ドラえもんのいないドラえもん ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~ 作:ルルイ
各地に散らばった主要以外の妖怪の掃討を終わらせたモビルソルジャー達を回収してから、ハジメ達はドラえもん達の動きを見守っていた。
接触後は大筋は変わらず、銀角との戦いに別のキャラクターの力を使えるようになったジャイアンとスネ夫が活躍して、だまし討ちでは無く倒してからヒーローマシンに回収された。
「ヒーローマシンに回収機能があるってことは、逃げ出す事を想定して作られているのか?
初めからキャラクターが出てこないようにすればいいのに」
そうハジメは思ったが、秘密道具にはそういった機能に欠陥がある事は多く、問題がある事は珍しくない。
品質の安全に五月蠅い現代の日本からは考えられない問題だらけに、未来の日本製ではないのではないかとハジメはちょっとズレた事を考えていた。
銀角を倒した隙に三蔵扮するしずかが攫われて、偵察に行っていたのび太はリンレイと遭遇してドラえもん達と合流した。
攫われた三蔵本人としずかを助けるために五人で火焔山に向かい、リンレイの案内で罠を潜り抜けて内部の城までたどり着くが、落とし穴に嵌ってドラえもん達は捕らえられてしまう。
ドラえもんが牛魔王に食べられそうになるピンチにハジメは大丈夫かと心配そうに見守るが、予定通りにドラミが現れて牛魔王の注意を引き付けている間に、リンレイがのび太達の縄を解いたことで戦いが始まる。
のび太、ドラえもん、ドラミが牛魔王の相手をし、ジャイアンたちが三蔵を逃がそうと城の外へ向かっていると羅刹女が立ちはだかってこちらでも戦いが始まる。
映画では羅刹女と配下の妖怪によって再度捕まってしまうが、ジャイアン達が別のキャラクターの力を使えることで善戦していた。
その間に牛魔王との戦いに決着が着くとハジメは思ったが、戦っているのび太の様子が映画と少し違っているようだった。
『ドラえもん! 早くヒーローマシンで牛魔王を回収してー!』
『ダメだ! 牛魔王にヒーローマシンをペシャンコにされちゃった。
こうなったら牛魔王を直接倒すしかない』
『そんなぁ! わあっ!』
『のび太君!』『のび太さん!』
牛魔王の攻撃に吹き飛ばされて、筋斗雲に乗っていたのび太は床に落っこちてしまう。
地面に落ちたのび太にドラえもんとドラミが駆け寄って安否を気遣う。
『大丈夫、のび太君!?』
『な、なんとか…』
『これは無理よ。 逃げましょう!』
フラフラののび太を左右から抱えて逃げ出そうとするドラえもんとドラミ。
それを当然のごとく、逃がそうとはしない牛魔王。
『逃がすか! 孫悟空覚悟!』
振るわれる巨大な剣にのび太達がピンチに陥る。
映画の流れからおそらくこのタイミングで、カウンターでのび太が如意棒を大きくして牛魔王を倒すのだとハジメは思った。
しかしのび太は牛魔王を見返しながら如意棒の先を向けることなく、咄嗟に身を守る為に受け止めようと横向きに構えていた。
当然、巨大な牛魔王を受け止める事など出来ず、ドラえもんとドラミが逃げようと動いたことで攻撃は外れるが、衝撃で三人とも吹き飛ばされて壁にぶつかった。
そのダメージは深刻そうで、誰も起き上がれる様子ではない。
ハジメもこれは映画の展開ではないと慌て始める。
「これは不味いぞ!」
「本当にピンチの様でござるな!」
『トドメだ、孫悟空!』
止めを刺すために再び巨大な剣を振りかざす牛魔王。
ヒーローマシンのゲームの中でなら負けてもゲームオーバーになるだけなのだろうが、現実世界に出て戦っては命の安全は誰も保証しないだろう。
正しく絶体絶命に、ハジメは即座に介入する事を決断する。
「ドラ丸! 時間を止めろ!」
「承知!」
念のため、直ぐに使えるように出していたウルトラストップウォッチをドラ丸が作動させた。
「ううぅ…のび太君、ドラミ…」
牛魔王の攻撃の衝撃で壁に叩きつけられたドラえもんが、顔を上げて二人の姿を探す。
二人も同じように壁に叩きつけられて動けなくなっているが、死んでいるわけではなく身じろぎをしている。
だが、牛魔王は攻撃の手を緩めることなく剣を振るおうとする。
「トドメだ、孫悟空!」
「や、やめろぉ!」
ドラえもんは必死に動こうとしてのび太を助けに行こうとするが、叩きつけられたダメージが酷くてろくに動くことが出来ない。
もう駄目だと両手で目を覆い隠して最悪の光景から目を逸らすが…
――キィン! ガッシャァン!――
剣をのび太に叩きつけられたのとはまるで違う金属音に、ドラえもんは覆い隠した手を退けて何が起こったのか確認した。
そこにはタケコプターで空を飛んでいる、昨日会ったドラ丸が刀を振るって牛魔王の剣を切断し、斬られた刃の部分が地面に落ちているのが目に入った。
先ほどの金属音は、斬られた音と刃が地面に落ちた音だった。
「な、なんだと!」
「殿! 今の内に三人をお願いするでござる」
「わかった!」
ハジメはのび太に駆け寄って容体を見ながら抱え上げると、倒れたままのドラえもんの所まで駆け寄ってくる。
「のび太君!? ハジメさん、のび太君は!?」
「死んではいないが、ロボットの君らと違って生身の人間だ。 頑丈ではない。
牛魔王は僕等で何とかするから、ドラえもんはお医者カバンで早くのび太君の容態を診てくれ。
動けそうにないなら、僕がやるがどうする」
「だ、大丈夫ですこれくらい!」
グググっと踏ん張って立ち上がるドラえもんは、痛みに耐えながらお医者カバンを出してのび太の治療を始める。
ハジメはのび太をドラえもんに預けると、同じように倒れているドラミも抱えてくる。
ドラミは壁に叩きつけられた衝撃で気を失っているようだった。
「それじゃあ、牛魔王を倒してくる」
「気をつけてください」
「わかってる」
ドラえもんはのび太の治療をしながらハジメを見送る。
切断されて使い物にならなくなった剣を捨てて、牛魔王はドラ丸に拳を振るって攻撃を続けていた。
ドラ丸は時間を稼ぐようにタケコプターで飛び回って回避を続けている。
「待たせたドラ丸!」
「なんてこと無いでござるよ殿。 止めを任せればよろしいのでござるな」
「すまないが足止め頼む」
映画では如意棒の攻撃で牛魔王を倒していた。
ヒーローマシンのゲームのキャラクターであるのなら、プレイヤーキャラクターである孫悟空の攻撃で倒す事には何か関連性があるかもしれない。
ゲーム外の手段で倒せば、他の妖怪の妖力が失われないといった予想外の事になるかもしれない。
なので可能な限り映画と同じ手段を用いようと、ハジメは孫悟空のキャラクターでニョイボウによって牛魔王を倒そうと思っていた。
「他愛ないでござるよ」
ドラ丸は難しい事ではないと、牛魔王の攻撃から避け続けていたところに猫又丸を抜いて攻撃に入る。
牛魔王のパンチに合わせて攻撃を掻い潜りつつ、チャンバラ刀の機能を使って両腕を切り落とした。
チャンバラ刀の機能を使ったのは、彼らの前で血生臭い事になるのは良くないとハジメが指示していたからだ。
事実、牛魔王の腕の切断面からは血は一切出ていない。
「俺の腕が!」
「今でござる、殿!」
「わかった!」
ハジメは如意棒の先を地面につけて、もう片方の先を牛魔王の腹に向けて狙いを定める。
混乱している牛魔王に向かって、即座に如意棒に命令を下した。
「如意棒、大きくなれ!」
一気に巨大化した如意棒は牛魔王の腹に突き刺さり城を貫いて外の壁面に激突した。
それにより牛魔王は力尽きて動かなくなる。
映画でのび太が倒した方法を確かに再現することが出来た。
「やったでござるな、殿」
「ドラ丸が手を貸してくれていたからな。 楽に如意棒を当てることが出来た。
それよりも早く彼らを連れて脱出しよう。
直ぐにでも噴火が始まりそうだ」
戦いの衝撃で火焔山が揺れており収まる気配がない。
「では、急ぐでござるよ」
「ああ」
のび太の治療をしているドラえもん達に直ぐに脱出する様に伝える。
のび太はとりあえず命に別状はなく、応急処置を終えてドラえもんが背負って先に外に向かったジャイアン達に合流する。
ジャイアン達が戦っていた羅刹女は、映画通り牛魔王が倒れた事で妖力を失ってマグマに落ちていったらしい。
全員が合流してからどこでもドアで外に出ると、その直後に火焔山は噴火して妖怪たちの本拠地は消え去った。
「ううん…」
「気が付いた、のび太君?」
「ここは?」
気が付いたのび太はあたりを見渡す。
周りは砂漠で遠くでは火焔山が噴火で噴煙を上げており、ジャイアン達が拾った芭蕉扇を扇いで火の勢いを静めている。
「火焔山の外の砂漠だよ。 のび太君は牛魔王の攻撃で気を失ってたんだ」
「そっか………そうだ、牛魔王は!?
っ、アタタタタタ!!」
牛魔王との戦いを思い出したのもつかの間、痛みに苦しむのび太。
「無理しちゃ駄目だよ。 命に別状はないとはいえ、死にかけたんだよ。
横になって安静にしてなよ」
「う、うん。 ねえ、ドラえもん、あの後どうなったの?」
「ハジメさんが助けてくれたんだ」
ドラえもんの言葉で近くでハジメが様子を窺っていたのにのび太は気づく。
「そうだったんだ。 助けてくれてありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ」
何が原因か知らないが、本来牛魔王を倒すはずののび太が倒せなかった。
その切っ掛けが自身にあるのではないかと考えるハジメは、弱っているのび太に後ろめたい思いがあった。
原因を探るためにのび太に質問したいが、なぜ牛魔王を倒せなかったのかと聞くのも不自然だ。
結果的に怪我をさせてしまったのが自分ではないかという思いはあるが、意を決してハジメは聞いてみる事にした。
「のび太君、聞きたい事があるんだが。
牛魔王と戦っているとき、何を考えていた?」
「戦っていた時ですか?」
「ああ。 その、なんだ………牛魔王はヒーローマシンの敵キャラだ。
ラスボスとはいえ孫悟空の力で倒せるように出来てたはずなんだが、のび太君が倒せなかったのが気になってね」
「ハジメさん、のび太君は弱虫でおっちょこちょいなんです。
一人であんな大きな化け物に勝てるわけないですよ」
「酷いよドラえもん」
ドラえもんに貶されて落ち込むのび太。
「まあ、確かにあんなのゲームでも簡単にはいかないだろうね。
でもあの時の心境が少し知りたいんだ。 わからないならそれでいい」
「戦ってた時ですか…」
のび太はう~んと首を傾げて考え込む。
「あの時は僕が牛魔王と戦ってる間に皆に逃げてもらって、その後ドラえもんに牛魔王をヒーローマシンに回収してもらおうと思ったんです。
だけどヒーローマシンを牛魔王に壊されちゃったってドラえもんに言われて、どうしようかわかんなくなって、その後牛魔王に吹き飛ばされて何が何だかわかんなくなってるうちに気を失っちゃいました」
「ヒーローマシンに回収しようとしていたのか。
牛魔王を倒して解決しようとは思わなかったのかい?」
「倒して………うーん、倒すのは無理だと思いました。
それに…」
「それに?」
言い淀んでるのび太は、少し迷った末に続きを語る。
「倒そうと思えなかったんです。
ヒーローマシンの妖怪で倒さないと未来が妖怪の世界になっちゃうのは分かってたけど、ハジメさんの妖怪達が生きてるって話を思い出しちゃって。
そしたら倒して殺しちゃうことがなんだか怖くなっちゃって…」
「そんなこと考えてたのか、のび太君。
あれはヒーローマシンのゲームのキャラクターなんだよ」
「わかってるよぅ」
ドラえもんの文句にのび太はすまなそうにしているが、ハジメはやはり自分が原因だったかと納得しつつも落ち込んでいた。
「…余計な事を話してしまったみたいだね。 申し訳ない」
「い、いえ、そんなことないです。 僕達の方こそハジメさんに迷惑をかけちゃって」
「そうですよ。 僕達はハジメさんに助けてもらったんです。
ハジメさんがいなかったら僕ものび太君もどうなっていたことか…」
ドラえもん達はそういうが、話の流れを変えて結果的に危険に晒してしまったハジメとしては、如何に助けたと言ってもマッチポンプのように思えて申し訳なかった。
ハジメの事情を話すわけにはいかないので、謝罪をし合うのは程々の所で切り上げた。
「ともかく、牛魔王を倒したことで歴史は元に戻っただろう。
これから未来に帰れば、僕らは別々の時間軸にたどり着いてもう会う事もないはずだ」
「本当に別の時間軸の人なんですね」
「面白い事にね。 後、僕から言えることは秘密道具の扱いには注意するようにね。
扱いを間違えれば本当に取り返しの付かない事に成り得るんだから」
「はい、十分注意します」
秘密道具の持ち主であるドラえもんが深々と頭を下げる。
「今度から気をつけてよ、ドラえもん」
「ムッ! 元はと言えば、のび太君が変な事を言い出したからでしょ!」
「ドラえもんがヒーローマシンを開けっぱなしにしちゃったのが原因じゃないか!」
喧嘩を始めるドラえもんとのび太にハジメはやっぱり感慨深い思いを感じる。
仲良く喧嘩する彼らに、前世で純粋にアニメを見ていた頃を思い出す。
そんな彼らの姿にハジメは自然と笑顔を浮かべていた。
ハジメ達がタイムマシンで現代のバードピアに真っ直ぐ戻ると、元通りの人間社会に戻っており、ドラえもん達も存在していない世界になっていた。
過去から現代に戻った時間移動の流れを調査してみると、途中で時空間の支流に自然に入っており、別の時間軸となっているのが分かった。
やはり以前の昆虫人類と同じような僅かな歴史の分岐によって生まれた隣接する可能性の世界という見方が正しいようだ。
更に現代から再び過去を観測してみても、パラレル西遊記その物の事件が観測出来なかった。
無かった事になったのではなく、あの事件はやはりドラえもんが存在する時間軸が主体で起こった事だったのが原因だとハジメは見ている。
一つの時間軸を糸として、並行世界に分岐する前を糸を束ねた縄のようなものと考えてみる。
束ねた縄は全く違いのない同一の歴史だが、それぞれの並行世界は束ねた縄の中の糸の一本にすぎず、別の糸の世界と直接繋がる事は無い。
パラレル西遊記の事件はドラえもんの世界で起こったが、歴史全体への影響力の強さから分岐する筈だった並行世界を巻き込んで、現代まで妖怪の世界になるという一本の縄の様に世界同士が紡がれて同じ歴史に変えてしまった。
歴史が元に戻ったことで並行世界は元の様に独立し、事件が起こった過去もドラえもんの世界のみ一時的に縄から解れている一本の糸の様に、本来の歴史という縄に全く影響のない歪みに収まったのだろうと推測した。
つまり並行世界にすら影響を及ぼした歴史の変化要因を、並行世界に影響を与えない【変化した後修正した】という僅かな歴史の歪みに抑えた事で、ドラえもんの世界の歴史にのみ僅かな痕跡が残る事になった。
影響を受けなくなった並行世界であるハジメの世界からは、【変化した後修正した】という歴史変動の痕跡すら、タイムテレビで時間軸を遡るだけでは観測出来なくなったという事だ。
予測通り、この時間軸上ではドラえもん達と再び遭逢することは無いと証明された。
事件が解決して元の研究に戻ると帰ってきたハジメは思っていたが、オリジナルの会長と呼ばれるハジメがある事に気づいたと言って、ドラ丸とコピー達を招集した。
全員が集まると会長の前には二つの秘密道具が置かれていた。
「秘密道具の数は膨大だ。 只のオモチャみたいな物から、使い方次第で何でも叶うドラゴンボールのような最上級の危険性の物もある。
その為に道具の種類を把握して使い方を考える事を、これまで事件や研究の合間にやっていたのは知っての通りだ。
だが今回の事件が発生してドラえもん達の姿を見た時に、ちょうど使い方を考えていたこの道具と合わさって天啓を感じた」
会長は片方の四角い箱にボタンとアンテナの付いた秘密道具を手に取る。
「これは【機械化機】。 機械の機能を読み取って人間にその機能を付与する事の出来る秘密道具だ。
ただし人間に無理矢理機械の機能を付与する訳だから、機能の制御に問題があるという欠点がある」
原作ではのび太がジャイアンに機械化機を使われて、便利道具扱いされて逃げられなくなるという落ちが着く。
機能を付与しても付与された人間が制御出来ずに暴走するといった問題も起こった。
「それだけなら扱い辛い秘密道具だけど、会長が言うんだからそれだけじゃないんだろう」
「もちろん、これ自体は扱い辛いが、秘密道具の改良が出来るようになった僕らなら扱いやすいように調整可能だ。
それがこっちの【機械化機・改】だ」
会長が機械化機を片付けて、形がほとんど同じの機械化機・改を見せる。
「こっちは機械化機の機能付与に詳細設定を追加して、機能を付与された人間がどのような行動を取れば機能を働かせられるか設定出来るようにした。
その調整をするために機能の読み取り可能数が減ったが些細な事だ。
………よし、お前に機能を付与するぞ」
「え、僕!?」
会長はコピーを見回して適当な一人に機能を付与する事を宣言する。
ランダムに選ばれたコピーは戸惑うが、会長は気にすることなく機械化機・改を使って記録されていた機能を付与した。
付与されたコピーは突然の事で慌てるが、特に何の変化もなく直ぐに困惑する。
「会長、一体何の機能を付与したんだ?」
「…ポケットに手を突っ込んでみろ」
「え? ってまさか!?」
付与されたコピーだけでなく、他のコピー達もその意味を察して注目が集まる。
ポケットに手を入れるとその中にそこはなく、機能がしっかりと働いていることを証明した。
「四次元ポケットになってる!?」
「会長、まさかこれって!」
「そのまさかかもしれん…」
会長は頭を抱えるように成功してしまった現実に頭を痛める。
改良は完璧だったが人間に付与する実験はまだだったので、これがぶっつけ本番だった。
しかしそれでもうまくいく気がしてならないと、嫌な予感の様に外れない確信を感じていた。
同じようにこの事実に頭を悩ませるコピー達だが、思考が違うドラ丸だけはハジメ達の考えが理解出来ていなかった。
「何を悩んでいるのでござるか、殿。
コピーにも四次元ポケットが使えるようになったというだけではござらんのか?」
「それだけだったらちょっとうれしいだけで済むんだが、僕等の直感ではオリジナルの四次元ポケット能力もこの機械化機のお陰なんじゃないかと直感してるんだ」
「!? それはどういう事でござるか!?
何者かが機械化機を使って四次元ポケットを与えたという事でござるか!?
一体誰が!?」
「たぶん僕だ…」
「………は?」
会長の予想外の答えにドラ丸は気の抜けた返事をしてしまう。
答えを聞いても、ドラ丸は理解が追い付かなかった。
「殿、拙者は殿が何を言っているのかわからぬでござるよ」
「訳が分からなくなってるのは僕等も同じだ。
ただ僕等の直感で、この後僕らは僕の生まれた直後の時代に行って、四次元ポケットの機能を生まれたばかりの僕に付与するんだ。
そして秘密道具一式を四次元ポケットに突っ込んで、子供の僕は生まれ変わった時に四次元ポケットを手に入れたと勘違いする。
それが僕が四次元ポケットを持っている真実なのだと思う」
コピー達も同じ思考から会長と同じ考えに至っており、なんとも言えない表情になっている。
ただ自分たちの秘密道具のルーツが今この時なのだと誰もが直感していた。
そうしなければ秘密道具を使って今ここに居る自分たちの存在すら危うくなるのだから。
「………殿の考えは分かったでござる。
しかしそうなると、最初に殿に四次元ポケットを与えたのは誰かという事になるのでござるが…」
「それこそ地下の恐竜世界みたいに、始まりを一切明らかに出来ない問題だ」
「殿に前世の記憶がある事ももしや?」
「それは今の僕には推測も付かない。
もしかしたら今回の様に何らかの切っ掛けで明らかになるかもしれないが、下手に調べない方がいい」
ハジメ自身も自分がなぜ前世の記憶と四次元ポケットを持つか興味があったが、同時に明らかにすることを恐れていた。
何せ人間の記憶を来世に持ち越させて、秘密道具入りの四次元ポケットという万能アイテムを渡すような存在だ。
感謝はするがそんなことを簡単に出来る強大な存在だと思って、下手に調べれば接触してくるかもしれないと恐ろしくてあえて知ろうとはしなかった。
今日になって、自身のルーツの謎の半分が明らかになったので、取り越し苦労だったかもしれないが。
「そうでござるか…」
「それと今回明らかになった切っ掛けは、ドラえもんの居る世界に一時的にでも繋がったのが要因の一つでもあると思う」
「なぜでござるか?」
「付与した四次元ポケットに秘密道具は入っているか?」
「え? …何も入ってないな」
「そういう事だ」
「いや、わからんでござるよ」
ハジメのコピー達はやはり察するが、ドラ丸には伝わらない。
「見ての通り、機能は付与出来るが中身は用意しないといけない。
これから生まれたばかりの僕に四次元ポケットと秘密道具を渡さないといけないが、秘密道具はどうやって用意する?」
「いつも通り、コピーすればよいのではござらんか?」
「それでも何とかなるかもしれないが、秘密道具は時間で劣化する。
劣化したコピーを渡して、その僕がまた時間が経った劣化したコピーを更にコピーすれば、劣化したコピーの時間が経った物のコピーが出来上がる。
つまりコピーを繰り返せば、いずれこのループが破綻するのは目に見えている。
初めから壊れている秘密道具があるなんて事になったら、僕も今ここに居るか分からない。
だから今僕が持っている秘密道具をコピーするのは駄目なんだ」
「ではどうするのでござる?」
「それでこっちの秘密道具だ」
最初から機械化機の横に置かれていたもう一つの秘密道具を示す。
「【未来デパート通販マシン】。 僕等の世界がドラえもんでないから未来デパートもなかったが、ドラえもんの存在する並行世界を観測したことで条件が変わった。
つまりドラえもんの居る並行世界にいけば、この通販マシンを使って新しい秘密道具を購入することが出来るってことだ」
「しかし、彼らの存在する世界との繋がりは断たれたのでござろう」
「時間軸の支流に入る技術は創世日記の件で目途が立っている。
それに並行世界というなら、最悪もしもボックスでドラえもんの居る世界にしてもらえば何とかなるだろう。
これで殆どの問題はクリアされた」
「通販という事はお金がかかるのでござろう?
ひみつ道具を全て購入するほどのお金があるのでござるか?」
ハジメは秘密道具によって今の生活が成り立っており、現代社会とほとんど交流を持たない事から金銭など一切必要としていない。
それ故に現金を得る収入源などあるはずがなかった。
「………」
ドラ丸の問いに会長はポケットから秘密道具を取り出す事で答えた。
「【フエール銀行】。 お金を預けると一時間で一割の利子が入って、計算上だと10円預けるだけで一週間で9千万弱になる」
「…現代のお金で未来デパートの品が買えるのでござるか?」
「雲の王国で王国を建設する為の道具を買うのにスネ夫が資金を出してたから問題ないはず」
「………それでいいのでござるか」
文句は藤子プロにお願いします。
その後、ハジメは実行部隊を送り出して時空間の支流からドラえもんの存在する時間軸に入り、未来デパート通販マシンをつかって購入出来る秘密道具を買えるだけ買い漁った。
秘密道具を買い終えた実行部隊は元の時間軸に戻る時に、映画の昆虫人類の様にタイムパトロールに追尾され、何とか撒いて戻ってきたときはかなり焦ったと報告した。
次にハジメの生まれた時に行って、眠って意識がない赤ん坊のハジメにポケット付きの服を着せて手を突っ込ませてみるが、ポケットを四次元ポケットにする能力はなく、ハジメ達は自身の予測を改めて確信する。
機械化機・改で四次元ポケットの機能を付与する際に、現在のハジメと同じようになるように細かく設定し、最後にスペアポケットと繋がるように設定した。
四次元ポケットあってのスペアポケットだが、秘密道具を入れるのに必要でもあったからだ。
秘密道具の数は1000を優に超えるので、赤ん坊のハジメに服を着せたまま秘密道具を一個一個入れるのはあまりに時間が掛かりすぎる。
よって四次元ポケットの機能を付与した後は、スペアポケットから秘密道具を一個一個突っ込んでいき、最後にスペアポケットを赤ん坊のハジメのポケットに突っ込ませて無事に秘密道具の受け渡しが終了した。
ハジメも赤ん坊の頃は殆ど寝ていて意識はなかったが、自身の寝ている間にこんなことがあったと知る事になるとは思わなかった。
出来れば生まれ変わりの真実とか、そういうのが突然明らかにならないでほしいとハジメは思わずにはいられなかった。
これにて劇場版の話は本当に完結です。
ちょっと残念ですが、それなりに人気をもらえたのでうれしい限りです。
牛魔王を倒す話でしたが、のび太の性格上何かを殺してしまうというのはなかなかあり得ないと思い、戦いに躊躇する形になりました。
と言っても映画ではラスボスを倒す事は結構あるんですけどね。
ゲストキャラのリンレイが紅孩児だと映画の序盤に解っていれば、牛魔王を倒す事に葛藤するシーンが書けたかもしれませんが、話の流れを見直してみると最後まで知らなかった可能性すらあります。
本作を書く上で原作の西遊記の情報を調べてみましたが、児童向けとはだいぶ違うみたいですね。
金角銀角も敵役として現れますが、実際には三蔵一行に試練を与える役割だという話ですし。
こういった切っ掛けから、原作を読んでみたくなることは多々ありますが、古い作品は読み辛いというイメージて手を出しにくいですね。
漫遊記の方を今後は書き進めていきますが、どうにも筆を持とうとするのになぜか忌避感が出てしまいます。
自分はどちらかというと読み専寄りですので、書こうとするのを後回しに、ついつい別の作品を読みまわしてしまいます。
気力がある頃に比べると更新速度が落ちてますし、やっぱり一週間に一回は更新しないとダメですね。
進みは遅いかもしれませんが、今後もよろしくお願いします