ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
僕とブルススを助けてくれた二人は、ダブランダーに支配されてしまった王国を取り戻すのにも協力してくれるという。
なぜ外の世界の人間が僕らの事情を知っていて、国の問題まで手を貸してくれるのかを僕が尋ねるのは、当然の帰結だった。
詳しく答えてくれなかったが、どうやら彼らはある予言を元に様々な問題の解決を行なっているという。
その予言の中に僕等の国の騒乱を記した内容があり、それを止める者達が現れるはずなのだそうだ。
それがあなた達なのかと聞くと、本来はそうではないがその者達がいないので自分達がやらなければならないと行動しているのだという。
その話でブルススは、騒乱が起こった時に現れる救世主の予言が国に言い伝えで残っていることを話してくれた。
内容を聞くとハジメさん達も少しばかり驚いた様子だったが、彼らの予言と似通った部分があったのだろうか?
だが予言があったのだとしても、彼らには僕らを助ける理由はないはずだ。
僕達の国と彼らの国は繋がりが無いので迷惑をかける事はないと思ったが、ダブランダーの野望が世界征服だという事がわかりそうも言ってられなくなった。
ブルススの話ではダブランダーは古代兵器をついに復活させてしまったらしい。
そうだとすればダブランダーもそう遠くないうちに外の世界に侵攻してきてしまうかも知れない。
元から反対だったが、外の世界を見た僕にはたとえ古代兵器があったとしても世界征服が成功するとは思えない。
外の世界はとても広く、いろんな乗り物や便利な道具がたくさんあったし、空飛ぶ船の代わりだって外の世界にはいくらでも飛んでいた。
もし侵略をしても逆に返り討ちに遭ってしまうだろうが、外の世界に迷惑をかけてしまうことには違いない。
だからハジメさん達もダブランダーの企てを止めるために手伝ってくれるのかと尋ねたのだが、それもついででしかなのだという。
ではどうして助けてくれるのかとさらに尋ねると、ハジメさんは少し考えて、知ってしまった以上放っておけないと答えた。
それを聞いた時に僕は彼らに深い感謝を覚えた。
まったく関わり合いのない僕らの国の事で彼らの国に迷惑を掛けようとしているのに、なんて彼らは優しいのだろうと。
僕とブルススは改めて頭を下げてお礼を言うと、ハジメさんは困った様子を見せて頭を上げてくれと言ってきた。
困らせてしまったようだが、今の僕には頭を下げる事でしかお礼の姿勢を見せることは出来なかった。
もしダブランダーから国を取り戻せたら絶対お礼をすると念を押して、僕はこれからのことを彼らと話し合い始めた。
クンタック君達の協力はすぐに取り付けることが出来た。
彼らの国の問題なので手伝いを断る理由はなかったのだろうが、僕らが協力する理由が気にかかったようだ。
ぶっちゃけると劇場版で起こる事件だからだが、詳しく説明するとなるとややこしいので予言みたいなものだと誤魔化して説明した。
バウワンコでもドラえもん達が現れて国を救うという予言があったので思い付いた理由だったのだが、その後にブルススさんから聞かされたこの世界での予言で少しだけ驚いた。
原作との違いが、ドラえもん達から僕らに代わったことで起こる違いと、ぴったり一致していたのだ。
この予言についても調べたいと思ったが、調べたら調べたでややこしい結果になりそうな予感もする。
この手のどこから出てきたか解らない布石は、劇場版ではいくつかあったので気にしてもしょうがない気がする。
謎は謎のままでもいい場合があるという事にして、この事は放っておこう。
彼らを助ける理由だが、実際に聞かれてみると助ける理由はあまり思いつかないんだよな。
ダブランダーの世界征服の野望は、原作の記憶を道具で映像にして見直したら思い出したことだったりする。
世界に影響を与えるような話を重要視していて今回はあまり影響の出ない事件だと思っていたのだが、事件解決の行動に移ってから世界に影響の出る話だったことに気づいた。
つまり大魔境の一件は、最悪失敗しても世間に影響の出ない事件だと思ってた。
世間に影響の出ない事件だと思ってたから、最初は失敗しても大丈夫なようにと選んだのだが、実際は失敗すれば世間に影響の出る事件だったのだ。
準備段階で気づくことが出来たが、忘れていたこと自体が新たな懸念を抱くことになった。
なので、気づいた後に全員で映画の全作品鑑賞マラソンをすることになった。
覚えていたつもりでも忘れていたりすることは割とあったみたいだ。
話を戻すが彼らを助ける理由の原点は映画の作品だからだ。
ドラえもん達がいないことで世間に大きな影響を与えかねない事件を優先的に対処しなければいけないが、影響が出ない事件も思い入れのある話には違いない。
だからこそ放っておく気は起こらなくて、ドラえもん達の代わりに解決するつもりだった。
故に思い入れのある出来事だからというのが理由になってしまうのだが、その説明はドラえもんの話を知らない限り可笑しく聞こえてしまう。
なので困っているなら助けようといった善意の押し付けのような理由として答えたら、えらく恐縮されてしまい深々と頭を下げてお礼を言われてしまった。
伝えづらい理由を誤魔化したせいなのか、少しばかり後ろめたく感じてしまう。
彼らにとっては大事でも、僕にとっては大した事件ではないと思っていた認識の違いが原因かもしれない。
やることは変わらないだろうが、もうちょっと彼らの気持ちも考えて今回の一件に当たろうと思った。
話し合いが終わった後は、クンタック君とブルススさんにはゆっくり休んでもらった。
片方は空腹で彷徨い続け、片方は牢屋にずっと入れられていたのだ。
体調が万全とは思えなかったので、作戦実行は彼らの体調が十分に回復してからにしようと思った。
だが彼らは休んではいられないと直にでも行動を起こそうとした。
これも彼らとの認識の違いから来てるのだろうと思うが、何とか説得して一日だけでも休んでもらった。
こちらも確かにすぐにでも動けるが、さっきまで倒れてたクンタック君は流石に心配になるのだ。
それをそのまま伝えたら、また感謝とお礼の言葉を貰ってしまったので困ってしまう。
感謝されるようなことじゃないと思ってるから、心の底から感謝をしてくる姿勢が後ろめたく感じてしまうみたいなのだ。
そして一日休んでもらった後に作戦の決行に移る。
相談した結果だがこちらの考えた作戦にほぼ同意してくれた。
作戦は原作でドラえもん達がやったことと最終的には変わらない。
バウワンコの予言と同じように巨神像を動かしてダブランダーの勢力を纏めて倒すというものだ。
その為の下準備に原作では無かった事を行おうとしている。
「『バウワンコの民衆たちよ、僕の声が聞こえているでしょうか?
僕はバウワンコ108世の子、クンタック王子です。
ダブランダーは僕が病死したと発表したようですが僕は生きています』」
それはクンタック君の宣伝だ。
今バウワンコの国の民衆が集まる広場で拡声器を使って、クンタック君自身が生存をアピールしている。
原作では敵の兵士に見つかった事で相手に伝わったが、こちらは民衆にも伝わるようにあえて宣伝している。
クンタック君が生きていることを広める事で国民を安心させるための意図がある。
事件が終われば早いか遅いかの違いでしかないが、やっておいて損はない。
本来の目的は敵を巨神像の近くにまとめ上げさせるためだ。
巨神像を動かすという予言は相手も知っていたので、原作では巨神像の前に纏まっていた。
こうすれば確実に敵にも伝わって、原作のような展開に持ち込めると考えた。
「『ダブランダーは卑劣な手段で父と僕を排除し、国を手に入れたつもりでしょうが僕は戻ってきました。
国民の皆さん、もう心配はいりません。
僕はダブランダーを倒し国を取り戻します。
今夜、古き予言に従い巨神像を動かすことで国を救うことを約束します!』」
拡声器によって声が響き渡ると、反射して帰ってくる山彦のように民衆の歓声が聞こえてきた。
民衆の多くが歓声を上げるのはダブランダーの治世が人気がないからだろう。
ドラ丸の話では民衆に不安が広がっていたという話だし。
演説を続けていると敵の配下らしき兵士がこっちに向かってくるのが見えた。
そろそろ来るとは思っていたのでクンタック君に声をかける。
「敵の兵士が来た。
目的も果たしたしそろそろ逃げるよ」
「わかりました、ハジメさん。
『国民の皆さん、もう少しの辛抱です
それまでもう少し待っていてください』」
そこで演説を終えると僕はクンタック君に【透明マント】を渡す。
僕もこれで姿を隠しながら彼の隣に堂々と立っていた。
僕らの姿が見えなくなれば兵士達もすぐに僕等を見失い追ってこれなくなった。
そのまま人目の付かない場所まで移動したらどこでもドアで拠点に一度戻って夜になるのを待った。
「ドラ丸、ダブランダーたちの様子はどう?」
「予想通り、巨神像の前に待ち構えているでござる。
敵の兵器も巨神像までの道に配置されているでござるが、拙者達には無意味でござる」
ドラ丸はタイムテレビで敵の状況を確認している。
敵の兵器に関しては巨神像を動かすことで撃破するつもりなので、僕らが対応するのは巨神像の前で待ち構えている兵士達だけでいい。
「クンタック君、ブルススさん、準備はいいですね?」
「もちろんです」
「王子様と共に戦えるとは。 腕が鳴りますぞ」
クンタック君は軽装の鎧と剣を持って、反対にブルススさんは重装の鎧と大きな槍を持って万全の態勢で待っていた。
武器を用意したのは僕達だが、彼らの装備はひみつ道具のような機能はない頑丈なだけのものだ。
クンタック君は剣の名人らしいしブルススさんは親衛隊長だったそうだから素で強い。
「機械兵士たちの準備も問題ないね」
「問題無いでござる
拙者も早く戦いたくてうずうずしているでござる」
ドラ丸の後ろに整列している武装した戦闘用の機械兵士達。
僕の護衛と戦力を補う為に用意したロボットで、名刀電光丸と同じ機能を持った剣と相手を気絶させる【ショックスティック】の機能を持たせた槍を持っている。
ショックスティックは【原始生活セット】に入っている槍で日本誕生でドラえもん達が使っていた石槍だ。
これらの武器を使う機械の体の兵士なら、生身の兵士相手に負けることはないだろう。
ドラ丸も名刀電光丸を改造しまくった専用の刀が使えるからか張り切っている。
本物の刀のように人を斬ることも出来るし、逆に傷つけずに倒すこともできるようにしてある。
ドラ丸も身の危険がないうちは、本当に人を切り殺す事はないだろう。
巨神像の前に繋がるどこでもドアは既に準備してある。
直接中へ繋げるのもいいのだが、原作通りに敵を倒しながら進もうと思った。
せっかく戦闘準備をしているのだし。
「ドアを潜ったら敵の目の前だから、機械兵士達は片っ端から倒しまくれ。
その間に僕らは敵を押しのけながら巨神像の中へ」
最後の確認をすると、皆は頷いて肯定の意思を示す。
「じゃあ出発」
僕の合図とともにドラ丸が先陣を切ってどこでもドアを開けて飛び込んでいく。
それに続いて機械兵士達が全員飛び込んでいきブルススさん、クンタック君、最後に僕が飛び込んだ。
僕が最後に飛び込んだ時にはドラ丸と機械兵士達が既に敵の兵士に切りかかっていて場は騒然となっていた。
「な、なんだ貴様ら!?
いったいどこから現れた!!」
驚いたように叫んでいるのは巨神像の中に続く階段の前に陣取っているダブランダーだ。
「ダブランダー、お前の野望もここまでだ。
おとなしく観念しろ!」
「お、王子!? そうかお前たちの仲間か、途中の兵士たちは何をやっているのだ。
船と戦車を呼び戻せ!!」
クンタック君が降伏勧告をするが、それで従うようなら初めから彼を追い出したりはしない。
ダブランダーは途中の道に配置していた古代兵器を呼び戻すように伝令に伝える。
どこでもドアで直接ここまで来たから配置が無駄になったのは仕方のないことだ。
空間を飛び越えてくるとは彼も予想していなかっただろう。
「うわぁぁぁ、俺の腕がー!!」
「俺の、俺の足ー!!」
「首が、首が取れたー!!」
「「ぎゃああぁぁぁ!!お化け!?」」
戦いの中で一部奇妙な光景が浮かび上がっていた。
腕や足が切り落とされているのに血が出ている様子はなく、切り落とされた首を抱えてワタワタと走り回っている兵士。
ドラ丸の名付けた改造電光丸【猫又丸】の機能だ。
「今宵の猫又丸は切れ味が冴えわたっているでござるよ!!」
楽しそうに走り回り兵士達に血を出させずに切り刻んでいるドラ丸。
ドラ丸の猫又丸は名刀電光丸に別のひみつ道具の機能をいろいろ追加した改造ひみつ道具だ。
【ウルトラミキサー】というひみつ道具がある。
二つの物を合成して一つの物にするという機能を持っている。
合成する物は無機物でも生き物でもよくて、これを使って合成する事で複数のひみつ道具の機能を一つの武器に集約させた。
斬れても血が出る事も無く死なない機能は【チャンバラ刀】の機能だ。
他にも【なんでもカッター】というどんな大きな物でもスッパリ切断する道具の機能も合成してあったり、他にも刃物関係に役に立ちそうな機能も合成してある。
機能を使い分けるのに使用者のドラ丸の意思次第で簡単に出来るように、天才ヘルメットで改造調整をした魔改造ひみつ道具と言っていい品だ。
試し切りなどはしたことはあったが本番で使うのは初めてだ。
そのせいかドラ丸はかなりハイテンションで近くにいる兵士の体、武器、障害物にかかわらず斬りまくっている。
そろそろ先に進もうと思うので呼び戻すことにする。
「ドラ丸、そろそろ先に進むから戻ってきて」
「む、左様でござるか。
もう何人か斬りたかったのでござるが…」
「実際ケガ人はいないとはいえ発言が物騒だぞ」
こういう性格に作ってしまったのは僕達なのだが、もう少しTPOを弁えてもらいたい。
僕らに言えることではないので、実際には口にしないが…
呼びかけに落ち着いたドラ丸を引き連れて、巨神像の中に入るために入り口に繋がる階段を目指す。
そこに立ちふさがるように現れたのは、ブルススさんの代わりに親衛隊長になったサベールだった。
「ここは通さん!」
「王子様、ここは私めが引き受けますので、先にお進みください!
でやぁあっぁぁ!」
ブルススさんが大きな掛け声とともにサベールに突撃していく。
サベールがブルススさんに押しのけられた事で空いた道を、僕達は通り抜けていく。
巨神像の入り口を潜る所でドラ丸が立ち止まった。
「では、拙者もここで追っ手を抑えるでござる。
後は予定通り、殿達に任せるでござるよ」
「じゃあ頼むよドラ丸」
「ありがとうございますドラ丸さん」
追っ手をドラ丸に任せ、先に進むと赤い宝石のような石の付いた扉にたどりつく。
クンタック君は首にかけていたペンダントを赤い石に向けて掲げると、それがカギとなって扉が開いた。
そこから先は長々と続く階段。
大して鍛えていない僕は途中でバテそうになってしまう。
「大丈夫ですか、ハジメさん」
「だ、大丈夫だから…。 帰ったら少し体を鍛えよう」
のび太もここで同じようにバテていたので、自分の体力のなさが心配になる。
道具に頼れば解決する問題ではあるが、頼りすぎるのは不味いだろうと今回の反省点として覚えておこう。
残りの階段を気力で登り切ると巨神像の心臓部にたどり着く。
そこにはハート形の石碑が置かれていて、これを回すことで巨神像を動かす動力になる。
ただとても重いのでドラえもん達は全員掛かりで回していた。
僕とクンタック君だけではとても動かないだろうが、そこはひみつ道具を用意してある。
【ウルトラリング】は指輪型の道具で、これを嵌めるとすさまじい力を発揮するという道具だ。
似たような道具に【スーパー手ぶくろ】【パワー手ぶくろ】などの力を強くする類似品はたくさんあったが、今回はつけやすい指輪型のウルトラリングを選んだ。
「それじゃあ回すよ」
「おねがいします」
クンタック君に確認を取ってからウルトラリングをつけて石碑を動かすと、僕には大して重さを感じずに軽々と石碑は動いた。
ある程度回すと石碑は自動で回り始めて、力を加える必要は直ぐに無くなった。
車のエンジンのスターターみたいなものなのだろう。
動力が回って動かす準備は整った。
コントローラーはクンタック君の持つペンダントなので、後の操縦は彼に任せることにする。
そこから先は特に何事もなく事件は解決に進んだ。
復活させた古代兵器も動く巨神像が手当たり次第に叩き潰して相手の戦力を壊滅させた。
最後の空飛ぶ船が船首にドリルをはやして突撃してきたのは見てて圧巻だったが、巨神像がすぐに叩き潰した。
機械兵士にもドリルを装備させてみたくなる。
兵器が全滅すれば勝敗は決して、巨神像が安置されていた場所も戦いが終わっていた。
ダブランダーが逃げ出すのも知っていたので、古代兵器を全滅させてからどこでもドアで先回りをしてクンタック君が倒して決着を付けた。
それで大魔境の一件は無事に解決することになった。