禁魂。   作:カイバーマン。

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第十九訓 電撃少女、逃走 侍教師、激闘

廃墟となったコンビニ「MADAO」の上に立ち

御坂美琴は真撰組と真っ向から勝負を仕掛けると腹をくくった。

 

「ま、いつかアンタ達とはこうなるとは思ってたのよ。偉そうにこの街を歩いてるアンタ達は前々から気に入らなかったからね」

 

バチバチ!と青白い火花が美琴の体から迸る。早くも戦闘態勢に入ってしまった彼女を見て、隣に立つ黒子が心配そうに口を挟む。

 

「ああ……お姉様、それにはこの黒子も激しく同感ですがこんな公の場で連中とやり合うのは……幕府を敵に回すようなものですわよ……」

「幕府でも宇宙艦隊でもかかってきなさいよ。私の友達をぶっ飛ばして……絶対に許さない」

「私から見るに、あの二人はお姉様のことあまり友達としては見ていなかったようですが……」

 

絹旗と神楽の事を言っているのだろうが、黒子の主観だと明らかあの二人は美琴よりも彼女の持つ資産を目的としていた気がした。

しかしすっかり彼女達の事を自分の友達だと思い込んでいる美琴は、右側に立っている彼女のツッコミを無視して、左側で相変わらずこの状況でも死んだ魚のような目をした銀時に話しかける。

 

「アンタ達は関係ないからどっか行ってていいのよ」

「そりゃ帰りてぇのは確かだが」

 

そう言って銀時は腰に差した木刀を抜く。

 

「さすがにこんな場所に生徒置いて帰る教師がいるかよ」

「いきなり教師面して……相変わらずわけわかんない奴ねアンタって」

 

得物を肩に担いで大胆不敵な態度を取る彼に美琴は呆れながら苦笑する。

長い付き合いだがこの男の”やり方”というのはイマイチわからない。

だが一つだけわかるとするならば、彼は何が起ころうとも自分の味方になってくれるという事だ。

 

銀時は美琴と同じく真撰組を見下ろすと、数十人の隊士達がいる中で一人の見知った顔を見て「お」と呟く。

 

「おめぇリーダーにやられたゴリラ局長じゃねえか」

「あ! お前あの時の銀髪!」

 

銀時の声に反応したのは局長である近藤勲。

口を大きく開けてすぐに銀時に向かって指をさした。

 

「トシ! アイツ、男と男の真剣勝負の最中に俺の相手に木刀をよこしやがった奴だ!」

「そんな奴がどうしてこんな所にいんだ」

「それは知らん! だがまた俺の邪魔をしようと企んでるかもしれん!」

「だったら口で言って退散してもらうまでだ、警察組織に言われりゃあバカじゃねぇ限り素直に引くだろ」

 

叫んだ近藤に対して彼の部下である土方は冷静に返事をするとすぐに顔を上げて銀時達に向かって

 

「おいそこの小娘共と銀髪の男、さっさと下りてどっか行け。巻き添えになっても知らねえぞ」

「私達に向かって砲撃した上にどっか行けですって……!」

 

高慢に言い放つ土方に遂に美琴はカッと目を見開いて身を乗り上げる。

 

「私の友達をぶっ飛ばしておいてよくそんな偉そうな口叩けるわね!!」

「そうだ税金泥棒! 俺の金を返せ!!」

「責任取って切腹なさいこのチンピラ共!!」

「アンタ達は黙ってろ! 私がアイツ等に言いたいのは私がやっとできた友達を……」

 

叫んでる途中にいきなり私情を含めた野次を飛ばし始める銀時と黒子。

美琴が振り返って二人に向かってうるさいと怒鳴っていたその時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに超叫ばれてどうかしたんですか?」

「え?」

「きっと女の子の日アルな。夏だと特にイライラするからしょうがないネ」

「え? え?」

 

バズーカをモロに受けてきっと瓦礫の下に埋もれて生きるか死ぬかの瀬戸際になっているであろうと予想していた友達二人は

 

丸で何事も無かったかのようにケロッとした様子で美琴の背後に立っていた。

 

絹旗は仏頂面で小首を傾げ

神楽は日傘を差しながらなんの抵抗も無く中年オヤジでも言えないようなセクハラ発言。

 

思いっきり無傷の彼女達に美琴は開いた口が塞がらない。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!! なんで生きてんのアンタ達!?」

「私があんなみみっちぃ砲撃で死ぬと思う方が超おかしいでしょ」

「傘を盾にすればあんなの痛くもかゆくもないネ」

「いや言ってる事全然わかんないし!! あれ!? あのグラサンのおっさんは!?」

「知らないアル、どうでもいいアル」

「それもそうね」

 

お前は何を言っているんだという風にこちらに呆れたような視線を送ってくる二人に美琴はさっぱり理解できなかった。

それから彼女が絹旗と神楽に向かって質問をしようとその時、その間を遮って下にいる真撰組の隊士達がなぜかコンビニの上に絹旗が現れた途端騒ぎ始める。

 

「副長! あのガキ! 手配書に載ってた写真とくりそつです!!」

「間違いねぇ! しかも砲撃食らってもピンピンしてやがりますぜ!!」

 

絹旗を見て何か叫んでいる隊士達を見て、美琴はハッと絹旗の状況を察してしまった。

 

「……アンタ追われてる身なの?」

「やれやれ超バレちゃいましたか。これでもコソコソと隠れまわっていたんですが。真撰組もあなどれませんね」

 

うんざりするように頭に手を置いてフーと息を吹きながら絹旗は改まって美琴の方へ振り返る。

 

「そうです、実は私ってレベル4の高能力者でしかもある研究所の被験者として長年軟禁されていたんです」

「被験者!? アンタ研究所にいたの!?」

「ん~あまりいい思い出はなかったですね。超普通じゃない実験ばかりさせられてましたし、血生臭い事ばかりでやんなっちゃいます」

 

澄ました顔で自分の身の上を省略しつつもあっさりとバラす絹旗。

当然美琴もそれには驚く。そして

 

「……」

「どうしましたの?」

「いんや別に……」

 

一瞬銀時が絹旗に向かって意味深な視線を向けた事に黒子は気づいたが、彼はそれから彼女に問い詰められるのを避けるために絹旗に急に話しかけた。

 

「研究所から逃げたのはいつ頃だ」

「一週間前ぐらいです。いやぁ超文無しで、隠れながら路頭をさまよってなんとかここまで生き延びられたのですが」

 

話の途中で絹旗はチラリと下にいる真撰組の連中を見下ろす。

 

「どうやらここまでかもしれませんね。真撰組って能力者対策の武装も行っているらしいですし。恐らく研究所は私の処分を許可してる筈です、連中のやり方は私が身をもって超知っているんで」

「昔から変わらねぇみたいだな、”研究者”って奴は」

「あ~超短い人生でした、観たかったC級映画がまだあったのに超残念です」

「まだ終わると思うのは”超”早ぇだろ」

 

空をぼんやりと眺めながらあまり悲観してないような感じで嘆く絹旗に

銀時は鼻で笑うと美琴の方へ目を向ける。

 

「お前はコイツの事助けたいか?」

「え? 何よ急に?」

「答えろ」

「なんなのよ一体……」

 

いきなりいつものくだけた調子から一変して真面目な顔で言い寄ってくる銀時に困惑しながらも、美琴は縦に一度だけ頷く。

 

「当たり前でしょ、こうして会ったのはただの偶然だけど。それでも私にとってこの子は友達よ。助けないなんて選択するなら死んだ方がマシだわ」

「そうかい」

 

躊躇せずにそう答えた美琴に銀時は少しばかり口元に笑みを見せるとすぐに彼女に向かって

 

「なら作戦変更だ、お前はコイツ連れて逃げろ。連中の足止めは俺とチビがやる」

「は!? アンタと黒子残して行けっていうの!? 嫌よそんな事! ていうかこの私がアイツ等に尻尾巻いて逃げるなんてマネできる訳ないでしょ!」

「そいつと出来るだけ遠くへ行け、こっちが終わったらすぐ連絡っすから」

「人の話聞けっつうの!」

 

いきなり絹旗を連れて逃げろと指示して銀時に美琴は当然真っ向から拒否するが、彼の傍らに立つ黒子が真顔で意見を出す。

 

「お姉様、ここはこの男の言う通りに、その方を連れてお逃げください」

「黒子! アンタまで何言ってんのよ! いくらアンタ達が組んでも相手は能力対策もしてるかもしれない真撰組なんだから!」

「それならばなおさら、お姉様をこんな所に置いておけませんわ」

 

黒子が以前銀時と協力して数十人の攘夷浪士を滅多打ちにしたのは美琴も知っている。

だが今回の相手はそんな連中の比ではない。

数多の犯罪者を真っ赤な血に染め上げる事を生業としている血気盛んな真撰組なのだ。

しかし腹をくくった黒子の決意は揺るがない。

 

「いくらレベル5のお姉様であろうと、能力が使えなくなればただの中学生ですわ」

「それはアンタも同じことでしょう!」

「わたくしはこの身が屍になろうともお姉様を護る所存ですの。能力に頼らなくても身を挺して少しでも時間を稼ぐだけでもやってみせますわ」

「そんな事言われたらなおさらアンタ達を置いて……!」

 

戦うどころか死ぬ覚悟まで既に出来ている黒子に美琴は少々怒った様子で歩み寄ろうとするが。

 

突然、彼女の肩に後ろからポンと手が置かれる。

 

「もういいアル、ここまで言ってる奴のいう事は素直に聞いてやるのも友達ってモンネ」

「アンタ……」

「コイツ連れて逃げるなら私も手伝うヨ」

 

振り返ると日傘を差した神楽が立っている、美琴の肩に手を置いたまま彼女は絹旗を連れて逃げる事に同行すると言ってくれた。

 

「私は能力だとかこの街の事とかさっぱりわかんないけど、今どうすればいいのかぐらいはわかってるつもりアル。ダチが困ってんなら助けてやるのがダチってモンだろ」

「……なにかっこつけてんのよバカ」

 

無垢な表情でズバズバと心に傷をつけるセリフを吐いてきた少女が、肝の座った凛とした表情でこちらを見つめている。

美琴は数秒間黙りこくった後、「ハァ~」と深いため息を突いて

 

「わかった。逃げるわ、さっさと行くわよ」

「いやいや超待ってください! 先ほどからすんごい話進んでて思わず口挟めませんでしたけど! なんであなた達が私なんかの為に、わわ!」

 

あっさりと逃げる事を選択すると美琴は絹旗の手を取って真撰組に背を向けて裏から逃げようとする。

彼女に手を引かれながら歩かされて唖然とする絹旗だが、彼女の背中に神楽が両手でグイグイと押し始めて

 

「よっしぁ全速力で逃げるぞゴラァ! ケツは私に任せるアル!!」

「いやだから私はあなた達をこれ以上巻き込みたく……!!」

「つべこべ言わず逃げろっつってんだろゴラァァァァ!!」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!! 人の話超聞いてくださいよぉぉぉぉぉ!!」

 

無関係な人間を巻き込みたくない絹旗を強引に押し出しながら走り始める神楽。

美琴は軽くコンビニの裏側へ飛び降りて、神楽に押されてる絹旗も否応なしにそれに続いて行ってしまう。

 

その場に残ったのは銀時と黒子のみ。

 

「別れの言葉も言わずに言ってしまいましたわ……」

「そんなのいらねぇよ。どうせすぐ会えんだから」

 

自分で行けとは言ったものの少しばかり寂しそうに言葉を漏らした黒子に銀時がぶっきらぼうに答えた。

 

「ところでオメェ、さっきあのガキにここ死んでもいいとか言ってたけどマジ?」

「ふん、そんなわけありませんの。こんな所で、しかもあなたなんかと心中とかごめんですわ」

 

先程言っていた言葉をあっさりと撤回して黒子は鼻を鳴らす。

 

「わたくしは死ぬときはお姉様の胸の中でと決めているので」

「相変わらず気持ち悪ぃ事を恥ずかしげもなくベラベラと喋れるなお前、ホント気持ち悪いよ、うん、気持ち悪過ぎるわお前」

「ま、愛する者がいないあなたにはわからないでしょうけどね、あなたはそうして一生モテない人生の中、ずっとわたくしに卑屈な物言いをしていればいいですわ」

 

しかめっ面でこちらに目を細める銀時に黒子は小馬鹿にしたような態度を取ってへらず口を叩くと、チラリと彼の方へ横目を向ける

 

「ところであなた、随分とあの絹旗とかいう少女を助けることに乗り気でしたわね。リーダーさんの時といいどういう風の吹き回しですの?」

「別になにもねぇよ、あるとしてもお前には関係ねぇ事だ」

「それはつまりあるという事じゃないですか……」

 

よくわからない言い回しを使う銀時に黒子は興味本位を持ってジト目で一つ尋ねてみた。

 

「何があなたを動かしてるんですの?」

「だからお前に関係ねぇって言ってんだろ。それ以上聞くなめんどくせぇ。お前は俺の彼女か? カミさんか?」

「少々興味を持っただけですの。このわたくしがあなたなどという小市民にほんのちょっぴり興味を持っただけでもありがたいと思いなさいませ」

 

聞こうとしても一向に話そうとする様子を見せない銀時に黒子がムッとしている頃。

下にいた真撰組達が絹旗達がいない事に気づき始めていた。

 

「副長に局長、あのガキもういやしませんぜ。いるのは銀髪とちっこいガキだけです」

「逃げられたんじゃありやせんか……」

「落ち着けテメェ等、逃げたなら逃げたでもう手は打ってある。それよりも気になるのは」

 

絹旗を逃がした事でざわざわと声を出して少々焦ってる様子の隊士達に土方は冷静に言葉を放って一瞬で沈めると。タバコを口に咥えながらコンビニの上に立っている銀時と黒子の方へ顔を上げた。

 

「テメェ等どういうつもりだ、俺は失せろと言ったがあのガキ連れて失せるとは聞いてねえぞ」

「そうかい、そりゃあ悪かったな。連絡網回したつもりだったんだけど誰かがお前の家の前で止めちまったんだろ」

「誰がそんな悪質なイジメに遭うか、つうかもう立派な社会人だぞ俺等」

「うっそ俺も届いてねえよ! どうしよう! 俺もしかしてクラスのみんなに嫌われてる!?」

「近藤さん、あんたそろそろ立派に働いてる社会人なんだと気付いてくれ」

 

慌てふためく近藤にめんどくさそうにツッコミを入れた後、土方はタバコの灰を落としながら銀時達を睨み付ける。

 

「俺等に盾付いてるウチにガキを安全な場所に隠すって算段か、そのちっこい相方と一緒にテメェみたいな死んだ魚のような目をした奴が俺等をここに足止めするってか?」

「テメェだって瞳孔開いてんぞ。大丈夫かそれ? 眼科行った方がいいんじゃないの?」

「ふざけた野郎だなホント」

 

フゥ~と煙を吐きながら土方は軽く舌打ちする。

 

「やれるもんならやってみろ、おいお前等、さっさと逃げたガキの方を追いかけろ」

「え? いいんですかぃ? あの銀髪はほおっておいて?」

「どうせハッタリだろ、あそこから下りる真似だって出来やしねぇよ」

 

土方にとって銀時と黒子など戦う程の脅威とは感じれなかった。

素性も知れぬ輩に時間を使うメリットなど無い。

彼の命令に従って隊士達が絹旗の捜索を行おうとした、が

 

「副長!」

「あん? あれ? アイツ等どこ行った?」

 

コンビニの上にいた筈の銀時と黒子が既にその場から跡形も無く消えていたのだ。

土方が思わず呆気に取られていたその時。

 

「よぉしまずは近辺をくまなく……どべしッ!」

「原田!!」

 

いち早く絹旗を探そうと活動し始めていた団体の中から一人の隊士の奇声が飛んできた。

すぐに土方と近藤がそちらに目を見開いて振り向くと

 

「なぁに人の事無視してんだ。純情な少年の心を持つ銀さんでもさすがに傷付いちゃうじゃねぇか」

「あなたのどこをどう見れば純情なんですの? 堕落した心持った白い毛玉にしか見えませんが?」

 

木刀を横にかざして一閃したばかりだという風に得物を構えなおす銀時と

それに付き添ってなお悪態をつく黒子の姿がいつの間にかそこにあった。

 

「テメェ等一体どうやってそこに……!」

「やはりあの男、俺達の邪魔するつもりだ。それも本気でな」

 

唐突に起こったこの現象に思わず咥えていたタバコをポロッと地面に落とす土方に近藤が眉間にシワを寄せたまま口を開く。

 

「木刀一本とガキ連れただけで、ここにいる真撰組の隊士全員に喧嘩売るつもりらしいぞ。

それも縁もゆかりも無い筈の少女の為に。どうするトシ、この構図だとまるで俺達が悪役だな」

「なに悠長な事言ってんだアンタは……テメェ等! 捜索活動は中止だ! まずはあの天然パーマとツインテールを取り囲むように陣を取れ!!」

 

この状況に思わず笑ってしまう近藤だが土方はすぐに隊士全員に向かって号令をかける。

真撰組の標的は絹旗ではなく、今目の前にいるこの男と少女だと。

それを聞いて隊士達は迅速に動き、あっという間に銀時と黒子の周りに円を描くかのように取り囲んでしまった。

 

「ふうん、前にやった雑魚共とは全然違うようだな、命令を聞いてからのこいつ等の機敏な動き。そう簡単にやれる早さじゃねぇぞ」

「だからどうしたって言うんですの、こんな連中など所詮野蛮な猿と同等、人間であるわたくしに歯向かう真似など出来ぬようしつけすればいいだけですわ」

 

木刀片手に感心したように頷く銀時をよそに黒子は髪を手で流しながら余裕の一言。

 

「さてさて、お姉様の為に時間を稼ぐおつもりですが。やはりこうして真撰組と相まみえる事になるとやはり個人的な感情の方が表に出てしまいますわね」

「それでも別にやる事は変わらねぇだろうさ。アイツがガキ二人と一緒に逃走、なら俺達がここでやるべき事は一つ」

「仲の悪い間柄ではあるものの、互いに手を取り合い協力してこの状況を打破する。つまり」

 

各々警察官とは思えない形相でメンチ切ってくる隊士達に、銀時と黒子は互いに背中を合わせながらニヤリと笑って

 

 

 

 

 

 

 

 

「真撰組を!!」

「完膚なきまでぶっ殺してやりますわ!!」

「いやそれはやり過ぎ」

 

数十人の攘夷浪士の無傷の状態で倒した教師と生徒が

 

今、それよりもずっと強い存在である警察組織にさえも喧嘩を売った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、絹旗と神楽連れて逃走を開始した美琴はというと

数時間前に三人が初めて会った場所、第七学区のとある公園の所まで再び戻ってきていた。

 

「ここまで勢いに任せて走って来たけど、追ってくる気配はないわね」

「あの二人残して良かったんですか……?」

「そりゃ心配で仕方ないけど……今はアイツ等信じるしかないわよ」

 

本当はすぐにでも戻って銀時達の方へ助けに行きたいのだが。やはり絹旗を護る事を優先すべきだと美琴は自分自身に必死にそう言い聞かせる。

 

「お願いだから死なないでよ……じゃないと自分だけで友達出来たっていう自慢話が出来ないじゃないの……」

「その点について超残念なお知らせがありますが」

 

銀時達のいる方向に向かって独り言をボソリと呟く美琴だが、それに対し絹旗が無表情で言葉を挟む。

 

「今の私とあなたは友達ではありません。現時点で私にとってはあなたは頼んでもないのにいきなり助けようとする超おせっかい娘といった所です」

「ええ! 友達じゃなかったの!?」

「そうですよ」

 

まだ友達として認定されていなかったことにショックを受ける美琴に今度は神楽が鼻を小指でほじりながら呆れた様子で

 

「オロナミンcさえ買ってくれない奴を友達と思う訳ねぇだロ、バーロー」

「アンタさっきこの子の事はダチとか言ってたじゃないの!」

「お前だけは認めてないってだけアル」

「私も神楽さんの事は超ダチだと思ってます」

「いやそこでどうして私だけハブるのよ!」

 

神楽と絹旗が互いに友だと認め合っている一方で遂に美琴がその場にしゃがみ込んでしまう。

 

「うう、学校の体育の授業思い出すから止めてよホント……野球の授業で一人だけペア組めなくて……壁に向かって投げるのはもううんざりなのよ……ずっとそれだったから体育の先生が気を使ってアイツ(銀時)を呼んで来て……それで私だけずっとアイツとキャッチボール……それから今度はアイツってば女王なんか連れて来て……けどあの女、運動音痴過ぎて全然ボールこっちに届かいのよ……ていうか投げ方が気持ち悪いのよ……膝曲げろっつーの……」

「やべぇアル、なんか塞ぎ込んで自分の世界に入っちまったぜコイツ」

「でもこのめんどくさい態度、慣れてくると不思議とこれはこれで超面白いと思ってきました」

 

塞ぎ込んでブツブツと長い独り言を呟いて明らか構ってほしい仕草をする美琴に、神楽と絹旗が「これが御坂美琴という残念な少女である」と認識してほんの少し順応し始めていたその時……。

 

「おいおい、まだこんな所で油売ってたのかテメェ等。こんな簡単に追いついちまうたぁつまんねぇなぁ」

「「「!!!」」」

 

突然言葉を投げかけてきたのは若い男性の声。

絹旗と神楽が一斉に声のしたほうこうに振り向き、美琴も立ち上がってそちらに鋭い視線。

そこに立って、いや公園にあるブランコに呑気に座っていたのは

 

「もうちっと逃げてくれねえとこっちも追いかけがいがねぇってもんだろうが」

「……暑い」

 

甘いマスクをした若い隊士の男、沖田総悟と、ピンクのジャージを着た寡黙そうな少女が二人そろってブランコに座って余裕な態度でこちらを眺めていた。

 

それを見て絹旗はギョッとした表情で目を見開く。

 

「真撰組! こんな所までもう来たんですか!? え、それじゃああの二人死んじゃったんですか!?」

「チクショウ! もじゃもじゃ天パとツインテール! お前達の事は忘れないアル!」

「いやいや勝手に殺さないでよ私の友達! え、マジで死んでないわよね!? 死んでないわよね!?」

 

慌てふためく三人を眺めてブランコをコキコキ音を鳴らして揺らしながら、沖田はそれにだるそうに口を開く。

 

「俺は土方さんにターゲットのガキが逃げる可能性もあるかもしれないから逃走ルート予測して確保してろと言われたんでねぇ。向こうがどんな事になってるかは知らねえよ」

「ああそうなんだ、良かったアイツ等まだ死んでなくて……」

「いやホッとしてる所悪いですけど、超追い詰められてる事に変わりませんからね私……」

 

胸を撫で下ろして一安心する美琴に絹旗がツッコミを入れていると、神楽の方はふと沖田の方よりその隣に座っている謎の少女に視点が向く。

 

「その子誰ヨ その子もテメェと同じ組織アルか?」

「そうとも言い切れるしそうじゃないとも言い切れるな」

 

沖田が歯切れの悪い言い方をすると、ジャージ姿の少女は彼女達に礼儀良くペコリと頭を下げる。

 

しかしこの少女、なにかおかしい。先程からずっと目を見開いてこちらをジーっと眺めていたのだ、瞬きもせず。しかもその目からどことなくヤバい危険な匂いを感じさせて

 

「初めまして……私の名は滝壺理后≪たきつぼりこう≫。よろしく」

「あ、超ご丁寧にどうも、絹旗最愛です(目つきがおかしいですね……もしかして能力者……既に私達に何か仕掛けてるかもしれませんし超油断できません)」

「よろしくアル、私は神楽ネ」

「御坂美琴です!! 友達になってください!!」

「そしてあなたは超何言ってんですか……」

 

滝壺と名乗る少女にピンと背筋と両手を伸ばして必死な様子で名乗りを上げる美琴に絹旗は唖然とする。

 

「あなたもうヤケクソですね、見境なくなってきてるじゃないですか」

「うっさい! 同情するなら友達になれ!」

「あの天パの人はこの人に一体どんな教育してたんですか全く……」

 

血走った目を向けながら叫んでくる美琴に呆れながら絹旗はここにはいない銀時に向かって文句を言いながらため息を突いていると。

 

滝壺の隣のブランコに座っていた沖田がゆっくりと立ち上がった。

 

「それじゃあま、くだらねぇ自己紹介が終わった所で。そろそろ追いかけっこの続きやるか」

「あ! ヤバい忘れてた! 逃げるわよ!!」

「忘れてたのはあなたけですってば、逃走中に超下手くそな友達作りすんのもう止めて下さいね!!」

「じゃあな~滝壺! もう会えないかもしれないけど私が元気でやってやるぜキャッホ~イ!!」

 

彼がそう言い放った途端には美琴は絹旗の手を取って走り始めていた。

神楽もまた呑気に滝壺に手を振った後彼女達の後に続く。

行く当ても無い逃走劇。走り去る彼女達を沖田は数秒程眺めていた後。

 

「さ、ぼちぼち追いかけるか」

「……バイバイ」

「手振り返すのおせぇよ」

 

ぼーっとした表情ならも目は見開いた状態で、美琴達が言った方向に手を振る滝壺に冷たくツッコんだ後、沖田は彼女をじっと見下ろす。

 

「それよりこれでいいのか?」

「うん、あの三人があなたの会話に素直に付き合ってくれた、その隙にちゃんと」

 

至って平静にそう言うと、滝壺もまたブランコから下りる。

 

「かぐらって子には感じられなかったから外の人間か天人かもしれない」

「まさか不法滞在者かあのチャイナ娘? 他の二人はどうだ」

「大丈夫、ターゲットのきぬはたも、あの友達作りに必死過ぎる残念なみさかの”AIM拡散力場”も完全に記憶した」

 

瞬きもせずに滝壺はそう報告すると。沖田は口元に小さな笑みを浮かべて美琴達が言った方向に目をやる。

 

「これでアイツ等がもう地球の裏側に行こうが大丈夫って訳か」

「うん」

 

不敵に笑う沖田に滝壺はなんの疑いも無く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の『能力追跡≪AIMストーカー≫』からは何人たりとも逃れる事は出来ない」

「さぁて、こっからようやく狩りの時間の始まりだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちが退屈しないよう、せいぜい必死に逃げてみろよ小娘共……」

 

寡黙な少女滝壺とそれを引き連れて狩りと称した追走劇を始める沖田。

 

二つの脅威が遂に美琴達に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 


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