禁魂。   作:カイバーマン。

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第二十訓 侍教師、窮地に追い込まれる

右手に掴むは洞爺湖と彫られた木刀。

着物の左裾には白井黒子が小さな手で振り払われないようぎゅっと握り、

坂田銀時は武装警察組織として恐れられた真撰組、数十人の隊士相手に喧嘩をおっ始めていた。

 

「ずぇぇりゃぁぁぁぁ!!!」

 

振るう木刀に力を込めて、銀時は力任せに隊士達を一振りで数人薙ぎ払う。

その迫力に隊士達は怯みはするものの、さすがは幾戦の死線を潜り抜けてきた猛者ばかり。その程度で戦意喪失する様子など微塵も見せなかった。

 

「かかれぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 

副長、土方十四郎の号令と共に一斉に銀時と黒子めがけて斬りかかる。

次々と刀を振るって襲い掛かってくる隊士達に、銀時は飢えた猛獣のような鋭い眼光で

 

「かかって来いコラァァァァァァ!!!」

 

高々と叫んだと同時に銀時の姿が一瞬にして黒子と共に消える。

唐突に消えた彼に血気が煮えたぎっていた隊士達が頭の上に「!?」と付けていた隙に、

 

「おい上だ!」

「なに!?」 

 

一人の隊士が気付いて天に向かって指さすと、そこにいたのは木刀を構える銀時と彼に寄り添う黒子の姿。

銀時はこちらに気づいたばかりの坊主頭の隊士に狙いを定め、

 

「ちぇすとぉぉぉぉぉぉ!!!」

「どぅぷ!!」

「原田ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

自慢の愛刀で空中から振り下ろして彼の脳天に強烈な一撃をかます。

隊士達がやられた男の名を叫んでいる中、地面に着地した銀時は得意げに笑っている黒子と共に再び消える。

 

「おい!あの銀髪の男に寄り添ってるガキってまさか能力者か!」

「戦う前にあんな余裕な態度取ってやったんだからそう考えるのが普通だろ!」

「消える奴とどう戦えばいいんだ!!」

 

黒子の素性を知ってどよめき始める隊士達。しかしそんな会話してる事さえ命取り。

彼等の中に再び銀時が何気ない顔で現れると

 

「やっほー」

「どうもですの」

「うお! いつの間に! って足が!」

「くそ! ちいせぇ鉄の棒が制服のズボンの裾に刺さって……」

「やれやれ、その男の方にだけ気を取られてはいけませんわね」

 

死んだ目でけだるそうにこちらに手を振る銀時に一人が近づこうとするが、黒子がそれを許さない。

銀時を残して彼の頭上数メートルに飛ぶと、スカートの下に仕込んでいる小さな鉄棒を彼等のズボンの裾を狙って固いアスファルトの地面に縫い付ける。

 

「ジャッジメントがいかにあなた方より優秀なのか、その身で体験なさいませ」

「テメェ! あのガキだけで編成された警察組織の一員だったのか!」

「どうして警察のテメェが俺達警察に喧嘩売ってんだ!!」

「いや、そりゃムカつくからに決まってますの」

「げふ!!」

 

地面に拘束されて動けない隊士の横っ面に黒子は華麗な空中回し蹴り。

彼女がスタッと着地したと同時に銀時は木刀を横に構えて、

 

「どっせい!!!!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」

 

まだ黒子の鉄棒で動けなくなっている連中を一撃で薙ぎ払っていく。

 

「この野郎!」

「おっと」

「で! うげ!!」

 

斬りかかってくる隊士達の刀を首を垂れてひょいと避けては、襲って来た奴にカウンターの蹴りをかましてノックダウンさせてしまう。

 

しかしまだまだ相手の数は圧倒的だった。銀時と黒子に向かって次々と隊士達が刃を振り上げる。

 

「全く、あの攘夷浪士などとは比べ程にならないほど厄介な連中ですこと」

 

銀時の背中に黒子がバッと現れる。悪態をつく彼女に銀時はやる気なさそうに

 

「やべぇなコレ。こっちもマジにならなきゃ死ぬかもな」

「死ぬと思ってなさそうな調子でそんな事言ってもやる気出ませんわね……」

 

全然慌てずに相変わらずの反応をしている銀時に呆れつつも黒子は彼の裾をすぐに掴んでその場からテレポート。そして

 

「仕方ありませんわね、わたくし達も少々本気を出させていただきましょう」

「暑苦しい野郎共に囲まれてもちっとも嬉しくねえ、そういう事でテメェ等まとめてぶった斬ってやる」

 

群衆の中から少し離れた場所にヒュンと現れると、黒子と銀時は彼等に向かって喧嘩上等なセリフを吐いた後、

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「いきますわよ!!!」

 

木刀を構えて隊士目掛けて突っ走る銀時とそれと並行して走り出す黒子。

しかし、隊士達がその光景を目に移したのはほんの少しの間だけだった。彼等が瞬きした時には彼等の姿は消えていて、

 

「せいッ!」

「はぁ!!」

「う! あがぁ!!」

 

群衆の中で一番先頭にいた隊士の目の前に現れると同時に木刀を振り下ろす銀時と踵落としを決める黒子。叫び声を上げて男が倒れて地面に横たわるのも待たずに銀時達はまたもや消える。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぐわぁ!!」

「くそッ! あだ!」

「どこだ一体……ぬべろッ!」

「オーホッホッホ!! 真撰組のバカ共をこうしてひれ伏させる時が来るとは! 白井黒子! ただいま絶好調ですわ!」

 

肉眼で直視できた瞬間には銀時と黒子に死角を取られて木刀や蹴りで一撃をかまされ、何が起こったのかさえ理解できないまま次々と倒されていく隊士達。

 

高速瞬間連続転移。通常、短い期間にここまで連続で使用すると演算処理にラグが生じて若干の誤差は出てしまうが、

黒子は自分と銀時を隊士達の隙を狙って巧みに転移しては、指でアリの群れを一つずつプチプチと潰すかのように倒す。

銀時は能力こそはないものの、その滅茶苦茶な戦闘能力と豊富な戦術を用いて彼女の能力を上手く利用して立ち振る舞う。

 

「教師ナメんなコラァ!! 安月給でもやる時はやんだぞぉぉぉぉ!!」

 

そのまま隊士の群集を突き進み、バッタバッタとなぎ倒していく。

 

圧倒的軍勢にたった二人で喧嘩を売った。

 

少し離れた所で指揮を執っていた土方は、その現実を目の当たりにしてはらわたが煮えくり返る思いでグッと歯を食いしばる。

 

「テメェ等! 奴等に惑わされんじゃねぇ! こうなったら俺が……!」

 

やられていく同胞を目の前にして怒らない侍がどこにいようか。

遂に腰に差した刀に手を伸ばして、土方が戦中に入ろうとするが。

彼の肩に後ろからポンと一人の男が手を置く。

真撰組・局長。近藤勲だ。

 

「なあ、あの銀髪の野郎とチビッ子とんでもねぇコンビだな、足並み揃えたウチの連中を相手にあそこまで立ち振る舞えるとは」

「なぁに呑気に語ってんだアンタは! ウチの部下共がやられてるんだぞ!」

「トシ、ちっとばかり冷静になって俺の話を聞け」

 

いつもは土方が近藤をたしなめる役なのに今はその立場が逆だった。

頭に血が上って冷静でいられない土方に近藤はフッと笑うと、自分達の部下をコテンパンにしていく銀時と黒子を眺めながら話を続けた。

 

「末恐ろしいのはアイツ等の同調性と連携だ」

「確かにな……ああいう戦い方する奴は見た事ねえ、侍と能力者のコンビなんざ」

「銀髪の野郎は能力なんて使えねぇ、あのガキの方は察するに瞬間移動みたいな事ができる能力者なんだろ」

 

銀時と黒子を見抜きながら近藤は土方に語りかける。

 

「だがあの銀髪、ガキの使う能力をまるで自分が使ってるかのように順応してやがる。トシ、お前ならどうだ? いきなり瞬間移動されてその場その場に合わせた構えと動きを取り、お前はまともに戦える事ができるか?」

「いや……やった事はねえが常人にはまず無理だろう。飛ばされた場所を予測して即対応して行動にうつるなんてまず不可能だ」

「しかしアイツは出来ている。あのガキが飛ばしてくれる場所を既に知っているかのようにな」

 

近藤が二人を評価しているのはそこだった。

本来なら転移させた所に合わせて動作をするなど出来る訳がない。

もし自分やその辺の瞬間転移能力者があの二人と同じ事やろうとしても、それは無謀ともいえるだろう。

ではなぜあの二人はそんな神業とも呼べる芸当をああもいとも容易く行っているのだろうか。

 

「アイツ等は一心同体なんだ。心や体だけでなく、頭の中までな」

「まさか……性別も年も違う二人の人間が、戦場の中で全く同じ事考えてそれを言葉に出さずに連携を組んでるというのか?」

「俺達も似たようなことは出来るが。あそこまで互いの動作、呼吸、状態、戦法、適応を読み合って戦うのは至難の業だ」

 

そう言って近藤はじっと見据えるように戦場を眺める。

 

「ありゃあ抜群のコンビネーションとかそんな言葉だけじゃ足りねえ、阿吽の呼吸、それをも超える正に二人で一人のような存在だ。どうやらあの二人、以前からこういう戦いを何度もしているようだな」

「以前から共闘してたからという理由でああまでなれるもんなのか?」

「普通の人間は無理だ、だからこれは俺の推測なのだが」

 

問いかける土方に近藤は一瞬間を取った後、ゆっくりと彼に口を開く。

 

「これだけは絶対に成し遂げようっていう強い意志が合わさったからこそ、あんな動きが出来るのかもしれねえな」

「……なんだそれ?」

「普段は仲が悪くても互いの力を認め合い、同じ志を胸に秘めている同士であれば、合わさった力は何十倍にも膨れ上がるって事さ」

「アイツ等が具体的にどんな志を持ってるのかはわかるのか?」

「さすがにそこまではわからねぇよ。相手をやっつけたいとか、誰かを助けたいとか、ある人を護りたいとか、絶対に曲げない信念とか色々あんだろ?」

 

冷静さをようやく取戻し、改まって問いかけてくる土方に近藤は首を傾げて曖昧な答えを返す。彼自身、あの二人がどうして特別なのかよくわかっていないのだ。

あくまで、幾多の戦いを潜り抜けていかにして味方を護りつつ敵を切り伏せられるか、そんな修羅場を生き抜いた自分自身の経験を元にしただけの推測なのだから。

 

「しかしこのままだとウチの隊は全滅だなぁ、ただでさえ色々と厄介事抱えてるのに、学校の先生と生徒さんに隊士全員やられましたぁなんて報告したら”松平のとっつぁん”に撃ち殺されちまうよ」

「それをなんとか阻止するのが俺等の役目だろう、あのおっさんなら容赦なく俺達の事を殺るぞ。なんか考えはないのか近藤さん?」

「当然あるにはあるが、果たして間に合ってくれるか……」

 

未だ大暴れしている銀時と黒子を打破する為にもこちらも何らかの動きが必要である。

近藤は一つ妙案があるみたいだが現状ではまだ行えない策らしい。

 

しかしこのタイミングで、この絶妙ともいえるタイミングで彼等の新たな動きが”やってきた”。

 

「局長~!!」

「む? おお”ザキ”! ナイスタイミングだ!!」

「アイツ……」

 

こちらにむかって全速力で走って来た人物に近藤が嬉しそうな声を上げている中、土方もそちらに振り返ってみる。

自分達と同じ制服を着てはいるがどことなくモブの匂いのする地味な青年がこちらに手を振りながらやってきた。

 

「山崎退! ただいま例の物を無事に手に入れて帰還しました!」

 

名を名乗りながら任務完了の報告を、誇った表情で行い胸を張る山崎の肩を力強く叩く近藤。

 

「よくやったザキ! お前の働きのおかげでこちらの勝利は確定したぞ!」

「局長痛いです、でも俺がやったっていうより”あの子”のおかげで手に入れた様なもんでして……」

 

素直に称えてくれた近藤に山崎は少々言いずらそうに小さく呟きながら苦笑していると。

新しいタバコを口に咥えながら土方が彼の方へ近づく。

 

「山崎、近藤さんの命令でなに持ってきたんだ?」

「はい副長、実は俺、天人のみの研究員だけで能力開発の実験を行っている研究所に行ってきてたんです、ある物を借りるために」

「天人のみの研究員による研究所だぁ?」

「知らないんですか副長?」

 

口をへの字にしてしかめっ面を浮かべる土方に山崎はきっちりと説明して上げる。

 

「実験内容を常に極秘扱いしている上部機関の研究所ですよ。能力開発だけでなく能力対策の兵器や能力を利用した兵器とかも扱ってて、正にこの学園都市を牛耳る天人達が、より効率よく人間共を支配する為に研究をしている場所なんですよ」

「なるほど、しつけられねぇ能力者を飼い馴らすための首輪を作る研究所か」

 

彼の説明に土方は皮肉っぽく笑って見せる。

そもそもこの街に能力者を生み出したのは他でもない彼ら自身であった筈なのに。

その能力者に好き勝手暴れてもらわない為に、今も必死に対策を練ってるのかと思うとつい笑いがこみあげてしまう。

 

「フ……で? そんな所まで行って取りに行った収穫ってのは?」

「もちろん能力対策の兵器です。苦労しましたよ」

「連中が素直にくれなかったのか?」

「そりゃそうですよ、相手が警察だからって関係ないんすよアイツ等天人は。それに前に沖田隊長がやってきて強引に”一個”持って帰っちゃったらしくて……。だからいくら時間をかけて交渉しても全然渡してくれなかったんです、だから最終的に……」

「最終的にどうしたんだよ?」

「いやその……」

「さっさと言え」

 

またもや言葉を濁してどう言おうかと困惑する表情を浮かべる山崎。

勿体ぶって言おうとしない彼に苛立ちを募らせながら土方が問いただすと、彼はボソリと小さな声で

 

「あの子が武力行使して天人の研究員ボッコボコにして無理矢理強奪しちゃいました……」

「……は?」

「ほら、最近俺と一緒にいる金髪の子いるでしょ? 局長も知ってますよね?」

「ああ、なんかいつもアンパン食ってる外人の小娘か。ザキにいつもついてまわってたあの」

「そうですそうです」

 

思い出すように近藤が呟くと頬を引きつらせながら頷く山崎。

 

「実はあの子、見た目はただの女の子なんですけど滅茶苦茶強くて……」

「いや見た目はどう見ても普通の女の子じゃなかっただろ、すげぇ変な服着てたよな、トシ?」

「なんか総悟の奴が無理矢理着せたような格好してたな、ガキのクセにSMプレイに目覚めてんのか?」

「あれ、ちょっと注意した方がいいんじゃないか? トシ、お前ちょっと言って来いよ」

 

誰だかわからないが近藤と土方にとってはその娘っ子の服装はとにかくヤバいモノらしい。

警察として忠告した方がいいと土方にその任を任せようとする近藤だが、土方は静かに首を横に振る。

 

「近藤さんがしろよ。アイツ俺が近づくと無言でノコギリやら鉈やら取り出すんだぞ?」

「それならまだいいだろ。俺なんか視界に入った時点でチェーンソー取り出してんだよ? 嫌われてるっつうよりもうファイティングポーズ取ってんだもん、殺る気満々なんだもん」

「ああすみません! そうですよね見た目全然普通じゃなかったですね! とにかく本題に戻らさせて下さい! その件は俺が注意しておくんで!」

「そうだ、元はと言えばお前がアイツの保護者みたいなモンだろ? 近藤さんや俺よりもまずお前が先に言うべきだろうが」

「ザキ、もしかしてお前があの子に無理矢理あの恰好強要していたのか? まさかお前にそんな趣味があったとは、意外と総悟と気が合いそうだな」

「違いますよ! 会った時からあの露出の際どい格好してたんです! つーか本題に戻させろって言ってるでしょ!」

 

全く別の話にすり替えてくる二人に遂に山崎がキレてすぐに話の軸を戻して話し始めた。

 

「とにかく! 思いっきり研究所で暴れて無理矢理奪っちゃって来たんですよあの子が!」

「能力対策を実地してる実験所なら能力者のガキが暴れようが問題なく処理できんだろうが」

「あの子能力者じゃないんですよ」

「あ? この街のガキなんだろ? だったら能力者か無能力者しかいねぇじゃねぇか? まさかなんの能力も持ってない無能力者のガキが大量の天人がいる研究所に殴り込みに行った訳じゃねぇよな?」

「違うんです、能力者でも無能力者でもないんですよあの子は……なんかこう、口で説明すると難しいんですけど。なんか”オカルト”っぽいていうかそんな変な類のモンが使えるみたいなんです、能力じゃない”似て非なる存在の物”を扱えるとかなんとか……」

 

自分でも何言ってるのかよくわかってない様子で首を傾げながら必死に説明しようとする山崎だが、少し喋った所で断念する。見た自分でもあまりわからなかったのだ。

 

「まあとにかく……俺等の知らない不思議な力が使えるんですよ、それで俺は強奪する形で能力対策のアイテムを入手するに至る訳です……」

「お前適当な事ほざいてんじゃねぇぞ、なにが不思議な力だ、この街でそんな摩訶不思議な話通じると思ってんのか?。おいガキ呼んで来い、本人から聞けばわかるだろ」

「あ、今はいませんよ。なんか”その辺のコンビニ”でサンデー立ち読みしに行くとかで」

 

バツの悪そうな表情で山崎がそう言うと土方は短く舌打ち。

 

「妙な恰好したちんちくりんな変人娘のクセにサンデー派かよ……」

「いや妙な格好しててもサンデー読んでていいでしょ別に……」

「まあいい、ガキの素性は後で割るとして。それよりも」

 

とりあえず山崎の後について回る謎の少女の件は置いといて

 

土方はタバコの煙をゆっくりと吐きながら山崎の方へ顔を上げる。

 

「持ってんだろ能力対策の新兵器。本来ならそんなモン使いたくないが緊急事態だ」

 

面白くなさそうな表情でポツリと呟く土方を見て山崎はコッソリと隣にいる近藤に耳打ちする。

 

「局長、相変わらず副長ってば能力対策武装嫌いなんですね……」

「ううむ、なにせトシは一般隊士にも許可を下ろさないからな……今現在許可が下ろされてるのは伊東先生の所の隊だけだし……」

「だからこういう事態を早急に打破できなかったんじゃないすか……?」

「し!」

 

以外と正直な事をぶっちゃけてみる山崎に近藤は慌てて彼に顔を近づける。

 

「アイツに聞こえるだろ! アイツってばレベル5の娘っ子に負けたとかで更に意地になってんだよ! 能力者なんて刀だけで十分っていつも言ってたのに簡単に負かされたからもう意地になるしかねぇんだよアイツは!」

「聞こえてんだよ思いきり! おい山崎! さっさとその兵器使え! 3秒以内にやらねぇと殺すぞ!!」

「りょ、了解です副長!」

 

つい叫んでしまった近藤のおかげで土方の機嫌はますます悪くなっている様子で一喝。

ようやく指示が下りた所で山崎は慌ててビシッと彼に敬礼してそれに従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山崎達が遂に動き始めている頃。

銀時と黒子は未だ粘り強い隊士達を相手に奮闘していた。

 

数で勝ってる上に何度ぶっ飛ばされても不屈の闘志で這い上がるど根性。

全員が全員という訳ではないが、未だ銀時達にとって敵の数は多かった。

 

「クソ! しつこいんだよテメェ等!」

「ゴキブリでも少しは遠慮しますわよ、ハァ……」

 

少々疲れているのか肩で呼吸している二人だが、まだ余裕は残っている。

向こうは数は多いが気絶して再起不能になっている隊士も多い。このまま地道に潰していけばいずれこちらが勝つ。

 

「税金泥棒のクセにこんな仕事に一生懸命になるとかバカじゃねぇのホント」

「全市民の安全を保護するより、脱走した女の子を殺す事に躍起になる警察組織などいずれ腐れ落ちる定めでしょうが、わたくし自らが落としてあげるとしましょう」

 

縦横無尽に襲い掛かる刃を避けながらも会話しつつ、銀時は黒子を袖に掴ませたまま地面を蹴って横に飛ぶ。

そこにいたのは丸坊主の一際顔が怖い隊士。

 

「銀髪の侍! かぁぁぁぁくごぉぉぉぉぉ!!!」

「チッ、またこのハゲかよ。何度やっても倒れねえなコイツ」

「いだッ!」

 

しつこすぎる隊士に銀時は疲れた表情でめんどくさそうに木刀の柄だけでゴンと彼の額を突いて後退させる。

どうせはっ倒してもすぐに復活するのでとりあえず襲い掛かる彼から距離を取るためだ。

 

(こっちも疲れてはいるが向こうもそろそろヤバいだろ、見知った顔の連中はもう大体2度3度殴った、あのハゲに関してはもう8回もやってる。こっから飛ばせば5分もしねぇウチに終わる)

(休息が欲しいですがそれは向こうにも疲れを癒す時間を与えてしまいますわ。あちらももはや限界の状態、ならばここは残った体力を全て振り絞ってでも討伐させていただきますの、5分もあればあちらさんも限界でしょうし)

 

全く同じ思考をしつつ銀時と黒子は休みを挟まずに攻め一本を決意。

しかしまずは一定の距離を取る、銀時は急いで隊士達から少しばかり離れた。

黒子はいっそ強く銀時の袖を握って歯を食いしばる。

 

(再び上空にテレポートして奴等の頭上に片っ端から蹴り入れてやりますの……)

(さすがに脳天から揺らされればアイツ等もまいっちまうだろ)

 

黒子の考えを完全に予測済みの銀時は右手に持った木刀をぐっと構えて、空中に移動されるのを待つ。

会話もアイコンタクトさえ必要ない、近藤の読み通り正に完全一心同体だった。

 

木刀を強く握って黒子に飛ばされるのを待つ銀時、だが……

 

「……あれ?」

「……」

 

何も起こらない、傍には自分の裾を握る黒子がポツンと立っている。本来ならもう既に空中に飛ばされてる筈なのに

 

「おい、どうした。なんで能力使わねぇんだよ」

「……えと」

 

ふと黒子の方へ見下ろすと、彼女はどことなくそわそわした表情でこちらから目を逸らした。

珍しく気まずそうにしてる姿。それを見て銀時はしかめっ面を浮かべた。

 

「んだよ漏れそうなのか? しょうがねぇな、ションベンでもウンコでもいいからさっさと行って来いよ、お前の能力ならすぐにここまで戻ってこれんだろ」

「いや違いますの、その……」

「ああ? じゃあどうしたんだよ」

「こ、こんな大変の状況で言うのも大変申し訳ないのですが……一つ質問させてくださいまし……」

 

目を細めてこちらを見下ろす銀時に、黒子は頬を引きつらせて無理矢理笑みを取り繕いながら恐る恐る彼の方へと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくしの能力って……なんでしたっけ?」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然訳の分からない事を言い出す黒子に銀時は思わず口をポカンと開けて固まってしまう。

自分の能力がわからない? 戦中では完全に思考回路を同調できる銀時でも彼女の質問の意図が全く読めなかった。

 

「何言ってるのお前?」

「じ、自分でもわからないんですのよ! なんか急に自分の能力が”思い出せなくなって”! わ、忘れてしまいましたの!」

「忘れたって……そんな家に財布置いてきちゃった感覚で忘れる事じゃねぇだろ! 勘弁しろよマジ! 早く家に戻って取って来い!」

 

頭を両手でおさえてあたふたと慌てだす黒子を見て銀時はますますわけがわからなくなる。

能力者にとって能力とはこの街に住む者としては貴重なアイデンティティだ。それをいきなり忘れたなど……

 

「お前の能力はアレだよ、瞬間移動に決まってんだろうが。他に何があるって言うんだよ」

「しゅ、瞬間移動!? まさかわたくしにそんな力が備わっていたとは……! どうやれば出来ますの!?」

「そんなモンお前が一番知ってんだろうが! どうしたお前、なんかおかしいぞ!?」

「おかしいのは自分でも十分承知ですの! 自分が常盤台の生徒で! レベル4の能力者だってのも覚えています! ですがわからないんですのよ!」

 

完全に混乱した様子で髪の毛をくしゃくしゃと掻き回しながら黒子は悲鳴のような叫び声を上げる。

 

「能力も! 使い方も! 綺麗さっぱり忘れてしまっているんです!! わたくしがあなたとどのようにして戦っていたのかの記憶さえ!!」

「おいおい嘘だろ! なんで忘れるんだよ! マジで脳みそが腐りかけてきたのかお前!! あれほど医者に診てもらえって言ってただろうが!」

 

困惑する黒子の両肩を揺さぶりながら銀時は必死に彼女の記憶を蘇らせようとする。

だがそんな事を敵方が悠長に待っているわけがない。

 

「食らえ銀髪!!」

「うおわぁ!」

 

距離を取っていた筈の隊士達が一斉に襲い掛かって来たのだ。銀時は慌てて黒子を両腕で抱きかかえると振り下ろされた刀を体を捻って即座に回避。

 

「チッ! なにがどうなんってんだ……!」

「……思い出せませんの、とても大切な事の筈なのに……」

 

すぐに黒子を脇に抱え直すと自由になった方の右手で木刀を掴む銀時。

血相を変えて汗を流し焦っている様子が見て取れる。

 

それを離れた場所から優雅に見物しているのは

 

「思ったより効果てきめんだったな。でかしたぞザキ」

「へへへ、これでもうあの娘っ子は無力の上にお荷物になりました。後はあの銀髪のお侍を倒せば終わりって訳になりますね」

 

腕を組みながらこのまさかのどんでん返しの事態を終始動じずに見送っていた近藤と

それに得意顔で勝利を確信する山崎。

 

手にはテレビを操作する為に使うような”リモコン”みたいな物がしっかりと握られていた。

 

「一心同体つっても所詮頭は二つ、片方さえ斬り落とせば体半分削いだのとおんなじだ」

 

吸い切ったタバコをポトリと地面に落とし、靴でグリグリと踏みつけて火種を消し、何食わぬ表情で顔を上げる土方。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白れぇモンを見せてもらった事には礼を言うぜ、あばよ銀髪ツインテコンビ」

 

正に絶望的ともいえる状況だった。

 

 

 

 

 

 


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