孤高の牡牛と星の灰被り姫 【完結】   作:シエロティエラ

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最終章第一幕
それではどうぞ。





極めつけのVega Altair/もっともっと抱きしめて

 

 

 スーパーショッカーによる世界征服宣言より早五日。この世界のライダーたちは光写真館に集まっていた。具体的には二日後の奴らの進撃に対する最終確認のようなものだ。

 奴らからまた律儀に襲撃場所まで俺たちにしてきたため、当日どのような編成で行くかの話し合いである。幸い実家のカフェや新居には遠い場所で戦闘が起こるため、家族が巻き込まれる心配はないだろう。だが戦場近くの住人等はそうもいかないため、出来るだけ被害が出ないようにしなければならないのだが。

 

 

「そう言えば、お前のその魔術ってやつでは隔離できないのか?」

 

「隔離は出来ると思う。だがそれでも範囲があるし張った後に出てきた奴は無理だ。それに張ってる最中は外の様子がわからん」

 

「そうか」

 

 

 流石に全く違う世界の力と言えど、そこまで都合よくはいかないか。

 

 

「それに結界内に入れたとしても、俺たちと同じ力持ってるやつがいれば簡単に脱出できるぞ?」

 

「うん。僕らの世界を渡る力はその場からの離脱にも使えるから」

 

 

 そう言えば、奴らはディケイドやディエンドと同じように世界を渡ることが出来たのだったな。ならば結局できることと言えば、数が増えすぎる前に雑魚を撃破していき、最後に出張ってきた幹部を撃破。そして可能であるならばスーパーショッカーの組織自体を壊滅させる。これが俺たちの今回のミッションだ。

 そして本物の鳴滝曰く、今回の首謀者であるアポロガイストは、過去にXライダーと戦ったり、ディケイドと戦ったやつとは全くの別者らしい。見てくれや扱う武器、戦い方はアポロガイストのそれだが、別人のようだ。

 その証拠というわけではないが、地獄大使やイカデビルなどショッカーの有名どころの幹部と争うことはしばしば会ったらしく、今回のスーパーショッカーというのは、大元のショッカーから出て行ったアポロガイストが新たに作り上げた組織らしい。そのためか、真ショッカーとでもいうべき組織からは敵視されているそうだ。

 

 

「新造の組織とはいえ、作られてから結構な時間が経過している。相手の戦力は未知数、決して少なくないだろう」

 

「僕と士はこれからちょっと出てくる。二日後に現地で落ち合おう」

 

「ユウスケと夏ミカンは現地の地理把握をしといてくれ」

 

 

 海東と門矢はそういうと、灰色のオーロラの向こうに消えていった。しかし出かけるとはいったいどこに行くのだろうか? まぁ当日に間に合うのであれば問題ないか。

 とふと並行世界の魔術使い、エミヤの方に顔を向けると、何やら掌大の虹の宝石に向かって何やら話しかけていた。どうやら重要なことを話しているらしい。しばらく黙って見つめていると、やがて宝玉は一度眩い光を放ち、一枚のカードを輩出した。

 

 

「……クラスカード・アーチャー。確かに受け取った、師匠」

 

 

 一言ぼそりと呟くと、そのカードを持ったまま彼は立ち上がった。ポケットにカードを入れ、背もたれにかけてあった灰色の薄手のロングコートを羽織ると、出口に写真館の出口に向かっていった。

 

 

「俺も現地集合で頼む。今は早くアーチャー(こいつ)に慣れないといけないから」

 

 

 そう言ったエミヤは、足早に写真館から出て行った。そのタイミングでお盆を持った館長、光栄次郎殿がやってくる。彼は死神博士の人格を有しているが、今回は表層化していないために人畜無害な年配といったところだろう。

 

 

「コーヒー入りましたよ。おや、三人ほどいない?」

 

「あっ、栄次郎さんありがとうございます」

 

「おじいちゃん。士君や海東さん、衛宮さんは今日から二日は帰ってこないみたいです」

 

「そうなのかい? 残念だねぇ」

 

 

 軽い会話をしながらコーヒーを配膳してくださる栄次郎殿。彼のコーヒーはアーニャや母のと同様、砂糖を入れなくても飲むことが出来る。そんなコーヒーを飲んでいると、ポケットの携帯が振動する。俺の番号を知っているのはアーニャと職場の人間、あとは家族だけだ。職場の同僚からだろうか?

 

 

「はい?」

 

『あっ、ユウトさん今大丈夫ですか?』

 

 

 アーニャからだった。結婚してもこの呼び方は変わらず、そしてアイドルから女性歌手へと転身して芸能活動を続けている。相変わらず所属は346だが、アイドルは卒業しても後輩や同期と仲良くなっているみたいだ。

 

 

「ああ、大丈夫だ」

 

『Да, 今晩ミナミとミクが来るのですが、いいですか?』

 

「わかった。買ってくるものはあるか?」

 

『えっと、――と――と――いいですか?』

 

「問題ない」

 

 

 それから軽く言葉を交わし、電話を切る。まぁ二日後には戦いが迫っているのだ、一人でいるよりも気心が知れている間柄のものと一緒にいるほうが、精神的にも楽だろう。

 一人そう考えながら残りのコーヒーを啜っていると、何やら視線を感じる。顔を上げると光夏美が羨ましそうに、小野寺ユウスケがニヤニヤと、そして栄次郎殿は微笑ましそうに俺を見ていた。

 

 

「……なにか?」

 

「いえいえ、奥さんとは上手くいってるようで」

 

「……ええ」

 

 

 成程、先ほどの会話のことか。どうでもいいが、小野寺のニヤニヤ笑いは少々イライラする。まぁいい。妻の頼みもあるし、そろそろお暇するとしよう。

 

 

「栄次郎さん、コーヒーご馳走様でした」

 

「お粗末様。またいらっしゃい」

 

「ええ、必ず」

 

 

 挨拶も程々に、俺は写真館を後にした。さて、帰りにスーパーにでも寄ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーニャちゃん、元気?」

 

「お邪魔しますにゃ」

 

「ミナミ、ミク。いらっしゃい」

 

 

 今日は結婚式の日ぶりに友人に会う。二人とも私がアイドルだった時からの付き合いだ。もう7年の付き合いになる二人には、本当にお世話になった。

 ミナミとのユニットは解消されたけど、彼女と歌ったり一緒の番組に出たりすることは今でもある。ミナミもミクもアイドルを卒業し、ミナミは女優に、ミクはタレントになって今でも活躍している。

 今日は二人ともオフだそうで、遊びに来ることになった。顔を合わせることは結構あるけど、お互いに遊びに行くことはここしばらくなかった。だから今日は食事も一緒にしようと思う。

 

 

「それで、どんな感じにゃ?」

 

「おー?」

 

「桜井さんとはムフフなのかにゃ?」

 

「ちょっと、みくちゃん!?」

 

 

 ミナミが慌ててミクを止める。このやり取りも懐かしい。私たちは楽しくおしゃべりをしながら、夕食の準備に取り掛かった。ユウトさんに頼んだ材料は最後の仕上げに必要なもののため、途中までは作ることが出来る。私たちは三人でそれぞれ一品ずつ作ることにし、それぞれ下拵えに取り掛かった。

 

 午後七時ごろ。ユウトさんも無事帰宅し、全員で料理に舌鼓をうった後、私たちは女性だけで会話をしていた。ユウトさんは報告書を仕上げに書斎に行ったため、この場にはいない。

 

 

「そう言えばアーニャちゃん」

 

 

 ミナミが真剣な顔をしてこちらを見つめてきた。たぶん明後日のことだろう。ミクも真剣な顔をしている。

 

 

「その……明後日侑斗さんは……」

 

「Да. ユウトさんは、明後日も戦います」

 

「そう……なんだ」

 

 

 スーパーショッカーという団体の電波ジャックがあった後、自宅でユウトさんとゆっくりしていると、明後日の侵略に関する通知のような手紙が届いた。その日はその団体が攻めてくるということで、ほとんどの人は自宅で待機するように国からの通達があった。

 そしてその直後、ショッカーがどこから攻めるかを部下を通じて知らせに来た。それほど勝つことに自信があるのだろう。堂々と今後の行動を知らせに来た。

 

 

「アーニャちゃんは、不安だよね?」

 

「はい。正直に言うと、帰ってこなくなるのではと、不安です」

 

「そう、だよね」

 

 

 また三人とも黙りこくり、お茶を飲む音だけが部屋を支配する。暫くちびちびとミルクティーを呑んでいたが、私は一息ついて口を開いた。

 

 

「でも、だいじょうぶ。ユウトさんは、帰ってくるって、言ってました」

 

「「え?」」

 

「だから私は、ユウトさんを信じます」

 

 

 確かに不安だ、でもだからと言って夫を信じることをしないのか。それは違うと思う。不安であるからこそ、彼と交わした約束を、彼が言った言葉を、彼を信じるのだ。

 私は戦えない。仮令ついていったとしても、足手まとい以下の邪魔にしかならない。ならば私は彼が安心できるように、安らげるように支えることが大切だと思う。二日後の戦いに、万全の状態で臨めるように支えることが私のすべきことだ。

 

 

「だから私もユウトさんも、大丈夫です!!」

 

「……そっか」

 

「アーニャちゃんはすごいね」

 

 

 二人は微笑みながら私を見つめる。それから私は二人と楽しくしゃべりながら、夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残り枚数は……ベガが1枚にゼロが一枚。この半年は敵襲が多かったからな」

 

 

 チケットの残り枚数が非常に心もとない。ハッキリ言ってしまえば、この二枚が俺の命を握っている。

 アーニャには俺の変身の代償は話した。勿論その時彼女は泣いた。しかし俺にかけられた言葉は凶弾ではなく、謝罪だった。自分じゃ肩代わりできないと、一緒に背負うことが出来ないのが悔しいと言っていた。その言葉だけで十分だった。それに、当時は彼女が笑顔を浮かべてくれるのならば、それだけで命を懸ける理由は十分だった。

 しかし半年前から、俺は戦いつつも自身の生存を優先するようになった。彼女の両親の言う通り、帰る場所が、待ってくれる人がいるだけでこうも自分が変わるとは思わなかった。

 

 

「……感謝の言葉しかないな」

 

 

 闘いは二日後。俺一人ではなく、心強い味方もたくさんいる。スーパーショッカーなんざにこの世界を、彼女が笑顔でいれる世界を失わせはしない。

 

 

 

 






――アーニャちゃん、どうしたの?
――吐き気!?
――大丈夫?
――侑斗さん呼んでくる?
――呼ばなくていいの?
――でもどうして突然吐き気なんか。
――待って。これってもしかして。



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