禁魂。   作:カイバーマン。

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第十六訓 破壊少女、チンピラ警察と縁を作る

「ひでぇ……」

 

真撰組の副長、土方十四郎と万事屋アイテムのリーダーにしてレベル5の第四位である麦野沈利が激突した。

浜面は二人の男女の戦いの行く末を後方から眺めながら現状に絶望を感じている。

 

二人の戦いより、志村家の酷い有り様に

 

「オラオラオラぁ!!」

 

屋根には至る所に大穴が開かれて焼けただれ

 

「死にやがれ!! 汚職警官!!」

 

その穴の下にあるいくつもの部屋にも

 

「避けてるだけじゃ勝てねえぞクソ野郎!」

 

甚大なる被害がある筈だと浜面は予測していた。

だがそんな一方で、先ほどから一連の被害を作っている元凶の麦野はというと

 

「ピョンピョンピョンピョン跳び回ってテメェはバッタかコラァ!? 虫けらなら虫けららしくさっさとグロテスクに内臓と体液出して惨めに死ねっつうのッ!!」

 

普段より更に拍車がかかって豹変した様子で、無能力者である土方相手に遠慮なくレベル5の能力「原子崩し」をお見舞いしていた。

 

固定された電子の壁を光線として撃つ。言うのは簡単だがその威力と速さは並の無能力者なら瞬く間に瞬殺できるスキルだ。

まさに生きた破壊兵器というのは彼女の事を指すのであろう。

 

そんな兵器相手に土方はというとしかめっ面でチッと軽く舌打ち。

 

「……伊東の野郎、こりゃ化けモンってレベルじゃ済まされねえぞ……」

 

己の体を基準点として麦野は周囲から光の光線を放出して土方目掛けて飛ばす。

 

「まさか近藤さんやったガキにこんなイカれた女がいやがったとは」

 

しかしその光線は彼には当たらなかった。光線が放たれる前に土方は瞬時に見定めて横に半歩飛んでいた。飛んできた光線は半歩分キッチリ、さっき立っていた地点を乱暴に撃ち抜いている。

 

「当たれよコンチクショウ!! あ~もうめんどくせぇな!!」

 

一発だけでは当てる事は出来ないと思ったのか、麦野は不機嫌そうに叫びながら周囲の固定された電子を次々と土方に狙って放つ。

だがしかし、土方はフンと鼻を鳴らすと何故か刀を鞘に納めた。

 

「口の悪ぃガキだ」

 

後方から大きくのけ反る、1発目の光線はすぐに彼の足元をかすめた。

そしてすぐにカカカ!と土方は麦野の周りを旋回するように走り出す。

背後から次々と落ちてくる光線を振り切る為に俊敏な速さで屋根の上を疾走するというのは、並大抵の人間では辿りつけないレベルであろう。

 

しかも土方は逃げているだけではない、そこから旋回しつつも徐々に麦野との距離を縮めて

 

「届く距離に入ればこっちのモンだ……!」

「あんッ!?」

 

一定の距離に近づいたところで土方は、鞘に納めていた刀の柄を握って麦野の方へ大きく跳ぶ。

居合抜きの構えで麦野目掛けて刀を抜く土方。だが抜いた刀は彼女を胴体から真っ二つにすることは出来なかった。

 

「チッ、盾まで作れんのかコイツの能力は……!」

「あらら~」

 

固定された電子が密集して壁を作り、麦野は迫りくる刃をそれを用いて余裕で受け止めたのだ。

さすがにこれには土方も面白くなさそうな表情で額から一つの汗を流す。

 

ここまで距離を縮めるために土方は幾度も彼女に能力をわざと使わせて、その時に行う彼女の動作や姿勢を研究していた。

彼女の戦略パターンをこの短時間で大分理解し、先読みして相手の技を潰しつつこの距離にまで迫ったのだが……

 

「せっかくのチャンスを潰してごめんね~、私が『撃つ』しか出来ないと思った? もし本当にそう思ってたら……」

「!!」

 

麦野を守る壁が消えた、だがそれと同時に彼女は動く。能力を用いる為ではなく自ら体を一回転させて

 

「大間違いなんだよバァァァァァァァカ!!!」

「チッ!」

 

強烈な回し蹴りを土方の横腹目掛けて振るう。能力ではなく己の体術まで用いた戦法に土方も予想外だったのか動作が遅れるも、僅かに後ろにのけ反ってなんとかそれを避ける。

 

「なるほど、その辺の能力頼りのひ弱なガキ共とは違うようだな……」

「当たり前でしょ、今アンタの目の前にいるのを誰だと思ってるの? 雑魚とは違うのよ雑魚とは」

 

渾身の回し蹴りさえ避けられたのに麦野は以前不敵な笑みを浮かべたまま土方と対峙する。

 

「いい加減さっさと殺されてくれないかにゃ~ん? これからこの場の後始末もやんなきゃいけないんだからさ、私。屋根の修理、家にある壊したモンの隠蔽、バラバラになったテメェの肉片を燃えるゴミに出したりさぁ~」

「……人間の肉って燃えるゴミなのか?」

「さあ? でも燃えるでしょ? 燃えんなら全部燃えるゴミに出せばいいのよ、私はジャンプだって燃えるゴミに出すわ」

「ロクに分別も出来ねぇのか近頃のガキは……」

 

肝が冷える様なことを呟いて挑発したり訳の分からない事を言ったりする麦野に、土方は構えは崩さずとも顔はしかめっ面を浮かべている。

 

(どうにも読めねぇなこのガキ……なに企んでやがる)

 

ふと麦野の行動に違和感を覚え始めた土方だが、彼女はそんな彼の隙を見逃さない。

 

「ヒャハハハハ!! オラまた下がれよ!! テメェみたいなタバコくせぇ奴が私の傍に寄るんじゃねぇ!!」

 

瞬く前に己の頭上から固定された電子を展開する麦野。

土方がそれに気づいてハッとしたと同時に光の光線はまるで雨の如く彼の上から落ちてくる。

 

「テメェMP切れとかねぇのか!!」

 

疲れさえ見せずに易々と原子崩しを展開できる事にも驚きつつ土方はその場でバク転して一気に麦野から距離を取り直した。

先程まで土方が立っていた地点には大量の光線が集合体となって一つの塊となり、

 

ゴウッ!という音を立てて落ちてきた。屋根など容易く貫き、その場に巨大な大穴を作る程の威力で

 

「……おいおい家がもたねぇぞこのままじゃ」

「家を心配する前にテメーの心配しろよ」

「いやお前がまずこの家のこと心配しろ、知り合いの家なんだろ」

 

思わずツッコミさえ入れてしまう土方だが麦野はそれに対してニタリと笑いながら

 

「これきしの穴なんざ簡単に埋められんだよ、そうでしょ浜面!!」

 

後ろで待機している浜面に不意に話しかける麦野だが、浜面は彼女の問いに静かに手を横に振って

 

「いやさすがにそれは無理」

「はッ!?」

 

彼女が思いもしていなかった返答をした。

「おぅいテメェ! 前回の話で散々偉そうに好き勝手言ってたくせにそれはねぇだろ! どうすんだよコレ!」

「こっちが聞きてえよ! 俺は大工じゃねぇんだよ! こんな滅茶苦茶になった家を元に戻せるか! 神龍に頼め!」

「え、マジで直らないの!? これじゃあのキャバ嬢にいびられるどころかウチのババァに告げ口されるんだけど! 修理費とかめっちゃ請求されるわよ! お願い浜面直して! 300円あげるから!」

「たった300円で親指立ててイエス!と答える程俺のやる気は安くねえ!」

 

突然本来のターゲットである浜面とギャーギャーと口論を始める麦野。

土方はその隙にタバコを一本口に咥えて、ライターで火を灯しながら彼女を黙って見つめる。

 

(やはり読めねぇ……)

 

遂にこちらに完全に背を向けて、浜面の胸倉を掴んで何か叫んでいる麦野を観察しながら、土方は彼女の動きに先程から違和感を覚えていた。

 

(口では殺すだの死ねだの喚き散らしているが……)

 

麦野の能力は確かに恐ろしいほど強い。いざ「殺し」に用いれば簡単に相手を排除出来る事は間違いないであろう。しかし、

 

(明確な殺意がまるで感じない……コイツ、ハナっから俺を殺す気なんか持ってねぇ)

 

土方が違和感を持っていたのはまさにそこだった。

先程から強力な原子崩しを披露している麦野だが、その攻撃は全て完全に察知する事ができた。まるで、避けて下さいと言わんばかりの殺気のこもらない一撃ばかりであったのだ。

 

現にこちらも無傷。あちらも無傷。この戦いで負傷しているのはせいぜいこの家ぐらいだ。

それはそれで志村家にとっては大きな損害だが。

 

(テメーの命を失いかねないこの勝負で、コイツは本気を出さないどころか俺を気遣った上で戦ってるっつーのか?)

 

不機嫌そうに土方はタバコをペッと人の家の屋根に吐き捨てる。自分の考えが正しければ、彼女はこの勝負に本気を出す必要もないと考えているという事だ。土方はそれがどうしても解せない。

 

「おい小娘」

「んだよ! 今こっちは忙しいのよ! 後にして!」

「本気でやれ、さもねぇと死ぬぞ」

「あ?」

 

上から見下ろしながら土方がそう言うと、麦野は浜面の胸倉から手を放して彼の方へ振り返る。

 

「本気ってどういう意味?」

「とぼけんな女狐」

 

チャキっと刀を構えながら土方は鋭い目で彼女を睨み付ける。

 

「全力でかかってこい、俺を殺す気でな」

「あ、そ」

 

刀をこちらに突き付けてそう宣言する土方に、麦野は項垂れて軽くため息をついて、

 

「そうね、いい加減飽きたから」

 

静かにそう答えると、

 

「死ね」

 

突然彼に向かって走り出した。

先程まで遠距離から撃ってきていたのに、自ら距離を縮めに来た彼女に対して土方はニヤリと笑って真っ向から突っ込む。彼女がいよいよ本気で来ると肌で感じたからだ。

 

(命のやり取りと行こうぜ……!)

 

刀を両手で持って振り上げる、無謀に突っ込んできた麦野をもう完全に捉えている。このまま……

 

「うらぁぁぁぁぁ!!!」

 

縦から真っ二つにする勢いで土方は刀を速く振り下ろした。この僅かな一瞬、彼は完全に「斬った!」と感じていたのだが、

 

「な!!」

 

振り下ろした先には何もなかった。鳩が豆鉄砲を食ったように固まる土方はハッと気づく。

 

(光線を下に撃って自分の体を……!!)

 

こちらが刀を振り下ろそうとしていた所で、麦野は既に自分の足元に電子の壁をぶつけ、それをブースター代わりにして滑る様に動き、彼の高速の斬撃を難なく回避していたのだ。

しかし彼が気付いた時点でもう遅い。

土方は見開いた目でパッと横に振り返る。

 

すぐ隣に悪魔のように笑って見せる麦野が、指の先から固定された電子をこちらに突きつけていた。今度こそ本気の殺意を持って

 

(マズイ! やられ……!)

 

死ぬ、土方がそう感じたその時

 

 

 

 

 

彼の持っていた刀の刀身がカランと気の抜ける音を出して屋根の上に落ちた。

 

「……は?」

 

柄の先は一瞬にして焼き切れていた。落ちた刀身にもその痕が残っている。

麦野の狙いは土方ではなく、彼の持つ獲物を無力化する事だったのだ。

 

土方は刀身を失った柄を握ったまま呆然とした表情で麦野を見つめる。

彼女はというと呑気に「ふわぁ」と欠伸をすると自分の肩をコキコキと鳴らしている。

先程彼女から感じていた殺意はもう感じられない。

 

「はいこれで終わり」

「な! テメェどういうつもりだコラ!」

 

一瞬だけ本気を見せただけで、結局自分にトドメを刺そうともしない始末。

コケにされた事に対し土方は彼女に向かって声を荒げる。

 

「殺すつもりで勝負しろって俺は言った筈だぞ!」

「ああごめん、私って人から指図受けると反抗しちゃう性分なのよ」

「テメェ……」

「こんなくだらねぇ事で人殺しになりたかないのよ私は。この町に住めなくなっちゃうでしょ」

 

そう言って麦野は既に戦う為の得物も失ってしまった土方に背を向けて浜面の方へ歩き出す。

 

「浜面~、あの姉弟戻ってくる前に家直すから手伝って~」

「い、いやその前にお前大丈夫か……? 怪我とかしてないのか?」

「んな心配いらないわよ、レベル5ナメんな」

 

オドオドしながら歩み寄ってくる浜面を見て思わずケラケラと笑っている麦野。

土方は柄だけになった刀をその場にカランと捨てて彼女の方へ一歩近づいた。

 

「一つだけ教えろ、どうしてそれほどの力をもってながらこんな所にいんだテメェは」

「はぁ……」

 

問いかける彼に、麦野は振り返らずにゆっくりと口を開いた。

 

「ここが私の”居場所”なのよ。ここ以外に私の居場所はないわ」

「……」

「はい終わり、さっさと消えて」

 

無愛想にそう言うと、麦野は土方をその場にほったらかしにして浜面にジト目を向ける。

 

「ちょっと何してんのよ、ボーっとしてないで仕事しろ。早く家直しなさい」

「いやさっきお前が言ってた事気になって……って! 出来る訳ねぇだろコレ! 屋根どころから家の中まで穴だらけになっちまってんだぞ!」

「穴なんて塞げばいいだけでしょ、板でも打ちつけておけば気が付かないわよ」

「気付くわ!」

 

乱暴な提案に浜面が無理だと叫んでいたその時、

 

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!! これどうなってんですか一体!!!」

「……あ」

 

下から聞こえた絶叫の様な叫び声が飛んできた。

浜面はピタッと止まってそーっと後ろに振り返って下を見下ろすと

 

「なんで屋根の修理頼んだだけなのに家が半壊してるんですか!! 麦野さん! またアンタがなんかやったんでしょ!!」

 

釘と包帯が入ったビニール袋を片手に持って帰って来た新八が、こちらを指差して怒鳴っていた。

 

「浜面君もちゃんと麦野さんがロクな事しないよう見張っててくださいよ! どうするんですかこれ一体!!」

「いやねぇ新八君、別に麦野が全面的に悪いんじゃないんだよ……これには色々と事情が」

 

なんだかんだで自分の窮地を救ってくれたのは麦野だ。そう思って浜面は焦りながらもなんとか彼女をフォローしようとするが……

 

「そうね、是非私にも聞かせてもらいたいわね。屋根の修理さえまともに出来ない万事屋さん?」

「……」

 

すぐ隣から聞こえた女性の声に浜面はビクッと体を震わせる。

下にいるのは新八だけだ、ならなぜ”彼女”の声がこんなに近く……

恐る恐るゆっくりと声のした方向に振り向いてみると

 

「買い物から帰ってきたら父上が残してくれたお家が崩壊していたなんて、私ビックリし過ぎてあなた達をここから生きて帰せそうにないわ」

「ギャアアアアアア!! いつの間に戻って来て屋根の上に昇って来たのこの人!!」

 

笑顔とポニーテールが魅力的な女性、志村新八の姉であるお妙がニッコリ笑いかけながらこちらに歩いてくるではないか。

まさか着物という動きにくい恰好でここまで昇って来たのか、気配もださずに……

 

「麦野さん、これはどうしてくれるのかしら? ウチ穴だらけになってるんですけど、明らかに誰がやったのかわかる証拠を綺麗に残して」

「通気性を良くするサービスよ、今年の夏は涼しい夜を過ごせて寝心地抜群よきっと」

「そうね、これなら寒い冬になればきっとぐっすり眠れるわね、永遠に」

(お妙さんの笑顔こえぇ~……てかなんで麦野ビビらねぇんだよ……)

 

麦野に笑いかけながら近づいてくるお妙に、すっかり浜面はビビッてその場から動けなくなってしまう。

しかし麦野の方はというとそんな彼女相手にも平然とし、まるで自分が悪いと思っていない様子で真っ向から彼女と顔を合わせていた。

 

「べっつにいいでしょ~穴ぐらい、わかったわよ塞ぐわよ、板でも貼り付けとけばいいんでしょ?」

「ふふ、穴塞げばすべて丸く収まるとでも思ってるのかしらこの単細胞さんは」

 

髪を掻き毟りながらいかにも安易な提案を出す麦野にお妙が小首を傾げて黒いオーラを放ち始めていると、

 

さっきまでこの状況を見物していた土方がスッと二人の間に割って出た。

 

「待て、この家が穴だらけになったのは俺の責任でもある。その上でこの件は俺に話をつけさせろ」

「ああ? 私に負けた癖になに仕切ってんの?」

「うっせぇ殺すぞ! つか俺は負けてねえ! 刀折られただけだ!」

 

いきなりしゃしゃり出てきた土方に麦野はジロッと睨んで不満そうに言うが、土方は彼女に一喝してすぐにお妙の方へ振り返る。

 

「とりあえず、アンタ。”近藤さんの女”だな」

「なんですこの人? 初めて会った人をムカつかせる事が趣味の方ですか?」

 

いきなり失礼な事を言われ、さすがにお妙もイラッとするが土方は話を続けた。

 

「武装警察、真撰組の副長をやってる土方だ。ここの修理費はウチが”一時的に”持つ、それでいいだろ女」

「ああ、あのゴリラの部下の人なんですね。出すもの出してくれるなら構いませんよ、けどどうしてあなたが麦野さんの肩を持つんです?」

「やられっぱなしは性に合わねえんでな」

 

そう言って土方はチラリと麦野の方へ目をやってニヤリと笑う。

 

「俺をナメた罰だ、きっちり借金返せよコラ」

「はぁ!? よくわかんねぇけどテメェの組織が全額弁償するんだろ! なんで私がアンタに借金すんのよ!!」

「一時的つっただろうが、今は俺が工面しておくが後々きっちり請求するんだよ。勝負吹っかけたのは俺だとはいえ家ぶっ壊したのは実質テメェだろ」

「ふざけんなぁ! あれはテメェがピョンピョン避けてたからだろうが!!」

 

いきなり借金と聞かされさすがに麦野も声を裏返らせ驚いていた。そんな彼女の反応を眺めながら、土方は懐からタバコを取り出す。戦闘中も喫煙を欠かさなかった事から余程のヘビースモーカーなのだろう。

 

「とりあえずウチからの依頼は全部タダでやれ、いくつか達成したらその内借金チャラにしてやる」

「は? まさか真撰組が私に依頼するって事?」

「俺は能力者ってのは心底嫌いだが、逆に能力者に興味持ってる野郎がウチの組織にいる」

 

咥えたタバコに火を付けて一気に吸う土方。

 

「そいつが言うには能力者を用いて円滑に事件解決が出来るようにするのが目的らしい」

「へぇ意外ね。武闘派の真撰組にもそういう事考える輩がいるんだ」

「表向きはな……役に立つ手駒がまだ少ねぇ。だからテメェの存在がウチに知られれば、いずれそいつがお前に依頼を寄越すかもしれねぇ。それもかなりの報酬を出してな」

 

煙を空に向かって吹きながらそう言う土方に、麦野は無言で腕を組む。

 

真撰組がウチに仕事を寄越す事になる。果たしてこの話、上手い方向に行くのか悪い方向に行くのか……

 

考え込んでいる麦野に浜面はその話を聞いて「おお!」と嬉しそうな声を出す。

 

「真撰組とはいえ警察組織から依頼が来るようになったら名前を売れるチャンスじゃねえか! 駒場捕まえた組織からの依頼ってのがちと引っかかるが、これでたんまりと金が入るようになればフレンダだって!」

「ちったぁ脳みそ使えよ浜面。下手すれば幕府の犬の犬に成り下がるのよ」

「でもよ、真撰組の依頼ならお前の能力をもっと上手く活用できるかもしれねぇじゃねぇか!」

「別に私は能力使って金儲けしたいとは思ってないわよ、私はなんでもやる万事屋として稼ぎたいの」

 

身を乗り上げる浜面にそう言い放つと、麦野はまだ納得してない様子で鼻を鳴らして土方の方へ目をやる。

 

「まあいいわ、とりあえずその話には乗っておくけどこれだけは覚えときなさい。来た依頼は必ず受けるのがウチの主義。だけど汚い仕事させられるなら別よ」

「そうか、だがテメェの肩にはもう俺からの借金が乗っかってるのを忘れんな」

「ええ、それぐらい構わないわよ」

「テメェの部下もその間は生かしておいてやる」

「はいはい」

 

苦々しい表情で土方を睨みながら舌打ちすると、麦野はサッと背後に立っていた浜面の方へ振り返ると

 

「つーことで浜面、アンタも私の借金半分背負ってね」

「へ!? 構わないんじゃないの!? お前が全額背負うんじゃないの!?」

「おいおいおい、誰が助けたか覚えてんのかしら浜面君?」

「い、いや確かにこの男が引き下がったのは麦野のおかげだけど……え、マジで?」

 

いきなり借金の片棒を担げと言われ浜面は顔中から汗を流しながらもう一度麦野に問いかける。

麦野はお妙に負けないぐらいニッコリ笑いながら

 

「命の恩人が言ってんだからやれ、この場で血祭りにされたくないでしょ?」

「……はい」

 

完全に弱みを握られている時点でもう浜面に拒否するという選択肢は無かった。

これでもう、万事屋はおろか真撰組からも逃げられなくなったという事だ……。

 

意気消沈している浜面はほっといて、先ほど土方が金を出すと言ってくれたのでお妙はすっかりご機嫌の様子だった。

 

「それじゃあ私の口座に振り込んでおいてくださいね、もし振り込まなかったらあなたの上司の醜態をネット上に流しますから」

「ああわかってる、だからそれは勘弁してくれ」

「ウチは元々西洋の宮殿をイメージして江戸一番の匠が建てた家ですからそれなりのお金をお願いしますね」

「どこが西洋の宮殿だ!? こんな畳の匂いのする宮殿見た事ねえよ!!」

 

お妙に向かって土方がツッコんでいる様子だが浜面は頭を押さえて全く聞く耳持たずだった。

 

(……銀さん、フレンダ……俺、この町で早くも借金持ちになりました……)

 

フレンダを迎えるのはまだ先になりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浜面が麦野の借金を半分背負って落ち込んでいる頃。

志村家を囲む塀の上に一人の男が彼等の状況をジーっと観察しながら眺めて立っていた。

真撰組の制服を着た、10代後半ぐらいの甘いマスクをした栗色の髪の少年。腰に帯刀している所から見て、彼もまた一人前の隊士なのがわかる。

 

「あらら~、負けちまったくせに相手をフォローするとはねぇ。鬼の副長が聞いて呆れるぜぃ」

 

自分より年上であろう土方を見てそんな事を仏頂面で呟いた。

 

「意地張らねぇで能力者対策の武装しておけば、片腕ぐらい斬り落とせただろうに」

 

そう言い終えると男は塀の上からひょいっと外側にジャンプして降りる。

 

着地した場所の傍にはピンクのジャージを着た寡黙そうな少女が塀にもたれて地面に体育座りしていた。

 

「……南西から信号が来てる……」

「何言ってんだお前?」

 

いきなり電波気味な事を言う少女に男はツッコミを入れてだるそうに自分の肩に手を置く。

 

「伊東さんも変な奴寄越しやがって、一体コイツが何の役に立つんだかねぇ、とりあえず俺がウンコした後のケツ拭く係でもやらせるか」

 

不満そうにそう言うと、男は制服のポケットに両手を突っ込んで歩き始めた。

 

「行くぞケツ拭き係、これ以上あのバカ(土方)の監察しても面白くもなんともねぇや。帰って再放送のドラマ見た方がましだ」

 

男が歩き出すと少女も体育座りを止めて腰を上げ、黙って彼の後をついて行く。

 

その時、ふと志村家の門から先程男が見ていたであろう光景が彼女の目にも映った。

 

「じゃあまずはこの家の穴を全部塞がなきゃね、ほら新ちゃんも手伝って」

「はぁ……言わなくてもわかってると思いますけど報酬はありませんからね」

「ええ!? 俺借金背負っちゃったんだよ! ちょっとでもいいからくれよ!!」

「諦めなさい浜面、コイツ等は血の涙もない姉弟なのよ……」

「アンタはどの口が言うんだコラァ!! ってなんじゃぁぁぁぁぁこの大穴ぁぁぁぁぁ!!」

「ふふ、私の最高傑作」

「なにドヤ顔浮かべてんだアンタ! すげぇムカつくんだよそのツラ!」

「じゃあ土方さんも手伝って下さいね、女手二人と軟弱そうな男二人だと不安だし」

「ああ? 俺は金払うだけだぞ? なんでんな事しなきゃいけねぇんだ?」

「ええとなんでしたっけ? YouTube? あれで流せばいいんですか?」

「おい万事屋ぁ! 早く釘持って来いコラァ! 日が落ちる前に穴という穴に板張るぞぉ!!」

 

屋根の上でやかましく叫びながら騒いでいる一同を見て

 

「……楽しそう……」

 

その一言だけ呟いて少女は男の後をついて行った。

 

 

 


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