書いていて思ったんですが、流牙と性格的に相性がいいのは一葉ちゃんかなと思いました。
公式でフリーダム扱いで旅に出たいと言っていたので流浪の旅をする流牙といいコンビになれそうな気がします。
結菜と一葉、二人とも流牙のいい相棒になれそうです。
二条館に到着すると、門の前で幽が流牙達を出迎えてくれていた。
「流牙殿!良くぞお越し下さいましたか!」
「幽、久しぶりだな。一葉と双葉ちゃんは?」
「ご無事です。ただいま寝所に在らせますが、いつもと同じであるならば、まだご就寝されてはいないでしょうな」
「すぐに会わせてくれ。話したいことがあるんだ」
「承知しました」
「あ、でもその前に……ひよ、ころ、梅! 三人は二条館の防衛を頼む。敵が来るとしたら……」
「南。桂川の方から来るでしょうな」
「なら、三人は南を重点的に警戒していてくれ」
「「「「はいっ!」」」」
流牙は結菜と詩乃とエーリカと鞠を連れ、幽の先導の元、二条館の奥に進む。
「夜分に失礼致します。織田より先駆けとして流牙殿が来てくれました。お通ししてもよろしいですか?」
「許す」
「はっ」
部屋に入ると中には一葉と双葉が座っていた。
「流牙か、久しいな」
「一葉もな。双葉ちゃんも久しぶり」
「はい。お久しぶりでございます。流牙様」
「久しぶりだから色々話したいことがあるけどそれは後だ。まずは状況整理と情報交換だ」
一葉達の方では流牙達が京を去った後は平穏な日々が続いていたが、その平穏は破れ、緊迫感が漂うようになった。
久遠と密約を交わした一葉は、将来に備えて二条館の塀や堀、門の改修を命じた。
しかし、それがどうやら三好・松永の徒を不用意に刺激してしまったらしい。
織田上洛の噂を確認するとほぼ同時に三好・松永の徒との狼狽は、極限まで張り詰めてしまった。
そして、流牙達は観音寺城でのこと、先ほどあった松永弾正……白百合が織田に降った事を話した。
白百合の話をしたら三人はとてつもなく驚いていた。
ザルバが調べた服用すれば鬼となる鬼の魔薬は恐らく三好衆三千人に使われ、こちらに向かっているはず。
「三好衆が鬼となって余らの頸を取りに来るということか。……ゾッとせんな」
「お姉様!そのような戯言を仰っている場合ではありません!」
「落ち着け双葉。狼狽えても仕方あるまい。……相手が三好衆であれ、鬼であれ、何の力もない事実は変わらんのだ。やることは一つ。久遠が来るまで二条館を守り切る。……ひいては双葉、そちを守り、幕府の礎を残すことこそ、余のすべきたった一つのことだ。例え誰が相手であろうと、この刀に賭けて。命ある限り余はそちを守る」
「お姉様……」
日の本の未来のため、そして愛する妹のために命をかけて戦うと言う一葉。
そんな一葉に流牙はため息をついて一葉に近づく。
「……一葉」
「ん?流牙、どうしーー」
バチーン!
「痛っ!?」
流牙は他人より額の開いた一葉に思いっきりデコピンを食らわせた。
現将軍にデコピンを食らわせた流牙に一同は驚愕していた。
「な、何をするのだ!流牙!」
「一葉が馬鹿な事を言っているからちょっとお仕置き」
「ば、馬鹿な事とは何じゃ!」
「大切な人を守るために命をかけるのは戦う者として一つの心だと思う。だけど、もしそれで本当に命を落としたら残された双葉ちゃんはどうなる?」
「そ、それは……」
「一葉は一人で戦うわけじゃない……俺たちがいる」
「流牙……」
「俺たち流牙隊、そして……黄金騎士ガロの俺が必ず一葉と双葉ちゃんを守る。だから、軽々しく命をかけて戦うなんて言うな。戦うなら、必ず生き残って大切な人の元に戻る……そのぐらいの覚悟で戦ってくれ」
流牙の何があっても生き残るという約束を持つ流牙の言葉にはとても重みがあった。
「……分かった。流石は魔獣を相手に戦ってきた男だ。言葉の重みは違うな」
一葉は流牙の思いを理解し、そのまま二条館防衛について打ち合わせをしようとした時。
(敵軍発見。三階菱に五つ釘抜きの城門を纏った異形の者どもが、たった今、桂川を渡りました)
(数は?)
(およそ三千)
(分かった。引き続き監視を頼む。それから、無茶だけはするな)
(承知)
小波から句伝無量で知らせが来て敵が近づいている事を皆に伝えた。
「流牙、流牙隊と二条館の兵、合計三百を貴様に任せよう」
「二条館の兵を……?分かった。流牙隊で仕切らせてもらうよ。詩乃、指揮権を任せる」
「御意。……しかし丸投げですねぇ」
「適材適所だよ。俺は魔獣相手に戦うこと専門だからさ。頼んだよ」
「……御意。我が際を振るうに足る戦場。ほして流牙様よりの激昂を受けた今、神仏とさえ戦ってご覧に入れましょう」
「俺たちの命、預ける」
「はっ。この竹中半兵衛。必ずや、あなた様の望むべき未来を、そして希望を勝ち取ってみせます」
「頼りにしている。よし、俺たちはみんなと合流して戦線を構築しよう。エーリカ、行こう」
「了解です」
「……待て流牙。余も行く」
そう言いながら一葉が刀を手に取って立ち上がる。
「……一葉」
「心配するな、余はそう簡単に死ぬつもりはない。双葉を守るため、双葉と一緒にいるために戦うのだ」
先程とは違う、一葉は大切な者を守り、未来を歩くために戦う覚悟をした目をしていた。
「……分かった。俺の背中を預けても良いか?」
「うむ。そなたに余の背中を任せよう」
一葉は流牙たちと共に戦う事となり、部屋を出て臨戦態勢を整える。
最後に流牙が部屋を出ようとすると、双葉に魔法衣をギュッと握られて止められた。
「流牙様……」
「ん?双葉ちゃん、どうしたんだ?」
流牙は腰を下ろし、双葉と視線を合わせながら尋ねる。
「あの……どうか、お姉様を……お守りください……」
姉を思う妹の切なる願いに流牙は優しい笑みを浮かべて双葉の頭を撫でる。
「ああ。必ず君のお姉さん、一葉を守るよ。だから、願っていてくれ」
「願い……?」
「俺たち魔戒騎士の鎧は人々の願いが力を与えるんだ。だから、双葉ちゃんは願っていてくれ。一葉の無事と俺たちの勝利を」
「……はい!流牙様、御武運を!」
「ありがとう、行ってくる!」
双葉の想いを胸に流牙は鬼と化した三好との戦いに向かった。
☆
篝火が煌々と夜空を照らす、二条館の広い庭。
そこに流牙隊、明智衆、そして足利幕府の兵たちが雑然と固まっていた。
そんな兵たちは、流牙や一葉の姿を見て、次々に集まってくる。
兵たちの顔を一人一人、見つめながら、端然とした姿で前に進み出た一葉が、力強く言葉を放った。
「皆の者!たった今、報せが入り、三好衆が二条館に迫っていることが判明した!しかも三好の衆は南蛮の呪法を頼り、人たることを辞め鬼と化しておる!日の本の侍として、何と恥ずべき行いか!そのような恥ずべき者どもに、幕府が負けてなるものか!異形の鬼となった敵の数は、多い。……だが!余は皆を、一騎当千の荒武者たちだと信じておる!各々、九重の天に向かって旗を掲げよ!誇り高き侍、源氏の白龍旗を!足利の二つ引き両を!足利将軍義輝、幕府の勇者たちの力を借りて逆臣三好を討つ!」
「……みんな、戦いの前に今度は俺の世界の話を聞いてくれ!」
一葉に続き、流牙が力強く言葉を放った。
「大体の人は知っていると思うが、俺はこの世界とは異なる天の世界から来た!しかしその天の世界もこの世界と同じように鬼とよく似た邪悪なる異形……魔獣の脅威に晒されている!」
流牙は自分のいた世界のことを話し始め、天の世界でも鬼と似た存在の脅威に晒されていると知って皆は戸惑いを隠せない。
「古の時代より、そんな魔獣の魔の手から人間を守るために戦ってきた勇者たちがいる。それが、俺たち魔戒騎士だ!」
流牙は魔法衣から牙狼剣を取り出してそのまま鞘から抜き、数々のホラーと鬼を切り倒して来たその白銀の刃を見せる。
「魔戒騎士は『守りし者』と呼ばれている。魔獣から人間を守るため、己の命を賭して最後まで戦い続ける者達の事だ。そして、この場には俺以外にも守りし者達はいる!……それはこの場にいるみんなだ!!」
流牙は牙狼剣を掲げ、円を描いてみんなの眼の前でガロの鎧を召喚してその身に纏う。
流牙と行動を共にしてきた詩乃達にとっては見慣れた光景だが、まだ一度しか目にしてない一葉や梅、そして初めてその目にする足軽達はその美しくも気高い黄金の鎧に目を奪われた。
そして、流牙は大剣となった牙狼剣を天に掲げるように見せながらここに宣言した。
「魔戒騎士最強にして最高位の称号、黄金騎士ガロがここにいる者達を俺の同志……『守りし者』として認める事とする!!!共に戦おう!!この日の本を鬼共から救い、誰もが安心して暮らせる平和の世を作るために!!!」
それは身分を関係ない流牙と心を同じくし、戦う者として部下ではなく仲間として認められたとあって足軽達は武器を掲げて歓喜の叫びを上げた。
「そして、もう一つ!ここにおる道外流牙を、たった今より余の馬廻衆の頭に任じる。皆も知っての通り、織田上総介の夫だ。そしてこの戦いを終えた後、流牙は余の良人になる男である。皆、心して下知に従え!」
「応っ!」
「ええっ!?お、良人!?一葉、一体どういうことだ!?」
一葉からまさかの爆弾発言を投下され、流牙は耳を疑った。
「ふふっ……それは久遠に聞くのだな」
「そうそう。久遠からちゃんと聞くのよ。だから今は頭の片隅に置いておきなさい」
既に事情を知っている結菜の悪戯っ子の笑みに流牙はガロの鎧の中で大混乱して大いに悩ませた。
とりあえず詩乃の指示で南を中心に防衛の準備をし、それぞれが自分の持ち場につく中、流牙は結菜と鞠、そして先程妻になると宣言した一葉がいた。
「一葉……さっきの事、本気なの?」
「余がそんな冗談を言うと思ったか?本気も本気だ。この戦いを無事に生き抜いたならば、余が妻となり、双葉が側室になるという件が、久遠との間で決しておる」
「ふ、双葉ちゃんも側室に!!?」
「うむ。しっかりと可愛がってやってくれ」
「いやいやいや!もう何が何だか分からなくなってきているんだけど!」
戦いの前だというのに流牙はこれまで以上に頭が大混乱している。
『これで黄金騎士の後継者不足は解消されそうだな……』
カバーをされているザルバの呟きに深い重みが込められていた。
先代の黄金騎士は子供がいなかったのか、はたまた別の理由があったのか不明だが流牙が受け継ぐまでガロの鎧は英霊の塔で待ち続けていた。
なので、次の世代の黄金騎士を継承する者は必ずいなければならない。
また何十年とガロの継承者が不在というわけにはいかないのだ。
流牙の血を継ぐ男子……その子が生まれればザルバも一安心するのだ。
「まあ何にしても、俺の妻になるっていうなら……これだけは言うよ。一葉、絶対に死ぬな」
いまいち一葉が妻という自覚はないが、生きていて欲しいという願いからそう言う。
「当然じゃ。余の力の全てをそなたに貸そう。主様よ」
「ぬ、主様?」
「なんだ。良人のことをこう呼ぶのではないのか?幽がそう言っていたのだが……」
「幽……何を吹き込んでるんだよ。一葉、出来れば名前で呼んで欲しいな……ダメかな?」
「そうか、仕方ない……ではこれまでと同じく流牙と呼ばせてもらおう」
「ああ、頼むよ。一葉」
流牙は一葉の頭を撫で、初めて男に頭を撫でられた一葉は嬉しそうに微笑む。
そして流牙はこれから始まる戦いに向け、軽く作戦会議を開く。
「さて。前線は俺と一葉と鞠、そして……結菜だな」
「ええ。大丈夫。常に雷閃胡蝶を放っているから。それに、流牙と私の『連携技』を使うのに近くにいた方が良いでしょう?」
「連携技……?何じゃそれは?」
「偶然というか、結菜の思いつきで考えた必殺技みたいなものかな?」
それは観音寺城を落とした後、暇を持て余していた流牙に結菜と話をしていた時に思いついたものだった。
試しにそれを近くの山でそれを実践したら見事に成功し、流牙の新たな技として追加されたのだった。
「という事だから前線の前衛は俺と一葉。後衛は結菜と鞠だ。鞠、結菜の事を頼んだよ」
「任せるの!結菜は鞠が守るの!」
「頼りにしているわ、鞠ちゃん」
「うんなの!」
前衛は無双の剣を扱う流牙と一葉、後衛は中距離攻撃の雷閃胡蝶を放つ結菜と素早い動きで敵を翻弄する鞠。
即席だが今の現状では最高の布陣と言える。
そして、南の方から鏑矢が上がった……いよいよ鬼との戦いが始まる。
流牙は近くにいる小波を呼んで指示を出す。
「小波!」
「お側に」
「小波、君の力がこの戦いを左右する要だだ。俺たちの言葉の繋ぎ、任せたよ」
「承知」
「それから、余力があれば結菜と一葉と鞠を守ってくれ」
「しかし……その場合、自分はご主人様を守ることが出来ません……」
「心配するな。俺は黄金騎士だ。鬼に遅れをとるほどやわじゃないよ。小波にしか頼めないんだ……頼む」
「……承知しました。ですが、あの……ご主人様も、どうかご無事で」
「ありがとう……小波も絶対に無事に帰って来い。そしたらまたみんなで楽しくご飯を食べよう」
「自分如きが、また参加してもよろしいのですが……?」
「当たり前だろ。小波は俺たちの大切な仲間だ。だから、戦いが終わったらみんなで楽しく過ごそう。な?」
「はい……!では、行って参ります、ご主人様」
「行ってらっしゃい。でも、無理だけはするな。もしもの時は生きることを考えるんだ」
「……承知!」
小波は姿を消し、流牙は大きく深呼吸をすると守りし者……魔戒騎士として心を切り替えて真剣な表情をする。
「みんな、行こう!」
「一刻の間、死力を振るうのみ!」
「鞠の宗三左文字が火を噴くのー!」
「なら私は、雷閃胡蝶で闇を照らすわ!」
流牙、一葉、鞠、結菜は互いを見て頷き、南門へ向かった。
流牙隊+αと相対するは鬼へと身を堕とした三好衆三千……久遠たちが来るまでの一刻に及ぶ二条館の攻防戦が幕を開けた。
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闇との壮絶なる戦い。
勇者たちは己が魂を燃やし、力を奮い立たせる。
少女は未来の為、愛する者の為に魂に刻まれし刃を掲げる。
次回『刀 〜Soul〜』
果てなき夢幻の世界より魂の輝きが現れる。
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