それではどうぞ。
「……というと、君はずっと戦ってきたのか。たまに国際ニュースで騒がれていた、日本のモンスター騒動を解決していたのは君なのか」
現在俺はアーニャの両親と共に、ホテルの待合室で話をしている。まぁ娘の関係者が、まさか死と隣り合わせの戦闘をやっているとは夢にも思わないだろう。言わば自分たちの娘が、いつ何時俺の事情に巻き込まれるか、一切安心できない。
さて、アーニャは門限等の問題もあるために寮に帰し、俺たち以外いないロビーは全員黙ったことでより静けさを体感することになった。この静寂の中、アーニャの両親はこちらを見つめつつも何かを考えていた。
「……あの」
「うん? 何かね?」
お互い黙っていては埒も開かないため、俺から口を開いた。
「アナスタシアが……彼女が巻き込まれたことには少なからず自分に責任があります。そのことについて、私は否定することはありません」
「ちょっ!? ユウト君、何を……」
「本来であればこのような立場に身を置いている時点で、日常の世界にいる者の近くにいるべきではなかった。今からでも……」
「ちょっと待ちなさい、落ち着いて!!」
すぐにでもアーニャの許から去るようにしようと、彼女の安全のために申し出ようとしたが、父親の方に止められてしまった。見ると、ご両親ともこちらを驚愕の目で見ている
俺は何か間違えた判断をしたのだろうか?
「ユウト君は何か勘違いしていないかね? 私たちは別に君を娘から離そうとは思ってないよ」
「……は?」
「寧ろ私たちはお礼を言わないと。あなたがその仮面の戦士であるのなら、あなたは何度も娘を救ってくれたのだから」
そう……なのか。
うん? 今何といった?
「すみません……まさかあの子は怪人のことを話したのですか?」
「ええ、ユウト君のことは伏せて」
「それとこうも書いてましたね。何か君が隠し事をしていると、それも何か重要なことを」
「ッ!?」
やはりというべきか、彼女は気づいているのか。このまま戦い続ければ、いずれ俺が――のを。
「まぁいいさ。君はちゃんと話すつもりなのだろう?」
「ええ……必ず」
父親からの問いかけに、俺はハッキリと返事をする。いずれ話すことに関しては、前々から決めていた。今回はその時期が少し早くなっただけだ。どのみちアポロガイストの計画を阻止しなければ、生き残ったとしても意味がないだろう。
「……ところで侑斗さん」
「何でしょうか?」
彼女の母親から話しかけられた。その顔は微笑みを浮かべており、いったい何を考えているかわからない。ただひとつ言うとすれば、目が楽しそうに光っていた。
「式はいつかしら?」
「……は?」
この人は何を言っているのだ?
「孫の顔が早く見たいわぁ」
「話が急すぎませんか?」
「私は娘夫婦と孫と一緒に住むのが夢でねぇ。そのためなら日本に越すことも厭わないよ」
「夫婦揃って何を言っているんだ!?」
この人たちは自分らが何を言っているのかわかっているのか? いつ死ぬかわからない俺に何故娘を任せようとしている?
「再度言いますが、俺はいつ死んでも可笑しくない。なのに何故?」
「あの子が選んだからさ」
余りにも簡潔になった答えに俺は絶句した。娘を大切に思っている、俺の近くにいると危険である。それ以外にも様々な要素が絡む中で、この夫婦は娘と俺が共に在ることを望んでいるのだ。
自然と態度が改まり、彼らの顔をまあ正面から見つめる体制になる。彼らも俺の態度が変わったことを察したのか、自然と改まった姿勢を取った。
「確かに娘のことは心配だ」
父親のほうが先に口を開いた。
「危険なことが無いのが一番だ。余程性根の腐った人間でなければ、仮令子供を捨てるとしても、子供の幸せを願わない親はいない」
「あの子は危険を承知で君と共にいる。その覚悟がわからない侑斗さんじゃないでしょう?」
「……はい」
「それに、貴方はあの子に危害を加えさせるつもりはないでしょう?」
母親から信頼を寄せるような言葉をかけられる。というか今日初めて会うのに、随分と俺を信用しているようだ。いや、あの子の親と考えるとこれが自然なのか?
「それに、今のままの中途半端な関係ではなく、何かしらの形で今の関係性に区切りをつけたほうがいいと思うよ。身を固めれば、自分の身も大切にできるのではないかな?」
「帰る場所があるというのは、それだけで人は生きる目的が出来るものよ?」
父親はあくまで冷静に、母親は絶えず微笑みを浮かべて俺を諭す。いや、わかってはいた。こうもいつまでもウダウダト中途半端な関係をつづけるわけにはいかないことを。しかし仮に俺とあの子の関係が変わるとして、俺は兎も角彼女はアイドルだ。どのように転がろうと、仮令346が恋愛推奨だったとしても、少なくない世間の心無い言葉の襲撃を受けることになるだろう。
だが……はぁ。
いい加減そろそろ腹を括るか。
「……覚悟は決まった様だね?」
「……はい」
「わかった。よければ聞いてもいいかい?」
「俺は……」
◆
季節は移って半年ほど経過した春。桜の花も散り、紫陽花が咲き誇るころ頃、晴れ渡る空のもとに一つの教会で鐘が鳴り響いていた。花婿は真っ白なタキシードにダークグリーンのポケットチーフを着用し、花嫁は所々雪と星の刺繍があしらわれたドレスに身を包んでいる。花婿の顔は緊張に固まっており、花嫁は幸福を隠そうともせぬまま、教会の中から出てきた。
二人の前方ではたくさんの人々が――女性が多い――二人に祝福の言葉を送っていた。そよ風が吹く中投げられたブーケは、彼女の後輩の手に渡る。そしてその後輩を軽く揶揄ってはいるものの、周りの者も、主役の二人も幸せそうに微笑む。
集団から少し離れたところには赤、青、黄、紫、白の者達が並び眺めており、そのそばには一人の壮年から中年ほどの男性が、これまたその場にあるはずのない電車の前に立っていた。
「……記憶こそが時間。そして、それこそが人を支える。誰の記憶を頼ることはない、彼が共に過ごした記憶と時間は、彼をこの世界に存在させる」
小声で呟かれた男性の言葉は、果たして誰かに聞こえたのだろうか。
小さく微笑みながら男性は電車に乗った。そして動き始めた列車は一度大きく汽笛を鳴らし、空間に生じた隙間へと消えていった。
――全世界の人間よ、聞こえるか。今我々は全世界のあらゆる回線をジャックし、この映像を送っている。
――我々はスーパーショッカー、この地球の支配者となる組織である。
――我々はこれより、地球の制服を始める。生半可な兵器では、我々を鎮圧は出来ないと思え。
――まずは手始めに日本から征服する。開始は一週間後、抵抗は無駄だ。
今回過程等が省かれて、いきなりこのような結果になりました。
次回からクライマックスに入る関係上、どうしても省かざるを得ませんでした。省いた部分はいずれ番外で書きます。
そしてこれの後ですが、実は本作の続きとした案が出来ていたり。
しかしまぁこれが終わると、暫くは他二作品に集中するので、書き始めるのはまだまだ先です。
では今回はこのへんで。また次回。