孤高の牡牛と星の灰被り姫 【完結】   作:シエロティエラ

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サブタイが違いますが、一応本編のつもりです。
ではどうぞ。


番外編
Счастливый bardey к вам


 

 

 さて、俺は今何をしているのだろうか。

 目の前には万の数は収容できそうな建物。ビルではなく、ドームのようなもの。そしてその周りに列をなして並んでいる、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの人々。皆それぞれ飾り付けた団扇やら光る棒やらを複数携え、入場用のピンクのチケットを片手に持ち、興奮したような面持(おもも)ちで並んでいる。

 それを敷地の端から、黒の革ジャンの胸ポケットに金色のチケットを入れ、片手に小さな袋を下げてただただ眺めている俺。本当に俺はなんでここにいるのだろう。

 

 

 

 

 

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 思い返すのは一週間前。

 その日は346の手伝いもなく、自宅でゼミの準備とカフェの手伝いをしていた。一番忙しい時間帯も過ぎ、テーブルを拭いて次の客に備えている時だった。

 

 

「いらっしゃいませ、お一人です…か…?」

 

「あっ。ユウトさん、こんにちわです!!」

 

「こんにちは、侑斗さん」

 

 

 店の扉が開く音がしたため、自分に出来る限りの営業用の顔で応対したが、目の前にいたのはまさかの人物たちだった。

 まずはアナスタシアと新田美波に。

 

「あれ? 桜井さん?」

 

「あっ!! 桜井さんだ!!」

 

「アーニャちゃんの言った通りでした!!」

 

 

 ニュージェネの三人に。

 

 

「あら、侑斗さんじゃない」

 

「あっ、本当だ★」

 

「ここってユー君の家なんだね☆」

 

 

 速水奏に城ケ崎姉妹の計8人が入店した。

 突然のことで頭の対応が追い付かず、思考を停止してしまう。いい加減なれるだろうって? 俺はそもそも厨房がメインで、接客なんて片手で数えるほどしかしてない。

 

 

「…? ユウトさん、大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ、問題ない」

 

 

 とりあえず現実に戻る。

 

 

「八人なら…この二つを付けるがいいか?」

 

「はい、大丈夫です。あっ、私手伝いますよ」

 

「ああ、助かる島村」

 

 

 幸い店内にほかに客はいなく、閉店までもあと一時間ほどだったため、母親の許可のもとに立札を『CLOSED』にかえ、島村と共に机を繋げる。

 繋げた机に椅子を八脚並べ、メニューを置く。

 

 

「注文が決まったら呼んでくれ」

 

「はい!!」

 

「ねぇねぇ、何がおいしいの?★」

 

「お勧めはねぇ…」

 

 

 和気藹々(わきあいあい)と自分たちの注文を決めるアイドル達。その楽しげな声を聴きながら俺は人数分の飲み物を用意する。流石に城ケ崎妹はジュースのほうがいいか。

 人数分のドリンクを用意し、机に向かったころには皆注文が決まったらしく、それから十分ほどで全員分の料理が用意された。

 …のだが。

 

 

「…なんで一人分多く用意されてるんだ?」

 

「何でって、侑斗も一緒に食べてきなよ」

 

「おい待て」

 

 

 この妹は何を考えている。俺にあの女子だけ空間に行けと? 待て、なぜお前たちもこっちを見ている。

 仕方なくトレーを持ち、机の端につく。皆がしゃべる様子をうかがいながら一人箸を進めていると、横から服を引っ張られる感触がした。視線を向けると、隣に座っていた城ケ崎妹がこちら見上げていた。

 

 

「…どうした?」

 

「うんっとね。ユー君は一週間後は暇?☆」

 

「来週末か? たしか何も予定はないはずだが」

 

「そっか、じゃあ好都合だね!!☆」

 

 

 好都合とはどういうことだ?

 そう思っていると城ケ崎妹とは逆側の袖、隣に座る本田未央が引っ張ってきた。

 

 

「じゃあはい、これどうぞ!!」

 

 

 そういって差し出してきたのは金色に光るチケット。見ただけでわかる、ライブのチケットだった。俺の記憶違いでなければ、普通のチケットはピンク色だったはずだが。特別なライブだからか?

 

 

「おー、これは私たちから、です。ユウトさんへのプレゼント、です」

 

 

 向かいに座るアナスタシアからプレゼントだと言われた。これを渡すということは、ライブに来てほしいということだろう。

 

 

「…わかった。見に行こう」

 

「「やったー!!」」

 

「よかった、です」

 

 

 俺の返答に各々反応を示すアイドル達、これは行かなかったときが恐ろしいな。

 

 

 

 

 

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 といったことがあったのが一週間前。結局ライブ会場に訪れたのだが、目の前の喧騒に参ってしまっている。せめて良太郎かハナがいれば何とかなったのだろうが、残念ながら今はいない。どうやら一人でこの場を切り抜けなければならないようだ。

 

 

「…いい加減覚悟を決めるか」

 

 

 黙っていてもしょうがないため、チケット確認の場に向かう。しかし半分もいかないうちに係員に呼び止められた。

 

 

「…すみませんお客様、チケットはお持ちですか?」

 

 

 なぜこの場で聞くのだろうか? 疑問に思いつつもポケットのチケットを取り出す。ついでに周りを見渡すと成程、あまりにも人が多いために先に確認し、通行証のようなものを付けられている人が大勢いた。

 確認した後に係員のほうに顔を戻すとその係員はチケットを見たとたん顔面を蒼白にし、口を半開きにした。

 

 

「こ、ここ、こ、これは…ッ!!」

 

「…なにか不都合が?」

 

「イエイエイエイエイエイエイエッ!! 滅相もございません!! どうぞこちらへ」

 

 

 妙に焦った声を出しながら案内された先は、メインの入り口から離れた場所に通された。このチケットはそんなに特別なものなのか?

 疑問に感じながら案内通り進むと、一般観客席とは異なる特別席のような場所に出た。他の観客の陰に隠れることなく、ステージを一望できる座席だった。

 成程、この金のチケットはこの特別席用のチケットだったのか。なら普通のとデザインが違うのも頷ける。荷物を座席のわきにおき、椅子に座って開演を待つ。アイドルのライブは前世の記憶を取り戻した時以来だ。今回も場が盛り上がることだろう。

 そうこう考えていると会場内のライトが落ちた。そろそろ開演か。ならば今は余計なことを考えず、静かに観るとしよう。

 

 

 

 ライブ中にイマジンが発生するという無粋なことも起こらず、ライブも終盤へと差し掛かる。

 LiPPS"から始まり、"LOVE LAIKA""CANDY ISLAND" 其々のソロ曲と続いて最後数曲の全体曲を残すばかりとなった。皆生き生きとした表情を浮かべ、歌い、踊っていた。灰被り姫(シンデレラ)はステージに立つことで光輝く姫(シンデレラ)へと変わる。346で一緒に仕事していた人の言葉だ。的を射ている表現だろう。

 

 

「…侑斗」

 

「…イマジンか?」

 

「ああ、ここから少し遠い」

 

「なら急ごう、せっかくこの席をとってくれた彼女たちのためにも」

 

「うん」

 

 

 荷物を手に取り、急いで外に出る。出口には既にゼロライナーが待機しており、中に入る。

 

 

「さて、早く済ませるぞ。変身!!」

 

≪Altair Form!!≫

 

 

 ベルトのチケットから形成されたエネルギーの鎧を纏い、仮面をつけてバイクにまたがる。

 

 

「デネブ、飛ばすからな」

 

「了解」

 

 

 ライナーを一気に加速させ、目的地に向かう。恐らく車で三十分ほどの場所にそいつはいた。

 前世ではもう一人の自分と野上と共に倒したレオイマジン、そいつがアウトレットの様な場所の広場で三体の手先と共に暴れていた。

 

 

「…そこまでだ、その辺にしておけ」

 

「あぁん? 誰だ貴様…まて、そのベルトは」

 

「今回は時間がないからな、端っから全力で行くぞ!!」

 

 

 ガッシャーを剣に変え、逆手に持って駆け出す。対するレオイマジンも部下三体を連れ、俺の四方を囲むように襲い掛かってきた。

 

 

「そらぁ!!」

 

「死ねぇ!!」

 

 

 各々ハルペーやらウォーハンマーやらを構え、俺にとびかかってくる。しかしあまり統率がとれておらず、チームワークがなっていない。

 

 

「しゃらくせぇ!!」

 

「ふんッ!!」

 

「ガァッ!?」

 

「何だと!?」  

 

 

 三人の部下はデネブと共にのし、手早く始末してからレオイマジンへと向かう。奴もモーニングスターを構え、こちらに対峙する。前世では奴に辛酸を舐めさせられたため、今回は油断を持たずに対応する。

 

 

「デネブ、行くぞ!!」

 

「了解!!」

 

≪Vega Form!!≫

 

 

 チケットを差し替え、ベガフォームへと変化する。やつに対応するには、これぐらいは必要である。

 

 

「そうか、お前はゼロノスか!! ならば丁度いい!!」

 

「そう簡単にやられるわけにはいかない!!」

 

 

 デネブ主導でイマジンに切りつけていく。奴の攻撃は一撃一撃が重たいが、一つ一つが大振りであるため避けるのはたやすい。しかし奴は前世でフルチャージの攻撃を二度も耐えた。用心にこしたことはない。

 何度も切りあい、何度も攻撃を防ぎあい、互いに傷をいくつも作りながらぶつかり合う。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

 

 互いに息をつく。お互いにボロボロで、奴は体中の傷口から塵を。俺は鎧の下で血を流している。前世と同じく、もう二度もチャージ攻撃を放ったが、やはり耐えた。

 

 

『ふぅ…こいつで最後だ』

 

「ぜぇ…何度やっても同じだ」

 

 

 流石にしぶとく、傷だらけながらもこちらを冷たくにらみつける。これは、使うしかないだろう。

 

 

『…デネブ、すまない』

 

「!? 侑斗、なにを!!」

 

 

 有無を言わさずに変身を解除する。突然変身を解いた俺にいぶかしげな視線を向けるレオイマジン。しかしそれを無視し、新たにカードを取り出す。そのカードには赤い文字が書かれている。

 

 

「悪いなデネブ。変身!!」

 

≪Charge and up!!≫

 

「侑斗!! まさか二枚目を!! 侑斗!?』

 

 

 銃に変化したデネブを構える。銃を構えた俺を見て警戒の色を濃くするレオイマジン、モーニングスターを構え直す。

 

 

「さぁ、行くぞ!!」

 

「そんなこけ脅しは通用しない!!」

 

 銃を構え、俺はイマジンに突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

「…? どうしたの、アーニャちゃん?」

 

 

 突然胸に去来した衝撃。嫌な予感が体を駆け巡る。ライブは成功に終わり、ファンたちも大盛り上がりであった。ただ途中で特別席をみたとき、最後のほうには侑斗さんの姿はなかった。

 もしかしたら、彼はまた変身しているのかもしれない。彼は変身による弊害はないと言っていたが、あれは嘘だろう。恐らく、私たちに心配させまいと嘘をついたと思う。

 

 

「もしかして…また侑斗さんが?」

 

「ミナミ…」

 

 

 ミナミは私の次にユウトさんに関わっていると思う。でもどうも私と違い、胸騒ぎというか、衝撃というか、そういったものがないみたいだ。

 

 

「…アーニャちゃん。桜井さんを信じよう。あの人は大丈夫」

 

「そうそう!! なんてったって桜井さんは強いから!!」

 

「リンさん、ミオさん。…そう、ですね」

 

 

 そうだ、彼を信じよう。彼の嘘はいずれ話してくれると信じて、今は彼の無事を祈るだけである。約束は守り、今日のライブにも来てくれたから。

 

 

「もし桜井さんをみつけたら、打ち上げに誘いませんか?」

 

「おっ、卯月ちゃんグッドアイデア!!★」

 

 

 確かに、それはいい考えだ。なら早く後片付けを済ませよう。

 それから十分ほどで片づけは終わり、今回のライブの関係者たちにプロデューサーと挨拶を済ませ、会場を後にする。既にファンは帰っているため閑散としていたが、たった一人、そこには人影があった。

 

 

「ユウト…さん」

 

「ん? …ああ、やっぱ終わっていたか」

 

 

 少し残念そうな顔をするユウトさん。あまり目立たないが、微妙に服のあちこちが赤い滲みができており、顔にも傷や腫れが確認できた。やはり戦っていたのだろう。

 欲を言えば彼にこれ以上戦ってほしくない。彼が傷つくのを見るたびに。彼が変身するのを見聞きするたびに不安になってしまう。いつか彼が永遠にいなくなってしまうのではないかと。

 

 

「侑斗さん、あれ持ってる?」

 

「…あれだけ言われたら持ってくる」

 

「よっし!! じゃあ今わたしちゃいなよ★」

 

 

 何やらミカさんとユウトさんが話した後、私にユウトさんが近寄ってきた。その手には一つの包みが握られている。

 

 

「ユウトさん?」

 

「あーその、なんだ。むぅ…」

 

「ほーら、はやく★」

 

 

 ユウトさんの後ろでミカさんが急かしている。そして一つ大きな息をつくと頬を掻きながらこちらに荷物を差し出してきた。

 

 

「あーうん…」

 

「ユウトさん?」

 

「…これ」

 

「え?」

 

 

 差し出してきた包みを受け取る。とっても小さな包み、しかしながら確かな重みを感じるものだった。

 

 

「…()()()()()()()()

 

「えっ!?」

 

 

 今彼はなんといった? 誕生日おめでとう? まさか、私の誕生日を祝っているのか?

 何でだろう。とても、とても体が、心が、温かいもので満たされていく。

 

 

「え? あ、おい。なんで泣いている」

 

「あ、え」

 

 

 目から溢れてくる暖かなもの。しかし胸の内にあるものは悲しみではなく、喜び。顔は自然と笑みが浮かび上がり、私は泣きながら笑っている。

 

 

「ありがとう、ございます、ユウトさん。これ、開けてもいいですか?」

 

「…ああ」

 

 

 ユウトさんの許可をもらい、包みを開ける。中に入っていたのは髪留めとブローチ。両方ともスバル星団をモチーフにされていた。

 

 

「…星が好きみたいだったからな。安直かもしれなかったが」

 

「いいえ、嬉しいです。とても、とてもうれしいです」

 

 

 恐らく、私は一番の笑顔を浮かべているだろう。自分でもわかる、ライブでも浮かべたことのない笑顔を浮かべてる自分がいることを。

 私は忘れないだろう。自分が慕っている人からのプレゼントが、これほどにも幸福を与えてくれるとは。

 

 

「アーニャちゃん16歳になったから、日本だと結婚できるね★」

 

「あっ本当だ!!」

 

「「えっ?」」

 

 

 ミカさんとシューコさんの言葉が聞こえる。

 結婚。ユウトさんと、結婚。それは…

 

 

「…ウフフ」

 

「え? あ、おい。アナスタシア、トリップするな戻ってこい」

 

 

 なんて幸せなことだろう。

 でも今はまだ思いを成就させることはできないだろう。彼は戦いに身を置く立場であり、他のことに気を回すことはできないだろう。そして私達はアイドル、彼にとっての所謂"表の世界"にいる人。

 でももし、このささやかな願いが叶うのなら。

 

 

「あれ~? 侑斗さん赤くなってる~?」

 

「ユー君真っ赤っか?☆」

 

「ぐ…そんなことはない」

 

 

 いつか、皆と、彼と、幸せな人生を歩めますように。

 

 

 

 

 

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 То, что они от времени рельса в оригинальной звездой счастья , я надеюсь .

 

 

 






以上です。
あと数話で牡牛は完結する予定です。
ではまた。いずれかの小説でお会いしましょう。



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