ドラえもんのいないドラえもん  ~超劇場版大戦 地球は何回危機に遭う~   作:ルルイ

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劇場版大戦対策超会議

 

 

 

 

 

「これより【第一回 劇場版大戦対策超会議】をここに執り行う」

 

 薄暗い部屋に並べられた長机の一番奥に座る僕が、会議の開始を宣言する。

 部屋の中には僕を除いた9人の人影があった。

 

 彼らは僕がひみつ道具を使って用意した人材であり、僕の事を誰よりも理解している者達だ。

 今はまだここにいるメンバーだけしか用意していないが、必要があれば増やす準備も既に整えている。

 タイムマシンを使った時間稼ぎに続き、人手不足を解消することに成功した。

 手始めにまずこのメンバーで起こる事件の対策を行う。

 人が増えれば意見も増えて、事件に対する対策の立案も捗る筈だ。

 

「まずこの会議の進行を務めさせてもらうのは議長の僕、中野 (ハジメ)だ」

 

 言ってなかったが、今世の僕の名前は中野ハジメだ。

 前世とは全く別の名前だが、数年も使っていればとっくに慣れている。

 

「まずは自己紹介をしていこう。

 まずは秘書官から…」

 

「はい、秘書官を務めさせていただく中野ハジメです」

 

 ………………

 

「続いて順番に右側の作戦部長からたのむ」

 

「作戦部長の中野ハジメです」

 

「作戦副部長の中野ハジメです」

 

「技術班班長の中野ハジメです」

 

「同じく技術班副班長の中野ハジメです」

 

「実行部隊隊長の中野ハジメです」

 

「副隊長の中野ハジメです」

 

「情報統括課課長の中野ハジメです」

 

「係長の中野ハジメです」

 

 全員の挨拶が終わり、改めて僕に視線が集約する。

 

「以上が劇場版大戦対策本部の初期メンバーだ。

 いろいろ大変かもしれないがこれからよろしく頼む」

 

「「…………」」

 

 僕の挨拶で自己紹介を占めると、しばしの静寂が広がった。

 そして…

 

 

 

「「…って、みんな同じ名前じゃないか!!」」

 

「ナイス突っ込み! さすが僕」

 

 自画自賛というには何かおかしいが、このノリツッコミはなかなか楽しかった。

 

 聞いての通りここにいるメンバーは全員僕と同姓同名、というより同一人物といっても問題ない。

 人手が足りないならと僕は自分自身のコピーを用意することにしたのだ。

 とはいえ、ここにいるコピー達は前に使ったコピーロボットではない。

 完全に生きているクローンといっても可笑しくない僕の分身たちだ。

 

 彼らを生み出すのに使った道具は【タマゴコピーミラー】。

 【フエルミラー】とよく似た名前と効果の複製系の道具だ。

 出典はねじまき都市(シティー)冒険記で、敵役の人間がこれを使って自分のコピーを大量に作ったのが印象的だったから、人手不足の解消にこれを使わせてもらった。

 

 ただ欠点のよくあるひみつ道具だからか、もしかしたら劇場版特有の環境だったから生まれたのかもしれないが、映画ではコピーの中に明らかに性格の違う変異体が生まれることがあった。

 原作で敵役のコピーの一人が他に比べて気が弱かったり優しかったりして、ドラえもん達がその変異体のおかげで助かったことがある。

 そんな風に優しい性格なら問題ないが、逆に悪い性格の変異体が生まれるかもしれないのは無視できなかった。

 

 タマゴコピーミラーはコピーする過程で卵を生み出し【エッグハウス】という孵化器でコピーの卵を孵す。

 なので事前に卵の段階で○×うらないを使い、性格が明らかに違うものがいないか診断してから孵すようにしている。

 何度か実験もしたが、今のところ一度も変異体の卵は生まれていない。

 

 そんなデメリットもあるが、より重要なのはこの作り出したコピー達をオリジナルを含めて一つに統合する事が出来る事だ。

 それならばコピー達の記憶もすべて受け継いで一人になることが出来るのではないかと思い、○×うらないで事前に安全確認をしてから実験をして、問題なくコピーの記憶を持ったまま一人に統合することが出来た。

 あらゆる実験の事前確認にも使える○×うらないがかなり役立つ。

 

 劇場版では増えた敵役のコピーをどうにかする為に統合が行われたが、その時は本来の性格が違うコピーがオリジナルとして残った。

 ドラえもん達が意図的に違う性格のコピーを残したのかはわからないが、統合した時にオリジナルの人格が残らないのはさすがに不味い。

 なので突然変異の卵が混ざらないように、タマゴコピーミラーを使う時は十分に気をつけている。

 

 ちなみにひみつ道具を出す能力はコピーに受け継がれることはなかった。

 使えれば便利かもしれないが、もしコピーが行方不明にでもなったりして、それが原因でひみつ道具が流出して誰かの手に渡る危険性も考えられる。

 そういった事態にはならずに済みそうだが、ひみつ道具が紛失するような事態は気をつけないといけないのに変わりない。

 物にもよるが、ひみつ道具一個だけでも大変な事態になる可能性は十分にあるのだから。

 

 

 

 クローンとも言えるコピーを使って人手を作ったわけだが、同じ顔の人間同士が話し合うのはまだ慣れず妙な気分なので、冗談交じりに軽口を言いながら会議を始めた。

 同じ顔とは言っても現在の僕…いや僕たちは15歳くらいの姿をしている。

 子供の姿では動きづらいので、コピーをする前に【タイム風呂敷】で容姿を成長させた。

 

 コピーが成功した後は親の所にいるコピーロボットも、タマゴコピーミラーのコピーに代わってもらっている。

 その僕にはそのまま全部の事件が終わるまで代理を務めてもらうつもりだ。

 終わった後に統合すれば、自分が親の元にいた時の記憶も実感も残るので問題ないだろう。

 

 そして会議を始めるわけだが…

 

「そもそも役職なんて事前に決めてなかったよね」

 

「オリジナルに振られたらノリで答えたしな。

 皆もそうだろ?」

 

「まあ、そうだね」

 

「まだ生まれたばっかのコピーだから、記憶に差は殆ど無いしな。

 あ、僕は作戦部部長らしいから部長と呼んでくれ」

 

「なら僕は副部長か。

 そうなるといきなり僕は部長の部下になるんだけど、ちょっと納得がいかない」

 

「副部長ってノリで言ったの、副部長自身だろ」

 

「いや、部長と来たら次は副部長だろ?」

 

「まあ確かに。 ほかの役職のやつの後にも、次が副がついてるし奴だし」

 

「いや、最後だけ課長の後が係長だったぞ。 なんで係長だったんだ、係長」

 

「それもノリだろ。 皆分かってるくせに」

 

「だが、聞かずにはいられない」

 

「解っていてもやるのが、ノリツッコミだしな」

 

「一人じゃないけど同一人物だからノリツッコミが成立する」

 

「コピー同士の対話がうまくいくかどうか悩んでたけど、あんまり気兼ねなく話せるもんだな」

 

「まあ相手の考えてることが大体わかれば、話しやすいもんだしな」

 

「うんうん」

 

「そもそも僕、いや僕等(・・)か。 そんなにべらべらしゃべるようなタイプじゃないのにね」

 

「対等にしゃべれる相手がいなかったからな~」

 

「このボッチめ」

 

「ボッチじゃない!!

 同年代じゃ話を合わせるほうが無理だったんだよ!!」

 

「さらに言えばブーメラン」

 

「五歳児に流暢な会話なんて怪しいしな」

 

「普通はいない」

 

「嵐を呼ぶ幼稚園児は?」

 

「あれが五歳児なのはおかしいだろ」

 

「主人公はともかく防衛隊メンバーも話についていけるのもおかしい」

 

「そんな級友、幼稚園にはいなかった」

 

「そういえば僕達も幼稚園児だったんだよな」

 

「今も幼稚園児。 コピーの一人がまだ通ってるし」

 

「統合する気が失せる」

 

「幼稚園のお遊戯に付き合うのが辛い」

 

「なかったことに出来ないかな」

 

「出来ないだろ。 コピーとはいえ同じ自分に嫌なことを押し付けたままにするのは」

 

「それやったら、コピーの僕が離反しかねないしな。

 僕自身もコピーだけど」

 

「そんなことにならないように僕達、特にオリジナルの議長は忘れないように気をつけないといけない」

 

「ところでオリジナルを議長って呼び方で通すのはおかしくないか?

 会議中なら納得がいったけどなんか違和感がある」

 

「じゃあ社長って呼ぶか?」

 

「劇場版の元ネタからか」

 

「けど会社じゃないし」

 

「じゃあ会長とか?」

 

「隊長はもう使ってるし」

 

「総長の呼び方に一票」

 

「暴走族みたい」

 

「司令」

 

「問題ない」

 

「その為のNE○Vです…って、間違いなくネタだったけどそれでいいのか?」

 

「問題ない…けど似合わないと思いたい」

 

「確かに。 ほかには何があるっけ?」

 

「もう適当に上げていこう、理事長」

 

「何の理事だよ」

 

「校長」

 

「学校じゃない」

 

「船長」

 

「船じゃない」

 

「艦長」

 

「だから船じゃないって」

 

「組長」

 

「園長です!!」

 

「またネタか!?」

 

「『長』が付けばいいって感じになってるな…」

 

 

 

 会話は弾んでいるが議題から完全に脱線してしまっている。

 自分同士の話し合いに慣れるために長々と無駄なおしゃべりを流してきたが、一応真面目に対策を考える気もあるのでそろそろこの会話を終わらせる。

 コピー達もおそらく同じ考えで話してるはずだ。

 何せ同一人物なのだから。

 

「話し合うこと自体に慣れてきたのでそろそろ本題に戻そう」

 

 オリジナルの僕がそう発言をすると、がやがやと騒いでいたコピー達がすぐに会話を中断する。

 

「ようやくか。一応オリジナルがまとめ役になるのは初めから決めてるんだから頼むよ」

 

「自分同士で騒ぐのも楽しかったけど、本題を忘れるわけにはいかないからね」

 

「いくら話を続けてもネタ振りが終わる気がしなかったからな~」

 

「けど、オリジナルの呼び方だけはネタじゃなく決めておいたほうがいいんじゃない」

 

「たしかにそうだな」

 

「さっき上げたネタからオリジナルが決めてよ」

 

「まあどれを選ぶかはなんとなくわかるけど」

 

 コピー同士であるがゆえに考えることも大体一緒だ。

 だからこそ人手を増やすことが出来ても、新しい意見の出し合いとなるとあまり進展がなさそうなのが欠点。

 誰か別の考え方をしてくれる人がいればいいが、協力者なんて今のところ思い付かないし、そうそう引き込めるような話ではない。

 そのことはとりあえず、必要になってから考えよう。

 

「そうだな、やっぱり会長が一番無難かな」

 

「じゃあそれで決定で」

 

「よろしく会長」

 

「ああ、よろしく…ってのも、相手が自分じゃ違和感あるな」

 

「そんなの気にしてたらキリがないんだけどね」

 

「慣れるしかないだろ」

 

「確かにそうだが…ってまた話が脱線しかけてる

 とりあえず本題を進めよう」

 

 どうやら自分同士だと話し易過ぎるからか、話題がどんどん出てきて話が脱線ししてしまう。

 久しぶりに流暢な会話をしているからかもしれないが気をつけないと。

 

 

 

 

 

「まず何をやるかだが、実のところさっきの役職設定でやるべきことは大体振り分けられている。

 まず作戦部は劇場版の話に対する対策案を可能な限り考えておいて、そこから必要な情報や準備などをほかの部署に求めてくれ。

 対策が纏まった事件から再度会議を行って、決定したら実際の作戦に当たる。

 まあ作戦の決議を決める会議は形式上のものになるな。

 考える事が一緒じゃあ反対案もあまり出ない」

 

「了解です、会長」

 

 作戦部長が答えてくれるが、これじゃあ会長じゃなくて司令みたいだ。

 他の皆も同じことを考えたからか、少し表情を歪めている。

 もう少し軽い感じでしゃべろう。

 

「ゴホンッ…次に技術班だけど、やることは必要になるひみつ道具の整理や用意する武器の開発と量産。

 ひみつ道具には明確な武器と呼べるものがあまりないけど、道具の効果を応用したり製作系の道具を使えば大抵のものは作れる。

 ひみつ道具を出せるのは僕だけだから、僕もそっちにいる事が多くなると思う。

 実行部隊も今はまだやることが少ないから、一緒に作業をよろしく」

 

「その辺りは予定通りだな。

 道具を応用した武器の開発は前々から楽しみにしてたし。

 技術班、了解したよ」

 

「実行部隊の僕達は映画の事件の現場で動いて対策に当たるんだろう。

 作戦が決まるまではやることないみたいだし、そうするよ」

 

 ひみつ道具を出すことが出来るのはオリジナルの僕だけだ。

 可能な限り安全を確保してから事件の対処に当たるけど、もしもの事態があるといけないからオリジナルの僕が事件に直接対処をするのは避けるべきだ。

 だから事件の対処に直接当たるのは当然コピーになる。

 それを担当するのが文字通り実行部隊になる。

 

「情報統括課は事件の実際の現状や原作情報の裏付けをお願いする。

 調べる方法は今のところ【タイムテレビ】くらいしか思いつかないから、必要なひみつ道具があったら技術班まで取りに来てくれ」

 

「情報集めとか一番大変そうだけど、しょうがないから頑張るよ。

 ああ、情報整理を手伝ってくれるコンピューターもあるといいね」

 

「後でいいのがないか、ひみつ道具の中から探してみる。

 無いならさっそく技術班の出番だな」

 

「腕が鳴る、と言いたいけど当分はひみつ道具任せの開発になるだろうな。

 そのうち自力でひみつ道具並みの凄い物を開発してやる。

 学ぶ方法や教材もひみつ道具任せだけど」

 

 道具の準備や開発、それに僕達自身の様々な技能の習得も技術班の仕事になる。

 おそらく一番忙しくなる管轄になるだろう。

 早速新しいコピーを作って作業員になる人手を用意しないといけない。

 

 コピーが多ければ統合した時に得られる経験値も多くなる。

 NARUTOの影分身と同じ要領で経験を得られるのも、タマゴコピーミラーを使った大きな理由だ。

 

「最後に秘書官の僕だけど………別に要らなかったかな?」

 

「秘書官にしたの会長でしょ!?」

 

「いやあ、ノリで言いだしただけだったし。

 まあ技術班はもっと人手が必要そうだからそっちに回って」

 

「秘書官なのに結局やることないのかよ…」

 

「同一人物が自分の秘書だなんて嬉しい?」

 

「嬉しくないけど、結局は自分が自分で決めちゃったことだろ。

 秘書官じゃないなら僕は何て呼ばれればいいのさ」

 

「んー、雑用?」

 

「パシリかッ!?

 いくら自分が自分に言った事だからって僕がグレるよ」

 

「ごめんごめん。

 まあ技術班研究員一号ってことでいいよね。

 すぐにコピーの人手を増やすことになりそうだし」

 

「ん、了解」

 

 

 とまあ大体やることは決まったが、最後も締まりのない会議で終わった。

 僕達はさっそくそれぞれの役割を果たすために仕事に取り掛かっていく。

 時間も人手も十分用意出来たので、どの劇場版の事件にも十分対処できるだろう。

 

 

 

 

 




思ったほど超会議にはならなかった

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