今回はバトル描写がありませんので悪しからず。
ではどうぞ。
場所は移ってゼロライナーの中、本来なら俺とデネブ以外は入れてはならないのだが、あのまま現場に残すと面倒なことになるのは目に見えているため、良太郎とハナ、そして美城の専務と武内さん、仕事で来ていたラブライカの二人と鷺沢には特別に乗車させた。
そして現在、なぜか花の前で正座している俺。それ以外のメンツはデネブの作った昼食やデザートに舌鼓をうっている。俺も飯はまだなんだが。
「侑斗、こっち向いて」
「……」
さて、ここでハナに逆らい、俺も飯に手を付けたとしよう。そうなるとどうなるか。
答えは至極簡単、ハナのイマジンをもダメージ込みで吹っ飛ばす飛び蹴りを食らうことになる。即ち、怒っているハナには逆らわないのが一番。
「ねぇ侑斗、さっきのはどういうこと?」
「…さっきの、とは」
「とぼけないで。この電車といい、おデブちゃんが悪くなったような異形といい、挙句の果てに変身する侑斗。事細かには無理だろうけど、納得のいく説明はしてもらうからね」
さて、どう説明するか。仮にこの場にハナだけしかいなければ、ある程度の事情は話すことが出来ただろう。ハナは聡い妹だ。だが346プロの人たちなどがいるこの場では、どこまで話すのか迷っていしまう。
…そうだな。
「…ある程度分かっているだろうが、イマジンたちがこの時間に発生しているんだ。イマジンの説明はデネブを紹介するときにしたから割愛するぞ」
それから俺は簡単に今の俺の状況を説明した。ゼロライナーのこと、ゼロノスのこと、現時点で大量発生したイマジンの被害を留めるには、俺ゼロノスになって奴らを倒す以外ないこと。本音を言えば戦わないに越したことはない。しかし全てのイマジンがデネブやモモタロス達のようではない。寧ろ、今回のバットイマジンのようなものが大半である。
およそ一時間ほどかけて事情説明を行った後、俺はようやく昼食にありつけた。精神的にも肉体的にも披露していたこともあり、今回ばかりは嫌いな椎茸も残さずに食べた。
そして食後のお茶を飲んでいるところに、良太郎から話しかけられた。
「ところで侑斗」
「なんだ?」
「ゼロノスってその、チケットっていうのを使うんでしょう?」
「ああ、そうだが」
まさか良太郎から爆弾を投げてくるとは予想だにしてなかった。
「話を聞いた限り、チケット使うには何かしら対価が必要なんじゃないの?」
「……」
完全に失念していた。前世の野上よりもこいつは頭の回転が早い。
「さっき変身を解除したとき、目元を抑えてよろけたのが関係してる?」
「……」
野上の質問に興味を、或いは疑念を抱いた皆がこちらに視線を向ける。特にハナと、なぜかアナスタシアの視線が一番突き刺さる。二人とも強い疑念を込めた目でこちらを見つめる。助けを求めようにも、デネブはキッチンに籠っているため、ここにはいない。
俺のこの世界における変身の代償、それは俺の存在そのもの。
変身後、もしくはチケットを全て消費しても皆から俺の記憶は消えない。しかし、俺はチケットを使用するたびに世界から認識されなくなる。そして今あるチケットをすべて使用した暁には、俺の存在はこの世界から焼失し、魂は輪廻の輪に戻っていく。
しかしそれを話すわけにはいかない。俺が早くて今年中に死ぬと話してみよう、パニックどころではなくなるのは目に見えている。
「……確かにあるが、そんな大層なものではない」
「というと?」
「ええ、変身の代償は俺の生命力。一回の変身で失った分は良く寝てよく食べれば回復する」
「本当に?」
「ユウトさん。嘘じゃない、ですよね?」
俺の返答に反応する美城の面々、特にアナスタシアが強く確認をとってくる。専務は先ほどから黙りこくっているが。
「…ユウトさん?」
「ああ、本当だ」
「……そうですか、良かったです」
そういって邪気のない、無垢な顔でほほ笑むアナスタシア。その純粋な笑顔を見ると、嘘をついたことに心が痛む。だが無駄に心配させるよりかはいいはずだ。嘘も方便、だ。
◆
空気が軽くなったところでライナーを操縦し、イマジンを倒した直後時間帯、宿の近くにライナーを停車させ、皆を下した。どうやら彼らが使っている宿も俺たちと同じだったらしい。というわけで、今は俺たちの部屋で皆で茶を飲んでいる。ちなみにいうと、残り一人の同級生は、急用だとかで帰った。
それにしても……
「~♪」
いやに機嫌のいいアナスタシアが俺の左隣に座っている。そして俺の向かいには新田と鷺沢、良太郎。右隣にはハナが座っており、なぜかアナスタシアに対抗心を抱いているような様子。お前そんなキャラじゃあ無かっただろう?
専務は何やら電話のために席を外し、武内さんは打ち合わせなどでこれまた席を外している。デネブは…皆の茶や茶菓子を補充したりしている。ここでもお前は家政夫になるのか。
と、専務と武内さんが戻ってきた。
「お待たせしました。まずは三人の仕事の方針について説明します」
「あ、はい」
「?」
説明を始める前に退室しようとしたが、なぜか武内さんに止められた俺含めた一般人の三人。聞かれちゃまずいのでは?
「今回の仕事ですが、続行することが決まりました」
「「ッ!?」」
「あれほどのことがあったのにですか?」
普通怪物が暴れるようなことがあればニュースになるし、仕事も中止になるだろう。だがこの世界に蔓延るイマジンの場合、その限りではなかった。彼らが影響を及ぼすのは時間だけと言っても過言ではなく、原因となるイマジンを倒した場合、その時間は修復されるため、塵にされた人以外は全て修復される。そしてイマジンに殺された人間は、殺されたことや存在がなくなったことすら認知されない。要するに、何事もなかったかのような扱いになる。
「ええ。先ほど現場を見に行きましたが、まるで怪物騒動が無かったかのような状態です。そもそも怪物が出なかったような状態で、向こうさんも怪人のことは知らないようでしたから」
「…わかりました」
「私も、仕事をします」
「Да、アーニャもです」
三人は仕事をすることにしたようだ。精神面はとても強いらしい。
「そして桜井さん、あなたにはお礼を」
専務と武内さんが居住まいを正し、俺の前に座ったので、自然と俺も背筋が伸びる。
「この度はうちのアイドル、そして私たちのことを二度も救ってくださり、ありがとうございます」
「こうして仕事を行えるのも、貴方が騒動を解決してくれたおかげ。本当に感謝しております」
頭を下げる二人の大人、それに合わせるように頭を下げる、三人のアイドル。前世を含め、ゼロノスに変身した後に感謝されたことはあまりなかった。そのせいか、今のこの状況に脳の処理が追い付かない。
しかし確実に、自分の胸に去来する一つの感覚・感情が存在した。
嗚呼、なんと心地よいのだろうか。
「いえ…お気になさらずに。俺がそうしたかっただけなので」
自然とこの言葉が出てきたのも、この胸中のぬくもりが発端なのだろう。
はい、ここまでです。
グダグダになってしまい、申し訳ありません。そしてついでに言えば、次話はまた時間が飛びます。
その語られない帰還に武内Pと専務から、侑斗は何度もスカウトを受けました。二十歳とはいえ、彼は大学三年生ですので、就活なども来ますしね。侑斗は答えを保留にしている、という状況から次話は始めたいと思います。
それではまた。次回はハリポタの更新をします。