更新です。
ちょっと纏まりのない回で、かつちょっと加速気味の回です。
ではどうぞ
蹂躙。目の前で起こっている状況を表現するには、その言葉が一番しっくりくる。
其々が担当した怪人たちを相手にしているんだが、ロイミュードとインベス、そしてファントムは無数の槍によって蹂躙されていく。無数の槍は持ち手はおらず、一人でに空中に上がり、雨のように怪人たちに降り注ぐ。
「こいつは…」
「世界を作っただけでもすごいのに、本当に魔法の様だ」
ディケイドとディエンドの二人がつぶやく。だがその気持ちもわかる。
ウィザードのように指輪を使って魔法を使うのならともかく、この青年、衛宮は詠唱と手の動きだけですべてを行う。本人は自らを魔術師と言い、魔法使いではないと腫脹しているが、俺たちからしてみれば、こいつのやってることこそが魔法使いだと思える。
「さぁお片付けだ。――
衛宮が一言唱えると、怪人たちに刺さった槍は一斉に爆発し、怪人たちに大きなダメージを与えた。ロイミュードやファントムたちは痛みに呻き、インベスはのたうち回っている。
と、ここで衛宮は少し後ろに下がり、クラウチングスタートのような態勢をとった。途端禍々しい輝きの増す朱槍。その毒々しいまでの輝きは見る者を魅了し、貪るように何かを食らっていく。そして輝きが最高潮に達したとき、衛宮は俯けていた顔を上げた。
「…行くぜ。この一撃、手向けとして受け取るといい」
そうつぶやくと同時に、555のアクセルモードに比肩するほどのスピードで駆け出し、俺たちライダーを軽く超すジャンプ力で空中に飛びあがった。彼はそのまま体を弓のように逸らしながら反転し、足に槍を持って頭を下にした。
昔、幼少のころに呼んだ神話で見たことがある。ある槍の名手は、投擲の際に足で投げていたと。
「なるほど。だからクー・フーリンなのか」
「じゃああの赤い槍はアレで間違いないね」
全身の筋肉が盛り上がり、血管が浮き、槍先に得体のしれない力が凝集する。
「〆の一つ、喰らいやがれ。――
そしてまるで矢のように放たれた朱槍。槍は怪人たちに向かって真っすぐ飛んでいく。そして槍は10になり、20になり、30に分かれて怪人たちの心臓部や核を一寸たりともズレずに穿った。
爆発も起こさず、末期の声を上げることもなく、怪人たちは全て塵へと還った。圧倒的、としか言いようがない。俺たちライダーが複数人いないと苦労する怪人の集団が、ほんの数分で、たった一人によって駆逐されてしまった。
「……まるで破壊兵器だ」
「ライダー以上の脅威になりそうだね」
衛宮のオーバーキル気味の攻撃を目撃し、怪人、ライダーともに動きを止めてしまっていた。槍がひとりでに衛宮の元に戻ると、衛宮から光るカードが排出され、元の真っ黒の出で立ちに戻った。
同時に先に気づいた俺たちライダーが攻撃を再開し、怪人たちは後退を始める。怪人の数も随分と減り、残るはグロンギ2体、ファンガイア5体、バーナクルオルフェノクにグールが数体、モールイマジンとスパイダーイマジンが1体ずつと、もうすぐに殲滅できる。
「それじゃあ、片づけるか」
「そうだね。彼ほどは派手じゃないけど」
≪Final Attack Ride,≫
≪DE-DE-DE-DECADE!!≫ ≪DI-DI-DI-DIEND!!≫
≪Full Charge!!≫
俺たちは其々が必殺技を放つ準備に入る。大技を放った衛宮は流石にガス欠らしく、今は世界の維持だけに勤めていた。ディケイドの担当怪人たちの周囲をエネルギーの複数の壁が取り囲み、ディエンドの銃口の先にカードの集まった特大の砲台が形成され、俺のガッシャーの矢じりと弓にエネルギーが凝集する。
「…ハァ!!」
まずはディケイドがアクションを起こす。壁の内一つに飛び込むと、瞬間移動を繰り返すがごとく壁と壁を移動し、エネルギーを纏った蹴りを怪人たちに浴びせる。蹴りを何度も浴びた怪人たちは断末魔の声をあげ、爆散する。
ディエンドが担当した怪人たちも、ディエンドの極大の砲撃によって爆散し、イマジンたちも俺の連射によって全て爆散した。
全ての怪人たちが爆散すると同時に世界は再び壊れ、最初にいた天文台の近くに戻ってきた。相当エネルギーを使ったのだろう、比較的ピンピンしている俺たちライダーとは異なり、衛宮は地面に座り込んで大きく息をついていた。
「…大丈夫か?」
「ハァ…ハァ…ああ、問題ない。飯食って休めばいいぜ」
「そうか」
一応門矢が確認をとるが、とりあえず心配はなさそうだ。だが一つ違和感がある。
「お前、そのしゃべり方は素じゃないな?」
「……まったく、やっぱ父さんほど上手くはいかないか。とりあえず少しだけ言っておく。改めて俺は衛宮・E・剣吾。並行世界出身の魔術師で22歳だ」
本人はうまくやってるつもりだったろうが、しゃべり方に違和感があった。どうやらわざとおちゃらけた態度をとり、相手に自分を悟らせないようにしていたらしい。
まぁとりあえず、一旦の危機は去ったため、一息つくことにした。最初にドンパチ戦ったのは時間干渉によるものではないため、もしかしたら同僚が通報をしているかもしれない。
「侑斗~!!」
「ユウトさーん!!」
建物の陰からデネブとアナ…アーニャが走り出てくる。他の職員の影がないことから、まだ大事にはなっていないようだ。
「デネブ。状況は」
「とりあえず今回の騒動についてはまだ気づかれていない。だからアーニャと侑斗には普段通り仕事をしてもらう」
「わかった。その間門矢たちはどうするんだ」
「彼らはゼロライナーに乗って、オーナーと会ってもらう。デンライナーのオーナーが呼んでる」
「わかった」
とりあえず俺とアーニャはいつも通り仕事をし、その間門矢たちはデンライナーで双方確認をとることになったため、それぞれの場所に向かった。が、仕事中アーニャやそれ以外に来ていた
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アーニャたちの仕事も終わり、俺が今日すべきだった仕事も終え、俺は自宅へと戻った。やはりというべきか部屋の電気はついており、中でせわしなく誰かが動いているのが窺えた。恐らくデネブかアーニャあたりがいるのだろう。まぁ多少の人は入るようになっているため、問題はあまりない。
しかし扉を開けると、予想外の量の靴があった。自分のもしもの時のためのスーツとアーニャの靴はまだわかる。だがそれ以外に5人分の靴が玄関にあった。いや、3人分は見覚えがある。なにせ少し前に共闘したのだから。
残り2人分の靴の持ち主を知るべく部屋に入ると、狭い部屋に所狭しと人が座っていた。既に皆は夕食を済ませているらしく、食後のお茶となっているようだった。というか、ここ俺の部屋なんだが。
「ああ桜井侑斗、部屋借りてるぞ」
「このコーヒーおいしいね。この世界のお宝はこのコーヒー豆の調合レシピに決まりだ」
「ちょっと二人とも、まずは挨拶が先ですよ」
「そうだね。俺は小野寺ユウスケ、一応ライダーの一人だ」
いや、いっぺんに喋られても困る。というかお前等人の部屋で寛いでんじゃない。
「ユウトさん、ご飯食べましたか? まだなら作ってますよ」
「……食べる」
「Да♪」
とりあえず飯を食う。腹が減ってはなんとやらである。
鼻歌を歌いながら夕食の準備をするアーニャの後ろ姿を見て、柄にもなく感慨にふける。初めて出会ったときはまだ15歳の少女だった。日本語もたどたどしく、コミュニケーションをとるにも時間がかかった。
それが今や純粋な日本人と遜色のない日本語を喋り、トップアイドルとなって歌以外の活躍も増え、俺がプロデューサー助手をやっていた当初よりも仕事が増えている。"LOVE LAIKA"としての活動も盛んに行っており、新田共々多忙な毎日を過ごしているらしい。
俺よりもハードな毎日を過ごしているのに、時間を見つけては俺のところに来るアーニャを、俺はどう思っているのだろうか? 健気な少女から大人の女性へと変わりゆく彼女を、親と仲間の次に近くで見てきた。
彼女が俺に好意を持っているのは伝わっている。それが子供心による懐きではなく、本当の親愛の情であることを。そんな彼女に、俺は未だに変身の代償について、本当のことを話していない。恐らく彼女は気づいているだろうが、それでも俺の口から離さねばならない。俺は臆病な人間なのだろう。己が信実を放すことが出来ず、また彼女の想いにもこたえることが出来ず。だが予感がする。今回のアポロガイストの一件で俺たちの何かが変わると。
「ユウトさん、どうぞです」
「…すまんな」
とりあえず今は食べよう。話はそれからだ。門矢と海東以外の二人のことも並行世界の魔術師の話も、全ては夕食の後にしよう。
はい、ここまでです。
次回以降情報の照らし合わせと、クライマックスに向けて話を進めていきます。そして侑斗とアーニャの関係も描写していこうと思っております。
そしてメイン小説のキャラである剣吾君ですが、今回の世界移動の出来事は、今連載中の4巻から7巻までに起きたことです。
ですので、素の状態の彼は、メイン小説の時よりも落ち着いた人間になっています。
それではまた。