牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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現状で流牙の嫁上位は久遠、結菜、一葉の三人ですね。
まあ原作を知っている方はこの後の展開で久遠の出番が一気に減りますが・・・・・・。
それからもうすぐ戦国恋姫屈指のツンデレキャラが登場しますので楽しみに待っていてください。


『夜 〜Night〜』

「出陣する!」

 

凛とした久遠の声が響き、小谷の馬出に待機していた連合軍の面々が一斉に動き出す。

 

目指すは越前国の中心、朝倉義景が鎮座する一乗谷。

 

流牙達はまず一乗谷に近い賎ヶ岳で本陣を設営し、最後の軍議を開く。

 

一乗谷を落とす為には各所に築かれた城を叩かねばならず、各軍勢で攻める。

 

織田衆一の強さを誇る森一家は流牙隊の護衛となり、後日一乗谷には一番乗りに向かわせる事で納得した。

 

流牙や一葉は自分達も前に出ようとしたが、二人は森一家に匹敵する強力な切り札となる存在なので後ろで待機し、ここぞという時に前に出るという事でひとまずは納得した。

 

軍議を終え、翌朝には陣幕を払い、連合軍は最初に敦賀城を攻めに入る。

 

しかし……敦賀城に攻めるのは良かったがあまりにもあっけなく落城してしまった。

 

鬼が抵抗してなく流牙とザルバもあまりにもおかし過ぎると疑問を抱いていると久遠からの早馬で松平衆と合流し、このまま一乗谷を目指すと言う知らせが入った。

 

流牙は詩乃と一葉を連れて久遠の元へ向かった。

 

「久遠、このまま一乗谷に行くのか?」

 

「うむ。そのつもりだ」

 

「もう少し慎重に行動しないか?相手は魔獣……正体が不明な鬼だ、慎重に行動した方が良いと思うけど……」

 

「確かにな。だが……金柑がな」

 

「今の鬼と互角以上に戦えるからといって、満月時の鬼達と武士が互角に戦えるかどうか分からない。そして、満月はもうすぐ……となれば、早々に一乗谷に乗り込み、決着をつけるにしかず」

 

『なるほどな。確かに古の時代から月は悪しき存在に力を与えてきた。お嬢ちゃんが焦っていた理由はそれか』

 

「……分かった。そういう事なら確かにすぐにでも一乗谷に向かわないとな」

 

エーリカの焦っていた理由をようやく理解し、流牙も納得した。

 

「久遠。分かっていると思うけど、経験者として言っておく。焦るな、常に冷静に考えるんだ」

 

「ああ……」

 

久遠と言葉を交わし、流牙は流牙隊へと戻っていった。

 

連合軍は決戦の地である一乗谷近くまで進行し、そこで最後の休みを取る為に野営の準備をする。

 

 

すっかり夜となり、暗き闇の夜空には星と月が綺麗に輝いていた。

 

流牙隊の野営の準備を終え、一息をつくと流牙は久遠の元に行く。

 

「久遠」

 

「流牙?どうしたのだ?」

 

「ちょっと良いかな?」

 

「あ、ああ!大丈夫だ!」

 

緊張感の漂う中、久遠は流牙に会えて笑みを浮かべ静かになれる森の奥で二人だけで話をする。

 

「いよいよだな……」

 

「うむ……」

 

久遠は不安な表情を浮かべている。

 

戦なら何度も経験しているがそれは人同士の戦、これは鬼との未知なる大戦……緊張しない方が無理な話だ。

 

「大丈夫だ。久遠は一人じゃない、みんながいるからさ」

 

「そうだな……それに、お前がいるからな」

 

「君の希望になるって約束したからね。あと……忙しくて渡せなかったけど、久遠。君にこれを渡すよ」

 

流牙は魔法衣のポケットから己の尾を噛んで環となった龍のような形をした銀色の指輪を取り出した。

 

「指輪……?流牙、これは……?」

 

『これは俺様の片割れで作った指輪だ』

 

「ザルバの片割れだと?」

 

『そいつは俺の半身みたいなものだ。お嬢ちゃんが指にはめて付けていれば、何処にいるか分かる』

 

「久遠とは離れて戦うから、せめて何処にいるか知っておきたかったからさ」

 

「何と……ザルバはそんなこともできるのだな。分かった、喜んで受け取ろう。そ、そうだ……流牙」

 

「何?」

 

「そ、その……せっかくだから左手の薬指にはめてくれないか?金柑が南蛮の夫婦は結婚した証に……左手の薬指に指輪をはめると聞いたからな!」

 

時折見せる乙女チックな久遠に流牙は可愛いなと思いながら、普段はあまり素直になれない久遠のその思いに応える。

 

「……ああ、分かったよ。手袋を外して」

 

「う、うむ……」

 

久遠はいつも付けている白い手袋を外し、左手を流牙に向ける。

 

流牙はザルバの半身の指輪を手に取り、ゆっくりと久遠の左手の薬指にはめた。

 

銀色の指輪は月明かりで仄かに輝き、久遠は嬉しくて満面の笑みを浮かべ、薬指にはめた指輪を撫でながら自分の顔の近くへ持って行った。

 

「ところで……そこにいる奥さん二人は何をしているのかな?」

 

「なっ!?」

 

草陰から久遠の可愛らしい妻としての姿を見てニヤニヤしていたのは久遠の妻の結菜と同じ正妻の一葉だった。

 

「うふふ、久遠〜。見ちゃったわよ〜、可愛いおねだりなんかしちゃって♪」

 

「流石は第一正妻。やはり侮れんな。よし、余も今度はそのような感じに流牙に甘えよう」

 

「なっ、なっ、ななな……!」

 

久遠は二人に見られて顔を真っ赤にしていた。

 

「それにしても随分いいものを久遠に贈ったわね。ザルバ、私たちの分の指輪も作ってよ」

 

「そうじゃ!久遠だけズルいではないか!」

 

『無茶言うな。あの指輪は片割れで俺様と繋がっているんだ。一個までしか作れないぞ』

 

「あらそうなの?仕方ないわね、ザルバに無理をさせるわけにもいかないわね。まあ私にはこれがあるから良いわ」

 

結菜は堺で流牙に買ってもらった蝶の簪に触れながら言うと、一葉は羨ましそうに久遠のと結菜を睨みつける。

 

「ううっ……久遠と結菜は流牙から何度も贈り物を貰っておるから良いかもしれないが、余はまだ一度も貰ったこと無いのだぞ!余は正妻なのにズルいでは無いか!」

 

「そう言われてもな……」

 

まるで幼い子供のようにくずりだす一葉に流牙は苦笑を浮かべ、このままだと明日の戦いに支障が出てしまう。

 

どうやって一葉の機嫌を取るか考えていると、流牙はふと自分の胸元にあるペンダントが目に映った。

 

それは古代の鏃を思わせる荒々しいデザインに中央には赤い宝石が埋め込まれたペンダントで流牙の身につける魔導具の一つ、『月の欠片』だった。

 

流牙は仕方ないなと思いながらチェーンの留め具を外し、そのまま月の欠片のペンダントを一葉の首にかけた。

 

「えっ……?流牙、これは……?」

 

胸元に夜空の月光の如く輝いている月の欠片のペンダントに今までくずっていた一葉は一瞬にしてキョトンとなり、流牙を見つめる。

 

「俺のお気に入りの首飾り。魔戒法師が作った魔導具の一つで邪気を払う力があるんだ。それを一葉にあげるから、機嫌を直して」

 

「え、あ、その……良いのか?これを貰っても……?」

 

まさか本当に贈り物を貰えるとは思わず、しかも流牙がいつも身につけている物なので流石の一葉も慌ててしまう。

 

「大丈夫。邪気を払う魔導具はもう一つあるから」

 

そう言って流牙は魔法衣の左胸につけてある羅号の形見の牙に触れながら見せる。

 

「一葉には本当に世話になっているからそのお礼の気持ちだ。まあ細かい事を考えないで夫から妻の贈り物ってことで受け取ってよ」

 

「流牙……うむ!そう言うことなら喜んで頂こう!一生大切にするからな!!」

 

一葉も満面の笑みを浮かべて月の欠片に触れ、上機嫌となった。

 

そんな一葉の姿を見て久遠と結菜は流牙をジト目で睨みつける。

 

「なるほど……これか……」

 

「そうよ、これが流牙の言葉の力よ……」

 

「ん?二人共どうしたの?」

 

「「この天下御免の女誑し!」」

 

「ええっ!?」

 

天下御免の女誑しの力を目の当たりにした二人の厳しい言葉に驚く流牙。

 

その後、一葉は上機嫌で流牙隊の陣に戻り、胸元に輝く月の欠片を見たひよ子達が大騒ぎしたのは言うまでもなかった。

 

ちなみに……久遠の左手薬指にはめたザルバの片割れで作った指輪は見た目はとても良いのだが……その元がザルバの口から吐かれた気色の悪い不気味な虫みたいなものから作られたことを久遠が知る由がなかった。

 

 

明日の為に久遠達が寝静まった頃……。

 

「ふっ!はっ!はあっ!」

 

流牙は暗闇の中、一人で牙狼剣を振るっていた。

 

空を切り裂き、木の葉や草をなびかせる風を生む刃が煌めく。

 

そこに一つの影が近づいて流牙にはなしかける。

 

「良い太刀筋だが、剣に迷いが見えるぞ」

 

「……桐琴さん……」

 

酒の入った瓢箪を手に桐琴が近づいて来た。

 

木に腰掛けながら酒を飲んで流牙と話をする。

 

「小僧、明日は鬼との戦だぞ?そんな不安な心では足元をすくわれるぞ?」

 

「……嫌な予感がするんだ。やらなきゃならないのは分かってるけど……」

 

「天の世界で何かあったのか?」

 

「……少し前に俺はある国を裏から支配していた邪悪な者達を倒すために仲間達とすぐにでも決着をつけようとした。だけど、その戦いで俺は目を失い、仲間は俺を守るために腕を切り落とす程の大怪我を負ったんだ……」

 

あの時の大敗があったからこそ流牙達は守りし者として、魔戒騎士として心身共に強くなった。

 

しかし今回の戦いはあの時の光景が思い浮かぶほどの嫌な予感が何度も頭をよぎってしまう。

 

「確か、お前の母がその潰された目を直したらしいな。そして、最後は異形になりかけた母をお前が介錯をしたと……」

 

流牙と波奏の親子の絆の話はどこから漏れたのか織田家で既に広がっていた。

 

「それが母さんの願いだったから……」

 

「人を斬ったのはそれが初めてか……?」

 

「だけど……俺はもう人を斬ることはない」

 

ホラーの返り血を浴びた血に染まりし者は切らなければならない。

 

しかし、流牙は僅かな可能性がある限りその人間を助けるために行動するだろう。

 

「それがお前の覚悟か?」

 

「そうだ。守りし者としての俺の覚悟だ」

 

「ふっ……全くお前はよく出来た奴だよ。お前のような息子を持てて母は喜んでいるだろうな」

 

「そう思っててくれたらいいんだけどね」

 

波奏の事を思い出しながら流牙は牙狼剣を鞘に納め、桐琴の隣に座る。

 

「桐琴さん、明日はよろしくね」

 

「おうよ、小僧も気張れよ」

 

「ああ……そう言えばお互い忙しくて忘れていたけど、決闘はどうする?何なら今やる?」

 

随分前に約束した流牙と桐琴の決闘の約束。

 

流牙は牙狼剣を見せながら尋ねると、桐琴はニヤリと笑みを浮かべるが、瓢箪の酒をグイッと飲んだ。

 

「ぷはぁ……いや、止めておく。決闘はこの戦が終わって落ち着いてからにしよう。楽しみは後に取っておくさ」

 

「そう?ごめんね、先延ばしになっちゃって」

 

「構わないさ。お前も私もそう簡単に死ぬような奴じゃないし、どうせならお前の心から不安が無くなった心身共に全力の状態で戦いたいからな」

 

「ああ。全力で相手をするよ」

 

同じ武人同士として小さく微笑み、拳をぶつけ合い、再び約束を交わす。

 

「さあ、小僧はとっとと寝ろ。切り札が寝不足で全力を出せないなんて笑えないからな」

 

「そうする。ありがとう、桐琴さん。おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

流牙と桐琴と別れ、それぞれの自分の陣に戻った。

 

桐琴は流牙との血肉が沸き起こる決闘を思い浮かべながら残りの酒を飲み干した。

 

 

日の本を救う為の久遠達による大戦。

 

しかし、この戦いが流牙と久遠の運命を大きく左右する分岐点となるとは今の彼らは誰も予想が出来なかった。

 

悲しき別れと新たな出会い。

 

禍々しき力と光り輝く奇跡の力。

 

流牙に更なる試練が待ち受け、幾重にも重なる縁が新たな時代への一歩となる。

 

 

 




それは仕掛けられた罠だった。

息を殺して身を潜める。

光と言う名の獲物を狙う。

次回『罠 〜Trap〜』

その標的は彼だった。



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