偽を演じて…   作:九朗十兵衛

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どうも、九朗十兵衛です。

物語を作る上で色々考えていると、これもう、最初から再構成しないとだめだなと思い眩暈がしてしまいました。

では、まずは本編をどうぞ。


本編、または彼らの物語
第一話 回想または現実逃避、のちに少女


 俺こと比企谷八幡は、前を進む白衣姿の女教師の背中を見ながら、どうしてこうなったと頭を抱えたくなってしまった。いや、原因は分かっているのだが、それから逃避したくてたまらないのだ。

 

 始まりは一つの授業である。その授業で高校生活を振り返ってという課題でレポートを書けというものが出されたのだが、それそのものは別段変わったものではない。では、何が問題だったかというとその課題で出した俺のレポートが問題だった。

 課題が出された俺は、自分の高校生活を改まって振り返ったのだが、何というか特に何もなかった。本当に何もなかった。何なら食べ歩いたラーメンの事のほうが記憶に残っている位である。

 余りに何もなかったので、もうこのまま食べ歩いたラーメンの事をレポートにまとめようかとも思ったのだが、流石にそれではいけないのは俺でもわかったので、高校の初めまで記憶を遡るとこにした。

 

 高校の入学式がある当日、俺は小町の用事のため出発した時間が一時間以上早くなってしまい、どうやって暇をつぶそうかと考えながらも学校に向けて自転車を走らせていた。

 その道すがら俺の視界の隅で、道路反対側の歩道を歩いていた犬を連れた少女が、何かの拍子にリードを放してしまい犬が車線に飛び出してしまった。

 飛び出した犬が車のクラクションで身を竦ませたところに、黒い高級車が突っ込んできているのを見た俺は自転車を放り出して犬の元まで駆け寄ってしまった。

 

 向こう見ずの大馬鹿だと思います? 大丈夫だ、俺も思ったからね。でも、体が動いちまったってのとは別に、勝算というか大丈夫かなって要素はあったのだ。

 まだ子役をやっていた時の事、交通安全のマスコットといえばいいのか、子供店長みたいなノリで一日署長をやったことがある。その時に、車に轢かれる役をするスタントマンの山岡さんに、車に轢かれるときのコツを聞いたのだ。嫌なコツだな。いや大事だけどね。

 

『轢かれるときのコツ? そうだな、車に轢かれる時に一番危ないのが下に巻き込まれることなんだ。だから、転がるようにボンネットに乗り上げるといいぞ。トラックの場合? 祈って奇跡を願うか、鍛えて逃げろ』

 

 などという言葉を思い出しながら、犬を持ち上げて高級車のボンネットめがけてダイブしたのだ。結果? 二週間、病院のベットで優雅な一時を過ごしていました。

 失敗してんじゃねえかと思う気持ちは分かる。だが、俺の言い分も聞いてほしい。

 途中まではよかったんですよ。実際、イメージ通りにボンネットの上には乗りあげはしたのだ。しかし、勢いがつき過ぎたのかタイミングがズレたのか、俺はボンネットで止まらずにフロントガラスをジャンプ台にして吹っ飛んだ。

 

 あれだね、撮影の合間に年上の俳優さんたちに色々な体験を聞いた中に、アクションシーンで死にかけた時の話が合ったんだが、そういう時って時間が引き伸ばされたような感覚になるらしいが、吹っ飛んだ時の俺はまさにそんな感じだった。

 回転しながら見える景色は何とも不思議だったのを覚えているが、特に恐怖心は無かった。その中に顔はよく覚えていないが飼い主であろう黒髪の女の子が、呆然と俺を見ていたのを見て笑ってしまったほどだ。これが、小町が言っていた俺の糞度胸なのだろう。

 

 そのまま上に飛んでいく行くわけもなく重力に従って落ちた俺は、回転を利用して五点着地の様に転がった。ここで止まれれば多分軽症ですんでいたのだが、抱えた犬のせいでバランスが取れず勢いが止められなかった。

 そのまま転がっていった俺は、ガードレールに足を強打して骨折とアスファルトに頭を打って意識を失ったのである。

 

 意識が戻ったのは一日経ってからで、目を覚ました時には小町と両親に涙ながらにこっぴどく怒られたのは余り思い出したくないものだ。

 奇跡的に頭には異常はなく、入院も足の骨折が主原因だった。事故事態は車側の意向と此方側の意向により示談が決定し、入院費と治療費をあちらに持ってもらうことで終わった。正直、犬を助けようとしたとはいえ悪いのは俺だし、大ごとになるのは嫌なので綺麗にまとまって安堵した。

 

 まあ、そんな入院生活をしていていれば、高校生活での最初の関門である友達作りなど出来づらくなるのだが、元々そういうのはいらんかった俺なのでどうでもよかった。

 逆にボッチライフのスタートには、いい感じだったので喜んだほどである。本当だよ?

 

 あ、こうやって思い出してて気づいたけど、静かな学校生活で一つ出来事があったのだった。入院あけに登校すると、一人の少女に挨拶されたのだ。見た目ギャルっぽい茶髪の少女にいきなり挨拶されて驚いて固まったが、俺が詰まりながらも挨拶を返すとその少女は身をひるがえして走って行ってしまった。

 その時は俺じゃなくてその後ろの人に挨拶したのに、俺に返事されて逃げたのかと思ってノーロープバンジーしたくなったよ。

 しかし、その後も俺に向かって食い気味な挨拶をしてくるので、一応対象が俺なのは事実だ。特に実害がある訳でもないので、放置しているとそれが習慣化してしまい、以後その少女の事を俺は心の中で「挨拶少女」と呼んでいる。

 だが、レポートを書くときにそのことを思い出していても、やはり書くことはなかったであろう。高校生活振り返ってというお題で、定期的に名も知らぬ少女に食い気味な挨拶をされるとか書けるわけがないのだ。

 

 じゃあ、何を書いたかというと結局、何も思いつかなかった俺は最初に考えたラーメンレポートを地図付きで詳細に書いたのである。

 まぁ、待て石を投げる前に最後まで話を聞くんだ。俺は子役を止めてから標語に、「押して駄目なら諦めろ」というものを掲げているのだが、その標語通りに動いた結果こうなったのだ。

 今のどこに押した要素があったのか分からん? ふむ、押すとは行動を起こすと言うことであるのは分かるだろう? 行動、つまり体を動かすことである。

 俺は記憶を遡るという脳を動かすという行動(押す)を起こし、その結果特に何も思いつかなかったので諦めたのだ。なんて完璧な理論であろうか!

 それを提出した結果、前を行く女教師に呼び出されたので完璧でも何でもないんですけどね。

 

 しかし、この女教師こと平塚先生は意外なことに、最初このレポートを褒めてくれた。なんでもラーメンが好きで、このレポートに書かれていることが自分の好みに合致していたらしく、俺と話して嬉しそうにしていた。

 これはひょっとしてこのまま逃げられるんじゃね? と思ったのだが、そうは問屋は下ろされるはずもなく、これはこれ、それはそれの精神でその時に言ってしまった失言のことも合わせて、ただ今罰を受けるために移動中なのである。

 

「ここだ。入りたまえ」

 

 回想という名の記憶整理、もとい現実逃避をしていると、ある空き教室の前で平塚先生が親指で扉を示していた。

 罰で空き教室とかそれはあれであろうか、こうエロゲー的な、ね。いや、平塚先生だったら校舎裏で、「殴るならボディーにしな!」の方であろうか。……どっちも嫌です!

 

「どうしたのかね? 早く入りたまえ」

 

「……うす」

 

 ここで逃げ出しても後で、罰が二倍にも三倍にも増えそうなので俺は大人しく従うことにして扉を開けた。

 扉を開けて俺の目に映った室内には、奥に積み上げられている机や椅子、そして椅子に腰かけた一人の少女いた。椅子に腰かけた少女は、一言で言えば絵になっていた。開けた窓から入るそよ風に揺られる絹の様に滑らかな黒髪、その下にある顔は手に持った本に、美しい青みがかった瞳を向けているため俯いているが、それがその少女の儚さを引き立てており、触れてしまったら壊れてしまうのではないのかと思わされてしまう。

 

「平塚先生、入るときはノックを……あら?」

 

 扉の開く音に反応したのか風で乱れた髪を直しながら、本から此方に視線を向けた少女は抗議の言葉を上げようとしたが、発した言葉の人物と違ったのに首を傾げた。

 ……首を傾げる瞬間に目を見開いていたが、そこまで驚くことであろうか? もしかして、俺の目に驚いたんですかね。そうだったら泣くよ?

 

「……貴方は? 平塚先生の声が聞こえたと思ったのだけれど」

 

「あ、俺は」

「やあ雪ノ下、邪魔するよ」

 

 彼女の疑問に答えようとした俺に割り込むようにして、平塚先生が少女、雪ノ下雪乃に挨拶をした。

 雪ノ下雪乃はこの学校では有名人である。その優れた容姿ももちろんだが、彼女の所属する二年J組は国際教養科という学年でも特に優秀なものが集められたクラスで、彼女はその中でも群を抜いて優秀であり、入試では一位であったらしい。

 そして、クラスを纏めるリーダー的役目も担っており(・・・・・・・・・・・・・・)、教師達の信任もあつい完璧少女である。

 しかし、その完璧少女がなぜこんな所で一人読書などしているのであろうか? こう、放課後はお友達と優雅なティータイムを楽しんでいるものなんじゃないだろうか。見た目的に。いや完全に俺の偏見ですけどね。

 先生と二三会話をした雪ノ下は、膝の上に置いていた本にしおりを挟んで平塚先生に問いかけた。

 

「それで平塚先生。今回の用件は何でしょうか?」

 

「ああ、依頼と入部希望者を連れて来たんだよ。彼がそうだ」

 

 平塚先生はこちらを振り向いて、俺を指さしながらそのようなことを仰った。依頼? 入部希望者? 何それ初耳なんですけど。つか此処って、空き教室じゃなくて部室なのかよ。

 

「先生、俺は罰を受けるためにここに来たんすよね? なのに入部希望ってどういうことっすか。初耳なんですけど」

 

「その罰が入部なのだよ」

 

 罰で入れさせられる部活って何なんですかねえ。SでMな感じで奴隷みたいな扱いでも受けるの? できれば、緩いお茶会するような部活がいいんですけどね。いや入る気ないけどさ。

 

「いやいや、俺部活入る気ないですからね? 家で俺の帰りを待ってる愛妹と愛猫がいるんですよ」

 

 まあ、その愛妹は多分俺が部活を始めても、「いいんじゃない?」で終わらせそうではあるんですけどね。愛猫に関しては、俺を餌出してくれる人ぐらいにしか思ってないと思うけども! そして愛描の所で反応した雪ノ下さん。あなた、もしかして猫が好きなの?

 俺が拒否するのを見た平塚先生は、腕を組み男くさいという言葉が似合いそうな笑みを浮かべて断言した。

 

「君には、異論反論抗議質問口答えその他諸々一切合切口にすることを許す気はない。……と言いたいところではあるが、まあ、まずは雪ノ下と話してみてくれ。その後ならば抗議だけは聞いてあげよう」

 

「それって聞くだけ聞くってやつじゃ……ってマジかよ」

 

 俺の反論を聞くこともなく言いたいことだけ言って、平塚先生は片手を上げて教室から出ていこうとしたのだが、それを止める者がいた。

 

「平塚先生」

 

「……なんだね?」

 

 扉を閉めようとしていた平塚先生は、動きを止めて顔だけ振り返ると雪ノ下を見つめて短く答えた。

 

「私がこの部活に入れられた時に言われた言葉と、今の状況が合致しないのですがそれに関しては?」

 

「それは違うな雪ノ下。入部希望者の前に依頼とも言ったろう? それに彼はここに入る資格もあるのだよ。……話すだけ話したまえ」

 

 雪ノ下の質問に答えた平塚先生は今度こそ出て行った。この二人のやり取りを見ていた俺の内面を教えてあげよう。まったくもって、訳が分からないよ状態である。

 雪ノ下は先生が出て行った扉を数秒眺めていたが、その視線をこちらに寄こして一つため息をついてから切り出した。

 

「はぁ、比企谷君、とりあえず座ってはどうかしら? 奥に積まれている物だったら好きに使ってもらって構わないわ」

 

「え? お、おう。……ん? 俺名前言ってないよな」

 

「二年F組所属の比企谷八幡君。一応、全校生徒の名前とクラスぐらいなら覚えているわ」

 

 流石パーフェクトレディである。感心しながらも椅子を引っ張り出してきた俺は、距離を十分にとった場所に座りこむ。それを確認した雪ノ下は一つ頷くと質問をしてきた。

 

「それで、あなたはなぜここに連れてこられたのかしら? 平塚先生は依頼と言いながらも、何の説明のしないで出て行ってしまったから。それに先ほど罰がどうと言っていたけれど?」

 

「ああ、それは―」

 

 事情を聞いてくる雪ノ下に、事のあらましを説明する。説明を聞いている間、雪ノ下は何処か俺を観察する様な視線を向けてきていて何とも居心地が悪かったんだが、何とかすべてを話し終える。最後まで静かに聞いていた雪ノ下は、俺の話が終わると額に手を当てて呆れたような溜息を吐いた。

 

「……随分と捻くれたことをしたのね」

 

「ふ、褒めないでくれ。照れる」

 

「褒めていないわよ」

 

 ですよねー。って、俺がまずやらなければいけないのはこんなやり取りではない。俺はそもそもここが何の部活なのかもわからないのだ。

 

「というかだ。まずここって何部なんだ?」

 

「あら、ごめんなさい。私としたことがまだ自己紹介すらしていなかったわね。改めて私は、二年J組所属の雪ノ下雪乃です。一応学年主席でこの……」

 

 部活の事を聞いたのだが、雪ノ下は俺の問いに自己紹介をしていないことを思い出して丁寧なあいさつをしてきた。これは、俺もしたほうがいいのだろうか? いや、しかし相手は俺の事を知っているようだし、改めて自己紹介するのは恥ずかしくないだろうか。

 

 だが、円滑な人間関係を作るためには挨拶は大事なツールである。……別に円滑にする必要なくね? よしんば、ここで挨拶をしなかったことで目の前の少女を不快な気持ちにさせたとしよう。そうしたら、挨拶もできない糞虫にこの部の敷居を跨がせられるかぁ! とスムーズにここから追い出されることができる、かもしれない。それだったら、あのアラサーも文句は言えないだろう。おぉ、希望が見えてきた!

 俺が脳内で見つけた小さな光明を見つけていると、地味に自慢くさいものも入れながら自己紹介していた雪ノ下は、この部の説明をしようとしたのだが途中で言葉を止めて、人差し指を顎に当てて黙考してしまった。何そのしぐさ。可愛いんですけど。

 俺がその仕草に見惚れてしまっていると、雪ノ下は黙考を止めて俺にこう告げた。

 

「……そうね。比企谷君、この部が何か当ててくれないかしら?」

 

 

 




ここまで読んで下さりありがとうございます。

このお話のゆきのんは、原作の様な毒を吐くことはないと思います。(絶対ないとは言っていない)

この物語、最初の段階では夏休み辺りから始めるつもりでしたが、色々構成考えていたら本編の通りゆきのんの性格が変わってしまったため、その説明を如何しようか悩んだ結果、「これもう再構成しなきゃダメじゃね?」と思い至りこうなりました。

本当はこの話で入部まで持って行きたかったですが、長くなりすぎてしまうため、次に回すことになってしまった(遠い目)

ではまた次のお話で会いましょう。

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