禁魂。   作:カイバーマン。

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第十二訓 駄目少年、決闘を申し込まれる

 

かぶき町が真の姿を見せる時は”夜”だ。

この時間はほとんどの店が明かりをともし

仕事漬けで疲れた連中を両手を広げて迎えてくれる。

 

そしてがっつり両手でホールドしてありったけの金をむしれるだけむしり取る。

 

このキャバクラスマイルもその一つ。店内は大勢の客で賑わっており今日も大繁盛だ。

 

「いらっしゃいませー!」

「はーいドンペリありがとございやーす!」

「心理定規ちゃんご指名でーす! 7番テーブルへ!」

「ちょっと銀髪の旦那! お連れの金髪の子が顔色悪いよ! ちょっとしっかり……うわぁぁぁぁぁぁ!! 誰か3番テーブルにゲロ袋大至急!!」

 

どこもかしこもてんやわんやの大騒ぎ、不景気などなんのその。夜の華たるキャバ嬢は今日も男たちと飲んで食って夜を明かす。

 

志村新八の姉である志村妙もその一人であった。

 

「すごいですねぇ、その年で警察組織のトップになられてるなんて。きっとよほど優秀なんですね」

「いやいや、俺なんて全然だよ……もうホントダメなんだよ俺達……」

 

お妙は今、4番テーブルでいつものように接客をしていた。相手は初めてやってきた一人の男性。自分と彼以外にこのテーブルには誰も座っていない。

 

「警察組織つってもさ、すっげぇ嫌われてるんだもん俺等……なんかもう汚物としか見られて無いんだもん……幕府の犬だとか人斬り集団とかチンピラ警察24時とかちまたで呼ばれてるらしいし……」

「他人の評価なんてほおっておけばいいじゃないですか、一生懸命に仕事に打ち込めば自ずと周りもわかってくれますよきっと」

「そう言ってくれて嬉しいけど……周りの奴がついてきてくれねぇんだよ、部下は血気盛んに暴れまくるし、”トシ”は能力者嫌いだし。”総悟”は平気で建造物を半壊させるし、”ザキ”はミントンやってるし、まともに組織の事考えてくれるのは”先生”しかいねぇのよ、そして俺は……」

 

部下に対してありったけの愚痴を吐き終わった後、男はうなだれた状態でハァ~とため息を突き。

 

「ケツ毛ボーボーだし」

「あら? いいじゃないですか男らしくて」

 

どうでもいいカミングアウトする男にお妙は優しく微笑む

 

「素敵だと思いますよ」

「じゃあお妙さん、聞くけどさぁ、もしお妙さんの彼氏が」

 

隣でやんわりとしているお妙の方へ、うなだれていた男がわずかに顔を上げ

 

 

 

 

 

「ケツが毛だるまだったらどうするよ」

「あら、そんなの決まってます」

 

 

 

 

 

男は静かに問いかける。

するとお妙は口元に微笑を浮かべたまま平然と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ケツ毛ごと愛せばいいじゃないですか」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

男に電流が走った

そして未だかつてない痛みが胸を襲う。

隣に座る彼女は今まで見てきた女性とは違うと男は本能で悟った。

 

 

 

 

 

 

 

(菩薩……! 全ての不浄を包み込むまるで菩薩だ……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は感動して震えた。まさか自分が待ちに臨んでいた存在がこんな近くにいてくれたなんて……。

 

「あの、どうしたんですか?」

 

再び首を垂れ、肩を震わせる男にお妙が心配そうに話しかける。すると男はうなだれたまま

 

「お、お妙さん、俺と、俺とけ……けっ……けっこ……」

「はい?」

 

声まで震わせているので何を言っているのかお妙はわからなかった。

しかし次の瞬間、男は腹をくくったのかガバッと顔を上げて彼女の方へ振り向き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”ケツ婚”してください!!」

「おぼろろろろろろろ!!!」

「あぁぁぁぁぁ銀髪の旦那まで吐いたぁぁぁぁぁ!!!」

 

こうして彼の一世一代のプロポーズは後ろにいたお客の吐瀉音によって呆気なく台無しにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、いやケツ婚ってなに? ケツで結ばれる関係ってどんな関係?」

 

場所と時間が変わりここはかぶき町にあるスナックお登勢の店内。

4人用の席に座り、話の一部始終を向かいに座るお妙から聞いたのは、万事屋アイテムを一人で営んでいる麦野沈利。

 

「それでアンタどうしたのよその後」

「そりゃ丁重にお断りしたわよ、でもその人あんまりしつこくてね。だから鼻にストレート決めて逃げたの」

「鼻より股間に蹴り入れておいた方が良かったんじゃない? 二度と使いモンにならなくなるぐらい」

「いやそれはさすがに可愛そうだろ……」

 

物騒な事を平気で言う麦野にボソリと呟いたのは彼女の隣に座っていた浜面仕上だった。

彼はしかめっ面を浮かべながらお妙の方へ振り向いて詳しく話を聞き出す。

 

「てことはなんだ、プロポーズ断られたクセにその男はアンタに毎日のようにせまってくるのか?」

「そうなのよ、どうやってかぎわけているのか知らないけど。私がいる所に唐突に現れて。もうどこに行ってもあの男の姿があるって気付いたの」

「完全に異常だな……警察には連絡したのか?」

「あの人自体が警察組織の人間だから協力してくれるとは思えないわ」

「マジかよ、警察がストーカーとか世も末だな……」

 

お妙の話を聞いて浜面は頭を押さえて思考を巡らせていると、そんな彼を麦野はテーブルに膝を突きながら横目でジーッと見つめる。

 

「なんでアンタが考えるのよ。アンタは関係ないでしょ。これは私が受けた仕事」

「へ? あそうだった、つい流れで。でも俺でもなんか出来るかなと思ってさ」

「いらないいらない、万事屋は私一人で十分。アンタはさっさと職でも今日寝る宿でも探してきなさい、」

「なんだよ冷てぇな……」

「他人の事より自分の事考えたらどうなのよ? こちとら久しぶりに金稼ぐチャンスだってのに……」

 

不貞腐れる浜面に麦野はムスッとした表情で答える。彼女も彼女で必死なのだ。このままでは家賃滞納で家から追い出されてしまう。

 

「コイツの存在は無視して、話を聞くのは私。とりあえずそこのメガネ」

「え、僕ですか?」

 

お妙の隣に座っていた弟である志村新八に麦野はおもむろに話しかける。

 

「アンタもそのストーカーって見たの?」

「ええ、姉上といる時にいっつも出てきますから……」

「本当に警察組織の人間? ホラじゃないの?」

「確かに警察には見えなかったですけど……廃刀令のご時世に帯刀してましたから本当なのかもしれませんよ。今どき腰に刀差してる人なんて幕府の人間か攘夷浪士ぐらいですし」

「なるほどねぇ、確かにキャバクラに通えるぐらい金持ってんだし警察組織の人間ってのは本当みたいね」

 

結論を出すと麦野はぬふふと変な笑い方をする。

 

「幕府の人間かぁ、こりゃゆすれば大量に金落としそうね。捕まえて脅しかければ滞納してた家賃も一括で払えるわこりゃ」

「おいおいアンタまさかそいつにたかる気かい?」

 

いい案を思いつき、口元にニヤニヤと笑みを広げる麦野に話しかけたのは彼女達がいる店の経営者であるお登勢だった。カウンターの前に立ち、キャサリンも彼女の隣にいる。

彼女とキャサリンもまた先程のお妙の話を聞いていた。

 

「止めときな、幕府の人間に絡んでもロクな目に遭わないよ」

「お登勢サンノ言ウ通リネ。警察ナンテウンコミタイナモンヨ、ソノウンコニタカロウトスルオ前ハウンコバエダケドナ」

「ちょっとバーさん、アンタの隣にビチグゾ立ってるわよ。流してこい」

「麦野、女の子なのにそんな言葉使うなよ……」

 

しらっとした顔で抵抗もせずにさらりと下ネタを言う麦野に浜面が呆れた顔で疎めた。

 

「まあなんだ、ストーカーが警察側の人間だというのははこの際どうでもいいだろ。お妙さんの望みはそのストーカーが目の前から消えてほしい、だよな?」

「目の前というより地球上から消えてほしいと思ってるわ」

「お前の姉ちゃん怖いな」

「そんな事昔から知ってますよ、何年の付き合いだと思ってんですか」

 

ニコッと笑ってドスッと来る言葉を吐くお妙に思わず浜面は彼女の隣にいる新八の方へ視線を逸らす。だが新八にとってはこんな姉の言動など既に慣れっこである。

 

「ここはまずストーカーをどうやって追い払うかを考えましょう」

「だな」

 

麦野のおかげで話が逸れそうになったので隣の新八がなんとか道を戻した。浜面も後に続いて彼に賛同する。

 

「向こうがまだまともな部分が残ってるならいけるんだがな。そこを揺さぶって正気に戻させる事も出来るかもしれねぇし」

「それはちょっと難しいんじゃないかしら、あの人全然私の話を聞きもしないで自分のペースで攻めてくるのよ」

「典型的なストーカーだなそりゃ」

「はた迷惑にも程がありますよホント」

 

浜面と新八の話にお妙も加わる。

 

「アンタや弟の新八なら話聞かないかもしれないけど、”向こうの身内”が言ってやればまた別のアクションにうつす可能性もあるんじゃないか、暴走した感情にいきなり身内から横っ面叩かれたらそりゃたまんねぇだろうし」

「そういうやり方もありますけど、どうでしょうね姉上……」

 

思い切った浜面の提案だが、お妙は小首を傾げて難しい表情をする。

 

「でもあの人、あの真撰組のトップやってる人らしいから、あまりいい噂がない組織の人間だし身内も信用できないわね」

「真撰組か……え、真撰組? 真撰組ってあの真撰組ッ!? 真撰組のトップッ!?」

「何回真撰組言ってんですか。そうですよあの泣く子も黙る悪鬼の集団とか言われてるあの悪名高い真撰組です」

 

何気なく言ったお妙の一言に浜面は一気に血の気が引く。

真撰組と言ったら駒場を捕まえた警察組織ではないか。

よもやそんな所のトップが彼女のストーカーだったとは……。

 

「嘘だろおい……」

「そういや最近あそこの連中、爆破テロの犯人を脱走させたらしいですね」

「怖いわね、そんな凶悪犯を逃がすなんて。おちおち一人で歩けないわ」

「いや大丈夫、アイツは女子供に手を出さない主義なんで」

「え、なんで浜面君が犯人の主義なんて知ってるんですか?」

「な、なんか頭に電波受信したんだよ! 駒場は悪くないよー悪いのは駒場を脅した攘夷浪士だよーって! だから大丈夫だ心配するな!」

「いやアンタの方が大丈夫か心配するんですけど!?」

 

急にしどろもどろになって慌てはじめる浜面に新八は疑問を覚えながらもとりあえずその辺はスルーすることにした。今やるべきことは姉をつけ狙うストーカー対策である。

 

「まあ浜面君はちゃんと考えてくれてるからいいとして、問題なのは脅しかけてたかろうとかそういう企み事ばっか考えてる麦野さんですよ」

「ほんと麦野さんは頭の中はお金を稼ぐことしか入ってないのね、これなら浜面君に依頼頼んだ方がいいかもしれないわね、彼、少なくとも人間レベルに会話の交換が出来るぐらいは可能だし、麦野さん相手じゃ犬より会話するのが難しいわ」

「いやぁそこまでコイツの事酷く言わなくても」

 

麦野を横目で貶している志村姉弟に浜面が苦笑しつつチラリと隣に座っている麦野に目を合わせると……

 

「はまづらぁ~……!!」

「ひぃ!!」

「テメェは関係ねぇつったよな私ぃ……! なにこのクソったれ姉弟に媚び売ってんだ……!」

 

隣に座っていた麦野がドスの効いた声を出しながら恐ろしい形相でこちらを睨み付けている事にやっと気付いた浜面。彼女の顔を直視した瞬間心臓を素手で思いっきり掴まれた錯覚を覚える。

 

「横からピーピーピーピーやかましいんだよ……!」

「ご、ごめんなさい……」

「そうだ麦野さん、この際浜面君を雇ったらどうですか?」

「あ?」

 

威圧で相手を恐縮させていた麦野にふと新八が一つ提案してみた。

 

「彼、麦野さんと違って上手く人とコミュニケーション取れそうですしご近所さんからも仕事取れるようになるかもしれませんよ?」

「ふざけんな! アイテムは私一人で十分なんだよ! こんなエテ公なんかとコンビ組めるか!」

「ひっでぇな、俺は猿と同等かよ……」

 

新八の中々いい案に麦野は額に青筋を浮かべて一蹴。その姿に浜面が嘆いていると今度はお妙がパンと両手を叩いて

 

「じゃあいっその事麦野さんが万事屋止めて浜面君が万事屋経営しましょう」

「なんでそうなるんだよ! 私いなかったらもう万事屋じゃねぇだろ!」

「店の名前は万事屋浜ちゃんね」

「いや姉上、釣り好きのおっさんと超大御所芸人が頭に浮かぶんですけどその名前」

 

もはや麦野いらないんじゃね?という流れで話を進め出すお妙は置いといて

新八は麦野と話を続ける。

 

「でもやっぱり若い女性一人で何でも屋を切り盛りするって難しいと思いますよ?」

「大丈夫よ、切り盛りするも何も、元から切ったり盛ったりする仕事自体来ないから」

「いや社会人としてダメだろそれ! どこが大丈夫!?」

「うっせぇメガネだな、オメーは私の母親か?」

 

的確なツッコミを入れられて麦野は苛立ちを募らせながら軽く舌打ち。

 

「あのねぇ、私が本気になれば仕事の一つや二つちょちょいのちょいよ? ストーカー退治なんて私が男にヤキ入れるだけで解決なんだから。だからこの仕事は全部私に任せなさい」

「相手は警察の人間だぞ、迂闊に手を出したらもっと面倒な事になる可能性だってありえるだろ」

「は?」

 

手をヒラヒラさせて余裕気に宣言した麦野に対し浜面がまたもやいらぬ口を開いてしまった。

反論してきた彼に麦野は遂に席から立ち上がって彼を見下ろす。

 

「手っ取り早く黙らせるんだったら肉体的にも精神的にもいたぶってやれば全て解決よ、わかってないわねぇアンタは、これが私流なのよ」

「いや相手は幕臣だし……女の子のお前じゃ相手になんて出来ないだろ」

「私の事よく知らないで女の子扱いすんじゃないわよ、伊達にかぶき町で店構えてるわけじゃないの。相手が警察組織だろうが指一本さえ動かさずに消せるんだから」

「え? コイツってそんなに強いの?」

「そりゃそうですよ、知らなかったんですか? こう見えてこの人、学園都市が誇るレベル……」

 

哀れむようにジト目でこちらを見つめてきた麦野に、浜面はきょとんとした表情を浮かべて新八に聞くと。彼は少し驚いた様子を見せるも浜面に彼女の正体を話そうと口を開くが……

 

「あのーおかみさん、お店開いてますか?」

「いや開いてないよ」

「相席でも構わないんですけど? できればあそこの可愛いポニーテールの娘の隣で」

「他の席普通に開いてるんだけど? てか店開いてねぇって言ってるだろ」

「カエレ! オ前私ガ一番嫌いナ匂イスルンダヨ! サツノ匂イガプンプンスルンダヨ!! マダ私ハナニモヤッテマセン! 信ジテ下サイオ巡リサン!」

 

なにやら店の入り口が騒がしい。どうやら開店してないのにお客が来たらしいのだが。

お登勢とキャサリン、そして野太い男の声が聞こえてお妙が嫌な予感を覚えつつそちらに振り向くと。

 

「やや! お妙さん! いや~こんな所で会えるとは偶然ですね! いやもう偶然というより運命ですね僕達の! ハッハッハ!」

「……」

「出たぁぁぁぁぁぁ!! 麦野さんこの人です! この人!」

 

襟部分に刺繍の施された黒い着物、腰には新八の言う通り廃刀令のご時世なのに刀を一本差している。

狭い店内に響き渡るバカでかい声を出しつつこちらに友好的に歩み寄ってくるこのいかつい顔の長身の男こそが

 

「前々から散々姉上にストーキング行為しているストーカーです!」

「げ、コイツが……」

「おいおい向こうからやってくれるとか嬉しいわねコノヤロー……」

 

新八が男を指さして叫ぶ。この男がターゲットのストーカーだったのだ。

ノコノコと自分からやってきた男に浜面は驚き、麦野は獲物を見つけたジャガーの様な目つきでゆっくりと立ち上がる。

 

「ちょいとそこのおっさん、ちょっといいかしら?」

「む、なんだ君は? 今から俺はお妙さんと愛のピロートークを始めるつもりなんだ。悪いがそれを邪魔するのはごめんこうむりたい」

「は、そんな気持ち悪ぃトークショーなんて見せられてたまるか」

 

よくもまあそんな妄想を恥ずかしげもなく現実世界で言えるものだと男に向かって新八と浜面が内心ツッコんでいる中、麦野は嘲笑を浮かべながら彼にツカツカと歩み寄る。

 

「いいから私の話聞きなさい、アンタの人生を左右する大切な話があんのよ」

「俺の人生を左右するぐらい大事な話だと……まさか!」

「そう、警察組織の人間だろうが知ったこっちゃないのよ。私は私の思うがままにテメェを……」

 

麦野が言ってる事を何か察したかのようにハッとする男。

飲み込みの早い彼に麦野は腕を組みながら話しかけていた時

目の前に立っていた男は、突然彼女の左肩に手をポンと置き。

 

「すまない、君の想いを受け取れないこんな俺を許してほしい」

「……………………は?」

「俺にもう、お妙さんという運命に導きによって結ばれた人がいるんだ」

「……おい、何言ってんだテメェ」

「君はまだ若い、これから先の人生でいい男の一人や二人に巡り合う事も出来るさ」

「話聞けよコラァ! なに誤解してんだクソが! なに悟ったような顔してんだぶっ殺すぞ!」

 

どうもこの男は別の意味で解釈してしまったらしい。

彼に左肩を掴まれながら麦野は歯を剥きだして怒鳴りつけるが男はいきなり右手を構えて親指をグッと突き出して決め顔を作ると

 

「大丈夫! 俺にフラれたからって気にするな! 男も女もそれを経験して強くなっていくんだ! そのおかげで俺もこんな強くてたくましく! お妙さんとも結ばれました!」

「死ねぇ!!!」

「のぉぉぉ!!!」

 

遂に怒りの限界点を突破した麦野はストーカー男の股間に向かって踏み込んで本気で蹴り上げる。

鈍い音と男の断末魔の叫びが合わさり、そのまま彼は後ろにドサリと倒れた。

倒れた状態で股間を両手で押さえて身もだえする男を麦野はブタでも見るかのような目つきで

 

「おいそのきたねぇ手どかせストーカー野郎、その股の間にぶら下がってるモン永久に使えなくしてやるんだからよ……」

 

冷たく、そして静かにボソボソと呟きながら麦野はギロリと目を剥いて

 

「潰されるか引っこ抜かれるか、選べ」

「待ってぇ麦野! それ以上はヤバい! 男としてそれはヤバい!」

 

どっちも絶望エンドまっしぐらの選択肢を出す麦野に浜面がすかさず二人の間に躍り出て止めに入った。

 

「落ち着け麦野! いきなりこっちが危害加えたらマズいだろ!」

「どけはまづらぁ!! テメェも引っこ抜いてやろうかああん!?」

「なんで”そこ”だけ狙うの!? そこは男にとって重要だよ! 己の分身と言っても過言でない大切な部分だよ!?」

 

本気でやりかねないような顔で迫ってくる麦野、浜面は助けを求めるかのように呑気にニコニコしながら席に座っているお妙の方へ視線を泳がせるが

 

「あら~麦野さんフラれちゃったわね~。でも大丈夫よその人の言う通りきっといい人も見つかるはずだわ、人類以外で」

「てんめぇいい加減にしろよマジで!! さもねぇと××のテメェが大事にしてる×××焼き切ってやるからな!!!」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉ!! アンタ女性でありながら姉上になんて事をぉぉぉぉぉ!!」

「やってみなさい、そんなことしたら私も麦野さんの×××××を」

「おいぃぃぃぃぃぃ!! もういい黙れアンタ等! なんでもかんでも自由に発言できると思ったら大間違いなんだよ!」

 

女同士でとんでもなくいかがわしい言葉を交じわす麦野とお妙に新八がすぐに立ち上がってツッコミを入れた。自分よりずっと恐ろしい女二人にこうも堂々とツッコめるのは素直に凄いと思っていいだろう。

浜面の方は、男がいる中でよくもまあそんな事を平気で言えるもんだと恐怖を覚えながらも、なんとかお妙の方へ話しかける。

 

「ここで麦野を焚き付けるのは勘弁してくれ、じゃないと俺がヤバいんだよマジで……」

「あらそうですか、でも私関係ないんで。あなたがオカマバーに勤めることになっても私は痛くも痒くもないわ」

「かぶき町の女って……フレンダがまともに思えてくるぜ……」

 

笑顔でバッサリと言ってしまうお妙に浜面はしみじみと銀時の隣人に預けた仲間を思い浮かべていると。

 

「貴様!」

「ん? うお!」

 

さっきまでうずくまって倒れていたストーカー男が急にカッと目を見開いて勢いよく立ち上がった。かと思えば、何故かターゲットのお妙や股間を蹴った麦野の方でなく、浜面の方を睨み付けて指を突き付けたのだ

 

「そこの小僧! なに俺の目の前でお妙さんとイチャイチャと言葉のキャッチボールをしているんだ!! そんな羨ましい事をして許されると思っているのか!」

「いや言ってる意味全然わかんねぇんだけど!? どこがイチャイチャしてた!? どこがキャッチボールしてた!? ボールじゃなくて石投げられたんだけど! 顔面に!」

 

わけのわからない事を喚きだす男に首を傾げて問いかける浜面。なぜにそんな事を言われねばならんのだ。

これがストーカー思考か、驚きと戦慄を覚える彼に男は血走った目で詰め寄る。

 

「しかもさっきお妙さんと一緒の席で座っていただろ! 怪しい奴め! お前とお妙さんは一体どんな関係だ!」

「怪しい人間に怪しまれたくねぇよ! どういう関係って俺とこの人は……!」

 

今日初めて会ったばかりのほぼ他人です。浜面がそう言おうとしたその時。

傍に突っ立っていた麦野はなにかよくない事を閃いたかのように目をキランと光らせた。

そして次の瞬間には突然彼の首に自分の左腕を回して

 

「許嫁だにゃ~ん、コイツとあのクソったれキャバ嬢は~」

「はッ!?」

「もう×××××や×××××もしているらしいわよ~お熱いわね~。だからアンタはもう諦めなさい」

「はぁぁぁぁぁぁ!? ちげぇよ何言ってんだおま……ぐえッ!」

 

いきなり何を言い出すんだと浜面が慌てて男に否定しようとするが彼の首をガッチリ腕で挟んでいた麦野はすかさず声が出ないように腕に力を込めてホールドする。

 

「……余計な事言うんじゃないわよ、あくまでこれはあのストーカーを追い払う為なんだから……惚れた女に男がいればさすがにストーカーでも諦めるでしょ……」

「いやそれはいいけど、どうしてそれで俺が巻き込まれて……」

「弟は論外だし女の私が許嫁だと名乗ってもマヌケだろうが、ちっとは頭使えマヌケ」

「なんか全然納得できねぇ……」

 

こっそりと耳打ちする麦野に浜面は不満そうな声を漏らして抵抗しようとするが。

 

首を押さえつけられる圧迫感と、後ろから抱きしめられてるような体制なので、背中越しに伝わる彼女の

 

(ああ……背中に”凄く嬉しい感触が二つ”、やっぱ結構デカいなコイツ……俺このまま死のうかな……幸せのまま死のうかな……)

 

アホの浜面の思考は跡形もなく吹っ飛んだ。

 

そしてストーカー男とはいうと麦野のいう事を簡単に鵜呑みにして

 

「×××××や×××××も×××××××もしているだとぉぉぉぉぉぉ!!!」

「いや一個増えてるし! ていうか伏字多すぎて読者全く理解できねぇよこれ!」

 

浜面とお妙が許嫁だと勘違いして雷を直撃したかのような衝撃を覚えて驚愕をあらわにする男。新八のツッコミも彼には届かない。

 

「そんな……いや、いやいいんだお妙さん! 俺はわかっている! 君がどんな人生を歩んでようと俺はそれを全て包み込んで愛せる覚悟はとっくに出来ているんだ!」

 

席に座ってすっかり傍観者気取りだったお妙に男は想いの丈をぶちまける。

 

「君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように!」

「愛してねーよ」

 

男の叫びにようやくお妙が返事した。

お客様の話し相手となるキャバ嬢としてではなく一人の女性としてズバッと

しかし男はというと、すっかり思考回路が暴走してしまい今度は麦野に首を絞めつけられて顔が青ざめている浜面に向かって

 

「おい小僧! お前がお妙さんの許嫁だろうが関係ない! 俺の方がずっとずっとず~っとお妙さんの事を愛している!!」

「いや……だから俺は……」

 

ハッと我に返ってなんとか否定しようとする浜面だがもう彼は耳を貸さない。

 

男は彼に指を突き付け大きな声で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真撰組局長・近藤勲≪こんどういさお≫! お前に決闘を申し込む! お妙さんを賭けてな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に固まる一同。

そして麦野に首を絞めつけられながら

 

わけもわからず決闘を宣言された浜面は涙目で呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、俺っていつもこんな目に遭うの……」

 

 

 

 

平和な生活を夢描いていた浜面だがそれは自分には絶対に届かないものなのだと改めて実感する。

 

現実はこの通り災難に続く、災難。

 

しかしもし彼に疫病神が憑いているとしたらこう言うだろう

 

これはまだ序章に過ぎないのだと。

 

 

 

 

 


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