禁魂。   作:カイバーマン。

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第十八訓 電撃少女、人気過ぎて引っ張りだこに遭う

ポーカーフェイスであまり感情を読み取れない少女、絹旗最愛

なぜか常に日傘を差し、破天荒な戦闘力で変態を半殺しにしたチャイナ娘、神楽

事の流れで御坂美琴は二人との間に小さな絆を作る事ができ。

現在は第七学区に設置されているコンビニエンスストアの中で3人で行動している真っ最中であった。

 

「え? アンタ天人なの?」

「うん、これでも私は宇宙をまたにかけ、出稼ぎでこの地球にやってきた可憐な美少女アルよ」

「パッと見だと私達地球人と区別できないわね……」

 

店内に入っても日傘を持ったままである神楽をしげしげと眺めながら美琴が首を傾げる。

彼女は自分の事を天人だと言うがどうも自分の知る中の天人とは違っていた。

美琴の知る天人というのは額にキモイ触覚生えてたり、キモイ喋り方してたり、キモイ趣味してる明らか人類とは程遠い姿形と特徴を持つ異形の者なのだが。

神楽の見た目は自分達人間とそんな大差無いように見える。

 

「天人にも色々いるのね」

「透き通るような白い肌、日の光に弱いために常に傘を持ち歩いている、そしてあの超戦闘能力からして……」

 

ぼんやりとした感じで美琴が頷いてみせると、同じく一緒に店に入った絹旗が神楽の見た目と先程までの行動と能力をまとめてサラリと結論を出した。

 

「あの超傭兵部族とか言われてる夜兎≪やと≫族ですね」

「夜兎?」

「知らないですか? その気になれば星一個潰しかねないほどの戦闘能力を持つ天人の事ですよ。天人の生態や種類については学校で超教えられているはずだと思うのですが?」

「私天人の事嫌いだからそっちの方は勉強しないのよ」

 

無表情で嫌味っぽく言ってきた絹旗に美琴は適当に受け流して売り場にあった栄養ドリンク、オロナミンcを手に取る。

 

「ていうかアンタが星一個潰すような凶悪な天人とは思えないんだけど、見た目普通に女の子だし」

「おいおい嬢ちゃん、先入観だけで物事語っちゃあいけないアルよ、これでも宇宙一のエイリアンハンターの娘ネ。小便臭い小娘ってのはこれだからやんなっちゃうぜ」

「おっさんかアンタは、てかエイリアンハンターって何?」

 

へっと軽く笑って見せて悟りを開いた中年男性のようにアドバイスを送ってきた神楽に美琴はジト目で短くツッコむと、オロナミンcをもう一本取り出して彼女に渡す。

 

「はいコレ、天人でも会計の仕方ぐらいわかるでしょ」

「知ってるけど私お金ないヨ」

「は!?」

「あ、ちなみに私も超深い事情があってお金ないです」

「はぁ!?」

 

あっさりと金が無いと告白した神楽に絹旗も便乗し同じく無一文だと答える。

いきなりそんな事を言われては美琴が口を開けたまま固まってしまうのも無理はない。

 

「どういう事よそれ! なに!? じゃあアンタ達どうやって二人で買い物しようとしたのよ!」

「いやぁてっきり神楽さんが少し位持ってるんじゃないかなと超思ってまして」

「奢られる前提でオロナミンcで乾杯しようとしてたのかアンタは!」

 

ポリポリと後頭部を掻きながらマイペースに言う絹旗に美琴が指を突き付けて叫んでいると今度は神楽が小指を耳でほじりながらだるそうに

 

「なんだよお金ぐらい、その辺で歩いてるチンピラ倒せば経験値と一緒に貰えるんだロ?」

「アンタ地球とここの世界観を何だと思ってるの!? いくら倒そうがゴールドも貰えないしレベルも上がらいっつーの! 貰えるのはアンチスキルからの罰金請求書! 上がるのは犯罪レベルだけよ!」

「マジでか!? じゃあ魔王どうやって倒せばいいアルか!? レベル1じゃ魔王どころかガンタタにも一撃でやられるじゃねぇか!」

「知るかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

いきなり慌てて尋ねてくる神楽に美琴が店内にも関わらず大声を上げてキレる。

これでは結局自分が彼女達の為にお金を払わなければならないではないか。

無一文だけでなく発想もお子様レベル、二人に美琴がすっかり翻弄されていると、彼女の肩に後ろからポンと手が置かれる。

 

「店の中でギャーギャー騒ぐんじゃねえよ、いくら騒ぐ事しか能のない中二でもちったぁ身の程わきまえろコノヤロー」

「お姉様、店内でお騒がせするのも立派な店側への迷惑行為に妥当しますから。そうなったらわたくし、お姉様を捕まえなければいけませんのでどうかそれだけはご勘弁させてくださいまし」

「ん?」

 

どこか聞き覚えのある声に美琴はしかめっ面を浮かべるとバッと後ろに振り返る。

 

案の定、空色の着流しと腰に木刀を差した坂田銀時と、自分と同じ常盤台の制服を着た白井黒子が二人一緒に仏頂面で立っていたのだ。

 

「……何してんのアンタ達?」

「ババァにまた説教食らった挙句にしばらくコイツの仕事手伝うハメになったんだよ」

「仕事? 黒子の仕事って事はジャッジメントの?」

「ったくよぉあのババァ、別にガキ連れてかぶき町行く事なんざ多めに見ろっつーの。そういやお前はまだ言った事無かったっけ? 今度行くか?」

 

銀時がブツブツと反省していない様子でぼやき始めると隣に立っている黒子がコホンと咳をすると代わりに話を続ける。

 

「ここの所、攘夷浪士によるテロ活動が多発してきてますしジャッジメントも戦力アップも考えるべきだと思いまして。それで万年ヒマなこの男を連れてパトロール活動している所でしたの」

「いや、もうそういうのいいから」

「へ? どういう事ですのお姉様?」

 

事情を説明した黒子に向かって美琴は冷ややかな目線を向けながらけだるそうにため息。

テンションの低い彼女に黒子は眉をひそめていると

 

「なんかもう何度も言ってるから言いたくないんだけどさぁ、アンタ達って本当は仲良いでしょ?」

「な! 気持ち悪い事言わないで下さいまし! 誰がこんな男と仲良くなるというのですの!」

「そうだテメェふざけんな、俺がこんなチビガキと仲良く手を繋いでここまで来たと思ってんのか? 互いに罵り合いながらここまで来て、口を開けば互いの悪口言い合う関係、いわば一昔前のお笑いコンビみたいなモンだ、オール阪神巨人なんだよ、楽屋も別々なんだよ」

 

相変わらずの反応に美琴は静かに首を横に振る

 

「いやいやもういいってそういう言い訳とか、そろそろ読者にも『この二人って仲悪い設定なのに、どうして一緒にいる事多いんですか? 矛盾してますよね?』とかなんとか思われてるわよきっと」

「テメェ以外誰にも思われてねぇよそんな事!」

「お姉様! わたくしはこの男とプライベートな付き合いは一切ないから勘違いしないで下さいまし! わたくしは決して浮気などしておりませんから!」

「あ~ホントどっちがめんどくさいんだか」

 

ムキになって反論してくる二人に美琴がため息交じりにはいはいと受け流していると。一部始終を見物していた絹旗と神楽がようやく歩み寄る。

 

「誰アルか? このモジャモジャとチビッ子は?」

「おっさんと常盤台の中学生、超犯罪の匂いがします」

「ああ? テメェ等こそ誰だよ」

「こちらの素性を聞くのであれば先に自らの名を明かす事が常識ではなくて?」

 

こちらを眺めながら美琴に尋ねる神楽と絹旗に銀時と黒子は負けじと睨み付ける。

 

「ていうかテメェ等、さっきからコイツと仲良さげにしてるみたいだが何が目的だ?」

「下衆な企みを抱えてお姉様に近づいてきたのであれば容赦しませんわよ」

 

警戒心をあらわにして二人に向かって問い詰めようとする銀時と黒子に美琴がムッとした表情を浮かべて食ってかかる。

 

「ちょっとアンタ等、なんで私が同年代の子と一緒にいるだけでそんな怪しむのよ」

「だっておかしいだろうが、どうやればお前が俺達以外の奴とつるむ事ができるんだよ」

「そうですの、お姉様にわたくしの助力無しでお友達が出来るなど天地がひっくり返ってもあり得ませんわ」

「アンタ等私をなんだと思ってんだぁ!!」

 

美琴の直球的な質問に二人は知らっとした表情で

 

「とんでもねぇ能力を操るこの街最強の小娘、そして友達いなさ過ぎてカエルの人形と会話する痛いガキ」

「常盤台のエースにして誰もが憧れる電撃姫、そして一人でカラオケに行って日が落ちるまでギンタマンメドレー熱唱し続ける可哀想な方ですの」

「最初の部分だけでいいだろ! なんで付け足すのよそこで!!」

 

褒めてるのか貶しているのか、恐らく後者の方であろうが。

相変わらず自分に友達など作れるはずがないと断言するこの二人には美琴もそろそろ我慢の限界というものだ。

自分だけでなく絹旗と神楽がいる前でこんな事を言われているのだから。

 

しかし彼女達は美琴の恥ずかしいエピソードを聞いても全く動じなかった。

なぜなら

 

「あ~やっぱりそういう方だったんですか、大体超予想出来てましたし別に驚きませんね。一人で古本屋に籠ってニヤニヤしながら立ち読みしてる姿も想像つきます」

「金出して私達と友達になろうとした時点でわかってたアル、どうせ学校では教室にいてもずっと寝たふりしてるんだろ?」

「アンタ達も勝手な事言わないでよ! い、いやそりゃ確かにそうなんだけど……」

 

なんでわかるのだと疑問に思いながらも美琴はぐうの音も出なかった。日頃からの自分の振る舞いは大体彼女達の予想通りなのだから。

しかし彼女達のそんな話を聞いていたのは美琴だけではなかった。

神楽がこぼした言葉に銀時が目を鋭くさせて光らせる。

 

「ちょっと待て、おいそこのチャイナ娘。さっきお前、コイツが金を餌にして自分達と友達になろうとしたとか言ったよな?」

「うん、すんごい顔で迫って来たからマジドン引きだったアル。な?」

「ええ、アレは超怖かったですね」

 

二人顔合わせて頷いている神楽と絹旗をよそに、銀時と黒子の視線はゆっくりと居心地悪そうにしている美琴の方へ向いた。

 

「お前……遂に。もしかしてアレか? 今月のお友達代とかいうあの……」

「嘘ですわよねお姉様……嘘だと言って下さいませ……」

「つ、つい弾みで言っちゃっただけなのよ! 止めて! そんな目で私を見ないで!」

 

銀時はおろか黒子まで死んだ目でこちらに哀れみの視線を送ってくる。ただでさえメンタルが弱い美琴にはかなりの精神的ダメージになった。

 

「いいじゃないそんなちっぽけな事! それにこの二人はお金が目的で私と一緒にいるわけじゃないのよ! 純粋にありのままの私を見てくれて仲間に加えてくれたの!」

「ええ、そうですよ。ところでオロナミンcの料金払ってくれませんか? それと私映画雑誌も超欲しいから一緒に買ってください」

「私肉まんとあんまんとピザまんとカレーまん食べたいネ、あとあの”酢こんぶ”とかいうの美味しそうアル」

「よっしゃあ! 私が全部買ってやる!!」

「思いきり金づるにされてるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁ!! お願いですから正気に戻ってくださいですのぉぉぉぉぉぉ!!」

 

調子に乗って次から次へとねだり出す二人に美琴はつい調子に乗って意気揚々と腕を上げてそれを承諾。

完全にお金狙いで利用されてると思った銀時と黒子は、遂に後ろから美琴の体をがしっと強く掴んだ。

 

「よし! こんな奴等とつるむのは止めて今日は俺達と遊びに行こう! ファミレスでパフェ奢ってやるから!」

「こんな金食い虫にたかられてはみるみるお姉様がダメな子になってしまいますわ!」

「ちょ! 離しなさいよアンタ達!」

 

二人それぞれで美琴の右腕と左腕を掴んでコンビニから引きずる様に出て行こうとする銀時と黒子。

それに激しく抵抗してジタバタと暴れる美琴を見て絹旗と神楽が目を光らせた。

 

「私達の大切な金づるをどこへ連れていくつもりですか!」

「テメェェェェェ!! 天パ! 私の財布返せコラァ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! この状況で私の足引っ張るなぁぁぁぁぁ!!  千切れる! 千切れちゃう!!」

 

上半身を引っ張られている美琴の片足を一人ずつ掴んで銀時達とは反対方向に引っ張る絹旗と神楽。さながら現在の美琴の状況は昔に用いられた処刑法、牛裂きの刑(罪人の両手両足に縛った縄に一頭ずつ牛が繋がっていて、合図を出して同時に牛を反対方向に走らせると罪人がきたない花火を咲かせるアレ)に遭ってるようなモン。

 

あまりの痛さに絶叫を上げる美琴だがそんな事知った事かと言った風に負けじと銀時と黒子もコンビニの出口の方へ美琴を強く引っ張る。

 

「ウチのガキに触んなコラ! 金ならやるからとっとと消えろ寄生虫共が!!」

「あなた達の様な欲にかられた俗物がお姉様に触れるとか許しませんわよ!」

「もう超なんなんですかあなた達! この人の父親と母親ですか!?」

「子離れも出来ない親が娘の友達付き合いに口挟むんじゃねぇぞゴラァ!!」

「どうでもいいから離せぇぇぇぇぇぇ!!」

 

お互いに負けるかと歯を剥きだして口論しながら美琴を引っ張り合う4人。

腰の骨がきしむ感触を覚えてそろそろマジで千切れるんじゃないかと美琴が悲鳴を上げていたその時。

 

「あのさぁ、いい加減気付いてくれないかな? ここコンビニだよ? 店の中だよ? おたくらいつまで騒いでんの?」

「あん?」

 

いきなり聞こえた男性の声に銀時がそちらに振り向くと

 

コンビニ店員の制服を着ながらもグラサンだけはしっかり装着している中年の男性が迷惑そうな顔で立っていた

 

「あれ? おたくどっかで見たような……誰だっけ?」

「わたくしも見覚えありますわね」

 

美琴の上半身を掴んだまま銀時と黒子はそのコンビニ店員を眺めながら思い出そうとしていると、4人に掴まれて宙ぶらりん状態の美琴もつい彼等が見ている方向に目をやる。

 

「え、アンタ達こんな小汚いグラサンのおっさんと知り合いなの?」

 

二人と違い彼女は全く見覚えが無い様子。そんな彼女に男性はグラサンをクイッと上にあげながら

 

「あれひどくね? 誰のせいで俺こんな事してると思ってるの? 誰が皇子のペット撃ち殺したせいで俺がこんな事になってると思ってるの?」

「なにそれクイズ? 誰のせいかなんて知らないわよ」

「全部テメェのせいなんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ジト目で「は?」と言う風に顔をしかめる美琴に突然男が怒り狂って雄叫びを上げ始めた。

 

「俺だよ俺! 入国管理局の”長谷川泰三”! アンタに異星の皇子のペットを捕まえてくれって依頼したグラサンの似合う長谷川泰三だよ!」

「ああ、あの時の。ようやく思い出した」

 

長谷川泰三、幕府直属の組織である入国管理局のトップ。

世間でいう勝ち組の存在であったのだが美琴にバカ皇子のペットであるエイリアン捕獲を頼んだことがキッカケで……

 

「お前のせいで俺はな……俺はな……」

「ちょっと~突然怒った次は泣く気? どういう状況よコレ」

「おっさん一人と小娘3人に両手両足引っ張られて宙ぶらりんしてるのに平然と喋ってるオメェの方がどういう状況だよ!」

 

グラサンの奥から光る滴を落として鼻をすする長谷川に美琴はドン引き。

自分をこんな所まで追い込んだ元凶である彼女のこんな態度に長谷川は憤りを感じつつもそれをぐっと堪える。相手にしたら死ぬからだ。

 

「ふ、まあいいさ……過ぎた事はこの際忘れてやる。今の俺は残った財産といろんな所から金を借りて建てたこのコンビニ、”MADAO”で勝負してるんだ。あ、マダオってのはウチの店の名前ね? ”ま”るで”ダ”ヴィンチがデザインしたぐらい美しい”お”店、略してMADAOさ」

「なんなんですかこのおっさん? 未だかつてない超負け犬の匂いがプンプンしますんですけど?」

「それだけじゃないアル、風呂入っても落ちない腐り切ったおっさんの匂いネ」

「あのさぁ嬢ちゃん達、これ以上オッサンの心を傷付けないでくれる? 過ぎた事は忘れるけど現在進行形で傷つけられるとさすがにオッサン心折れちゃうから」

 

美琴の両足を掴んだまま口を揃えて毒を吐き始める絹旗と神楽にグラサンの奥にある目を潤ませながらも長谷川は話を続ける。

 

「いわばここは俺の戦場にもなり城にもなり墓にもなる場所なんだ。だからアンタ等にこれ以上騒いでもらっちゃ困るんだよ、お客さんビビッて近寄らねぇだろ?」

「おっさんの匂いってどうしてこう嫌になっちゃうんでしょうね、私今超気分悪いです」

「おいおっさん、あっち行けヨ、テメェの匂いのせいで一人気分悪くなってるネ、さっさと消えるヨロシ」

「あのさぁ君達もう一度言わせて、頼むからおっさんをイジメないで? 俺達おっさんは君等ぐらいの若い女の子にそういう事言われるとホント泣きたくなるの。死にたくなるの」

 

グスッとすすり声を漏らしながら鼻に指を当てる長谷川。

全く話を聞いてくれない毒舌娘達の彼の精神状態もボロボロだ。しかしそんな状態でも彼は決して折れない。

涙を堪えて背筋を伸ばし、5人に向かって腕を組んだ状態で彼は口を大きく開ける。

 

「例えここに強盗が来ようが殺人犯が来ようが俺はこの店を守ると決めたんだ! だからテメェみたいなレベル5が来ようが! 銀髪天然パーマのおっさんとちっこいジャッジメントが来ようが! 俺の弱った心をサンドバックにして笑顔でストレート決めてくる毒舌小娘共が相手だろうがこの店だけは! MADAOだけは死守するぞ!」

 

騒ぎまくっていた彼女達に向かって放った啖呵。

その言葉だけで長谷川はどれだけこの店で勝負しようとしているのか、どんな思いでこの店を守ろうとしているのかというのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、長谷川がそんな決意をあらわにしたところで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”来客”は突然やって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

それは突然風を削り取るかのような轟音を立てながら

 

 

店の入り口である自動ドアに突っ込み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長谷川が用意したありとあらゆる商品や器物を、コンビニ『MADAO』を盛大な爆発音と共にぶっ飛ばしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大爆発の音がコンビニの中で周りに響き渡っていたその時。

 

店の前方には同じ制服を着た数十人の男たちがこぞって集まっていた。

 

その集団の正体は

 

「テンメェ総悟!! いきなりバズーカぶっ放すとかなに考えてんだコラァ!!」

「別にいいでしょ減るモンじゃないですし」

「減るだろ! 今ここで真撰組への信頼が急激に減っているのがわかんねぇのか!! 周りにいた住民が悲鳴あげて逃げて行ったぞ!!」

「愚民共にどう思われようが俺は知ったこっちゃねぇんで」

 

周りから男女の悲鳴が木霊する中でバズーカをコンビニ目掛けて放った張本人。

真撰組一番隊隊長、沖田総悟は至って冷静な様子で上司である土方と会話していた。

 

「真撰組だー! 逃げろ! この辺一帯を跡形もなくぶっ壊す気だぞ!」

「きゃー助けてー!!」

「え~みなさんご心配なく!! 我々真撰組は別にこの街に害を為す事が目的とした組織じゃなくてですね! あ! ちょっと! 石投げないで! 痛いですホント! いやバナナ投げられても困りますから! 別に嫌いじゃないけど投げられたら食べるとかそんなんしないから! あ、美味しんだけどなにこれ? どこ産?」

 

逃げ惑う住民達に必死に呼びかけているのは、このクセの強い荒くれ集団真撰組を一つにまとめ上げる程の器量とカリスマを持っていながら不運に恵まれることの多い近藤勲だった。

つい先日元スキルアウトの少年に酷いだまし討ちでやられたにも関わらず、すっかりピンピンした様子で沖田達と一緒に業務に励んでいる。

 

「おいまずいぞトシ! これじゃあどんどん俺達の株が下がっちまうぞ! もうマジでやべぇんだって!」

「それよりなんでバナナ食ってんだアンタ?」

「ああ、銀髪のちっこいガキが投げてきた」

「は?」

 

手にバナナをもって口をモグモグ動かしながら走り寄ってくきた近藤に疑問を感じつつも土方はタバコを口に咥えたままだるそうに

 

「近藤さん、文句言うなら総悟に言ってくれ。アイツがすべての元凶だ、アイツがすべて悪い」

「近藤さん、文句言うなら土方さんに言って下さい、部下の失態はすべて上司の責任だ、コイツがすべて悪い」

「ふざけんなこのサディスティックバカ!! お前のせいだ! 腹切れ!」

「いやです、土方さんが切ってくだせぇ」

 

完全にナメた態度で土方を挑発する総悟。本来ならこの場で斬られてもおかしくないような態度なのだがこの掛け合いはもはや真撰組にとっては日常茶飯事の光景であった。

 

「トシ、総悟、いざこざは後にしろ。今はとりあえず仕事に集中してくれ、住民達の罵声や文句や器物破壊の責任は俺が受け止める、だからお前等は何も考えず好き勝手暴れてくれ」

「バナナ食いながらそんな事言ってもイマイチかっこつかねぇなアンタ……」

 

頼りがいはあるのだがいまいち締まりが悪い近藤に土方は口から煙を吐きながら呆れているとバズーカ砲を肩に掛けながら沖田が振り返り

 

「近藤さん、俺もちょっと腹減ってたんでコンビニでバナナ買ってきていいですかぃ?」

「コンビニならさっきテメェがぶっ飛ばしただろうが!!」

 

しれっとした顔でそんな事を提案する彼に土方は一喝するとやれやれと首を横に振って

 

「もういい、お前等、店内を探って来い。レベル4があの程度でやられたとは思えねえが念のためだ。死体があるか見てこい」

「「「「「「うーっす!!」」」」」」

 

命令に素早く対応して土方の後方にいた血気盛んな隊士達が行動を始める。

ザッザッザッと足音を立てて数十人の隊士達は破壊したコンビニへと歩いて行った。

それを腕組んで見送るのはタバコを咥えて静かに佇む土方とバナナを食べ終えて腕を組んでいる近藤。

 

「トシよ、俺はどうも今回の件はやる気がでねぇ。依頼を寄越したのがよからぬ実験を行っているって噂がある研究所ってだけじゃねぇ、ターゲットがまだほんの中学生ぐらいの小娘だという事だ」

「仕方ねぇだろ、警察も何でも屋みてぇなもんだ。来た仕事を受けるのが仕事。自分で好きな事選ぶなんてできねぇんだよ」

 

温厚でお人好しなタイプである近藤にそれとは反対方向の性格をしている土方が冷静に現実的に諭す。

この二人はそんな全然違う性格にも関わらず不思議と今まで仲良くやってこれた。

 

「だからって子供を手に掛けるのはどうもな……」

「相手はレベル4だぞ、ただのガキじゃねえ。指一本で人を殺せる化け物だ、俺達は化け物退治に来た、それだけだ」

 

平然とした顔でそう言い放った土方に近藤は腕を組んだまま厳しい表情を浮かべる。

 

「トシ、それは違うぞ、能力者だからと言って俺達と同じ血の通った人間だ。俺達と同じ感情をもち、好き嫌いもあり、色恋もする。この街で暮らしている人間の子供なんだ。そんな子供達を化け物呼ばわりするのはよせ」

「んな甘い事言ってるからその辺のガキに汚ねぇ手つかってやられちまうんだよアンタは」

「お前だってレベル5の女の子に負けたって総悟に聞いたけど?」

 

いきなり嫌な事を思い出させる彼の一言に土方はしかめっ面を浮かべた。

 

「いやアレは負けてないから、刀折られただけだし。侍は刀じゃなくて心折られなきゃ負けじゃねぇから」

「じゃあ俺も負けてないから、例えやられても俺のお妙さんに対する愛は今も決して揺るぎやしてないからね、今も昔も俺の心はお妙さんで一杯です」

「いやそれだと負けてなお欲情してる粘着質なストーカーに進化してるだけだろ」

 

キラッと歯を光らせこちらに輝かしい笑顔を見せる近藤に仏頂面で土方がツッコんでいると、突然コンビニへ向かわせた隊士達がどよめき始めていた。

 

「局長と副長! 大変です!」

「ああ、どうした? ガキ以外の死体でも見つけたか? 心配するな俺達の頭である近藤さんがすべて責任持つ」

「ちょ、ちょっと! さすがに民間人巻き添えにしちゃったら洒落にならないんだけど! さすがに背負いきれないんだけど!」:

 

身勝手に言い放つ土方に近藤が慌てていると隊士の一人が破壊したコンビニの上を指さして

 

「上にガキ二人と男が立っています!!」

「あん?」

 

指さした方向に土方は顔を上げる。

 

コンビニの上、本来なら一般人がそう簡単に立てる訳がない場所に

 

「なんだアイツ等?」

 

同じ制服を着た娘が二人と着物を着た銀髪天然パーマの男が呑気にこちらを見下ろしながら立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よコレ……どういう事なのよ」

「なんか急に爆発したと思いきや、今度は汗臭そうな連中が俺達の事を見上げてやがるぜ」

 

先程まで店内にいた美琴はこんな状況に混乱し始めている。一方同じく一緒の場所に立っている銀時は、コンビニの上から隊士達を見下ろして呟きながら隣に立っている少女の方に振り返る。

 

「おめぇの能力に慣れると視界が変わっても全然驚かなくなっちまったよ」

「わたくしの能力では二人飛ばすのが限界でしたの」

 

少女こと黒子はそう言って深いため息を放つ。

ついさっき総悟が放ったバズーカでコンビニが吹っ飛ばされる直前に、彼女がテレポートを使って銀時と美琴だけでも避難させたのだ。しかし彼女の能力には質量限界というものがあり、テレポートできるのは自分含めるとせいぜい二人分ぐらいなのだ。

 

「店内に残してしまったあの二人(絹旗と神楽)の安否が気になりますわね……グラサンのおっさんはどうでもいいですけど」

「あの制服って確か真撰組よね……」

 

心配している黒子をよそに美琴は下にいる隊士達を見下ろしながら静かに呟いた。

 

「もしかしてアイツ等がやったの?」

「そう考えるのが妥当だろ、俺は連中の事はあんま知らねえけど、このガキが言うにはただの警察組織って訳じゃねぇみたいだし」

「こうして連中の行いを身をもって体感すると分かりますわ。マジで攘夷浪士に粛清されて欲しいと」

 

頭をボリボリ掻きながら答える銀時とうんうんと頷きながら警察組織の人間としてとんでもない失言を漏らしている黒子。

そんな二人の真ん中に立った状態で、美琴は下でたむろっている真撰組を睨み付けるように見下ろしながら口を開いた。

 

「なにがなんだか知らないけど。売られた喧嘩なら買ってやる」

「お待ち下さいましお姉様、前にも言いましたわよね。真撰組は幕府直属の組織。迂闊に手を出せばどうなるか」

「心配しないで黒子、私は話し合いするだけよ」

 

マズいと思った黒子が美琴に言葉を投げかける。

先程まで彼女が仲良くしていた女の子二人が吹っ飛ばされたのだ。

今の彼女は冷静ではない、この後とんでもない事をやらかすに違いないと直感したのだ。

しかし美琴は忠告してきた黒子にニコッと笑って答えると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ等に嫌と言う程電撃お見舞いしてやりながらね」

「あ~あ、俺もう知らね」

「あ~あ、わたくしももう知りませんの」

 

偶然に巻き込まれた事なのも知らず

 

レベル5・第三位の少女の矛先は既に標準を定めていた。

 

 

 

 

 


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