禁魂。   作:カイバーマン。

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第十七訓 電撃少女、チャイナ娘と逃走少女に出会う

夏休み、それは子供達にとって長いようで短い休暇。

本来、この期間の間だと子供達は集まって色んな所へ出掛けてはいわゆる「夏の思い出」というのを作っていくのだが、

 

御坂美琴はそんな思い出など一つもなく、ただダラダラとこの大切な期間を無駄にしてしまっていた。

 

「暑い……」

 

とある公園の日陰に隠れたベンチにもたれかけて、今日も彼女は退屈な時間を独りぼっちで過ごしている。

 

理由は簡単、彼女には友人が絶望的なほど少ない。その数わずか二人。

そしてその内の一人は夏休みなど関係ないジャッジメントであり、

もう一人は自分よりずっと年上であるし学校の教師。自分から会おうとしても夏休みなので中々会えない立場にいる。

 

だが、例えこの二人が遊んでいいと承諾しても、彼等と遊ぶ気など美琴自身はサラサラなかった。

彼女は決めたのだ。自分だけの力でこの夏休みの間に友人を作るという野望を。

そしてあの二人に目に物を見せてやる、散々バカにしたことを見返してやると意気揚々とこうして毎日出かけているのだが……

 

「やっぱ出会いってそうそう無いか~……ハハハ」

 

ただ外に出るだけで友達が作れるわけが無かった。美琴はそれを身をもって実感し、そして悲しくなる。汗と一緒に涙まで出てきそうになり思わず自虐的な笑い声を上げてしまう。

 

ゆえに彼女は仕方なくこんな炎天下で退屈な時間をただボーっとするしかなかった。

 

「いやネガティブに考えちゃダメよ、ポジティブに考えなさい御坂美琴……そうよ自信を持てばいいんだわ、これからは後ろ向きに考えずに前向きに考えて生きていけばいいじゃない」

 

自分で自分に言い聞かせると美琴は腕を組んで思考する。

 

「悔しいけどあの”女王”を参考した方がいいかもしれないわね。アイツってば引くぐらい自信家だけど派閥作れるぐらい人を惹きつけれる力を持ってるし……」

 

あまり模範にしてはいけない人物を一番最初に出す所から美琴もかなりアレなようだ。

そもそも女王にとって派閥として集まっている者達との関係は、友人というより「主人と下僕」みたいな立場なのに、それを参考にしようとする時点でいかにコミュニケーションの取り方がわかってないのがよくわかる。

 

「私だって常盤台、レベル5、第三位の超電磁砲、勉学も優秀、運動神経も中々、容姿は余裕で学生モデルのトップ狙えるレベル。スタイルも将来有望の筈……あれ私って凄すぎじゃない? 才能あり過ぎて自分で自分が怖いわ」

 

もし彼女の背後に銀髪天然パーマの教師がいたら、間違いなくその教師は彼女の後頭部を思いっきり平手で叩いたであろう。

ポジティブどころか自分の理想像を入れて勝手なイメージを組み立てている事に彼女自身気付いていなかった。

 

「こんな凄い私と友達になりたいと思う子なら、それこそ星の数はいるわよねきっと、フフフ」

 

アゴに指を当てながら不敵に笑う美琴、一人で。

傍から見ればもう完全に痛い子で、この場をツインテールの少女が目撃したらその場で泣き崩れてしまうかもしれない。

 

そんな痛い小娘が友達作りに意欲を見せ始めていると、

ふと彼女が座っている所から二人の男女の声が聞こえてきた。

 

「なぁなぁ、君どっから来たん? こんな暑い所よりボクと涼しい所行ってお茶でも飲まへん?」

「なんですか一体? もしかしてナンパですか? 生憎ですけどそんなヒマ”超”無いんであっち行っててください」

「んも~いけず~、そんな事言わんで行こうよボクと~」

 

えらくわざとらしい関西弁を使う男と無愛想そうな少女の声。

どうやら男の方が少女にしつこくナンパしているらしい。

 

美琴はその声がした方向に振り返って立ち上がる。

 

「こう見えてボク、年下の女の子のエスコートなら中々のモンやで?」

「さっきから超最低の誘い方してるあなたが言っても説得力の欠片も無いですね」

「わかった、じゃあ今から君の胸をときめかせる最高の口説き文句を……ボクと合体して下さい!」

「お願いですから消えて下さい、それか死んで下さい」

「あは~ん! そのゴミを見るような目つき最高や! ドストライクゾーン入ったで~!」

「うへぇ、超キモイ上に変態マゾとか救いようがありませんね……」

 

公園にあるブランコにちょこんと座っているノースリーブのパーカーと短パンを着た少女に、”どこかで見たような高校の制服”を着た青髪の男が悶絶するように腰をくねくねしながら叫んでいた。

 

確かに変態だ……美琴はその男の醜態を眺めて唖然とするが、スタスタと彼等の方へ歩いて行く。

 

「ちょっとそこの変態、何やってんの」

「は! ボクを求める女の子がまた一人! しかも常盤台のお嬢様やて! 遂にボクにモテ期が!」

「いや求めてないし誰も」

 

こちらに振り返り様嬉しそうな笑顔を見せる青髪の男に美琴は冷たい目で一蹴する。

 

「その子困ってるじゃないの、ナンパならよそでやりなさい」

「え!? それはつまり「ナ、ナンパするなら私にしなさいよこのスケベ!」っていう意味!?」

「どう履き違えればそうなるのよ! アンタの頭の構造どうなってんだ一体!」

「常に女の子で一杯です!」

「ドヤ顔で言うな!」

 

変態もここまで行くといっそ清々しい、しかしやはり変態、人間として底辺の系統だというのはゆるぎない事実だ。

頭の中でそう結論付けている美琴に、青髪の男はパーカーを着た少女から常盤台のお嬢様にターゲットを変更したようだ。

 

「じゃあボクとお茶しよう! いや合体しよう! 大丈夫ボクは年下の女の子のエスコートなら中々のモンやで! 経験ないけど!」

「うわ! 近寄んな変態!」

「はぁはぁはぁ! ええやんええやん! 何事も経験を経て女の子は成長していく生き物なんや! ボクがそれをじっくりぱっくりもっこり教えたるで~」

「この……!」

 

両手をわしゃわしゃと気持ち悪い動きをしながら荒い息を立てて近づいてくる男に、美琴はバチッと頭から火花を出して威嚇しようとしたその時。

 

「ふぉわちゃぁぁぁぁぁ!!!」

「ごでふぁ!!」

「……へ?」

 

美琴の横をすり抜け、男に向かって飛んで行き鬼気迫る表情で彼を飛び蹴りで吹っ飛ばした赤い弾丸……否

赤いチャイナ服を着て頭に二つの髪留めを付けた

 

傘を持った自分と同年代の女の子だった。

 

「死ねコラァァァァァ!!」

「ギャァァァァァ!!!」

 

彼女は倒れた男に向かって拳を振り上げて何度も鉄槌を振り下ろし始める。

いきなり現れた彼女に美琴が困惑しているのも関係なしに。

 

「おら! おら! おら! おらぁぁぁぁぁぁ!!」

「あぼ! ぐえ! ほげ! おぐろぉ!」

「ちょ! ストップストップ! それ以上やったらそいつ死ぬ!」

 

チャイナ少女が狂ったように拳を振り下ろす度に男は悲鳴を上げ、所々に彼の血が飛び散りまくる。

 

あっという間にモザイクが無いと映せない状態になってしまった男を見て、やっと美琴は慌てて彼女を止めに入る。

チャイナ娘は拳を振り下ろすのを止めて何事もなかったかのように振り返った。

 

「なにアルか? 私は今、私の縄張りでキモイ踊りしてたコイツに制裁くわえてる最中だから邪魔すんなヨ」

「いややり過ぎやり過ぎ! そいつもう虫の息じゃない!」

「なに!? テメェまだ息してんのかゴラァァァァ!!! 死ねぇェェェェェェ!!!!」

「ぎえぴー!」

「だからそれ以上やったら死んじゃうでしょうが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、やっとチャイナ娘は青髪の男への制裁を止めた。

止めたというより最終的に公園の外へ思いっきりぶん投げて(片手で)遠い彼方に送ってしまったのだが。

 

「どんだけバカ力なのよ……もしかして筋力増加とかそういう能力者なのアンタ?」

「おい、大丈夫アルかそこの小娘」

「無視すんじゃないわよ!」

 

話しかけてくる美琴を無視し、さっきから黙ってブランコに座っている少女にチャイナ娘が話しかけると少女はブランコから降りて地面に両足を着けた。

 

「ぶっちゃけあんな変態野郎私一人でなんとでもなったのですが。その手間を省かせた件についてはありがたいと思ってます、誰だか知りませんが超感謝しますチャイナさん」

「良いって事アル、私はテリトリーに不届きモンが入って来たから追い出しただけヨ」

「追い出したというより半殺しだった気がするんですが? ていうか超殺す気じゃありませんでした? 目がマジでしたよ」

 

先程のチャイナ娘の暴れっぷりを見た上で少女が冷静に考察すると、彼女は「んー」と首を傾げながら小指で鼻をほじりだし、

 

「最近の男ってのは軟弱すぎてダメアルな、ちょっとどついただけなのにあっという間にお星さまになっちゃったネ、だから私は悪くないヨ」

「なんででしょう、あなたのその破天荒で図太い性格に不思議と好感を持ってしまいました」

 

日傘を差して優々と鼻をほじる彼女に少女が無表情ながら感心したような事を言っていると

 

「はぁ? あれのどこがちょっとなのよ、あそこまでやるこたないでしょ。あの変態が全面的に悪いのは事実だけど、さすがにこんな公の場で血だるまにするぐらい殴り飛ばすなんて、ジャッジメントとかアンチスキルに捕まってもいい訳出来ないわよ」

 

空気の読めない美琴がキビキビとした態度で突然チャイナ娘に説教し始めた。

それに対して少女は彼女の方へ振り返る。

 

「ていうか超誰ですかあなた?」

「え!? 何言ってんのよ! あなたを最初に助けようとしたのは私よ!」

「ああそういや、私があの男に言い寄られてる時に呼んでもないのに出てきましたね」

「何よその言い方! 言っとくけど私だってこのチャイナ娘が出てこなかったらあんな変態コテンパンに出来たわよ!」

 

そう言って美琴は胸を張ってフンと鼻を鳴らすと僅かに口元に笑みを見せながら、

 

「常盤台の超電磁砲、この御坂美琴が本気になればあんな変態百人だろうが千人だろうが一瞬でこの世から抹消する程の電撃をお見舞い出来るわ」

 

先程チャイナ娘にやりすぎだと偉そうに説教垂れてたくせにそんな事を自慢げに言う美琴。

だが二人の少女はというと御坂美琴という名前を聞いてもピンと来てない様子で、

 

「御坂美琴? 知ってますかチャイナさん?」

「知らねー、芸能人アルか? サインなら貰ってるやるからさっさとどっか行けヨ」

「ちょっと待てコラァァァァァァ!!!」

 

鼻に指突っ込みながら適当に相手するかのような態度を取るチャイナ娘に美琴は食ってかかる。

 

「超電磁砲よ! レベル5の第三位! それが御坂美琴! つまり私!!」

「レベルってなにアルか?」

「へ!?」

「知らないんですかチャイナさん? 学園都市では能力開発というのが超行われていてレベル事にその階級が分かれているんです」

 

どうやらチャイナ娘はレベル5どころか能力者について自体知らないようだ。

小指に突いた鼻くそを飛ばしながら美琴にジト目を向けるチャイナ娘に、少女が話の間に割って出て説明して上げる。

 

「この街には様々な能力を持つ者がいますがそれのトップがレベル5。そして彼女はそのレベル5でありしかも3本の指に入る程の超凄い能力者らしいです」

「コイツそんなすごい奴アルか? エスパー伊東の超能力より凄い事出来るアルか?」

「ギリギリ彼女が勝ってると思います、超ギリギリですが」

「なんでエスパー伊東と接戦なのよ! あんなのただ面白いだけでしょ!」

 

サラリとした口調でチャイナ娘に教えて上げる少女に美琴が指さしてツッコむと、少女はやっと彼女の方へ振り向いた。

 

「そういや私も名前だけは研究所で聞いた事がありますね、超思い出しました。第三位のなんとかなんとかさん」

「御坂美琴ぉぉぉぉぉ! まるっと全部覚えてないじゃないの! ついさっきも名乗ったのに!」

「いやいや能力の方はちゃんと覚えてますって。アレですよね、なんか超ビリビリするんですよね?」 

「アバウト過ぎるだろうがァァァァァ!!」

「”ビリビリ”というより”ピリピリ”してるネ」

 

その場で強く地団駄を踏んで叫ぶ彼女にチャイナ娘が無表情で感想を呟く。

 

「なんだか知らないけどお前が凄いのはわかったアル」

「ぜぇ……ぜぇ……あ、わかってくれた?」

 

肩から息をしながら美琴がほんのり嬉しそうにするがその直後、チャイナ娘はなおも感情の無いの表情で

 

「わかったからさっさとどっか行けヨ、生憎お前がビリビリしてようがピリピリしてようが私はお前になんの興味もないネ」

「なんでよ! 私よ! この学園都市に住む学生達の憧れの的なのよ! こんな私とお近づきのチャンスを得るって事は世界一の幸運なんだからね!」

「うわ……自分で言ってて超むなしいと思わないんですか?」

 

ドギツイ毒を無垢に吐いてくるチャイナ娘に美琴はなおも食ってかかって叫んでいるが、その姿が哀れとしか言いようがなく、傍に立っていた少女はやや引いた様子で呟いた。

 

「やっぱレベル5ってのは超変人のオンパレードみたいですね。まあそんな事よりチャイナさん」

「どうしたアルか、小娘」

「ここで会ったのもなんかの縁ですしどっか行きませんか? ここにいるとこのレベル5さんが超うるさいんで」

「ちょっとぉ! うるさいって何よ! 常盤台の子なんか私に話しかけられただけで失神する程喜ぶんだからね!」

 

まだ脇でギャーギャー喚いている美琴を二人は完全無視。

少女の誘いにチャイナ娘は素直に頷いて

 

「良いアルよ、私もヒマしてた所ネ。私は神楽≪かぐら≫ヨロシ」

「絹旗最愛≪きぬはたさいあい≫です。実は私も行く当ても無く超ヒマだったんでこの辺ブラブラしてしましてね、一人でいるのもなんか退屈なので二人で遊びに行きましょう」

「ちょ、ちょっとなに二人で急に仲良くしてんのよ! 私も混ぜてよ! ちなみに私は御坂美琴です! 私もすっごいヒマです!」

「いやあなたの名前は先程から超しつこく聞かされてるんでもういいです」

 

チャイナ娘は神楽、少女は絹旗最愛と名乗り二人仲良くどこかへ遊びに行こうとしているのを見て、思わず美琴も割り込もうとするが絹旗から冷たい目を浴びせられる。

 

「私、レベル5だからといってそれを偉そうに振り飾る人って超嫌いなんですよ」

「え……」

「そうアル、なにが私は憧れの的~だヨ、お前なんかせいぜい射的場の的だろうが、隣の商品が欲しかったのに間違えて当たっちゃって「あ、これ別のと交換して下さ~い」って言われちゃうぐらいの価値しかねぇよ」

「……」

 

絹旗からの強烈なストレート、神楽からの超絶急転直下のとどめの一撃。

身も蓋もない毒舌トークに美琴の心はポキッと折れた音がした。

ショックでその場で固まってしまう彼女をほおっておいて、神楽と絹旗はスタスタと行ってしまう。

 

「よくもまあ初対面の人にあんな超失礼な態度取れるんですかね~」

「育ちが悪いせいアル、きっと保護者の方もダメダメなロクデナシに決まってるネ、あまりにもロクデナシ過ぎて毛根が天然パーマになってるようなダメなおっさんに教育されたアルよ」

「超あり得そうですね、もしくはふんぞり返って偉そうな態度を取ってる癖に一日中ゴロゴロしてるダメ女かもしれません」

 

妙に一部の人間に酷似した例を挙げる神楽と絹旗。

彼女達がそんな事を言っている頃、その酷似した二人の人物が同時にくしゃみしていた。

 

『ブワックション!! なんだ夏風邪でも引いたか?』

『きったないですの、わたくしにうつしたら承知しませんわよ』

『安心しろ、変態は風邪ひかねえってよく言うだろ』

 

『クシュン! だーいきなりくしゃみ出ちゃった、風邪かしら?』

『家賃持ッテコネェクセニウイルス持ッテクンジャネェヨクソアマ!』

『あらやだ、アンタ顔面ウイルスまみれじゃない』

 

「お互い、そんなちゃらんぽらんな人間にこき使われない人生を送れて超良かったですねー」

「全くアル、やっぱり一人で自由に楽しく生きていくのが一番ヨ」

「ほう、やはりあなたとは超上手い酒が呑めそうです、私未成年ですけど」

「じゃあオロナミンCで乾杯アル」

「ならばコンビニへ買いに行きましょう、オロナミンCで私達二人が出会えたことを祝して超乾杯です」

 

二人でワイワイ仲好く会話をしながら行ってしまう。

取り残された美琴はその場にポツンと立ちすくみながら二人の後姿を死んだ目で見送る。

 

「どうして……自分に自信を付ければ友達なんて簡単に作れるモンじゃなかったの……」

 

自分で勝手に決め込んだ友達の作り方に、自分自身で悩み苦しむ美琴。

レベル5という立場もダメ、常盤台のお嬢様という立場もダメ、ならば自分がもう持ってるものと言ったら……

 

「ある……! 大抵の人間なら喜んで食いついてくれる必殺技を持ってるじゃない私……!」

 

またろくでもない事を閃いたのか美琴は行ってしまう絹旗と神楽を追いかけた。

そして彼女達の肩に両手を伸ばしてガシっと掴むと

 

 

 

 

 

 

「”金”ならある!!」

「ええ! いきなり超何言ってんですかこの人!?」

「お願い! お金上げるから私も連れて行って!」

「うぉい離せヨ! なんかお前の目怖いアル!」

「お金ならあなた達だって欲しいでしょ! ねぇねぇねぇ!!!」

「金なんていらないからこっちに顔近付けんなぁ!!」

「超必死過ぎて目が血走ってるんですけど!!」

 

目に血管が浮き出る程の目つきで、絶対に離さないと言わんばかりの力で二人の肩を思いきり掴む美琴に、さすがの絹旗と神楽も血相を変えて怖がった。

 

「とりあえず落ち着いてください! 超落ち着いてください! 逃げませんから!」

「ていうか逃げたら逃げたらでその顔で追って来そうで怖いアル、絶対夢に出るネ」

「……」

 

二人が逃げないと告げると美琴は躊躇しつつもゆっくりと彼女達の肩から手を放す。

大人しくなったはいいものの今度は黙り込む始末の美琴に、神楽がジト目で口を開いた。

 

「なにか訳アリのようアルな」

「私……友達全然いなくて……それでいつもその件で知り合いの二人(銀時と黒子)にいじられてて……」

 

話を聞いてくれる態勢になってくれた神楽と絹旗に、美琴はようやく素直になって項垂れながら心中を吐露する。

 

「だから私、アイツ等を見返してやろうと思って一人で友達作ろうと思ったんだけど全然上手くいかなくて……だから知り合いの一人を参考にして、自分に自信をもって接すれば自ずと他人との縁って作れるもんなのかなと思って……」

「ああ、さっきまでの態度ってそういう意味があったんですか……」

 

擦れた声で告白され、絹旗はなるほどと理解しつつもどこかよくわからなかった。

つまり彼女は友達が欲しくてあんな高慢な態度を取っていたというのか?

矛盾溢れるそのやり方に首を傾げる絹旗をよそに、隣に立っていた神楽は突然ペッと唾を地面に吐き捨てる。

 

「あんな上から目線で話しかけられたら誰だってキレるアル、友達欲しいなら素直にそう言えよバカチンが」

「ごめんなさい……」

「この人超泣きそうなんですけど」

「おい、泣けばいいってモンじゃねぇぞ、女の涙で釣れるのは男だけだって死んだマミーが言ってたアル、ここで泣こうが喚こうがオメーが欲しがってる友達は釣れねえんだヨ」

「ず、ずみまぜんでじたぁ……」

「あの、追い打ちかけないで上げて下さい、さすがに可哀想ですホントに……」

 

すすり声で謝りながら遂に涙目になってしまった美琴を見て絹旗も居心地悪そうにポリポリと頭を掻くと自分から彼女に近づいた。

 

「色々言ってしまって超すみませんでした、レベル5も色々と悩み抱えてるんですね」

「私も悪かったヨ、だから泣かないでほしいネ。なんか私達がお前をイジメてるみたいで罪悪感が芽生えるアル」

「いやイジメみたいというよりイジメてたと思いますよ私達、神楽さんなんか死体に蹴り入れてましたよ」

 

素直にこちら側も悪い所があったと謝る絹旗と神楽に、恐る恐る顔を上げて美琴はすすり声を上げながらも彼女の顔を見る。

 

「私も偉そうな態度取ってごめんなさい……今度から気を付けます……」

「ええ、ではこれで超和解ですね私達は」

「じゃあ改めて”3人”で行こうアル」

「……え?」

 

頭を下げて謝った美琴に絹旗は頷き神楽は楽しそうに提案した。

彼女の提案に思わず美琴は顔を上げながら口をポカンと開ける。

 

「3人って……私もついて行っていいの?」

「おうよ、3人でオロナミンC酌み交わそうぜ」

「私も超賛成です、そうと決まれば早く行きましょう」

 

ニカっと笑って見せる神楽に、無表情に見えて若干口元が緩んでいる絹旗。

心中を暴露した自分をあっさりと受け入れてくれた二人を見て、ふと銀髪の教師とツインテールの少女が映った。

 

「なによ、結局私と仲良くなってくれるのってこういう連中ばっかりね」

 

そう呟き美琴もまた彼女達と同様に思わずフッと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言っておくけど子供はオロナミンCは一杯までだからね」

「私は大人の女だから一杯どころか三杯飲んでもいいヨロシ」

「私も超大人なので」

「何が大人よ、対して成長してない胸のクセに」

「お前に言われたかねーヨ」

「な! なんですってぇ!!」

「なんで仲直りしたのに超速攻で喧嘩始めようとしてるんですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美琴がようやく友達作りの糸口を見つけた頃

 

「この野郎、また仕事中にサボって居眠りしてやがる」

 

ここは真撰組の屯所の広い庭が一望できる廊下。

そこの柱にもたれて眠っているのは、「眠ってませんよ」とわざとらしくアピールしてる目が付いたなんともバカにしたようなアイマスクを装着して眠っている十代後半ぐらいの若い男である。その男の頬を腰に差した鞘の先で小突く真撰組副長・土方十四郎。

 

「おいコラ起きろ、いつまで寝てんだ」

「なんですかぃ……まだ12時じゃないですか、こんな時間に起こさないで下さいよ」

「真っ当な人間はとっくに活動始めてる時間だろうが」

 

土方に小突かれて男はやっと目を覚ましてアイマスクを外した。寝ぼけ眼をこすりながら男は目の前に立っている土方の方へ顔を上げる。

 

「ていうか土方さんは何しに来たんですかぃ? サボってないで仕事行ってくれませんか、フォローする俺の身になってください」

「どの口が言ってんだテメェ……まあいい、ちょっとコイツを見ろ」

 

柱にもたれながら涼しげな表情で上司にそんな口の利き方をする男に、土方はイラッとしながらも手に持っていた紙を一枚を彼の前に突き出す。

 

「昨日の夜、能力進化を専門とする研究所から実験体が一人脱走したらしい」

「能力進化専門ってなんですかぃ?」

「素質ある能力者を上の段階に上げるために研究してる奴等の事だとよ」

「へ~」

 

土方もあまり能力関連については詳しくないので簡単に要約して男に告げる。

それで納得したのか男は気のない返事をして話を続けた。

 

「それでその研究所から”実験動物≪モルモット≫”が逃げたからなんなんですか。まさか俺達にとっ捕まえろと」

「いや、研究所からの通達では捕まえろとは言われてねぇ」

 

男の問いかけに土方は世間話を語るかのように言葉を告げた。

 

「「抵抗するならばそちらで処分してくれ」だとよ」

「そりゃ斬っちまってもいいって事ですかぃ?」

「ああそうだ、ったく人の仕事を殺し屋か始末屋と勘違いしてんじゃねぇか?」

「大事なモルモットが逃げた訳じゃねぇって訳ですか」

「ま、”口封じ”だろうな」

 

手に持った紙をヒラヒラさせながら物騒な事を簡単に口走る土方。

 

「大方研究所の連中は公には出来ねぇ実験をその素体に繰り返し実行してたんだろ。別の研究所にとっ捕まって情報を奪われる前に始末しとこうと考えたのさ」

「それなら殺すより捕まえた方がいいと俺は思いやすがね。また研究所に連れ戻してその非合法の実験でもやりゃあいいだけの話でしょ」

「反抗的な実験体は改めて再教育して従順にさせるより、手っ取り早く処理してコスト削減、それから新しい素体を用いてまた研究するのが連中のやり口だ」

 

吐き捨てるかのように言葉を放つと土方は不満げな顔で舌打ちする。

ここの研究者は欲望に忠実だ。まるで金や名誉よりもその先にある物を欲してるかのように数々の実験を繰り返している。

ましてやそれが禁忌の実験であっても、新しい発見と開発を見つけるためであれば彼等は膨大な時間と労力をも惜しまない。

故に彼等の考え方は土方達のような科学の事をよく知らない者たちとは根本的に違うのだ。

 

「俺としては、そのガキ相手に怪しげな実験を行おうとする研究者を全員斬ってやりてぇよ」

「そういう連中は適当に泳がせておいて、美味しい時に炙って食っちまえばいいんですよ」

 

不機嫌そうな土方に諭すようにそう言った後、男はチラリと横目をやって視線を落とす。

その先にはピンクのジャージを着た少女が先程の自分と同じく眠り込んでいた。

 

「北北東から……強い二つの信号が来てる……」

 

多くの人が通る廊下でぐっすりと爆睡しているこの少女、寝言を呟きながら鼻ちょうちんを膨らませて堂々と眠り込んでいる彼女に目をやった後、男は親指で彼女を指さしながら土方の方へ顔を上げる。

 

「そういやコイツもどっかの研究所から拝借したって伊東さんが言ってやしたぜ。もしかしたらコイツもヤバい開発実験とかやってたかもしれませんね」

「どうでもいいさこんなガキ……つうかコイツなんなんだ? 伊東の野郎が捜査に協力させる為に手に入れた代物らしいが、なんの役に立つんだこの居眠り小娘」

「何言ってんですかぃコイツの存在価値は高いですぜ、土方さん以上です。なにせコイツは」

 

彼女を指差されても土方は顔をしかめて首を傾げる。そんな態度を取る上司に男は呆れたように首を横に振ると彼女を指差したまま、

 

「ケツ拭き係ですぜ」

「いや嘘つけよ! なんだよケツ吹き係って! なんでそんなのがウチにいんだよ!」

「ほら、ケツ拭く時って手汚れちまうでしょ? だからですよ」

「だからじゃねぇよ! 手汚れたら洗えばいいだろうが! いらねぇんだよケツ拭く係なんて! つうか年頃のガキになんちゅう事やらせようとしてんだテメェは!!」

 

あまりにも10代の女の子に対しての配慮が足りない男に土方も喝を飛ばすが、男はそんな彼にキリッとしながら微笑を浮かべて

 

「残念ですが土方さん、俺はウンコしようが小便しようが手は洗わない主義なんです」

「なに誇りに満ちた顔で言ってんだ! 少しも誇れねぇよそんな汚ねぇ事! 主義としてじゃなくて人として手ぇ洗えよ!」

 

指を突き付けて大方ツッコミを入れた後、土方は苛立ちを抑えるかのように髪を乱暴に掻き毟った後、彼に向かってずっと手に持っていた一枚の紙を投げつけるように渡した。

 

「コイツ持っとけ、逃げた実験体の顔と名前だ」

「どれどれ……」

 

渡された紙にしばらく目を通すと男は「へぇ」と軽い口調で声を出す。

 

「レベル4なんですかぃこのガキ」

「高能力者だ。油断すんなよ」

「へいへい、誰かさんと違って俺はちゃんと能力対策の武装は準備しておきやすから。それにレベル4なら土方さんを軽く負かしたあのレベル5よりは苦戦しないでしょ」

 

レベル5、その言葉に土方の耳がピクリと反応した。

 

「テメェまさか見てたのか……」

「心配しないで下さい、あの時の土方さんの負けっぷりはもうスピーカー使って隊士全員に伝え済みですから」

「テメェェェェェェェ!!!」

 

あの時の出来事が既に隊士全員に知れ渡ったと聞いた瞬間には、土方の手は腰に差した刀に伸びていた。

 

「なにしてくれてんだコラァ! 最近隊士達の態度がよそよそしいし近藤さんが同情の視線的なのを送ってきてたのはそれが理由か! 斬られろ! 今すぐ俺に斬られて死ね!!」

「どうせいずれバレるんだろうからいいじゃないですかぃ、隠し通せるモンじゃありやせんぜ。近藤さんの仇である男を殺そうとしたらその男の女に殺されかけたなんてお

もしれぇ話」

 

半狂乱になってキレる土方を尻目に男は涼しそうな表情でそう言った後、

彼から渡された紙を手に持ったまま、隣で寝ている少女の頬を思いっきりつねった。

 

「起きろガキ、仕事だ。能力者探しならお前得意だろーが」

 

男がそう言うと、頬をつねられながら少女がパチッと両目を開けてむくりと半身を起こした。それと同時に鼻に付いていた鼻ちょうちんはパンと弾ける。まるでからくりの人形のような動きだった

 

「うん……それが私の能力だから」

「じゃあ土方さん、俺はもう行くんで」

「おい! まだこっちの話は終わってねぇぞ!」

「すいやせ~ん、俺サボってる土方さんと違って仕事ありますから~」

「待てこらァァァァァァァ!!!」

 

立ち上がり様に捨て台詞を残して、男は激昂している土方を放置して早足で廊下を駆けて行った。

先程同行しろと命令した少女も後をついてくるだろう。

 

「しっかし、ガキを斬るのが仕事か。どうにもやる気でねえや」

 

屯所の出入り口へと向かいながら、男は探すべき人物の顔と名前が書かれた報告書にもう一度目を通す。

 

 

 

 

 

名前の欄には絹旗最愛≪きぬはたさいあい≫と書かれていた。

 

名前の横にはこちらにむっつり顔でピースしている少女の写真が貼られている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真撰組・一番隊隊長、沖田総悟≪おきたそうご≫がまさかガキ連れてガキ斬りに行かなきゃならねぇとはねぇ」

 

 

色々な意味で真撰組一危険な男が

 

 

 

「まあいいか、レベル4相手なら退屈しのぎにはなるだろうし」

 

 

 

遂に動く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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