禁魂。   作:カイバーマン。

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第十訓 侍教師、電撃少女になにかを秘める

ここはとある病院の一室。

他の部屋の患者方がまだ朝食を終えていない頃から

その部屋だけ4人の男女の声の騒ぎ声が響いていた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!『ブラックな仕事を受け持つ謎の女に脅されて無理矢理就職させられる』! なんでだよ! なんで俺っていつもこんな人生なんだよ!」

「はぁ!?『遊ぶ程度の関係だった女と子供作ってしまい結婚するハメになる』だぁ!? ふざけんなよ! デキ婚とかやらねぇよ俺は! てか俺もう結婚してんだけど! 重婚になっちゃうんだけど!」 

「『同性という障害を乗り越え、最新科学を用いて子供を出産』……来ましたわぁぁぁぁぁ! 遂にわたくしとお姉様の間に新しい生命が誕生しましたの!! ぐへへへへへ!!」

「『仲間の情報を敵に暴露、その咎で仲間の一人に真っ二つにされて死亡』……って死亡とかどういう訳!? これどうすんの私!?」

 

部屋の外にまでよく聞こえる騒ぎ声。

その部屋に白衣を着たカエル顔の老人がドアを軽くノックしてガチャリと開けた。

 

「君達ね、他の患者に迷惑だからそんなにはしゃがないでくれるかな? 修学旅行に来た中学生じゃあるまいし」

 

医者であろう老人が呆れたように言葉を投げかけると。

一つのベッドの上に4人で囲んで座っている。

 

病院服を着た坂田銀時、白井黒子、浜面仕上、フレンダが同時に振り返った。

 

そう、彼等はフレンダが仕掛けた地雷のおかげでこんな所に入院する羽目になってしまったのだ。

幸い怪我はそれほど深く無かったが、全員所々体に包帯を巻いている。

 

「仕方ねぇだろ、こうして退屈しのぎのモンで遊ばねぇともたねぇんだよ」

「病院によくもまあこんな一昔前のボードゲームなんかあったよな」

 

けだるそうに銀時が返事していると向かいに座っていた浜面がふと傍に置かれている少し大きめの箱に目をやる

 

 

 

 

箱の拍子には『この腐った裏社会を生き残れ! 泥沼略奪大歓迎! 死と隣り合わせの破滅と絶望の人生ゲーム』と書かれていた

 

 

 

 

「タイトルが長すぎませんか? 製作者の意図が全く読めませんわね。まあ死線を乗り越えてわたくしはめでたくお姉様と結ばれた上に子供まで授かりましたから満足ですの」

「ねぇ、結局これ死亡したプレイヤーはどうすればいい訳……ねぇってば……」

 

銀時の右隣に座っていた黒子がむふんと満足げな表情を浮かべ、浜面から見て右隣に座るフレンダが頬を引きつらながら解説書をペラペラとめくっている。

 

注意しに来た医者の言葉に全く耳を貸さない様子なのは確かだ。

カエル顔の医者は「はぁ」と軽くため息を突く

 

「搬送されてからまだそんな時間も経ってないのに、夜が明けたらピンピンして病室で人生ゲームやってる患者なんて君達が初めてだろうね」

「おい、俺また結婚したぞ、どうすんだよコレ、3人も嫁さん出来たんだけど」

「まあまあ、リアルだけでなく盤上でもただれた人生送ってますのねあなたは」

「女同士で結婚した上に子供まで作ったお前ほどただれてねぇよ」

「な! わたくしとお姉様は至極真っ当で清純な交際を経て結ばれたんですの! ほらこうしてわたくしのお腹にはお姉様の愛が詰まった赤ちゃんが!」

「おいジーさん、リアルと人生ゲームの区別つかなくなってる奴いるぞ。治療してくれ」

「人の話聞いてくれないかな? ていうか無茶言わないでほしいよ、いくら僕でも治せない病もあるんだからね?」

 

些細な事ですぐ口論に入る銀時と黒子の方へカエル顔の医者は疲れたように頭を手で押さえていると、部屋の前で立っている彼の所に一人の少女がやってくる。

 

「すみませーん、この部屋って……はッ!」

「うん? どうしたんだい?」

 

カエル顔の医者が振り返るとそこには常盤台の制服を着た短髪の少女、立っていた。

 

御坂美琴、言わずと知れたレベル5第三位の超能力者だ。

 

彼がこちらに振り向いてきたと同時に彼女は目を見開かせて数秒間硬直した後、突然ビシッと彼に向かって指を突きつけて

 

「リアルゲコ太ッ!」

「……初めて会った人にいきなりそんな変な名前で呼ばれたのは初めてだね」

「あ……すみません、あまりにも似てたもんで」

 

いきなり指を差してきた事も失礼だがさらに変なあだ名まで付けてきた少女相手に、カエル顔の医者は冷静に対処して改めて彼女と対峙する。

 

「お登勢さんの所の生徒だね、ここの部屋の患者さんを見舞いに来たのかな?」

「ええ一応……あれ? リアルゲコ太は理事長の事知ってるんですか?」

「まあ彼女とは古い付き合いなんだよ、お互い長くこの街に住んでるしね。ていうかその変なあだ名は続行するのかい? もう君の中では僕はリアルゲコ太なのかい?」

 

初見で付けたあだ名を自然に用いる美琴にカエル顔の医者は疲れ気味にツッコミを入れた後、踵を返してこの場を後にしようとする。

 

「それじゃあ僕は行くから、他の患者さんの診察に行かなきゃ、後はよろしく」

「え! じゃ、じゃあ行っちゃう前に写メ撮らせて!」

「君は清々しいほど遠慮ってものを知らないね、それじゃあ」

「ああ待ってリアルゲコ太!」

「病院では静かにしてね? もし君の叫びを聞いて看護師さんが僕にそのあだ名を使う様になったら君の責任だから」

 

携帯片手にこちらに手を伸ばす彼女から逃げるようにカエル顔の医者はそそく去って行ってしまった。

残された美琴は行ってしまう彼を残念そうに見つめた後、

 

「おっといけない、アイツ等とちょっと話つける為に来たんだったわ」

 

ここに来た目的をふと思い出して我に返り、銀時達のいる部屋の中へと入っていった。

 

「失礼するわよ」

「ん? あ」

「お、お、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

部屋にやって来た来訪者に銀時が顔を上げた瞬間には隣の黒子は黄色い声を上げながらベッドから降りて立ち上がる。

 

「この再会をわたくしはどれ程待ちわびていた事か! お姉様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うっさい、病院で叫ばないでよ。ていうか再会ってほんの半日会ってないだけでしょうが」

「その半日でもとてもとても長く感じていましたの! さあお姉様! その時間を忘れてしまうぐらいわたくしに熱いベーゼを! なんならわたくしから!」

「だぁぁぁぁ!! 飛びついてくるな暑苦しい!!」

 

ほんのちょっとしか離れていないにも関わらず、まるで何年もの別れを経験していた恋人の様に歓喜の声を上げ、そのままこちらにダイブして腰にしがみついてきた黒子に美琴はイラついた表情で彼女の頭を手で押さえつける。

 

「アンタ一応ここの患者なんでしょ! 怪我してる時ぐらいは大人しくしろっつーの!」

「待ってくださいお姉様! 今の黒子に電撃はお止めくださいまし!」

「ああ、傷まだ痛むの?」

 

頭から小さな火花を出してきた美琴を見てすかさず黒子は抱きつくのを止めて彼女から距離を取る。

いつもなら電撃を食らおうが関係なしに、むしろ喜びのこもった表情を浮かべて受けるのに。

不審に思った美琴に黒子はなぜかポッと顔を赤らめながらお腹を押さえて、

 

「わたくしのお腹には大切な人の赤ちゃんが……」

「ロリコン天然パーマぁぁぁぁぁぁ!! 私の友達と昨日の夜なにしたんだコラァァァァァァ!!」

「いや俺の子じゃないから、お前の子だろ。最新科学使って作ったんだろ」

「作ってないし試してもないわよ!! あーもうわけわかんないわねコンチクショウ!!」

 

先程の盤上での展開と混合してすっかりその気になってしまった黒子。

一方そんな事さっき来た美琴は当然知らないので髪を掻き毟って動転している様子。

そんな彼女を見てさっきから銀時と黒子と一緒にいた浜面が恐る恐る話しかける。

 

「なあアンタ、さっきから見る限りこの二人と親しい間柄みたいじゃねぇか」

「ったくこの二人はいつもいつも……あ? 誰よアンタ? なんでこいつ等と一緒にいるの?」

「まあその辺は話すと長くなるから置いといて……アンタってもしかして「女王」?」

「……は?」

 

いきなり素性も知れない変な男に女王呼ばわりされて、美琴は目を細めて警戒した表情に変わる。

 

「いきなり何言ってんのアンタ? 私が「女王」ならどうするの? ムチで叩かれたいの? ローソクで炙られたいの? 残念だけど電撃プレイしか用意できないわよこっちは」

「いやいやそっちの女王様じゃねぇよ! 俺が言いたいのはアレだよ! ほら! 去年の一端覧祭でこの人と相方組んだ女王って人!」

「ああ、アイツの事か」

 

何事かと思っていたが浜面が銀時を指さして言った事にようやく美琴は理解した。

 

「人違いよ、私は御坂美琴。私は鼻の穴にうどん突っ込んで口から出す芸なんてしないから」

「ああなんだ人違い……って女王そんなのまで出来るの!?」

 

人違いとわかったのはいいが、またもや女王の恐るべき技を聞いて浜面は驚愕の表情を浮かべるが、いきなり銀時が横から入って、

 

「おい小娘、リーダーに適当な事言ってんじゃねえよ」

「え? ああなんだ、やっぱりさすがに女王でもそんな事する訳……」

「鼻の穴に突っ込んだのはうどんじゃなくてスパゲティだ。うどんはもうやってる奴いるから」

「スパゲティでもおかしいと思うんですけど!?」

「しかも口から出てねえよ、そもそも鼻に突っ込んだのはいいが出てこなかったんだよスパゲティ」

「もっと大変な事になってたぁぁぁぁぁぁ!! 大丈夫なの!? 大丈夫なの女王!?」

「三日後の食事中にくしゃみと一緒に反対の穴からにゅるんと出てきたんだとよ、アイツの派閥から聞いた」

「派閥!? 女王の派閥ってなに!? もしかしてファンクラブ的な!? ダメだ! 女王の話を聞くたびに謎が深まっちまう! ダメだ俺もう完全に女王の虜になっちまった!」

 

女王に起こった悲劇を聞き、浜面が銀時に力強いツッコミを入れているのをジト目で眺めながら、美琴はいつの間にか隣に立っている黒子に口を開く。

 

「で? 結局こいつなに?」

「元スキルアウトのリーダーですの、永遠に主人公になれないダメ人間ですわ」

「へー……スキルアウト!?」

「そしてそこに座っている女性は、先日天人の大使館で爆破テロを行った爆弾魔ですの」

「爆弾魔!? アンタ達なんでそんな連中と仲良くなってるの!」

「色々ありまして」

「色々ってなによ!」

 

浜面とフレンダを指さして簡単な説明をする黒子に美琴が言いたげな様子で詰め寄ろうとするが、その時ベッドの上に腰かけていたフレンダがおもむろに黒子の方へ顔を向けて

 

「ちょっとー爆弾魔って呼び名やめてくれなーい? 可愛くなーい」

「ほざきやがれですの、誰のおかげでわたくし達がここに運ばれたのか忘れたのですか?」

「結局私の用意したおもちゃを爆破させたのはアンタな訳だしー」

「そもそも地雷などという敵味方区別できない罠をあんな所に仕掛けるのがいけないんですのよ」

 

とても爆弾魔とは思えない自分とそう変わらない年頃のフレンダに、キビキビとした態度で説教している黒子。

 

すっかり話に加われなくなった美琴はふと浜面と話している銀時の方へ目をやる。

 

「派閥ってのはアレだよ、女王の世話するガキ共の事」

「へーんなモンまでいるのか」

「結構な数いるんだけどよ、全員女王様の命令なら何でも聞く世間知らずのお嬢様軍団だな」

「本当の女王様みたいだな……やっぱアンタがただ者じゃないって事は相方の女王も相当凄いのか」

「いやー便利だよアイツ等。俺の命令も聞くから「女王の食うエクレアにわざび詰めろ」とか「女王の入る風呂を熱湯にして背中から突き落せ」とか」

「”女王”より怖い”魔王”がいた……」

「いや大丈夫だって、アイツが派閥のガキ共に無茶した時だけしか命令しないからね俺は」

「女王派閥じゃなくて魔王派閥じゃねぇの?」

 

何故か常盤台の第五位として君臨する女王の話で盛り上がっている……

美琴はそれをジーッと眺めた後黒子とフレンダの方へ再び振り返ると

 

「そもそも一体なんなんですのあのちんちくりんな爆弾人形は?」

「ズバリ私のジャスタウェイは結局ジャスタウェイ以外の何者でもない! それ以上でもそれ以下でもないって訳よ!!」

「うっさいですの、なんかあれ見てると戦意が失せるんですけど」

「ああ、結局それも織り込んで作られた作品だから。相手の戦意を奪って隙を見せた所をドカンとやるって訳なのよ」

「なるほど、言われてみるとそれはジャッジメントにも使えそうな戦略ですわね……今度あなたの作品とやらをわたくしの支部に持ってきてくれませんか?」

「え、なんで?」

「初春に所持させて試させてみますわ」

「何を試す気!?」

 

ジャスタウェイとか聞いた事のない物についてフレンダと語り合っている黒子。

「それってなに?」と黒子に聞きたそうにその場でそわそわする美琴だがフレンダと会話している為うまくタイミングが掴めない。

 

銀時と黒子。滅多に他人と交流しない中で、唯一接点がある二人が自分そっちのけで知らない連中と仲良くくっちゃべっている。

美琴はその場にポツンと立ち尽くしながら寂しそうにブツブツ呟き始め

 

「なんなのこいつ等……私が見てない所でなに私の知らない人たちと仲良くなってるのよ……」

 

納得いかない様子で銀時と黒子に恨めしい目つきを向けた後、意を決して浜面と話している銀時の方へ近づく。

 

「ちょっとアンタ」

「なんだよジャマすんなよ、今俺が”大覇星祭”で女王と二人三脚した話する所なんだから」

「それなら知ってるわよ、スタート地点からゴールまでアンタがアイツを引きずり回した奴でしょ」

「いやお前に聞かせるんじゃなくてリーダーに聞かせるんだよ つかなんだお前、機嫌悪そうなツラして」

 

こちらに目を細めてムスっとしている美琴を見て銀時がしかめっ面で尋ねるが彼女はそれを無視して銀時の向かいに座っている浜面の方へ振り向いて。

 

「アンタ、あの金髪外人と一緒にちょっと出てってくれない、コイツ等と大事な話があるの」

「ん? 大事な話ってなに?」

「四の五も言わずに黙って出て行く。さもないとアンタ達も巻き添え食らうわよ」

「巻き添えって……アンタこの二人に何する気なんだよ……」

 

こちらにも矛先を向けてきそうな顔で突っかかって来る美琴に浜面は困惑しながらもベッドから立ち上がって大人しく彼女に従う事にした。

 

「おいフレンダ、ちょっと二人で病院の庭でも散歩しようぜ」

「え? なになに、浜面のクセにデートでも誘ってる訳?」

 

黒子との話を中断してこちらに顔を上げたフレンダに浜面は鼻で笑う。

 

「なわけねぇだろ、変な勘違いすんなよ」

「……は?」

「この娘さんがこの二人と話したいから俺達はジャマなんだってさ」

「なんだそんな理由か……まあいいわ、ちょうど私も外の空気を吸いたかった所だしー」

 

少々不満げな様子を見せながらもフレンダはベッドから降りると、部屋から出ようとする浜面について行く。

 

「はぁ、サバ缶も食えないし結局浜面は浜面な訳だし、ホント最悪」

「どうしたんだよ急に」

「うっさい、さっさと行く!」

「なんなんだよ本当に……」

 

頬を小さく膨らませてぷりぷり怒っているフレンダの真意が読めずに首を傾げつつ、浜面は彼女と一緒に部屋から出て行った。

 

部屋に残ったのは銀時と黒子、そして美琴。

腕を組んでこちらを睨み付けてくる彼女に、銀時は髪を掻き毟りながらはぁ~とため息を突く。

 

「お前さぁ、初対面の相手にあんなつんけんな態度取るのはどうよ?」

「別にいいでしょ、黒子、ちょっと私の話を聞きなさい」

「一体どうしましたのお姉様、そんなに怒った様子で?」

 

銀時同様わかってない様子ながら、彼の隣に正座して話を聞く体勢に入る黒子。

ベッドに座る二人と対峙して、美琴はこめかみに指を押し当てながら、

 

「別にさー、アンタ達が私じゃない誰かと仲良くしているのは気にしてないのよ、ホントよコレは、ホント気にしてないから、全然どうでもいいから。もうホントどうでもいい事だから私にとって」

「いや絶対気にしてるだろお前」

 

何度もしつこく念を押して言う美琴に銀時が仏頂面でツッコミを入れるが、彼女はそれをスルーしてこめかみに指を押し当てるのを止めて顔を上げた。

 

「まず黒子、アンタが門限破ったせいで私寮監に寮の全ての窓を磨くようにって罰則食らったんだからね。夜中なのに、眠いのに寮中の窓を一人でゴシゴシゴシゴシって……」

「やはりそうなりましたか……申し訳ありませんの……」

「おまけにそのせいで理事長に渡すはずだった反省文も全然書けなくて、そのおかげで私理事長にこっぴどく説教されたんだから」

「それはそれは……ご愁傷様ですの……」

 

自分が留守にしてる間に彼女にそんな災難が降りかかっていたのか。

黒子がバツの悪そうな表情を浮かべると美琴はフゥーと息を吐いて、

 

「でも私がアンタ達に一番言いたいのは”どうして私を置いて行ったの”って話よ」

 

昨夜に起こった出来事は常盤台の教師にしてアンチスキルの百華の頭領も務めている月詠から電話で聞かされていた。

黒子がジャッジメントの活動範囲を超える無茶をしでかした事

しかもそんな彼女とあの銀時が一緒に行動していた事

数十人の攘夷浪士相手に二人は見事な連携プレイでこれを殲滅した事

しかし攘夷浪士は全員倒せたものの、仲間の一人が仕掛けた罠に引っかかってしまい二人仲良く病院に搬送された事

 

「どうして私だけ仲間外れにすんのよ」

「そりゃお姉様は常盤台のエースですから仕方ないですの」

「オメーが騒ぎ起こしただけでも学校に影響出る可能性もあるんだぞ、ババァに迷惑かけたいのかお前?」

「常盤台のエースとか学校の事とか関係ないのよ! 私はアンタ達二人だけでそういう危険な事に首突っ込むのが気に食わないの!」

 

口を揃える銀時と黒子に、美琴はついに我慢の限界が来たのかその場で地団駄を踏み始める。

 

「私はレベル5の第三位よ! 攘夷浪士とかいう雑魚共なんて数秒で全滅出来るに決まってるでしょ! どうして私を呼ばないでコイツとコンビ組んでんのよアンタは!」

「コンビなどではありませんわ、今回はわたくしの方から交換条件を出し、この男がそれに合意しただけの事ですの」

 

コンビなどと呼ばれムッとして否定する黒子。すると彼女の言葉に銀時が「あ」と何かを思い出したように口を開いて隣に座っている彼女の方へ振り向く。

 

「おい、そういや報酬のいちごおでん早く出せコラ」

「ふん、退院したらすぐに手配しますわよ」

「あれ? てっきり上手く誤魔化して無かったことにすると思ってたのにやけに素直じゃねえか」

「借りは早急に返しておかないと面倒な事になりかねませんからね、特にあなたとは」

 

黒子の方も彼に渡す報酬はちゃんと覚えておいたらしい。たとえ相手がどんなに嫌悪する人物だとしても受けた借りはキッチリ返しておかないと気が済まないのだ。

 

「わかったでしょうお姉様、わたくしとこの男はただのビジネスで付き合ってるだけの関係ですわ、だからお姉様が考えてるようなことは……」

「言っておくけど私知ってるんだからね」

「へ?」

 

これで彼女も納得してくれるだろうと思っていた黒子だが、美琴の反応は彼女の予想外だった。

こちらにドスのこもった目つきを向けながら彼女は話を切り出す。

 

「今回だけじゃないって事。コイツとなにしてるのか」

「う! それは……」

「私に寄って来そうな小バエを何度も駆除してたんでしょ」

「どうしてそれを……」

 

銀時とよく露払いをしている事がバレていた。

うろたえる黒子に美琴はハァ~とため息を突く。

 

「アイツから聞かされたのよ。常盤台の女王様に」

「は? アイツが?」

「アンタもまだまだねー、アイツってば派閥の子使ってアンタの行動探ってんのよ」

「あのクソガキ……今度ハバネロ入りのプールに背負い投げしてやる」

 

思いがけない事を聞かされて銀時は歯がゆい表情で舌打ちする。

まさか観察者である自分が観察対象に監視されているとはさすがに笑えない。

 

「そんでアイツに言われたのよ、御坂さんの唯一の友達が私の人といっつも仲良くしてるのー、ほったからしにされて御坂さんかわいそー、やっぱり御坂さんは一人ぼっちがお似合いねーとか散々嫌味言われたんだから」

「お前、アイツの真似似てねえな」

「いや真似できてるとかそんなのどうでもいいでしょうが。それで聞いたのよ、アンタ達が私に隠れて高能力者狩りを専門とする連中を闇討ちしてるって」

 

心底面白くなさそうな表情で美琴は腕を組む。

 

「わかった? 今度からはちゃんと私も連れて行きなさいよね」

「だから無理だって、お前にそんな真似させたら俺マジでババァに教師クビにされちまうし」

「いくらお姉様のお頼みであれど、わたくしもそれだけは承諾できませんわね。お姉様は常盤台のトップとして相応しくなってもらわないと困りますの」

「だぁぁぁぁぁぁ!! だから私がどこで何しようが私の勝手だって言ってるでしょ!!」

 

何度言っても断固として対応を変えない二人に美琴が遂にキレて病室にも関わらず大きな声で叫ぶが黒子は諭すように話しかける

 

「危ない橋を渡るのはわたくし達だけで十分ですの、ですからお姉様はこれからも」

「私は! 大事な友達が私の見てない所で傷つくのが嫌なの!」

「は? いつから俺がお前と友達になったんだよ」

 

ボソッと呟いた銀時の一言に

ワナワナと怒りで肩を震わせながら美琴はギロリと彼を睨み付ける。

 

「そういう事言う!? 言っちゃうの!? 傷つきやすい私のハートによくそんな事言えるわね! 事によっちゃ泣くわよこっちは!」

「んな事で泣くなよ。ちょっと落ち着けって。ここ病院だからちょっと静かにしろ、先生からのお願い」

「私が騒いでるのはアンタ達がいつも私を置いてけぼりにしてたせいでしょ!! 私を一人にするな!」

「めんどくせぇ……」

「めんどくせぇとか言うなぁぁぁぁぁぁぁ!! 傷つくのよ本当にぃぃぃぃぃ!!!」

「うるせぇぇぇぇぇ!! いい加減にしろクソガキ!!」

 

こちらに身を乗り上げて耳が痛くなる程の叫び声を上げ始める美琴に遂に銀時の堪忍袋の緒が切れる。

 

「一人になりたくなかったら俺達以外に遊べる友達でも作ってろ! おいチビ助! お前のダチでも何でもいいからコイツに紹介しろ!」

「そうですわね、前々からお姉様にちょっと会わせたい子がいましたし、これを機会にお姉様にはわたくし達以外の方との交流も育んでもらいましょう」

「ちょ、ちょっとそんな急に!」

 

急に銀時に話を振られても黒子は顎に手を当て小難しそうな表情でそれに同意する。

いきなりそんな話になってしまった事に焦ったのか。さっきまでの勢いが失せ、美琴は急に顔を赤らめて手をパタパタと振り始める。

 

「そういう話勝手に進めないでよホント! 別にアンタ達の手を借りなくても友達の一人や二人ぐらい。まあでも黒子がどうしてもって言うなら……」

「じゃあ俺が女王呼んでおくから、チビ助のダチと女王で仲良くファミレスとかで」

「そいつはいらないわよ!」

 

銀時の提案に慌てていた美琴はすぐに素に戻って一蹴した。

ただでさえ同じ空気を吸う事だけでも嫌なのに、そんな人物と仲良くお茶会なんて死んでもごめんこうむる。

 

「もういいからほっといてよ。私の築く人間関係の欠陥性については……」

「あら? じゃあお姉様もわたくしとこの男が何してるのかもほっといてくださいまし」

「はぁ? 絶対イヤよそんな事。私は今度アンタ達が動いたら絶対ついていくからね」

「……めんどくさいですの」

「ア、アンタまで私の事めんどくさいって思ってるの!?」

 

思いがけずついポロッと漏らしてしまった黒子の失言を美琴は聞き逃さなかった。

銀時はともかく、いつも自分に甘えてくれる彼女にそんな言葉を言われたのがひどくショックな様子で美琴は愕然とした表情を浮かべる。

黒子はすぐにそれに気づいて「しまった!」と内心思うとすぐに顔を上げる。

 

「あ、安心なさってくださいお姉様! めんどくさい所も含めてお姉様ですから! わたくしの愛はそんなめんどくさいお姉様でも全て包み込む所存ですの!」

「そんなフォローいらないわよコンチクショウ!! もういい帰る!」

 

大切な後輩にまで傷つけられて美琴の傷つきやすいメンタルは既にボロボロだった。

全く話を聞いてくれない二人に遂に美琴は踵を返して病室から出ようとする。

 

「もうアンタ達なんか知らないわよ! 見てなさい! 私が本気を出せば攘夷浪士の一派や二派なんてすぐに壊滅できるし! 友達だって一杯作れるんだからね!」

 

そう叫びながら病室のドアを乱暴に開ける。

 

「絶対にアンタ達の鼻を明かしてやるんだからぁぁぁぁぁ!!」

 

そう叫びながら美琴は呆然としている銀時と黒子を残して出ていてしまった。

その数秒後に看護師らしき中年の女性の声で「うるせぇぞクソガキ! 寝てる患者がいるんだから静かにしろコラァ!!」という一喝と「ご、ごめんなさい……」という美琴の弱々しい声が聞こえた。

 

「ああいう所がまた可愛いんですのよねお姉様って」

「オメーはホントブレねぇよな」

 

部屋を去っていった美琴を思いながらうっとりする黒子に銀時は死んだ目を向けながらだるそうに呟くとボリボリと髪を掻き毟って

 

「だからアイツのダチになれたんだろうがな」

「友人以上の関係ですわ、わたくしとお姉様は」

「ま、これからもアイツの事よろしく頼んだぜ」

「……前々からあなたに聞きたかったのですが」

「あん?」

 

黒子が急に真顔になって正座を崩さずに銀時の方に向き直った。

 

「あなたはどうしてお姉様の事を気に掛けているんですの?」

「んなもんただの哀れみだよ。アイツが一年の時に友達いなくて寂しそうだからつい声かけたら、ずっとついてくるようになっちまったんだよ」

「では一応それが理由だとしましょう、しかしあなたのお姉様への対応はいささか常軌を逸しているのではなくて?」

 

銀時が美琴とつるむようになってから1年以上経っている。

こんな自由奔放な男がなぜ一人の少女の為に自分と共に彼女の敵を討伐したり、彼女の世話を焼こうとするのか。

黒子はそれが知りたかった。

 

「アナタにとってお姉様とはどんな存在なんですの?」

「……」

 

彼女の単刀直入の問いに銀時は無言で目を逸らす。

その問いの意味はわかっている。だが目の前にいる少女にどう答えればいいのかわからなかった。

 

さっきまでやかましいぐらい騒ぎ声が聞こえた病室は一気に静かになっていた。

そして数分ほど経ったところで

 

「さあな」

 

脳裏に鮮明に記憶されていたあの少女の言葉を思い出しつつ、銀時は黒子から目を逸らしながらポツリと呟いた。

 

「強いて言うならよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああいうバカは嫌いじゃねぇんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
ひとまず第一章はこれにて終わりです。それでは

P・S ツンツン頭のもう一人の主人公はいずれ出ます

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