僕と姉貴の非日常   作:宵闇@ねこまんま

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天まで届く羽―会長のお宅訪問―

001

 

5月21日土曜日

 

僕の休日の過ごし方は、基本的には家にいることだ。

 

家で姉貴をいじるか、引きこもるか。

 

最近のマイブームはゲームである。

 

モ○ハンが楽しくてしょうがない。

 

とまぁ僕の休日について語ったが、これはただの現実逃避だという真実は隠せないだろう。

 

あぁそうさ。

 

僕こと梛川神音は現実逃避に走ろうとしてる愚かな一般人なのだ。

 

だってよ……

 

――何で休日に生徒会長に会わなきゃいけないんだ!?

 

前々からちょくちょく訪ねてくるが、もう…『うざい』としか言えない。

 

生徒会長は姉貴と同じクラス。

 

だから引きこもり気味(行ける時は行くよ?)の姉貴にいろいろ教えなきゃいけないらしい。

 

まぁ、そんなものただの『口実』だろうが…

 

少し話題を変えよう。

 

生徒会長には噂がたくさんある。

 

もちろんあからさまに嘘なものなどもあるが、大抵は本当だ。

 

実家はいろんな意味で『ヤバい』、とか。

 

実の兄は人喰い虎と喧嘩する、とか。

 

そんな噂のひとつ。

 

『生徒会長はすごい情報通である』

 

これは極めて近いが少し異なる。

 

真実はこうだ。

 

『生徒会長は裏の世界では知らぬものはいないほど、有名な情報屋である』と。

 

情報屋って目立って良いのかと言うと、たぶんよろしくないのだろう。

 

しかし、そんな風潮はアイツには関係ない。

 

それぐらい『ヤバい』らしい。

 

そして、怪異の情報を勝手に我が家に持ち込み、厄介事をおしつけていくのだ。

 

一度は、我が父親が動いたほどだ。

 

その時は、ある組織をひとつ潰す事で終わったらしい。

 

詳しくは知らない。

 

何故なら僕はその時倒れていたからである。

 

僕が倒れたから、父親が出てきたのだが。

 

あの父親も父親らしい感情があるとその時知った。

 

それ以来、僕と父はそれなりに話すようになった。

 

『それなり』だけどね。

 

……そんな話はどうでも良いのだった。

 

また現実逃避してしまった。

 

あの事件以来、あいつの事を考えるだけでムカつく。

 

前からだったかも知れないが。

 

「はぁ……憂鬱だ」

 

奴が来るのは午後からだ。

 

今のうちに姉貴とじゃれておこう。

 

モ○ハンも2つぐらいクエスト終わらせられるかな?

 

 

 

 

こんな格言があった。

 

『時間の良いところは必ず過ぎ去ることだ』

 

そして…

 

『時間の悪いところは必ず訪れることだ』

 

 

002

 

……あっという間に12時半。

 

まずい。

もう現実逃避の手段が無い!

 

最悪、筋トレに走るしか……

 

――ピンポーン

 

チャイムが鳴る。

 

まさか!?

 

いや、速すぎだ…宅配便かも知れない。

 

きっとそうだ。

そうに違いない。

そうしよう。

 

「なーぎかーわさーん、俺様が来たよー」

あいつだ…。

 

一人称が『俺様』なんてイタイ子あいつしかいない…。

 

「しおんー!追い返してー!」

 

姉貴が二階から叫んでいた。

 

「うん?居留守でもしてるのかい?」

 

ドアの向こうから嫌な声が聞こえる。

 

「あんな大声出したら居留守つかえねぇだろ、姉貴……」

 

「仕方ないなぁ、『無理やり』開けるよぉ?」

 

直後、ドアがガチャガチャと嫌な音をたてる。

 

そして――『カチャリ』

 

鍵が開いた。

 

開いてしまった……。

 

「いるなら開けてよぉー、しおんちゃん」

 

ドアの向こうには……いやがった。

 

最高級にたちの悪い奴が。

 

それはもう嬉しそうに笑って。

 

もう顔会わせちまったし、逃げれない。

 

まぁ姉貴を置いて逃げる訳ないのだが。

 

「はぁ……こんにちは。『生徒会長』さん」

 

「『生徒会長』なんて呼ばないでよ。『いろは』で良いよ、しおんちゃん」

 

生徒会長――

本名、神取かみとりいろは。

 

見た目は大和撫子。

 

性格はイケイケタイプ?

 

いやいや、イケイケなどではない。

 

むしろ、オラオラタイプ。

興味のあるものには積極的に関わる。

 

というか、関わり過ぎる。

 

関わり過ぎた為に、僕ら家族の秘密――『吸血鬼』について知ってしまった。

 

「しおんー!何でいれたの!?」

 

「好きで入れた訳じゃないけどね……」

 

「あら、かんなちゃん。いるならちゃんと出てきなよぉ」

獲物を見つけた肉食動物のような顔つきでニヤつく。

 

姉貴がその顔を見て、反射的に僕の後ろに隠れる。

 

「うっさい、いろは!てか、『私達』について知ってるならなんで私が学校に行かないかも知ってるでしょ!?」

 

そう、姉貴は『吸血鬼性』が『高すぎる』為に、晴れの日に外に出ると体が燃えてしまうのだ。

 

過大表現では無く

日に当たるだけで

燃えて

ただれて

消えてしまうのだ。

 

故に晴れの日は登校できず、曇り、雨の日でも傘は絶対にさしていく。

 

傘をさしても、かなりきついらしい。

 

周りが明るいからだろう。

 

「そんなの、口実にすぎないよ。君たちと話したいだけだよ」

 

あっさりと言いやがった。

 

まぁ、知ってたのだが?

 

てか『たち』って事は僕も含まれてんのだろうか?

 

なにゆえ?

 

「私は話す事はないもん。帰って!」

 

「じゃあ、しおんちゃんとおしゃべりしよー」

 

どういう訳か、僕に矛先が向いた。

 

「なっ!?しおんを巻き込むな!」

 

「しおんちゃん、最近学校で起きてる『事件』について知りたくない?」

 

『事件』?

 

欠席する人が増えているやつか?

 

「何か知ってるんですか?」

 

「うん、知ってるよぉ。生徒会長だからねぇ。原因は分からないけど、面白い共通点を見つけたんだぁ」

……少し興味がでた。

 

「しおん!いろはの話なんて聞いちゃダメだよ!どうせまた厄介事を持ち込みに来ただけだよ!」

 

「まぁまぁ、姉貴落ち着けって。話を聞くだけなら害はないよ」

 

実際気になっていた。

 

友達が休んでいるから。

 

「しおんちゃんは素直だね。素直な子は好きだよ」

 

「はぁ、それはどうも…」

 

勝手に好かれても困る。

 

「ちょっと、いろは!しおんに手を出したら怒るからね!」

 

「まぁ、とりあえずリビングにでも行きましょう。幸い、両親はいないことですし」

 

両親は昨日の夜から旅行だ。

 

遠くには行ってないらしいが。

 

 

父さんは奴を見ると、開口一番「消え失せろ」だからね。

 

まぁ子供殺されかけて怒らない親はいない。

 

それは人も吸血鬼同じだ。

 

たぶん…。

 

「姉貴がいろはさんをリビングまで案内しといて」

 

「なんで私が!?」

 

姉貴が絶望の極みみたいな顔をしている。

 

「姉貴、いろはさんは『人間』なんだから真っ暗闇じゃ危ないだろ?」

 

我が家には日の光に当たれない鬼が二人ほどいるから、基本的には暗い。

 

常時カーテン全閉だ。

 

「しおんがやれば良いじゃない?」

 

「僕は極力いろはさんに触れたくない」

 

まぁ、トラウマというやつだ。

 

いや、ただ単に触りたくないだけだろう。

 

姉貴には悪いが、ここは譲れなかった。

 

「あれぇ、しおんちゃんに嫌われてるの?俺様」

 

奴が驚いていた。

 

ムカつく。

 

「あんだけの事しといて嫌われないとでも思ってるんですか?」

 

少し怒気を含み答えた。

 

正直、話すだけで気分が悪くなる。

 

その上、触れたりしたら……考えたくもない。

 

「分かったよ、もう」

 

姉貴は嫌々そうに、奴の手を握ってリビングの方へ歩いていった。

 

「はぁ……不幸だ…」

 

僕は天井に向かって呟いた。

 

003

 

テーブルを挟んで、向かい合うようにソファーに座った。

 

こちら側には僕と姉貴。

 

反対側に奴。

 

「この『事件』には共通点があると言ったよね?」

 

奴は確認をとるように言った。

 

「はい、既に聞きました。それが何か?」

 

「『共通点』というのはね、『性別』だよ」

 

「???」

「今回、体調を崩している生徒は全て、『男』なんだよねぇ」

 

……漢?

 

「違う、男性とかで使う『男』だよ」

 

「地の文を読むな」

 

「そもそも、『事件』ってなーに?しおん」

 

姉貴が隣から聞いてきた。

 

距離が結構近い。

 

「学校で欠席してる人がやけに多いんだ。1クラス五人以上は休んでいるらしいよ」

 

へぇー、と姉貴は興味なさげにうなずいた。

 

姉貴は学校に興味なさそうだからな。

 

男からしたら、絶世の美女なんだがね。

 

いや、僕がシスコンだという事ではなくてですね……。

 

墓穴を掘ってる様だからやめよう。

 

 

「体調が悪くて休んでる人は全学年で68人、流行り病みたいだね」

 

1クラス約30人で1学年4クラスだから……全校生徒は約360人

 

「しかも全員男子……ですか」

 

なんか変だと感じていたのはこれか?

 

「あれじゃない?集団ボイコット。しおん何か聞いてない?」

 

姉貴はあくまで楽観的だな。

 

まぁそこも可愛いんだけど……。

 

ん?

 

何か僕、真性のシスコンみたいになってない?

 

気のせいかな?

 

「いや、僕は何も聞いてないよ」

 

「ハブられてるのかも知れないね!」

 

今日いちばんのテンションで言われた。

 

なぜ意気揚々に言うんだ。

 

身内だろ?

 

「大丈夫だよ、かんなちゃん。だってこの前、しおんちゃんを中心にクラスの男子が集まってるの見たもの」

 

客観的に聴くと、僕がリンチされてるようにもとれる。

 

もちろん、実際は違う。

 

僕を中心に駄弁ってただけである。

 

何気に僕はクラスの中心メンバーであったりする。

 

「えっ!もしかしてしおん、いじめられてるの!?」

 

やっぱり、姉貴は顔を輝かせている。

 

「違うよ、みんなと仲が良いだけだよ」

 

「それなら良いけど…。何かあったらお姉ちゃんに相談するんだよ?」

 

無駄に家族愛がある姉貴であった。

 

嬉しい。

 

「不登校になったら一日中遊べるね!」

 

前言撤回。

 

姉貴の愛は間違った方向に進んでいるようだ。

 

全くもって、嬉しくない。

 

僕は昔から友達には恵まれていたのだ。

 

というか知らない人達とかの中に入ると、積極的に話しかけられるのだ。

 

故に友達関係について、悩んだ事はほとんどない。

 

「まぁ、あと1つ共通点があったんだよ。」

 

「何ですか?」

 

「確定ではないんだけど、休む人は大体前日に……『落ち着きがなかった』らしい」

 

落ち着きがない……?

 

「テンションが高いというか、そわそわしてるというか…」

 

「………ん?」

 

そういえば、澤田君も落ち着きがなかったような……。

 

…いや、確かにそうだ。

 

彼は金曜日、やたらテンションが高かった。

 

「いろはさん、実は……」

 

奴に澤田君の事を話してみた。

 

もしかしたら、『怪異』に繋がっているかも知れないと判断したからだ。

 

自分から『怪異』に関わりたい訳ではないが、澤田君の事を考えると、迷ってる暇はない。

 

「…その日の夜に見たっていう、『夢』が怪しいね。わかった、調べてみる」

 

「お願いします」

 

「されちゃおう。しおんちゃんからのお願いは珍しいからね。喜んで引き受けるよ」

 

部屋の脇で姉貴が話に飽きたのか、テレビを見ながら知恵の輪で遊んでいた。

 

のんきなものだ。

 

その時、僕の周りに甘い香りが漂った。

 

「だからぁ…連絡を密にとるためにぃ…しおんちゃんのぉ…メアド教えてほしいなぁ…なんて…ね?」

 

気づけば、すぐ隣に奴がいた。

 

急に上目遣いで変な事を言ってきた。

 

頬も少し火照っているようだ。

 

 

しかし、こう近距離に来られると――ー気持ち悪い。

 

不気味だ……。

 

今日は帰ってもらおう。

 

「すいません、それは駄目です。それと、今日は時間もあれなんで帰ってください」

 

気づけば時計は午後7時を指していた。

 

運が良ければ、両親が帰ってくる。

 

一瞬、しゅん…とした顔をしたが、そのあとはいつも通りだった。

 

「ちぇー、今日こそ『教えて』もらおうとしたのに…。まぁ良いけど。じゃあ帰るねぇ。バイバイしおんちゃん、かんなちゃん」

 

「さようなら、いろはさん(二度と家に来ないでください)」

 

「さっさと帰れ、ばかいろは」

 

梛川家揃って嫌われてる神取いろはであった。

 

…帰り際に小さく

 

「俺様なら、メアドくらい調べればすぐわかるってのに…焦れったいなぁ」

 

と呟いたのは誰にも聴こえなかったのだろうか……。


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