孤高の牡牛と星の灰被り姫 【完結】   作:シエロティエラ

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最初に言っておく。この作品の悠斗もよろしく‼︎
デーネーブー‼︎ お前また余計なことを‼︎
ええ〜? だって悠斗、最初の挨拶は大切だぞ? 友達をたくさん作っとかないと。
いいから、そういうのは‼︎


始まります。




本編
君の声を聞いた気がして/見上げた夜空、涙とけた雫


 

 

 

 いつからだったか。

 夢を見るような感覚で、一人の男の物語を見ていた。

 その男は未来から来たという烏天狗のようなやつと一緒にいた。そして機械じみたベルトとカードを使い、また機械じみたスーツを纏って戦っていた。

 戦う度に自分の存在を忘れられていくにも関わらず、男は相棒と共に戦った。時にはもう一人の男の連れと争うこともあったが、最後まで戦い続けた。

 未来の娘、婚約者を守るため。旅を続けた先に出会った三人の戦士。真っ赤なスポーツカーを運転する男に、そいつを兄と慕う白いバイクに乗っている男。ダイヤとクワガタを模した仮面をつけていた男。もしかしたらもう一人のいたかもしれない。

 人を守るために戦い続けた男は、相棒と再開の約束を交わしてこの世を去った。

 

 

「……またこの夢か」

 

 

 ここ数年本当に、高校入学ぐらいからこのような夢を見る。男の名前は……わからない。ただ何処かしっくりとくる名前だった。

 

 

「侑斗〜、良太郎くんが来てるわよ〜」

 

 

 母の呼ぶ声がする。そういえば今日は出掛けるのだったか。

 野上良太郎と俺、櫻井侑斗はあまり興味は無かったが、他の友人の誘いでアイドルのライブを見に行くのだった。

 確か美城?プロダクションのアイドルがたくさん出るらしい。誘ってきたやつは目を輝かせていたのを覚えている。

 

 

「おはよう、侑斗」

 

「……ああ」

 

 

 適当に他所行きの服を着て外へ出る。そこには少し薄幸そうな顔をした青年が立っていた。野上良太郎、昔からの馴染みであり、夢に出てくるもう一人の青年に非常によく似ていた。

 

 

「そろそろ行こうか。待たせちゃ悪いし」

 

「……そうだな。正直あまり興味はないが」

 

「あはは……」

 

 

 野上の苦笑いを聞き流しつつ、ふと空を見上げた。阻むものが何もない青空。一筋伸びる飛行機雲。レールを敷きながら空を駆ける、牡牛の頭を模した列車。

 

 ……ん?

 まて、列車だと?

 

 慌ててもう一度その方向を見たが、そこには何も無かった。

 気のせいか?

 

 

「……侑斗? どうしたの?」

 

「なんでもない。それより野上」

 

「なに?」

 

「足元気をつけろよ」

 

「え? おろ〜⁉︎」

 

 

 俺の忠告もむなしく野上は転び、そのままゴミ箱に衝突した。本当に漫画のようなコケかたをするやつだ。子供の頃からこんなことを繰り返していた。

 結局予定時刻ギリギリに待ち合わせ場所に到着し、計三人でライブ会場に入った。

 それにしても人が多い。昔から人混みを避けていたが、まさかこんなに辛いものとは思わなかった。周りはなんだか妙な笑みを浮かべたり、声を出したりするものが多い。

 

 そんなことを考えていると、会場のライトが暗くなり、ステージが照らされた。そこには三人三色の服を着た少女がいた。桃、黄、蒼の服を着た三人は軽快な音と共に、歌い踊る。

 夢に出てくる紫の存在とはまた異なる、軽快な踊りをする三人。その三人の後からも出てきた多人数の少女達。皆が皆、踊りと歌を楽しんでパフォーマンスし、会場は飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

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「いや〜やっぱ凛ちゃん最高だわ」

 

 

 俺たちを誘った友人は感無量とでも言いたげに声を上げた。現在俺たちは、ライブ後の握手会とやらに向かっている。俺は正直早く帰りたいのだが、せっかくだからと押し切られ、渋々握手会へと向かっている。

 案の定だが、やはりここも人だかりが物凄く、正直人酔いしてきている。

 

 待つ時間も長いので、俺は最近見る夢について考えてみる。

 死ぬまで戦い続けた男。名前は覚えていないが、あの男は満足そうな顔をして死んだ。あの男と共に歩んだ烏天狗は、列車に乗って世界から去っていったはずだ。再び出会うことを信じて。

 そういえばその列車は、牡牛の頭を模した形をしていた。それはまるで、昼間に空で見たような……

 

 

「きゃああああ⁉︎⁉︎」

 

 

 突然悲鳴が鳴り響いた。有名人に出会ったときに出すような、黄色い悲鳴ではない。非常事態を知らせる耳を劈くような悲鳴だ。

 

 

「な、なんだ今の? っておい‼︎ 櫻井どこに行くんだ⁉︎ 櫻井‼︎」

 

「侑斗‼︎」

 

 

 後ろから二人の呼ぶ声が聞こえたが、俺はそれを無視した。体が勝手に動き出し、悲鳴の聞こえた方角に走り出した。

 現場に着いた時、俺は唖然とした。

 

 両の手にはドリルのような機構が付いた、モグラのような異形。

 ウサギのように大きな耳を持ち、剣を振り回す異形。

 顔や腰まわり、肩口から蛸のような触手を生やした、鞭を振るう異形。

 

 夢で見た異形達が目の前にいた。人々は必死に奴らから逃げようとしているが、パニックに陥って冷静な判断ができていない。

 視界の端に少女が写りこんだ。泣きじゃくり、トボトボと前を見ずに歩いている。少女の向かう先には異形達。

 異形達も少女に気がつき、鞭を持った奴が少女目掛けて飛び出した。少女は気がついていない。このままでは少女が死んでしまう。

 

 

 気がつけば俺は異形を殴り飛ばしていた。

 追撃の手を緩めず、異形の硬い身体を殴り蹴る。そしてようやく一人を蹴り飛ばした。

 

 

「……なぜだ。何故俺は……」

 

 

 奴らと渡り合い、あまつさえ交戦できている。特に戦ったことなどないのに、まるで体が覚えているかのように動く。

 そう、まるで夢の中の男のように……

 

「ヒック……おにいちゃん?」

 

「ッ‼︎」

 

 

 ふいに少女から声をかけられ、現実に引き戻された。

 そうだ、今は考え事をしている場合ではない。この少女を安全な場所へと行かせねば。

 

 

「お嬢さん、いいか? すぐにここから逃げるんだ」

 

「でも……ママがいない……」

 

「君がこのままここにいたら、二度とママに会えなくなるぞ? 向こうに行けば警察がいるだろう。そこで保護してもらうんだ」

 

「……うん…‼︎ おにいちゃん⁉︎」

 

 

 目の前の少女の声に反応して振り向くと、二体の異形がこちらに攻撃を仕掛けてきていた。反撃するにはすでに遅い。

 だがせめて少女だけでも守ろうと、俺は少女を抱き抱えるようにして庇い、襲いかかる凶刃に備えた。

 

 だが銃声が数発聞こえ、こちらを襲う気配はなくなった。それどころか、痛みに苦しんでいる声さえも聞こえる。

 気になって目を開けた先、少女の遥か後方、人差し指をこちらに向けて一人佇む黒衣金面の烏天狗。そしてその背後には牡牛の列車が、堂々たる姿で佇んでいた。

 

 

「……デ…ネブ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、新田美波はアーニャと一緒にライブ後の握手会に出ていた。ファンのみんなの笑顔は、私達アイドルにとっては一番勇気付けられるものである。だから私達も笑顔を送る。

 ふと会場の向こう側が騒がしくなった。稀にだけど、暴走される方がいらっしゃるから、今回もそうなのだろうか?

 

 

「? どうしたんだろう?」

 

「ダー、アーニャもわからないです」

 

 

 初めはファンの暴走かと思ったけど、どうにも様子が違う。会場にきた人達は一目散にこの場から逃げ出そうとしていた。もしかして相当不味い状況なのではないだろうか?

 そう思った矢先、近くで大きな音がし、周りはパニックに陥った。

 そして私とアーニャは見てしまった。

 たくさんの触手を生やした、まるで怪物のようなものを。

 

 

「ヒッ⁉︎ み、ミナミ……」

 

「あ、アーニャちゃん…逃げないと‼︎」

 

 

 一刻も早く逃げないといけない。咄嗟にそう思った私は、アーニャちゃんを先に行かせながら避難しようとした。

 でもそこで目の端に固まって動けない女の子達、アーニャちゃんと同世代ぐらいの女の子達が入った。

 何も考えずに私は彼女達に駆け寄った。でもそのせいで怪物に気づきかれてしまった。

 

 嗚呼。

 もし私が駈け寄らなければ、彼女達は助かっていたのかもしれない。

 私を追ってきたアーニャちゃんも無事だったのかもしれない。

 急いで駆け寄ってくるプロデューサーが目に入ったけど、人混みのせいで間に合わない。せめて、せめて「ありがとう」を言いたかった。

 

 私は降りかかる死を覚悟し、目を閉じた。

 

 

「オラァッ‼︎」

 

「ヌゴォッ⁉︎」

 

「フンッ‼︎」ドドドン‼︎

 

 

 でも不思議なことに、鞭は一向に襲ってこなかった。それどころか、殴るような音と銃声、何かがのたうちまわる音が聞こえた。

 

 

「み、ミナミ」

 

「アーニャ……ちゃん?」

 

「アーニャ、大丈夫。ミナミは?」

 

「私は……大丈夫。でもだれが?」

 

 

 疑問の尽きない私は、周りを見渡した。女の子達はどうやら逃げることができたらしく、この場にはいなかった。

 

 

「美波さん、アナスタシアさん‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」

 

 

 そこにプロデューサーさんが駆け寄ってきた。スーツのズレなどを気にすることもなく、私達の心配をするプロデューサー。

 

 

「なんとか大丈夫です」

 

「ダー、アーニャもです」

 

「よかったです。さあ避難しましょう。他のメンバーも避難しています」

 

「はい‼︎」

 

「お前たち、何してる‼︎」

 

 

 プロデューサーと安全確認をしていると、一人の青年が近寄ってきた。腰にはとてもゴツゴツした、機械じみたベルトをつけている。

 

 

「さっさとここから逃げろ‼︎ あいつらに殺される前に」

 

「え?」

 

 

 この青年はなんと言った? あいつら?

 急いで怪物の方向に目を向けると、そこにはさらに二体の怪物が増えていた。

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 アーニャちゃんの怖がる声が聞こえる。かく言う私も腰が抜けてしまって動けない。ただプロデューサーさんは私達をかばうように立っている。

 それでも怖い。とても怖い。

 

 

「チッ、動けないのか。デネブ‼︎」

 

「わかってる侑斗。この人たちを守るんだな?」

 

 

 いつの間にか私達の目の前には、黒衣の烏天狗が立っていた。怪物達は苛ついたように叫び声を上げて罵っている。

 

 

「まったく、一度死んで尚こいつらの相手をするのか。本当に迷惑」

 

 

青年はベルトの横のホルダーらしきものから、一枚の黒いカードを取り出した。気のせいか、そのカードからは塵のようなものが出ては消えている。

 

 

「あんたらに言っておく」

 

「…なんでしょう?」

 

「今から起こるのは全て真実だ。その目でしっかりと見ていろ」

 

「は、ハイ‼︎」

 

「そこの男はライブの関係者らしいな。その二人以外にも伝えろ、あんまりウロウロするなとな」

 

「わかりました」

 

 

 プロデューサーがそう返事するや否や、突然音楽が鳴り出した。横笛をなめらかに演奏した音が、辺りに響き渡る。そしてその音の発生源は、青年のつけていたベルトだった。

 

 

「行くぞ、変身‼︎」

 

《Altair form》

 

 

 彼がそう言ってベルトにカードのようなものを差し込むと、次の瞬間、メタリックグリーンの鎧と仮面をつけた外観になった。

 原理は知らないけど、昔のアニメや特撮のように、変身を終えたらしき場所には一人の騎士がいた。

 

 

「「最初に言っておく‼︎」」

 

 

 緑色の騎士と天狗さんの気迫に、怪物たちは恐れをあらわにしていた。

 

 

「「俺たちは」かーなーりッ強い‼︎」

 

「その通り‼︎」

 

 

 大剣を構えて威風堂々とメンチを切る彼らの行動に、私とアーニャちゃんは、思わず頬を染めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、申し訳ありませんが、息抜きでやっているので、更に亀更新となりますので、お待ちいただけると嬉しいです。

次は必ずハリポタを更新するので、お待ちいただけると幸いです。

それでは今回はこのへんで。

感想お待ちしております。




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