偽を演じて…   作:九朗十兵衛

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どうも九朗十兵衛です。

最近、寒さが身に沁みますね。一昨日暖かったので余計です。

テニス描写難しい! ど素人が調べながら書いてるので色々拙いものが出来てしまいました。おかしい部分などがあったら鼻で笑ってやってください。

あと、前話の誤字修正ありがとうございました。



では、本編をどうぞ


第九話 テニスの雪乃様

 

 

 ここ最近、放課後に部室での部活動という名の待機時間にも慣れてきた。

 待機時間中やっていることは基本的にスマホを弄って余暇を過ごしているのだが、そうしていると不意に由比ヶ浜が俺に絡んできたりする時がある。最初の内はあいつの気が済むまで付き合ってやっていたのだが、最近は扱いも覚え慌てず騒がず軽やかにかわして雪ノ下(飼い主)の元へと誘導してやることが出来ているのでとても平穏だ。

 

 だからと言って油断していると、由比ヶ浜()の飼い主が俺をからかおうとしてくるので注意が必要だ。しかし、俺も何時までも西方君ではないのだ。

 日頃惰眠を貪っている俺の中の孔明さんを叩き起こし、千変万里を見通す叡智によりお告げを頂くことに成功。孔明さん曰く、「強大な敵に直接あたるのは下策、ここは第三勢力を使いなさい」とのことなので、その自由奔放で明け透けな外交姿勢から好透の犬と呼ばれる由比ヶ浜を調略し同盟にこぎ着けようとした。

 

 好透の犬は覇王雪ノ下と蜜月の関係ゆえ、説得するのは難業で三度の会談が行われたが、いかな孔明でも同盟までこぎつけること能はず。

 しかし、孔明の働きにより我らの戦いには中立の立場をとらせることに成功した。そればかりか、うまく策を弄すればこの好透の犬は戦場を掻きまわす鍵となるだろう。この出来事は後に「ワンコの礼」と呼ばれることになる。

 こうして覇王雪ノ下に対する札を手に入れたマッ缶中王である俺は、防備を固め覇王の軍勢との決戦に挑むのであった。果たして俺は三国の平定しこの奉仕部全土を平和にすることが出来るのか。

 奉仕部三国志・外伝~総武の乱~ 次回! さらば英雄! マッ缶中王、暁に死す。 

 君は、ボッチの涙を目にする。……おい予告で盛大にネタバレしてるじゃねぇか。つーか部活どこいった。

 

 なんか途中から思考が異次元の方に行ったが、まあ大体こんな感じで放課後を過ごしている。……いやね。ちゃんと部活はしているんですよ? 

 だけど、うちの部活ってそもそも依頼者である生徒が来ない限り暇で、その依頼者だってそう頻繁に来ることもないんだよ。俺的には嬉しいけどね!

 なもんでどうしても待機で終わる日が多いのだが、じゃあさっさと帰っていいですか? って言って帰った日には、後日飛将軍(顧問)に、「りょ、呂布だー!」されそうで出来ない。

 だから大人しく部室で放課後を過ごすことがここ最近多くて、必然的にそういう時間にも慣れたのである。

 

 今日も何事もなくそうやって過ごすのだろうと思っていたのだが、現在俺達がいるのは部室ではない。じゃあ、何処にいるのかっていうと―――

 

 

 

「始めましょうか」

 

 

 

 雪ノ下の号令がテニスコートに集まった俺たちに向けられ、それを聞いた俺たちは各自邪魔にならない位置まで離れると運動前のウォーミングアップを始める。

 何で俺達奉仕部がテニスコートでこんなことをやっているかだが、突然青春の汗を流したくなったから……などという訳もなくもちろんの事依頼だからだ。そして今回の依頼人だが、なんと先日の昼休みに邂逅した戸塚だ。

 

「いっち、にー、さん、しー!」

 

 俺の隣で掛け声と共にストレッチをする戸塚はとても愛らしい。だが男だ。な戸塚がどういう経緯で奉仕部に依頼してきたのかだが、今までとは違い平塚先生経由ではなかった。何と、今回は由比ヶ浜経由である。

 

 俺と雪ノ下が部室で暇をつぶしていると遅れてやってきた由比ヶ浜が、戸塚を伴って開口一番、「依頼者連れてきたよ~!」と無駄に輝く笑顔で宣ったのである。自分から仕事を取ってくるとは見上げた社畜根性だ。褒めてやる(何やってんだこんちくしょいっ!)

 

 偉い? 褒めて? と目で語る由比ヶ浜をおざなりに見えて、その実やっぱりおざなりな態度で褒めてやった。しかし、由比ヶ浜は何がお気に召さなかったのか、口をへの字にして雪ノ下に飛びついて行った。まぁ、いつもの事だな。

 

 その後、雪ノ下がかまってやることで由比ヶ浜の機嫌が向上し、改めて戸塚の依頼を聞くことになった。

 戸塚の依頼、それは戸塚の所属しているテニス部に関してだった。総武高校のテニス部は端的に言ってしまうと弱小であるらしく部員の数も少ないそうだ。これから三年も抜けてしまうと、益々弱くなってしまう。そうなると、今でさえあまりやる気の出ていない部員が益々やる気をなくしてしまうと戸塚は気が気じゃなかったらしい。

 

 何か自分にできないかと考えた戸塚は、自分がテニスが上手くなればそれに触発されて、部員たちもやる気を出してくれるのではないかと思いついた。だが、それまでも朝と昼、そして放課後と練習に励んでいた戸塚はこれ以上自分一人でやっても伸びないのではと悩んだそうだ。そんな戸塚に声をかけたのが由比ヶ浜であった。 

 

『つまり、私達は戸塚君のテニスの技術が向上するようにサポートをすればいいのね?』

 

 と、事情を聞いた雪ノ下が依頼の確認をして、戸塚がそれに同意したことによって依頼は受理され準備のためにその時は解散して次の日、つまり今日テニスコートへと繰り出したのである。因みに今日はテニス部は休みで、コートに関しては顧問に許可をとって使用している。

 

「こんなものでいいかしらね。……では、まずは戸塚君の実力を見て見ましょうか」

 

「はい! よろしくね雪ノ下さん」

 

「えぇ、よろしく」

 

 ストレッチを終え、その後に軽めのウォーキングやジャンプなどで体を温めていよいよ戸塚強化計画の始まりである。

 テニスコートで対峙するのは依頼者の戸塚と奉仕部の部長様の雪ノ下。これから一試合して戸塚の実力がどれほどか確かめ、それに合わせてどのようなメニューで練習するか決めるらしい。……というか一つ素朴な疑問があるんだが、雪ノ下の実力ってどうなんだろうか? 

 無いとは思うが、これで戸塚より実力下なら赤っ恥である。―――だが、そんな俺の疑問はどうやら無意味であったらしい。

 

「……フッ!」

 

 サーブは雪ノ下であるらしく短い呼気と共に、上に投げたボールをラケットで打ち出した。独特の音と共に打ち出されたボールは、鋭い軌道のまま戸塚側のサービスコートに突き刺さるような勢いで飛び込む。雪ノ下のフォームは、テニスは授業位でしかやってない俺から見てもさまになっているように見える。

 

「ハッ!」

 

 戸塚も流石はテニス部。そのボールを打ち返す樣は危なげがなく、それどころか余裕が感じられた。

 そこからはやや雪ノ下有利で試合が進んだ。雪ノ下は一打一打に切れがあり、しかも打つごとにその切れが増していくようだった。戸塚も必死にそれに食いついていく。

 

「……へぇ」

 

 雪ノ下の猛攻に食いつく戸塚を見て、思わず吐息が漏れる。雪ノ下とテニスをする戸塚は、今まで相対していた中で散見していた女性的な部分が徐々に削れていった。柔らかな目元は鋭く細まり、動作も動くうちに荒々しさが目立つようになった。今なら女の子と間違われず、クール系熱血スポーツ少女と思われるのではないだろうか。結局女の子じゃねぇか……まあ、冗談はさておいてだ。試合を見てて一つ分かった。

 

「うわぁ……ゆきのんもすごいけど、さいちゃんもすごーい」

 

「……だよな。つーかこれ、俺らのサポートいらないんじゃね?」

 

 そう、由比ヶ浜の言う通り戸塚のテニスの実力が普通に高かった。いや、十分強いですやん。これ以上強くなりたいの? 目指すはテニヌなの?

 このまま強くなって戸塚がキャップを被り、「まだまだだね」とか言い出したらどうしようかと戦慄していると、試合の傾向が変わってきた。

 今まで雪ノ下は打ち返すときにコートの左右に打つことが少なかったのだが、ここに来てそのふり幅が大きくなりだした。そうなると必然、戸塚はボールを取るために走らなければいけない。そして、今まであった戸塚の余裕がなくなった。

 体力的には問題がなさそうなのだが、反応がワンテンポ遅れるといえばいいのか、雪ノ下が打ち返す瞬間に動きが硬くなる時がある。

 何度かは打ち返すことが出来ていたのだが、それも長くは続かず終わりの時がやってきた。

 

「ッ! アッ!?」

 

 必死に走りボールに追いついた戸塚が打ち返すが、そのボールに力はなく大きく山なりの軌道を描いて雪ノ下側へと落ちていく。その瞬間、雪ノ下が勢いをつけ跳んだ。

 膝のばねを使い中空へと高く跳び上がった雪ノ下は、長い漆黒の髪を陽光でキラキラと輝かせながら、身体を大きく弓なりに反って振りかぶったラケットを、宙を漂うボール目掛けて振り下ろした―――

 

 

 

「……すっげ」

 

 

 

 跳ぶ雪ノ下の姿に見蕩れ口から出た言葉は、語彙力に欠ける簡素なものだった。だが、人間本当に驚いた時などそんなものだ。

 打ち出されたボールは、ダンッ! と今までコートを叩いていた音より重く鋭い音を立てて突き刺さった後に、フェンスにぶつかって点々と撥ねた後にころがり停止。

 その間、戸塚を含めて俺たちは誰も言葉を発することが出来ず、コート内には静寂が満ちていたが、その静寂を由比ヶ浜の歓声が破った。

 

「と、跳んだ。ゆきのんが跳んだ! す、すごーー!! つか凄ッ!?」

 

 由比ヶ浜は、まるでアルプスで大金持ちの一人娘が立ったのを見た赤い少女張りのリアクションを見せ、そのまま雪ノ下に突撃していった。俺も内心ヤギ飼いの少年のごとく驚いている。

 

「はぁ、はぁ、ダ、ダンクスマッシュ……す、すごい」

 

 息を切らせた戸塚が膝を付き、流れ出る汗を拭くこともなく雪ノ下を見つめ驚いている。その戸塚には、先ほどまでの荒々しさがなくなっていた。

 そればかりか、今の戸塚は汗で濡れそぼり、喘ぐように荒く息を吐いて興奮に頬を染めているので……正直、なんかエロい。もし男だと分かっていない奴が見れば、生唾飲み込んでいるのではないだろうか。下手したらノーマルでもやばいかもしれん。それほどの破壊力だ。まあ、俺は大丈夫ですけどね。……本当だよ?

 

「とりあえず、戸塚。これで拭いとけ」

 

「え? あ、ありがとう比企谷君!」

 

 これ以上は禁断の何かに目覚めそうなので、用意していたタオルを戸塚に渡してやる。タオルに気付いた戸塚が笑顔でお礼を言うと、受け取ったタオルで汗を拭き始める。

 それを見届けもう一つのタオルを雪ノ下に渡してやるため、今だじゃれ合っているだろう二人の方を振り返ると丁度二人が近づいてくるところだった。

 

「ふぅ、……大体の実力は、分かったわ。はぁ……」

 

「お疲れさん。って、大丈夫か雪ノ下?」

 

 近づいてくる二人の片割れである雪ノ下にタオルを差し出し、予想以上に疲労している姿に思わず声をかけた。由比ヶ浜も心配そうに隣についている。

 雪ノ下は差し出されたタオルを礼と共に受け取り汗をぬぐうと、「大丈夫よ」と返答して何度か息を整えた。

 

「はぁ、……ごめんなさい。運動は得意なのだけれど、持久力が無くてすぐに息が上がってしまうのよ。これでもまだ、昔よりはマシなのよ?」

 

 完璧少女の意外な弱点が発覚した瞬間である。いやまあ、そんな意外な弱点も他の部分がずば抜けているので全然弱点くさくないのだが。っていうか、今の試合雪ノ下のダンクスマッシュで終わる流れになったが、実際はまだ一ゲームも終わっていないんだよな。昔はこれより体力なかったのか。

 

「それで、戸塚君の鍛える部分なのだけれど」

 

「あ、うん!」

 

 さて、完全に息が整った雪ノ下が、改めて戸塚強化計画で何を鍛えるのかを話し出す。戸塚も内容が内容なので、座り込んでいた状態から立ち上がり姿勢を正した。

 

「戸塚君は体力面も鍛えるに越したことはないと思うのだけど、反射の方を重点的に鍛えたほうがよさそうね」

 

「あ~やっぱり、そうだよね」

 

「反射?」

 

 雪ノ下の言葉に頭を掻きつつ納得する戸塚。どうやら自分の改善点は把握しているようだ。俺も先ほどの試合を見て何となく察することが出来たのだが、由比ヶ浜は出来なかったらしく首を傾げている。

 これに関してはしょうないだろう。由比ヶ浜は二人の試合を見て、凄い凄いとはしゃいでいただけなのだけでその辺の観察はしていないだろうからな。

 なので由比ヶ浜に説明のため戸塚が話し出した。

 

「うん、さっきもそうなんだけど、僕ってボールと相手を見ちゃう癖があるんだ」

 

「んぅ? でもそれって普通じゃん? 見ないとどこに飛んでくるか分からないし」

 

「あはは、まあ、そうなんだけどね。でも、僕の場合はそれが必要以上に見ちゃうから、どうしても相手が次どう動くんだろうとか考えちゃうんだ。試合中にそんなこと考えちゃうと動きが遅れるよね?」

 

「あ~、確かに……」

 

 戸塚の言う様に、試合中にいちいち考えて動いていたらワンテンポ遅れる。スポーツ選手って、結構どこに来るって無意識に把握して動いているのだ。その反射神経は相当に高いだろうし、それを鍛えることで一段高いところに行けるのは確かだと思う。

 戸塚の場合、ある程度の相手までは素の実力でどうにかなるのだろうが、大会やそれに準ずる場での試合での相手ではそれも苦しいらしい。

 

「えぇ、だから基礎的な体力向上を行いつつ、反射神経を鍛えるメニューにしましょうか」

 

「具体的に言うと?」

 

 俺の質問に雪ノ下は魅力的な笑顔と共にこう答えてくれました。

 

 

 

 

 

 

「打って打って打ちまくるから、それを捌き続けてもらうわ」 

 

 

 

 

 

 

 スパルタの女王、雪ノ下雪乃の誕生である。

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。

女子でダンクスマッシュってできるんでしょうかね。調べてもよく分からなかったです。

話は変わるんですが、「クララが立った」ってセリフってハイジじゃなくてペーターが言ったんですね。一つ知識が増えました。


では、また次回!


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