久しぶりに覚者してたりドラクエ11やったりFFBEのイベやってたりFGOの夏イベやってたりで忙しい毎日でした。
まあ、そんなことはいいとして、では、本編をどうぞ。
「では、貴方の要件を聞きましょうか。材木座くん」
のたうつ材木座を回収して部室に散らばった紙を回収させた後、各々椅子に座って一息ついた俺達はなぜ材木座がここに来たのかの説明を聞くことにしたのだった。……したのだが、何故か材木座は雪ノ下の問いかけに答えることなく固まったまま動かない。起動してすぐ故障か? 斜め四十五度チョップの出番? メーカー保証書何処だよ。
「材木座くん?」
「……はっ!? ちょ、ちょっとタイム! 我が盟友、サモン!」
訝しんだ雪ノ下の声かけに再起動を果たした材木座が、手でTの形を作りタイム申請を申し出て俺を手招きして部室の隅に移動した。だから誰が盟友か。
もうすでに面倒くさいがそれでは話が進まないので、重い腰を上げて材木座に近づいた。
「んだよ。何か問題あったか?」
「ど、どげんしようはちまん!」
近寄った俺に材木座は小声で叫ぶという、無駄に器用な真似をして動揺もあらわに俺に詰め寄った。つかお前キャラブレ過ぎだろう。なぜに福岡弁。
「何がだよ」
「あ、あの女人。雪ノ下殿であろう」
そう言った材木座は体格的に無理があり過ぎるが、俺の体に隠れながら椅子に座ったままこちらの様子を見ていた雪ノ下を指さす。っておい、人を指さすんじゃありません。
そんなこちらに気付いた雪ノ下が小首を傾げながら優し気な笑みを見せるが、先ほどから材木座を警戒している由比ヶ浜が雪ノ下を守る様にブロックしてしまった。大丈夫だ由比ヶ浜、こいつヘタレで戦闘力5のゴミだから。
「はうわっ!」
「だから何なんだよ」
由比ヶ浜に視線でこいつは物理的には無害だと語り掛ける俺の横で雪ノ下の笑みに当てられたのか、胸を抑えてのけ反るアホたれ。いい加減再起動(物理)しようかと考え実行しようとすると、いきなり掴みかかられた。そして材木座は目を血走らせ鼻息荒く語りだした。
「あの学校の女神と名高い雪ノ下殿が、名乗っても居ない我の名を知っているとか、これ完全にモテ気来てるよねっ!? どうしよう、もう告白していいんじゃね? はちまん、我告白しちゃったほうがいい!?」
「今すぐその妄想を捨てろ」
悲惨な結果が見えている妄言に真顔で突っ込みアホを放置して椅子に戻る。駄目だこいつ、予想以上に拗らせてやがった。
「ハア……くだらんこと言ってないでさっさと要件言えよ」
椅子に座って大きくため息を吐いた俺は、慌ててついて来た材木座におざなりな態度で先を促す。多分、今の俺の目はあまりの面倒くささに急速に腐り始めているのではないだろうか。……誰かゾンブレックス持って来てくんねえかな。
「ゴラムゴラム! 実はだな。孤高であるが故の悩みを抱えていた時に、平塚女史から奉仕部なるものを聞いてそこに同士であり盟友、そしてこの剣豪将軍義輝の終生の相棒である八幡がいるというではないかっ! これを八幡大菩薩の導きと察した我は、貴様に我が願いを叶えさせる為こうして赴いたのだ。……なので我が言の葉、しかと心に刻み込むがよいわ!」
そんな俺の言葉を聞いて、材木座は独特の咳払いと共に立ち上がり、大仰な身振りと宣誓するような声高な叫びでもって俺を指さす。……何でこんなに生き生きしてんの?
エンジンフルスロットルな材木座の様子に呆れていると、俺の隣であいも変わらぬ微笑のまま黙然と話を聞いていた雪ノ下が動いた。
「……申し訳ないのだけれど、私達奉仕部は依頼者の願いを叶える部活ではなくて、依頼者が問題を自分で解決できるようにサポートをする部活なの」
こちらを指さしながら決まったと言いたげな顔で、エクスタシーを感じている材木座に炸裂する雪ノ下の苦笑を湛えたお言葉。これは痛い。しかし、材木座も無駄に精神力が高いのか、一度停止して脂汗を垂れ流しながらも何とか持ち直す。
「そ、そうとあらば、我が見事試練に打ち勝ち宿願を叶えるために八幡っ! 貴様には八面六臂の働きを期待している。さあ、我と共に世界の最奥に潜みし楽園を目指そうではないかぁ!! ふはっはっはっ!!」
雪ノ下の訂正にペースを乱しかけた材木座であったが、持ち直すしてからのかっ飛ばし方が凄まじい―――が、うちの部長は強かった。
「そう……では、改めて貴方の要件を聞きましょうか」
材木座の奇行と言ってもいい態度を意に介することもなく、いつもと変わらぬ態度で話を進める雪ノ下。そんな雪ノ下に高笑いをしていた材木座も思わず停止した。
「え? あ、わ、我は……」
「ふふっ、そう緊張しなくても大丈夫よ。さあ、座ってちょうだい?」
「あ、はい」
先ほどの勢いは何処へやら、二の句を告げるまもなく促されるまま席に着いた材木座。さながら借りてきた猫、もとい借りてきたチンチラ状態の材木座は、チラチラと俺に視線を寄こして助けを求めていたが、その都度雪ノ下に話しかけられてしどろもどろになっていた。
材木座の視線をマルっと無視して二人の様子を眺めながら、ふと小さな疑問が湧く。……何か、雪ノ下に違和感があるような? 由比ヶ浜の時は、もっとこう―――
「……ッキー? ヒッキー!」
「あ?……ぉうっ!?」
意識が内に向きかけていた時にかけられた不意打ち気味の呼びかけに、ハッとして振り返ると目の前に由比ヶ浜の顔があった。その距離約十センチ。近っ!
俺達は雪ノ下を中心に雪ノ下の右が由比ヶ浜、俺が左に座っていた。それを雪ノ下が材木座の相手をしているうちに後ろから回り込んできたのか、今の由比ヶ浜は俺の肩口から顔を出した状態だ。正直心臓止まるかと思ったわ。君のパーソナルスペースどうなってんのガハマさん。
驚きで変な声が出てしまったが、由比ヶ浜はそんな俺に小首をかしげる。
「ゆきのん見たままボーっとしてどうしたの? キモいよ?」
やだ、この娘辛辣ぅ。
「そんな何気なさでキモいとか言うな。泣くぞ」
「あはは、ごめんごめん」
「ハァ……んで、何か用か? つーか離れろ」
背中にガハマッパイが当たってるんだよ。
「あ、ごめん。……えっと、アレってヒッキーの友達なの?」
謝った由比ヶ浜が少しも離れるが、それでも彼我の距離は近い。それでも吐息がかかる距離ではないのでましと言えばましか。
それで由比ヶ浜の言うアレだが、まあ、言わずもがな対象は只今絶賛メダパニってる材木座である。……いや、アレってお前、せめて名前で読んであげなさいよ。やっぱり第一印象って大事。
まぁ、この際、材木座に対する由比ヶ浜の警戒心は置いておく。それよりもだ。材木座が俺の友達?
「友達じゃない。あれはただの知人だ」
もっと言えば俺に友人などいないっ! ……やっべ、なんか俺の内面世界で雨が降ってきたぜ。
「そうなんだ!? え、じゃあ何であんなに懐かれてるの?」
「前に体育の時にペアを組んだことがあるから、多分それで懐かれた」
「うわぁ……単純だ」
うん、ガハマさんが言えることじゃないと思うんだ。
俺からしたら由比ヶ浜の雪ノ下に懐く樣は材木座に通じるところがあると思うが、それを本人に言ったらガチギレされそうだから絶対言えない。
「まあ、ボッチにとって体育での『好きな奴と組め』は地獄の責め苦と同じだから、同じ立場のやつにシンパシー持つのは分かるけどな」
だからって材木座は懐き過ぎである。
ああそれと、件のようなことを言う教師にはぜひとも五分おきに何かの角に足の小指をぶつける呪いをかけてやりたい。
俺達ボッチと組んで愛想笑いしてくれる奴なんて希少種で、大半はあからさまに眉ひそめやがるからね。しまいには「げっ……」なんて言うやつまでいやがるしな! 佐藤絶許!
好きでボッチやっている俺でもそういう反応は心に刺さるだよ。本当。
「そ、そうなんだ。うん、なんで懐かれたのかは解ったよ。……じゃあさ、アレって何?」
「何って、一応人間なんだが……」
え、もしかしてお前には別の
「や、そうじゃなくて……私が言ってるのはあの動きとか、言ってることが舞台の人みたいに大げさなのが意味わかんなくてさ……正直キモい」
そう言って材木座を見る由比ヶ浜の目には言葉とは裏腹に嫌悪はなく、自分の理解外の者に対する困惑が見える。
大方キモいと言う言葉も、適切な言葉が思い浮かばないからこそ出てしまうのだろう。……うん、そうに決まっている。じゃなきゃ俺のぼーっとした顔と材木座の言動が同レベルってことになっちゃうからね。というかだ―――
「由比ヶ浜の周りには中二病っていなかったのか?」
「ちゅーに?」
俺の問いかけに首を傾げて聞き返してくる由比ヶ浜。どうやら中二病を知らないらしい。
「中二病って言うのは、自意識やコンプレックスとかそういうものが溢れて妄想が肥大したり、反社会的なことに憧れたりとか、そういう自分は特別だって思っちまう思春期の子供にありがちな麻疹みたいなもんだ」
主な例で「俺に近づくなっ! クッ、右手の、封印がッ!」とか、楽器できないのにバンド組んでみたくなったりとか、自分を前世語りだしたりとか色々だ。あ、封印の場所は目でも可で、その場合はカラコンが必需品である。
「……つまりビョーキなの?」
「いや、医学的な病気ではない」
「う~?」
由比ヶ浜は俺の説明に益々首を傾げてしまった。うん、ちょっと難しかったねごめんね。
「材木座の場合、簡単に言えば"最強の自分"を想像して演じてるってだけだ。基本無害だから適当に流してればいい」
「へぇ~」
あまり理解できていないながらも頷いてくれたのでよしとする。うざいだけで無害だって分かれば充分だからな。……絡まれる俺は実害こうむってますけどね。
「……二人とも話はすんだかしら? 材木座君の要件が分かったから話したいのだけれど」
と、由比ヶ浜に材木座がどういう生体の生物か説明を終えたところ、材木座の相手をしていた雪ノ下から声がかかった。どうやら質疑応答が終わったらしい。
視線をそちらに向けると、真っ白に燃え尽き椅子の背もたれにもたれ掛かったまま天上を見上げて口からエクトプラズムを吐き出す材木座がいた。おお、材木座よ。死んでしまうとは情けない。
◇
その後、雪ノ下から聞いた材木座の依頼は自作小説を読んで、感想を聞かせてほしいというものであった。
何でもどこかの新人賞に送るラノベを書いたのだが、それを読んでくれる奴がいないので奉仕部に持ち込んだということらしい。
正直、面倒なのでどこかのサイトに乗せてそこで感想もらえよと言ったのだが、「我、多分死ぬぞ」と雪ノ下とのおはな死で瀕死の重傷(精神)となった材木座に言われてしまった。うん、オーバーキル確実だな。
そういうわけで依頼を受けることになった俺たちは材木座から原稿を預かり、家に持ち帰って読むことになった。なったのだが―――
「おはようお兄ちゃん。もう、遅いよ! って、ど、どうしたの? 目というか顔がモザイク必須になってるけど……」
早朝、リビングに来て早々小町から盛大に引かれてしまった。だがそれも仕方がない。顔を洗うために見た鏡の向こうには、控えめにいってバッドトリップした顔のやつがいたと言えばこの反応も納得である。
「……いや、ちょっと拷問あけなもんで」
「なに意味わかんないこと言ってるの?」
小町はそういうがそれ以外に例える方法がないんです。材木座の小説はもう一つの拷問道具と言っても過言ではないほどであったのだから仕方がない。
「うーん……小町、今日は先に行くね。多分お兄ちゃんに送ってもらったら職質待ったなしだと思うから」
「だろうな。つーかそうしてもらえると助かる」
体力的に小町を荷台に乗せるのは無理だし、警察に見つかったら誘拐犯として誤認逮捕待った無しだからな。……駄目だ。もう、茶化す気力もない。
「じゃあ、小町行くから。洗い物よろしくね」
「おぉ。気ぃ付けてなぁ」
用意してくれた朝食をモソモソと食べながら小町を見送り、洗い物を終えた後に学校休みたいと心の中で呪詛のように唱えながら身支度を整え家を出発、学校までの道のりをいつもより気持ちゆっくりと進んだ。
◇
「あぁ、やべぇ。完全に遅刻だよこれ。……って、一時限目現国じゃねえか」
自転車を駐輪スペースに止めて、昇降口にたどり着いたところでチャイム音が鳴った。しかも今日の授業表を思い出して刑の執行が確定した。オワタ。
もうこのまま一時限目ふけようかとも思ったが、それはフラグだと思いなおし今ならまだお小言で終わるかもと淡い期待を胸に足を踏み出す。
「……あっ」
と同時に段差に引っかかってバランスを崩す。受け身を取ろうにも、徹夜明けのために体の動きがぎこちなく受け身が取れそうにない。ちょ、顔はやめてっ!
「おごッ!?」
倒れて顔面激突―――とはならず、倒れる途中で首が閉まって息が詰まった。どうやら誰かに襟を掴まれたらしい。し、死ね。
「ちょっと、大丈夫?」
息苦しい中、後ろからかかる声に相手が女だと分かったが、今はそんな事よりも酸素さんが大事である。体勢を立て直した俺は襟を掴む手をタップして放すよう要求すると、相手も俺の様子に気付いたのか手を放してくれた。
「ゴホ、ゴホっ……」
「あーっと、ごめん」
「……い、いや、大丈夫だ」
せき込む俺に気まずげに謝る相手に手を振って顔を向ける。
「っ……」
顔を向けた相手、青みがかった髪をポニーテールにした女子は俺の顔を見たとたんに一歩後ろに下がった。しょうがないとは言え、流石にその反応は傷つきますのよ?
「あ、あんた大丈夫なの? 何かリストラされたサラリーマン並みに顔色悪いんだけど」
それは暗に自殺寸前だって言いたいんですかね?
「問題ない。ちょっと寝不足なだけだ」
「ちょっとどころじゃないと思うんだけど……まあ、大丈夫ならあたしは行くけど、無理そうなら保健室に行ったほうがいいよ」
やだ、優しさが身に沁みちゃう。
颯爽と立ち去るポニテ女子の優しさに少し癒された。誰だか知らんが惚れてまうやろ~!
自分も疲れた顔しているのに気づかいしてくれた優しきポニテ女子を見送った俺は、多少軽くなった足取りで教室に向かうのだった。今なら平塚先生のお突き合い(ただし突くのは片方のみ)にも耐えられる自信がある!
……ポニテ女子、クラスメイトだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
予想以上に長くなったため材木座くん回が終わらなかった……
次回で終わらせられるとは思いますです。
では、また次回でお会いしましょう。