原作やってる時「てめぇ……何ちみっこに手を出してんだコラ……」と思っていました(笑)
なので、牙狼の名言とも言える言葉を空ちゃんに送ります。
空と名月の越後の後継者を決める戦の準備が着々と進んでいく中、流牙は越後の街で買い物をしていた。
「やっぱり土地柄によって食材は違うな」
流牙は珍しく食材の買い物をしていた。
美空から生活のためにお金を少し貰っており、それで米や野菜などの食材を買っていた。
「こんなもんかな?流石にこの世界にはない食材もあるからな……」
野菜は時代と共に作られて普及してきたものや観賞用だったものが食べられるようになったりする。
流牙が今から作るものはこの国にはないものがほとんどなので代用品を使うことにする。
「結菜も暇みたいだし、一緒に作ってみるか」
食材が入った籠を手に流牙は宿に向かった。
その食材で試行錯誤を繰り返しながら結菜と一緒に流牙の大好物を作るのだった。
その夜……流牙は小さな包みを持って春日山城へ向かった。
人に会わないようにしながら隠れるようにして向かった先は……。
「こんばんわ」
「流牙様!?」
「おおっ!流牙殿!?」
戦のための夜遅くまで事務作業をしている空と愛菜だった。
「はい、陣中見舞いの差し入れ。遅くまで作業をしていたからお腹すいたでしょ?」
「これは……何ですか?」
「どや……?見たことない食べ物ものですな」
それは薄く焼かれた白い生地に細く刻んだ野菜が包まれた食べ物だった。
「これはケバブで俺の大好物なんだ。まあD・リンゴのに比べたらそんなに美味しくないけどね」
ケバブとは、ピタパンを半分に切った袋状の中に牛肉と玉ねぎとトマトなどの野菜は入れ、様々なソースをトッピングしたものである。
本来ならピタパンという中が空洞の小麦のパンで作られるが、流牙はピタパンの作り方がわからないので代用として米粉を使ったクレープ生地を作った。
そして、具材の野菜は猪肉を炙ったものと越後の地元の野菜、ソースの代わりには味噌、更に卵と油と酢を混ぜて作った特製マヨネーズでD・リンゴのケバブとは程遠いがこの時代の食材で出来た『戦国ケバブ』を完成させた。
「確か先日の宴の時に話してくれた流牙様の仲間のおじいさんが作っているものでしたよね?」
「妙な形をしておりますが、香ばしい香りが……じゅるり」
「ははは、よほどお腹空いているみたいだね。ケバブはそのままかぶりついて食べる物なんだ。ここには俺たちしかいないから遠慮なく食べて」
「は、はい。それじゃあ……いただきます」
「いただきます!」
空と愛菜は小さな口をできるだけ大きく開けてケバブにかぶりつく。
地元の野菜や味噌を使っているので食べなれた味が口の中に広がるが、クレープ生地やマヨネーズなど初めて食べる食感や味に二人の舌が踊り、驚きと同時に美味しさで頬が緩んだ。
「美味しい……!」
「これは味わったことのないものですぞ!」
「良かった、気に入ってもらえて」
そうしてケバブは二人のお腹の中に納まり、夜食が終わると愛菜が淹れたお茶を片手に一息をつく。
「けばぶ……これはかなりの美味でござったぞ。是非とも母上に食べて頂きたいですぞ!」
「私も美空お姉様に食べさせてあげたいな」
「そうだな。明日にでもまた作って美空たちに食べさせてやるか」
美空たちも精神的にかなり疲れているだろうからと流牙は明日も結菜と共にケバブ作りをしようと思っていると、空は湯呑みを置いて立ち上がる。
「……よしっ、休憩お終いです」
「仕事の続き?」
「はい。もう少しで一区切りですから、そこまでやってしまおうかと」
「頑張ってるんだな……」
「いえ、私なんてまだまだで……ですが、負けていられませんから。きっと、今大変な思いをしているのは私だけじゃなくて……名月ちゃんも頑張ってるはずですから」
そう言い切った空の言葉には、普段の優しげな彼女からは考えられない力強さが篭っていた。
「流牙様……私、名月ちゃんのこと、好きなんです」
「へぇ……」
「生まれ故郷を……関東を離れて大変じゃないはずがないのに、いつも笑顔で自信満々で……そんな明るい性格が少し憧れで……越後のこともきっとすごく真剣に考えてくれていて。今はこうして戦うことになってしまっていますけど、そんな名月ちゃんのことが、私、大好きなんです」
流牙は空も名月の事を思っていると知り、心の中で安心した。
そして、空は一度目を瞑り、何かを決意するように一呼吸。
「けど……だけど、この戦いは私が勝ちます。大好きだから、大好きだけど……私のことを応援して、支えてくれるみんなの為にも、私が勝ちます。それがきっと、まっすぐにぶつかることになる名月ちゃんに、私が出来ることだと思いますから」
「……そうか」
空が心に決めた大将としての覚悟。
空が勝った時、先日聞いた名月の答えと同じように将として迎え、共に越後の未来を作っていくだろう。
流牙は空の覚悟と想いを聞き、名月の時とはまた違ったエールを送る。
「空ちゃん、君は自分が傷つくより他人が傷つく事を恐れるほどとても優しい。その優しさは戦いには向かないが、それが君の大きな力になる。そして……」
流牙は空の頭をしっかりと撫で、互いの額が合わさりそうなほどまで顔を近づけた。
「強くなれ」
「強、く……?」
「美空を越える……誰よりも優しくて強い、越後を導く最高の当主になるんだ」
それは師であり、父のような存在だった符礼法師から何度も伝えられた『強くなれ』の言葉。
憎しみながらもその言葉を受け止め、誰にも負けない強い黄金騎士へと成長することが出来た。
流牙は越後の未来を背負う空に強くなって欲しいと願ってこの言葉を送った。
「流牙様……はいっ!」
空は強く頷き、流牙……黄金騎士ガロのように越後の希望になれるよう、強くなろうと心に強く誓った。
「どやっ!空様にはこの愛菜がおります!名月殿にも負けませぬぞ、どーん!!」
「ありがとう、愛菜」
「そうだな。愛菜も……強くなれ。お母さんの秋子さん以上に素晴らしく、空を支える守護者にな」
「どやっ!必ず、強くなって空様をお守りし、黄金騎士のように光り輝く立派な守護者となりますぞ!」
愛菜の頭も撫で、空と同じようにその言葉を送り、愛菜も元気よくそれに応えた。
越後を愛する小さな星々たちの思いを聞いた流牙はそれが未来に続く希望の光になると信じて城を後にした。
☆
ある日、流牙は外を歩いていると籠を担いだ行商人とぶつかった。
流牙は慌ててばら撒いてしまった野菜を籠に移すと、行商人が流牙に書状を渡した。
その行商人は美空からの使いの軒猿で書状には今夜毘沙門堂で二人だけで会いたいと言う内容が書かれていた。
流牙は日が沈む時間になると暗闇に紛れて春日山城の奥にある毘沙門堂へ向かった。
「失礼するよ」
「良かった……来てくれたのね、流牙」
中には美空が待っており、待ちくたびれたように立ち上がる。
「聞きたいことはわかってるよ。両陣営の様子だろ?」
「流石ね。書状に書いた私の思いを読み取ったのね?」
「まあね。とりあえず客観的に話すよ」
流牙は現時点での大まかな情勢を説明した。
両陣営とも将兵の切り崩しや、情報収集に力を注いでおり、今の所大きな衝突は起きていない。
しかし、名月の陣営には、明確に北条の力が働いている。
「ふん、そうでしょうね。越後に下心を抱く相模の連中にとって、名月はまたとない神輿だもの」
「俺さ……魔戒騎士だから人間社会には干渉してはならないけど、今回のことで北条の当主に少しだけ苛立ってるんだ」
「氏康に……?」
「空ちゃんと名月ちゃん、二人の気持ちを聞いたんだ。二人共、互いの事を大好きだと思っている。だけど、こんな形で争うことになったからさ……」
「そう……でも、よくある戦の形だわ」
「それは分かってる。でも、二人の想いを聞いたから余計にさ……」
相変わらず優しい流牙の思いに美空は苦笑いを浮かべた。
「流牙……あなたの優しさは理解しているわ。でも、その優しさはいつかあなたの身が滅ぶ事になるかもしれないわ。覚えておきなさい」
「……分かった。でも、俺は一人じゃない。いつも一緒にいるザルバに頼れる大切な仲間たちがいる。俺を想ってくれる誰かがいる限り、俺は大丈夫だ」
「私はこういう立場だから、何も言えないけれど……もしもの時、あの娘たちのこと、よらしくね」
「ああ……」
空と名月、越後の後継者として争うことになってしまったが憎み合っておらず、殺そうなどとは微塵も思っていない。
しかし、名月の姉……朧率いる北条が何をするか分からない。
考えたくはないが戦に乗じて空を亡き者にする可能性がある。
流牙は戦には参加しないが、空に何かあっては今後の同盟に大きな影響を与えるかもしれない。
流牙はもしもの時には空と愛菜を救出するつもりだ。
あくまで同盟のためだと、自分に言い聞かせながら……。
「ね、ねぇ、流牙……」
「ん?」
「実は最近噂になっているけど、空や名月と仲良さそうね……?」
「そうだけど、それが?」
「あなた……空と名月に手を出してないでしょうね?」
美空は腕を組んで堂々としたように尋ねるが、顔は赤くなっており、流牙はその問いに思考が止まりかけた。
「…………はぁ?何で俺が空ちゃんと名月ちゃんを??」
「ね、念の為に聞いているの。あの娘たちの親なんだから、若い男が側にいれば、気になるの当然でしょ?」
「そんなことするわけないって。もしそんな小さい子を虐めるような男だったら莉杏に銃を乱射された後に馬乗りにされて拳でボコボコにされるよ……」
「り、莉杏って過激なのね……」
「うん……俺もたまに暴走するけど、莉杏もかなり暴走する……」
「ふーん、似た者同士ね。同じ一族だからかしら?」
「さぁね……ただ、たまに来る過激な発言だけはやめて欲しいけど」
「過激な発言?」
「例えば……口づけをしたいだの、抱きしめて欲しいだの、子供を作りたいだの……」
とんでもない暴露に美空の顔は更に赤く染まった。
「ぶっ!?ちょっ、まっ!流牙!あなた!?」
「あー、誤解するなよ。俺は莉杏にまだそういう事はしてないから」
「だだだだって!莉杏はあなたの一番大切な人なんでしょ!!?」
「そうだけど、何ていうかな……莉杏は俺を支えてくれる大切な相棒で、家族みたいな存在だからそんな気持ちにはならなかったんだ」
無人島で十年間も修行していたためか、『そう言うこと』には無関心というか全くと言っていいほど関わらなかった。
そんな流牙に美空はズバッと鋭いツッコミを入れた。
「あんたらは熟年夫婦か」
「あはは、そうかもね。まあいずれは子供は欲しいけど……」
魔戒騎士の義務……特に黄金騎士の称号を継ぐ流牙は鎧の継承者として自身の血を継いだ男子を騎士として育てなければならない。
「流牙……その言葉を流牙隊のみんなの前で口を滑らせないほうが良いわよ……修羅場になるわ」
美空は想像する……流牙を巡って己の武や知、そしてお家流を駆使して争う女同士の激しい戦いを……。
「うん、とんでもなく恐ろしいほどの修羅場になるわね……」
「やばい……想像しただけでも恐ろしすぎるよ……」
思わず二人の背筋が凍るほどの想像をしてしまった。
「と、とにかく……色々両陣営の事を知れて良かったわ、ありがとう」
「どういたしまして。そう言えば、戦の時って美空たちは城の中で待機するんだよね?」
「そうよ。本音は近くで見守りたいけど、それが出来ないのよ。だから城で待っていて随時兵が戦況を知らせてくるのよ」
「やっぱりか……ねえ、美空」
「……何?」
流牙は珍しく何かを企むような笑みを浮かべた。
「戦の日に俺とデート……俺と一緒に出掛けないか?」
「…………へ?」
流牙の突然のデートの申し出に美空は頭の中が真っ白になった。
そしてこれが数日後の春日山城に大混乱を引き起こすこととなるのだった。
.
目指す場所は同じ頂き。
二つの星は自らが輝くために激突する。
愛する国の未来へと繋がると信じて。
次回『星 〜Stars〜』
煌めく星の光に暗雲が近づく。
.