さて、お次は本格的にアオギリ面々との交戦が開始されます。
カネキきゅんはヤモリによって絶賛拷問中。
1000−7しちゃってます。
花園が広がっていた。
血を零したような赤。
雪のような白。
数え切れない色彩が、我こそはと自己主張を繰り返し、風に揺られ、こうべを垂れて。醜悪な腐臭をあたりに撒き散らしている。
──ああ、酷い匂いだ。
グズグズに溶けた死肉と、ドロドロに固まった血液の匂いだ。
しかし、思わず顔を顰めて何度辺りを見回しても、そこには澄み渡る空と、風に波打つ花弁の海しか見えない。
ここが天国だろうか。
いいや、違う。
ここが。
こここそが地獄なのだ。
ふと、俺は全身に滲むような痛みを感じた。
普段から愛用している訓練着──黒のぴったりとしたインナーは、土埃がこびり付きボロボロに傷んでいる。
右手には、銘も解らない刀型のクインケ。
知らぬ間に、俺は花々を押し潰して仰向けに倒れて──いや、倒されていた。
「立て、八幡」
赤い花々を踏み分けて、冷たい声が近付いて来た。軋む体に鞭打って、なんとか膝立ちで起き上がる。膝がガクガクと震え、額から滝のように汗が伝うのを感じながら──力無く正面に向き直ると。
そこには、死神が立っていた。
白いロングコート──零番隊の戦闘着。青白い肌を、更に上から塗り潰すような白髪。
赤い花弁の上に佇むその姿は、背筋も凍るような白さをより浮き彫りにする。
レンズの奥から肌を突き刺さす冷ややかな視線が、俺をじっと見つめていた。
「お前にはまだ先があるはずだ……本来ならきっと、俺とだって張り合える」
有馬さんは右手を掲げ、黒い金属光沢を放つ重厚なランス──『IXA』を、俺の喉元に突き付けた。見上げる有馬さんの表情は、逆光を背負って暗い影に覆われている。
「……そんなの、無理ですよ……俺じゃあ、勝てるわけ無い、じゃないすか」
波のように押し寄せてくる疲労感が、口の回転を鈍らせる。今にも、倒れてしまいそうだ。
「気付いていないだけだ。お前は無意識に、お前自身の内側に在る『願望』を叶えようとしている」
──有馬さんが、何を言おうとしているのか、理解が出来ない。願望、がなんだと言うのだ。
俺にそんなものはない。
家族が死んで、本当の意味での孤独を知った俺には、力が必要だったのだ。一人でも生きていける、他人は無くとも、手足があれば自分は生きていけるのだと。
ただ、それだけが証明したかった。
だから俺はこうして、喰種を殺す。
そのための牙を磨く。
だから俺は──
「俺は……──」
「違うな」
俺の声を制して、有馬さんがIXAを振るう。
僅かに、風を切る音がして。
丸みを帯びたランスの側面が、俺のガラ空きだった左の脇腹を捉えた。
「あッ……が…⁉︎」
肋骨が悲鳴を上げ、俺の体は横薙ぎに花の海に投げ出される。鈍い痛みがジクジクと皮膚の下で暴れるのを感じながら、俺は思わず脇腹を抱えてうずくまった。
「以前から思っていた……八幡、お前は戦う相手によって『加減』を変えている」
「……なに……を………」
出鱈目だ。
俺はそんなことをしていたつもりは無い。
当の本人が言っているのだから、それが答えだろう。潰れた肺から、掠れた隙間風のような呼吸で何かを言い返そうと試みはするも、言語化することすら叶わない。
「お前自身が、強いと認めた敵との戦い。その時々で、死の兆しが見える瀬戸際まで敢えて手を抜いているだろう」
草を踏みしだく音が聞こえる。
頬に押し付けられた、ひんやりとした泥の地面が、妙に心地よい。
ふと、土の隙間から立ち上ってくる血肉の香り。
死の匂いがする。
ああ、なんて甘美な感覚だろうか。
──このまま、ずっと眠っていられたなら。
──このまま、ずっと。
「──それがお前の『願望』か?」
有馬さんの声が聞こえた。
瞬間、右脳と左脳の間を縫うようなスパークが、身体中を駆け巡る。人形のように神経を手放し始めていた俺の指先が、何故かぴくりと震えた。
「戦いの中で死にたいのか」
「……違います」
「生きることは辛いか」
「違います」
「家族に会いたいのか」
「違う」
草葉に覆われた視界に、有馬さんの足元だけが現れた。それでも俺の体は、起き上がることもままならない。
「なんて声をかけて欲しいんだ……お前は常に許しを請っているだけ。見えない何者かに、『もう諦めてしまえ』と言って欲しいだけだ」
「……違う!」
大声を上げて自分を叱咤してから、クインケを持たない左手で草葉の根本を握り込み、今度こそ立ち上がろうと全身に力を充填させていく。四肢が軋み、首がゆっくりと持ち上がるが、それでもやはり体を起こすまでには至らない。
「それがお前の答えだ」
瞬間。
俺のこめかみを、冷たい鉄の塊が貫いた。
視界が揺れて、カツンと甲高い音が花園に響き渡る。側頭部から、トロトロと脳漿が垂れていくのが分かった。
「寝たければ寝ていればいい。お前はただの死にたがり……『偽物』だ、ヒキガヤ ハチマン」
瞳が閉じられていく。
世界が閉じられていく。
夢が、閉じられていく。
流れる脳漿と一緒に。
やがて俺の体は、ドロドロに腐って、花園の土に吸い込まれていった。
目を覚ますと、眠りに就く前と寸分違わぬ光景が広がっていた。CCGが手配した、大規模作戦用装甲車の後部。壁際に取り付けられていた座席の一番端から、小さく開けられた窓の外を見ると、そこには住宅街の合間を縫う狭い車道がある。
「随分と長い間眠っていたのね。……あまり緊張感が無いようだと、死ぬわよ」
起き抜けにキツめの言葉を投げかけてくる雪ノ下は、俺の向かい側の座席に座っていた。その隣には、筋肉質で真面目そうなデカ男──亜門鋼太郎。さらにその隣には、亜門さんとは対照的に小柄な姿、可愛らしい女の子にも見紛う白髪の少年──鈴屋什造。
「確かに、気を張り過ぎるのも困るが、こうもリラックスされるのは、あまり感心しないな」
俺の隣には、スタイリッシュな美人教師こと平塚静先生。俺を含めて全員が、動きやすい素材のインナーにボディアーマー、肩当、関節を守るプロテクター──同じ装備の戦闘服を着用している。
ふと、俺を凝視している亜門さん、鈴屋さん達と目が合った。
「……なんすか」
やめて下さい、怖いんですけど。ぼっちは他人の視線に敏感なんですよ。
俺が内心めちゃくちゃ動揺しながらも、精一杯強めの口調で二人にガンを飛ばし返すと、斜向かいの亜門さんが、太く凛々しい眉毛をきゅっと寄せて口を開いた。
「いや、やはり例の異名は伊達ではないというか……お前は大物だな、比企谷」
そんな微妙に困った顔されても、全然褒められてる気がしないッス。
「緊張しているのか、亜門」
平塚先生が、亜門さんの表情に何かを感じたのか、訝しげに顔を歪める。
「正直に言うと、少し。アオギリの樹には、強力な喰種が多数所属しています。どんな化け物が現れるか、予測ができません」
真面目か。
やっぱり顔付き通りの性格してんなこの人。
真戸さんとの付き合いで、度々飯に同席してくれてるから、多少のことは分かるが──この人、きっと俺の苦手なタイプの人間だ。
「気にする必要はないと思います、亜門さん。比企谷君は良い意味でも悪い意味でも、他の人とは違うところがありますから」
俄かに表情を固くして、明らかな緊張の跡が伺える亜門さんに対し、いつも通り冷たく平坦な声色の雪ノ下。つーか『悪い意味でも』の時にあからさまに声大きくしただろお前。
ぶっ飛ばしちゃうよ?
「……う〜〜ん」
つんとそっぽを向いている雪ノ下を正面から睨んでいると、あらぬ方向から声が聞こえた。
鈴屋さんが、人形のようにあどけない顔を悩ましげに顰めていた。話で聞くに、鈴屋さんは今年で十九歳、見た目から予測しにくいが、俺よりも二つ年上だ。だから一応、普段から敬語を使うようにしているのだが──いかんせん本人が一癖も二癖もある人だから、未だ接し方に正解が見つからない。
つまり、この人も苦手なタイプだ。
「……八幡は、家族とか誰かが死んだりしてます?」
なんでもないような顔で、鈴屋さんが突然聞いてきた。その瞳は大きくてくりくりとしているのに、不思議と光を反射しない泥のように澱んでいる。
いきなり何を言い出すんだコイツは。プライバシーって言葉知らんのか。もっとも俺の場合、家族の話はそれこそタブー中のタブーだが。
「おい鈴屋、あまりそういうことを……──」
「なんでそんなコト聞くんですか?」
止めに入ろうとしてくれた亜門さんを制して、俺は鈴屋さんに質問を返した。
正直、人の敏感な話題にズケズケと踏み込もうとしてくることに苛立ちもしたが、何故俺の家族のことが分かったのか、単純に興味もある。
ピリッと張り詰めた車内の雰囲気に、雪ノ下と平塚先生も俺を気遣う視線を送ってきたが、そんな心配は無用だ。
「いえ、別に。ただなんとなくわかるです。多分、僕と八幡は似てますから」
にっこりと無邪気な笑みを浮かべて、鈴屋さんはそう答えた。──え、それだけ?
そんなよく分からない感覚で、俺のことを言い当てたのか。いや、この場合言い当てたとまではいかないのかもしれないが。
──確かに、目の澱み具合は似ているかもな。
「……それはともかく鈴屋、お前パートナーの篠原特等とは何か話してこなかったか?」
静かに視線を交差させる俺と鈴屋さんを見かねてか、平塚先生は呆れた顔で小さくため息をついたかと思うと、鈴屋さんに声をかけた。
そういや、今回の作戦には篠原特等を始めとする四人もの特等捜査官──CCGの実働職員の中では最も位の高い、喰種退治のスペシャリスト達だ──が参加していると言う。かなりデカイ仕事になりそうだとは思っていたが、それは布陣を確認すると火を見るよりも明らかであった。
『不屈の篠原』の異名を持つ正統派実力者──篠原さんに、人間ながら喰種と渡り合う驚異の身体能力の持ち主──黒磐さん、CCG創設以来最強の女と名高い女性捜査官──平塚先生。丸手さんはまぁ、主に情報伝達や作戦指揮などの後方支援が主だから、正直実力のほどはわからん。
「ええ、なんだかよくわかりませんケド、困ったら平塚サンに色々聞けって言われましたです」
「…………」
──鈴屋さん、そんな屈託のない笑顔浮かべてないで。平塚先生が下向いたまま動かなくなっちゃったじゃないですか。この人も貧乏くじ引かされたなぁ、まさか人格者に見える篠原さんからこんな搦め手に掛けられるとは。
やっぱり基本的に運が悪いから、男運も悪い。回り回って婚期の方もおくれ───────
「黙れ比企谷、殺すぞ」
「ナチュラルに人の心を読まないでください」
うわぁ怖いよぉ。
俯きがちの平塚先生が、殺意の篭った横目で俺を睨んでいた。なんなの、超能力か何かを使えたりするの?
先生の人智を超えた謎の力に薄ら寒さを感じて、雪ノ下と亜門さんの方にフォローを求めて視線を移動させると──そこにはすでに、我関せずのスタイルを決めて、壁の小窓から外の景色を眺める二人がいた。この薄情者共めが。
それから暫く、車内には暫く会話が無くなった。
五分か、十分か。
装甲車が車道を走ると、車内にも不快な上下運動が生まれる。せっかく眠ることで集中力を上げようと思っていたのに、これでは目的地に到着するまでで車酔いになってしまう。
もう一眠りしようと、俺が腕を組み座席に深く座り直そうとした時。
「おっと、全員下車する準備をしろ。──着いたぞ」
車がピタリと動きを止めて、エンジン音が完全に消失した。平塚先生が、小窓の外から景色を確認して、おもむろに座席から立ち上がる。右手には、席の下に収納していたシックな外装のアタッシュケース。先生専用のクインケだろう。
先生に続いて、亜門さんが凛と表情を正し、大きく息を吐いて勢い良く立ち上がり、鈴屋さんはそれまでと一転して、邪悪な笑みを浮かべながら懐からナイフ型のクインケを取り出した。
「私たちも行きましょう」
俺の正面で、雪ノ下も両手にアタッシュケースを掲げて立ち上がり、きびきびと下車の準備を始めた。
「……分かってるよ」
かく言う俺も、のそっと座席から腰を上げて、足元から二つのケースを取り出した。
──真戸さんの告別式から、早数ヶ月。
俺たちは、十一区特別作戦に、晴れて正式に選出されることとなった。
十二月二十日午前零時。
ここに、戦いの火蓋は切って落とされるのだった。
年越しも間近の寒空は、ビックリするほど冷え込んでいた。
見果てる空は黒く塗り潰されて。
どこからともなく潮の匂いが漂っている。
「……で、俺らの出番はいつなワケ」
遠くから、断続的に銃声が聞こえる。俺たちがいる場所からは、古く手入れの行き届いていない一本の雑木道を経てかなり向こうなので、直接その音源を確認することはできない。
恐らく戦闘班が本格的に動き出していることは確かだが、こうして俺たちクインケ班が遠巻きに車内で待機を命じられているということは、未だ正面玄関を突破出来ていない、ということだろう。
俺たちが運ばれた先は、十一区の外れ。
湾岸近くに建てられ、今は既に廃墟となった団地跡だった。潮風でボロボロの外装と、生活感のしない雰囲気は、喰種の根城以前にオバケがいてもおかしくはない、そんな感じだ。
かれこれ三十分。
俺と雪ノ下は、ケースを両手に抱えたまま、ただただじっと招集を待っていた。
「確かに、そろそろ焦れったいわね……私が行って、ちゃっちゃと本隊を突入させましょうか」
「それもいいかも知れんが、どうせ丸手さんにここまで押し戻されて終わるぞ。あの人色々と意地が悪いからな」
「……それはそうだけれど」
「だろ。無駄な労力は使わないのが吉だと思うぞ。何せ、これからが本番なんだからよ」
「……」
特に返す言葉が見つからなかったのか。雪ノ下は難しい顔をして、ケースを足元に置いてから両の腕を組んだ。何やら、現状を打破する方策を頭の中で探っているようだ。
かく言う俺も、いい加減イライラしているところだ。前衛は何やってんだよ、さっきから前を忙しなく行き交う隊員達の話を盗み聞くに、喰種共が重火器を使ってベランダの物陰から狙撃してくる──とか。赫子も使ってこない喰種とか、俺たちがCCGを名乗る意味も分からなくなってくるってモンだ。
じっと黙り込む雪ノ下を傍目に、俺も装甲車の降り口に腰を掛け、足を組んで空を見上げる。もう数日でクリスマスだなーとか、自分とは縁遠いにもほどがあるコトをそこはかとなく思ったりしながら、あまり現状にストレスを感じないよう気を紛らわす。
それでも、刻々と過ぎていくばかりの時間が、やがて俺の焦燥にジリジリと火をつけた。
「……なぁ雪ノ下、俺らだけで団地の裏に回り込んで行かな……──」
腰を上げて、雪ノ下の方に歩み寄ろうとしたその時。
俺と雪ノ下の間を、鈴屋さんがのそのそと通過した。わたわたと慣れない手つきで押し運んでいるのは、どこから持ってきたのかも分からない、えらく高級そうな大型自動二輪車。
「ちょっと間を失礼しますね〜お二人さん」
ニコニコと相変わらず無邪気な笑みを浮かべて、今まさに銃撃戦が起きている団地前門への雑木道を行く鈴屋さん。
「……え、ちょ、ちょ、ちょっとどこ行くんすか」
「ほえ?」
俺の声に振り向いたその顔と仕草は、やはり男とは思えないほどあどけなく、小綺麗で線の細い、小悪魔めいた魅力をどこかに感じさせる。──いや、そうじゃなくて。
「いや、今行っても多分無駄ですよ。丸手さんが指示を出すまで待っとかないと」
そう、前々から聞いていたが、鈴屋さんは俺たちと同じく、元CCGアカデミーから特別昇進をした人間だ。それが指すのはつまり、『アカデミーを経ずとも即戦力として期待できる実力を、その当時持っていた』という事。昇進の時期的には、俺と雪ノ下よりも少し前だから、年齢的にも職場的にも先輩ということになるのだが。
いかんせん、彼は風評が悪い。
やれ、捜査中に一般人に暴行を働いたとか。
やれ、独断専行で他班に負傷者を出したとか。
最近では、昔喰種に飼われていたなんて俄かには信じがたい噂もある。
まぁ噂の真偽はともかく、俺が今まで、たったの数時間にも満たない間だが鈴屋さんを見てきた分には、それらの噂が立っても仕方がない振る舞いを彼がしている、とどうしても考えてしまう。火のないところに煙は立たないと言うが、果たして彼の言動は信頼できるのかどうか。
──亜門さんも平塚先生も、既に前衛近くでの待機命令を出されている。今この場で鈴屋さんを制することが出来るのは、俺と雪ノ下だけだ。
慎重に、行かなくては。
「ともかく、なんだかよくわからないことだけは……──」
「僕は、他人のことなんかどうでもいいです」
なんとか思いとどまらせようと試みた俺に対して、食い気味に鈴屋さんが口を開いた。
「今、そこら辺を走ってる下っ端さん達はきっと、あまり戦いの役に立ちません。強い敵さんには束になってもかなわないです」
俺と雪ノ下の体が、固まる。
まだよく分からないが、今目の前にいるこの白髪の少年は、『何かおかしなことを言い始めている』ことは分かる。じわじわと表情を険しくしていく雪ノ下を目線で制して、俺は鈴屋さんの話に耳を傾けた。
「だから僕が今考える『他人』は、『強い人達』だけです。みんななら──八幡や雪乃なら、きっと僕が何をしても、どうにでもなるでショ?」
そう言って鈴屋さんは、目を大きくひん剥いて笑う。それまでとは違う、どこか狂気的な笑み。真っ黒に濁った瞳は、空の月明かりに透かされて、どこまでも続く奈落への穴のようにも見えた。
「……鈴屋さん、あなた……」
雪ノ下が、鈴屋さんを睨む。
確かにお前の気持ちもわかるぞ、雪ノ下。
全く、この人は俺たちのこと舐めてんのか、それとも信用してるのか。
「よーし! さっそく雪乃や八幡に負けないくらい、喰種を殺しますよ〜〜‼︎」
一際大きい声を上げると、鈴屋さんはそのままの勢いで、ぐんとバイクを押す力を強めて、颯爽と雑木道の向こうへと消えていった。──忙しないやっちゃなー。
つか結局あのバイクは誰のものだったのか。
「……何をするつもりなのかしらね」
それを見送る、訝しげな表情の雪ノ下と。
「……さぁな、想像も付かん」
完全に呆然としてしまった俺。
ただなんとなく、鈴屋さんが向かったからには、前線で何かしらの動きが起こる、そんな気がした。まさか彼がそのまま流れ弾の餌食になるとか、そんなことはあるまい。
──俺たちも、準備した方がいいかも知れない。俺は足元に置いておいた二つのアタッシュケースを、両手に一個ずつ抱え直した。
さぁて、何が起こるやら。
数秒後。
遠くから、大きなエンジン音と、一拍遅れて何が爆発する篭った音。
さらに一拍置いて、丸手さんのモノと思われる悲痛な慟哭と突撃命令が木霊してきた。
──なるほど。
アレ、丸手さんの私物か。
何はともあれ。
こうして俺たちの作戦は、ようやくここに開始されたのであった。
本当はもう少しボリューム多めにしたいんですけど、書き続けるとだんだんと辛くなって、筆が遅くなっちゃうんですよね。
なので基本的に毎話の引きは、私がこうだと思った適当なタイミングでブツ切りにしてしまってます。話数ごとに文字数の差が出てくるかもしれませんが、その時はごめんなさい。