禁魂。   作:カイバーマン。

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坂田銀時編
第一訓 侍教師と電撃少女


「侍の国・江戸」

 

そう呼ばれていたのはもう昔の話。

数十年前にこの国に突如空からやって来た宇宙人、通称、天人(あまんと)。

彼等との武力衝突に圧倒的な力の差で負けて弱腰になった幕府は、彼等に一方的な不平等な同盟を結ばされる。

天人達の高い技術力と科学力によって今では江戸は天人達の思うがまま、文明は大きく進歩しても、反対に古き江戸の風を肩で切って歩いていた侍達もまた『廃刀令』を強いられて弱体化。今では侍ではなく宇宙からやって来た異人共が偉そうにふんぞり返って歩いている。

 

この都市もまた天人達の支配下。

 

 

 

 

『学園都市』。

『かぶき町』というある町を中心にして作られ、学問を学ぶ生徒達が多数生息し、更にかぶき町特有の個性豊かな人間達が潜んでいる変わった都市。

“外”よりも数段階も文明が進歩し、天人の技術力を上手く生かした町として世界中から注目されている場所だ。

最もこの都市も天人達の支配下にあるので彼等の前では素直に従うしかないので、ほぼ鎖国状態のこの都市でさえ彼等の侵入を防ぐ手立てはない。

 

いかに時代の流れを掴んだ学園都市でさえ、天人達の強い武力には太刀打ち出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそんな場所と時代に“彼”はいた。

 

剣も地位も誇りも奪い取られ、大切な何かを天人達に奪われても。

 

“テメーの生き方”だけは絶対にゆずらない風変りな男。

 

もはや絶滅したと思われていた古き侍が

 

高度な文明を持った学園都市に住んでいるというのもなんともおかしな話だが。

 

テメーの生き方だけは何処であろうと変わりはしない。

 

これはそんな不思議な侍と不思議な力を持った少年少女達の不思議なお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一訓 侍教師と電撃少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私立常盤台女子中学は学園都市第7区にある学園都市でも5本の指に入る名門校だ。

『テメーの力で世界変えるぐらい強くなれ』というのをモットーとし、特筆すべき才能と高い英才教育を受けれる力を持った者のみがその門を潜れるという、いわゆる才能あるエリートのみが集まるお嬢様学校。

 

そして今、周りにいる様々な学校へ行く生徒達に混じって通学路を歩いている常盤台の二人の女子生徒。

 

御坂美琴

白井黒子

 

彼女達二人もこの常盤台のトップクラス、否、この学園都市全体でトップクラスの才能を持った者なのである。

 

「明日から夏休みですわね”お姉様”。ジャッジメント(風紀委員)のわたくしにはそんなの関係ありませんが。お姉様は夏休みに何かご予定ありますの? 何かありましたらこの黒子、是非お共させていただきますけど?」

「……」

 

常盤台の制服を着た小柄の方のツインテールの少女、白井黒子が妙に礼儀正しい口調で、隣にいる1年先輩の短髪少女、御坂美琴に話しかける。

だが『お姉様』と呼ばれてもこの少女は返事をせず学園都市の上空を見上げて渋い表情を浮かべていた

 

「ん? どうかしたのですかお姉様?」

「いやぁ、なんかまた“船”が増えてるなと思って、私、嫌いなのよアレ……」

「天人達の飛行船の事ですか、連中はここを気にいってますからね」

 

話を聞いていなかった事に怒りもせずに黒子は美琴の見上げる空に目を向けながら話に相槌を打つ。

 

数年前から江戸の空ではよく飛行船が飛びまわっている。ほとんどが天人達の船、彼等が観光がてらに学園都市の上空を飛び交う事は別段今では珍しい事では無いが、その下にいる自分達にとってはあまりいい気分はしない。特に彼女に、天人に対して嫌悪感を持っている御坂美琴にとっては

 

「地上でも横暴にしてくるクセに空でも好き勝手やるとか、いい加減にして欲しいわよ全く」

「お姉様のお気持ち大変ご理解出来ますが仕方ないですのよそこはそもそもこの学園都市が出来たのも天人の力。その為連中が来るのをこの学園都市が拒む事は出来ませんわ、わたくし達はこれからも天人との共存を余儀なくされているのですから」

「あーあ、これじゃあ“攘夷志士”がアイツ等を江戸から追い出そうと躍起になっているのもわからなくもないわ」

「んまぁ! お姉様正気ですか!? お姉様ともあろう御方が攘夷志士などという野蛮で下衆なテロリスト共に肩入れするなんて!」

「何言ってんのよ、冗談に決まってんでしょ」

「全く……」

 

すっときょんな声を上げて驚く黒子に美琴は手を横に振って苦笑するが、隣にいる小さな後輩はツンとして少し怒っている様子だ。

 

「冗談でも奴等に賛同する発言なんて御控えになってください、江戸に巣くう天人を排除しようと日々勤しむ攘夷浪士、しかしそれだけではなく一般市民にさえ危害を及ばせる連中のやり方はただのテロリストと変わりありませんのよ?」

「わかってるわよそれぐらい」

「この前の天人達が会談場に使っていた施設が爆破テロに遭ったのを知っていまして? どうやらあれは“攘夷浪士”の“桂小太郎”とかいう男がやったらしいですの」

 

桂小太郎、その名を聞いて御坂は若干口元に嘲笑を浮かべた。

 

「桂ねぇ……戦で負けた腹いせに爆破テロとか発想がガキよね、いい加減意味が無いって気付かないのかしら」

「所詮刀を振る事しか出来なかった過去の遺物、そのような者がやる事などたかが知れてますわ。いずれ捕まるのも時間の問題でしょう」

「そうよね、私だったらもっと上手くやれるのに」

「いやだからそういう発言はお控えに……仮にもしお姉様が攘夷浪士になられるとしたら、学園都市の治安を護る存在である“ジャッジメント”のわたくしと敵同士になってしまいますの」

「そうねぇ、そん時は容赦しないからよろしく。なんちゃって」

 

ジト目で疎めてくる後輩に美琴は「ハハハ」と冗談っぽく笑って見せた。彼女自身テロリストになろうだと本気で考えた事はない。しかし黒子の方はというと突然顔を逸らしてブツブツ呟き始め

 

「運命的な出会いを果たしお互いは一目惚れ・・・・・・そして偶然が重なりなんと同じ部屋で住むようになり……純粋無垢で何も知らなかったわたくしに日夜獣の如く愛してくれていたお姉様とわたくしが敵と味方に別れてしまうなんて……」

「いやなに言い出すのよアンタ……周りに聞かれたらどうすんのよ……」

「でも黒子は・・・・・・! それでも黒子はお姉様の事を一生愛し続けまイダダダダダ!」

 

黒子が目を輝かせながらこっちへ向いた瞬間、美琴は容赦無しに彼女の方耳を強く引っ張った。

 

「誰と誰が日夜獣の如く愛し合ってるって~? 捏造している上に勝手に話を飛躍させるんじゃないわよ」

「イダダダダダ! す、すみませんお姉様! 反省しておりますから耳をそんな強く引っ張らないでくださいませ~! あれちょっと気持ちいいかも? アダダダダダ! やっぱ痛いですお姉様! 取れる! 耳取れる!」

 

両手を振って必死に謝る後輩を見てようやく美琴はパッと彼女の耳から手を離してくれた。

ヒリヒリする耳を押さえながら黒子は涙目になって彼女の方へ顔を上げる。

 

「アタタ、耳取れてませんわよね……まあ学園都市レベル5の第三位であるお姉様が攘夷浪士などという落ちぶれた集団に入るなんてありえないですの、そんな事など黒子は百も承知ですの」

「当たり前でしょ。それにしてもレベル5の第三位ね・・・・・・そういや黒子、アンタは知ってる?」

「なんですの?」

 

学校へ行く為の道を歩きながら、美琴は黒子に質問をぶつける。

前から思っていた疑問、こればっかりは勉学を学んでいるだけじゃわからない。

 

「レベル5の第二位と第一位よ」 

「レベル5の第二位と第一位? いえ、見た事はおろかその二人の能力さえ聞いてませんわよ?」

「……調べようにも資料なんて何処にも無いしホント謎だらけ、能力も名前も不明っておかしいと思わない?」

「気になりますの?」

「当たり前でしょ、学園都市が私より各上だって判断した奴らよ? どんな奴か見てみたいじゃない?」

「お姉様……まさかとは思いますが喧嘩を売るとか考えてませんよね?」

「う……」

 

横目でジロっとこちらを見る黒子に美琴は勘付かれた様に頬を引きつらせる。

どうやら図星だったようだ、それにしてもここまでわかりやすいリアクションが出来るとは……表裏が読みやすい先輩に黒子は呆れてため息を突く。

 

「はぁ……お姉様ったらホントに……」

「な、何よ! ハッキリ言いなさいよ!」

「いえいいですの、ただ黒子はもうちょっとお姉様には“自重して欲しい部分”があると思ってるだけですわ」

「ふん! 私が誰と戦いたいと思ってようが勝手でしょ!」

 

 

開き直った調子で鼻を鳴らす美琴に黒子はやれやれと首を横に振った。

 

「お姉様。近頃、この学園都市に『真撰組』とかいう武装警察が幕府直々の命令で移動してきたのを勿論知っておりますわよね?」

「遠目で見た事あるけど黒い制服で腰に刀差してるガラの悪い連中だっけ?」

「そうです、あの連中には気をつけて下さいお姉様、“人斬り集団”という俗称は嘘では無いのですよ、つい先日も連中が攘夷志士が潜むビルに潜入して何十人もの敵を斬り殺したとか・・・・・」

「ふふん、レベル5のこの御坂美琴様が、刀持ってるだけのチンピラ警察集団に負けるとか本気で思ってんの? あんなの速攻で返り討ちよ」

 

誇らしげに胸を張りながら歩いている美琴に黒子は何言ってんだかという風に頭を手で押さえる。

 

「……真撰組は一応警察なのですよ、しかも幕府直々に任命された……もしお姉様が連中に攻撃を一度でもするならば、例えレベル5の第三位のお姉様でもすぐに幕府からお姉様に厳しい罰を下す筈ですわ、下手すれば打ち首も……」

「げ、マジで……私の年でもそんな事されるの、まだ若いんだけど私……」

「例え首だけになっても黒子は一生手元に置いて愛する覚悟ですの、だから安心して成仏して下さい、あ、やっぱり出来ればたまに化けて出て下さいまし」

「勝手に殺すな! ていうか何恐ろしい事考えてんのよ! アンタだけには絶対私の首は渡さないよう遺言に書いとくからね!」

 

顔を両手で押さえて気味の悪い事を考えている黒子に美琴は心の底から叫ぶ。

亡き骸になった自分に彼女が何をする気なのか考えたくも無い

 

「とにかく真撰組ってそんなめんどくさい連中ってのはわかったわ」

「全くですの、ここには“アンチスキル”や我々ジャッジメントがいるのに何故あんな野蛮な“犬共”をここに移動させたのか……お上の連中の考えはさっぱり理解できませんわ」

「将軍が無能なのよきっと、少しは下々の暮らしも考えてほしいわホント」

「だからそういう発言はお控えに……将軍はともかく、恐らく真撰組配備の理由は攘夷浪士が学園都市内部で目撃されてるからというのもあるからだと思いますわ、桂小太郎も最近ここで出没するのがたびたび目撃されていますし」

 

攘夷志士がこの学園都市に大量に潜んでいる可能性があると黒子は指を口に当てた状態で難しい顔を浮かべる。自分達やアンチスキルでは無理だと判断した上部の連中に不満を抱いてるらしい。

 

「桂小太郎がなんですの、所詮わたくし達と違って能力も使えないただの落ち武者。あんなテロリストこのジャッジメントである白井黒子が一人で捕まえてやりますわ、そして真撰組に赤っ恥かかせてやりますの、フフフフフ」

「変に突っ走らないでよ黒子、連中だってそう簡単に捕まるほどヤワじゃないだろうし……あ」

「ん? どうかしましたかお姉様? お忘れ物でも?」

 

一人でニヤニヤ笑いながら悦に入っている黒子に美琴は先輩らしく注意した時、ふとある事を思い出したかのような顔をした。

 

「いっけない……今日ジャンプの発売日だったわ、コンビニに行くの忘れてた……」

「は~ジャンプ……」

 

顔を手で押さえてガックリと肩を落とす美琴に、黒子はジャンプという少年雑誌の名前にいち早く反応を見せて思いっきり嫌な顔を浮かべる。

 

「申し訳ございませんがお姉様、わたくしの前で『ジャンプ』というワードを使うのはお控えになってくれませんの?」

「え? どうして? あんたマガジン派?」

「いやマガジン派とかジャンプ派とかそんなんではなくて・・・・・・ジャンプと聞くとただ“ウチの担任”が頭にちらつくから気分がどっと悪くなるんですの」

「あ~」

 

苦虫を噛みしめる様な表情で黒子は言葉を吐き捨てると、美琴はそれにすぐに理解して縦に頷いた。

原因はやはり“あのジャンプ好きの堕落教師”だ。

 

「アンタも災難ね、アイツが担任になるなんて。私も去年アイツが担任のクラスになったおかげで大変だったわよ」

「ホントなんでアレが常盤台の教師になれたのかわたくしは不思議でたまりませんわ、噂によるとこの学校の理事長に気にいられて、それでコネを使って教師になったとか・・・・・・」

「それ噂じゃなくて本当よ」

「へ?」

「ちょっと違うけど、去年アイツが私の担任だった時、直接本人から聞いたら普通に答えたのよ」

 

『ここのクソババァに命令されて嫌々教師やらされて、嫌々お前等の世話してるんだよ、ありがたく思えコノヤロー』

 

「って言ってたわよ」

「なんてこと……お姉様があの男の喋り方を真似るなど……」

「なんでそこでまた落ち込むのよ……いいじゃないの別に」

 

美琴が一年前自分の担任だった男の言っていた事を真似して教えて上げると、黒子はガクンと頭を垂らしてうつむいた。

 

「そんな裏口入門した様な男の下でこれから一年も生きていかなきゃいけないなんて黒子はショックで毎日倒れそうですわ……」

「いやアイツ一応公式の教師免許は持ってるらしいから……まあ、慣れよ慣れ。慣れれば別に問題ないって。経験者の私が言うんだから間違いないから」

 

笑いながら自分の肩を強く叩いてくる美琴に黒子はムスッとした表情で振り向く。

 

「……そうは言いますがお姉様は今でもたびたびあの男と口喧嘩してるではありませんか」

「うげ、アンタ見てたの……」

「あんな大声で叫び合ってたら誰だって気付きますの……」

「うそ……」

 

そういえばついちょっと前に何度目かわからないが常盤台の購買部の前でお互いに大声を出しながら口喧嘩をしていたのを思い出す。

 

原因は確かジャンプは立ち読みで済ませていると言った自分に彼が「お前なんかジャンプを読む資格なんかねえよ、ジャンプ愛がねえのかお前には!」と言ったのが理由だった筈。

そんな小さな事でお嬢様学校の教師と生徒が口喧嘩に勃発するとは・・・・・・我ながら少し反省するべきだと美琴は髪を掻き毟った。

 

「私だって好きであんな奴と喧嘩してるんじゃないのよ、ただアイツってば変な事にいちいち噛みついてきてさ……仕方なく付き合ってるだけで……」

「全くあんなダメ教師と付き合うのはすぐにお止めするべきですわ! お姉様の馬事雑言は全てわたくしがお受けしますから! どうぞ罵って下さい! さあ早く! お姉様の忠実なこの下僕にご褒美を! カモン!」

「だぁぁぁぁぁぁ!! 鼻息荒げて近づくの止めろっていつも言ってんでしょうが変態黒子!!」

「あぁぁぁぁぁん!! 激しいですわお姉様~!」

 

いきなり両手を広げて変態モードのスイッチが入った黒子に、美琴はイラついた表情で彼女の両肩を掴んで首が取れろと言わんばかりに激しく縦や横に揺らす。それでも黒子は恍惚の顔を浮かべて幸せそうだ。

 

「もっと激しいのを! 常盤台のエースと称されるお姉様の“あの能力”で黒子をもっと苛めて欲しいですの!」

「お望み通りこの学園都市からアンタの存在が消し飛ぶぐらい強力なのをお見舞いしてやるわよ!」

「遠慮なくこの黒子にお見舞いして下さいましぃぃぃぃぃ!」

 

美琴の頭の中で何かがブチッと切れた。そしてヘブン状態に入って嬉々している黒子の両肩を持って己の能力を使おうとする。

 

だが

 

「おい」

「「ん?」」

 

ペタンペタンとサンダルの足音と共に男の声が目の前にある駐車場の方から聞こえた。

美琴と黒子は動作を忘れてそれに反応すると

 

駐車場の中からとある男が出て来た。

 

「朝っぱらからなに女同士で変態プレイかまそうとしてんだコラ、こんなクソ暑くてけだるい日に気持ち悪いモンを見せつけようとすんじゃねえよ」

 

いつも履いている便所サンダル。

いつも着ている同じ柄のスーツと白衣。

いつも目に掛けている伊達メガネ。

そして極めつけは銀髪天然パーマと死んだ魚がしている様な目。

 

口にタバコを咥え小脇にコンビニで買って来たジャンプを挟んで。

学園都市最大の問題教師が二人の目の前に現れた。

坂田銀時、またの名を某ドラマの熱血先生と反意語という意味で銀八先生。

 

「うわ噂をすれば……」

「最悪ですわ、教室ならともかく外で出会うなんて朝から憂鬱ですの」

 

銀時のダルそうな顔を見た途端、美琴と黒子は離れて人生最大級の嫌な事があった様なしかめっ面を浮かべる。

せっかく明日から夏休みだというのを満喫出来る日なのに『歩くトラブル』と遭遇するハメになるとは・・・・・・

 

「なんだ朝からテンション低いなお前等、夏休み前日のガキ共ってのは裸足で校庭走り回るぐらいテンション高いのが普通なんじゃねえのか? 早く校庭なり空き地なり行って裸足で校庭走って来いよ」

「はぁ!? 誰のせいでテンション下がって・・・・・・!」

 

こちらに近づいて喋りかけて来た銀時に美琴は間髪いれずに噛みつこうとするも、隣にいる黒子がすぐに制止する。

 

「お姉様、先程自分の言っていた事とわたくしの話をお忘れになられたのですか?」

「え? なんだっけ?」

「もう忘れたのですか……このような教師などと喧嘩するのは反対だと黒子はおっしゃいましたの」

「ああなるほど、確かに教師と喧嘩なんていかにも子供っぽいしね」

 

そうだ、もう彼とつまらない事で不毛な争いをするのはもう止めだ。これからは大人の対応でこの男を流す。

 

そう心に決めた美琴はプイッと銀時から目を逸らして黒子と一緒にツカツカと歩いて彼を避けて横切り背を向ける。

それを見て銀時はいつもの様に噛みついて来ない美琴に「ん?」と首を傾げる。

 

「おーおーおー。どうしたどうした? 珍しく大人しく引き下がりやがって」

「はいはい、早く学校行かないと遅刻しますよ“銀八先生”」

「わたくし達は学生の身で忙しいのでいちいちあなたに相手するヒマなどありませんの」

「ふ~ん、あそう」

(あれ? やけにアッサリしてるわね?)

 

ツンと冷たい態度を取っても銀時は平然とした表情で普通に後ろを歩いている。

女子に疎まれようが嫌われようが全く動じない性格なのか? いや確かに去年、夏休み中に行われ、夏休み明けに発表される生徒達による『頼れる教師達・人気投票』で、自分が1票しか入ってないと知っても別に傷付いてもなさそうにいつも通りにしていたが……

 

美琴が後ろに振り返らずにそんな事を考えながら歩いていると。背後からパラっと雑誌のページをめくる音が聞こえた。

 

「終業式の時に読む前にちょっとピンナップを見てみるか」

 

恐らく銀時が読んでいるのはコンビニで買ったとかいうジャンプの事であろう。独り言を言いながら彼がパラパラとページをめくっている音を耳に入れながら美琴は無視して彼の前を歩く。ジャンプの内容が気になるがその思考を振り切って歩く。

だがしばらくして後ろにいる銀時が「は?」と疑問の声を上げるのが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだやってたのこの『ギンタマン』って奴? つまんねんだよなぁコレ、早く打ち切られろよ。なんでわかんないの編集者? こんなウンコみたいなの連載しても誰も読まねえんだよ、もうギンタマンじゃねぇよウンコマンだよこんなの。もう作者と一緒にジャンプから消えてくれよウンコマン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀時の言ったささいなぼやきに

 

 

 

 

 

 

美琴は足は力強く止めて、さっきまで無視して流す予定だった彼の方にギロリと睨みを効かせて振り返った。

 

「なんの漫画が面白くないですってぇぇぇぇぇぇ!!」

「ちょっと! お姉様! この男と喧嘩しないと数秒前に決めた筈なのでは!?」

 

教師に対して殴りかかろうとせんばかりに声を荒げる美琴の腕を取って慌てて黒子が止めようとするも彼女は全く聞く耳持たない様子。

銀時は動じずにジャンプを持ったまま彼女の方へ顔を上げた。

 

「え? いやだからこのギンタマンが……」

「ふざけんじゃないわよ! それ私が毎週楽しみに読んでる作品なの! その言葉撤回しなさい!」

「うわぁ、お前まだこんなの読んでるの、趣味悪ぃなホント」

 

なんと先程まで自分がバカにしていた漫画は美琴の読むジャンプ作品は上位にランクインしていたらしい。

信じられないと言う風に銀時は疲れた表情で片手で頭を押さえる。

 

「あの気持ち悪いカエルといいギンタマンといいお前の趣味はわかんねぇわ」

「ギンタマンはおろか“ゲコ太”まで馬鹿にするとかアンタ本当に死にたいらしいわね!」

「相手にしないって先程決めたのに全くお姉様ったら・・・・・・」

 

いつも通りの彼女がいつも通りの態度で銀時に噛みつく姿を見て黒子は悩ましい表情でため息を突くと、顔を上げてジト目を美琴に向ける。

別に今始まったわけじゃない、黒子がこの常盤台に来てからずっと銀時と美琴はこの調子だ。

3人が再び動き出すのは授業開始5分前のアナウンスが流れた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人間の中には人間を超えたものがある』

 

数十年前にそれを詳しく解析した天人達は無理矢理開国させたこの星に一つの都市を創造し、その都市で超能力の才能を秘めた若者達の『眠る力』というのを目覚めさせるというプロジェクトを実現させた。

 

そのプロジェクトで生まれたのが学園都市だ。

 

この街には『異能の能力』を持つ少年少女、いわゆる『能力者』という者が現実に存在する。

学校のカリキュラム(時間割り)の中には記憶術、暗記術など能力開発に繋がる為の授業がごく自然に存在し、日々各々の能力を飛躍させる為の一環として教師はそれを教える。

 

能力とは一体どういったものなのかと簡単に説明すると。

相手の心を読む『読心術』

喋らなくても相手の頭の中に言葉を伝えれる『テレパシー』。

どこにでも瞬間移動できる『テレポート』。

念じれば目標物を思うがままに操る事が可能な『サイコキネシス』。

といかにも超能力と言ったものがあり

更には火、水、風、土、氷や属性を創生し操る能力。

他にも触った者になんらかの付加を与える、己自身の肉体を強化させる、重力を操るなど、数えきれない程様々な能力を持つ生徒達がこの学園都市には存在する。

どんな能力は一人につき一人、自分がどんな能力を持つかは己の道、もしくは天のみぞ知る。

そしてその一人一人には実力の証明となる『レベル』が存在しており。

まだまだ対した能力ではない者は『レベル1』

実生活やその他で役立てる事が可能になった者は『レベル2』

優秀な能力者と証明されるぐらいの基準値である『レベル3』

優秀の中の優秀、エリートと呼ぶにふさわしい『レベル4』

現在に置いて究極、最も神に近い者と称される程の能力を持った者こそが『レベル5』

 

レベル5はこの学園都市には7人存在している。学園都市、幕府、否、世界に認められた彼等はその一生を何不自由なく援助できる程の多くの援助が出ている。

(だがその中には援助や世界貢献に興味がなく、それらを断って自由気ままに生きている者も数人いるらしい)

 

レベル階級の中でレベル5は最も名誉な地位と判断していい。その下がレベル4、レベル3、レベル2、レベル1。

 

そしてなんの能力さえ持てなかった学生は『レベル0』

 

つまり無能力者と学園都市側から鑑別され、スプーンを曲げることさえ容易に出来ない才能無き者。

別に珍しい事でも無い、実際学生の中のほとんどはレベル0だ。

ただそういうレベル0の者を小馬鹿にする能力者も近年増えつつあり、高レベルが低レベルを見下す事などもはや日常茶飯事だ

 

だが稀に

 

実に極稀にだがレベル0の中にもとんでもない力を持っている者もいる。

 

レベル5、神に近いと称される彼らでさえ凌駕する可能性を持つ力を・・・・・・

 

 

 

神をも超える力を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レベル3以上からしか入学する事の出来ない常盤台女子中学はいわばお嬢様学校だ。

だが常盤台も例外なく他の学校がよくやる行事は多く存在する。

 

例えば夏休み前日に生徒全員を体育館に集合させて終業式。

そして校長の無駄に長ったるい退屈なスピーチとか

 

「え~明日から夏休みじゃが、ぬし等生徒諸君には長期間の休みとうつつを抜かして羽を伸ばし過ぎないよう遊んで欲しいと思うておる。もしこの中にいる誰かが問題行動を起こした場合には“余が”責任取らんといかんからの」

 

生徒全員を見渡せる場所に立って、教壇の上にマイクを置いて喋っているのはこの常盤台の校長先生。

体験は肥満型。顔面の色は紫、頭にぴょこんと出た触角が生えた明らかに人外な生物が偉そうにスーツを着て生徒達に語りかけていた。

 

バカ校長、否、ハタ校長だ。

 

「余はめんどくさいのはごめんじゃ、記者会見やってカメラパシャパシャ撮られ『あの生徒がまさかこんな事するなんて想像も出来なかった』とか嫌じゃからな、『あ~あいつ絶対すると思ってたわマジで、遠慮なくブタ箱ぶち込んでくんない?』って空気読まずに言うからな絶対、覚えとけよテメェ等。余はそういう所容赦しないから、もうサラッと言っちゃうから」

 

校長先生とは思えない様な口振りで生徒達に語りかけるハタ校長だが、目の前にいる数百人の生徒は椅子に座ってペチャクチャと私語を行って全く聞く耳持っちゃいない。

なんというか校長の話などどうでもいいというオーラが滲み出ていた。

 

「つうか誰も話し聞いてねえし! おいクソガキ共! 余を誰だと思うておるのだ! おいじぃ! じゃなかった教頭! 余を舐めきっておるこ奴等になんか言うてやれ!」

「おいお前等! この御方を誰と心得ておる! この一見ただのちっちゃいオッサンに見えるが偉大なるバカの中のバカ! 学園都市随一のブサイク、バカ校長にあられるぞ! あ、失敬、ハタ校長にあられるぞ!」

「失敬じゃねえよ! その安い言葉一つで言い訳出来ると思ってんのかクソジジィ!」

 

側近の様に隣に立っていた自分と同じ頭に触角の生えた老人、教頭に青筋立てて怒り狂うハタ校長。

そんな彼等を露知れず生徒達はペチャクチャ雑談していたり騒いでいたりして、その生徒達の横で座っている教師陣も生徒達を疎めもしない。

この流れは毎年恒例なのだ。

 

一年生の担任である坂田銀時も自分の生徒を取り締まることなく、最前列の席に座ってハタ校長の叫び声に耳も貸さずにコンビニで買って来たジャンプの読書に励んでいた。

 

「なんでギンタマンがセンターカラーなんだよ、仕事しろよ編集長」

「銀時」

「あ、何? ジャンプ貸さねえぞ」

 

隣から名を呼ばれたので銀時はとりあえず両手に持っているジャンプから目を離して左隣りに目を向ける。

そこには網タイツ、スーツ姿という異色のコラボをした女性教師が座っていた。

顔にいくつかの傷があるが容姿は実に美しく、初めて会った男が「あ、女のスーツ姿ってこんなにエロいんだ」って新たなジャンルを開きかねない様なスタイル抜群な女性。

銀時と同じく常盤台で教師の仕事をしている月詠だ。

ハタ校長が話をしているにも関わらずスルーして彼に話しかける。

 

「近頃天人や無能力者の学生や若者が、この都市内で他の学生達に横暴な暴力活動をしている事をぬしは知っているな」

「ああそうなの、まあ俺には関係ねえわ、教師だし」

「いや“教師だからこそ”関係あるじゃろ」

「え、なんで?」

「……おい、ぬしは本当に教師なのか?」

「その質問は何度もガキ共に聞かれてるから答えるのもだるいわ」

 

頭を押さえてしかめっ面を浮かべてこちらを眺める月詠に銀時は小指で鼻をほじりながらめんどくさそうに答えた。

まあこんな見た目で不真面目な男を教師と認識出来るのは確かにそうそういない。

 

「で、とにかく天人や無能力者の学生や若者が学生達にやっておるんじゃが。やってる事は暴力を振るったり恐喝まがいな事をする連中が多く、中には病院送りにする輩もおるらしい。難儀な話じゃのう、アンチスキル部隊の一つ、『百華』を率いているわっちも休む暇もありゃあせん」

「教師やってるのにお前も大変だな~、アレってボランティアだから無償でやってんだろ?」

「アンチスキルに志願するのは全員教師じゃ、大変なのはわっちだけではない」

「こんなクソ暑い中頑張ってんだなお前等、俺は家でゴロゴロしながら応援してるよ、頑張れ教師の星」

「腹の立つ応援の仕方じゃな……」

 

アンチスキルというのは学園都市内の教師達によって構成された治安維持部隊。

あくまで志願制のボランティア活動なのだが次世代兵器を用いた武装で戦う本格的な警備組織であり、この学園都市の治安を護るためには必要不可欠な存在である。

ちなみに月詠はそのアンチスキルの中にある特別な部隊、『百華』の頭領であり、普通のアンチスキルとは違い、最新兵器を使わずに己で身に付けた技のみで犯罪者を捕縛するチームだ。

彼女は銀時に向かって軽くジト目で睨みつけた後、ボソッと一つ提案してみる

 

「まあそういうヒマのおぬしに頼みたい事がある、ぬしもアンチスキルに入って欲しい、実は人手不足で困ってての」

「なんの罰ゲームだよそれ、やるわけねえだろタダ働きなんて。こちとら忙しいんだよ」

「今ならわっちの知り合いの熱血体育教師が徹底的にしごいてくれるぞ、地獄の方がマシだと思えるぐらいのしごきを体験できるぞ」

「罰ゲームどころかデスゲームかよ」

 

真顔で全く得のしない勧誘をする月詠に銀時は仏頂面でツッコんだ後、校長がスピーチしているにも関わらず突然フラリと立ち上がる。

 

「アンチスキルとかそんなのやる柄じゃねえんだよ俺は、他当たれ他」

「何処へ行く気だ銀時、まだ終業式は終わっとらんぞ」

「いやそろそろウチの所の“チビ”が動く頃だから、あ~あガキの面倒も疲れるわ」

「?」

 

めんどくさそうにそう言うと銀時は首を傾げる月詠を残して生徒達のいる方へと行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常盤台の生徒である御坂美琴は端っこの席に座って半目で腕を組んだままカクンカクンと頭を何度も下げ、口をだらりと開けて半分眠っている状態になっていた。

周りの学生達は騒がしくくっちゃべってる状況で一人眠りに入れるとは・・・・・・。

だがそんな彼女の眠りを妨げる妨害者は突然やってくる。

 

「お姉様~、あなたの黒子がこの退屈な時間を有意義な時間に変えるべくあなたの所へ馳せ参じましたの~」

「んあ? 黒子?」

「周りでクラスメイトの皆様が騒いでおられるのに一人端っこで寝てるとか……」

「うっさいわねぇ……せっかく人が寝てたのに邪魔すんじゃないわよ」

 

何の前触れも無しに突如パッと目の前に現れた白井黒子に美琴は驚きもせずに眠そうな瞼をこじ開けて不機嫌な様子で言葉を返すが、それでも黒子はめげずにまだ寝ぼけた状態の美琴の腰に抱きついた。

 

「お・ね・え・さ・ま~」

「アンタ周りには私のクラスメイトがいるってのに……さっさと自分の所の席に戻りなさい」

「席に座ってただ“バカ部長”の話を聞いているなんて時間の無駄ですわ、こうしてお姉様との愛の抱擁をしてる事こそがわたくしの時間のこの上ない有意義な過ごし方ですの~」

「いやバカ部長じゃなくてバカ校長、ていうか私にとってはこの上なくうっとおしいんだけど……」

「そんな冷たい事おっしゃらないでくださいまし。でもわたくしそんなツンな態度を取るお姉様も大好きですの」

「あ~もう、頼むからあっち行きなさいよ……寝る以外やる事ないんだから」

 

自分の腰に抱きついて幸せそうに頬擦りまでしてくる黒子に美琴はうんざりした表情で彼女の頭を強引に引き離そうとする、だがその時

 

「何やってんだこの変態野郎」

「ふぎゃ!」

 

黒子の頭に突然分厚い雑誌、少年ジャンプが乱暴に振り下ろされる。

バシンという音が鳴り黒子は思わず声を上げ、すかさず後ろに振り返る。

 

「いきなりなんですか! わたくしとお姉様の幸せな時間を邪魔をするとは許しませんの!」

「あ~わかったわかった、許さなくていいから自分の席に戻れ。椅子に座って大人しくしてろチビ、さもねえと椅子に縛りつけるぞ。もっともテメェには意味ねぇだろうけど」

「うげ・・・・・・あなたでしたか」

 

振り返った場所にいたのは眼鏡越しから死んだ目を覗かせる自分ん所のクラスの担任が立っていた。

坂田銀時、彼に注意を受けた黒子は叩かれた頭をさすりながら眉間にしわを寄せる。

 

「あなたと喋っている時間こそがわたくしにとって一番の時間の無駄ですわ、お姉様とお別れになるのは不本意ですが退散させてもらいますの」

「出来るなら俺の前から一生退散してくんねえかな?」

「こっちのセリフですわよ」

 

フンと鼻を鳴らして捨て台詞を吐いた後、黒子はパッとその場から消えていなくなる。

だが銀時は別にそれに驚く様子も無く「ケッ」と悪態を突くだけだ。

『テレポート』それが白井黒子の能力。

精神状態さえ一定に保っていれば触った物をあらゆる場所に転移することが可能であり。

範囲内になら何処へでも瞬間移動する事が出来るという高度な能力だ。

レベル4の能力者はこの常盤台にも何人かいるが、その中で黒子は特に優秀な能力者の一人なのである。

 

「可愛くねえガキだなホント」

「黒子片づけてくれた事に礼は言っておくけど、アンタも席に戻ったら? バカ校長に見られるわよ」

「あ?」

 

いなくなった黒子に悪態をついている銀時に、ずっと黙っていた美琴が自分の膝に頬杖を突いた状態で彼に話しかけた。

 

「アンタって本当変な奴よね、なんでそういちいち私の世話してくれるわけ? いくら理事長の命令だからってちょっと過保護すぎるわよ」

「うるせえな、つうかお前教師に対してその口の効き方はねえだろうが、いい加減にしねえとテメェも殴るぞ」

「フン、殴るとかそれ以前にアンタは私に触れる事も出来ないわよ。私はレベル5の第三位、能力も無いただの教師のアンタなんかに・・・・・・おご!」

 

腕を組んで不敵な笑みを浮かべて喋り出す美琴の頭に。

間髪いれずに銀時はジャンプを縦にして振り下ろした。

バコンと気持ちの良い音を立てて美琴の頭に小さなコブが生まれる。

 

「うぐぐ……アンタ私が喋ってる途中にいきなり仕掛けてくるとか卑怯よ……」

「レベル5ね、確かにアホレベルなら文句なしの5だわ」

 

雑誌の固い部分で叩かれたので美琴はあまりの痛みに涙目になりながら頭を押さえて悶絶する。

そんな彼女に軽い皮肉を浴びせた後、銀時は手に持っていたジャンプをヒョイと彼女の方に差しだした。

 

「ほれ、ジャンプ貸してやるよ」

「いたた……え?」

「ヒマなんだろ?」

 

頭を押さえながら顔を上げるとそこにはダルそうにジャンプをこちらに差しだす銀時の姿が、美琴は思わず口をポカンと開けて数秒間静止してしまう。

 

「……アンタが私に?」

「読み終わったら返せよ、俺まだ全部読んでねえから。じゃ」

「え? ちょ、ちょっと!」

 

目を細めてこちらを怪しむ様な表情になる美琴の両手に無理矢理ジャンプを差し出し、最後に手を一度上げて自分の席へと戻って行く。

残された美琴は両手にジャンプを持って彼の計らいに首を傾げるしか出来なかった。

 

「全くホントなにがしたいのかわからない奴ね……」

 

自分の席に深々と座って吸っていたタバコを携帯灰皿に入れている銀時に視線を向けながら、美琴は彼から借りたジャンプを開く。

 

「何考えてるのかさっぱりわからないクセに他人の考えは全て見通している様な態度、そこん所はホント腹立つのよね……」

 

 

 

そんな事を呟きながら美琴はとりあえず借りたジャンプに視線を下ろす。

するとさっきまでのしかめっ面か一転して瞬く間に顔をパァっと輝かせた。

 

「やった! 今週の『ギンタマン』センターカラーだ……!」

 

周りの生徒がそんな彼女を見てヒソヒソと会話してるのを気にも留めずに

 

 

 


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