僕と姉貴の非日常   作:宵闇@ねこまんま

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一日遅れちったてへぺろ(低音)


天まで届く羽ーわずかな異変ー

001

 

五十嵐君が休んだ次の日

 

「今日は中里も休みだ。二人で逢い引きしてるのかもしれん。誰か知ってるやついるかー?」

 

なんてことを聞くのだろう、この担任は。

 

逢い引きなんて今時の中二はしらないだろ、きっと。

 

「せんせー、そんなの知ってても言えないと思いまーす。てか逢い引きの意味を知らない人も結構いると思いまーす」

 

クラスの雰囲気が悪くなりかけたところで、澤田君がフォローした。

 

見事に僕の考えていた事を言ってくれた。

 

「あんだよ、逢い引き知らねぇの?あれだよ、デートだよ」

 

しかし赤城先生は、澤田君がフォローしたにも関わらず堂々と言ってのけた。

 

この担任には生徒の心情を察するスキルが著しく足りてないようだ。

 

これでもそれなりのキャリアを積んでるらしいのだが…。

 

これで二人が休んだら彼はきっとPTA(バカ親による、バカ親のための、対先生用組織)の洗礼を受けるだろう。

 

突如、ケータイのマナーモードの音がした。

 

クラスのみんなが辺りを見渡して、二秒後にはその視点は1つに集まった。

 

というか武人先生のケータイだった。

 

「ん、はいもしもし。あぁ中里のお母さん。え?祖母が倒れたから急遽休む?あぁ、はいはいわっかりましたー。はい失礼しますー」

 

……クラスに沈黙が続く

 

「…だってさ。逢い引きじゃないって。良かったね」

 

ニコっと微笑む赤城先生。

 

「そういうことじゃねーよ」とクラスの大半の意見が合致した瞬間だった。

 

「んじゃホームルームしゅうり」

 

無理やり締めくくろうとしたが、

 

「てか、せんせー」

 

澤田君がそれを制止させた。

 

先程までの下僕感が嘘のように、今の澤田君は輝いていた。

 

どうやら、先程の如く一発かましてくれるようだ。

 

赤城先生は心なし顔色が入ってきた時より悪くなっている。

 

数秒の沈黙の後……

 

 

 

「景山くんも休みでーす」

 

 

…その瞬間、クラスは更なる沈黙を現した。

 

「気づかなかった……」とみんなの意見が、次こそは澤田君以外みな合致しただろう。

 

そんな気がした。

 

クラスメイトの景山かげやま仲重なかしげ君は、良く言えば気配を消すのが上手く、どこにでも馴染める。

 

悪く言えば――『影が薄い』の一言で全てが足りる。

 

『居る』ことに気付かれないのと、『居ない』ことに気付かれないのでは結構ニュアンスが異なる。

 

少し可哀想な子だ。

 

今度会ったら何かあげようと思った。

 

「ゴホンっ。景山のことは今思い出したが、体調が悪いそうだ。今日の朝電話で聞いた。心配するな」

 

長年教師をやっている者のセリフとは思えない。

 

…大丈夫か?

 

彼はきっと、このままでは確実にPTAに殺られるだろう。

 

まぁ、居ないことに気付かなかった僕たちも僕たちだが……。

 

体調が悪いだけなら心配ないはずだ。

 

うん、大丈夫。

 

前向きに行こう。

 

無理やりポジティブにして乗り切ることにした。

 

そのせいか知らないけども。

 

その日、クラスはいつもより少し騒がしかった。

 

002

 

そして更に次の日、5月20日、金曜日。

 

「なんか今日も例の三人が休みで、あと渡辺と榊原、上島が休みだそうだ。やっぱり体調が悪いそうだ」

 

少しクラスがざわついた。

 

流石に教室に六人の空席を見ると、不安になる。

 

こんなにも連続で休むなんて、まるで流行り病にかかったようだった。

 

 

「みんなー、静かに。ただの五月病だよー、きっと。来週にはみんな戻っているはずだ。大丈夫だから、な?」

 

武人先生も動揺してるだろうけど、一応教師。

 

顔には出ていない。

 

しかしどうしたのだろうか。

 

確かに昨日は元気だった。

 

いつもよりテンションが高いくらいだったはずだ。

 

――休み時間

 

いつものように澤田君が話しかけてきた。

 

「なんか他のクラスも、休みが結構居るらしいぜ?もしかしたら学校閉鎖になるかもな」

 

笑いながら言っていたが、普段ならともかく、この状況ではあまり笑えない。

 

一年前ならともかく『最近』だと尚更怪しい。

 

あいつが怪異を家に持ってくるようになったから。

 

そんな僕の心理を察したのか、彼は席に戻ってしまった。

 

何か不自然だ…。

 

クラスの中に妙な違和感を感じる。

 

一体何なのだろう。

 

この時点で既に『日常』は『非日常』に変わりつつあったことに、僕はまだ気付けなかった。

 

003

 

その日の帰り道

 

下駄箱に近づくと、男女の話し声が聞こえた。

 

周りには僕しかおらず、他には彼等の会話を聞いている者はいなかった。

 

「……さん、好きなんだ。付き合ってください」

 

……聞き慣れた声

 

澤田君の声であった。

 

つまり、相手の女子は…

 

「えぇ、そうなの~!?どうしよ~、困ったな~」

 

…やはり天羽さんであった。

 

というか、なぜ告白ポイントを下駄箱に持ってきた?

 

人の往来が激しい下駄箱なんだから、これでは見てほしい様じゃないか。

 

しょうがない、僕がしっかり見ていてあげよう。

 

うちのクラスの下駄箱の前で、澤田君は堂々と、天羽さんは俯きながらモジモジしてた。

 

「……月曜日まで考えさせてくれる?」

 

少しして天羽さんが顔をあげた。

 

その顔はどこか妖艶であり、何故だか僕は不安になった。

 

「…わかった。月曜日、返事を聞かせてくれ」

 

澤田君の返事を聞いて、天羽さんは早足で校門を抜けていった。

 

澤田君は下駄箱で若干放心状態である。

 

しょうがない、声をかけてやろう。

 

「ずいぶんと大胆だね、澤田君」

 

なるべく普通に話しかけた。

 

「神音か…聞かれちった?」

 

よくもまぁそんなことを聞けたものである。

 

「バッチリ見てたし、バッチリ聞いてたよ。場所が場所だしね。僕以外誰もいなかったのが不思議なくらいだよ」

 

時間は4時を過ぎた頃。

下校時間のど真ん中である。

 

「……一緒に帰ろうぜ」

 

「いいよ、途中までだけどね」

 

―――ちなみに、この時テスト一週間前なので部活は無しになっていた―――

 

「俺さぁ、一昨日から変な夢見てたんだよ。」

 

「夢?どんな?」

 

いきなり、夢について話されても知らないが、友達だし付き合ってやろう。

 

……付き合うって変な意味じゃないよ?

 

わざわざ言うほどの事ではないが。

 

「俺が夜中にベッドの上で突然目を覚ますんだ。そしたら窓際に、天羽さんみたいな可愛い人がいるんだ」

 

「はぁ……それで?」

 

ただの妄想だろ?

欲求不満じゃね?

とか思ったけど、口には出さない。

 

だって顔が真面目なんだもん。

 

「その可愛い子が俺を見て微笑むんだよ」

 

さすがに、「家に帰って『別名:男の日課』をしろよ」と言いそうになった。

 

「その可愛い子とおしゃべりするんだが、内容がはっきり覚えてないんだ。でも女の子が最後に「明日の夜、また来るね」って言って消える所ははっきり覚えているんだ」

 

だから、今朝「ひゃっほー、学校なんかクソくらえだ。とっとと終わっちまえ」とか騒いでたのか。

 

さっきの告白のせいかと思っていたが。

 

「そう、あの夢を見てたら無性に天羽さんが恋しくなったんだ」

 

何の理論だソレ?

 

「きっと昨日の夢に出たのは、天羽さんなんだ。だってあんな俺の理想の女の子、他にいないからな」

 

これは運命だー、とか、神からのお告げだーなどほざいている。

 

上機嫌である。

 

どうやらフラれた時の事を考えてないらしい。

 

まぁ、そんな場合のことをいちいち言っていたら、良い人間関係は築けないと思う。

 

なので、口には出さない。

 

「まぁ、君の恋愛の成就を祈るよ」

 

差し支えない程度に応援した。

 

そんなことを話してるうちに、二人の分かれ道に着いた。

 

「じゃあな、神音。話聞いてくれて嬉しかった」

 

澤田君はやっぱり爽やかにそう言った。

 

「うん、またね」

 

澤田君とはこの日から二週間会えなくなるとは、この時予想もつかなかったのだが……。


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