身が問題だから。だから私はありのままの私でこれからも生きていく、私としての生活を送りそんな私を受け入れてくれる友達を探しながら」

 

ちょっと前に自分は一人ぼっちで構わないと断言していた絹旗に

 

「小娘風情が世間の裏側知ったつもりで好き勝手言ってんじゃねぇよ”コノヤロー”」

 

あの銀髪の侍なら何と言うかと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「社会の厳しさも甘さも知らねぇガキが!! 生意気に世間語るなんざ十年早ぇんだよ!!」

 

唾をまき散らすほど乱暴に、目を見開いて高々と一喝する美琴。

 

常日頃一緒にいたあの銀髪の侍の様に

 

 

 

 


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